アットウィキロゴ

【住めば都の十津那荘⑤~エルフの恋愛クリニック~】

 【住めば都の十津那荘】


「お前、結構バカだったんだな」
「あんたに言われたくないわよ!」
 今日も今日とて並んで歩く影二つ。
 笑いあったり罵りあったり、仲が良いやら悪いやら。揃って十津那学園から十津那荘に帰る所だ。
「来週再テストだぞ……俺絶対無理だ~」
「大体最近ミズハミシマから来た私にいきなり地球のテスト受けろってのがおかしいのよ」
 時は丁度期末試験終了後。ユージとウツホはそれぞれ英語と数学の試験で赤点を取り、来週夏休み初日に再テストが控えているのだ。
 ユージが英語が苦手なのは良いとして、ミズハミシマから来たウツホが数学以外赤点を取らなかったと言うのは凄い事だ。
 ミズハミシマにも算術や文学はあったが、地球の歴史や科学などそれまで全く縁の無かった事まで勉強しなければならない。
 ウツホは他の教科も赤点ギリギリで通過だったとは言え、小学生の頃からこちらの勉強をしている地球人とはスタートから違うのだから、並大抵の努力で無かった事は言うまでもない。
 そう、異世界人達にとって地球で学ぶと言う事は、「異世界の勉強をする」事なのだから。
「こっちからすれば精霊が居ない世界の方が不思議ってかおかしいのに」
「お前は良いよなぁ~翻訳精霊がいるから英語百点で。チートじゃね?」
 ユージもその事は分かっていたが、それでも英語に関してだけは納得がいかない様子だ。
 そう、向こうの言葉をリアルタイムで翻訳してくれる翻訳精霊の加護は、日本語のみならず英語やフランス語と言った地球の言語全体にまで及んでいる。
 だから英語に関してだけは、ウツホは勉強しなくて済んだのだ。
 同じ部屋でウツホがどれ程努力していたか知っているユージだが、英語で赤点を取った者からは少しズルいと思ってしまうのも無理からぬ話だろうか。
「兎に角あと一週間でレベルアップしなければならない訳だが、どうする?」
「う~ん、勉強の得意な人勉強の得意な人……」
 そう考えて二人の頭に浮かんだのは十津那学園大学部に通う才女、狐人のウキツだった。
 翻訳精霊を使わず地球の日本語を話せ、自力で地球の学問を習得し大学に進学した頭の持ち主だ。身近な人の中で勉強を教えてもらうには打ってつけの人材だろう。
 やる事が決まっていざ動かんと二人が十津那荘の門を通った時、同じ荘に住む人物から声をかけられた。
「なになに? 勉強がどうしたのよ?」
 ダークエルフのエローラである。
『お前じゃない座ってろ』
「何よハモってさ~ブツブツ」
 いつも男に餓えていておバカな発言ばかりしているエローラの出現に、ユージとウツホは揃ってNOをつきつけた。
 勉強教えてと言ってもどうせユージに逆セクハラしようとおかしな事をしだすに決まっている。
 そんな事は不愉快なウツホと、以前エローラの体液毒で救急車に運ばれたユージからすればお断りするのは当然の事であった。
「ウキツさん部屋に居るかな? お前ウキツさんのケータイ知ってる?」
「知らない。って言うか持ってるのかな? ケータイ」
「私は知ってるぞ。ウキツのケータイ番号」
 警察官と言う誇り高い仕事をしているのに全く信用が無いエローラだが、警察だけに結構役に立つ場面は多い。
 仕方なく二人は背に腹はかえられぬとエローラに協力を求めるのだった。


 ~第五話 エルフの恋愛クリニック~


「何がどうしてこうなった……」
 電話が終わり二人は自室203号室に戻っていた。
 今時珍しいまん丸のちゃぶ台に隣り合うように座るユージとウツホ。そしてその向かいに居るのは……。
「~♪」
 狐の才女ではなくエロ星人だった。
(ダークエルフってサ○ヤ人と同じで戦闘民族なんだろ? 勉強できるのか?)
(さぁ……でも警察官採用試験は通ってるんだろうし、高校レベルなら大丈夫なんじゃない? 多分だけど)
 結局ウキツに電話した所、大学の研究室の手伝い兼バイトで一週間出掛けているとの事で協力は取り付けられなかった。
 その後何やかんやでエローラが勉強を見てくれると言う話になったのだが――。
「そこ。つべこべ言わず、まずはこの問題から解いて見ろ」
「はーい」
 そう言ってエローラが二人に差し出したのは問題を手書きした紙切れ。
 教科書とか問題集とか使っていない時点で不安爆発なのだが、それでも二人はエローラの善意を酌んで、と言うか信じて出された紙を覗き込んだ。
「どれどれ?」

