影ノ裏未知にとって、このデスゲームは二度目のものだった。
見ず知らずの人間と殺し合うというものではなく、クラスメイトから犠牲者が出るゲームを強制させられる、といった違いはあるが、それでも命がけの状況ということに変わりはない。
当然覚えるのは恐怖。一度死を経験したことで慣れる、などという事はない。あの時なぜ自分が五体満足で生き返れたのか、死んでいた彼女にわかるはずもなく、そもそも本当に死んでいたのか、あのデスゲーム、迷宮教室が現実のことなのかすら疑わしさを覚えてしまうほどだ。
そして今のこの状況。もっと直接的な、その手で誰かを殺せという理不尽。これは夢か現実なのか。過熱した狂気が、ついに危険な領域へと突入しそうになるのを抑えたのは、横に眠る少女だった。
それはモジャモジャを超えたモジャモジャの毛だった。人生で一度も櫛を通したことのないような、とんでもない癖っ毛の少女である。人種もわからない。とりあえず外人、だとは思う。では白人なのか黒人なのかと言われるとなんとも言えないが、とにかく少女はスヤスヤと眠っていた。
そこでようやく、未知は自分が飛行機に乗っていることに気づいた。二列の通路を三列のシートが挟んでいる。この横幅は飛行機だろう。前回が学校で今回が飛行機というのはどういう意味があるのかと考え込みそうになるが、まずは試してみるべきことがある。
見ず知らずの人間と殺し合うというものではなく、クラスメイトから犠牲者が出るゲームを強制させられる、といった違いはあるが、それでも命がけの状況ということに変わりはない。
当然覚えるのは恐怖。一度死を経験したことで慣れる、などという事はない。あの時なぜ自分が五体満足で生き返れたのか、死んでいた彼女にわかるはずもなく、そもそも本当に死んでいたのか、あのデスゲーム、迷宮教室が現実のことなのかすら疑わしさを覚えてしまうほどだ。
そして今のこの状況。もっと直接的な、その手で誰かを殺せという理不尽。これは夢か現実なのか。過熱した狂気が、ついに危険な領域へと突入しそうになるのを抑えたのは、横に眠る少女だった。
それはモジャモジャを超えたモジャモジャの毛だった。人生で一度も櫛を通したことのないような、とんでもない癖っ毛の少女である。人種もわからない。とりあえず外人、だとは思う。では白人なのか黒人なのかと言われるとなんとも言えないが、とにかく少女はスヤスヤと眠っていた。
そこでようやく、未知は自分が飛行機に乗っていることに気づいた。二列の通路を三列のシートが挟んでいる。この横幅は飛行機だろう。前回が学校で今回が飛行機というのはどういう意味があるのかと考え込みそうになるが、まずは試してみるべきことがある。
「……やっぱり、そもそもOSから違う……?」
そうである、ハッキングである。
小学生にして既に企業からも声がかかる未知からすれば、旅客機のネットワークに入り込むことも不可能ではない。そうすればフライトデータから今この機体が何処を飛んでいるのかもわかるのだが、それを阻害したのは不可解なエラーだった。
未知は座席を探ると端子を見つける。ノートパソコンにC端子ケーブルを差し込むとそこに繋げようとするが、どうにも繋がらない。じっくり観察すると微妙に形が違うことに気がついた。一般人よりも格段にIT機器への知識がある未知を持ってしても見たことのないそれを、しばらくの間指でなぞった末に導いた結論は、彼女としても不本意なものだった。
これは、この飛行機は、一般的な旅客機ではない、もっと言えば、未知の知る世界のものではない。仮にも旅客機であるはずなのにも関わらず独自規格を採用する意味がない。同じなのはイヤホンジャックぐらいだが、なぜそっちは同じものでパソコンと繋ぐには一般的な企画とは違うものを採用したのか、航空業界に詳しくない未知からしても当然の疑問を抱く点だった。
不可解な現実に、手元から目を離して指を頬に立てて考える。そういえばいつの間にか横に寝ていた少女もいないし、周囲の人間もだいぶ起きていた。というかよく見れば、天井から酸素マスクが落ちてきていた。なにかしらのトラブルが起きたのか機内はだいぶ騒がしかったが、集中していたせいでまるで気づかなかった。
ふと、自分のノートパソコンのインジケータが目に止まる。クリックすると彼女がハッキングしようとしていたローカルネット、そこに見知らぬユーザーが表示されていた。いくら試しても航空機にはアクセスできなかったのにこれは何か、しばし考えて達した結論は、『自分と同じようにハッキングを試みた』という可能性だった。
慎重に辺りを見渡す。パソコンなりタブレットなりを操作する人間は、見つからない。目に入ったのは、小学校低学年ほどの女の子が妙な制服姿の女の子を機体の前部に案内するところだった。
そこでようやく、未知はこの飛行機にどれだけの人間がいるのかというところに発送が行き着いた。ついハッキングを優先してしまったが、よく考えれば自分のクラスメイトたちもいるかもしれない。いつものことをして落ち着くと、ようやく色々なことに気がつくようになるものである。
まずは、先頭から調べるか。女の子たちの後を追うように、未知は前へと歩き始めた。
小学生にして既に企業からも声がかかる未知からすれば、旅客機のネットワークに入り込むことも不可能ではない。そうすればフライトデータから今この機体が何処を飛んでいるのかもわかるのだが、それを阻害したのは不可解なエラーだった。
未知は座席を探ると端子を見つける。ノートパソコンにC端子ケーブルを差し込むとそこに繋げようとするが、どうにも繋がらない。じっくり観察すると微妙に形が違うことに気がついた。一般人よりも格段にIT機器への知識がある未知を持ってしても見たことのないそれを、しばらくの間指でなぞった末に導いた結論は、彼女としても不本意なものだった。
これは、この飛行機は、一般的な旅客機ではない、もっと言えば、未知の知る世界のものではない。仮にも旅客機であるはずなのにも関わらず独自規格を採用する意味がない。同じなのはイヤホンジャックぐらいだが、なぜそっちは同じものでパソコンと繋ぐには一般的な企画とは違うものを採用したのか、航空業界に詳しくない未知からしても当然の疑問を抱く点だった。
不可解な現実に、手元から目を離して指を頬に立てて考える。そういえばいつの間にか横に寝ていた少女もいないし、周囲の人間もだいぶ起きていた。というかよく見れば、天井から酸素マスクが落ちてきていた。なにかしらのトラブルが起きたのか機内はだいぶ騒がしかったが、集中していたせいでまるで気づかなかった。
ふと、自分のノートパソコンのインジケータが目に止まる。クリックすると彼女がハッキングしようとしていたローカルネット、そこに見知らぬユーザーが表示されていた。いくら試しても航空機にはアクセスできなかったのにこれは何か、しばし考えて達した結論は、『自分と同じようにハッキングを試みた』という可能性だった。
慎重に辺りを見渡す。パソコンなりタブレットなりを操作する人間は、見つからない。目に入ったのは、小学校低学年ほどの女の子が妙な制服姿の女の子を機体の前部に案内するところだった。
そこでようやく、未知はこの飛行機にどれだけの人間がいるのかというところに発送が行き着いた。ついハッキングを優先してしまったが、よく考えれば自分のクラスメイトたちもいるかもしれない。いつものことをして落ち着くと、ようやく色々なことに気がつくようになるものである。
まずは、先頭から調べるか。女の子たちの後を追うように、未知は前へと歩き始めた。
(今のは明らかに魔法……でもなにも呪文を言わなかった?)
明らかにエスニックな服装の金髪の少年が目にしたのは、空飛ぶカツラだった。あの黒いカツラである。突然突風が吹いたと思ったら、それが一人のオジサンの頭から離陸したのである。
そのまごうことなき超常現象を前にして少年、ファリードが抱いたのは驚愕でも困惑でもなく、どうやって?という好奇心であり探究心であった。
ファリードは宮廷魔術師だ。砂漠の国はシェーラザード王国の、姫君シェーラの幼馴染みであり、国を滅ぼされたあとは彼女の第一の臣下であった。と書くと仰々しいが、ようはお姫様と年が近くて魔法が使えるから宮廷に出入りしているといったところだ。実際問題、彼の魔法使いとしての実力は若年というのもあって『いまいち』と言われてしまう程度のものである。第一の臣下、というのも彼とシェーラしか生き残りがいないのだから当然を超えた当然の話だ。
決して頭は悪くなく性格も良いのだが、なにか天運というものに少し嫌われているのか、代わりに悪運ばかり強くさせられたのか、そのいまいちパッとしないところは本人も自覚があって、自分が目覚めた時にまるで知らない場所にいたのにはしばし硬直したが、殺し合えと言われたことを思い出して気絶しかけていたあたり、やはりいまいちなのである。
だがそれで終わるようであれば、国を滅ぼされたお姫様と2人で旅をしたりしていない。予想外や理不尽はもう慣れた。というか予想外や理不尽の塊のようなシェーラと幼馴染みをやっているので、もうそのあたりは子供の頃から──と言っても今でも子供なのだが──慣れている。
大事なことは、適応だ。フィジカルとメンタルでどうとでもしてしまうシェーラと違って、彼が頼りにするのは、シェーラにはない知性と、諦めない根性である。ネガティブな考えはいくらでも湧いてくるが、自分1人しかいない以上はグッとこらえて、まずは周囲の観察から始めた。
そのまごうことなき超常現象を前にして少年、ファリードが抱いたのは驚愕でも困惑でもなく、どうやって?という好奇心であり探究心であった。
ファリードは宮廷魔術師だ。砂漠の国はシェーラザード王国の、姫君シェーラの幼馴染みであり、国を滅ぼされたあとは彼女の第一の臣下であった。と書くと仰々しいが、ようはお姫様と年が近くて魔法が使えるから宮廷に出入りしているといったところだ。実際問題、彼の魔法使いとしての実力は若年というのもあって『いまいち』と言われてしまう程度のものである。第一の臣下、というのも彼とシェーラしか生き残りがいないのだから当然を超えた当然の話だ。
決して頭は悪くなく性格も良いのだが、なにか天運というものに少し嫌われているのか、代わりに悪運ばかり強くさせられたのか、そのいまいちパッとしないところは本人も自覚があって、自分が目覚めた時にまるで知らない場所にいたのにはしばし硬直したが、殺し合えと言われたことを思い出して気絶しかけていたあたり、やはりいまいちなのである。
だがそれで終わるようであれば、国を滅ぼされたお姫様と2人で旅をしたりしていない。予想外や理不尽はもう慣れた。というか予想外や理不尽の塊のようなシェーラと幼馴染みをやっているので、もうそのあたりは子供の頃から──と言っても今でも子供なのだが──慣れている。
大事なことは、適応だ。フィジカルとメンタルでどうとでもしてしまうシェーラと違って、彼が頼りにするのは、シェーラにはない知性と、諦めない根性である。ネガティブな考えはいくらでも湧いてくるが、自分1人しかいない以上はグッとこらえて、まずは周囲の観察から始めた。
(船でしょうか。かなり大きいな、それに波もない、湖か港に泊まっている? それにこの内装は、どこかの王宮のヨットかな。それに、これは……)
銃、だろうか。ファリードは手に取ることなく、少し離れた椅子の上にある筒を見た。ファリードとて大砲ぐらいの知識はあるし、銃も手に取ったりしたことはないが知識はある。剣と魔法のアラビアンファンタジー世界の人間と言えど、火薬というのは存外古くからあるし、なんなら空を飛ぶ技術に関しては、同じ技術水準だった頃のアラビアより進んでいる。そもそも宮廷に出入りしていたのもあって彼は才士である。こうして1つ1つ自分のわかるものから情報を組み立てていくことで、彼は状況の把握に努めた。
まず第一に、シェーラはいない。これがわかっただけでだいぶ安堵できる。ファリードは席から一歩も立ち上がりすらしていないが、ハッキリとわかる。もしここにシェーラがいれば、とっくにこの船中に響く声で自分の名前を叫んでいるだろう。
(……今の今まで寝てたりしなければ。)
……さすがにそれは無いだろう。無いと信じたい。いややりかねない。
大いびきをかいて寝ているシェーラを想像して少し冷や汗をかくが、とにかくひとまず、いないということで話を進める。
第二に、ここには武器が置かれていて、また魔法が使える人間がいることだ。さっきの突風は無詠唱無動作だと思われる。予備動作ゼロで魔法が飛んでくることの恐ろしさは仮にも魔法使いであるファリードは痛いほど理解している。そして武器に関しては、もう無理だ。ファリードは剣すらまともに使えない、というか構えることすらできない。
大いびきをかいて寝ているシェーラを想像して少し冷や汗をかくが、とにかくひとまず、いないということで話を進める。
第二に、ここには武器が置かれていて、また魔法が使える人間がいることだ。さっきの突風は無詠唱無動作だと思われる。予備動作ゼロで魔法が飛んでくることの恐ろしさは仮にも魔法使いであるファリードは痛いほど理解している。そして武器に関しては、もう無理だ。ファリードは剣すらまともに使えない、というか構えることすらできない。
(ひめさま、遺書書いといたほうがいいでしょうか?)
