静寂が辺りを包む。
薄明かりに照らされた壁掛け時計の刻む音だけがその静寂を破る。
チクタクと一定の間隔で進み続ける振り子はただ虚しく時を刻む。上がっては下がり、再び往復するだけの決して外に出ることは出来ない囚われの身。
それはまさにその場で悪戯に時を過ごす男の姿を示唆しているようだった。
耳を澄ませる。男はなにもできない鬱憤からか、乱雑にデイバッグより飲料水を取り出す。
怒りを静めるように喉を潤そうとするが容器を口元で傾けたとき、既に中身が空であることに気づく。

「クソが………ッ!!」

メトロノームのようにリズムを告げる時計の音に一瞬だけ打楽器が重なる。
宙を舞った容器は壁に当たるとカランと乾いた音を立て、力なく落下した。

自らを静める溜息のような深呼吸をひとつする。手持無沙汰となった両手は自然と疼く傷口へと向かった。
緩くなりかけていた包帯をきつく結びなおすと、男はその巨体を椅子より持ち上げる。
質素な部屋には机と一組の椅子、ソファー、そしてベット。そのベットに今は一人の男が横たえられていた。

気絶しているのか、寝ているのか。男の容態を心配する様子もなく、ただ包帯を自らのと同様に結びなおす。
紅く染まったものも取り替える。そして机より真新しい純白のそれをあてがい、またもや結ぶ。
それが終わるのを確認すると男は椅子に座り、深く腰掛けた。

時計の秒針は何度目かわからない回転を辿っていた。
そんな一コマ、そんな一時。



    ◆



―少し時を遡ろう。

ウエストウッドは文字通り立ち往生していた。おんぶのような形で抱えている背中の男。
特別な感情をもっているわけではない。『自分が最強だ』、それを証明しまいと行動してきた自分が何故と首を捻りたくはなる。
漠然と湧き上がる義務感の前ではそれも瞬時に消え、元来深く考えないその性格も相まってか、ウエストウッドはとにかく安全の確保を急いだ。

しかしながらあちこちから聞こえる闘争の音。
血肉沸き踊る魂の削りあい。
絶叫と衝動と騒音。

北からも南からも、四方を囲むように響く戦闘音にウエストウッドはどうしようもなく、ただ立ち尽くしていた。
単純に考えれば止血や治療のためにすぐ北にあるジョースター邸に赴くのがベストだろう。
しかし既に館は灯りに照らされている。遭遇者の危険性と館という見返りをはかると素直には頷けない。

ならば南はと、思うがこちらこそ論外。
流星の下に集まった男達による馬鹿騒ぎ。
すでに戦闘と言う火薬は着火され、上空では奇術師びっくりの空中浮遊。地上では拳と拳の達人芸。
姿は見えずともその熱気は肌を通して空気が震えるのを感じるほどであった。

汗が額を伝う。思考は堂々巡りに入る。
動きたいが動けない。動きたくないが動きたい。決断を進めなければ傷口から流れ出るその血液の損失は深刻な損害を持ち主に与える。
ならばどうすべきか。
どのぐらいその場にとどまったことか。薄暗い湖の傍でどのぐらい息を潜めていたのだろうか。
弱者がするように茂みに逃げ込み襲撃者に脅えるはめになったのはどうしてだろうか。
いつのまにか妖艶な月明かりは温かい仄かな太陽光へと姿を変えていった。

静寂が辺りを包む。
どうやら参加者による饗宴は終わりを迎えたようだ。
それを合図にしたかのようにウエストウッドは足を南、闘争の跡地へとその身を躍らせる。
それは館より二人の男が飛び出てきた結果でもあった。
鬼気迫るその様子と狂気の色を薄明るくなった中で確認した彼は自然と追われるような形になり、その選択肢を選ぶほかなかった。

湧き上がる戦いの欲望をぐっと押さえつけ、慎重に南へ向かう道を辿る。
上空で響く叫び声、甲高い金属音。闇夜より轟く拳を打ち合わせる音、鼓舞しあう互いの声。
思い返すその記憶は未だ一刻も経過していない鮮やかなもの。
名残惜しそうに残り香に意識を向けながらも彼はやはりその場にとどまることはしない。それが今の彼の義務なのだから。仮にそれが偽りだとしても。

看守として鍛え抜かれたその身体が息を乱す頃、足早に動いていた足が止まる。
ぜえぜえとあがった息を吐くウエストウッドの足元には男の体があった。
血の跡を辺り一面に撒き散らしながらも安らかな寝顔を浮かべ道路に転がる男は実に不可思議に思えた。
試しに足で軽く蹴りを入れるも反応はない。声をかけるもこれもまた無反応。
困ったように周りを見渡すが何もこの謎を解くようなものはない。男の背中で申し訳なそうにデイバッグがちょこんと存在を主張しているのが物悲しい。

「別にぶっ殺してもいいんだけどな………」

誰ともなしに呟いた言葉が自らの耳に届く。
最強であるための証明。その手段として怪我人、それも意識のないものを虐げることはどうも興ざめであった。
かといってここに放置するのも後味が悪い。
それになにより気になるはこの男。見れば全身至るところ傷だらけである。疲れも相当あるのだろう、呼吸は深く長い。
さらに道路に広がる血の量も相当のもの。つまるところ戦闘を行ったの間違いない。
にもかかわらずその出血源がみつからないという不可思議な点に探偵でもないウエストウッドは首を傾げるしか出来なかった。
彼の脳にあるひとつの可能性が浮かぶまでは。

