その死体には目が無かった。
いやきっと舌もそれどころか心臓や内臓すらあるのかどうか疑わしいとティッツァーノは思う。
なぜならティッツァーノの目の前に転がっている死体は、
数時間前にラバーソールという男が、内側からバリバリと食べてしまっていたからである。
ティッツァーノがじっと死体を見つめていると、眼球があった所にできた穴をアリが出たり入ったりしているところだった。
人間の肉は柔らかくて齧りやすいのかもしれない。
そう思うとこの血と肉のすえついたような匂いも、なんとなく熟れ過ぎたフルーツの匂いに感じてくるから不思議だ。

そういえば仕事が終わったらスクアーロと一緒に食べようと思って、ドリアンを買っておいたんだっけ。
この暑さで腐っていないと良いのだけれど。
私がいなくなった今、スクアーロは一人で食べてるんだろうか?

なんでこんな事を考えたんだろう?
それは多分今の状況のせいだ。
ティッツァーノは腹部にのしかかる圧迫感で現実に引き戻された。

耳にかかるヴェルサスの吐息が生暖かい。
掴まれた腕もしびれてきたような気がする。
ティッツァーノはヴェルサスに掴まれたままの両腕に力を込め抗議の意思を伝えたが、
自分の上のヴェルサスはどいてくれる気配が無い。

え?どういう状況かわからないって?
今の状況を説明すると、ティッツァーノの頭は地面に押し付けられて、
目の前の死体と顔をつきあわせていて、体はヴェルサスの下にある。
まあ簡潔に言ってしまうとちょっとアレな表現になるが「押し倒されている」というわけである。

溜息をついてティッツァーノは唯一動かせる頭で上を見上げた。空はしだいに明るくなってきている。

一体二人に何があったというのだろう?
ナランチャがこの場にいたなら
「あれッ! 急に目にゴミが入った! 見えないぞッ二人なのかよくわからないぞッ!!
見てない! 俺は見てないぞなあーんにも見てないッ!」と叫びそうな状況なのか?
どうして死体の傍にいるのか?
どうしてティッツァーノは現実逃避をしているのか?
この死体はオコモエバだったのかオモエコバだったのか?オで始まってバで終わったのは覚えているのだが。
まあ、それはどうでもいいとして、


何故、二人がこんな事になったかという理由は時をさかのぼること少し前----

*     *      *       *


放送が流れてからのティッツァーノの行動は迅速だった。
テキパキと身支度を整え、傍らで参加者の名前にラインを引いていたヴェルサスに向けて声をかけた。

「ヴェルサス、こちらから仕掛けますよ。さきほどの放送で死亡したという26人、
 この人数が本当ならばかなりの数の人間がこのゲームに『乗った』ということ、
 ボヤボヤしてる暇はありません。一刻も早く行動しないと。」

「仕掛けるって・・・どーすんだよ。嘘をつかせる事しかできねえ能力のくせによぅ。」

まださきほどの喧嘩を引き摺っていたらしい、ヴェルサスの口調には棘があった。
その台詞にティッツァーノは眉をひそめたものの、
自分の手に出現させたトーキング・ヘッドを目の前のヴェルサスに突きつけた。

「嘘をつかせるだけ、というのは語弊ですね。私のスタンド能力は『嘘をつかせる』事ですが、
 スタンドは使いようによっては色んな使い方ができるんですよ。
 例えばこんな風に。」

そう言い終わるや否やティッツァーノは左手でヴェルサスの顔をガッ!と掴むと
右手に持ったトーキング・ヘッドをヴェルサスの口につっこんだ。

「ウボァーーーーーーーッ!? 何すんだお前!!!
 これって俺が嘘しかつけなくなるだけじゃないのか!? ってアレ?」

普通にしゃべることが出来る。

「違いますよ。すぐに着けたからといって嘘ばかりつくわけではありません。
 嘘をつかせる、つかせないは私の意志で決めれますから。」

なるほど、着けてすぐに能力が発動するわけではないらしい。
だからといって断りもなくスタンドを他人の口につっこむのは人としてどうなのか。
ヴェルサスはぶつぶつとつぶやいた。

(こいつ・・・それ言いたいがために俺の舌にスタンドつけたのかよ・・・・!
 ギャングってどいつもこいつもこんな無茶苦茶なやつばっかりなのか・・・?)

