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【残暑】

[作中気分の悪くなるような表現等がありますのでご注意下さい]

「あー…彼氏が欲しいなぁ~」
朋子がまた嘆き始めた。私はため息をつきながら
「またぁ?それより早く宿題終わらせちゃおうよ」
私たちは今、夏期休暇で開放されている十津那学園の図書館に来て夏休みのはじめに宿題を処理しようとしている真っ最中だ。
「だってさ~夏だよ?夏?16の夏は一度しか来ないのに、あたしらの予定ときたら宿題片付けても京子ら女友達と5人で海に行くってくらいじゃん」
「しゃーないでしょ?奥山先輩やヤマカ先輩みたいに美人でスタイルいいわけじゃないんだから…」
「ちーくしょう…ふこうへいだー」
シャーペンを上唇に乗っけながら愚痴る朋子を見て苦笑する。
私はこうやってるだけでも楽しいんだけどな…

「ねえ?君たち夏休みの予定は決まってないの?」
突然声をかけられた。
「え…アーフェン君?」
振り向いて驚いた!うちのクラスのエリスタリアから来たエルフの留学生アーフェン君(超絶美形)だ。
いっつも休み時間に、うちのクラスだけじゃなく他所のクラスからも綺麗どころが花に群がる蝶みたいに集まってるあのアーフェン君が取り巻きも連れずに…
「え、えと…う、うん」
「そうなんだ…じゃあ、一緒に遊びにいかない?
実は僕の友だちが4人ほど向こうから遊びに来ることになったんだけど、まだこっちに不慣れで行くアテがなくて困っててさ…
出来ればこっちのことをよく知ってる上に、良花さんや朋子さん達みたいな可愛い子達と遊びに行けるなら文句なしなんだけど」
いつもの憂いのある顔でそう言うアーフェン君…いい香りもするし声も甘く囁くようで二人共トロンとしてしまう。
二人でぼんやりしすぎたのかアーフェン君が困った顔をし始めたので慌てて二人で答えを返す。
「「よ、喜んでー!!」」

事後承諾になったが京子達三人もアーフェン君やそのお友達が来るならと大賛成してくれた(恥ずかしい話、私らのグループはあんまりこういう機会が無いので少しがっついてしまうのだ)。
「いやー!棚からぼた餅!瓢箪から駒!今年の夏は楽しく過ごせそうやねー」
朋子が調子のいい事をまた言い出したのでみんなで苦笑い。
でも、本当にそうなるといいなぁ…

そして運命の日、結論から言うと私達はみんなすごい経験ができた…と思う。
四国のウミガメが産卵に来る某所の近くでみんなでキャンプを張って、海で泳いだり焚き火を囲って話をしたり…夜にはそ、そのウミホタルが煌めく夜景を二人で楽しみながら愛を語ったり、その後の事も…そして、最後ら辺はみんなで…
あ、あんな経験、正直漫画やドラマなんかだけで自分たちが本当にするとは思ってなかった!
私達、数日で一気に大人になっちゃった…

でも、楽しい夏が終わって新学期が始まる頃、アーフェン君は国からの命が降りたとかで急に帰郷してしまった。
もちろん彼の友達の4人とも連絡がつかない。
物凄く寂しい…彼が耳元で囁いてくれた「愛してるよ」の言葉がまだ耳に残っている。そしてどうしても少しばかり裏切られた気分が湧いてくる。
こういうのは異世界からの短期留学だったらしいからしかたないのかなぁ…

「ねえ…京子達がずっとガッコに来てないんだけど」
9月も一周目が過ぎて朋子が心配そうに私にそう話した。
…確かにそうだ。
アーフェン君の件でしばらく落ち込みまくって周りに全然気が向いていなかった。
「しかも携帯にかけたりしたけどメールすら帰ってこないし……心配だからお見舞い行かない?」
何か妙な胸騒ぎを覚えた私は二つ返事で了解し、二人で京子の家に向かった。

「何?ここ…」
京子の家(一戸建て)には売家という札がかけてられていた。
「引越しとか聞いてないよね…?」
私は何も答えられないで唖然としていた。
大きな大きな漠然とした形の不安が私の心の中をよぎる。

隣の人に聞いても、いつの間にかいなくなっていたと言うばかりで要領が得ず、私達は次の理沙の家に向かった。
しかしそこでも…
「ねえ、表札無くなってるね…」「うん…」
マンションの一室にかけられていた表札は無くなっていた。
この分だとメイと優香の家も…

