満月の下で怪しく動く謎の飛行物体!速いぞ!
謎の飛行物体を追う少年!捕まえれば世紀の大発見か!?
夢を掴むために走れ少年!飛行物体との距離は近い!
(って感じだな、今の俺の図は…)
むかつく
ラバーソールをぶっ飛ばすために俺―
東方仗助―は走っている。
そして俺の目の前を飛行する謎の物体X。いや謎じゃねーけど。スライムだけどさ。
こいつは速度をあげることなくラバーソールを追跡している。速度をあげないってことは要するにだ…
(ラバーソールはわざと追跡させてやがる…とことん嘗めた野郎だぜ!)
もしもラバーソールが本気で馬をとばせばその分スライムも追いつこうと加速し、俺は見失うはず。
それが未だ起こらないって事は要するに俺に見失わせたくないって事だ。
(いや、俺の能力を完全に把握してるわけねーしそこまで計算はしてないだろうな。
馬のスピードをわざとほどほどに制御して着かず離れずの位置を維持してるのは事実だが)
ともかく俺は走る。ここで見失ったら次があるかどうかはわからねーしな。
必ずぶん殴ってやるからな!ラバーソール!
◆
ヒヒヒ!最高に俺はラッキーだとは思わんかぃ?
殺しの手段も騙しの手段もある上に移動の手段もある!
結局の所殺し合いで最後に物を言うのは『運』なんだよっ!
そういう意味じゃ俺はツキまくりだな!ヒヒヒ!
チラリと後ろを振り返ってみるが俺のスライムの欠片もジョースケの姿も見えない。
まぁ、どうせ追ってきてるだろう。ジョースケは間違いなく甘ちゃんだからよぉ!
しばらく俺は馬を走らせていると遠くに人影が見えた。外灯の灯りが弱くて顔はわからねーが、二人だな。
グッドタイミングってやつだぜこいつぁ!俺は馬の速度をあげ、仕込む事にする。
つまんねー結末にだけはなってくれるなよぉ、ヒヒヒ!
馬の上で『仗助』がニタリと笑い、二人組へと近づくために速度を上げた――
◆
「ペロ…すげーな、今の見たか重ちー。ペロ…隕石がいくつも落ちてったぜ!」
「なんだか遠くの方でペロ、大きな音がした気もするど…ペロペロ、やっぱり
ペッシやオラみたいに
殺し合いに乗らないっていう方がペロ…珍しいのかもしれないど」
ペッシと呼ばれた男は呼び捨てにするなと隣の少年を小突きつつとぼとぼと歩いている。
パイナップルのような髪型の青年、ペッシ。
彼は暗殺チームの一員であり、本来ならこの殺し合いには乗ってもおかしくはない存在だった。
そんな彼が殺し合いに乗らないという判断を下した理由は二つ。
一つは隣を歩くドリアンがそのまま人になったような少年、矢安宮重清(通称重ちー)。
ペッシがこの地で初めて出会った参加者が重ちーであり、その重ちーが殺し合いには乗っていなかったのだ。
その重ちーに流されるように、彼は殺し合いに乗らないことを決意した。
そして大事なもう一つの理由。彼には覚悟が足りなかった。足りなかったからこそ流され、こうして重ちーと歩いている。
彼が覚悟を決め、
マンモーニから卒業できる日はいつの日か…
ちなみにこの二人。現在アイスを舐めながら歩行中である。
重ちーがエニグマの紙を破き出現したストロベリー&チョコチップアイス。
不運にも地面に落としてしまったが何故か袋に入っており中身は無事だった。
ペッシはストロベリーを、重ちーはチョコチップを舐めている。
「…ん?ちょっと待て重ちー」
ペッシが重ちーの肩を掴み歩みを止めさせ、耳を澄ませる。
規則的で躍動的な音が暗闇の方から聞こえてくるのだ。その音はどうやら――
「馬だ、馬が走って『こっち』に来てやがる!」
「う、UMAだどっ!?ど、どこだどっ!」