Q.近年、先進国において問題となっている少子化問題を解決せよ。

『どうやって!?』
 予想を遥かに上回る結果だった。
 数学と英語を教えてと言っているのに社会科の問題?を出した上、先進国のエリート達が考えても解決できない問題を出すとは。
 二人がエルフ恐るべしとか思って絶句している間に、いーち、にーい、さーんと口でカウントを唱えていたエローラが答えの受付を締め切った。
「ぶっぶー! 時間切れです。この程度の問題も分からんのか?」
『出来るか!』
「はい、答えは『セックス』でした。では第二問」
「ちょっと待て!」
 さらりと違和感を流されそうになりユージが割って入る。
 勢いで誤魔化そうとしているのか素なのか判らないが、このままでは時間の無駄どころか答えが全部セックスの問題ばかり出され続けそうな気配を感じたので、ユージはいきなり脱線したエロ魔人を方向修正すべくもう一度二人のオーダーを確認した。
「今のは社会科――と言うか現代史? の問題でしょう!? 今教わりたいのは英語と数学ですよエローラさん」
「む、そうか。では改めて第二問」
 注意を受けて分かってくれたようで、今度は数学の教科書を見ながら問題を紙に書き始めるエローラ。
 二人がやっと真面目になってくれたと安心したのも束の間、次ぎ出してきた問題がコレである。

Q.A+B=C 左の式のA、B、Cに当てはまる答えを書きなさい。

『三次方程式なのに式が一つだけ!?』
「解けるだろう? このくらい」
 本日四回目のハモりをして二人は息を飲んだ。
 この問題、一見まともそうだが何か裏がある。高等数学とか意地悪問題とかそんなちゃちなもんじゃあ断じてない凄みが、紙面上から漂っていた。
(え? 何? エルフってそんな高度な数学出来るものなの?)
(ううん、そんな話聞いた事無いけど……)
 二人が小声で相談するのを見て、二人とも答えが分からない気配を感じ取りエローラが鼻息を荒くした。
「もしかしてまた解らんのか? 地球の学生は一体何を教わってきてるのだ」
「うぐっ、何か悔しい」
「私はミズハミシマの学生だし! て言うかこれホントに高校レベルの問題ですか?」
 さっきあんなトンでも問題を出してきた相手にこんな事言われるのは何か悔しい。そう思い問題の真意を必死に考えようとするユージとウツホに、エローラはドヤ顔でこう言った。
「当たり前だ。キス+ペッティング=セックス。このくらい小学校で習うだろう。あ、答え言っちゃた」
『やっぱエルフだ!』
 深く考える意味など無かった。やっぱりエルフだった。
「世の中の問題は全て男女の関係で解ける。何故ならこの世には男と女しか居ないから。動植物も含めて」
「おかしい。何故か一瞬正論と思ってしまった」
「エルフ恐るべし……」
 そう言い切って再びドヤ顔で決めるエローラに、もう二人は逆らう気力など残っていなかった。
「あの、大変失礼ですがもう結構ですので……エローラさんの授業は高度すぎて私じゃ付いていけません」
「やっぱり勉強は自分の力でしなくちゃいけないものですしね」
 こうなればやんわりお断りする他無い。そう判断した二人の考えは正しかった。
 エルフは性の事しか考えていないのだ。いやすまない。そうと決まった訳ではないだろうが、少なくともこの脳内食虫植物お花畑のエルフが相手ではそうだった。
 どうやって警察官になれたのかとか普段まともに仕事勤まってるのかとか色々疑問はある所だが、そんな事聞く余裕、今の二人には全く無い。
「え? もう良いのか? この後『ドキッ!エルフだらけの課外授業~ポロリもあるよ~』の予定だったのだが」
 そう言われて突然ワイシャツの襟元を肩まではだけて流し目をしだすエローラさん。やはり最初から若い種が目的だったようだ。
 その態度にまた昔の痛い記憶などすっかり忘れてコロリと引っかかる馬鹿ユージに、ウツホの鉄拳が飛んだ。
「え!? 先生ボクすごく先生の授業受けたいです!!」
「おバカ! ポロリってのはあんたの命がポロリンコしちゃうって意味よ!?」
「えぇ!?」
 命がポロリンコって何だろう。
 そんな事を深く考える間もなく繰り出されるエローラの攻撃。今やユージの命は風前のポロリンコだった。
「ポロリンコ……したくないのか?」
「したいです」
「死ね!」
 胸をギリギリまでポロリさせながらの攻撃に、だらしなく鼻の下を伸ばしたユージを見て、うつほは吐き捨てるようにそう言った。
 冷たい。まるでゴミ虫を見るように冷たい目だ。怒れるウツホの眼力はすんごい事になっていた。
「ぐおぉ……罠と分っていても引っかかってしまいたい……っ!」
「もう……お前はそれで良いや」
「それなんか凄くムカつく!」
 やがてウツホの目はゴミ虫を見るような目から遠くを見るような目になりユージを見もしないでそう言ってのけた。
 これには流石のユージも堪えたらしく、褐色おっぱいに向かっていた意識をウツホの方に戻す。
 だがしかし時既に遅くウツホはすっかり軽蔑した目つきで取りすがろうとするユージに蹴りを入れていた所で、問題の張本人であるエローラが大人らしく助け舟を出した。
「知るかバカ! ヘンタイ! ヘンタイ! ヘンタイ! ヘンタイ!」
「ちょっと待った!」
 突然のシリアスな空気に二人は気圧され一瞬で動きが止まる。
 そう、ダークエルフは森の狩人《ハンター》でもあるのだ。森の番人、世界中の守人、その腕前は異世界地球に来ても衰える事は無い。
 その凄腕の戦士に止められた二人がエローラの言葉を待っていると……。
「ケンカは良くない。もしどうしてもと言うのならセックスで勝負だ!」
『勝負しないっ!!』
 でもやっぱりエロフはエロフだった。


