死者に対する追悼の意など欠片もない放送は、終わった。

「……」
「……」

沈黙が、続く。

「エンポリオは、いけすかねえガキだった」

先に沈黙を破ったのは、中性的な顔立ちに長髪、網上の衣服を纏う男――ナルシソ・アナスイ。
中性的と言っても、男性に見合った長身と体格の持ち主であり、女性と見間違うことはないだろうが。

「……」

未だ口を閉ざしているのは、庇面の保安官、マウンテン・ティム。
端正な顔つきは傷跡が付いて尚健在で、むしろワイルドというか、男らしさを引き立てている。

「エルメェスのことは、正直言ってよく知らない。徐倫の友達らしいが、深い付き合いがあったわけじゃあない」

男性として魅力的なこの二人組、並んで歩けば同性異性問わず注目を集めるに違いない。
だが現状彼らは、女性をお持ち帰りしようとかいう思惑があって同行しているわけではない。
彼らがともに行動するのは、殺人遊戯を破壊し、共に過ごすことを望んだ者と再会し、愛と祝福の物語を綴るため。

「非情だろうが、仮に二人が危機に瀕していたとしても、命を懸けれるかというとそうでもない。
 死を悼みはするし、たら、ればを言ったってどうこうなるものでもないしな。
 だがな……」

一呼吸分の間がおかれる。

「死んでいたオレを生き返らせてくれたもののためには、命を懸けれる。急ぐぞティム。状況は一刻を争う」
「行き先について提案があるんだが、いいか?」

ここに来て口を開くティム。まるで、タイミングを窺っていたかの様な返答速度。

「今俺たちは都市部、地図からして中央付近にいる。だが、他の参加者にほとんど遭遇していない。
 双眼鏡があるし視界も開けた今なら、高所からその徐倫ってコを探すことは夜より楽にできるだろうが、地理的に人が寄るから身の安全は確保したい。
 そこで、だ……」

地図の一点を指さす。

「特別懲罰房か」
「ここからそう離れていないし、お前の話が確かなら拠点にするには最適だ」


厳正懲罰隔離房(ウルトラセキュリティハウスユニット)。
アナスイが元いた世界において、高齢者などの弱者の収監もだが、更生意思が見られない囚人を矯正するためにある施設。
当然内部は、暴動、脱獄などを起こしかねない者たちが収監される以上、堅く守られている。
抜け道がない、とエンポリオが評したのだ。外部からしてもそれは同じだろう。
出来るかどうかは別として、房内のシステムを掌握してしまえばなおのこと。

ティムがこのような考えに思い至ったのはアナスイが『グリーン・ドルフィン・ストリート刑務所』の囚人であり、
彼の口から施設の説明を聞いたからだが、これに関連して、アナスイは殺人罪という罪状にも触れた。
背信行為と思いつつ、アナスイはそれまで己の罪についての説明を出来ずにいた。
自分が殺人鬼だという自覚はあるし、その過去によって心が呪われているとも感じる。
だがここで、ティムのそのことを話せば築いた信頼は容易に瓦解するだろうとも考え、なかなか話せなかった。
ましてティムの本職は保安官。殺人犯プラス脱獄犯に対して容赦ない立場。
現にちょっと前には男囚を殺害した犯人を逮捕しようともした。

過去の告白をためらいはしたが、もともと犯罪者が信頼を得るなどと言うほうがおかしいのだ。
それに、荒木の打倒を誓ったものの、アナスイにとって最優先すべきは空条徐倫の保護。
そのためなら、一人や二人敵に回したって構いやしない。
そういった覚悟もあって、アナスイは過去を打ち明けた。

返事は、意外なものだった。

『確かにお前が殺人犯だということは確からしいな。保安官相手に言っていい冗談じゃあない』
『だがアナスイ、『お前が空条徐倫を愛している』のも確かだ。
 自覚があるかはわからんが、そのコの話をするとき、お前の眼は星でも見てるかのように輝いていたぞ』
『お前は徒に他人を傷つけはしないはずだ。
 マイク・Oを逃がした時、お前は『他の『参加者』を殺し回る気なら、放ってはおかない』と言ったろう?
 その思いが本心なら、お前は呪われた心になんか屈しない』

