(――はっ)
フーゴは慌てて起き上がった。
人を見下した態度のあの男と会話した後の記憶が抜け落ちている。いつの間にか眠っていたようだ。
(こんな精神状態でよく寝られたな……)
ぼんやりと他人事のように考え、時計を見る。1~2時間ほど経過していた。
(遅れを取ったんだろうな。もう既に何人か参加者が犠牲になっているのかもしれない)
しかし、焦りは感じなかった。周りに人の気配が無いからかもしれない。
人どころか、生物の気配すらないが。
(一人……か)
さっきの男の言葉が耳元で甦る。
――「いいかフーゴ、断言してやる。
『もうお前は、この世で誰からも信頼されてない』」
フーゴは空を見上げた。
(ブチャラティ達には会いたくない。組織の人間にもだ。だが、彼らは簡単にやられはしないだろう。それは僕自身が良く知っている。
このまま、あちこちをウロつけばきっと鉢合わせしてしまう)
無意識にフーゴは海のすぐ近くに来ていた。
(そうか、海! 脱出……は、無理か)
船も何も無い。支給品といえば、あのマスクのみだ。
水面を見つめていると、遠ざかるブチャラティ達と、そのボート目がけて泳ぐナランチャの姿がフラッシュバックした。フーゴは海に背を向ける。
ふと、地図の存在を思い出し、バッグから取り出す。眺めながら、フーゴは眉をひそめた。
(荒木とかという男の悪ふざけだろうか、これは?)
あり得ない地図が記されている。ナイル川にネアポリス駅、タイガーバイムガーデン。
「あれも、これも」と見境無く料理を乗せた欲張りな皿のようだった。
馬鹿馬鹿しい、と地図を閉じようとしたが、思い当たって再び目をやる。
(この地図が本当なら、こんな混沌とした世界が存在する訳が無い。ひょっとすると、これらは荒木が実際に各国から集めた、もしくはコピーしたものでは……?)
ありえる。この時間に鳥や虫の泣き声すらしないのは不自然だ。参加する人間と土地だけを集めた、彼が作り出した箱庭か何かに自分たちはいるのかもしれない。
だとすると、もし手段があったとしても、安易に脱出は試みない方がいい。
結界か何かを破って“外”に出られるかもしれないが、ブラックホールのような空間に閉じ込められないとも限らない。
一瞬、“身投げ”という言葉が頭を過り、首を横に振った。
死ぬのは怖い。そんな覚悟があればとっくに自分はこの世にいないだろうし、ボス達の制裁を恐れる必要もない。
(“永遠の逃亡”か“死”。僕にはこの2つの選択肢が残されている)
――「さあ! どうするフーゴ!?
仲間からもボスからも信頼を失ったお前は!
お前は一人だ! これから先、誰もお前を信じちゃくれない!!」
(そうさ、誰も僕を信じてはくれないだろう)
フーゴは目を瞑った。
(だから僕も、誰も信じない)
誰にも遇いたくない。
今後、もし誰かが自分の前に現れた場合、「自分に構うな。あんたが背を向けて立ち去れば何もしない。
だが、一歩でもこちらに向かえば攻撃を開始する」と忠告する。
従った場合は、放っておく。だが、無視した場合は迎え撃つ。
(例えそれが、ブチャラティ達やボスだとしても……?)
ブチャラティ達を始末しても、フーゴ自身が“ボスを裏切った人間の仲間である”という事実は変わらない。
かといって、すんなりとブチャラティ達の元へ戻れるほど、彼は強い人間ではない。
(僕は1人なんだ……)
フーゴは再び空を見た。
あの向こうに、“本当の世界”があるのだろう。
(勝者は1人。僕がここで突っ立っていても、必ず勝ち残っている人間が僕を探しに来るはず)
攻撃は最大の防御。
逃げ切るには、立ち向かわなくてはいけない時がきっと来る。
(どうすればいいんだ、僕は……。その時までに、結果が出せるのだろうか……)
夜が明けたにも関わらず、フーゴの胸の中には深い闇が渦巻いていた。
【B-10 /1日目 早朝】
【
パンナコッタ・フーゴ】
[時間軸]:ブチャラティチームとの離別後(56巻)
[状態]:苦悩と不安、軽い鬱状態、傷心、人間不信
[装備]:なし
[道具]:
ディアボロのデスマスク、支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:「近付くと攻撃する」と警告をし、無視した者とのみ戦闘する
1.僕は1人なんだ……誰も信じられない……
2.ブチャラティたちを始末する……のか?
3.
ティッツァーノ、
チョコラータ、ディアボロは組織の人間だろう
4.3に挙げた人物とは出来るだけ敵対したくない
[備考]
※ 結局フーゴはチョコラータの名前を聞いていません
※荒木の能力は「空間を操る(作る)」、もしくは「物体コピー」ではないかと考えました(決定打がないので、あくまで憶測)
※ 地図を確認しました
※プッチ達のヘリコの音には気付いていません
※フーゴがここに居続けるのかどうかは、後の書き手さんにお任せします
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最終更新:2009年06月25日 00:03