第三に、子供が多く、その話す言葉がわからない。発音などから考えると、パイユイのような東方の民族だろうか? ともかく同年代の人間が多く、そして彼らは同じ言語を話す。
(……でも全員ではない。何人かは大人もいますし、言葉の通じない人もいるようですね。)
冷静に状況を分析していく。そして彼の出した結論は。
「…………ひめさま、先立つ不幸をお許しください。お腹出して寝ちゃ駄目ですよ。寝る前にはちゃんと歯を磨きましょうね。あと人から哀しい過去とか言われてもホイホイお金渡しちゃ駄目ですよ、それと……」
うわあこれは助かりませんねえ、たまげたなぁ。
自身のあまりに絶望的な状況にネガティブスイッチオン、現実逃避である。
冷静になると、いきなり拉致されて殺し合えと言われたら、もう助からないと思う。なんかこう、上手く頑張っても、妨害されそうだし。
自身のあまりに絶望的な状況にネガティブスイッチオン、現実逃避である。
冷静になると、いきなり拉致されて殺し合えと言われたら、もう助からないと思う。なんかこう、上手く頑張っても、妨害されそうだし。
「……あああと、えっと、これはいつか、そうですね、王国が元通りになったら言おうと思ってたんですが、その、身分違いだとは思うんですけどひめさまのことぎにゃあああああ!?」
これはもうダメかもわからんねと途方に暮れていたら、突如上から何かが降ってきた。思わず絞め殺される時の猫のような悲鳴を上げて卒倒しかける。それを強い心で耐えると、異様に高鳴る心臓を抑えつつ周囲を見渡した。
天井だ、天井からなんか紐のついた袋が落ちてきている。何だこれは、もしかして殺し合えと言っているのに殺し合わないから、なんかこうモンスターとかトラップとか作動させたのか。とりあえずドギマギしつつ観察すると、意外と周囲の人間は戸惑いはすれどもまだ落ち着いているようだ。
そしてしばらくすると、彼らの動揺も収まっていった。何か話していると冷静になっていったので、彼らの民族にはわかる現象らしい。
天井だ、天井からなんか紐のついた袋が落ちてきている。何だこれは、もしかして殺し合えと言っているのに殺し合わないから、なんかこうモンスターとかトラップとか作動させたのか。とりあえずドギマギしつつ観察すると、意外と周囲の人間は戸惑いはすれどもまだ落ち着いているようだ。
そしてしばらくすると、彼らの動揺も収まっていった。何か話していると冷静になっていったので、彼らの民族にはわかる現象らしい。
「……それって不公平じゃありません? 何人かまだわかってない人たちいますよ?」
どうやらこの殺し合い、謎の東方民族に有利なようにできているらしい。そういえば彼らはこのよくわからない船にもさほど不思議がっていないようだ。それに彼らは銃にも精通しがちに見える。先からふわふわしたことばかり言っているなとファリードは自嘲するが、本当に情報が無さ過ぎてこれが限界だ。
「情報がないというか、それをわからないだけですね。こんなことならもっと色々学んでおけば……いやいやこんなの学びようが……」
またネガティブに独り言が出てくるが、それで何か良くなるわけでもないので、適当なところで切り上げる。愚痴や卑屈は一種のメンタルケアだ。途中で女の子たちが水の入ったよくわからん容器をくれたので、どうにか見様見真似で開けて飲んで一息つく。そうしてまた冷静さを取り戻すと、ファリードは改めて考える。
とにかく、殺し合いに乗りそうな人はいない、と。
これまでファリードが長々と考える余裕があったことがそれを証明している。殺し合えと言われて、殺し合いの武器もあって、魔法使いもいるのに、誰も口火を切らない。それが計算なのかなんなのかはわからないが、これはいい。ファリードとしては戦闘になったら相手が本当に無力な子供でも無ければまず勝てない。一応これでも最低限の心得はあるが、『走って逃げる』というそれがどこまで通用するか。魔法使いなので何をするにもワンテンポかかるのだ。喧嘩になったらその間に殴り飛ばされて終わりである。殺し合いならなおさらだ。
とにかく、殺し合いに乗りそうな人はいない、と。
これまでファリードが長々と考える余裕があったことがそれを証明している。殺し合えと言われて、殺し合いの武器もあって、魔法使いもいるのに、誰も口火を切らない。それが計算なのかなんなのかはわからないが、これはいい。ファリードとしては戦闘になったら相手が本当に無力な子供でも無ければまず勝てない。一応これでも最低限の心得はあるが、『走って逃げる』というそれがどこまで通用するか。魔法使いなので何をするにもワンテンポかかるのだ。喧嘩になったらその間に殴り飛ばされて終わりである。殺し合いならなおさらだ。
(……それにしても、あんな小さな女の子まで。彼女が生き残れるはずなんて……あっ、でも言葉が通じてそうだし、結構なんとかなるのかも。)
この場で唯一自分がまず勝てそうな相手を見て落ち着こうとするが、その女の子にも仲間らしき女の子がいてちょっと凹む。同年代の女の子なので戦いになれば五分だろうが、それは半分の確率で殺されることを意味する、それにあの小さな女の子の分こっちが不利だ。同い年でもみ合っているところにナイフで襲いかかる、なんてされれば、それが10歳だろうと5歳だろうとなすすべ無く殺される。
(あっ、もう1人仲間増えた。)
女の子たちの後を追うように歩き出したまた別の女の子──影ノ裏未知を見て、ファリードは天を仰いだ。
(……予想はしてたけど、まあ、いるよね。)
コックピットの前に人だかりができている。それに近づいていた宝生麗は、クラスメイトの蛇野杏奈がいるのを見て踵を返して元の席に戻った。
麗はこの航空機の中にやたら何人もいる元デスゲーム参加者だ。彼女の場合は命は取られないとはいえ、ネットの利用不可というこの高度情報化社会において著しく生活に支障が生まれるペナルティをかけて戦ったのだが、幸いにして負けたにも関わらひとまずそれはチャラになったはずだった。
はずだと思ったら今度はマジで命がけである。話が違う。理不尽すぎる。
麗はこの航空機の中にやたら何人もいる元デスゲーム参加者だ。彼女の場合は命は取られないとはいえ、ネットの利用不可というこの高度情報化社会において著しく生活に支障が生まれるペナルティをかけて戦ったのだが、幸いにして負けたにも関わらひとまずそれはチャラになったはずだった。
はずだと思ったら今度はマジで命がけである。話が違う。理不尽すぎる。
(銃は落ちてるしなんか侍いるし……はぁ。)
いつものお嬢様然とした雰囲気が剥がれそうになる。宝生コンツェルンの一人娘。学園のお姫様なセレブオブセレブ。普通の中学一年生よりは人生経験豊富だが、バトロワでそんなもんが何の役に立つというのか。
「あ、麗ちゃん。どうだった?」
「新八くんっ。それが……」
「新八くんっ。それが……」
というわけでまずはお人好しそうで最低限戦えそうなメガネを仲間にした。名前は志村新八というらしい。剣道やってるのにメガネなのはどうかと思うが、背に腹は替えられない。なにせ他の候補が飛行機の中でタバコを吸うバカである。あるいは言葉の通じないファンタジーキャラにパーティー入りを打診するか?
(トモダチゲームよりはマシ……かな?)