ティッツァーノに聞こえないように言ったはずなのだが・・・

「しょうがないじゃないですか、こうでもしないと貴方は理解してくださらないでしょう?」

!?今のはティッツァーノに聞こえないはずである。口の動きでわかったのだろうか?
まさか・・・今度はティッツァーノに見えないように口元を手で隠すと小声で言ってみた。

(えーと、バーカ、バーカ、お前のスタンドどうみてもタコ)

「酷い事を言ってくれますね。それと一つ言っておくとタコは可愛いし美味しいですよ。
 イタリア人以外の方はなじみがないのかもしれませんが。」

やはり聞こえている。
と、いうことは?ヴェルサスはティッツァーノの顔と
自分の舌に装着されたままのトーキング・ヘッドを交互に見比べた後、はっと気付いた。

「ひょっとしてお前とスタンドが電話の子機と親機みたいな状態になってんのか」

「Exactly(正解です)、それとタコは煮るより生で食べる方が私は好きですね。」

返すティッツァーノにヴェルサスは舌にへばりついたトーキング・ヘッドを投げて返す。
あんまり長いこと口の中に入れておきたい物ではない。
ヴェルサスは床にペッペッと唾を吐いた、まだ口の中にぬめりが残ってるような気がする。

「タコから離れろよ・・・。
 お前のスタンドが嘘をつかす以外にも使い道があることはわかった、
 けどそれが俺達から仕掛ける事とはつながらねえだろ。どっちみち相手の舌に付けさせないと意味がないぜ?」

トーキング・ヘッドをキャッチしたティッツァーノは頷くと。

「ええ、そこで問題なんですけど・・・。さっきから私達の足元に散らばってるコレ、一体なんだと思いますか?」

先生が生徒に数学の問題をたずねるような口ぶりである。
間違ったら「このド低脳がー!!」とか言われてフォークで刺されてしまうのだろうか。
それは置いといてヴェルサスは足元に目を向けた、
風にあおられて飛んできたのだろうか焦げた様な跡もあり、所々凹んでいた。
見回すと同じ物があちこちに散乱していた、中には木に突き刺さってブスブスと煙を上げているものまである。

「こいつは・・・チップだな。カジノとかで使われてる。
 ・・・あー、わかったつまりお前はこう言いたいわけだ」

一呼吸置いて続ける。

「このチップは誰かさんの支給品で、紙を開けたはいいけれど使えねえから捨てたんだろ。
 んでもってこのチップの状態からすると、ついさっきこの辺で戦闘があったのは確実で
 しかもこの惨状だと誰か一人は死んでいる可能性が高い。」

「で、ティッツァーノは死んだ奴の基本支給品の水にトーキング・ヘッドを仕込みたいわけだ、
 他の奴が通りかかったら水と食料を奪ってゆくのは目に見えてるだろうからな。」

「俺達は物陰にでも隠れて、水を飲んだ奴がしゃべる言葉をスタンド越しに盗聴する。
 仲間にしていい奴かどうか判断できるし、危険そうな奴なら泳がせて情報を得られる。
 違うか?」

パチパチと拍手が聞こえてくる。ティッツァーノは微笑んでいた、正解らしい。

「すごいですよヴェルサス。」

「百点中何点だ?」

「200点くらいあげたいですね。察しの良い方は好きですよ。」

そんな風に微笑まれるとさっきの暴行もなんとなく許してもいいかなあと思えてしまう。
顔の良い人間の笑顔には、気分を沈静化させる効果でもあるのかもしれない。
ヴェルサスは頭をかくとティッツァーノに言う。

「そこまでわかってんなよぅ、早く行こうぜ。死体があるかどうかもわからねえし、もしあったとしても
 他の参加者が来ちまってるかもしれねえ。」



*     *      *       *



結論からいうと死体はすぐに見つかった。
爆風で飛んできたチップをたどって、いくらかしないうちに異様な匂いがただよってきたからである。
熟れ過ぎた果実の様な匂い。
人間の血と肉の匂いが。

「うへぇ・・・。」

おもわずヴェルサスはつぶやいた。
今、自分の目の前では黄色いスライムが虫の触角の様な帽子をかぶった男性を
内側からむさぼりくらってる最中だった。
B級スプラッター映画の様な光景を間近で見てしまいおもわず後ずさる。
これからしばらくプリンとか食べれなくなりそうだ。