きょろきょろ重ちーが辺りを見渡し、やがて暗闇の一点を見つめる。
馬の足音はもはや馬鹿でも気付くほどハッキリとしてきていた。
「ング、重ちーよぉ…」
残っていたアイスを平らげたペッシが【ビーチボーイ】を発現させ、プランと糸を垂らしている。
「モグモグ、わかってるど…」
重ちーもアイスを平らげ、【ハーヴェスト】を自分とペッシを守るように配置する。
パカラッ、パカラッ、パカラッ
外灯のすぐ近くまで来て、馬は歩みを遅くし、ついには止まる。
影になって顔はわからないが体格からすると男のようだ。
「おめー、一体なんのようだ!あぁ!?」
外灯を丁度境にして馬の男とペッシ&重ちーは対峙している。
ペッシの質問に男は何も答えず、こちらの様子を窺っているようだ。
「おめーが殺し合いに乗ってるっていうなら、容赦はしねぇ!ぶっ殺す!」
「そ、そうだど!容赦しねーど!ぶっ殺すっていうは…う、嘘じゃないど!オラ達は強いんだど!」
ペッシの剣幕に流されるように重ちーも男を威嚇する。
観念したのだろうか男は馬から降りさり、ゆっくりと外灯の下へと歩き出す。
外灯が照らし出す男の顔は――
「じょ、仗助っ!仗助じゃぁないかどっ!」
まさかの知り合いとの再会に重ちーは興奮し駆け寄っていく。
仗助と呼ばれたリーゼントの男は重ちーの姿を確認するとこちらも再会の喜びからだろうか、笑顔になった。
「よう、久しぶりだな。無事だったか」
「仗助まで参加してるなんて夢にも思わなかったど!さ、参加しちゃった事は喜べないけど…オラは会えて嬉しいど!」
重ちーは安心したのか【ハーヴェスト】を解除し仗助にペラペラと話し続ける。
その様子にペッシも一息吐いて【ビーチボーイ】を解除し、二人に近づく。
「なんだなんだ。重ちーの知り合いか。よかったじゃねぇか」
「あ、紹介するど!こいつペッシだど!」
「チィース、よろしくっス…ペッシさん」
ペコリと頭を下げた仗助につられるようにペッシも頭を下げる。
メキャァッ
下げられたその頭目掛けて仗助の回し蹴りが炸裂し、ペッシがゴロゴロと転がっていく。
「…え?」
突然の出来事に反応できない重ちー。
仗助は振り上げた足をゆっくりと下ろし、重ちーと向かい合う。
傍から見ると高校生の不良が小学生か中学生を脅しているようにも見えるその光景。
「重ちー…よぅ」
「理解不能!理解不能!理解不能!理解不能!な、なんでだどっ!ペッシは悪い奴じゃないど!
そ、そりゃ見た目は怪しいけれどいきなり蹴るなんてひどすぎるどっ!」
「重ちー」
慌てふためく重ちーに対し仗助はまるで大人が子供を叱り付ける時の様な低く、威圧するような声で話しかける。
「重ちー…俺達は、友達だよなぁ?」
「と、友達?友達だどっ!?そ、そうだ、そんな事を言うならペッシはオラの友達だどっ!
友達の友達は友達だどっ!ペッシに謝るど、仗助!」
「友達ならよぉ…」
無表情だった仗助の口の端が吊りあがる。
それは重ちーが今まで生きてきて一度も見たことが無いほどの邪悪な感情が込められた、笑み。
「俺の為に死ねやっ!」
顎を蹴られ、ゴムマリのように重ちーが宙を舞う。
浮かんだ重ちーの身体を強引に掴み取り、頭の上で反りあげる。
「ゲボーッ!!」
「友達の邪魔をする友達なんてよぉ…こいつはメチャゆるせんよなぁぁぁ!」
メキメキやベキベキといった音が重ちーの身体から奏でられる度に所々から血が噴出す。
その頃ペッシはうんうん唸りながら頭を押さえ、未だ意識が朦朧としていた。
(理解不能!理解不能!で、でもこのままじゃ…殺されちゃうど!?仗助に!?)