アナスイは安堵したが、ティムは念を押すようにこう付け加えた。

『だがお前が、他の参加者を皆殺しにしてでも徐倫ってコを救うと言いだしたら……』

『俺がお前を止める。生死を問わずだ』


放送数分前の話である。


  ★


「問題は、すでに何者かが入っている場合だが」
「ノープロブレムだ。『ダイバー・ダウン』を『潜行』させれば、房内部を調べることはできる。
 既に徐倫以外の誰かがおジャマしているようなら即退散、だ。施設が施設だからな、用心するに越したことはない」

着々と、滞りなく計画を立てる二人。
守りの堅い施設ゆえ、何者かに占拠されている事態も想定できる。
そのため、戦略的撤退も視野に入れなくてはならない。

(最悪のケースは、プッチという男が部下を引き連れてそこにいる場合。アナスイの選択は妥当だ)

放送を聞く限り、エンリコ・プッチはいまだ生存している。
アナスイの話によれば、危険人物である上に、人にスタンド能力を与え従わせる厄介なスタンドを持つとのこと。
更に、彼ら以上に施設の性能、ひいてはアドバンテージを理解する人物、既にいる可能性は無くはない。
下手をすれば、自らの能力で新たな部下を使役して立て篭もっているかもしれない。
二人で悪の根城に向かうのは無謀の極み。戦力は心許無く、保身に回るしかないのが現実なのだ。

「それと、懲罰房に行く前に寄りたい所があるんだが、いいか?」
「構わないが、いいのか?」
「……どういうことだよ?」
「死亡者26名、実に4分の1以上だ。一刻も早く徐倫ってコを見つけたいのが心情じゃあないか?」

死者の多さは、それだけの危険人物がいることを意味する。
同時討ちの可能性を考慮しても4分の1は多すぎる。
はっきり言ってティムも想定外の多さと感じており、殺し合いを阻止しようとする彼らは早急な対応を迫られている。

「わかってる。出来る限りすぐに済ませたいとも思う。だが、これからすることは徐倫のためでもある。
 せっかく脱獄したのに、また束縛される羽目になっちまったんだからな。再会した時のために、何とかしときたいのさ」

一拍置いて、ティムはアナスイの言わんとすることを把握した。


  ★


「『ダイバー・ダウン』!」

傷ついた無人のビルにて響く声。
アナスイは己が化身、『ダイバー・ダウン』を発現し、数刻前に見た死体の首に『潜行』させた。
正確には、『潜行』したのは死体の首ではなく――

「……よし、機能は停止している。取り外しても爆発はしないだろう」

――首輪。

「確かに、脱獄した後に首輪が付いてたら、いい気分しないだろうな」
「だろう? それに徐倫に首輪は似合わない。どうせなら首輪の代わりに指輪をプレゼントしてやりたいねオレは」

荒木の打倒のためにいずれ必要になる首輪の解除。
アナスイは、ちょうど死体も見かけたので、首輪のサンプルを調達することにした。
首周りに傷が多数あった死体だったが、幸い――本来そういった表現は似つかわしくないが――首輪に目立った傷は無かった。
死体があったのはビル屋上で、階段を昇る手間はあったが(あまり目立ちたくなかったので、スタンド能力を使って登ることはしなかった)、見返りは大きかった。
『死亡者の首輪は機能が停止する』、これは首輪を外す際に大きなヒントになり得る。

「しかし、爆発しなかったからいいものの、片腕を失いかねなかったぞ?」
「何も最初から外そうとしてたわけじゃあねえ。機能が停止してるかどうか確かめただけだ。
 まあ、俺やお前の首輪で試すわけにはいかなかったがな」
「屁理屈だろ。それに、死ぬほど痛いぞ。爆発は」
「分の悪い賭けってことは重々承知してたさ。だが徐倫のためならこれくらいのことわけない。
 よし、首輪を手に入れて早く懲罰房に向かうぜ!『ダイバー・ダウン』! 首の骨を『分解』してねじ切れ!」

『ダイバー・ダウン』が右腕を死体の首に『潜行』させ頸椎を『分解』、左腕は頭を抱えて蛇口を捻るかのように軽く回す。
ボキリという音には似つかわしくない、花を摘むかのように優しい挙動で、分解作業は完了した。
カランと乾いた音が響く。