あっちもあっちでクラスメイトで足を引っ張り合い、地味に痛い電撃を喰らったりもしたが、まだこっちの方が知り合いがいないぶんちょっと気が楽だ。友人の嫌な面や汚い本性なんて見たくない。いや1人いるか、アイツはこの場でもまず殺し合いに乗る。警戒はしておかなければならない。まさか人殺しなんて、とトモダチゲームの前までなら考えていたが、人間というのは割と一線を越えてしまえるのだと身を持って実感している。
「それにしても、宇宙人なんて……」
そして麗が気になって仕方ないことがある。とりあえず前の方の状況の共有が終わると、話は新八の世界のこととなった。
(いくら総理大臣でも殺し合いは開けないだろうけど、異世界人に宇宙人ならなんでもありね。)
トモダチゲームでは主催者が総理大臣だった。だからわかるが、さすがに飛行機1機飛ばしてそこで殺し合いは隠蔽しきれなくないか。そんな彼女の推察への簡単な答えを新八はもたらしてくれた。
新八は、宇宙人によって開国させられた江戸時代の人間なのだ。
新八は、宇宙人によって開国させられた江戸時代の人間なのだ。
(……前の方に、妖精っぽいのとかいたし、なんかゲームに出てきそうなのもいたし……)
もう麗の常識やら観念はガバガバどころかスカスカである。そうなったら逆にスポンジのように情報が入ってくる。そんだけなんでもありなんだ、そりゃパラレルワールドとかタイムワープとかで殺し合いの準備を整えられるのもいるだろう。なんなら、トモダチゲームもその一貫に思えてくる。でなければ総理大臣がセレブ学校の中学生にデスゲームさせたりできないだろう。
(とにかく情報を聞かせてもらわないと。)
いつ主催者たちが働きかけて状況が動くかわからない。それまでに何か有益な話を聞いておかなければと麗は頭を巡らせた。
「しかし、凄まじい技術だ。チュルナイのような清潔さだけでなくこんな仕掛けまであるとは。」
しげしげという言葉が正に当てはまるように、髭面の男が酸素マスクを手に取り感心の声を上げる。
「それで、なんなのこれ?」
「全然わからん。」
「なにそれ。」
「全然わからん。」
「なにそれ。」
そんな男に呆れたように言うのは、美しい翠の髪の少女だ。艷やかな黒髪は機内の照明により、弾けるように翠の光を反射する。その美しい髪と合わせて見る者の目を留める美少女なのだが、周囲の人間は彼女の美貌よりも、彼女の服装に、そして臭いに目と鼻が行っていた。
草いきれという言葉があるように、草むしを30分でもしていればその臭いは体に染み付く。自然の臭いというのは存外強いものなのだ。そんなものに日常的に触れていれば、現代社会では嗅がない体臭になるのは必然である。
そしてその風貌。ジャスミンはまだそういうファッションと受け取られるかもしれないが、バルダは完全に旅人である。現代社会のではない。ファンタジーゲームのだ。
マントに剣と明らかに異質なその姿はいやがおうにも目立っていた。ハッキリ言って不審者である。そんな彼が注目されていないのは、ジャスミンという比較的マトモそうと判断された人間とコミュニケーションしているのが1つ。そしてもう1つは。
草いきれという言葉があるように、草むしを30分でもしていればその臭いは体に染み付く。自然の臭いというのは存外強いものなのだ。そんなものに日常的に触れていれば、現代社会では嗅がない体臭になるのは必然である。
そしてその風貌。ジャスミンはまだそういうファッションと受け取られるかもしれないが、バルダは完全に旅人である。現代社会のではない。ファンタジーゲームのだ。
マントに剣と明らかに異質なその姿はいやがおうにも目立っていた。ハッキリ言って不審者である。そんな彼が注目されていないのは、ジャスミンという比較的マトモそうと判断された人間とコミュニケーションしているのが1つ。そしてもう1つは。
「まずいな、武器を集めていることが伝わっていない。」
彼から少し離れたところで少女たちと剣を向け合っている、はしばみ色の髪の少女に注目が集まっているからであった。
バルダは見てくれは浮浪者のおっさんだが、その実はデルトラ王国はデル城の元衛兵である。なので子供たちが武器を集めていることも、その理由も言葉通じずとも粗方わかり率先して剣を差し出したのだが、どうやらあのお嬢さんはそのあたりの事情を全く飲み込めていないらしい。いくら言葉が通じずとも平静さを失っていようとも、戦士として仕えていれば武器を預かられる場面もあるので察せそうなものだが、全くその気配は無い。
そもそも、バルダから見てその少女は不自然だった。それなりに使っている感じのする鎧こそ身に着けているが、下はミニスカートだ。防御力が上半身に比べて下半身が貧弱すぎる。武器もおそらくはショートソードに、折りたたみ式のクロスボウだろうか。携帯性には優れるが、実用的かは疑問が残る。無いよりはマシ、といったところか。全体的にチグハグだ。服装などからある程度旅慣れているとわかるが、どうにも素人臭さが抜けていない。これなら彼女が10人いても、旅に出たばかりのリーフ1人で返り討ちだろうなとバルダは思った。
バルダは見てくれは浮浪者のおっさんだが、その実はデルトラ王国はデル城の元衛兵である。なので子供たちが武器を集めていることも、その理由も言葉通じずとも粗方わかり率先して剣を差し出したのだが、どうやらあのお嬢さんはそのあたりの事情を全く飲み込めていないらしい。いくら言葉が通じずとも平静さを失っていようとも、戦士として仕えていれば武器を預かられる場面もあるので察せそうなものだが、全くその気配は無い。
そもそも、バルダから見てその少女は不自然だった。それなりに使っている感じのする鎧こそ身に着けているが、下はミニスカートだ。防御力が上半身に比べて下半身が貧弱すぎる。武器もおそらくはショートソードに、折りたたみ式のクロスボウだろうか。携帯性には優れるが、実用的かは疑問が残る。無いよりはマシ、といったところか。全体的にチグハグだ。服装などからある程度旅慣れているとわかるが、どうにも素人臭さが抜けていない。これなら彼女が10人いても、旅に出たばかりのリーフ1人で返り討ちだろうなとバルダは思った。
「そういえば、ナイフはどうした? 出さなかったが。」
「出すわけないじゃない。そこら辺に落ちてたガラクタ渡したら納得して帰ったわ。」
「この要領の良さが、あのお嬢さんにもあったらな。」
「出すわけないじゃない。そこら辺に落ちてたガラクタ渡したら納得して帰ったわ。」
「この要領の良さが、あのお嬢さんにもあったらな。」
孤児として生きてきたジャスミンのタフさが規格外とはいえ、このぐらい機転を利かせてくれたらと思うが、剣を向け合う少女たちの剣呑さは増していく。いざとなれば止めるが、できればそれは避けたい。バルダとて自分の場違いさは理解している、ここで自分が動くことは一時の騒動を収められても混乱の元となる。なのでどうにか丸く収まってくれと思っているが、残念なことに難しそうだ。やるしかないか、覚悟を決めて立ち上がろうとした彼の前を、1人のモジャモジャ頭が通って行った。
「モジャモジャね。」
割と人のことを言えたもんではないジャスミンが、自分のことを棚に上げて言う。しかしながら確かにそれほどまでにとんでもない髪の少女が、件の少女たちの間へと入っていった。モジャモジャすぎる、モジャモジャさの次元が違う、まるで金属たわしだ。そしてその服装。行き倒れからスカベンジしているジャスミンは一目で、そのモジャモジャが自分と同じように服を手に入れてきたのだろうと察した。ジャスミンは裁縫ができるので仕立て直して動きやすい服装にしているが、おそらくは年下であろうモジャモジャにはそこまでのことはできないのであろう。靴も左右バラバラで、ひどい有様である。だがジャスミンと違い、バルダはモジャモジャに違和感を覚えていた。彼女はただの孤児ではない。その服装は存外清潔で、また来ている服の仕立ても意外と良い。おそらくはそれなりに文化的な街で人から貰った物を身に着けているのではと、下男に身を窶していた時の経験から考えた。
しかし彼らの目を引いたのは容姿だけでは無かった。進み出た少女ははしばみ色の髪の少女の前に立つと、じっとその目を見つめたのだ。その動きに、ジャスミンは己と同じものを感じた。あれは己が自然と対話する時の姿勢だ。言葉ではなく心で理解する為の姿勢、それを彼女は持っていると。
それを示すように、剣を構えていた少女は膝を少し折って彼女と目線を合わして、会話を始めた。お互いの言葉は通じないようだが、しかし心で通じ合うことはできる。そうして小一時間の対話の後、2人は握手した。武器を外して預けるのを見て、バルダは感心する。もっと早く気づけとも思ったが、ともかく一件落着だ。と、横のジャスミンが立ち上がると少女達へと歩いていった。
しかし彼らの目を引いたのは容姿だけでは無かった。進み出た少女ははしばみ色の髪の少女の前に立つと、じっとその目を見つめたのだ。その動きに、ジャスミンは己と同じものを感じた。あれは己が自然と対話する時の姿勢だ。言葉ではなく心で理解する為の姿勢、それを彼女は持っていると。
それを示すように、剣を構えていた少女は膝を少し折って彼女と目線を合わして、会話を始めた。お互いの言葉は通じないようだが、しかし心で通じ合うことはできる。そうして小一時間の対話の後、2人は握手した。武器を外して預けるのを見て、バルダは感心する。もっと早く気づけとも思ったが、ともかく一件落着だ。と、横のジャスミンが立ち上がると少女達へと歩いていった。
「ジャスミン。」
「モモ。」
「会話が早い……!」
「モモ。」
「会話が早い……!」
驚くバルダをよそに2人は即行で握手した。そのまま見つめ合う2人は、頷きあう。何か通じるものがあったのだろうということしかバルダにはわからないが、とにかくよしだ。敵ではないのだから。
そうして始まる情報交換、まるで互いの言葉が分かるかのようにコミュニケーションする2人に、バルダはもちろんはしばみ色の髪の少女も驚くばかりである。そうして一通り2人が話していると、そこにこれまた言葉の通じなさそうな文化圏の違う服装の少年が現れる。おそらくは砂漠の民だろうとバルダは目星をつけると、ジャスミンに手招きされた。情報共有のフェーズである。
そうして始まる情報交換、まるで互いの言葉が分かるかのようにコミュニケーションする2人に、バルダはもちろんはしばみ色の髪の少女も驚くばかりである。そうして一通り2人が話していると、そこにこれまた言葉の通じなさそうな文化圏の違う服装の少年が現れる。おそらくは砂漠の民だろうとバルダは目星をつけると、ジャスミンに手招きされた。情報共有のフェーズである。
「こっちがモモ、大きな街で兵隊から襲われて逃げてたら巻き込まれてたらしいわ。こっちがパステル、7人のパーティで動いてて、やっぱり巻き込まれたって。こっちがファリード、シェーラって人を探してるみたいね。やっぱり殺し合いについては知らないって。」
「凄まじいな、その感覚。」
「凄まじいな、その感覚。」
全く感嘆するしかない。動物と話せるのは目にしたが、異邦人とも話せるとは。人間も動物だからなのか、同じ人間同士むしろできるのか。なんだか知らんがとにかく良しということにする。
そうして話していると、更に人が寄ってくる。人が人を集めるものだなとバルダは思ったが、実のところは違う。この時、この日本語がわからない5人の知らないところで大きな問題が話し合われていたのだ。
特徴的な耳飾りを着けた、黒と緑のチェック模様のマントを羽織った少年はこう言った。「この飛行機を、着陸させるか多数決で決めよう」と。
そうして話していると、更に人が寄ってくる。人が人を集めるものだなとバルダは思ったが、実のところは違う。この時、この日本語がわからない5人の知らないところで大きな問題が話し合われていたのだ。
特徴的な耳飾りを着けた、黒と緑のチェック模様のマントを羽織った少年はこう言った。「この飛行機を、着陸させるか多数決で決めよう」と。
「まいったなぁ、言葉が通じないぞ。」
「ジャスミン、わかるか?」
「この船を、港に泊める? そんな感じのことを言っているわ。」
「ジャスミン、わかるか?」
「この船を、港に泊める? そんな感じのことを言っているわ。」
竈門炭治郎の言葉を真に理解したものは、このパーティにはいなかった。
「タバコを吸った人がいたみたい。」
「わかった。」
「わかった。」
コックピットの前、未知からの言葉に紅月圭ことケイは、顔を上げずにドアのハッキングを続けようとしていた。
未知が見つけた他のハッカーのうちの1人、それがケイだ。他にも数名のハッカーがコックピットへの突入を図っている。OSの違いという抗いがたい壁をなんとかできないかと試行錯誤をしている。ケイ以外は。そのケイ以外というのが未知がケイのそばにいる理由だ。
未知が見つけた他のハッカーのうちの1人、それがケイだ。他にも数名のハッカーがコックピットへの突入を図っている。OSの違いという抗いがたい壁をなんとかできないかと試行錯誤をしている。ケイ以外は。そのケイ以外というのが未知がケイのそばにいる理由だ。
「大丈夫?」
「……ああ。」
「……ああ。」
全く大丈夫でない声で返事をするケイ。この男、乗り物全般皆目駄目なのだ。
