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【神樹の剣の果て】


 私は今、追われている。
 頼りになるのは、宝物庫より持ち出した、世界樹の針葉と枝、それにいくつかの神鉄《Gマテル》を混成して作り上げた、一振りの剣のみ。

 それ以外の総てが今、私にとっての敵だ。

 私は我が国の国土をただ只管に翔けた。 追手には同胞もいれば、そうでない者もいる。
 どのような手管でこれほどの数の手練の追跡者を雇い入れたのか。 我が妻ながら恐ろしい話だ。
 これだけの才知と手腕と人望を持つ我が妻が、どうして私が見目麗しい同胞と50年程連れ添って居たという程度で、何故かくも苛烈な仕打ちに奔るのか、実に理解し難い。

 気が付けば、既に我が国と砂漠との境まで来ていた。
 砂漠に踏み出せば、そこはもう我が父たる世界樹の恩恵に預る我が国ではなく、陽光神の御膝元となる。
 他神の領域へ逃避のため踏み込むのはいささか不本意ではあるが、携えし剣の神力を解き放つことの叶わぬ我が身は余すところなく傷を負い、国内に安心確実に傷を癒し養生に専念できる場などない以上、背に腹は変えられぬ。

 砂漠へ踏み出したとき、私はそこに猫人の女性を見た。 だが、出迎えにしてはいささか機が良すぎる。 あれももしや追手ではあるまいか?
 ・・・その猫人の左の眼に気づき、実態はもっと恐ろしい存在であったことに気づいた時、既に私の身体は抗い様のないほどの吸引力を伴い、奈落へと向かって落ちて行った。

 結果、私は見たことも無い土地に降り立つこととなった。 ここは踏み込もうとした砂漠でもなければ、もちろん我が故国でもない。
 だが、我が身のどこかで「ここは我らが知る世界ではない」と感じられた。 それは、目に映る世界の有り様が、これまでの数百年で見てきた我が国とはまるで異なるものだと感じられたからであろう。

 程なくして、私は持てる力を活用し、この地に息づく者であると詐称するために幾人かに術をかけ偽りの家族とし、時には人々を予言で導き、時には人身を術でかどわかし、時には異界の女と遊興に励み、人脈とこの地の見識を広めることとした。
 この地で私は、結果的に異界での最初の友にして終生の友のひとりとなる男、ウーサー=ペンドラゴンと出会うに至る。
 私は過去に愛した女性達幾人かの名前を預り、この地での名をマーリン=アンブロシウスと定め、我が精霊術と神気術式を以て、彼の国土安定と発展を手助けすることにした。
 無論、ウーサーがイグレインに恋慕していると知った時も、彼の心中を察するとともに、彼を恋慕の相手の夫に見せる幻術をかけてやり、想いを遂げさせてやることに幾何の迷いもなかったわけだ。
 この地に伝わる私から見れば児戯にも等しいレベルの占命術でウーサーの子が救世主となると予言されていたこともあっての手伝いではあったが、その対価として、生まれくる子を預かり来るべき救世の時に備えさせ我が携えし剣を託すという約定を交わした。

 やがてウーサーは短すぎる余命を戦禍の中に散らし、彼の志は遺児アーサーに託される。
 アーサーを人脈の中から頼れると見込んだ騎士に預けてこの世界での武人としての育成を図っていたが、ある時、この地で作られたという「突き刺さりし岩より抜いた者を王への道へ導く剣」という下らない触れこみの剣を、兄貴分のケイが忘れた剣の代わりに抜いて持って行ってしまったという。
 我が剣からすれば大した力も無いものであったが、それでもこの世界に存在する剣としては破格の剣であったようで、そこからアーサーが王となるべき道を導く者と阻む者による大騒動が始まってしまう。
 ウーサーとの約定に従い私はアーサーに付き従い、彼の戦を陰に陽に手助けし、彼を王に導くに至った。
 戦の過程でアーサーが先の剣を折ってしまったのをこれ幸いとばかりに、湖で自作自演ながら儀礼的な様相を装い、もうひとつのウーサーとの約定である我が剣をアーサーに託すことも叶った。
 アーサーは我が剣を「エクスカリバー」と名付け、異界の地にありながら我が父世界樹の恩恵を唯一賜る不死の騎士王として君臨することとなった。

 ウーサーとの約定も果たし、紆余曲折あったもののアーサーも多くの武人を従え王として君臨するに至ったころ、私の胸には故国が去来するようになった。
 それは、故国に残した妻に似た女性ヴィヴィアンとの出会いもあったのかもしれない。
 だが、それが間違いだと気付いたのは、そのヴィヴィアンが、我が妻その人であったと気付いた時であった。
 全身滅多打ちにも似た一方的な暴力の末、一切の拒否権無く、私は再び奈落へ落ち、故国へと戻ることとなった。
 アーサーに預けたままの剣と、アーサー自身の今後は心配ではあったが、それはもう見届けることも叶わぬ話だ。