「死体をいたぶるのは人道に反するだろうが……必要悪として見逃してくれ」

アナスイがティムに向かって一礼。

「頭をあげてくれ。首輪を外すとなるといずれ必要になることだ」


(少々大胆だが、アナスイはある程度は周りが見えている。マイク・Oのように妄信的な行動はとらないと願いたいが……)

マウンテン・ティムは、マイク・Oとの邂逅以来、アナスイの行動方針に懸念を抱いていた。

“参加者の誰かを見つけ、守ろうとしている”
推測にすぎないが、これがマイク・Oの基本行動方針。
立場は違えど、それはアナスイとて同じなのだ。
一歩道を踏み外せば、マイク・Oが男囚にやった以上に他人を傷つけてしまうかもしれない。
だからこそティムはアナスイに言ったのだ。『周りが見えなくなればお前を止める』と。
愛とはすばらしいものだ。慕い、大切にする心は、強大な敵を前にしても勇気を奮い立たせてくれる。
だが、独りよがりな愛は愛とは言えない。
14歳の女性に恋をした身だが、彼女は既婚者だった故に、叶わぬ恋として身を引いた。
役に立ってあげたいと、この世のあらゆる残酷さから守ってやりたいと誓いはしたが、伴侶から奪い取ろうとは決してしなかった。
慕わず、大切にせず、無理やり奪い取り、心を真正面から受け止めようとせずして、なにが愛か。
愛した女性の気高さ、純潔さに敬意を払っているからこそ、ティムはそう心得ている。

(アナスイ、お前には『愛』を履き違えてほしくない)

マイク・Oと戦ったが故に、姿が重なるが故に、ティムはアナスイのことを心配していた。
いつか、アナスイは徐倫というブレーキが壊れた時、制御できない暴走機関車になってしまうのではないか、と。
「愛する者のため」と、その思いを盾に殺人を正当化し必要以上に手を汚してしまうのではないか、と。
荒木の能力を『死者の蘇生』と考えていることもあって、乗ってしまう可能性は、杞憂とは言い切れないのだ
司法権を持つティムとしては、出来ることならアナスイを法に沿った方法で更生させたいと思っている。

(だが、殺人鬼としての本性を蘇らせるようなら、俺はお前を……)
「何やってんだティム、用はもう済んだんだ。とっととずらかるぞ」
「……ああ、すまない。ちょっと、考え事をな」
「おいおい、ボーっとしてんじゃあねーぜ。ここで敵にでも襲われたら」



「男だったのかよお前えええええええええええええええ!!!!!」



アナスイの言葉を遮るように、轟き渡る男の声。



「……どういう状況だ?」
「オレに聞かれても困る。さっさと懲罰房に向かうぞ」
「徐倫ってコを知ってるかもしれないぞ?」
「おいおい、徐倫はタフだが、誰がどう見たって女の子だぜ」
「あの様子だと、女性らしき者になりふり構わず付きまとう輩かも」
「急ぐぞティム! 野放しにしてたら徐倫が危ない!!」

目立つことを恐れていたとは思えぬほど、アナスイは華麗に、素早く建造物の外壁を駆け抜ける。
ティムは見逃さなかった、アナスイがマジに焦った目つきをしていたことを。

(男と女を見分けられないような奴が、女をたぶらかせられるとは思えんがな)

心の内にそんな思いを秘めつつも、含み笑いを浮かべティムは後を追う。


  ★


男が男に押し倒されている。
そんなシチュエーションは、そのテの方々なら泣いて喜ぶだろうが、生憎と彼らはそういった間柄ではないし、かと言って眺めて喜ぶ者もいない。

「いい加減離れてくださいよ、ヴェルサス。あなたが大声出したもんだから、他の参加者が寄ってくるかもしれない」

押し倒されている男はティッツァーノという。
普段のような敬語口調ではいるものの、声色は怒り心頭といった感じだ。
女と勘違いされていたことよりまず身の危険を案ずるのは、彼がギャングの一員という身の上であるからか。