そのあんまりな具合の悪さに、ハッキングに見切りをつけた未知は介抱することを選んだ。同じタイプだからわかる、こちらから一歩踏み出しても人に頼ろうとしないのだ。ハッキングに長じる小中学生というのは得意なことや価値観や趣味までにかよるようで、ケイの他にもフード付きの服にヘッドホンをしたイケメンがいたりする。そしてハッカーたちはだいたい皆、協調性というか、コミュニケーションに難がある。彼らを見ていると、自分も周りからこんなふうに思われているんだろうなと未知はぼんやり思った。
その後、結局ドアは炭治郎がぶち抜いた。ケイ含めハッカー達は何とも言えない顔をしていたが、早々に無理だと諦めていた未知に驚きは無い。むしろこれでコックピット内のコンピューターからアクセスできるといち早く中へ入る。
一方のケイはというと、それまで自分を介抱してくれていた未知の関心がすっかり移ったのもあって、ドアの突破の際に出会った少女、吉田歩美から情報を聞き出せないかと──
そのあんまりな具合の悪さに、ハッキングに見切りをつけた未知は介抱することを選んだ。同じタイプだからわかる、こちらから一歩踏み出しても人に頼ろうとしないのだ。ハッキングに長じる小中学生というのは得意なことや価値観や趣味までにかよるようで、ケイの他にもフード付きの服にヘッドホンをしたイケメンがいたりする。そしてハッカーたちはだいたい皆、協調性というか、コミュニケーションに難がある。彼らを見ていると、自分も周りからこんなふうに思われているんだろうなと未知はぼんやり思った。
その後、結局ドアは炭治郎がぶち抜いた。ケイ含めハッカー達は何とも言えない顔をしていたが、早々に無理だと諦めていた未知に驚きは無い。むしろこれでコックピット内のコンピューターからアクセスできるといち早く中へ入る。
一方のケイはというと、それまで自分を介抱してくれていた未知の関心がすっかり移ったのもあって、ドアの突破の際に出会った少女、吉田歩美から情報を聞き出せないかと──
「うわあ、すごい汗! 大丈夫ですか?」
「ああ、僕は、平気だ……」
「ぜんぜん平気じゃない!」
「ああ、僕は、平気だ……」
「ぜんぜん平気じゃない!」
もとい彼女に介抱されていた。年下の未知の次は、更に年下の歩美に助けられるとは。我ながら情けないが、駄目なものは駄目なのだから仕方がない。今のコンディションではとてもではないがハッキングに貢献できない自覚はあるので、大人しくなすがままにされる。ただでさえ迷惑をかけているのに、安いプライドで駄々をこねるのはあまりにもあんまりだ。
歩美が連れてきてくれたお嬢さまっぽい少女が合流したので、まずは挨拶だ。何分名前すら知らない人間ばかりなので、自己紹介からスタートとなる。これがハッカー同士だとまず互いの進捗が話題になるのだが、あれは世間一般ではおかしいことだという自覚はケイにもあった。そしてこれから聞くことが全く非常識であることも。
「ところで、2人とも、今日は何日だ?」
まずは2人が同じ世界の人間かの確認だ。これまでの調査で、ほぼ全員がバラバラの日本からこの飛行機の中に詰め込まれたことが明らかになっている。何名かはそもそも日本でなかったりもしたが、とにかく互いが別世界の人間だという前提は共有しておきたい。
知世の持つカメラが知らないメーカーなので予想はついていたが案の定2人ともどこか違ったパラレルワールドの出身なので、そのことを説明する。その時のリアクションに注目する。このファンタジーな説明を受けた2人のリアクションは。
知世の持つカメラが知らないメーカーなので予想はついていたが案の定2人ともどこか違ったパラレルワールドの出身なので、そのことを説明する。その時のリアクションに注目する。このファンタジーな説明を受けた2人のリアクションは。
「まあ。」
「パラレルワールド?」
「パラレルワールド?」
……なんだろう、いまいちわからない。歩美はともかく、知世は掴みどころがなさすぎる。普段ならもう少し観察眼もあっただろうが、具合の悪さでそれどころではない。不甲斐なさからせめて何か手がかりはないかと目を凝らすが、それでなんになると自分でも思う。しかし。
「そのボタン……」
「はい?」
「そのカメラのボタン、見せてくれないか。」
「はい?」
「そのカメラのボタン、見せてくれないか。」
知世の持つカメラ、そこに書かれた文字から、もしかしてとボタンを見させてもらう。割と一般的な作りだろう。そう、一般的なのだ。ケイは急いで未知を呼んでもらった。たしか彼女はコックピット内のコンソールに書かれた文字を読めず悪戦苦闘していた。ならさっきの恩返しをさせてもらおう。
「どうしたの?」
「ボタンの位置が同じだった……」
「……?」
「キーボードの配列……101じゃないか?」
「ボタンの位置が同じだった……」
「……?」
「キーボードの配列……101じゃないか?」
未知の顔色が変わった。ケイの言うことはつまり、一見異世界の為にケイや未知の知るキーボードとは別の法則のように見えて、その実同じ配列で文字だけ異なるのではないかということだ。
もしやそれぞれの日本の分岐点はある程度絞り込めるのでは、そうも思ったが今は置いておく。大切なことは、これで謎のキーボードから単なる知らない文字のキーボードに変わったということだ。
未知は深く頷くと小走りで戻って行った。これでいい。これで前に進む。
満足気に微笑むケイは静かに目を閉じた。
もしやそれぞれの日本の分岐点はある程度絞り込めるのでは、そうも思ったが今は置いておく。大切なことは、これで謎のキーボードから単なる知らない文字のキーボードに変わったということだ。
未知は深く頷くと小走りで戻って行った。これでいい。これで前に進む。
満足気に微笑むケイは静かに目を閉じた。
「ううんどういうことなんでしょう。」
そしてそれを見ていたファリードは困惑していた。
先から感じているが、自分の知らないところでドンドン状況が進んでいるようだ。まああの少年に関しては、シェーラのように美しい黒髪を持つ少女も、その少女と一緒に介抱していた少女も、揃ってキョトンとしているようだが、それはつまり言葉が同じ人間であっても状況について行けていないということである。だったら、ファリードが分からなくても仕方ない本当に仕方ない、そう開き直れれば楽なのだが、ファリードはその辺り面倒な性格をしているので危機感ばかり募っていく。好転する兆しなのか悪化する前触れなのか、何一つとしてわからない。
あまりにもどうしようもないので、ファリードは席から立ち上がると機内を歩き出した。考えを纏めるのに少しは歩いたほうが座りっぱなしよりマシというのもあるが、何か異常がないかを自分で確かめる他ないというのが主な理由だ。実は自分の知らない間にもう殺し合いは起きてました、なんてことになったら目も当てられない。あと単にトイレ行きたい。
先から感じているが、自分の知らないところでドンドン状況が進んでいるようだ。まああの少年に関しては、シェーラのように美しい黒髪を持つ少女も、その少女と一緒に介抱していた少女も、揃ってキョトンとしているようだが、それはつまり言葉が同じ人間であっても状況について行けていないということである。だったら、ファリードが分からなくても仕方ない本当に仕方ない、そう開き直れれば楽なのだが、ファリードはその辺り面倒な性格をしているので危機感ばかり募っていく。好転する兆しなのか悪化する前触れなのか、何一つとしてわからない。
あまりにもどうしようもないので、ファリードは席から立ち上がると機内を歩き出した。考えを纏めるのに少しは歩いたほうが座りっぱなしよりマシというのもあるが、何か異常がないかを自分で確かめる他ないというのが主な理由だ。実は自分の知らない間にもう殺し合いは起きてました、なんてことになったら目も当てられない。あと単にトイレ行きたい。
「これがトイレなんですか!? なんですかこのめちゃくちゃきれいなのは!?」
そしてトイレにツッコむことに。トイレの綺麗さにすら圧倒されてしまう。本当にトイレなんだろうか、なんだかオシャレなイスなんじゃないだろうかと思うが、僅かな汚れからきっとこれはトイレだと信じて座る。それにしてもキレイだ、本当にこれに用を足していいのか? 未開の原始人と笑われないか? 逡巡する中でうっかりビデをポチッ。
「はうっ!?」
金玉に直撃した温水に飛び上がる。何だこれは、もしや肛門専用のシャワーなのか。いやなんだそれは、いくら文化的でもそんなもんは作らないだろうと、飛び出して床にこぼれた水を拭きながら思う。
なんとかトイレを出ると、ファリードはそそくさと歩き出した。トイレ一つでこれでは我ながら先が思いやられる。とりあえず水でも飲んで落ち着こうとしていると。
なんとかトイレを出ると、ファリードはそそくさと歩き出した。トイレ一つでこれでは我ながら先が思いやられる。とりあえず水でも飲んで落ち着こうとしていると。
「おや? 違う言葉?」
今までとは違うタイプの言語が聞こえてきた。なにやらモジャモジャ頭の少女が、鎧姿の少女と話している。どうやら彼女たちも異国の民なのだろうが、それにしては使う言葉が違う気がする。
これは、もしかしたらチャンスなのでは。ファリードに天啓走る。今まで自分の言葉が通じそうな人はいなかったが、きっと彼女たちはキャラバンか何かで、言葉の通じない相手とのやり取りに長けているのだろう。そう考えると、年長の方の少女の姿にも納得がいく。なんで上半身は鎧なのに下はミニスカートなんだと思ったが、おそらくあれはロバやラクダに乗る際のことを考えてのものではないか?
ファリードの名推理が当たっているかはさておいて、彼はこのあとようやくコミュニケーションが可能になる。
これは、もしかしたらチャンスなのでは。ファリードに天啓走る。今まで自分の言葉が通じそうな人はいなかったが、きっと彼女たちはキャラバンか何かで、言葉の通じない相手とのやり取りに長けているのだろう。そう考えると、年長の方の少女の姿にも納得がいく。なんで上半身は鎧なのに下はミニスカートなんだと思ったが、おそらくあれはロバやラクダに乗る際のことを考えてのものではないか?
ファリードの名推理が当たっているかはさておいて、彼はこのあとようやくコミュニケーションが可能になる。
機内食というものを食べるのは初めてだ。新八は少し緊張しながら口をつける。僅かだが、毒が盛られている可能性も考えて。
ボヤ騒ぎもしばらく前、相変わらず天井から垂れ下がる酸素マスクが鬱陶しい他は、機内は平穏に包まれていた。この飛行機には割と食料が積まれていたようで、少なくとも餓死するより燃料切れで墜落する方が早いという、喜んでいいんだか悪いんだかわからないが、とにかく暖かくて美味しいものを食べられれば少しは気も楽になるというものだ。それに横に美少女がいればなおさらである。
ボヤ騒ぎもしばらく前、相変わらず天井から垂れ下がる酸素マスクが鬱陶しい他は、機内は平穏に包まれていた。この飛行機には割と食料が積まれていたようで、少なくとも餓死するより燃料切れで墜落する方が早いという、喜んでいいんだか悪いんだかわからないが、とにかく暖かくて美味しいものを食べられれば少しは気も楽になるというものだ。それに横に美少女がいればなおさらである。
「新八くんも、反対にいれたの?」
「そうだね、さすがに小学生が操縦するのは怖いよ。」
「そうだね、さすがに小学生が操縦するのは怖いよ。」
この飛行機で出会った美少女、麗は同居人の神楽と同い年とは思えない落ち着きを持ったお嬢さまだった。今までの人生でお近づきになったことのないタイプに、思わずドギマギしてしまう。まあドギマギしているのには先の投票もあるのだが。
どうやら、何人かハッキングできる小中学生がいたとかでこの飛行機の自動操縦が可能になったらしい。その事自体にもツッコみたいところだが、問題はこの飛行機は自動操縦で飛んでいて、いつかは燃料切れで落っこちるということだ。
このことが殺し合いの動機を無くしていた。殺そうが殺さなかろうが、ようはパイロット不在の飛行機に載せられているのである、最後は墜落しなかい。あるいは生き残れば自動操縦で安全に着陸させてくれるのかもしれないが、『かもしれない』だ、なにも保証が無い。となればハッカーが頑張って着陸させるのを待つと言うのが逆に現実的なレベルである。そのハッカーが小中学生でなければ。
どうやら、何人かハッキングできる小中学生がいたとかでこの飛行機の自動操縦が可能になったらしい。その事自体にもツッコみたいところだが、問題はこの飛行機は自動操縦で飛んでいて、いつかは燃料切れで落っこちるということだ。
このことが殺し合いの動機を無くしていた。殺そうが殺さなかろうが、ようはパイロット不在の飛行機に載せられているのである、最後は墜落しなかい。あるいは生き残れば自動操縦で安全に着陸させてくれるのかもしれないが、『かもしれない』だ、なにも保証が無い。となればハッカーが頑張って着陸させるのを待つと言うのが逆に現実的なレベルである。そのハッカーが小中学生でなければ。
(土方さん達以外はコスプレしてる人と小中学生ばっかだからな、この飛行機。これで殺し合いってマガジンの編集部かよ。)
なお、新八はなんか見覚えのあるジャンプキャラを見かけたがコスプレだと判断していた。ジャンプキャラ以外にもどっかのパワハラで炎上してそうな出版社やどっかのセクハラで訴えられてる出版社のキャラがいたためである。福田組だからといって他所のキャラとの無許可クロスオーバーは許されないのだ。
(これボクのセリフじゃないですからね、スタッフが菓子折りもって謝りに行くようなネタ言ったりしないですからね!)
