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【ライカンスロープ】

大日本帝国と北部合衆国との間で行われた太平洋戦争終結から数十年。
その太平洋戦争にて、帝国陸軍が何故か執着した研究があった。
獣人化現象・・・ライカンスロープについて、である。
その理由は諸説あり、欧州第三帝国との共同研究であった説や、
栃木山中に墜落したUFOから遺伝子操作技術を得たという説、
陸軍の開発した生体兵器=獣人が岡山のとある村に放たれて、
一晩で30人もの殺戮に成功したという説など様々だ。

どれもこれも非現実的な与太話ではあるが、今日的視点で言うと
その諸説のうち「異次元との扉が開き、中から獣人が出てきた」
というものが極めて現実的な説と言えよう。
ただし戦後の混乱で、この研究の詳細は一切が失われている。
GHQによる研究結果の接収というところもあるのだろうが、
合衆国が<向こう側>の研究に熱を上げるのはもう少し後の時代だ。
また、帝国陸軍に人狼部隊と名付けられた部隊が実在したのも事実だが、
だからといってその指揮官である犬塚勇四郎が人狼という事でも無い。
ただ、彼には常に人狼ではないかという噂がつきまとっていた。

さて、その勇四郎の子息である犬塚勇吾は、彼の先祖が代々受け継いだという
剣術『隠神流』の復興に尽力した人物である。
今剣聖とまで呼ばれた昭和剣道会の傑物であるが、何故かその彼にも
人狼の噂が絶えなかったのである。
驚異的な身体能力と、傍目には何をしているのかすら理解できないであろう
剣さばきがそう思わせた要因ではなかったのだろうか。
それでも、深夜に彼が狼に変貌したのをこの眼で見たという人物もいる。
彼の妻などは、普段がそんなに格好良くも無いのだから、
狼のような姿になれば精悍で宜しいのでは、などとよく言ったものだ。

さらにその息子の犬塚勇武にも獣人化の話がある。
ただし、彼は本当に獣人化したという点で、前述した人物達とは異なる。
1990年代初頭に突如開門した異世界との通行路。
その門のひとつが瀬戸内海にある。
政府は突如現れた門に対して、最初は防衛省による門対策本部を設置し、
いつの間にかそれは門自、十一門対策自衛隊と呼ばれるようになり、
門自から偵察隊、探索隊が次々と<向こう側>に派遣され、
同行した民間人研究者共々『門覇者』と呼ばれる存在になり、
外務省職員が『血の小便が出たり強制的に治されたり、過労で死んでも生き返ったり』しながら、
なんとかミズハミシマを含む数ヶ国と友好条約を結び、
門を中心とした<こちら側>と<向こう側>の人たちが共に生きる街を作るに至った。

門自偵察隊には、当時陸自から出向していた犬塚勇武が居て、
民間人研究者には、その犬塚勇武の妻である旧姓十文字愛がいた。
彼女の記録によれば<地球側>では能力の発揮しか確認されなかった犬塚勇武の獣人化は、
<向こう側>では、外見の変容にまで達していたのだという。
ここに至り、何らかの要因にて獣人化の確認される人間が存在するという結論となった。
本来ならば世界を引っ繰り返すような騒ぎになるであろうこの事実も、
<向こう側>の存在と、<向こう側>に暮らす亜人達の存在が明るみになり、
『たかが人間が獣人化したところで何だというのか』という極論すら出る始末に、
いつしか有耶無耶な扱いになってしまったのである。
よって、彼が何故に獣人化を起こしたのか、それが遺伝的要因であったのか、全てが謎である。

結局のところ、ニンゲンと亜人の間での交配も、その遺伝子の交わりも、
まだまだ研究段階といったところなのだろう。
主の学説は、異種族間で産まれた子は、どちらか一方の遺伝子の影響を強く受け、
もう一方の遺伝子の影響は無いとされているものの、それがゼロであると確定した訳ではない。

俺の推論では、こうだ。
恐らく遠い昔に、犬塚のどこかの先祖が小ゲートの影響を受けて<11門側>に飛ばされた。
そこでうまいこと女を(いや、女性が飛んで男を見つけたかもしれんね)作って、
その子が実にうまい事に小ゲートをもう一度通り抜けて、犬塚の血筋に復帰。
見かけはニンゲンだけど、その血の奥底に、亜人の血が眠っていたのだった、と。
素直に亜人が小ゲートで飛ばされた方がスマートだろうか。

ただ、確実に言える事がある。
父である犬塚勇武に、祖父である犬塚勇吾に獣人化らしき事が出来たように、
その子であり孫である自分こと犬塚勇人もまた、獣人化らしき現象を起こす時がある。
経験上では、極度に精神的な緊張感を求められるような場面で多く見られる。
生存本能が眠れる遺伝子を揺り動かすのだろうか。
別段、外見が狼のように変化する訳では無いのだが、体力や集中力が普段の10割増しくらいに
なるような感覚がある。本能に直結しているからだろうか、五感の鋭さも普段の比ではない。
性格も若干ながら積極的というか攻撃的になるように思う。
マイナス面もある。本能直結ゆえか、変化中〜後は三大欲求である食欲、睡眠欲、性欲が強くなる。
よくもまあ、一族の中から犯罪者を出さなかったものだと思う。
その辺りは一族揃って精神的に奇妙な図太さを持つが故なのかもしれない。
今のところ外見変化にまでは達していないところだが、自分などよりよほど父に似た
弟の勇馬などは、<こちら側>に来た時に犬に化けるのではないか、とほんの少しだけ期待している。


  • 地球の過去に異世界をからめて話を作るというのも意外と結び付きやすくて面白いです。犬塚家を軸にしてゲートが繋がった当時や交流交配への考察も興味深いところでした -- (名無しさん) 2014-02-16 18:55:50
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最終更新:2014年08月31日 01:43