クルスベルグまでお土産買いに、現在
ラ・ムールを馬車で移動中の俺。砂漠旅もそこそこ慣れてきたぞ俺。
コマルクル・カ・ムールからアルジャ・ラ・ムールを通り、そのまま本流を遡る。
ここ二日ほどは風も強かったため、移動距離を抑えながらじっくり進むこととなった。
アルジャ・ラ・ムールを出て三日目、同伴してくれている猫商人のサバーニャさんからこんな一言を受ける。
「とっしー。ここ最近、風が強かったにゃー。んで、ちょっと寄っておきたい町があるにゃ。
すまないけど、寄らせてもらっていいかにゃ?」
「もちろんだぞ俺」
色々と助けてもらっているサバーニャさんが寄りたいと言う以上、寄らないわけにはいかない。
はてさて、一体どんな町なのだろうか?
そう思いながら道中の砂漠を進むのだが、少し気になることがあった。
「サバーニャさん。さっきから砂に建物が埋まってる場所が見受けられるけど、あれは遺跡?」
「そうだにゃ。ここら辺だけじゃなく、ラ・ムールのいたる所に昔の遺跡が埋まってるにゃ。
ぶっちゃけ砂の下に、大昔のラ・ムールが埋もれちゃってるわけだにゃ」
「砂の下……ねぇ……」
「大昔ラーが一度死んだ際、体が砂になって降り注いだため昔のラ・ムールはその下敷きになったという話にゃ。
もちろん本当かどうかなんて分からないけどにゃ」
砂に秘められたロマン。地球の発掘隊とかが喜びそうな話である。
砂の下には今も、昔と変わらぬラ・ムールの姿が保存されているのだろうか。
そんなロマン話を思い浮かべながら進んでいると、何とも妙な一行に出会った。
あまりに奇妙だったため、印象と言う意味でのインパクトは絶大だ。
「コンナトコロデ人ニ出クワストハナ。チョウドイイ、話ヲ聞ケ」
「アントニオ―、そんな言い方じゃ聞いてくれないよー」
「お、おれたち、ちょっと探し物してるんだな。知ってたら、お、教えて欲しいんだな」
「時間はさしてお取りいたしません。暑いですし、手短に終わらせましょう」
ここは砂漠の只中。こんな所で人に出くわすこと自体驚きだが、問題はそのパーティ編成だ。
青のワンピに白いフリルがいかにも正統派な印象を与える、バッグを背負った金髪碧眼の美幼女。
甲冑かと見間違う黒い外骨格とカタコトの喋りが特徴的な、アリのような蟲人。
巨大なタテガミが恐ろしいが、話し出すとおどおどとする、ライオンのような猫人。
丁寧なのかそうでないのか分かりづらい言葉づかいで話す、ツタに覆われた樹人。
まとまりが無いと言うか、異種族で構成されたパーティとは何とも不思議な感じである。
「えーと、ドロッセル質問があるの! いーい?」
「あ、うーん。分かるかどうか分からないけど、とりあえずどうぞだぞ俺」
「えーとね、えーとね……ジャック~、何だっけ?」
「質問は次の通りです。『命の壺』とやらがこの辺りにあるそうですが、所在を知りませんか?」
「し、知ってる限りでいいから、教えて欲しいんだな」
「パンテラ、オ前ハ黙ットケ。ソモソモ提案シタオ前ガ何故場所ヲ知ラナイ」
「ひ、ひどいなーもう。オイラだって、し、知らないことくらい沢山あるよ」
「開キ直ルナ」
少女の名前がドロッセルで、樹人がジャックという名前である事は分かった。
猫人はパンテラというらしく、先ほどの会話から蟲人がアントニオなのだろう。
どうやら『命の壺』とやらを探しているようだが、困ったことにサッパリ知らないぞ俺。
「『命の壺』って、もしかしてアレかにゃー」
「サバーニャさん、何か心当たりが?」
「ここから北に行ったところにオアシスがあるんだけどにゃ。
そのオアシスの傍らに水が出る壺があるんにゃ。原理は不明だけど、その水が溜まってオアシスになったとか。