しばらくの沈黙の後、ウエストウッドの瞳が怪しく輝く。
巨体を生かして、器用に二人目を担ぎ上げる。
彼の顔に浮かび上がった笑顔が何を意味するかは、彼自身しかわからないだろう。


    ◆



―再び時を戻そう。
ベットに背を向け、ソファーを見張るように椅子の向きを変える。
目の前には以前目を覚まさない二人目の男がいる。彼自身が担ぎ上げてきた男である。
理由は単純。彼の周りに血痕が大量にあったにもかかわらず傷ひとつ無いという奇妙な事実がウエストウッドにひとつの可能性を導き出させた。

スタンド能力。今の状況、怪我人の治療を可能とするものならば彼にとって願ってもないもの。
彼を担いで移動させた理由は襲撃者を警戒しての行動。襲撃され、戦闘を行えることは大歓迎だがその際に二人の怪我人を巻き込んでは目も当てられない。
加えて鉄塔や館であったように思いのほか殺戮に乗った参加者は多いようだ。その配慮からの移動であった。

とにかく暴れるにはベットに寝てる男の怪我が治ってから。ならばすべきことはひとつ。
治させる。拒否しようものならばそれはそれで戦う理由が出来る。それでも拒むようであれば…

「俺が…ぶっ殺してやる………ッ!!」

獰猛な狼のような笑み。歯をむき出しにする男は気づいていない。既にその首には首輪が架けられていることに。
所詮彼自身も、彼の主人である男も、今から放送を流す男の前ではただの玩具のひとつにしかすぎないということ。
眠る二人は何も知らずただ壁掛け時計だけが三人を見ている。
短針は間もなく数字の六を指そうとしていた。




【D-3 北部の民家/1日目 早朝(放送直前)】
岸辺露伴
[スタンド]:ヘブンズ・ドアー
[時間軸]:四部終了後
[状態]:気絶、右肩と左腿に重症、貧血気味
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品0~3
[思考・状況]
基本行動方針:色々な人に『取材』しつつ、打倒荒木を目指す。
1.気絶中
2.怪我を治したい
3.あとで隕石を回収しに来よう
[備考]
※まだ名簿・地図・不明支給品を確認していません。
※プッチ神父と徐倫の情報は得てません
※傷の出血は止まりました。包帯で応急措置は済んでいます。手が挙がる、足が動くかどうかなど後遺症があるかどうかは次の書き手さんにお任せします。

ヴィヴィアーノ・ウエストウッド
[スタンド]:プラネット・ウェイブス
[時間軸]:徐倫戦直後
[状態]:左肩骨折、ヘブンズ・ドアーの洗脳
[装備]:なし
[道具]:基本支給品(飲料水全て消費)、不明支給品0~3
[思考・状況]
0.スタンド能力を持っている男(シーザー)に男(露伴)を治療させる。
1.露伴を治療する
2.露伴の命令に従う
3.出会った人間は迷わず殺す
[備考]
※怪我の応急措置は済ませました。戦闘などに影響が出るかどうかは次の書き手さんにお任せします。
※支給品を一切確認していません。
※自分の能力については理解しています。
※ヘブンズ・ドアーの命令は以下の二点です。
 1.『人を殺せない』
 2.『岸辺露伴を治療ができる安全な場所へ運ぶ。なお、その際岸辺露伴の身を守るためならスタンドを行使する事を許可する』
※ヘブンズ・ドアーの制限により人殺しができないことに気づいていません。
※鉄塔の戦いを目撃しました。プッチとサーレーの戦いは空のヘリで戦闘があった、地上では乱戦があった程度しかわかっていません。
 また姿も暗闇のため顔やスタンドは把握していません。
※館から出てきたジョナサン、ブラフォードを見ました。顔まで確認できたかどうかは次の書き手さんにお任せします。


シーザー・アントニオ・ツェペリ
[時間軸]:ワムウから解毒剤入りピアスを奪った直後。
[状態]:首に若干の痛み(戦闘には支障無し)、疲労(大)、ダメージ(大)
[装備]:スピードワゴンの帽子。
[道具]:支給品一式、エリナの人形、中性洗剤。
[思考・状況] 基本行動方針:ゲームには乗らない。リサリサ先生やJOJOと合流し、 エシディシ、ワムウ、カーズを殺害する。
1.………(気絶中)
2.荒木やホル・ホースの能力について知っている人物を探す。
3.スピードワゴン、スージーQの保護。
4.ストレイツォは出来れば殺したくない。
5.女の子がいれば助ける。

[備考]
※包帯は民家にあったものです。



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65:流星飛行 キラッ☆~feat.岸辺露伴~ 岸辺露伴 118 性/さが
65:流星飛行 キラッ☆~feat.岸辺露伴~ ヴィヴィアーノ・ウエストウッド 118 性/さが
88:名に棲む鬼 シーザー・アントニオ・ツェペリ 118 性/さが

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最終更新:2016年07月05日 22:40