 ラ・ムール王クオルヌ侯の手を借り夫を連れ戻した後、夫が持ち出していた鋼神樹王剣《カリブルヌス》が手元にないことを知った私は、夫を尋問にかけました。
 すると、足の爪を三枚ほど剥がしたところで、夫は「終生の友の子に約定の証として剣を託した」というのです。
 恥を承知で再度クオルヌ侯へと協力を仰ぎましたが、再度異界へ渡るような御業はそうそう行えない、との返答を頂いてしまいました。
 夫をさらに尋問して、爪剥がしの次の尋問を検討する最中にようやく吐き出した情報を基に可能な限り策を検討した結果、剣を託した異界人の子へ「もし手放すときには湖へ投げ込め」と言い残していたのを利用し、その湖を経由し手だけを向こうへ伸ばし回収する、という手法が試みられました。

 クオルヌ侯発案の「試練として異界からの物資を運びこむ」という天への進言による助力と夫の寿命2000年分程度の前借で得た神気を用い、鞘は失われたものの鋼神樹王剣は手元に戻りました。
 しかし、剣を託した子の不出来により肝心の鞘が失われてしまって居ては、溢れ出る神気を抑え破壊の奔流を制御することも叶わぬため、存在自体が危ういものとなってしまっていました。

 そこで私は、この剣を止む無く放棄することとしました。
 ですが、単に放棄しては、いずれ誰かが見つけてしまうことでしょう。 神域の力で作られているものでもあるため破壊も容易ではありませんし、もし不逞の輩が手にするようなことがあれば、大乱の源となることは免れません。
 なので、この類の物に最も精通する神、鍛冶神セダル・ヌダ様へ、剣を献上差し上げることとしました。



 樹神の使徒より寄越された剣。 実に興味深い。
 久しく失われし創作への念が掻き立てられそうだ!
 だが、何かが足りない。 ただ武具を作るなどもはや飽きた。 かといって下界民のようなモノを作るのも詰まらぬ。
 良い知恵はないものか・・・?

 その時、我が領域へ神気の嵐が巻き起こる。
「ぶーん」
 ふむ、嵐神か。 あ奴の意味不明すぎる言動も、何かの着想に繋がるかも知れぬ。
 どれ、嵐神、何をしに来た?
「ぶーん」
 ・・・ふむ。
「ぶーーーん」
 そうか、済まなかったな。
「ぶーーーーーーん」
 何、このおかしなものが入った箱と本が詫び代わりだと?
「ぶーん」
 そうか、行くか。 また機会があれば話をしよう。 貴殿の奇想天外な話は創造の種になりそうだ。
 さて、あ奴も行ったし、この箱を開けて・・・

 おおおおおおおおおおお!? なんだこれは!?
 奇妙な形の鳥から五体持った姿に変わるだと!?
 しかも変わり身を途中で止めることで双方の中間的な機能を補えるのか!
 こちらの本は・・・ふむ、これはただの叙事詩か。
 詰まらぬが・・・なるほど、この本に出る稀代の剣とこの奇妙な鳥が同じ名前、ということか。
 あ奴、粋な真似をしよる・・・ならば、我が術の総てを以て、この奇妙な鳥に我が着想を加え、新たなる創造をするとしよう!
 そして、新たなる創造が実り極まった時こそ、この剣を用いる時だ!

 さぁ、創造の時間だ!



 やがて時は過ぎ、エリスタリア王ディオマーが「あの剣あげなきゃよかったかなぁ・・・」と数十年おきに悔恨するようになってより幾何かの時が過ぎたころ。
 今日も春の国、新都エリューシンは多くの観光客で賑わう一大歓楽街としての顔を覗かせていた。
 港には、世界各地、あるいは異世界から、観光を含め様々な理由で訪れた者たちがひしめき合っていた。

「猫王様の勧めもあってエリスタリアに来てみたけど・・・こっちは知り合い少ないんだよなぁ。 刃物は武器より農具って国だし」
「人々が平穏安寧を永く続けていくために揮われる刃物ならば、それは私のような、切り伏せるための刃より、遥かに栄誉あるものと私は思います」
 客船より降り立った男女は、港湾区を練り歩く。
「・・・先ほどから、この胸に去来する感覚は・・・何なのでしょうか。 下界に遣わされてより休眠を経るまで、クルスベルグの地を離れたこともないのに」
「どうかしたかい?」
「いえ、その・・・初めて訪れるはずなのに、何故か懐かしいような気がしてならないのです」
 女性の視線は、遥か遠くにそびえる大樹に向けられていた。


  • 地球と異世界の邂逅も夫が俗っぽいことで人間との関係が生まれたおかげなのかなと思いました。その後の妻の強烈なキャラ性にも驚きです。神とそれに順ずる者の紹介もコミカルで楽しいですね -- (名無しさん) 2014-05-11 18:02:05
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最終更新:2014年05月11日 17:58