明確に名前がある訳じゃないけど、旅してる人が命の湧水とか呼ぶことはあるにゃ」
さすがサバーニャさん、商人は知識豊富である。
「頼リナイ情報ダナ」
「いえいえ無いよりは全然マシですよ」
「き、北なんだな。えと、き、北ってどっちだ?」
「ネコさん、ありがとう! じゃあ皆、北へ向かってれっつごー!」
そう言い残して一行は北へ向かって歩いて行った。まるで嵐である。
そう感じたのはサバーニャさんも同じようで、一行の歩いていく方向をじっと見つめている。
「何だったんですかね?」
「何だったんだろうにゃ?」
珍しいこともあるもんだと思いつつ馬車に揺られていると、目的の町ポッタ・ラ・ムールへと到着した。
まず目に付くのは、町の至る所におかれた壺である。
玄関の横、屋根の上、道の端っこ、オアシスの周り……挙げればキリが無いほど、壺が置いてある。
「壺壺壺……何故かは知らないが、やたら壺が多いぞ俺」
「よく気が付いたにゃ。というか、これだけあれば嫌でも気が付くだろうにゃ。
ここは通称『壺の町』と言われるほど壺が多い町なのにゃ」
「壺作りが盛んってことかな?」
「いや、この町で作られた壺は……うん、多分一つも無いと思うにゃ。この町には窯とかも無いしにゃ」
壺を作ってるわけでもないのに『壺の町』。
それは焼き物を作ってる訳でもないのに『焼き物の町』と言ってるようなものではないか。
それでいいのか『壺の町』!?
「おーいとっしー、こっちにゃー」
サバーニャさんに呼ばれ、ふと我に返る。
すでにサバーニャさんは、とある店先の前でスタンバイしていた。
「おお、すみませんだぞ俺。ちょっと考え事をしてた……って誰ですかそちらの方は?」
「紹介するにゃ。この町のお得意さんである壺爺さんだにゃ。壺爺さんお久しぶりだにゃ」
「久しぶりじゃにゃ、サバーニャ。元気じゃったかにゃ?」
立派なヨレヨレ髭を蓄えた、見るからに老齢の猫人である。
見た目的にはそう、名前を忘れてしまったが、あの顔面がつぶれた猫が最も近い。
えーと、何だっけ……思い出したエキゾチックだ。うん、色々な意味で正しくエキゾチックだ。
「壺爺さん、最近風が強かったにゃー」
「そうじゃにゃー」
「何かいいもの出てきたかにゃ?」
「そうじゃにゃー」
「何かあったら見せて欲しいにゃ」
「そうじゃにゃー」
成り立ってるような、成り立ってないような会話がとても不安になる。
しかしどうやら会話は成立していた模様で、壺爺さんは店の奥へと入って行き何やら物色を始めた。
数分後、やはりというか何というか、壺を持って現れた。
「これなんてどうじゃろうかにゃ」
「ちょっと見せてもらうにゃー……」
壺をまじまじと見つめるサバーニャさん。今までになく真剣な眼差しだ。
その間に壺爺さんは、店の奥から次に渡す商品を持ってきている。
「次の品物を見せて欲しいにゃ」
「これなんてどうじゃろうかにゃ」
そんなやり取りが長々と続く。横から見ている分には、何とも味気ないやり取りだ。
サバーニャさんの背後には段々と壺が積まれていき、今にも倒れるんじゃないかと不安に駆られる。
しかしこれだけの壺、作った訳ではないのなら一体どうやって調達してきたのだろうか。
「うーむ……なかなか……いい感じの……壺……だにゃ……」
サバーニャさんが壺に気を取られている隙に、壺爺さんにこっそり聞いてみる。
「壺爺さん、この壺ってどうやって調達してるのか気になるんですが……」
「そうじゃにゃー」
「もしよければ教えて欲しいなーなんて」
「そうじゃにゃー」
「……えーと」
「そうじゃにゃー」
いかん。話が成立してるのか、成立してないのか分からない。さっきは成立していたが今度はどうだろうか?