「う……うるせェ! テメーみてーな雑魚なんざスタンドの力がなくったって!」

押し倒している――と言うと語弊があるだろうが、事実なので仕方ない――男はヴェルサス。
更生施設に送られ、不幸な生活を送った彼だが、不幸というには規格外な衝撃的事実(と言ってもほとんどヴェルサスの早とちりだが)を目の当たりにして尚、
ティッツァーノに攻撃を加えようとしている。

「雑魚? 雑魚と言ったんですか? このティッツァーノに対して二度もッ!」
「その女みてーなツラを修正してやらあ!」
「ギャングの私が、ただの一般人に屈するとでもお思いですか!?」
「見下してんじゃねえええええ!」

取っ組み合いの喧嘩までし始めた。
ヴェルサスの勘違いを皮切りに、互いの怒りは燃え盛る炎のように抑えられなくなったのである。
スタンドが戦闘向きでないこともあり、喧嘩は素手による格闘で行われたが、血ヘドブチ吐く修羅場かというとそうでもなく、
髪の毛や服を引っ張り合うといった、なんというかこう、微笑ましいものであった。
この程度のきっかけで殺し合いに発展しようものなら、ストレスに対する抑圧がきかないどころの話ではないので、当然と言えば当然だが。

「グッ……ヴェ、ヴェルサス! ストップです! 上から人が!」
「その手には乗らねングゥッ!」

しかしそんな彼らの小競り合いも、第三者の介入によって一時休戦となる。
喧嘩を中断させた第三者といっても、彼らの保護者が仲裁に現れたというわけではない。
そもそも彼らは結構いい年いってる。ヴェルサスに至っては25である。
そしてそのヴェルサスは、地面に埋まる腕に口を押さえつけられ、仰向けになって拘束された。

「男女構わず喰っちまおうとするゲス野郎はテメーか?」

質問の意図は見えてこないが、顔を確認するため視線を来訪者に向けるヴェルサス。

(その顔は……ゲェーッ! アナスイッ!)

ナルシソ・アナスイ。
敵対した空条徐倫の仲間であるが、それ以上に、全米を震撼させた殺人鬼という肩書のほうが、ヴェルサスにとって恐怖だった。
しかも報道された限りでは殺害方法は全身分解。
気まぐれ一つで腕が、足が、胴が、首が、切り離されてしまうのではと思うと震えが止まらない。
ティッツァーノはたぶん彼が殺人鬼であることを知らない。国籍が違うから。
だが、ギャングとしての経験がものをいうのか、只者ではない空気を感じ取っていることは見て取れた。
ティッツァーノは焦りを顔に浮かべるだけで、うかつに動けないでいる。

(『アンダー・ワールド』でラバーソウルに殺された男の記憶を掘り起こして、隙を作れば……ダメだ! ヴィジョンを出した時点でやられる!)

自分で活路を切り開いていこうとするが、策がない。
制限下にある『アンダー・ワールド』では、やれることといったらせいぜい隙を作る程度で、形勢逆転とはいかないだろう。
スタンドのスピードを考えれば先に拳をたたきこまれるだろうし、その隙さえ作れない。
殺し合いの舞台に来る以前なら、飛行機事故の記憶を掘り起こしただろうが。

(オレとアナスイとでは直接の面識がねえはずなのに、何で襲いかかってくるんだよォォォ! チクショウ! オレを助けろよティッツァーノ!)

さっきまで喧嘩していたくせに、助けを請うヴェルサス。
だが、助けるにしても手段がない、現実は非情である。
武器となるテイザー銃も、デイパックの中にしまっており、取り出す暇を与えてくれはしないだろう。
誰とも会わなかったせいか、殺し合いに対する危機感が足りなかったのだ。
そもそもティッツァーノを最初に殴りつけた時に銃を使っていればよかったものを。

「すまないが、君も拘束させてもらう」
「なッ……ロープに腕が! くっ」

そしてヴェルサスにとって唯一の希望だったティッツァーノも、新たな来訪者によって束縛された。
人を縛るには短いロープだったが、おそらくスタンド能力だろう、分裂した両手足がロープ上でスルスルと動き、ティッツァーノの四肢と口は瞬く間に抑えられた。