何かに祈る新八を心配そうに、実はまるでよそにして、横に座る美少女の麗はどう彼を説得するかを考えているのだが、それには気づかず目を瞑る。
実は麗、自動操縦の着陸の賛否では賛成に入れていた。この機内の均衡状態は、彼女からすれば砂上の楼閣に過ぎない。デスゲームを経験した彼女にはわかる、ここから主催者の動きがあると。
ゲーム開始から4時間。一般的な飛行機が飛ぶことのできる時間を考えると、そろそろイベントの一つでも仕掛けられるタイミングだ。その時、機内の各所に集められた武器を誰が取りに行こうとするのか目を離してはいけない。
実は麗、自動操縦の着陸の賛否では賛成に入れていた。この機内の均衡状態は、彼女からすれば砂上の楼閣に過ぎない。デスゲームを経験した彼女にはわかる、ここから主催者の動きがあると。
ゲーム開始から4時間。一般的な飛行機が飛ぶことのできる時間を考えると、そろそろイベントの一つでも仕掛けられるタイミングだ。その時、機内の各所に集められた武器を誰が取りに行こうとするのか目を離してはいけない。
(保険をかけておかないと。)
新八だけではダメだ。当初は殺し合いがすぐに起こると思って強さを基準に考えたが、彼だけではどうにも頼りない。やはり大人の男の人をキープしたい。その利己的な考えに自己嫌悪を覚えるが、そうでもしないと生き残れないという危機感は拭えるものではないのだ。
彼女の危惧は、2時間後に当たることになる。
彼女の危惧は、2時間後に当たることになる。
(織田信長だと……あの時のか?)
あの時ってどの時だよと思うだろうが、少年、狐屋コオリにはそう言う資格がある。
歴史ゴーストバスターズなんて不本意なチーム名をつけられたが、字消士という人を影から守る霊能者である彼は、ついこの間悪霊化した織田信長と相対したばかりなのだから。
歴史ゴーストバスターズなんて不本意なチーム名をつけられたが、字消士という人を影から守る霊能者である彼は、ついこの間悪霊化した織田信長と相対したばかりなのだから。
ゲーム開始から6時間。告げられた81人の死者。普通であれば真に受けない歴史上の人物の名も、彼には違って受け止められる。それらが悪霊だった場合、自分のような字消士や、あるいは似たような役目を持つなんらかの霊能者、または別の超常的な存在が相手というケースも考えられるからだ。
この飛行機に人外がいることはもちろん把握済みだ。それに正体のつかめない能力者も多い。例えば、外国人グループの中にいるムスリム。たしかファリードとか呼ばれていた彼からはおそらく近い気配を感じる。気がする。なにぶん字消士としては致命的なことに悪霊やらなんやらへの感知周りが死んでいるので、ぶっちゃけ詳しいことはわからない。彼の退魔は肉体派なのだ。そのせいで生傷は絶えず、何も無ければ美少年と言えそうな顔もまるで反社だ。加えて、ぶっきらぼうで率直で、家業のせいで人付き合いも悪い。疲れからか授業中にうとつくこともある。小学生にして札付きの不良などと人から誤解される要素役満である。
この飛行機に人外がいることはもちろん把握済みだ。それに正体のつかめない能力者も多い。例えば、外国人グループの中にいるムスリム。たしかファリードとか呼ばれていた彼からはおそらく近い気配を感じる。気がする。なにぶん字消士としては致命的なことに悪霊やらなんやらへの感知周りが死んでいるので、ぶっちゃけ詳しいことはわからない。彼の退魔は肉体派なのだ。そのせいで生傷は絶えず、何も無ければ美少年と言えそうな顔もまるで反社だ。加えて、ぶっきらぼうで率直で、家業のせいで人付き合いも悪い。疲れからか授業中にうとつくこともある。小学生にして札付きの不良などと人から誤解される要素役満である。
「真に受けないほうがいいと思うぞ、炭治郎さん。死んだ名前もあるなんて。」
「……コオリくん。」
「アイツらが本当の事を言う意味なんてない。」
「……コオリくん。」
「アイツらが本当の事を言う意味なんてない。」
そんなコオリが唯一この飛行機で知り合いと呼べるほどに言葉を交わしたのが、同じ業界の匂いを感じた炭治郎である。炭治郎の人柄もあり、人付き合いが不得手なコオリにしては異例とも言える短さで互いの来歴などを話し合えていた。もっとも、自分が字消士であることは伏せていたし、彼が大正時代の人間であるとかパラレルワールドから殺し合いの参加者が集められているという話は眉につばを付けて聞いていたが。
歩み寄ってくる人影を見つけると「お迎えだ」と会話を打ち切って窓の外に眼を向ける。あいも変わらぬ暗雲がどこまでも拡がる陰気な空だ。そんな雲海を眺めながら、ズボンにねじ込んだオートマのピストルを意識する。この場で殺し合いが起きた時、引鉄を引くのは自分だ、と。
自分の生まれに思うところがないわけではない。普通とは違う家に生まれ、普通とは違う仕事をしている。そのせいで戦う力がある。だからその引鉄は、誰かに引かせるのではなく、コオリが引かなければならない。そこに善悪は関係無く、あるのは目の前の命を守るために誰が血に濡れるべきかという問題だ。
歩み寄ってくる人影を見つけると「お迎えだ」と会話を打ち切って窓の外に眼を向ける。あいも変わらぬ暗雲がどこまでも拡がる陰気な空だ。そんな雲海を眺めながら、ズボンにねじ込んだオートマのピストルを意識する。この場で殺し合いが起きた時、引鉄を引くのは自分だ、と。
自分の生まれに思うところがないわけではない。普通とは違う家に生まれ、普通とは違う仕事をしている。そのせいで戦う力がある。だからその引鉄は、誰かに引かせるのではなく、コオリが引かなければならない。そこに善悪は関係無く、あるのは目の前の命を守るために誰が血に濡れるべきかという問題だ。
「炭治郎さん、コックピットに。」
たしかこの女の名前は、大道寺だったか? いや吉田? それとも渡辺だったか。炭治郎以外と自己紹介していないのでわからないが、ハッキングを担当している女子だったのは覚えている。頭のリボンが印象的で、その何を考えているのかわからない顔に、同じ女でもこれほど違うかと、どっかの歴女を思い出す。81人の中に、天照和子の名前は無かった。それは、この殺し合いに巻き込まれていないことを保証するのか?
隠し持ち続けたオートマは、既にすっかり体温で温められて、金属の冷たさで自己主張していた頃とは打って変わって静かだ。コックピットに呼ばれた炭治郎、機内に拡がる動揺、これから事態は大きく動く。その確かな予感がコオリにはある。
もう一度眼下に目を向ける。一条の稲光が走って消えていった。
隠し持ち続けたオートマは、既にすっかり体温で温められて、金属の冷たさで自己主張していた頃とは打って変わって静かだ。コックピットに呼ばれた炭治郎、機内に拡がる動揺、これから事態は大きく動く。その確かな予感がコオリにはある。
もう一度眼下に目を向ける。一条の稲光が走って消えていった。
「飛行機は初めてですか?」
わけがわからないといった顔で周囲を見渡し、つけたことのないシートベルトを見様見真似でつけようとして上手くいかないパステルに、知世は自分のシートベルトを外すと歩み寄って代わりにつけた。近くのモモにも同様につけると、体にかかるGがまた変わる。パステルは知世に礼を言うと、彼女トイレ代りで慌てた様子でファリードが戻ってきた。
『これはなんですか、ああ、これはベルトです、それはつけなくてはなりません、ああ、どうすればいいんですか。』
『このベルトはこうつけます。落ち着いて。そうです。落ち着いて。できました。』
『このベルトはこうつけます。落ち着いて。そうです。落ち着いて。できました。』
なんとかお互いの意思疎通をすると、パステルの横で無事にファリードはシートベルトを身に着けられ、横で見ていたモモも合わせて3人でホッと息をついた。
(どうか、無事に地面に降りられますように。)
あとできることといえば神頼みだけである。賽は投げられた。この飛行機を着陸させるか否かの投票。1票差で賛成多数となったということは、パステルが賛成を入れたのでなければあのまま飛び続けていられたのだから。
ギュッと手を握られる。己の手へ、そしてそれを掴む手を伝って、目に入るのはモジャモジャの髪の毛だ。彼女が話す言葉わからないが、その伝えようとするところはわかる。パステルを安心させようとしているのだと。
ギュッと手を握られる。己の手へ、そしてそれを掴む手を伝って、目に入るのはモジャモジャの髪の毛だ。彼女が話す言葉わからないが、その伝えようとするところはわかる。パステルを安心させようとしているのだと。
「ノル……」
ノルは巨人族の男だった。気は優しくて力持ち。それがノルだ。手先が器用で、動物の声を聴ける、繊細でありながらもタフな男。そんな彼はモモとはまるで似ても似つかない外見なのに、モモと重なる部分を多く持っていて、そんなノルの死が告げられたことが途方もなく悲しかったのだ。
パステルは冒険者だ。安全なクエストばかり選び、ダンジョンでも慎重策ばかり取っている、赤字ギリギリその日暮し同然の生活を送っている。それでも、いやそれだからこそ、明日をも知れぬ身ではなかった。もちろん命懸けのピンチやハプニングは日常茶飯事だが、だからこそそれへの備えもある。なんなら借金生活になりそうなほうが怖いぐらいだ。
ノルは死んだ。それは冒険者ならいつかは直面するであろう現実だった。だがその死は、パステルのまるで預かり知らぬところでのことだった。大勢の中の1人として、なんの弔いの気持ちもなく死者として読み上げられた。
そんなの、納得できない。
パステルは冒険者だ。安全なクエストばかり選び、ダンジョンでも慎重策ばかり取っている、赤字ギリギリその日暮し同然の生活を送っている。それでも、いやそれだからこそ、明日をも知れぬ身ではなかった。もちろん命懸けのピンチやハプニングは日常茶飯事だが、だからこそそれへの備えもある。なんなら借金生活になりそうなほうが怖いぐらいだ。
ノルは死んだ。それは冒険者ならいつかは直面するであろう現実だった。だがその死は、パステルのまるで預かり知らぬところでのことだった。大勢の中の1人として、なんの弔いの気持ちもなく死者として読み上げられた。
そんなの、納得できない。
『見えた、下です。』
ファリードの声に窓を向く。角度の問題でパステルからは見えないが、いつの間にか雲を抜けていたようだ。遠くにはネオンの光が見える。あれがどういう仕組みで光っているかは知らないが、あれだけの街の明かりだ、きっと進んだ文化的な街なのだろう。それならばこんなにも大きな物が空を飛ぶようにできるのも納得だ。窓から見える光の点が水平になっていく。そして体にかかる力の変化を感じる。地面だ、そう思ったのと、強い風に視界を奪われるのは同時だった。
「「キャアアアアアアッ!!」」
自分の喉から、両脇のモモとファリードから、そしてそこら中から悲鳴が響く。だがその声は、爆音でやられた耳にはくぐもって聞こえた。爆発だ!