人間橋を描きながら重ちーは必死に考える。一体仗助に何があったのだろうか?
よほどの理由が無い限り、あの仗助が自分にこんな事をするはずがない。
(と、ともかく今はこの現状をなんとかするどっ!)
「【ハーヴェスト】!」
再び発現した【ハーヴェスト】が仗助の身体に纏わりつき、それぞれが抉る様なパンチを繰り出す、が…
「な、なんでだどっ!?」
思わず驚きの声を重ちーはあげる。
全身を攻撃しているにも関わらず仗助の力は抜ける事無く、バックブリーカーの体勢を崩さない。
「理解不能!理解不能!理解不能!」
体勢が体勢だけに重ちーは状況を見ることができず、自分の攻撃がただ効かない事に焦りと絶望を感じていた。
【ハーヴェスト】による決死の攻撃で普通の人間ならば皮と共に肉まで抉られる痛みが全身を襲っているのだ、バックブリーカー等してられない。
だが、今バックブリーカーをしている仗助は普通の人間ではない!
全身をスーツのように【イエローテンパランス】で覆い、仗助に変装しているラバーソールなのだ!
【ハーヴェスト】の攻撃で抉られても出てくる物は黄色いスライムばかり…その抉られたスライムもすぐに元に戻っていくので、いつまで経ってもラバーソール本体を傷つける事は叶わない。
もしも重ちーが自分の目で確かめながら攻撃できたのならば、或いは攻略の糸口はあったのかもしれないが…
ゴキャリ
「ゲブッ!」
一際鈍い音が響き、重ちーが血反吐を吐き散らす。折れてはいけない骨がついに折れてしまったようだった。
人が壊れるその音を、クラシックを聴いてるかのようなうっとりした顔でラバーソールは聞いていた。
その音を聞いたのは重ちーとラバーソール、そしてもう一人…
「重ちーぃぃぃぃっ!」
ペッシがようやく意識をハッキリとさせた時、目にしたのは血反吐を吐く重ちー。耳にしたのは一際大きい鈍い音。
わけの分からない声をあげながらペッシは走る。その間に【ビーチボーイ】を発現させ、振り上げる!
「そんなにこいつが大事ならくれてやるぜっ!」
仗助の顔をしたラバーソールはさして慌てる事も無く、頭上の重ちーをペッシへと投げつけた。
【ビーチボーイ】を振り上げていたペッシはその横に大きい身体を受け止める事も避ける事もできずにもろに食らってしまう。
再びゴロゴロと転がっていく二人。ペッシはなんとか起き上がるが、重ちーはピクリともしない。
「ふん、次はてめーだぜペッシちゃんよぉ」
「てんめぇっ!」
距離を詰めようとしたラバーソールの背中にピトリとスライムの欠片がくっつき、融合していった。
欠片がこうして自分と合流したという事はつまり――
ラバーソールは放置していた馬の元へと走り出す。
てっきり距離を詰めると考えていたペッシはその行動に咄嗟に動けず、吠える事しかできない。
「てめぇ!逃げる気か!逃がすかよ!」
「はん、逃げるかよ。『いいもん』持ってきてやるからちょっと待ってやがれ!」
ラバーソールは馬に跨り、再び駆け出す。ペッシは【ビーチボーイ】を使おうとするが、重ちーの呻き声がその動きを止めさせた。
今この一瞬の隙に重ちーを連れて逃げるべきだ!そう判断し、重ちーの元へと駆け寄っていく。
「重ちー!俺が必ず助けてやるからよ!だから今は逃げるぞ!」
ペッシは重ちーを背負い、先ほどラバーソールが移動したのとは真逆の方向へ歩き出そうとして、止まる。
何故なら目の前に…ついさきほどまでいた男が立っていたのだから――
◆
「まさかその背中の奴は…重ちーか!?」
突如加速したスライムの欠片を必死に追いかけた先にいたのは怪我をしてる重ちー、そしてパイナップルみてーな髪型をした男だった。
男の顔色も悪い。どうやら重ちー共々襲われたのか!?ラバーソールの野郎に!