「あ…鍵空いてる」「!?」
理沙の部屋の鍵は開いていた。
「お、おじゃましま~す」
「理沙~…いる~?」
恐る恐る玄関口から彼女を呼ぶ、しかし中はしんと静まり返って生きているものの気配は何もしない。
二人で顔を見合わせると意を決して玄関で靴を脱ぎ、中へと進んだ。

ト、トン、ト、トンと部屋を歩き回る私達の足音がやけに大きく聞こえる。
リビング、カーテンが閉まっていて人影もなし(家具は置いてある)。
ダイニング、家具・食器類あり、冷蔵庫は稼働音を出していて(中は見ていない)テーブルの上にカップとよく見る痛み止めの薬が散乱している。
理沙の部屋…

「ねえ、理沙?いるの?」
呼びかけに応えは返ってこない。
朋子がドアノブに手を掛ける。

ガチャリ

中は…
「誰も、いないね…」
部屋には誰もいなかった。
「みんな、何処行ったんだろう?」
几帳面な理沙に珍しく部屋が少し散らかっていることとベッドのシーツとタオルケットがぐしゃぐしゃになってることを除けば何の変わりも無い気がする。

カタン!

静かな部屋の中でどこからか音が響く。私達はビクッと肩をすくめて音のした方を見る。
「…何?今の」「お風呂とか…トイレの方?」
どちらとも玄関の方だがまだ見ていない所だった。
朋子が何も言わず私の手を握ってくる。じっとりと汗で湿っているそれを、私は同じような手で握り返し二人でそちらへ向かった。

トイレには何もなかった。
そして反対側のお風呂場、洗濯物がカゴに置きっぱなしな脱衣所を抜けて明かりを付け浴室の戸を開く…

「いるの?理沙…」
開いた戸の先には蓋がかけられた浴槽と転がった洗面器があるだけだった。
「なんだ、洗面器が転がっただけか」
私はホッとしてその洗面器を拾い上げた。
その瞬間、ガッと朋子が私の肩を掴んで後ろへ引っ張る。
何事かと思って私は朋子の方を振り向くと彼女は青い顔をしてそれを指さした。
「…え?」
浴槽にかかった蓋の隙間から何かが見えている。
(手?)
今考えるとなぜそれを手だと思ったのだろう?
それは緑色をしてぐちゃぐちゃと蠢く何かだったのに…

ジャパ、ジュボ、パシャ…

浴槽の中で何かが蠢く音がする。
私は朋子の手を引っ張って一目散に浴室から逃げた。
出た先の廊下で今度はダイニングキッチンの方から大きな音が響いた。

バダンッ!!

まるで何かの扉を内側から無理やりこじ開けたような音だ。
その音を聞いた私と朋子は先を争って玄関に走り、まともに靴も履かず外へ飛び出した。
勢いで廊下に転がるわたしはドアの方を振り返った…いや振り返ってしまった。
「あ、あああああああああっぁあっぁぁあっぁぁあぁぁぁーーーーー」
叫び声を上げながらドアを蹴り飛ばして閉める私と横で耳を塞いで亀のような姿勢で震え続ける朋子、私は叫んで叫んで叫び続けて…

気がつくと、どこをどう逃げたのか二人で帰路についていた。
朋子は何も言わない私も何も言わない…
二人共何も言わずに分かれ道で別れてそのまま家に帰り着いた。

それからずっと引きこもり続けている。
何回かお見舞いに来てくれたクラスメイトに対応してくれた母が言うには朋子も同じく休んでいるとのことだ。
それどころか私達以外の子や他のクラスでも女の子が休みがちだと言っていたそうだ。

引きこもってしばらくした頃、携帯に朋子からのメールが何通か来た。
一度開けてみて激しく後悔した。
文面は私への恨み言と「助けて」という言葉で埋め尽くされていたからだ。


……

引きこもってどれ位経っただろうか?
もう私の周りには私達以外誰も居ないし誰も来ない…
朋子が何を怖がって助けを求めていたのか、京子達がどうなってしまったのか今ではよく分かるようになった。

私はゆるゆると目を動かし、枯れ木のようになった体の中で唯一、大きく膨れ生気に満ち溢れて蠢く胎を見つめた。
私の体の養分を吸い取った上、足りない分を股間から生えた触手でどこからか補給しながら育った私とあの人の赤ちゃん。

