昔々、まだヒトが精霊たちの扱いを今ほど知らなかった頃…
ある日、どこかの国の技術革新で金属をもっと上手く精錬する炉の製造法が広がって、世界中で金属製品の需要が一気に上がったんだけど、肝心の鉱石がなかなか手に入らない時期があったとさ。
それがなぜかと言うと、鉱石自体はあったけど今ほど荷馬車が上手くできてなかったのと、それを引く獣の品種改良が進まず馬力が全然無かったんだってよ。
荷馬車を引く役は高くつくが
ケンタウロスにやってもらうって事もできたが、需要に合わせて大量に鉱石を運んでると途中でポロポロこぼれたり重心が偏って馬車が倒れたり進まなくなったり、挙句に重くて足が遅いから途中で野盗に襲われたりで今と違って散々な様子だったそうだ。
でもそんな状態じゃあ商売にならないと、ある鉱山主が無い知恵絞って考えて鉱山の土や石の精霊にこう言うお願いをした。
「お前たちの好きな強いお酒やピカピカに磨いた宝石や鉱石をあげるから、ちょっと俺らが鉱石を運ぶ時に手伝ってよ」
とね…
馬鹿な話に聞こえるが、鉱山を開く時にさんざんイタズラをし終えて暇を持て余してた精霊たちに取っては願ってもない暇つぶしと実益のある提案だったらしくて二つ返事で引き受けたそうだ。
んで、どういう風にやったのかってぇと、その時代に荷馬車よりは多少頑丈になってた
オーガやトロルの兵士を運ぶ馬車に乗れるようにヒト形になって自分で歩いて馬車に乗り込んでくれって頼んだって…
なかなか馬鹿な話だろ?…まあ、もうちょっとだけ続くから我慢してくれや。
それで頼まれた精霊たちは、面倒くさいとブチブチ言いつつも約束だからとぶきっちょながら何とか選別された鉱石を使ってヒトのような形をとってヨタつきながら馬車に乗り込んで、糞重いからケンタウロス二人立てのその馬車はガタピシ言いながら山道を街に向かって下っていったんだと。
道中、精霊が飽きたとか尻が痛いとか色々言ってくるんでその対応に四苦八苦してたが、鉱石が落ちたり重心が寄って馬車が倒れたり進まなくなったりってのは無くなったそうだ。
心配で付いてきていた鉱山主もこれは上手くいきそうだ!と思ったらしい。
ところが!だ…
目的地近くの谷間の道まで来てやれやれと思った時にそれが起こった。
谷の上から待ち伏せしてた山賊たちに網を被せられたんだ。
護衛ももちろんいたが、上からでかい網を被せられて矢で狙われちゃあ手も足もでねえわな。
そんで山賊たちは手早くみんなを縄でぐるぐる巻にしていつものごとく貴重な鉱石を横取りしようとしたんだ…が
「オヤビン!鉱石が動いてくれません」
「なんだ?なんだ?重いやつなら砕いて、いつもの如くリレーでやってきゃいいだけじゃねえか」
「いや、オヤビン…ちょっと見て下さい」
部下にそう言われて荷馬車の上の獲物を見た親分はおったまげたそうだ。
「なんだぁ…?こいつらヒトの形してやがるぜ?なんでまたこんなけったいな事しやがったんだ?」
「さあ?でもこいつらが頑固で…全くうちの馬車に乗ろうとしてくれねぇんです」
さて困ったということで山賊たちは精霊と交渉したが、土や石の精霊は義理堅いので最初にした約束があるから…と相手にしてくれない。
辛抱強く交渉したが全く箸にも棒にもかからない状態で、ついに親分さんが頭に来て剣を抜いてヒト型の鉱石達に斬りかかった。
まっ…それで結果はどうなったかはわかるわな?
鉱石の塊に斬りかかったって剣の刃が欠けるだけでなんの意味もなく、それどころか精霊たちが怒りだして山賊達をその馬鹿みたいに重量のある硬い拳でぶん殴りだしたんだ。
剣も矢も魔法も通らないヒト型の鉱石の塊達に勝てるわけもなく、山賊達はボコボコに殴られて壊滅しちまったんだってよ。
で、それを見てた鉱山主達が何とか自力で縄を切って山賊たちを蹴散らした後に整然と馬車に座る彼らにこう言ったと…
「君らにあげるご褒美を増やすからずっとこういう風に俺達を助けてくれないか?」
「え?マジで?」
「マジでまじで」
「じゃあ、綺麗に彫金された宝飾品とかもくれる?」
「あげるあげる」
「じゃ、じゃあ!坑道に綺麗な壁画とかも描いてくれる?」
「あげるあげるあげちゃうよ」
「「「「やったーーーー!!!!」」」」
「こうして今のゴーレムの原型ができたわけだ…」
鉱山労働者のガタイのいいヒクイドリ人が地球製の紙巻きタバコを咥え、濃ゆい蒸留酒の入ったグラスを持った手でサルーンの外を走る馬車を指さしながらそういった。
その上には金鉱石でできたゴーレム数体が体育座りでチンと座っている。
「ああ…それで坑道やらに絵が描いてあったり、宝飾品がお供えしてある祠があったりするんですね…
ところで、このゴーレムって
新天地?それとも
クルスベルグが発祥なんですか?」
紙巻と交換で貰ったこちらの芳醇な香りのする葉巻をくゆらせ、虹色のカクテルを飲みながらそう聞くと
「いいや?この手の話は世界中にあるから実際には何処が発祥かなんてわかんねえよ。
まあ、俺らがこの事に対して言えることは一つだな……」
「なんです?」
そう聞き返すと彼はニヤリと笑って
「上手いことやって今も俺たちを儲けさせてくれるこの世界みんなのご先祖さん達に乾杯!!ってことさ!
さあ、俺の兄弟たちも仕事上がりみたいだから、今日はみんなで飲み明かそうぜ?」
サルーンの戸口から大量に入ってきた、こちらもごっつい鉱山労働者らしいオーガやトロル、竜人、熊人などを見ながら彼は快活にそう言ったのだった。
希望あふれる新天地、厳しい環境の中で今日も彼らは楽しげに『今』を生きている。
蛇足
スレからネタを頂きました。
ゴーレムの体育座りってちょっと見てみたいと思います。
- 上手く精霊と連携がとれたら警備万全の運搬として起業できそう! -- (としあき) 2012-11-11 18:14:29
- スレの話題になっていたので一読しました。現地の地形を触媒にして生み出せる頼もしいゴーレム -- (tosy) 2012-11-12 23:33:22
- 異世界もやっぱりギブ&テイクの活用は何事にも通じる。 体育座りが可愛らしいが怒らせるととんでもないのが何とも精霊らしくて良い -- (名無しさん) 2013-07-13 21:45:27
- 科学や機械がなくても異世界は異世界ならではの力で発展してきているというのがよく分かるのと交流があって起こるというのがほっこりします -- (名無しさん) 2015-04-19 18:38:26
- 暇を持て余した精霊達の戯れ。荷台の上に座る鉱石ゴーレムを想像してわむ -- (名無しさん) 2016-09-27 07:06:02
最終更新:2013年03月30日 13:03