「おい、大体事情はわかってる!奴は…あんた達さっきまで戦ってたんだろ?その相手の男はどこだ!?」
「それ以上近寄るな!」
近づこうとした俺を怒声が止める。何でだ?このパイナップル野郎とは初対面のはずなのになんでそこまで俺を敵視するんだ?
「なるほど…『いいもん』ってのはその背中の武器か…けっ、むかつく野郎だぜ!」
「おい、さっきから何言ってんだ?とりあえず落ち着いてくれ、怪我してるんならアンタも治してやるからよ」
錯乱してやがるのか…しかし重ちーの怪我は結構深刻そうなんだよなぁ。あんまり無駄な時間を掛けるとラバーソールも見失いそうだし…
ヒュンッと風を切るような音が聞こえたのはそんな事を考えていた時だった。
みればパイナップル野郎は重ちーを地面に降ろし、いつの間にやら釣竿のような物を持っていていた。
釣竿からは糸が俺の右腕の方まで延びていて…
「く、食い込んでやがるのかっ!?」
「何ボサッとしてやがる!このまま、釣り上げてくれるぜぇーーっ!」
パイナップル野郎が釣竿をグンッと振り上げるとそれと同調するように俺も吹き飛ばされ…
「たたきつけてやるっ!」
地面に叩き付けられたっ!
くそっ、わけがわかんねぇ!何でこんな事になってるんだ!?
「もういっぱぁっ!」
再び振り上げられる釣竿。やばい、見た目以上にこの釣竿はやばい!まともに逆らう事もできず俺は先ほどと同じように吹き飛ばされる!
そして再び叩き付け!ダメージだけじゃなくパイナップル野郎が釣竿を動かすたびにものすげー体力を消耗していく、マジでやばい!
「この糸は、切らせてもらうぜ!【クレイジーダイヤモンド】!」
クレイジーダイヤモンドで糸を掴み、引きちぎっ…
「あぐぅぁっ!?」
違う!引き千切られたのは、俺だっ!糸は健在で俺の身体全体に引き千切られる様な痛みが走った!
「馬鹿が!俺の【ビーチボーイ】の糸は獲物以外は水のように通過する!切断なんかできやしねぇ!
だが、その衝撃は伝わるんだぜ!ねっとりと絡みついたお前の神経によぉーっ!」
痛みに悶える俺をあざ笑うように再び釣竿が振り上げられ、俺の身体は叩き付けられる。
さてどうしたもんかと必死に頭を動かす俺の目に、嫌な物が飛び込んできやがった。
針がさっきよりも、食い込んでやがる!
というか、針が見えない!糸のような盛り上がりが既に俺の肘よりも上に来ていた。じゃぁ、針はどこに…
「今頃気付いてもおせーんだよ!針は既に胴体に進入した!心臓に食い込ませて、反吐ぶちまけさせてやるぜ!」
「じょ、冗談じゃねぇ!」
どうする!?自分の身体に穴開けて直接針を掴むか!?いや、針も糸と同じみてーに反射するように俺に全て返してくるのかも…
本体を、パイナップル野郎を気絶させるしかないかっ!?