「首を動かして答えろ。余計な動きを見せたら、わかってるな?」

アナスイの問いかけは冷淡なものだった。
先の発言、その意味するところが分からないこの状況は不快極まりない。

「知っててほしかったり、知っててほしくなかったり、複雑な気持ちだが……殺し合いが始まってからどこかで、空条徐倫という子に会ったか?」

ヴェルサスがブルンブルンと首を振る。ティッツァーノもそれに続く。
ヴェルサスはここに来る以前なら彼女との面識はあったが、今の所在は知らない。

「チッ、まあいいさ。ハナから期待しちゃいない」
「俺からもいいか? 君たちはこの殺し合いに乗っているか?」

即座に首を振る二人。方針は特に定めていなかったしそもそも戦力的に積極的介入なんかできやしないのだが。
これで解放される、とヴェルサスは安心しきっていた。が。

「そうか。ではもう一つ聞こう。『乗っていないのだとしたら、その死体は何だ?』手短に説明願おうか」

死体、ラバーソウルに殺された男のものだろう。
取っ組み合いは転がるくらい激しく行われたので、死体とは距離ができたのだが、視界に入らないほどではない。
近くにそんなものがあればこの質問は当然だが、新たな疑惑の浮上にヴェルサスは若干涙目になっていた。
ティッツァーノは口を覆う腕が退いたところで、まるで面接でもしてるかのように、冷静に事実を話した。

「あれは私たちがやったものじゃあありません。手を下したのはラバーソウルという男。
 彼なら、ヴェルサスのスタンド能力なら実証できます。どうか彼の拘束を解いてやってください」
「アナスイ、その手を外してやれ」
「わかったよ。あと言っとくがな、徐倫に手ェ出したらただじゃあおかねえぞ」

『ダイバー・ダウン』の腕の拘束が外れた途端、ヴェルサスは咳きこんだ。
相当な力を加えられていたのだ。

「ガハッ、別に徐倫……とかいう人になんかしようなんて考えちゃいねえよ」

襲うつもりがないと分かった今ならと、ヴェルサスは弁解し始めた。

「じゃああの『男だったのかよお前』って叫んでたのは何だったんだ? 今まで女になりふり構わず接してたんじゃあねえのか?」
「おそらくこの、ああっと……」
「ティッツァーノです」
「このティッツァーノを女かなんかと勘違いしただけとか、そんなところだろう」
「うっ」
「その話は後にしてくれませんか? ヴェルサス、さっさとスタンドを」
「……『アンダー・ワールド』」


  ★


無罪の証明を終えたのち、ティッツァーノは痴話喧嘩の経緯を話すついでに、情報交換としてこれまでのいきさつを話しあうことを提案した。
話し合いはティッツァーノの落ち着いた物腰もあって、さっきまでの緊迫した雰囲気は影もなく、円滑に進められた。
その中でも特に危険人物の情報は互いにとって有益なものだった。
変装もでき、肉体を消化し食らい尽くす肉のスタンド『イエローテンパランス』、使い手ラバーソウル。
鉄に息を吹き込み、風船のようにして炸裂させるスタンド、使い手マイク・O。
対抗できるかはともかく、対策ができるのは大きい。
そして、一通り話すべきことは話し終え、誤解は解けたのだが。

「要するに、同行していた彼を女と勘違いして、自分の命惜しさに襲ったというわけか」
「そんなとこだ……あんたらだって言われなきゃそう思っただろう?」
「あ、ああ、そうだな」
「か、勘違いしたなら、仕方ないな」

ヴェルサスにはわかった。この二人は本心からではなく、自分の名誉を保たせるためこう言っているのだと。
彼はスタンド能力に目覚めてから自尊心で前を向けるようになったが、そのプライド故に人に見下されたり偉そうにされたりするのを嫌がった。
嫌なのだが、あの一件はどう考えてもヴェルサスに非がある。
もはやこの不愉快な『カワイソーなものでも見るかのような視線』を甘受するしかないのだ。

「しかし、よく死体に気がついたな」
「近くにあっただろ……それに一応知り合いだったからな。服装で分かった」
「知り合い?」
「大した間柄じゃあないさ。顔に傷をつけた張本人ってだけだ」