もうすぐ生まれるだろうソレを、私は涙を流しながら見つめるしか無かった。
「助けて」と祈りながら…

またしばらくが経ったある日の事。
私の中で、周りの命を貪りながら育ったソレがついに外に出ようとしているのが分かった。
「助けて…」
涙を流しながら蚊の鳴くような声で私は叫んだ。
しかし、ソレはお構いなしにズルズルと外に出てくる。

ああ…

「助けて欲しいですか?」
突然聞こえてきた声になんとか目を横にうごかして見ようとする。
薄暗い上に目が掠れてよく見えない…しかし誰かがそこにいるのがわかった。

「救って欲しい?」
たすけて…おねがい…
「君達はそれなりの代償を支払う覚悟はありますか?」
たすかるのなら…おねがい!はや…k!
その人?は何かを持ち上げカチリと音をさせ私に向けた。

 Qui propitiatur omnibus iniquitatibus tuis,
 qui sanat omnes infirmitates tuas;
 qui redimit de interitu vitam taum,
 qui coronat te in misericordia et miserationibus;
 qui replet in bonis aetatem:
 renovabitur ut aquilae iunentus tua.

静かで優しい祝詞のようなものが聞こえ、引き金を引く音に続いて轟音が辺りに響き渡る。
ああ、これでやっと…


……


「あああーーーもう!なんか結局みんなと遊びにも行けなかったし、彼氏はできなかったしで散々な夏休みだったーーーー!」
朋子がヤクドでテーブルの上にバタリと倒れてそう叫ぶ。
他のみんなも似たようなものだ。
軽いケガや病気など理由は様々だが、今年の夏は私を含めてみんな運勢最悪の状態だったようで始業式の帰り早々ぐでーっとしている。
「まあ、しょうがないよ…
今年は私達やうちのクラスだけじゃなく、他のクラスの子もケガやらが多かったみたいだし、○○さんなんか二股バレてオーガの彼氏と猫人の彼氏とで超絶修羅場の真っ最中らしいよ?」
厄年なんかなぁ…と京子が呟く。まだ早いだろ。
「まあ、こんだけ色々不幸があってみんな無事なだけマシなんかもね…」
そうだねとそこだけは何故かみんな同意見だ。
「しかし、出会いがないねぁ…
うちって今、エリスタリアからの留学生が殆どいなくて美形で良い人って鬼族の☓☓君くらいしかいないからどっかからか美形が転校してこないかなぁ…」
「いや、でもクラハ先輩みたいにすごい美形で良い人でも超絶のんきなのが来られても困るっしょ」
「ああ、あの先輩すごい良い人ではあるんだけどね…でも、仲原先輩と仲いいからどっちにしてもあたしらには目がないよ」

私はぼんやりとみんなの話を聞いている。
「ねえ?良花はどうなの?」
いきなり話題を振られて私は…
「私は…今のままでも十分幸せかな?出会いはもうちょっと成長してから自分から進んで見つけに行った方がいいと思う。口開けて待ってて来るような出会いなんてろくなもんじゃ無いだろうし」
いつもは言わないようなことをペラペラと言ってしまう。ちょっと痛かったかも…

でも
「良花…あんたこの夏で達観したね。でも、確かに」
「そうだよね」「うんうん」「たしかに…」
何かみんな賛同してくれて良かった。
これでいいんだ…うん!
ふと窓の外を見ると、9月の青く晴れ渡る空にまばゆく輝く太陽が昇っていて、まだまだ夏の残り香を漂わせていた。


蛇足
ここではないどこかで、一人のヒトと八百万柱の神が話をしている。
「海神殿を仲介しての龍神殿の依頼でも、あれだけの処理をして当事者たちへのこの代償は少し甘かったのではないかと私は思ったがね?」
「いいえ、みな同じ願いで代償を分担したのでこれでいいんですよ…
結局、原因は樹神側の暴走で元を断つのが一番効率のいいやり方ですしね」
彼女は美しいサンゴと真珠の霊石を眺めながら老紳士にそう答えた。


  • こえー!こえー!メチャホラーで読んでてゾクゾクしたぞ -- (tosy) 2012-09-21 22:20:45
  • 角川ホラー全盛期の凍るようなホラーだった。神の使い走りでこういう厄介ごとを始末していってるのかなシャーリー -- (名無しさん) 2014-08-16 03:34:03
  • 中盤の畳み掛けるような追い込みはすごく怖いですね。異世界からの人間に被害を及ぼすようなものが入ってきたときは異世界側で何か対処をしてくれるんでしょうか -- (名無しさん) 2015-02-01 17:14:08
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最終更新:2013年03月30日 13:09