「着いてきて、逃げるよ!」
まだ走ったままの状態でシートベルトを外すと、いち早く没収された武器へと駆ける。自分のショートソードにクロスボウ、それと近いからという理由で纏めてファリードが置いていた私物を掴むと、私物は彼へ投げつける。
「走って!」
この時のパステルの反応の早さが、その後の生死を分けた。
この飛行機で真っ先に動いたマーダーは妖怪であるカザンだった。動き出したタイミングはパステルよりなお早い、両翼の破壊の直後だ。
速攻でチョロ松を殺した彼は、機体前方へと猛スピードで駆けた。前方に妖怪がいるのは知っている、それにあの銀髪の男、はたけカカシ。奴は殺しておかなくてはならない。四足であることを活かして、バウンドと振動に襲われる機内を猛然と駆ける。そして見つけた。片目を負傷している。今が好機! だがその横にいるのは、炭治郎。しかし無手。ならば。
速攻でチョロ松を殺した彼は、機体前方へと猛スピードで駆けた。前方に妖怪がいるのは知っている、それにあの銀髪の男、はたけカカシ。奴は殺しておかなくてはならない。四足であることを活かして、バウンドと振動に襲われる機内を猛然と駆ける。そして見つけた。片目を負傷している。今が好機! だがその横にいるのは、炭治郎。しかし無手。ならば。
「なにっ、一の──」
迫るカザンに炭治郎は日輪刀を抜き放とうとして、手が空を切る。視界の奥、積まれた武器の山、その上に置かれた日輪刀、殺し合う気はないと率先して置いたそれとの距離は数メートル。
その数メートルが遠く、カザンの牙が炭治郎の左手を喰いちぎった。
その数メートルが遠く、カザンの牙が炭治郎の左手を喰いちぎった。
(遅かったか。)
反撃が来るな。カザンは撤退に移った。仕切り直しだ、カカシは不意討ちでなければ難しい。炭治郎相手に時間を食ったことに焦りを覚える。それでも身体は炭治郎へと向かう。まずはこいつを殺しておく。ないしは更なる深手を追わせて足手まといにしておく。今からカカシを襲っても勝ち目は薄いが、炭治郎を襲っていれば判断ミスを誘える。しかし。
(妖怪か。)
叫びながら迫る妖力。数では不利、分が悪い。足を止めた己に苛つきながらも、冷静に状況を判断する。炭治郎は刀を取り戻していた。潮時だ。
フットワークで翻弄して、一転後方を目指す。そんな彼に援護射撃を加えたのは、コオリだった。
フットワークで翻弄して、一転後方を目指す。そんな彼に援護射撃を加えたのは、コオリだった。
(やりやがったな!)
パァン、と破裂音が響いてオートマが火を吹く。コオリが状況を把握した時に目に映ったのは、カザンではなくその手前にいて以前から怪しんでいた珍獣たる金色の犬。彼が妖怪だとは知らないが、まずは全弾撃ち込み蜂の巣にすると、猛然と後方に駆け出し、炭治郎が刀を取ったのと同じ武器の山からショットガンを掴み上げた。
「もう一匹!」
狙うはカザンだ。コオリの実戦で鍛えられた目からは妖怪といえど逃れられない。手負いの獣は炭治郎たちになんとかしてもらうとして、今はフリーになっているやつを追わなくてはならない。なぜなら今やつはまさに、1人の少女に襲いかからんとしているのだから。
(イヌ!?)
「うわあっなんで襲ってくるんだあっ!」
「うわあっなんで襲ってくるんだあっ!」
カザンのターゲットになったのは、安全だからと機体の前部に移ってきた麗だった。本当は杏奈が気になっていたからだが、彼女の予想通り杏奈はマーダーだったし、その上カザンにまで狙われるハメになった。そこで新八である。この展開は読んでいた。犬は予想外だが、マーダーに襲われるならこのタイミングだろうと。
新八の肩口にカザンが噛みつくのを尻目に麗は後方へとダッシュする。こういう振る舞いは反吐が出るが、やらなければならないのならやろう。
新八の肩口にカザンが噛みつくのを尻目に麗は後方へとダッシュする。こういう振る舞いは反吐が出るが、やらなければならないのならやろう。
「な、これは……」
「火事だ!」
「火事だ!」
たしか紅月圭か。いや、大井雷太か? ファッションが似ているというのもあるが、この状況では区別がつかなくても無理はないだろう。なにせ機体から両翼が失われ、黒煙に包まれているのだから。
「土方さん、しっかりしてくれ! アンタじゃなかったらどうにもできないんだ!」
叫び声が未知の耳を打ち、ゆっくりと意識が覚醒していく。感じたのは、寒気だ。嫌に寒い。あと眠い。まあそれは寝起きだからだろう。あとなんかカカシとかいうふざけた名前の人が増えていた。これはあれか、寝ぼけているのか。
寒気が増す。いつの間にか機体には大穴が開いていた。そこから子供が1人、また1人と飛び降りて行く。それを未知はまどろみながら見ていた。なんとも非現実的な行為だ。そんなことをしてなんになるのか。やがて自分も、やたら増えたカカシの1人に抱きかかえられて、穴から飛び降りた。一瞬の浮遊感のあとの衝撃、それが意識を刈り取り、しかし闇に落ちる寸前でビンタされ、無理矢理叩き起こされた。
寒気が増す。いつの間にか機体には大穴が開いていた。そこから子供が1人、また1人と飛び降りて行く。それを未知はまどろみながら見ていた。なんとも非現実的な行為だ。そんなことをしてなんになるのか。やがて自分も、やたら増えたカカシの1人に抱きかかえられて、穴から飛び降りた。一瞬の浮遊感のあとの衝撃、それが意識を刈り取り、しかし闇に落ちる寸前でビンタされ、無理矢理叩き起こされた。
「チクショウ一酸化炭素中毒だ! 息を吐け! なんか酸素吸うやつとかないのか!」
「あるかそんなもん空港だぞ!」
「あるかそんなもん空港だぞ!」
時間はわずかに遡り黒煙立ち込める機内。バルダはようやく取り戻した剣で失神寸前の未知を助け出すべく、彼女のシートベルトを断ち切って抱え上げたところだった。
状況は悪い、最悪と言ってもいい。まずこれが船ではなく空を飛んでいた謎の乗り物であるところからして予想外だ。ついで発生した煙。もちろん吸ってはいけないとわかっていたが、そもそもシートベルトをしていなかったのもあって衝撃で弾かれた際にかすかに吸ってしまったか。
一酸化炭素は一吸いで運動に支障をきたし、二吸いで身動きが取れなくなる。なんとか態勢を低くして息を吐き、ようやく剣を震えるだろうというところまで持っていくのに数分、その数分で火災は深刻なものとなっていた。
状況は悪い、最悪と言ってもいい。まずこれが船ではなく空を飛んでいた謎の乗り物であるところからして予想外だ。ついで発生した煙。もちろん吸ってはいけないとわかっていたが、そもそもシートベルトをしていなかったのもあって衝撃で弾かれた際にかすかに吸ってしまったか。
一酸化炭素は一吸いで運動に支障をきたし、二吸いで身動きが取れなくなる。なんとか態勢を低くして息を吐き、ようやく剣を震えるだろうというところまで持っていくのに数分、その数分で火災は深刻なものとなっていた。
「バルダ、急いで!」
既にジャスミンは、謎の増殖した男の1人に抱えられて脱出するところだった。一瞬己の不覚を疑ったが、魔法か何かだと判断する。とにかく自分もと思うが、しかしそれは同じように脱出を図る子供たちの群れに邪魔される。広がるパニックに、下手に通路に出ては身動きが取れないと座席を跨いで近づこうとするが、それは黒煙に身を晒すことを意味する。バルダの脇を1人の少年、コオリがそれで力を無くしていくのを慌てて支えてバルダは叫んだ。
「構うな、行け!」
その叫びと、人の波に押されて2人の少女が落下していくのは同時だった。たしかパステルと睨み合っていた、そして食べ物を持ってきてくれた2人。そして彼女たちに続いて、ジャスミンまでもが。
「どいて!」
「ジャスミン!」
「ジャスミン!」
するりと抱きかかえていた男の腕から離れると、ジャスミンの姿が落下していく。それは何か考えがあってのことだとは思うが、しかしこの高さがどれだけのものかわからない。そしてそうこうするうちに、機体の後方へと人の流れが変わり始めた。何が起きた?
「こんなことなら、モモたちと離れるべきではなかった。」
分散していた方が何かトラブルが起きた時に全滅を避けやすい、そう思って座る位置を変えたが、そのせいで穴の前後で分断されてしまった。更に火災は主に後方から来ているようだ。ではなぜこのタイミングで後方への流れが生まれたか。パニックかそれとも。
「賭けるしかないか。」
バルダは未知とコオリを地面に伏せさせ、じっと熱と煙を耐える。後ろに進んで脱出できなければ戻ってくることはできない。生き残るには何が必要か、回らない頭で必死に考えたことが、彼らの脱出に繋がった。
(ライはさっき脱出できてた。ロボはコックピットに近いところにいたはず、なら無事だ、未知は後方か……それと。)
「圭くん、歩けますか?」
「ああ。」
「圭くん、歩けますか?」
「ああ。」
既に脱出できた人間は20名を超えていると認めて、ケイは知世の手を取って立ち上がった。
酸素マスクが使えなかったことは不運だが、それを含めても火災の発生は十二分に予想できていたことなので彼の反応は早かった。機体が止まり次第シートベルトを外し、シューターを展開する。そう何度も頭の中でシミュレーションを重ねた。
誤算は2つ、停止より先に動き出すマーダーと、外部からの攻撃だ。
ケイもカザンという犬の存在は理解していたが、そのカザンが大型化し高い知性を持って殺戮を行うなど予想だにしなかった。奴に実際襲われたことで、その脅威は嫌が応にも身に沁みた。いつの間にか滑走路に脱出していたかと思えば、一飛びで機内に戻って見せさえする。あんな跳躍力を持つ動物などいない。なんらかの生物兵器か?