「地球の男女関係と言うのは難しいものだな……」
 翌日、所内の自動販売機横にあるソファーに腰掛けながら、エローラは深い溜め息をつく。
 外は快晴だと言うのに朝の爽やかな空気を吹き飛ばす、どんよりとした暗い溜め息に丁度同じように朝の一息に来た男性警官が相槌を打った。
「分かる。その気持ちひじょ~~~によく分かるぞ」
 内田裕也巡査23歳(独身)。最近とあるコンビニの常連となっている地元警官である。
「俺も最近あるコンビニに店員目当てで足繁く通っているんだけど、こないだ何か避けられてるみたいな出来事があって……凹むわ~」
「店員目当て? その店員に会うと何か得なのか?」
「得って……分かんないかなぁ、その店員が可愛くて仲良くなりたいんだよ俺は」
「あぁ、セックス目当てか。法にだけは触れるなよ」
「触れるか! つか身も蓋もない言い方だなオイ」
 珍しい亜人警官と言う事でエローラは○○警察署でも有名な存在だった。だがそれ以上に奇行が目立つ警官として有名だった。
 そんな珍妙な人物に気軽に声を掛けてくれるのは、内田巡査がまだ若く亜人慣れしている世代だからだろうか。本人が気さくな性格と言う事もあるからだろうか。
 何れにせよエローラに普通に接してくれる同僚の一人である事に変わりなかった。
「もっとこう、他にあるだろ? プラトニックな気持ちとかさ~」
「プラトニックなセックスってどんなプレイだろう……正常位?」
「それしかないのかよ!?」
 見た目は可愛い女なのに話す内容は限りなく下品なオヤジ臭いエローラに軽く眩暈を覚えつつ、内田巡査は尚も会話を続けた。
「あの人もお前と同じダークエルフっぽいけど、お前みたいにセックスセックス連呼したりしないぞ?」
「それはおかしい。私の故郷ではこれくらい当たり前だぞ」
 大方女の子がエッチなセリフを言うと男は嬉しいものだが、ここまでになると逆に萎えるものだ。
 エローラが所内でも有名なエロフなのに変な噂を聞かないのはこれが原因かと痛感する内田巡査だった。
「ま、まぁお前ももうちっと歳相応の『恥じらい』ってものを身に付けた方が良いぞ? 日本の男子は結構デリケートなんだからな」
「そうか、だから地球に来てまだ誰も相手してくれないのか……分かった! ありがとう内田巡査!」
 そう言って元気よく廊下を駆けて行ったエローラの後姿を見送りながら、本当に分かっているのか、このせいで逆に変な事を仕出かさないか一抹の不安が過ぎる内田巡査だった。


