類は友を呼ぶ、という諺があるが、このクラスはまさにそれだといつも思う。
いくら「そういう学校」だからと言っても、限度があるだろうと。
見渡す限り全てのクラスメイトが、実に濃いキャラをしている。
いわゆる平均的な存在など、自分しかいないのではないだろうか。
自分の通う学校は、私立十津那(とつくに)高校という新設校で、
瀬戸内海沿岸にある、淡路島
ゲートの間近に設立された学校だ。
ゲートとは、いわゆる<異世界>に通じる門のことで、
つまりこの学校には人間のほかに、<向こう側>の住人、亜人も生徒として通っている。
そして、俺のクラスはそんな中でも変人が多い。
担任を筆頭として。
「はーいそれじゃホームルームはじめるよー」
どこからその声が出ているのかというほどのハイトーンで、担任教師が話し出した。
ウチのクラスの担任教師であるユラクルウル・アハルイハ・・・自称ゆー子先生だ。
名前からして外人のように思えるが、実際には人外だ。
大部分はいわゆる人間と大差無いのだが、各パーツごとに彼女の種族の特徴が出ている。
まず、頭髪が無い。その代わりにという訳でも無いのだろうけれども、
同じようなボリュームで、複数の足が頭髪状に生えている。
それと、瞳孔が真横に一文字になっている。これも人とは大違いだ。
手足は触手状で吸盤がいくつかポチポチとついて・・・要はタコなのだ。
偶然なのか必然なのか、彼女は地球で言うタコ的な要素を持つ、蛸人なのだ。
<向こう側>でも教育機関にいたとの事で、<地球側>の人間の教師とのバランスで、
こっちでも教師をする事になったようだ。
担当教科は何と国語。まさかガイジンに自国の言葉を習うとは夢にも思わなかったが、
冷静に考えると海外文学研究家なんて山のように居るし、自分たちも胸を張って
日本語全部知ってますとは言い難い程度のガキの集まりだ。案外ちょうど良いかもしれない。
それと、<向こう側>には躍字という字があって、先生はそれを研究しているのだとか。
ちなみに部活動は書道部の顧問だ。
「はいはい『吾輩』!まーたアタシの話を聞いてないのかー」
唐突にハイトーンが俺を指名してきた。確かにまったく話は聞いてなかった。
『吾輩』というのは先生が俺につけた渾名だ。
まさかこの年齢になってニックネームで呼ばれるとは夢にも思わなかった。
ちなみに何故『吾輩』かというと・・・俺の苗字が夏目だっていう、ただそれだけの理由だ。
『坊っちゃん』か『千円』か『吾輩』かという地獄の3択の末に決定されたものだ。
先生はどういう訳か、このクラス全員に渾名をつけた。
比較的<向こう側>の人たちは、日本人風の渾名という無難なところで、
<こちら側>の連中が、なんだか酷い名前を頂戴している例が多いように思う。
オークオークヤーマン・フーウーウーあたりは長ったらしいので『奥山さん』でまあいいとして、
トホナミマガツカミヒメに『スキュラ種族っぽいから杉浦さん』というのはどうなのか。
もっとも前期の最初につけられた渾名だから、廃れたものもある。
先生自身の自称ゆー子先生ってのも、今じゃすっかりタコちゃん先生だ。
「おーい、聞いてるのかー。確かに朝は眠たいけどさー
それでね。市の主催で新春書き初め大会ってのがあるんだけど、書道部だけじゃ格好つかないからさ。
ウチのクラスからも何人か出てもらえたらなっていう個人的なオネガイなの。
詳細は『吾輩』に聞いてね。そんじゃホームルーム終わり。
今日は国語の授業が無いから、また放課後に会おー」
何だ?大会の助っ人の話か?