3人が違う話題に切り換えても、ヴェルサスはだんまりだった。
その表情は憔悴しきっていて、この場にいるのが耐え難くて仕方がないという感じだ。
それに、殺人鬼、その同行者、ちょっと前に殴ったティッツァーノの中に割って入って話し合えという方が無理な話。

「今後何か予定は?」
「食屍鬼街というところに向かう予定でしたが……人探しが目的だったので、そちらと同行できるならお供します」
「さっきも言ったが、徐倫って女の子を探しててな」
「双眼鏡を生かすために特別懲罰房に向かおうと思ってる」
「構いませんねヴェルサス?」
「……あぁ」

さっきまで罵声を浴びせていたとは思えない、覇気のない声で答えるヴェルサス。
2人が戦力として魅力的なのは承知しているが、あてがないものの徐倫に会おうとしているのがマズイ。
そのことをティッツァーノに伝えようとしても、同行しない理由が嘘でも言い訳でも見当たらない。
「徐倫は敵なので会いたくない」などと言おうものなら、先の様子からしてアナスイがタダでは済まさないだろう。

「話が逸れるが、死体の近くにあるデイパック、まだ回収してないのか?」
「ええ。回収しようとしてヴェルサスに殴られましたからね」
「アナスイ、中を調べてみてくれ。今持ってるのより長いロープがあればそれを譲ってくれればいい」
「死後しばらく経ってるみたいだし支給品は奪われてると思うぞ。ま、水や食料も持ってて損は無いか」

指令を受けたアナスイが、死体の傍らにあったデイパックの中身を調べるついでに、中身を自分のデイパックに移し入れる。
わざわざ移し入れたのは、今後『4人なのにデイパックが5つ』という、傍から見ればいらぬ誤解を招きかねない事態に発展する恐れがあるからだ。
そして、水と食料をしまい終えたその瞬間。

「冷たッ……」

首元を抑えるアナスイ。
気がつけば、周辺では水が上から下へ落ちるという、言葉にしてみればごく当たり前の自然現象が起きていた。

「雨ですね。さっきから降ってましたけど、勢いがちょっぴり増したかも」
「雨だと? 確かに降っているが、屋上にいた時は降っていなかったのに……奇妙だが、『この雨は局地的に降っている』のか?」
「局地的な雨……まさかウェザーの奴がッ!」

跳ねるように立ち上がったアナスイ。

「『ウェザー・リポート』、お前の仲間の能力か」
「ああ、天候操作、前に説明したとおりだ。目的は人集めだろう」

ウェザー・リポート。
その名を聞いたヴェルサスは、背筋が凍るような思いだった。
降り注ぐ雨によって体温が奪われたとかそういう意味ではない。
ヴェルサスはこの世界に来る以前、ウェザーに向けて記憶DISCを投げつけようとしたことまでは記憶している。
虹が出ていないし、カタツムリ化は無差別広範囲の攻撃だからウェザーの記憶が戻っていないのは確かだ。
では、ヴェルサスがブルっている理由とは何なのか。

(いる……近くに! 来やがっている! 神父に近い感覚を感じるッ!)

同じ血族の身、具体的な場所はわからないものの何となく存在を感じ取っていたのだ。
もしかしたら既に近くにいたのかもしれないが、幸か不幸か、ウェザーがいると意識して感覚が研ぎ済まされたと言うか、敏感になってしまっていた。
ウェザーの記憶が戻っているなら徐倫のことなどお構いなしだろうが、記憶のない今徐倫の敵だとバレたら土下座してでも生き延びれそうにない。

(頼むぜティッツァーノ……さすがに今ウェザーには会いたくない。近くにいるってわかってる分尚更な)

ちらとティッツァーノのほうを見やるヴェルサス。

「雨の勢いが強い方に行けば会えるかもしれませんよ? そのウェザーって人に」
(余計なこと言ってんじゃあねえええええええええええ!)

ヴェルサスの懇願もつゆ知らず、ティッツァーノはアナスイの方を見てそう言った。
そもそもヴェルサスが見ていたことさえ気が付いていなかったらしい。

「アナスイ。徐倫を優先するか、ウェザーを優先するかの判断はお前に任せる」
「……ウェザーを探そう。特別懲罰房に行っても徐倫を探すあてがあるわけじゃあないし、もしかしたら徐倫も雨の降る方へ向かっているかもしれない」
(何してくれてんだよティッツァーノオオオオオ!)