更に予想外だったのは着陸のタイミングを狙った攻撃。滑走路の後方で燃える残骸と翼を失った飛行機から、ロケットか何かで狙い撃たれたと推察する。炎に照らされて光る帯は、捥がれた翼の断面から流れた燃料だろう。そのおかげで機体からは燃料が抜けたが、火災の原因なので喜べるはずも無い。しかもそこに複数の人間による襲撃も行われている。彼らが複数犯なのか単独犯なのかは不明だが、殺人者であることに変わりはない。
酸素マスクが使えなかったことは不運だが、それを含めても火災の発生は十二分に予想できていたことなので彼の反応は早かった。機体が止まり次第シートベルトを外し、シューターを展開する。そう何度も頭の中でシミュレーションを重ねた。
誤算は2つ、停止より先に動き出すマーダーと、外部からの攻撃だ。
ケイもカザンという犬の存在は理解していたが、そのカザンが大型化し高い知性を持って殺戮を行うなど予想だにしなかった。奴に実際襲われたことで、その脅威は嫌が応にも身に沁みた。いつの間にか滑走路に脱出していたかと思えば、一飛びで機内に戻って見せさえする。あんな跳躍力を持つ動物などいない。なんらかの生物兵器か?
更に予想外だったのは着陸のタイミングを狙った攻撃。滑走路の後方で燃える残骸と翼を失った飛行機から、ロケットか何かで狙い撃たれたと推察する。炎に照らされて光る帯は、捥がれた翼の断面から流れた燃料だろう。そのおかげで機体からは燃料が抜けたが、火災の原因なので喜べるはずも無い。しかもそこに複数の人間による襲撃も行われている。彼らが複数犯なのか単独犯なのかは不明だが、殺人者であることに変わりはない。
「歩美は?」
「あちらです。銃を使わないようにと伝えに行きました。」
「あちらです。銃を使わないようにと伝えに行きました。」
ライが歩けるようになるまでに知世に伝えに行くように出した指示をなんで歩美がやっているのかと一瞬思うが、そういえば少年探偵団とか言ってたなと思い出す。酔いとガスで走れない怪盗よりもタフな探偵には手放しの賞賛をしたいが、性格よりも酸欠が原因で言葉が詰まる。乗り物酔いしやすいからわかる、今の不調の原因は一酸化炭素中毒だ。チアノーゼで青くなった唇で知世が歩美達を呼び寄せるのを尻目に、最寄りの建物を探す。
「知世ちゃん、ファリード見なかった?」
(何語だ?)
「ファリードさんですね、いえ、見て……」
(何語だ?)
「ファリードさんですね、いえ、見て……」
聞きなれない言葉に、合流した歩美達をチラリと見て、直ぐに二度見する。はしばみ色の髪のファンタジー感ある少女に肩を貸されていたメガネの男は、酷い怪我を逆側の肩に負っていた。たしかパステルと、新八だったか。普段ならば詰まりもせずに出てくるのに、顔と名前が一致しない。今のケイは、その最も秀でた頭脳が使い物になっていないと自己判断せざるをえなかった。ならどうするか。とにかく逃げる、それだけだ。ケイ、知世、歩美、パステル、新八、それにモジャモジャ頭のモモ。
「待って、イオリは?」
まだ頭は回っているようだ。彼女たちの顔で答えはわかった。
これで首輪解除要員が1人死んだ。彼女がいればケイ1人の時の2倍3倍のスピードで作業は進んだはずなのに。彼女の死は、単に1人が死んだ以上の意味がある。
これで首輪解除要員が1人死んだ。彼女がいればケイ1人の時の2倍3倍のスピードで作業は進んだはずなのに。彼女の死は、単に1人が死んだ以上の意味がある。
「行こう、あっちだ。」
外人たちが何か言っているが、話は後だ。今はまずマーダーから離れなければ。
そのケイの判断は間違っていなかった。彼らが飛行機から小走りで離れてあと少しで空港の建物だとなったところで、飛行機の爆発が起こったのだから。
幸い衝撃波はそれほどでは無かったが、ただでさえふらつく体に襲い来るそれに、知世が支えてくれなければコケていただろう。思わず悲鳴が漏れそうになるが、苦しそうなうめき声を上げる新八を見て、明らかに重傷な彼でも歩みを止めていないので、グッと飲み込んで足を早める。
そのケイの判断は間違っていなかった。彼らが飛行機から小走りで離れてあと少しで空港の建物だとなったところで、飛行機の爆発が起こったのだから。
幸い衝撃波はそれほどでは無かったが、ただでさえふらつく体に襲い来るそれに、知世が支えてくれなければコケていただろう。思わず悲鳴が漏れそうになるが、苦しそうなうめき声を上げる新八を見て、明らかに重傷な彼でも歩みを止めていないので、グッと飲み込んで足を早める。
「モモ! パステル!」
「無事だったんですね!」
(また言葉がわからないぞ。)
「無事だったんですね!」
(また言葉がわからないぞ。)
そんな彼らを出迎えたのは、ジャスミンとファリードだった。ファリードはパステルが飛び降りたのとほぼ同時に穴から魔法で飛び降り、その後しばらく呪文の詠唱で吸い込んだ煙で酸欠を起こし滑走路上でブラックアウト、そのせいで死体と区別がつかず放って置かれた。そこに現れたのがジャスミンである。穴の縁に手をかけて地上までの距離を少しでも短くすると、着地の際に身体全体で衝撃を受け止めることでなんと無傷で脱出に成功していた。伊達に森の中を蔦などを伝って移動していない。煙に巻かれながらも滑走路までの高さと受け身を妨げる小石などがないかを見定めると、冷静に飛び降りてその後は死んだフリをしていた。安全に飛び降りたとはいえ、急に動いたりすれば思わぬ身体のダメージが表面に出る。倒れたまま少しずつ身体を動かして、軽い打ち身だけで無傷と言えるレベルだと判断できてから、ファリードを助け起こした。
「ところで、これ、使える人いる?」
素早くジャスミンの視線が動く。ケイと新八でやや遅くなり、それから彼女は銃を差し出した。
「この城には武器が落ちてるみたいだけど私たちには使えないわ。誰か使える人がいたら教えて、船に戻って怪物をどうにかしないと。」
「この港に落ちている武器、使い方がわからないんです! これを使えなきゃ、あの人たちと戦えません!」
「この港に落ちている武器、使い方がわからないんです! これを使えなきゃ、あの人たちと戦えません!」
ケイには何を言っているかわからないが、たぶん銃の撃ち方がわからないのだろうと察しはついた。いずれ彼女たちの言語も翻訳できるようにしなければと思うが、とにかく簡単に、言葉がわからなくてもわかるように伝える。「横のレバーを動かして引鉄を引け」と。
「この出っぱりね、それで引くと、うわっ!」
途中でジャスミンがモモを撃ち殺しかけたりもしたが、なんとか武装を終える。そうこうするうちに続々と飛行機を脱出した人間が集まってくるが、後になればなるほど具合が悪くなっている。マーダーの襲撃を排して救助する。その為のメンバーとして、コンディションがマシなジャスミン、パステル、モモ、知世の4名が飛行機に戻ることになった。
「知世、ムリだ。」
「ケイくん、歩美ちゃんたちをお願いしますわ。」
「ケイくん、歩美ちゃんたちをお願いしますわ。」
女子のみ、それも日本語の通じない3人だけで行かせるわけにはいかないと、咳込みながら言うケイに説得力は無い。ファリードも歩くのがやっとで、新八は止血の真っ最中だ。その顔色はチアノーゼだけが理由では無い。失血は確実に新八の命を奪って行った。
「行くよ!」
ジェスチャーで指示するジャスミンを先頭に、4人はロッカーに入っていた担架を2人1組で持つと飛行機に接近する。今やそれは、脱出した時とは段違いの火災に包まれていた。黒煙よりも火災の方が脅威に思えるほどの業火に、全員の足が竦む。生物の本能が訴える、あれに近づくのは死を意味すると。
「バルダ……もう!」
だがジャスミンは違った。その目がバルダを、滑走路上でいつ炎にまかれてもおかしくないところに倒れているのを見て、彼女は担架を持って駆け出していた。
バチバチといったい何の音かもわからない怪音を響かせて燃える飛行機に向かって走る。その目はバルダだけではなく周囲も見ている。まだ敵がいる可能性がある。そしてかすかに動く人影もある。まだ燃えている飛行機の周辺に、数名の生存者がいる。
バチバチといったい何の音かもわからない怪音を響かせて燃える飛行機に向かって走る。その目はバルダだけではなく周囲も見ている。まだ敵がいる可能性がある。そしてかすかに動く人影もある。まだ燃えている飛行機の周辺に、数名の生存者がいる。
「……助けられるのはバルダだけね。」
ジャスミンは冷徹に判断した。バルダ1人が限界だ。女の子4人で成人男性1人以上を運びようがない。武器を持ちながらではそれ以上は不可能。助けるのは知り合い優先だ。
だがその時、バルダが口を開いた。声は出ない。しかし、彼女には心でわかる。動物や自然、言葉の通じない人間ともコミュニケーションが取れる彼女は、その口の動きを見た瞬間、咄嗟にバックステップした。
そしてジャスミンに『逃げろ』と伝えた口のまま、バルダの顔面は黒い脚に踏み砕かれた。
だがその時、バルダが口を開いた。声は出ない。しかし、彼女には心でわかる。動物や自然、言葉の通じない人間ともコミュニケーションが取れる彼女は、その口の動きを見た瞬間、咄嗟にバックステップした。
そしてジャスミンに『逃げろ』と伝えた口のまま、バルダの顔面は黒い脚に踏み砕かれた。
「お前は──」
激昂、焦燥、驚愕、いずれの言葉か。ジャスミンは咄嗟にライフルを投げつけていた。そして気づく、それの使い方を間違ったと。
(────)
使い方を習ったのに、つい身体が覚えている使い方をしてしまった。あっさり躱されて肉薄されるのをナイフを取り出して防ごうとしつつ後悔する。この一撃は、防げない。相手のスピードが早すぎる、持っていた担架が邪魔で初動が遅れた。間に合わな──
──弐ノ型、『水車』
「やらせ、ない!!」
振るわれた炭治郎の日輪刀が、ジャスミンの喉元とそれに迫ったカザンの牙の間に割って入った。
どこから──飛行機の中から
なぜ──逃げ遅れた人を救助するため地上と機内を往復して
なぜ──逃げ遅れた人を救助するため地上と機内を往復して
「この人お願いします!」
そしてジャスミンに麗を預けると、炭治郎は猛然とカザンに突貫した。
──参ノ型、『流流舞い』
フットワークによる幻惑、それによる間合い詰め。しかしそれは先に退避を始めているカザンには届かない。一方向の移動という意味では、それのトップスピードには限界がある。
しかしこの場はそれでいい。大事なことは、この場の生存者からカザンを引き剥がすこと。流流舞いで間合いを詰められることのリスクを先の一戦で分からぬカザンではない。
そしてなぜカザンがそれを理解しているにもかかわらず再攻撃を試みてきたか、炭治郎には一つの考え違いがあった。
しかしこの場はそれでいい。大事なことは、この場の生存者からカザンを引き剥がすこと。流流舞いで間合いを詰められることのリスクを先の一戦で分からぬカザンではない。
そしてなぜカザンがそれを理解しているにもかかわらず再攻撃を試みてきたか、炭治郎には一つの考え違いがあった。
(動きが早くなっている、違う、オレの──)