「お前も相当苦労してんな」
後ろの席の川津が俺に話しかけてきた。
剣道部のエース級で、冬の大会で3年が引退したら不動のレギュラーだろうと言う男だ。
そのくせ同じく剣道部の犬塚を意識しているのか「僕は足を引っ張っているからな」などと言いやがる。
そもそも人外級の腕の犬塚と比べるのが間違っているのではないか。
ちなみに彼につけられた渾名は『テンちゃん』だ。本人の激しい抗議によって消滅したが。
「いつもの事だよ。書道部の数少ない男子部員にして雑務担当だからな。
にしても、お前もってのは何だ。川津は別に苦労してないんじゃね」
「見知らぬところで苦労してんだよ。
それより、さっきの話はどうするつもりだ。
ウチのクラス、ノリは悪くないけど、それとは別だろう」
確かに。
比較的行事やイベントに協力的な連中の集まりだが、その内容が書道となれば別だろう。
どっちかと言うと、授業で習字を選択した連中に話を振った方が良いのではなかろうか。
「けっこーメンドくさそーだよね。ホント。
ぶっちゃけ、タコちゃん先生も時々ムチャ振りするからね。
今回はみんなパスするんじゃね?」
急に会話に割り込んで来たのは、同じく剣道部女子部員の浮田あすなろだ。
この二人はいつも学内でつるんでいるような気がする。関係がアヤしい。
ちなみに渾名は・・・彼女が一番酷い。
『ウキウキウォッチンでいいトゥモローでしょー・・・だったらー・・・』
これ以上は可哀想で想像すらしたくもない。あの日の絶句する彼女の表情といったら。
ちなみに女子連中によって、今は『なろちゃん』で統一されたようだ。
そもそもタコちゃん先生は<地球側>に来てそんなに日も経っていないだろうに、
何故日本のTV番組にまで詳しいのだろうか。まったく理解できない。
「テンション低いなぁ。私はやってみたいな。
『吾輩』さ、これって締切とかあるの?
多分誘えば隣のクラスの蛇神さんも参加してくれると思うよ」
杉浦さんが話しかけてきた。一緒に豹文もついてきている。
杉浦さんもタコちゃん先生と一緒で、下半身がなかなかステキな触手具合なことを除けば、
まあまずまずの美少女といったところだろう。
豹文はいわゆるトカゲ人で、眼がトカゲっぽいのと皮膚にウロコがあるけれど、
その他はニンゲンと大差ないように思う。
で、杉浦さんの言葉の中にあった蛇神さんってのは、ウチの学園でもトップクラスの才媛で、
成績優秀、品行方正、まさにクールビューティーといった雰囲気の蛇人の娘だ。正直若干近寄りがたい。
特に部活に入っている訳でもなく、放課後になると姿を消すミステリアスな雰囲気もあるらしい。
「締切とかは気にしなくて大丈夫。当日飛び入り参加でもいいくらいだよ。
集められるんだったら、参加希望者を集めて欲しいな。
タコちゃん先生、多分あんまり考えてないと思う」
「で、ウチのクラスから3人と、隣のクラスから1人の参加と。優秀優秀!
さすが『吾輩』頼りになるねー」
「なるねーじゃないよまったく。
結局タ子ちゃん何も考えて無いも同然じゃないか」
放課後の書道準備室で、タコちゃん先生と俺はお茶を飲みながらダベっていた。
職員室にもデスクはあるが、タコちゃん先生的にはこっちが居場所らしい。
「急に話を振られちゃったんだもん。どーもこういうの苦手なのよねー
学術一筋で生きるにも難しいし、
新天地の生きた学問の道も険しいわー」
遠い眼?をしながら窓の外を眺めて黄昏れるタコちゃん先生。
絵になってんだかなってないんだか、どうにも。
「これ、学問のウチに入らないでしょうに・・・
大人なんだから、もう少ししっかりして下さいよ」
「いやー。言うほど大人じゃないよー
単純に年齢だけで言ったら、たかだか2年上なだけだしー」
そうなのだ。
先生と生徒の関係と思うがゆえに忘れがちになるが、タコちゃん先生はまだ未成年である。
<向こう側>と<こちら側>の協定によってバランスの取られた教員数ではあるが、
その法的整理にまでは手がついていないというのが現状である。
確かに<向こう側>の教育機関のトップクラスの人材であるタコちゃん先生ではあるが、
その年齢まで加味して人材を派遣するほどには、まだまだ両者の情報交換や
文化の理解度が進んでいなかったのかもしれない。
年齢だけ捉えれば、大学生バイトによる新米塾講師の講習と大差ないのだ。
内容はその比ではないけれども。
「とりあえず頑張った『吾輩』には、ご褒美をあげよう。何が良いかねー」
のん気なものだね。まったく。
「いつものタ子ちゃん講義でいいですよ。
俺もそろそろ簡単な躍字を書けるようになりたいですから
まあ、大会に出品できるようになるのは、まだまだ先だろうけれど」
- 校内での人の交わりっていいですよね。まさか学生キャラの名前を決めたのが夕子先生だったなんておどろきです。満遍なくキャラを見せて動かしているのが光っていました -- (名無しさん) 2013-09-29 18:02:46
最終更新:2014年08月31日 01:36