古来よりの古い言い伝えにはかくある。
「砂漠に立ち入りし者、安易に精霊の囁きに耳を傾けることなかれ」
砂漠すなわち
ラ・ムールは、太陽神ラーの庇護下にある国家国土である。
また、国土の6割以上が砂漠であることですら「試練だから」と言われたら頷かざるを得ないほどに、他国の追従を一切許さぬほどに、「試練」に対して寛容であり、また「試練」を強いる国でもある。
先の言い伝えとラ・ムールの有り様がどう繋がるのか。
その解は単純な話だ。 ラ・ムールの国境付近、若しくは大
ゲート近辺を中心に、国土を踏みしめるものを狙うハンターがいるからである。
その者らは、「試練」の精霊。 数多の精霊の中でも、最も忌み嫌われる精霊である。
その有り様は、<向こう側>風に言えば「傍若無人」かつ「暖簾に腕押し、糠に釘」という言葉が最も適切であろう。
何せ、そやつらの言に一度でも耳を傾けてしまったが最後、たとえラ・ムールの国土から出ようと、異界に逃れようと、死を以って生命輪廻を巡り別の生を得ようと、死徒となろうと、試練を受諾し遂行するまで永久に追い続けるからである。
故に、ラ・ムールの土を踏むものは、国境の一定範囲を過ぎるまでは、精霊の声に耳を傾けてはならない。
悲しいかな、昨今では、言い伝えを知らぬ異界の者が訪国するたびに、「試練」の精霊の餌食となっている始末だ。 時には太陽神ラー自体が<こちら側>に引き込み試練に追い込むこともあるらしい。
試練の精霊は、今日も旅人の訪国を待ち構えている。
とある試練の精霊は悩んでいた。
自分と同時期に現出した仲間たちが次々と来国者に試練を与えて格を上げているのに対し、自分は一向に試練を与えるのが上手くいかないのだ。
出鼻を挫かれるのがいけないのか、内容がいけないのか、声量が足りないのか、考えては試しの繰り返しだが、それでも打率は芳しくない。
そして今回は思い切って、それまで担当していた海岸付近をやめて、やや北上し三国国境付近に移動してきたのだ。
ヒトたちは何かと小競り合いをしており、その分国境間の往来も数多い。 勧誘のチャンスが増えるということは、即ち勧誘成功の件数も増えるということではなかろうか!
試練の精霊は燃えていた。ここでなら、私もビッグになれるはずだ、と。
そして来た。 まだ誰も目をつけてない旅人が、三国国境からこちらへやって来た! この機会、逃さでおくべきか!
「もしもし、そこな旅人さん、ようこそラ・ムールへ!」
「んあ? ようこそも何も、俺ラ・ムールっ子だぜ?」
捕らえた! 相手からの返答を受け取った瞬間、力が漲るのを感じる。
「それなら、おかえりなさいですね! そんな貴方に私から」
「試練なら間に合ってる」
「・・・へ?」
「試練なら間に合ってる、と言ったんだ」
「・・・まったまたそんなぁ!」
そんな言葉で負けていられるほど、今日の私はヤワじゃありませんよ!とばかりに、丁々発止、捲くし立てる。
「・・・ふ~ん、随分ヌルいな」
「ヌルいって言われた!?」
そりゃまぁ確かに今の私の格じゃハイレベルな試練は提供できないが、それでもここで逃がすわけには!と試練の精霊は必死に食い下がるが
「どんだけレパートリーあるんだか知らねぇけどさ、だったら・・・」
そう言ってつらつらと語りだした旅人。 その口から語られた内容は・・・
(そんな! なんでそんなA級からS級の試練ばっかり!? S級すら霞むものまでなんて・・・信じられない!)
想像を絶していた。 語られた内容は、とてもではないが、どれだけ格を高めた試練の精霊だろうと供与しえないレベルの試練ばかりであったのだ。
「な、なんでそんな・・・」
「だから、間に合ってるって言ったろ。 って・・・あれ、アイツらどこいった?」
旅人は辺りを見回し、先行していた連れと、遅れていた連れを視認する。
「ったく、オマエら何やってんだ」
旅人は、毛玉(にしてはかなりの霊格を感じるが)を摘み上げて、毛玉がじゃれていたモノを引き剥がしながら、立ち去っていった。
「おお・・・あのお方こそが・・・! お目にかかれるとは、光栄の極みにございます!」
試練の精霊全ての羨望を一挙に集め、試練の精霊では供与し得ないウルトラS級試練を契約者に強いる権能を持つ唯一無二の存在。 超試練シンデレラ様が、御自ら霊獣との格闘に臨むという試練に身を投じているその御姿。
試練の精霊は胸が熱くなるのを感じずにはいられなかった。
- ハンターと聞いて思わず精霊達が貞子やリッカーのような姿で思い浮かびました。試練受領率がなにやら精霊の評価になっているようで旅人にはちょっと怖い空気ですね -- (名無しさん) 2013-08-31 17:07:42
最終更新:2014年07月25日 22:23