「もういい十分だ・・・・、やめろアンダー・ワールド。」

自分のスタンドに「再現」を停止させるように命令した。同時に男の体をむさぼり食らっていたスライムも消える。
こういう死に方だけはしたくは無いものだとヴェルサスは思う。
こんなわけわからんゲームに巻き込まれた末路がコレとか嫌すぎる。

「あとでゆっくり回収するつもりだったんでしょうね。おかげでわたしの水を使わずにすむようです。」

ティッツァーノが戻ってきた。手にはバッグをさげている、お目当ての物は見つかったようだ。
死体の横にぼすっという音を立ててバッグが置かれた。
このバッグのありかもアンダー・ワールドで探したのである、元々はこの死体の物だったらしい。
安全な場所にバッグと馬を置いて二人の参加者を始末しようとしたが逆に返り討ちにあった・・・。
それがアンダー・ワールドで再現した事実であった。間抜けな話である。

ヴェルサスはティッツァーノに「再生」でわかった事実を伝える。

「こいつを殺したのはラバーソールって野郎だ、スタンド名は『イエロー・テンパランス』
 どんなやつにでも変身できる上に攻撃を吸収しちまうやっかいな能力だ、
 思いっきりこのゲームに乗ってるっぽいから要注意だな。
 それともう一人、ジョースケっていう男がいたんだが放送で死んだって言われてたから
 ラバーソールを追いかけてって殺されたんだろうよ。チップはこいつの持ち物だったみたいだな。
 ところで、ティッツァーノの方こそ「仕掛け」は終わったのかよ?」

「ばっちりですよ。
 ゲームに乗った参加者がいるとわかったのは行幸です。ラバーソールという名前でしたか?
 どんな人間にでも変身できる能力、貴方の言うとおりやっかいですね
 何か合図でも作っておきますか?私達に変身するということも考えられますし。」

そう言いながらもティッツァーノの手は臆する事無く死体を検分し始めている。
なにか使えるものがないか探しているらしい。

「お前・・・よくそんな気持ち悪い死体さわれんなあ・・・。」

「そうですか?組織にいた時はもっと凄い死体をあつかってましたよ、最近だったら輪切りの死体とか、
 切断面がとても綺麗でしてね、血管から骨髄までくっきりと」

「もういい・・・、わかったから続けんな。」

ティッツァーノは頭を振りながら死体の傍から立ち上がった。
何もみつけられなかったらしい。

「とはいえ、同じ男といえども同情しますよ。こんな殺し合いに巻き込まれた末路がこれではね。」

「・・・・・・・・。」

ティッツァーノもヴェルサスと同じ感想を持ったようだ。

「そうそう、もうひとつ報告しておくことがあります。このバッグをみつけた民家で調べたのですが
 水道が使えなくなっているようです、残り少ない食糧品と水を参加者が奪いあうことも予想しているのでしょうね。
 下衆な話です。」

「・・・・・・・・。」

「そこで我々が一番にすべきことは水の確保。死体の水と食料は仕掛けのせいで持ち運べませんからね。
 なのでこれから北の、地図でいうとE-5、繁華街があるあたりにむかいます。」

「・・・・・・・・。」

「隠れるには最適の場所でしょうし、ひょっとすると食糧や水も残ってるかもしれません
 もしなくても武器になりそうな物はここで見つけれる可能性が高いです。ここにとどまるよりましでしょう?」

「・・・・・・・・。」

「というプランなんですけどヴェルサスはどう思いますか、って聞いてますか?」

「・・・・・・・・。」

どうしたのだろう?さっきからヴェルサスは沈黙したまま答えない。表情も逆光でわかりにくい。
その様子をいぶかしんだティッツァーノはヴェルサスに近づいてゆき

「どうかしました? ヴェルサ」

ス。と言い終わらないうちにティッツァーノの視点はぐるんっと半転した。
ヴェルサスに地面に叩きつけられたのだと頭が理解する前に背中に激痛が走る。

隙を見せた自分が悪いというのは良くわかっている。
幸せになりたいとあれだけ力説していたヴェルサスである、
どんなことをしてでもこの殺し合いから脱出したいという気持ちは人一倍強いはずだ。
自分を蹴落としてゲームに勝利するという事も考えておくべきだった!