そう判断し俺は走り始めた、【クレイジーダイヤモンド】を振り回すが…どうやらこの土壇場でこの判断はあまりにも遅かったらしい…
「がふぅっ…!」
身体の中の、大事な何かを貫かれような、そんな感覚が全身を駆け巡る。
奴の糸が俺の心臓に…到達……
◆
ペッシが【ビーチボーイ】を解除すると支えが無くなったかのように仗助は倒れこんだ。
「初めて…人を殺っちまったなぁ…でも想像してたより大したことないな」
心臓をつらぬいただけなので仗助の死体は血反吐や叩き付けの際についた汚れなどを除けば綺麗な物だった。
そんな仕留め方のせいなのだろうか?ペッシには人を殺す事は驚くほどあっけなく感じられた。
「くそっ…こんな事になるならもっと早く、いや、それよりも重ちーだ!」
駆け寄り、重ちーの脈を診る。トクントクンと、弱弱しくも確実に脈は動いていた。
だが無論急いで治療しなければ危険な状態だと言うことはペッシにもわかる。
「どこにいきゃ、治せる?繁華街にいきゃ薬局くれーはあるかなぁ…くそっ…」
「どこにも…行く必要はないっすよ…」
ペッシが驚きで振り向くと、そこには血反吐を袖で拭きながら…仗助が立っていた。
「な、何でだ!?心臓を貫いたんだぞ!死なないわけがねーっ!ま、まさかおめーゾンビなのかよぉーっ!?」
「ゾンビか…そりゃ俺のダチの事だろ…まぁ、億泰の事はどうでもいいか…」
事情が飲み込めず、尻餅をついたままのペッシにゆっくりと仗助は話し始める。
「あんたの釣竿のせいで死に掛けたが…その釣竿、いや糸のおかげで俺は助かった。
針が俺の心臓を貫いた時、俺は咄嗟にあんたの糸の特性を利用したのさ。『釣り糸に攻撃するエネルギーは釣られた者に帰っていく』って所をな。
俺のスタンド【クレイジーダイヤモンド】は何でも治せるが、唯一俺自身は治す事が『本来なら』できないんだ。
だから、あんたの糸を治させてもらった。もっとも、しっかりと攻撃と見なされるように殴った上でだがな。
殴る事によって、あんたの糸は勤勉に俺に反射してくれたぜ。殴る衝撃と、治すエネルギーをな…
おかげさまで、俺の心臓は治された。自分で自分の心臓を治すなんて体験俺くらいだろうな、多分。もうやりたくないけど」
仗助は話し終えるとゆっくりと歩き出す。
「こ、こっちにくるんじゃねぇ!訳の分からない事言いやがってお、俺をビビらせようって腹なんだな!俺がこ、この程度の事で…っ!」
口では何とでも言えるがペッシは未だ尻餅の体勢のままガクガクと震えている。
心臓を貫いたはずなのに、治した?とても信じられるものではない。
「別に何もしないっすよ…あー、後で腹いせに一発殴るかもしれないけど…それより今は重ちーの治療だ」
「し、重ちーに…」
触るんじゃない、そう言葉にしようとしても口が、舌が思いの通りに動かない。
仗助はそんなペッシの横を通り過ぎ、重ちーの近くにしゃがみ込んだ。
「ひでぇもんだな…誰がこんな事を…」
「ど、どの口が言ってやがる!おめーがやったんじゃねーか!」
仗助の意外な言葉で恐怖よりも怒りが勝ったペッシは立ち上がり、仗助を怒鳴りつける。
仗助はそんなペッシの態度に疑問を持ったが、すぐに答えは見つかった。
「クソッ、そういうことか…ラバーソールの野郎…なぁ、さっきまでの『俺』はどこ行ったかわかるか?」
「てめーふざけた事ばかり言いやがって!今度こそ確実にぶっ殺してやる!」
「…まぁ説明は後で良いか。今は重ちーの治療だな…」
「聞けよ人の話!」
仗助は【クレイジーダイヤモンド】で重ちーの身体に触れていく。触れただけで、重ちーの傷だらけの身体が綺麗な姿に戻っていく。
魔法のようなその力にペッシはただポカンと見守る事しかできなかった。
「本当に…治しやがった…」
「とりあえずこれで当面の心配はいらねーだろ…後は重ちーの意識が戻るのを…」
―仗助は、気付くべきだった――