カザンが駆ける。ジャスミンに近づこうとする彼との間に身体を割り込ませ刀を振るう。だが当然、カザンは離れる。そこまでは予想内。しかしそこからの次の行動は炭治郎の想像の範疇を超えていた。
(──オレの動きが遅く──)
カザンは犬では無い、妖怪だ。
高い知性を持ち、心臓に達する程の傷を無理矢理妖力で治したとして、それで再度襲撃に出るような命知らずでは無い。
だが、わざわざ自分に致命傷を負わせうる相手が、無駄に人命救助で弱体化しているのを見過ごすほど甘くも無かった。
炭治郎の左手は親指から薬指にかけてが完全に食い千切られていた。小指の根元がわずかに残るだけで、人差し指の辺りなど掌まで無くなり骨が露出している。正気を失うような激痛が彼を襲っているはずだが、炭治郎はひたすらに大きく、大きく呼吸をするだけで、脂汗を顔ににじませながらも平静を保っていた。その状態でわざわざ火事の真っ只中に戻っていく、弱っていく。この機を逃すなどありえない。
高い知性を持ち、心臓に達する程の傷を無理矢理妖力で治したとして、それで再度襲撃に出るような命知らずでは無い。
だが、わざわざ自分に致命傷を負わせうる相手が、無駄に人命救助で弱体化しているのを見過ごすほど甘くも無かった。
炭治郎の左手は親指から薬指にかけてが完全に食い千切られていた。小指の根元がわずかに残るだけで、人差し指の辺りなど掌まで無くなり骨が露出している。正気を失うような激痛が彼を襲っているはずだが、炭治郎はひたすらに大きく、大きく呼吸をするだけで、脂汗を顔ににじませながらも平静を保っていた。その状態でわざわざ火事の真っ只中に戻っていく、弱っていく。この機を逃すなどありえない。
(──穫った。)
「ガ……ハッ。」
「ガ……ハッ。」
ジャスミンが投げたサブマシンガン、それを器用に妖力を制御した前脚で引鉄を引く。当たらなくていい。ジャスミンたちに当たるかもしれないというだけで守りに回るお人好しなのはこれまでの観察でわかる。炭治郎の流流舞いを止められればそれで終わりだった。
カザンの牙が炭治郎の頸動脈を喰いちぎる。同時に彼の傷が開く感覚がした。
カザンは撤退後もジッと飛行機を観察していた。その中で、厄介な銀髪の男も黒い制服の音もサングラスの男も死んだのを確認して、そこからは炭治郎だけを気にしていた。あとは奴だけ弱れば、あの機内に自分を殺せるだけの者はいない。その自負が、黒煙の中無理矢理水の呼吸で身体を動かし、煙にまかれる子供たちを助ける炭治郎の弱体化をひたすら待っていた。炭治郎の傷が開き、呼吸が乱れるのを待った。そしてあの時、ジャスミンが助けに駆け出したあの時、中の炭治郎が罠だと気づかずに降りてくる為の囮が狩場に現れた時、ここを勝負所とすると決めたのだ。
カザンの牙が炭治郎の頸動脈を喰いちぎる。同時に彼の傷が開く感覚がした。
カザンは撤退後もジッと飛行機を観察していた。その中で、厄介な銀髪の男も黒い制服の音もサングラスの男も死んだのを確認して、そこからは炭治郎だけを気にしていた。あとは奴だけ弱れば、あの機内に自分を殺せるだけの者はいない。その自負が、黒煙の中無理矢理水の呼吸で身体を動かし、煙にまかれる子供たちを助ける炭治郎の弱体化をひたすら待っていた。炭治郎の傷が開き、呼吸が乱れるのを待った。そしてあの時、ジャスミンが助けに駆け出したあの時、中の炭治郎が罠だと気づかずに降りてくる為の囮が狩場に現れた時、ここを勝負所とすると決めたのだ。
「またアイツ!」
「パステル、逃げるよ!」
「パステル、逃げるよ!」
パステルがサブマシンガンを乱射してくるが、銃口を向けられるより早く動くことで何事もなくかわす。とはいえ、先の戦いはギリギリだった。せっかく応急処置した傷口も開いてしまっていたので、あと1つ何かあれば負けるのはカザンだった。まあ片手と片目を喪った相手に負けるほどヤワでわないが。
ここからは蹂躙だ。
炭治郎がジャスミンに預けようとし、そしてジャスミンが見捨てた麗の頭を踏み砕く。これで3人目。更に狙うは、バルダが助けた2人のうちの1人、コオリ。
ここからは蹂躙だ。
炭治郎がジャスミンに預けようとし、そしてジャスミンが見捨てた麗の頭を踏み砕く。これで3人目。更に狙うは、バルダが助けた2人のうちの1人、コオリ。
「銃貸して!」
「パステル!」
「でも!」
「パステル!」
「でも!」
パステルがモモや知世からサブマシンガンを譲り受けるのを横目で見ながらコオリに向けて前脚を振り上げる。コイツが済んだらあの4人だ。それで機内で殺した分と合わせて約10人。これだけキルスコアを稼げば次の放送での首輪解除も近いだろう。後は傷を治しつつ、適当に狩っていく。殺した相手を喰えば多少は妖力の足しにもなるし一石二鳥だ。
などと考えるのは余裕では無く、油断。
などと考えるのは余裕では無く、油断。
「勝った気でいるんじゃねー。」
(なにっ!?)
(なにっ!?)
振り降ろした前脚と同じタイミングで、コオリの腕が跳ね上がり、炭治郎に付けられた胸の傷へと突き刺さる。そしてカザンの勢いはそのまま、カザンの心臓をコオリの手刀へと突き刺した。
さっきぶりのその感触に、声なき悲鳴を上げるカザン。違うのは、スウェーにより威力を殺した前回とは違い、カウンターにより自分で心臓に突き刺す形になったとこと。それでも妖力を回して無理矢理心臓の傷を塞ぎにかかる。しかし。
さっきぶりのその感触に、声なき悲鳴を上げるカザン。違うのは、スウェーにより威力を殺した前回とは違い、カウンターにより自分で心臓に突き刺す形になったとこと。それでも妖力を回して無理矢理心臓の傷を塞ぎにかかる。しかし。
(治らない。)
字消士を甘く見てはいけない。彼のような化外の存在を討つことを生業としてきた者達なのだから。
パララララ。
パステルの放った9mmパラベラム弾がカザンの息の根を止めるまで、彼は自分に何が起きたか理解できず死んで行った。
パララララ。
パステルの放った9mmパラベラム弾がカザンの息の根を止めるまで、彼は自分に何が起きたか理解できず死んで行った。
【0728 『中部』空港】
【影ノ裏未知@迷宮教室 最悪な先生と最高の友達(迷宮教室シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
???
●中目標
???
●小目標
???
【目標】
●大目標
???
●中目標
???
●小目標
???
【ファリード@シェーラひめのぼうけん 空とぶ城(シェーラひめシリーズ)@フォア文庫】
【目標】
●大目標
ひめさま(シェーラ)と合流する。
●中目標
殺し合いをなんとかする。
●小目標
頭が痛い……吐き気もする……なんとか治さないと……
【目標】
●大目標
ひめさま(シェーラ)と合流する。
●中目標
殺し合いをなんとかする。
●小目標
頭が痛い……吐き気もする……なんとか治さないと……
【志村新八@銀魂 映画ノベライズ みらい文庫版(銀魂シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
みんなで脱出する。
●中目標
傷の手当をする。
●小目標
土方さんたち遅いな……それに麗ちゃんも……
【目標】
●大目標
みんなで脱出する。
●中目標
傷の手当をする。
●小目標
土方さんたち遅いな……それに麗ちゃんも……
【ジャスミン@デルトラクエスト(1) 沈黙の森(デルトラ・クエストシリーズ)@フォア文庫】
【目標】
●大目標
このゲームを生き残る。
●中目標
バルダ……
●小目標
???
【目標】
●大目標
このゲームを生き残る。
●中目標
バルダ……
●小目標
???
【モモ@モモ@岩波少年文庫】
【目標】
●大目標
みんなで脱出する。
●中目標
飛行機から離れる。
●小目標
倒れている人を助ける。
【目標】
●大目標
みんなで脱出する。
●中目標
飛行機から離れる。
●小目標
倒れている人を助ける。
【紅月圭@怪盗レッド(1) 2代目怪盗、デビューする☆の巻(怪盗レッドシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
殺し合いから脱出し、主催者を討つ。
●中目標
空港の警備を固める。
●小目標
ライやロボたち首輪解除要員と合流したい。
【目標】
●大目標
殺し合いから脱出し、主催者を討つ。
●中目標
空港の警備を固める。
●小目標
ライやロボたち首輪解除要員と合流したい。
【大道寺知世@小説 アニメ カードキャプターさくら さくらカード編 下(カードキャプターさくらシリーズ)@講談社KK文庫】
【目標】
●大目標
さくらちゃんを探してみんなで脱出する。
●中目標
みんなで空港の建物に避難する。
●小目標
倒れている人を助ける。
【目標】
●大目標
さくらちゃんを探してみんなで脱出する。
●中目標
みんなで空港の建物に避難する。
●小目標
倒れている人を助ける。
【吉田歩美@名探偵コナン 紺青の拳(名探偵コナンシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
死んだ光彦のためにも事件を解決して脱出する。
●中目標
知世さんに着いていって空港の建物に避難する。
●小目標
倒れている人を助ける。
【目標】
●大目標
死んだ光彦のためにも事件を解決して脱出する。
●中目標
知世さんに着いていって空港の建物に避難する。
●小目標
倒れている人を助ける。
【パステル・G・キング@フォーチュン・クエスト1 世にも幸せな冒険者たち(フォーチュン・クエストシリーズ)@ポプラポケット文庫】
【目標】
●大目標
ノルの生死を確かめて殺し合いから脱出する。
●中目標
飛行機から離れる。
●小目標
???
【目標】
●大目標
ノルの生死を確かめて殺し合いから脱出する。
●中目標
飛行機から離れる。
●小目標
???
【脱落】
【宝生麗@トモダチデスゲーム 昨日の敵は今日の友(トモダチデスゲームシリーズ@講談社青い鳥文庫】
【バルダ@デルトラクエスト(1) 沈黙の森(デルトラ・クエストシリーズ)@フォア文庫】
【竈門炭治郎@鬼滅の刃ノベライズ ~遊郭潜入大作戦編~(鬼滅の刃シリーズ)@集英社みらい文庫】
【狐屋コオリ@歴史ゴーストバスターズ 最強×最凶コンビ結成!?(歴史ゴーストバスターズシリーズ)@ポプラキミノベル】
【カザン@妖界ナビ・ルナ(10) 光と影の戦い(妖界ナビ・ルナシリーズ)@フォア文庫】
【宝生麗@トモダチデスゲーム 昨日の敵は今日の友(トモダチデスゲームシリーズ@講談社青い鳥文庫】
【バルダ@デルトラクエスト(1) 沈黙の森(デルトラ・クエストシリーズ)@フォア文庫】
【竈門炭治郎@鬼滅の刃ノベライズ ~遊郭潜入大作戦編~(鬼滅の刃シリーズ)@集英社みらい文庫】
【狐屋コオリ@歴史ゴーストバスターズ 最強×最凶コンビ結成!?(歴史ゴーストバスターズシリーズ)@ポプラキミノベル】
【カザン@妖界ナビ・ルナ(10) 光と影の戦い(妖界ナビ・ルナシリーズ)@フォア文庫】