「あんた何先に食べてるのよ! だったら私だって」
「あ~! そんなに食べたら帰ってから食べる分が」
 今日も部活動をしていない暇人のユージとウツホは、帰る家も時間も同じと言う言い訳の元一緒に下校していた。
 高校生と言うものは例え運動をしていなくてもやたらと腹げ空くものである。二人で半分づつ出し合って買ったフライドポテトアメリカンLサイズを手に歩いていると見慣れた影が向こうから歩いてくるのが見えた。
「あ、エローラさんこんにちは」
「これから夜勤ですか? お疲れ様です」
 その影は十津那荘の方から歩いてくるエローラだった。これでも警察官のエローラは職務上夜勤や徹夜も多いのである。
 夕方、オレンジ色の逆光で顔が見難い中、特徴的な長い耳とスラリと伸びた長身のシルエットにいつも通り二人が挨拶をすると――。
「あ、あの……いって……きます///」
「ブーーー!」
「うわーっ! きったないきったない!」
 ウツホが意地汚く口一杯に頬張ったポテトをユージに向けて噴出した。
 一瞬別人かと思うようなありえない態度と口調で挨拶を返してきたエローラは、至近距離だった為見間違う筈も無くエローラで、兎に角二人は見た事もないような反応に唖然となったのである。
 そんな驚く二人を尻目にエローラは恥らう素振りでそそくさと警察署の方に歩いて行った。
「な、何だったんだ? 今のは」
「さぁ」
 状況が飲み込めない二人はユージとウツホは呆然としたまま、ただただ夕陽射す路上で遠ざかってゆくエロフの影を見送るのだった。


「よーエローラ。もうアパートの少年には手を出したのかい?」
「出したら教えてくれよ? 逮捕するからなーハハハ」
 エローラが警察署に付くと、同じく夜に仕事があった刑事課の同僚に冗談交じりに声をかけられた。
 前述のようにエローラと言うかこのエロフがエロエロである事は知られていた。それも年下好きであるらしい事までも一部では知られていた。
 しかしその試みが上手く行っていない事や犯罪紛いの年齢の子には手を出さない事、加えて恋愛は個人的な問題なので同僚達は皆軽い気持ちで考えていたのだ。
 そんな事情があり、一部のオヤジ連中からは上のようなセクハラ発言を受ける事も間々あるのだが、貞操観念の薄いエローラはセクハラの概念を理解していない為嫌がらず反応を返してくれるから、周りもエローラに対しては遠慮が無かったのだが……。
「や、止めて下さい! セクハラですよ?」
『え!?』
「それじゃ私、警邏の時間なので行って来ます」
 まさかこのエルフからセクハラなどと言う単語が飛び出すなど思いもしなかった刑事二人は、パトカーに向かう足を滑らせその場でずっこけた。
「な……何があったんだ? あれ」
「悪いもんでも食べたんじゃないのか?」
 静々とその場を立ち去るエローラを遠めに見つつ、槍でも降る、いや大事件でも起こるんじゃないかと心配になる二人だった。 