―この事態を引き起こしたのがラバーソールであると気付いていたのだから―
―ついさきほどラバーソールに何をされたかを思い出すべきだった―
―そうすれば、避けられた―
治療を終えたすぐ後に…重ちーの腹部が爆ぜた。赤黒い液体や黄色いスライムが仗助とペッシの目の前で広がっていく。
「あ…」
すぐに仗助は自分のミスに気付く。まず治療の前にスライムが重ちーの身体に紛れ込んでいないか確認すべきだったのだ。
ラバーソールに新たな怒りを覚えたが、その前に身体が動く。今すぐ治せば重ちーは大丈夫、そう信じて。
だがそんな仗助よりも早く動く者がいた。ペッシだ。
ペッシは仗助を蹴り飛ばし、重ちーから離れさせる。新たな怒りを覚えていたのは、仗助だけではない。
「仗助、てめぇ…重ちーの友達だろうが…てめーがどう思っていたかは知らねーが、少なくとも重ちーはお前の事を『信頼』していた…」
蹴り飛ばされた仗助はすぐさま立ち上がり、異様な雰囲気を纏ったペッシと対峙する。
「てめーは!重ちーの『信頼』を、二度も『侮辱』した!償いは必ずさせるぜっ!」
「ま、待ってくれ!というか、どけっ!重ちーは急がないとやばいんだぞ!」
ペッシは【ビーチボーイ】を振り上げ、針を仗助へと投げ込む。
仗助はその針をすんでの所で回避し、重ちーへと向かう。
「これ以上近づかせる物かよ!」
再び攻撃しようとするペッシの眼前を黒い何かが覆い、その攻撃を一瞬遅らせる。
仗助は最初の攻撃を避けた時点で学ランを脱ぎ去り、ペッシへと投げつけていたのだ。
重ちーまであと5メートル、あと3メートル。そこまで近づいた仗助の首に、何かが巻きつく。
その正体は、糸っ。
「うぐぅっ!?」
「俺の【ビーチボーイ】は周りの振動を感知してある程度ではあるが獲物の場所はわかるんだよっ!このまま絞め殺してやる!」
ギリギリと【ビーチボーイ】の釣り糸で仗助の首を絞めつつ、ペッシは重ちーから少しでも離れようと後ろに下がる。
仗助も目を血走らせ、顔を赤くしながらもその動きに歯向かうように重ちーへと近づこうとする。
(だ、駄目だ…先にこいつをどうにかしねーと…重ちーの治療ができねぇ!)
【クレイジーダイヤモンド】を発現し、自分の背にいるペッシを殴りつける。
怯ませた隙に首に食い込んだ糸を取り外し、お互い距離を取って再び向かい合う。
「あんたとはやり合う理由は本当ならねーんだ!だが、悪いが少しの間眠っててもらうぜ!」
「うるぜぇ!今度こそ仕留める!ぶっ殺す!直線だっ!」
ペッシが【ビーチボーイ】を振り上げ、再びその針を仗助へと向ける。その動きは腕ではなく、直接心臓を狙う…直線!
仗助は背中に背負っていたアイアンボールボーガンを構える。これなら針が自分に到達する前に相手の動きを封じる事ができるはず。
だがその狙いは頭や心臓など致命傷となりえる所ではなく腹部。これは誤解が招いた戦いなのだから、殺す必要は…少なくとも仗助にはなかった。
針が迫る。仗助はボーガンの引き金を引いた!
だが、鉄球が打ち出されることは無かった。ビン、と弦の緊張が解かれる音がむなしく響く。
鉄球は落ちないよう完全にセットしていたはずなのに、何故?仗助のその疑問はすぐに解消された。
『ミツ…ケタ…ゾッ!』
足元を見ると…重ちーの【ハーヴェスト】が、鉄球を持っていた。
◆
重ちーは幸か不幸か…イエローテンパランスの罠による衝撃で意識を取り戻していた。
自分に何が起こったのかわからない。怪我の状態が微妙に違う気もしたが、少なくとも自分はもう長くはない事を重ちーは悟った。
物音や怒声が重ちーの耳に入り、朦朧とした意識の中で仗助とペッシが戦っている事がわかった。
悲しい事に仗助は戦いに、殺し合いに乗ってしまい、友達であるはずの自分にさえこのような仕打ちをした。
(こんな…思いをするのは…オラだけで充分だどっ…!仗助は…ここで…っ!)