  ★


(急げよアナスイ。叶わぬ恋など俺以外にあってほしくは無いからな)

(良し。過程はどうあれアナスイとかいう男に『仕込みの入った水』は渡った。
 まあ乗ってないのは事実でしょうけど、裏を取るぐらいには役に立ちますかね。状況次第ですが、嘘をつかせる能力で同士討ちも狙えるかも)

(マズい、マジヤバイ。どっちにしたって俺がブチのめされるのが早いか遅いかの違いしかねーし!
 つーかさぁ、何で俺の周りは敵ばっかなんだよチクショオオオオオ!)

(徐倫を優先したい気持ちはある。だが、徐倫が建物内にいれば双眼鏡を用いても見つからないかもしれない。
 それにウェザーは『何となくだが徐倫の位置が分かる』らしい。戦力としてだけじゃあなく、徐倫を探す分にも役に立ってくれるだろう。
 愛する者の元へすぐさま駆けつけるのが男ってもんかもしれないが、ウェザーに会うまで辛抱していてくれ、徐倫)


それぞれの思いを胸に秘め、愛の戦士は歩みだす――――





【G-4 オエコモバの死体の傍/1日目 午前】
【いろんな意味でこれといったあてがない4人組】


【マウンテン・ティム】
[時間軸]:SBR9巻、ブラックモアに銃を突き付けられた瞬間
[状態]:左肩と腹部に巨大な裂傷痕(完治)。服に血の染み。やや貧血
[装備]:物干しロープ、トランシーバー(スイッチOFF)
[道具]:支給品一式×2、オレっちのコート、 ラング・ラングラーの不明支給品(0~3)
[思考・状況]
基本行動方針:ゲームに乗った参加者の無力化、荒木の打倒
0.ウェザーを探す
1.アナスイの仲間を捜す
2.事情を察したのでマイク・Oは追わない
3.「ジョースター」、「ツェペリ」に興味
4.特別懲罰房を拠点にしたい
5.もしアナスイが再び殺人鬼になるようなら止める。生死を問わず
6.アラキを倒す

[備考]
※アナスイと情報交換しました。アナスイの仲間の能力、容姿を把握しました。
 (空条徐倫、エルメェス・コステロ、F.F、ウェザー・リポート、エンポリオ・アルニーニョ)
※マイク・Oのスタンド能力『チューブラー・ベルズ』の特徴を知りました。
※マイク・Oの目的(大統領夫人の護衛)を知りました。
※ラバーソールの『イエロー・テンパランス』の能力と容姿を知りました。
※ヴェルサスの『アンダー・ワールド』の能力を知りました。
※アナスイが愛のために暴走してしまわないか心配しています。もし暴走するようなら、アナスイの生死を問わず止める覚悟はできています。


【ナルシソ・アナスイ】
[時間軸]:「水族館」脱獄後
[状態]:健康
[装備]:トランシーバー(スイッチOFF)
[道具]:支給品一式(食料、水2人分)、点滴、クマちゃん人形、双眼鏡、首輪(ラング)
[思考・状況]
基本行動方針:ゲームに乗った参加者の無力化、荒木の打倒
0.ウェザーを探す
1.仲間を捜す(徐倫は一番に優先)
2.殺し合いに乗った奴ら、襲ってくる奴らには容赦しない
3.特別懲罰房を拠点にしたい
4.徐倫に会った時のために、首輪を解析して外せるようにしたい
5.アラキを殺す

[備考]
※マウンテン・ティムと情報交換しました。
 ベンジャミン・ブンブーン、ブラックモア、オエコモバの姿とスタンド能力を把握しました。
※マイク・Oのスタンド能力『チューブラー・ベルズ』の特徴を知りました。
※アラキのスタンドは死者を生き返らせる能力があると推測しています。
※ラバーソールの『イエロー・テンパランス』の能力と容姿を知りました。
※ヴェルサスの『アンダー・ワールド』の能力を知りました。
※デイパックには『トーキング・ヘッド』入りの水が入っています。
※首輪は『装着者が死亡すれば機能が停止する』ことを知りました。
 ダイバー・ダウンを首輪に潜行させた際確認したのは『機能の停止』のみで、盗聴機能、GPS機能が搭載されていることは知りません。
※ヴェルサスの首筋に星型の痣があることに気が付いていません
※仲間を探す(徐倫は一番に優先)とありますが、ウェザーを探すことが徐倫を探すうえで意義があると考えているためそちらを優先しました。