「とっしー。後で教えるから、ちょっと黙っててくれにゃ。……ぬーん、これは……」
サバーニャさんに止められました。その後じっくり3時間かけて複数の壺を選び抜いたサバーニャさん。
満足気味なその顔から、なかなか良い掘り出し物が見つかったようだ。
バザールの中を壺と共に歩きながら、サバーニャさんに尋ねてみる。
「ところでサバーニャさん。壺爺さんが持っていた、あの大量の壺はどこから調達してるのか教えて欲しいぞ俺」
「ああ、それかにゃ。今日来る途中にも似たようなものがあったはずにゃよ」
「似たようなもの……珍妙な一団と遺跡くらいしか見てないはずですが」
「前者はともかく、そういう事にゃ。この町が扱ってる壺と言うのは、砂の下から出てきたものにゃ。
何でかは知らないけど、この周辺の砂漠から壺がぞろぞろ出てくるんにゃ。
この間みたいに風の強い日の後なんかだと大量に見つかるらしいにゃね」
なるほど。サバーニャさんが寄りたいと言ったのはそういう事か。確かに少し前まで風強かったし。
しかし砂の下から壺が出てくるというのは、何というか面白い話だと感じる。
きっと中身は古代のロマンか何かでも入ってるんだろう。
「ちなみに中に何か入ってることもあるらしいにゃ。
この間は大昔の食べ物がくさった状態で保存されてたらしいにゃ。食えたもんじゃないにゃー」
中身は古代の腐敗物でした。現実はロマンもへったくれもないな。
「あとで今日手に入れた壺の中身も確認してみるかにゃ」
「変なものが入ってない事を祈るぞ俺」
さっそく適当な宿を借り、戦利品の確認をするサバーニャさん。
ゴソゴソと壺を確認するサバーニャさんを尻目に、自分もいくつか壺を拝見させてもらう。
とはいえ素人眼では物の良し悪しが分かるわけも無し。何となく見てるだけである。
「うん、これなんかいい感じにゃ」
「どれですか?」
パッと後ろを振り返ると、サバーニャさんが頭に壺を被ってうろうろしている。
一体何のトラップに引っかかったというのだ。
「サバーニャさーん?」
返事が無い。まさか中でつっかえて喋れないとか? でもさっき喋ってたし。
傍目には取れるか取れないかギリギリのラインなのだが、大丈夫だろうか。
ゴトゴトッ スポッ
「呼んだかにゃ?」
ぬるりと壺から出てきたのは、当然だがサバーニャさん。ああ良かった。
しかし何でまた壺を頭から被っていたのだろうか?
「何か落ち着くんにゃよ」
そういえば猫ってそういう習性ありましたね。たとえ猫人でもその辺りはやはりというか、同じなのですね。
「この壺はなかなかだにゃ。大きさと言い、暗さと言い文句ないにゃ。
さてさて、こっちの壺は――」
そう言ってサバーニャさんは次の壺を手にし、ぼすっと頭に被った。
壺の用途次第だとは思うが、中身の確認ってそこまでしないといけないのか。
管理人さん。そろそろクルスベルグが近づいてきました。
何か色々と不思議な人や物を見てきましたが、クルスベルグではどんな物があるか楽しみです。
……もとい、不安です。またトンでもない物が出てきそうだなぁ。
おしまい
【登場人物】
とっしー
「とっしー」としか呼ばれない本名不明の男性。奇妙な一行に出会ったり、壺だらけの町に来たりと色々体験中。
今回はとあるゲームの一場面を思い起こしたようだが、彼はある勘違いをしている。
そう、あれは「ツボ」じゃなくて「カビン」だ。
サバーニャさん
返事が無い。壺を被っているようだ。
<zzz
返事が無い。壺を被って寝ているようだ。
奇妙な一行
青いワンピースを着た人間の少女。そしてそれに付き従う3名の異界の従者。
彼等が何故一団となり、何故旅をしているのか?
それはまた別の話である。
- 出会う人々が愉快で楽しい。砂の雨のはた迷惑さと命の壺の昔話っぽさが印象的。思わず中に入ってしまうほどイイ壺ですか -- (名無しさん) 2013-07-16 23:57:00
- 太陽の国の砂の下に眠る国とは浪漫あふれる。旅の途中で道連れができるのは楽しい。しかし愉快なサバーニャさん -- (名無しさん) 2014-01-15 00:02:05
- 絵本から飛び出してきたような四人組の雰囲気がよかったです。無数の壺が砂の下に眠る遺跡というのも妙なロマンを感じました -- (名無しさん) 2014-06-01 18:19:51
- 思えば砂漠の国の砂の下には何が眠る?というのは大きなロマン。異世界のむかしむかし…一体どんなものなんだろう。壷かぶりサバーニャがわむ -- (名無しさん) 2014-11-04 23:33:06
最終更新:2012年10月11日 03:46