【暖かな雪】

「バレンタインデーというのがあるらしいじゃないか」
南極のかまくらの中で、日本から取り寄せたコタツに入りドテラを着たモルテがサミュラに剥いてもらったみかんを口に放り込みながらそう言い出した。
「聖ウァレンティヌス様のお祭りですね。
私の故郷では子供から大人まで男女混ざってお祭りをしていましたが、最近は恋人や親しい人にお手紙を送ったり贈り物をする日になってるようですね」
サミュラが今度はリンゴをウサギさんの形に剥きながらそう答える。
「違う違う!バレンタインはね…女の子が好きな人にチョコレートを送る日だよ!」
ドテラの懐からジャッジャーン!と一冊の雑誌を出してくるモルテ。
そこには『これで勝つる!バレンタインデー必勝チョコ大全 発行クマ出版』と書かれている。

「…好きですね。ジャパンの変な文化」
「ああ、好きさ!多分向こうで一番COOLなHENTAIの国だからね!(二番目は多分UK)」
呆れ顔で言うサミュラにモルテはドヤ顔で答える。
「でも、確かジャパンにはオセイボという親しい人やお世話になった人に贈り物をする文化がありますのに何故バレンタインデーにチョコを送るんでしょうね?」
「クリスチャンでもないのにクリスマスを祝う国だよ?多分あそこはお祭り騒ぎが好きなんだよ」
ウサギリンゴを耳からシャクシャクかじりながら軽く言う。

「…もし、我が国でジャパンの様に他国の神や聖人を讃えたり祝ったりするお祭りや行事が民の間で行われたらモルテ様はどうされます?」
「え?死ぬけど?……主催者と参加者が」
自分は赤い服着たヒゲおじさんのマネをしたくせにサラっというモルテ。
それを聞いたサミュラはため息をつき…
「そうですか…では、私はもう一度死ぬのは怖いのでこの手作りチョコは処分しますね」。
もったいないですね。せっかく地球の本場からカカオを取り寄せて、最近品質が良いと人気が出ているローチャイルド領の甘樹糖を使いましたのに…」
雪の中に隠していた綺麗な化粧箱を取り出し横の七輪で焼こうとするサミュラ。
「ちょっ!?サミュラ!冗談だから!!っていうか調子に乗りました!ごめんなさい!!」
それを普段の様子からは珍しく慌てて止めるモルテ。
「うふふ…冗談です。はいモルテ様、ハッピーバレンタイン」
モルテの慌てる様子を見てクスクスと上品に笑いながらチョコの箱を渡すサミュラ。
「…あ~…えっと、ありがとう。サミュラ」
モルテは照れて頭をかきながらサミュラのチョコを受け取る。
「はい。これからも末永くよろしくお願いします」
そんなモルテにサミュラは優しく微笑んでそう言った。

極寒の南極に雪は降り積もる。
この日ばかりは優しくゆっくりと…



蛇足
「今回はありがとうございました。スラヴィアは地球の物が手に入れにくいですのでとても助かりました」
「いいえ、ウチの社長も儲かるし王室御用達だって喜んでいましたので…
それにたまにはこういう平和な仕事もいいものです」
「それは良かった…」
「それよりイストモスでの一件を事前にリークして下さった事の御礼を伝えて欲しいと彼らから承っています。お陰で誤らず駒を進めることができたと」
「…『駒』ですか」
「ええ」
「貴女は…いえ、上手く事が運んで何よりです。アレは流石に戯れが過ぎていましたから…
それと、もう一つのお願いだったジャパンでの誘拐事件や王冠派に資金や技術を提供している地球の組織は判明しましたか?」
「そちらの方はまだ確たる情報を見つけられていません。
どうもかなりの他国籍で多種多様な団体が集まっている様で…」
「そうですか…」
「ただ」
「ただ?」
「関係者らしいシュラインと名乗る人物が我々に接触を求めてきました。
今は返事を保留していますが、真実ならば近いうちに11神や各国家元首と会談を組む段取りをつけることになるでしょう」
「荒れなければいいのですが…」
「ええ…」
二人は雪の降る南極の灰色の空を見上げた。
2つの世界の見通しは未だ暗い…


  • 題名が目を引いたので読んだ。かまくらの雰囲気にわむわむ。 地球が絡むと異世界政治情勢はもっと複雑になりそうだこれ -- (名無しさん) 2012-08-31 21:22:34
  • 外観に騙されてはいけない邪神だけど純粋で邪悪な様がなんとも言えないのはサミュラの心境なのかも。 サミュラもサミュラで色々と気にかける事が多そうで気苦労も絶えない? -- (名無しさん) 2013-07-13 21:30:37
  • 地球にもっとも毒された神ではないかと思えるモルテ。危うい関係の二人ですがこの時ばかりは純粋に温かさを感じました -- (名無しさん) 2013-12-07 17:59:37
  • モルテって結構ちょろい? -- (名無しさん) 2015-08-04 22:29:34
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最終更新:2013年03月30日 13:13