【ドナテロ・ヴェルサス】
[時間軸]:ウェザー・リポートのDISCを投げる直前
[状態]:ストレス(大)、髪がボサボサ、服がしわくちゃ、ヤバイマジヤバイ
[スタンド]:アンダー・ワールド
[装備]:なし
[道具]:テイザー銃(予備カートリッジ×2)、杜王町三千分の一地図、牛タンの味噌漬け、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:絶対に死にたくない。
0.徐倫にもウェザーにも会いたくねえええ! でも一人じゃ生き残れないし付いていくしかない……
1.どんな事してでも生き残って、幸せを得る。
2.プッチ神父に会ったら、一泡吹かせてやりたい。
3.この先不安。アナスイマジ怖いんすけど
4.ティッツァーノムカつく、っていうか空気読めよお前!

[備考]
※ティッツァーノの『トーキング・ヘッド』の能力を知りました。
※ティッツァーノ以外のマフィアについてはまだ聞いていません。
※荒木のスタンドを「物体をコピーする」能力だと思っています。
※荒木の能力により『アンダー・ワールド』には次の2点の制限がかかっています。
 ・ゲーム開始以降の記憶しか掘ることはできません。
 ・掘れるのはその場で起こった記憶だけです。離れた場所から掘り起こすことはできません。
※『アンダー・ワールド』でスタンドを再現することはできません。
※ラバーソールの『イエロー・テンパランス』の能力と容姿を知りました。
※マイク・Oの容姿とスタンド能力『チューブラー・ベルズ』の特徴を知りました。


【ティッツァーノ】
[時間軸]:ナランチャのエアロスミスの弾丸を受けて、死ぬ直前。
[状態]:健康、ヴェルサスに対する軽いストレス、背中に痛み、髪がボサボサ、服がしわくちゃ
[スタンド]:トーキング・ヘッド
[装備]:ブラックモアの傘
[道具]:岸辺露伴のサイン、少年ジャンプ(ピンクダークの少年、巻頭カラー)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:生きて町から出る。
0.ウェザーを探す
1.当初の予定とは異なるけど、『トーキング・ヘッド』入りの水をアナスイが飲み込んでくれたらいいな
2.『トーキング・ヘッド』が舌に張り付いたら、ゲームに乗っていないという裏を取る。嘘をつかせることも考慮に
3.この名簿は一体?なぜ自分はここに呼ばれたんだ……?
4.この先不安……だったけど頼もしい同行者ができて嬉しいです。ヴェルサス? そんなのもいましたね
5.ヴェルサスムカつくけど、静かになったからいいや
6.アラキを倒し、生きて町から出る

[備考]
※ヴェルサスの『アンダー・ワールド』の能力を知りました。
※ヴェルサスの知り合いについてはまだ聞いていません。
※荒木のスタンドを「物体をコピーする」能力だと思っています。
※ラバーソールの『イエロー・テンパランス』の能力と容姿を知りました 。
※トーキング・ヘッドを操作できる射程距離に制限がかかってる可能性がありますが、
 本人は気づいてないようです。(ちなみに原作の射程距離はB)
※マイク・Oの容姿とスタンド能力『チューブラー・ベルズ』の特徴を知りました。


※二人はしばらくするとE-5に向かう予定でしたが、同行者ができたので中止しました。
※オエコモバの支給品はヨーロッパ・エクスプレス、タバコのみでした。



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90:DIVE&DOWN! ナルシソ・アナスイ 138:バーチャルスター発生学
90:DIVE&DOWN! マウンテン・ティム 138:バーチャルスター発生学
103:男女 ドナテロ・ヴェルサス 138:バーチャルスター発生学
103:男女 ティッツァーノ 138:バーチャルスター発生学

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最終更新:2009年08月20日 19:31