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【奥山さんと僕 笑の章】

春、3月。
まさに出会いと別れの季節だ。
実際のところ、十津那(とつくに)学園は極めて特殊な学校ではあるけれど、
普通の学校と同じところだって無数にある。
今まさに行われているセレモニーは、普通の学校で行われているものとまったく同じだ。
つまり、卒業式。

卒業生の<地球側>の進路は、おおむね想像の域を超えないものばかりだ。
十津那大学にエスカレータ式に入るもの、大学、専門学校に進学するもの、
十津那学園で得た技術を活かして就職するもの、浪人して勉学に励むもの、
とりあえずフリーターとして生きるもの、結婚するもの(そんなに居ないか)、
何人かは資格を得て<11門側>に渡るようだ。
そして<11門側>の進路は複雑な状況のようだ。
地球側で進学したり就職するのは、やはり今でも狭き門のようで、
学んだ事を<向こう側>に持ち帰る事を考えているものが大半だという。
自分自身を振り返ると、おそらく父や兄のように門自、十一門対策自衛隊を目指すと思う。
あるいは祖父の道場を継ぎ、陰神流剣術を守って生きていく事になるだろうか。
それ以外の未来は、まったく想像すら出来ない。

式は淡々と進んでいく。
送辞と答辞で涙する生徒が居るのが見えるが、僕は涙が出ないでいる。
王仁主将に会えなくなるのは寂しいけれど、人は出逢えばいつかは別れる。
別れの日は、笑って送り出してあげたい。そんな気持ちだ。
しかし、だからと言って、式中にリラックスしすぎるのも如何と思う。
川津は何やっているんだ。寝るな。やりすぎだ。
あああ、蛇神さんが凄い剣幕で睨んでるよ・・・僕はもう知らないぞ。
「なかいいですよね。あのふたり」
僕の後ろの列に座っていた奥山さんが話しかけてきた。
50音順に男女2列で横に並んでいるので、「い」ぬづかと「お」くやまで座席が近いのだ。
浮田も近いんだけど。
「幼馴染だから仲がいいように見えるだけじゃないのん」
ニヤリと笑って言ってはいるけど、浮田は本当に知らないんだなぁ
「全校生徒、起立」
っと、最後くらいは無駄口叩かずに送り出さないとね。
それにしても、全校生徒を集めると、本当に多種多様な種族が集まっていると実感する。
トロルやオーガの人らは、天井に頭がぶつかるんじゃないかと心配になるくらいだ。
それくらいは加味して体育館の設計をしているのだろうけれども。

さて、卒業式と同じ日に3学期も無事に修了。
次は4月からの新年度まで春休み。いよいよ僕らも3年生だ。
剣道部主将は、僕でも川津でもなく、ミズハミシマ鱗人の亀井戸になった。
人望で選出したのだろう。僕自身は主将なんてやりたくなかったから、丁度良かった。
剣道部最後のミーティングを終え、卒業生に花束を贈呈し、僕らはそのまま帰宅となった。
校門前で奥山さんが待っていてくれたので、他愛もない話をしつつ一緒に帰る。
奥山さんは明日、春休みを利用して<11門側>に帰省するのだそうだ。
ゲート>まで見送る約束をして、その日は別れた。

翌朝、快晴の天気で目を覚まして奥山さんのアパートに行く。
奥山さんはすっかり準備を整えて、僕の到着を待っていた。
数日分の着替えと食料を詰めたバッグは僕が持ち、奥山さんはお土産の紙袋をもった。
オークが好むお土産ってどんなのだろうと思って聞いてみると、
普通に異国の食べ物が好まれるのだと、奥山さんがニコニコして教えてくれた。
きっと紙袋の中身は、奥山さんの大好きなお菓子が山のように詰め込まれているんだろう。
<ゲート>は十津那学園の近くの駅から、数十分で到着する位置にある。
さすがに最重要施設でもあるので、駅構内から警備が厳重になる。
日本国内で警察と自衛隊がこうまで配置されている土地もないだろう。
駅改札口を抜けると、すぐに空港のゲートそのままの手荷物X線チェックと、身辺の金属探知が行われた。
二人ともひっかかる事なく通り過ぎ(まあ当然ではある)、<ゲート>前に建造された施設に入る。
そこも言ってしまえば空港そのままの施設で、イメージとして近いのは関西国際空港や中部国際空港だろうか。
奥山さんと一緒に、受付に渡航審査書類を提出したあとで、受理されるまでしばらく時間を潰すのに、
施設の中を探検して回って、今は喫茶店のテーブルに着いている。
「お土産、ここで買えば良かったです。
 もしかしたら、失敗したかもしれないです」
チョコレートパフェをハムハムと食べながら、少し残念そうに奥山さんが言う。
「フゥちゃんさ、結局お土産は何を買ったの?」
コーヒーを飲みながら聞いてみる。
「えっと・・・お菓子の詰め合わせです」
屈託なく笑いながら、奥山さんが教えてくれた。

奥山さんを見送ってから2週間ほど経った頃、彼女から郵便物が届いた。
残念ながら、2つの世界はまだ電波が届かないところにある。
気軽にケータイメールでやり取り出来るようになるのは、まだ先だろう。
和紙のような不思議な手触りの封筒のくちを切り、中から手紙を取り出す。
そこには奥山さんらしい丁寧な書体で、こう書かれていた。


お久しぶりです。
体調を崩したりしていませんか。
とても心配です。

実家に帰って家族と話をしました。
地球の事をずっとずっと話しました。
皆とても楽しそうに聞いていましたが、お父様は困った顔をしていました。
縁談の話になりました。ヤーマン氏族の長として当然のつとめです。

わたし、あと2週間後に結婚式です。
勇馬くん。来てくれますか?



  • 学生の空気と感触が満ちている。穏やかな流れで最後の手紙がとても痛烈に響きました -- (名無しさん) 2014-04-13 17:27:38
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最終更新:2018年12月24日 00:46