ティッツァーノが激痛から意識を回復させているうちに、
両手はがっちりとヴェルサスの手で地面に押し付けられていた。
こうなると完全にマウントポジションを取られた形になる。
この状況でスタンドでも出されれば、ひとたまりもないだろう。ティッツァーノのは覚悟を決めた。
こうなったら相打ちでもいい、ヴェルサスがスタンドを出した瞬間を狙って顎の下をカウンターで殴りつける!

自分だってギャングのはしくれである、マウントポジションを取られてしまったのはキツいが、
素人相手に殴り合いで負ける事はないだろう。脳震盪ぐらいはおこさせる自信はある。

ところが、来るなら来やがれというティッツァーノの覚悟を余所に、
対するヴェルサスは何かを仕掛けるそぶりも見せなければスタンドを出す気配すらない。

(どうした・・・? 来ないのか・・・?)

ティッツァーノはおそるおそる顔を上げてみた。
あいかわらず表情は逆光で見てとれないが、ヴェルサスの口は何かを言いたげにパクパクと開閉している。

「お・・・おっ・・・!」

「お?」

なんだろう、心なしかヴェルサスは涙目になってる気がする。

次の瞬間ヴェルサスは声よ枯れよ地よ叫べとばかりに絶叫した。





「男だったのかよお前えええええええええええええええ!!!!!」

「そっちっ!?」


【G-4オエコモバ の死体の傍/一日目 早朝】

【あてのないブラザーズ】

【ドナテロ・ヴェルサス】
【時間軸】:ウェザー・リポートのDISCを投げる直前
【状態】 :軽いストレス、荒木に怒り、ショック受けてます(立ち直れるレベル)
【スタンド】:アンダー・ワールド
【装備】 :テイザー銃(予備カートリッジ×2)、杜王町三千分の一地図、牛タンの味噌漬け、基本支給品
【思考・状況】
基本行動方針:絶対に死にたくない。
0.俺のトキメキを返せ(泣)
1.どんな事してでも生き残って、幸せを得る。
2.『トーキング・ヘッド』で仲間にできそうな人物か判断する。
3.プッチ神父にったら、一泡吹かせてやりたい。
4.この先不安…
5.ティッツァーノムカつ・・・えっ!?
【備考】
※ティッツァーノの『トーキング・ヘッド』の能力を知りました。
※ティッツァーノ以外のマフィアについてはまだ聞いていません。
※荒木のスタンドを「物体をコピーする」能力だと思っています。
※荒木の能力により『アンダー・ワールド』には次の2点の制限がかかっています。
 ・ゲーム開始以降の記憶しか掘ることはできません。
 ・掘れるのはその場で起こった記憶だけです。離れた場所から掘り起こすことはできません。
※『アンダー・ワールド』でスタンドを再現することはできません。
※ラバーソールの『イエロー・テンパランス』の能力と容姿を知りました。

【ティッツァーノ】
【時間軸】:ナランチャのエアロスミスの弾丸を受けて、死ぬ直前。
【状態】 :健康、軽いストレス、背中に痛み、現実逃避中(立ち直れるレベル)。
【スタンド】:トーキング・ヘッド
【装備】 :ブラックモアの傘、岸辺露伴のサイン、少年ジャンプ(ピンクダークの少年、巻頭カラー)、基本支給品
【思考・状況】
基本行動方針:生きて町から出る。
0.今ままで何だと思ってたんだ・・・ 。
1.アラキを倒し、生きて町から出る。
2.『トーキング・ヘッド』で仲間にできそうな人物か判断する。
3.この名簿は一体?なぜ自分はここに呼ばれたんだ……?
4. この先不安…
5. ヴェルサスムカつ・・・えっ!?
【備考】
※ヴェルサスの『アンダー・ワールド』の能力を知りました。
※ヴェルサスの知り合いについてはまだ聞いていません。
※荒木のスタンドを「物体をコピーする」能力だと思っています。
※ラバーソールの『イエロー・テンパランス』の能力と容姿を知りました 。
※トーキング・ヘッドを操作できる射程距離に制限がかかってる可能性がありますが、
 本人は気づいてないようです。(ちなみに原作の射程距離はB)

※G-5のオエコモバ の死体の傍に『トーキング・ヘッド』入りの水がバッグに入った状態で放置されています。
※二人はしばらくするとE-5に向かいます。




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94:夜明けの間奏曲 ドナテロ・ヴェルサス 122:愛・戦士たち
94:夜明けの間奏曲 ティッツァーノ 122:愛・戦士たち

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最終更新:2009年06月12日 00:05