「…ここ、どこだ?」
ミズハミシマのある漁港で豊漁を祈ってのお祭りがあるというので、観光のために
ゲートをくぐってその村まで歩いていたのだけど、いつの間にか見知らぬ村に迷い込んだようで辺り一面がのどかな田園風景になっている。
ただ、異世界らしく和風洋風東南アジアやアフリカ、南米…様々な様式の家や田畑なんかが緩く立ち並んでいる。
「んー…観光としてはアリなのかも知れないけど、当初の海の幸食べまくりツアーとはえらくかけ離れてるなぁ…」
デジカメを取り出して周りの風景をパシャリパシャリと撮っていると少し離れた場所で畦に座ってタバコをふかしている農作業着姿の老人を見つける。
「すみませーん!道をお尋ねしたいんですがーー!」
私はそう叫んでヒレの白い魚顔の老人に駆け寄る。
「…?
おんや珍しい。向こうの人間かい?」
「ええ、○○港のお祭りに行く途中で道に迷ってしまって…」
「○○へ?そりゃぁ、えらかったな!
疲れたじゃろう。まあ、ここさ座って休みんさい」
老人はとんとんと隣りを叩くと竹筒から竹のカップ2つに液体を注いで一方をこちらへくれた。
なにやら黄色味がかった液体だがこちらのお茶の類だろうか?
ゲート周辺の茶房で頂いた台湾茶のような香りと味のお茶玉(水中でも頂けるように寒天のような素材で周りを柔らかく包んだお茶)を思い出しながらそれを頂く。
「…!?」
口に含むと、ツーンとした独特の芳醇な香りの後に来るまるで熟した果物のような風味とキリッとした味…これって
「どうじゃ?
おらんとこの田んぼで採れたコメから作って貰った新酒はぁ?うまかろう?」
目を白黒させる私を見ながら同じく竹のコップから酒を飲んでけらけら笑う老人。
「お、美味しいんですが私にはちょっと強いですね」
実は酒は苦手なのだが、出会ったことのない美味しさに吐き出せず飲みきってしまった。
飲みなれないせいかちょっとクラっとする。
「おお!つまみを忘れとったな。
空きっ腹にこの酒は効くじゃろ」
そういうと腰に付けたバックのオような物に手を突っ込んでゴソゴソと大きなバランのような葉っぱに包まれた何かを出してきた。
開くと白っぽいフワフワとしたまんじゅうが出てきた。
「食え食え。
これもおらんとこの豆とコメ、裏山のとろり芋で作ったまんじゅうに酒種が入っとるやつじゃ」
酒に甘い饅頭というのも変な気がするが美味しそうな匂いにつられて一つつまむ。
ふかふか
指に心地よい弾力がある。それをぱくり!
良い匂いがして甘くてふかふかして…美味しい。
特に香りが小豆餡より深く濃厚ですぐに平らげた後、ついついもう一つに手を伸ばしてしまった。
「おお!気に入ったんか?まだまだあるでよ…」
老人がまたごそごそと何かを取り出そうとしていると大きな影が私達を覆った。
「ここにいたのかダゴンのジジイ」
「なんじゃ、タツミの坊主か?なんかあったんか?」
後ろに立っていた大きな風呂敷包みを抱えるでかい龍人と気軽に離す老人。
「祭りで使う野菜が切れた。お前んとこの野菜を寄越せ」
「呆れた!あれほど大丈夫じゃとゆうとったのにの」
「うるせえ!モウロクジジイ!コイツやるからさっさと寄越せ」
龍人が大きな風呂敷包みを突き出す。
老人が胡乱げな顔でそれを解くと中からは大きな貝が出てきた。
「おお、大蛤か!こいつは焼くと酒によく合うんじゃ!よう気が効くようになったのー…
お前も一杯引っ掛けてくか?」
「アイツらが作った酒なんて怪しくて飲めるかよ!いいからさっさとこれに書いてあるの寄越せ」
龍人が必要な物が書かれているらしい紙を渡す。
非常に綺麗な女の人の文字のようだ。
「…カミさんのお使いやったんか。
ほんにどうしようもない座布団じゃの」
「ほっとけ!!あと言葉の神はどこいった?」
……何?今、フランクに神様とか言ってた?
「奴さん今日はゲートの番しとるよ。
なんぞあったんか?」
「 手違いで祭りに呼んだ話し屋の人数が足りなかったから頼もうと思っただけだ」
「言葉の神さんにか?そら豪勢だ!」
ゲラゲラ笑う老人。
「おらが代わりに小唄でも歌おうか?」
「いるか!辛気臭ぇ!
…所で、そこのボケっと座ってる赤ら顔の地球産猿人は一体何だ?」
龍人がジロリとこちらを睨む。・・・・・・怖いよ。
「お前さんが今手伝っとる祭りに行こうとして道に迷ったんじゃと。
良かったら送ってってやれや」
「はあ?どうやったらそんなスットコドッコイな迷い方ができるんだ…」
今度は呆れたような目で見られた・・・何か申し訳なくなってくる。
「てめえらヒトはここにいるべき者じゃねえんだ。ボケっとして神の領域に入ってくんじゃねえよ!」
龍人はそう言ってひょいっと私の襟首を掴むとヒョイッと放り投げた。
私は目をつむり頭を抱えて丸まっていたが、しばらくしても地面に叩きつけられる衝撃が無い。
人の話し声が聞こえてふと顔を上げると私は祭りの雑踏の端に座り込んでいた。
周りを見ても先ほどの老人も龍人もいなければ奇妙に長閑な田園風景もない。
普通の港町のお祭りの中のようである。
私は頭を振り、リュックの中のデジカメを取り出してみる。
…全く何も写っていない。
落胆してデジカメをリュックに戻そうとした時、奇妙なものに手が触れた。
急いで取り出してみるとそれは、あの酒が入った竹の筒とバランのような葉っぱで包まれたおまんじゅうだった。
その後は祭りを楽しみ、無事に地球の家に着けた。
しかし、それから何度もミズハミシマに行ったがあの奇妙に長閑な村にはあれからどうしても辿りつけないでいる。
ただ、私はまたあそこに行けるのではないかと密かに思っている
なぜなら、リュックの中に入れられていたおまんじゅうを包んだ葉っぱに墨で「またおいで」と達筆な文字で書かれていたからだ。
- 昔話の中にいるようなフレンドリーでほんわかした人たち。魚お爺さんと最初に会ったのが大きいね -- (名無しさん) 2013-10-11 22:26:38
最終更新:2012年03月30日 22:51