(ユッコに借りた資料を真似てみたものの……これで良いのだろうか)
 自転車を走らせつつこれまでの自分の行動を考えエローラは悩んでいた。
 内田巡査との会話の後、彼女は寮で「恋愛(シミュレーション)には詳しい」とのたまっていたユッコにレクチャーを受け、男受けする動作を覚えた。
 だが性に対する羞恥心が薄いエローラはユッコの言う事が殆ど理解できなかったし、それでも何とか表面上は取り繕えるくらいにはなったのだが、今の所成果はない。
 これから非行少年を見つけ指導する夜勤の仕事があるエローラだったが、今までの上手く行かなかった「恥じらい作戦」を振り返り、改めて失敗だったのかと嘆いていたのだ。
「本官らしくない気もするが遺伝子GETの為だ、頑張らねば……ん? あれは」
 落ち込む気持ちはあるもののそこは大人のエローラ。仕事は仕事と気を取り直してコンビにの方に目を向けてみると、学ランのまま煙草を吸い缶ビール片手に笑いあっている明らかに不良高校生と思しき少年三人組を見つけた。
 十津那学園の生徒だろうか。何れにせよ学ランのまま深夜のコンビニ前にたむろし煙草と酒を楽しむなど大した度胸である。買った少年達もだが売ったコンビニ店も指導しなければ。
 そしてエローラはいつもの調子で少年達に声をかけようとした。
「こ――! う、おほん。あ、あの~」
「ああん?」
 かけようとして喉まで出かかった「こらー!」と言うセリフを飲み込んだ。
 彼女は今自分が恥じらい作戦の最中と言う事を思い出したのだ。普段なら怒りながら親父のように怒鳴り込んでいく所を、あくまでも優しく穏やかに注意する事にした。
「高校生がタバコ吸っちゃダメだぞ?」
「っせぇな! っなの っレの ってだろ!」
「っころすぞ っらぁ! っぉお!?」
「え? 翻訳精霊壊れてるの?」
 意味が分からなかった。
 いや、分かる人には分かるのだろうが、少年達の不良言葉はそのまま正確に翻訳され伝えられたせいで、返ってエローラには意味不明の言語と化していたのだ。
「っくんこいつ っく見るとダエロですぜ」
「っつーことはあれか? っレらとやりたくて声かけてきたんか?」
「っははは! っとそーだぜ~婦警プレイとか っこ~~~~だな!」
(何を言っているんだろうこいつら……)
 慣れれば文節ごとの頭の文字が発音されていないだけなのでニュアンスで分かるのだが、慣れていない人にとっては多分全然分からないだろう。
 うん、エローラは全然分かっていなかったのだ。
(はっ!? こいつら、さっきから私の胸を凝視してる――!?)
 言葉の意味は分からなかったがそれでも何とか意思を汲み取ろうと努力した結果、相手の視線が自分の胸に注がれていると判断した(実際どうだったかは別にして)エローラは、その明晰なるエロフ脳によって唯一つの冴えた方法を思いついたのだった。
「ふふふ……そうか。そう言う事だったのかお前ら」
 タバコを吸う人の心理に「乳離れ出来ていない」と言う要素があると聞いた事がある。
 つまり少年らは将来が不安な気持ちを紛らわせようと、赤子が母のお乳を求めるようにタバコを口にしている時だけ心安らぐと言う訳か。だがタバコは健康に……。
 エローラは少年達の未来を思いやった。安心させてやりたい。そして健康も害して欲しくない。この二つを同時に叶えるには、こうする以外なかったのである。
「よしっ!」
『何故脱ぐ!?』
 エローラは上半身丸出した!
 小麦色――じゃなく地黒だが健康的な素肌が露わになる。色黒な肌に汗が光り妙に艶かしい双丘にピンクのチェリーが一つずつ乗っている光景は不良三人を黙らせるには十分な光景であった。
 ついでにコンビニの中にいた店員やお客さん達も黙らせた。
「吸いたまえ」
『えぇ!?』
 衝撃の発言に思わず聞き返す三人。
 一体何を吸って良いと言うのだろうか。ショートケーキの苺から先に食べて良いのだろうか。杏仁豆腐のクコの実から先に食べて良いのだろうか。
 地球の常識では考えられない展開に唖然とする不良達であったが、次のセリフで狂喜乱舞する事となる。
 何故なら男子高校生の夢が一つ叶うのだから。
 それにしてもハモリ括弧の多いSSである。作者は全く反省していない。
「遠慮せずさぁ! 吸いたまえ!」
『マジかよーーーーーっ!! ヒャッハーーー!』
 どこぞの世紀末モヒカンのようなセリフを吐きながらエローラに突撃する不良三人組。
 コンビニでサボっていた外回りの中年リーマンも、大学受験三浪目で半ば夢を諦めていた青年も、24年間逃げ続け時効成立寸前凶悪犯もコンビニの外に飛び出した。
 今ここに楽園《エデン》が誕生したのである。