死力を振り絞り【ハーヴェスト】を発現させる。丁度ペッシと仗助が向かい合い、仗助は背中のボーガンに手を掛けていた。
(弾を…弾を取るんだどっ!【ハーヴェスト】っ!)
普段では考えられないような速度で【ハーヴェスト】は動き、鉄球を持ち去る事に成功した。
『ミツ…ケタ…ゾッ!』
(仗助…人を殺すなんて悪い事なんだどっ…悪い事は嫌いだど…ペッシ…頑張る…ど…)
重ちーはそこで意識を手放した。あとほんの少し意識が持っていたら、見たくないような出来事を目にしていただろう。
そういう意味では、重ちーは幸運だった…
◆
(嘘だろっ!?な、なんで【ハーヴェスト】が…)
信じられない出来事に呆気に取られた仗助はボーガンを構えたまま動けずにいた。
当然、そのような獲物を逃すはずも無く、【ビーチボーイ】の釣り針が仗助の胸から心臓に喰らいつき、釣り上げた。
「がはぁっ!」
心臓を抉られる激痛。仗助は血反吐を吐き、膝をつく。
ペッシは先ほどの二の舞は踏まぬよう、すぐに釣り針を自分の元へと巻き上げていた。仗助の心臓ごと。
仗助は胸を押さえながら、悟る。
(こりゃ…駄目だな…せめて…せめて重ちーだけでも…)
仗助は身体を強引に動かし、四つんばいになりつつも重ちーへと近づく。
視界の隅で鉄球を持っていた【ハーヴェスト】が塵のようになって消滅し、鉄球がゴロンと転がるのが見えた。
それでも尚、もしかしたらという期待を込めて仗助は重ちーへと近づく。
「重…ちー…」
ヒュンッと音がなり、喉元に熱い何かが通過したような、そんな気がした。
ペッシの【ビーチボーイ】の釣り針が、仗助の喉元を背中側から抉ったのだ。
仗助はペッシの駄目押しの一撃でついに事切れる。伸ばされた手は、ついに重ちーに届く事はなかった…
◆
「今度こそ…初めて人を殺しちまった…」
ざくり、ざくりとペッシは穴を掘っている。
「…殺すってのは…悲しくて…めちゃくちゃ覚悟がいるんだな…」
丁度人一人が入れそうな穴を掘り終えると、ペッシはその穴の中に重ちーの死体を放り込んだ。
「ちくしょう…なんでこんな涙を流すんだよ…重ちーを殺した奴を殺した…いうなれば仇討ちなんだ!なのになんで、ちくしょう!」
重ちーの身体の上に土を被せていく。その間にも涙はポロポロとこぼれていく。
「俺は…暗殺チームの一人なんだ…人殺すのが仕事の人間だ…そんな人間がこう思うのは…おかしいはずなのに」
ペッシは重ちーを埋めた隣に再び穴を掘り始める。
「殺し合いなんて…馬鹿げてる、重ちーの言うとおりだ…」
出来上がった穴に、自分が殺した…仗助を放り込む。
「こんな殺し合いがなけりゃ…重ちーとこいつもずっと友達でいられたんだ…っ!」
仗助の身体の上に土を被せていく。簡素ではあるが、重ちー、仗助の二人の埋葬を終えたペッシは…空を見上げた。
月はほんの少し傾き、時間が確実に進んでいる事を物語っている。こうしている間にも、殺し合いが進んでいる。
「俺は、この殺し合いをぶっ壊す…正直、心細いし、今も兄貴に頼りたい気持ちがある…
それでも!殺し合いをぶっ壊すって覚悟だけは、絶対に曲げねぇ!」
ペッシは自分のデイバックを背負うと、ペッシは二人の墓を後にする。
「重ちー、見ててくれ…俺は必ずやり遂げて見せるからな!