「本日未明、時効成立まであと1年だった○○容疑者が逮捕されました」
 いつもと変わらぬ朝食を取りつつユージとウツホは朝のニュースを見ていた。
 と言っても高校生である。政治経済などにはあまり興味は無い。聞いているのはもっぱら今日明日の天気や気温に事件や事故の事だ。
 そんな中、地元の事件が報じられ二人はその報道に注目した。
「時効まであと1年だってよ。警察お手柄だな」
「地球の憲兵もなかなかやるじゃない」
「憲兵て……」
 ウツホの憲兵と言う表現に驚くやら呆れるやら、ユージが味噌汁を啜るのとテレビから聞き慣れた名前が聞こえてきたのはほぼ同時の事であった。
「逮捕したのは何とダークエルフの亜人警察官、エローラ・エルウッドさんです」
「ブーーー!」
「うわーっ! きったないきったない!」
 ユージが噴出した味噌汁を浴びてウツホは熱さと汚さで転げまわった。
 その時もユージの視線はテレビに映ったお手柄警察官エローラに向けられている。
 画面の向こうでリポーターにマイクを向けられたエローラは得意げに今回の経緯を語っているようだ。
「そうですね。今回は罠と分かっていても引っかかってしまいたくなる手を使い犯人逮捕に結びつきました」
「ほほう、それはどのような手ですか?」
「囮が良かったのもありますが、まぁ一番の要因はオッパイでしょうね」
「お、おぱ?」
 ただ今番組で不適切な発言があった事を深くお詫び申し上げます。
 と言うお決まりのセリフを言う余裕も無い突如のエロ発言。これはいくらエロフと言えども許されるものではない。
 朝の出勤、出社前の皆さんが見守る番組内で、警察まさかの不適切発言である。テレビ局スタッフも警察関係者もエルフの無敵っぷりに度肝を抜かれ生きた心地がしなかった。
「オッパイです。淑女が胸を露わにする時奇跡が起こるのです。普段の恥じらいがポイントです。因みに私は淑女ですがいつでもウェルカム。連絡先は110、110までお電話くだ――何をするんだ内田巡査。何故私に手錠をかける? なに? こんな良い所で帰投命令など出すな! むしろ私が亀頭命令出すわ!」
 リポーターのマイクを奪い取り避けるカメラの前に回りこんでまで喋り続けるエローラを、先日の会話の時から何か嫌な予感がして現場に駆けつけていた内田巡査が静止した。
 かなり強引に静止した。
 だと言うのにエルフの力は凄まじく、大の男が羽交い絞めにしているのにそれを引きずりながらまだカメラに映ろうともがいている。
 画面は暫くお待ち下さいと言う静止画に変わり、エローラ最後の足掻きも途中で途切れて終わった。
「遺伝子提供してくれる優秀なオトコは110、110までおで――ブツッ」
「え、えぇ~と……以上現場からお送りしました!」
『……』
 あまりにも酷すぎる光景に唖然とするユージ。
 そしてテーブルの上に用意した手拭で味噌汁を拭きながらユージを殴りテレビの様子を見始めたウツホは、二人して本日最初のハモりをしたのだった。
『エルフ恐るべし』
 その日、上司にこってり絞られ減法やら謹慎やら色々な罰をくらい、しょぼくれた様子でエローラが十津那荘に帰って来たのは言うまでもない。
 検挙率が高い為普段の奇行も見逃されていたエローラも、流石に今回は許されなかったようだ。
 恥じらいを理解しないエローラだが、この時ばかりは素で物静かな乙女のようになったと言う。


 ―終わり―


  • 萌えるとにかく萌える。掌の上で転がされているのは間違いないが萌える -- (としあき) 2012-09-17 23:09:53
  • 生粋のエロポリスだとばかり思っていただけに今回の展開は不意打ちクリティカル。次回からちょっと性格とか変わってくる? -- (とっしー) 2012-09-18 22:19:04
  • 職務中でも色んな意味で評判になってそうなキャラなんじゃない? -- (tosy) 2012-09-21 22:13:32
  • 「吸いたまえ」と「おぱ?」と亀頭命令でわらた。愉快で可愛いアホだなエロ婦警さん -- (名無しさん) 2012-10-30 11:34:49
  • 作者の中で荘と住人と界隈が舞台としてできあがっているのを感じて読んでて楽しい -- (名無しさん) 2013-02-08 00:44:07
  • それぞれの種族それぞれの職業などをしっかり踏まえてのキャラ特徴を押し出した団欒と、端々に見る言葉作りのセンスが光っていて楽しいです。 後半部分も引き続き雰囲気をそのままに展開していましたが、それだけに間延びしていくのを感じました。 一つではなく二つの作品にしても十分まとめれると思いました。 キャラの台詞と行動の間にもう一つ短いキャラの個性を見せる一行を挟むと面白い調子になりそうとも感じました -- (名無しさん) 2013-09-13 00:20:45
  • 地球にきた異種族の勉学に対する自然体の姿勢は見習いたいもの。フィーリングで生きているようエローラの清清しさですが流石にセックスまみれの思考は改善していったほうがいいのではと思いました。ユージとウツホの距離が近くなっている余韻をかきけすようなおっぱい -- (名無しさん) 2015-02-01 18:04:45
名前:
コメント:

すべてのコメントを見る

タグ:

e
+ タグ編集
  • タグ:
  • e
最終更新:2012年09月17日 03:01