仗助、てめぇが乗っちまった殺し合いが壊される様を、あの世でじっくり見てやがれ!」
ペッシはもう泣いてはいない。泣いてはいないが、その目にはキラリと光る物が秘められていた。
【G-3北部・1日目 黎明】
【ペッシ】
[時間軸]:ブチャラティたちと遭遇前
[状態]:頭、腹に多少のダメージ。悲しみと決意。
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(数不明)
重ちーが爆殺された100円玉(爆弾化しているかは不明。とりあえずは爆発しないようです。)
[思考・状況]
1.この殺し合いをぶっ壊す
2.チームの仲間(特に兄貴)と合流したい
3.荒木をブッ殺す
4.ブチャラティたちを殺す…?(或いは協力するべきなのか?信頼できるのか?)
5.娘(トリッシュ)を手に入れる
【2人のマンモーニ】 【解散】
【東方仗助 死亡】
【矢安宮重清 死亡】
【残り 70人】
◆
重ちー、仗助が眠る墓の前に男が立っている。男の顔は、地の下で眠っているはずの『仗助』。
『仗助』はしばらくすると、大声で笑い出した。
「ヒィーヒッヒッヒッ!お間抜けな奴らだぜぇ!見てて最高のショーだったぜ!ヒヒヒ!」
『仗助』の顔に亀裂が走り、中からハンサム顔が現れた。
「面白いくらいに引っかかりやがって!馬鹿じゃねぇの!?ヒヒヒヒヒ!!!」
ラバーソールは散々暴れ、馬で離脱した後…少し離れた所でひっそりと様子を窺っていたのだ。
本来ならもっと離れたかったができなかった理由が二つ。ショーを間近で楽しみたいという気持ちと、重ちーに仕掛けた罠を確実に作動させるためだ。
しばらく様子を見ていると案の定仗助が現れ、一悶着あった後に重ちーを治療しはじめた。
治療が終ったのを見計らい、重ちーの内部に潜ませていたスライムを動かし、血肉とスライムによる花火を打ち上げた。
「ヒヒヒ、その時のジョースケやペッシの顔ときたら…本当、楽しませてくれたぜぇ!ジョースケ!」
ひとしきり笑い終えると、ラバーソールは二つの墓を発き出した。
月明かりの下に、重ちーと仗助は晒される。
「ジョースケェ…あっけなく死にやがって…もっと楽しませてほしかったぜぇ、ヒヒ!
まぁ、楽しんだ後は後片付けもキッチリしなくちゃなぁ!俺の糧になりな!」
【イエローテンパランス】を重ちー、仗助の死体に被せ、うじゅるうじゅると溶かし、消化していく。
その様子を見ながらラバーソールは考える。
「さぁて…次は誰の姿で暴れてやろうか…承太郎か花京院か…仗助の姿であえて暴れるのも面白いかもな…ヒヒヒ!」
月明かりの下、黄色い悪魔はヒヒヒとこれからの事を考え、笑っていた。
【G-3中央部・1日目 黎明】
【ラバーソール】
[時間軸]:承太郎と戦闘中、ザリガニ食べてパワーアップした辺り。
[状態]:健康。仗助、重ちーを食べてパワーアップ!?
[装備]:サブマシンガン@小消費(ヴェネツィア空港警備員の持ってたやつ)、ヨーロッパ・エクスプレス(シュトロハイムの愛馬)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:勝ち残り、優勝。溺れるほどの金を手に入れる。
1.誰かの姿で好き放題暴れるつもり。
2.状況によっては承太郎、仗助、花京院に化ける。
3.ディオからの報酬よりも美味しい褒美だ!ディオなんてどうでもいい!
[備考]
※ラバーソールは承太郎、仗助、花京院に化けれます。偽のスタンド像も出せますが性能はイエローテンパランスです。
※ラバーソールは仗助が自分自身の怪我も治せると勘違いしています。
※仗助、重ちーの死体はラバーソールが美味しく頂き、消滅しました。
※仗助と重ちーの支給品がG-3中央部に放置されています。ラバーソールが回収するかどうかはわかりません。
※ラバーソールがこれからどこへ向かうかは次の書き手さんにお任せします
投下順で読む
時系列順で読む
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最終更新:2016年07月03日 10:32