「トリッシュが……」
「くッそ……」
放送を聞き終え頭を抱える二人の男。ブローノ・ブチャラティとグイード・ミスタである。

「任務とか言ってる状況じゃねぇけどよ、そういうの抜きに俺は彼女を護衛していたかったぜ。トリッシュはただの女の子だったんだ……」
任務。それはトリッシュを護衛すること。だが彼女はこのゲームの中で命を落とした。
つまりブチャラティのチームは任務に失敗したという事になる。その場に居なかったなど理由にはならない。
―――もっとも、彼らはその後の彼女と自分たちの運命を知らないのだが。
「あぁ」
ミスタの言葉に短く答えるブチャラティは名簿と地図に丹念にメモを綴る。
そして……一瞬、ほんの一瞬だけ躊躇いながらもトリッシュ・ウナの名を消す。
それを見たミスタは思いきりブチャラティの胸倉を掴み叫び出した。
「おいブチャラティ!何トリッシュの名前消してんだッ!」
「トリッシュが死んだからだ」
あまりにも簡単で、そしてあまりにも重い言葉にミスタは襟首を掴んでいる拳をぐいぐいと前後に揺さぶる。
「てめぇ!トリッシュが死んだってのを信じるってのかッ!彼女の死に何も感じてねぇのかッ!?」
その言葉を聞いたブチャラティはミスタの手を振りほどくと、そのまま思いきり彼の頬を殴る。まるで数時間前のお返しだと言わんばかりに。
数メートル吹っ飛ばされたミスタは何かを言いかけながらブチャラティを睨みつけ……そして力なく項垂れる。
目の前の男はギリギリと歯を食いしばり、その唇からは血を滴らせていた。

「俺がトリッシュの死を信じただと……何も感じていないだと……

 言っただろう。後悔するだろうと。自分自身を責めるだろうと……

 だが……これはお前が言ったんじゃあないか。彼女の意思はなんだと。
 きっと……トリッシュだってスージーのように……

 俺たちが受け継いだものを先に進めることを願っているッ!」

ブチャラティの頬には涙は流れない。
だがその瞳からは涙の代わりに溢れんばかりの後悔、自責、そして決意が滲み出ている。
「そうだな……悪かった」
「気にする事はない。俺の方こそ思いきり殴ってしまったな」
「いや、いいんだ。それより……そこまでの覚悟があるって事は今後の計画も立ててあるって事かい?」
ミスタの質問にブチャラティが答える。
「あぁ。では聞いてくれ。俺は先に“ここに行こう”と言ったが……」
と……手をかざす。
ミスタはブチャラティの視線と手の動きを目で追い、コクリと頷く。
「先に“ここ”に向かおうと思う」
と……その先を指し示す。
その先を見つめたミスタはハッとしたようにブチャラティに視線を送る。
視線を送られたブチャラティも目で頷き返す。
「ここは……禁止エリアじゃあねえか!?」

「そう禁止エリアだ。幸か不幸か俺たちのすぐ傍に。
 当初の目的地からは少々方向がズレてしまうが見に行って損はないだろう。勿論侵入する訳にはいかないが。
 その後当初の目的としていたところに向かい、その後は地図の北に沿って東の海に出よう。
 かなりの距離だが問題はないな?」
「オーケーだぜ、ブチャラティ。銃がないのは少々不安だけどな。それも問題なしさ。
 あの荒木のヤローの事だ。“禁止エリアにボーナスアイテムを置いといたよー”とか言いかねないしな」
荒木の声真似をして笑うミスタ。それを見たブチャラティも少し笑う。
「よし、決定だ」


* * * *



物事を考えるという事はとても素晴らしい事である。
そして“覚える”と言う事はなお素晴らしい。考えるために必要なスキルであるからだ。

だが……そう言った素晴らしさを体験出来ないものも少なからず存在する。

昆虫である。

彼らは遺伝子だとか本能だとか、そう言ったものはあれど、考える脳を持たないと言われている。

しかし。そこにも例外はあるのだ。現実離れしすぎて俄かには信じられない例外が。

スタンド。

この“ジョジョの奇妙な冒険”に欠かすことの出来ぬ未知の才能。超能力。
その力が不可能を可能にする。

虫は飛ぶ。

翼竜へとその姿を変えて。

彼らの会話をしっかりと記憶して。

主のもとへ―――


* * * *



「……どう思った?」
ブチャラティが問う。
「どうって……ありゃナントカザウルスだろ」
ミスタが答える。
「そうじゃあない」
「じゃあナントカノドンだろ」
突っ込みに対しさらにミスタが答える。
「そうじゃあない」
「そう言えばニホンのコミックで、大昔に岩塩漬けになった男が現代に蘇って格闘するってのがあったな」
その突っ込みに対しさらにミスタが……答える。
「そうじゃあない」
歩を進める二人の何気なくも重要な会話は続く。
彼らは客船を後にしてからB-2まで歩を進めて来ていた。

「……あぁ、分かってるよ。明らかなスタンド能力だ。恐竜を操るなんて厄介だよな。
 ジョルノのやつも流石に太古の生物までは形にしたこと無いしかなりの強敵じゃあないか?」
すっかり呆れた表情のブチャラティに対しミスタがふう、と息をついて正解を答える。
「ああ。まともに戦っては到底勝ち目はないだろうな」
「でもこっちが気付いてる事までは分からなかったろうな。会話に突然ハンドシグナルを入れてきた時はどうしたかと思ったよ」
「だがよく分かってくれた。会話と矛盾のないように送るのには手こずったからな」
そう。彼らは虫の……翼竜の存在に気づいていた。
参加者以外に生物が存在しない世界での小さな疑問。ギャングと言う特殊な環境で培った洞察力。それがこの二人に翼竜の存在を気付かせたのだ。
そして……行き先を指し示す動作の中にハンドシグナルを織り交ぜながら会話を行ったのである。

「で、そのスタンド使いを騙すつもりかい?それともあの会話は本当かい?」
ミスタの質問にブチャラティが答える。
「両方だ」


「はあァ?」
物事の選択で曖昧な返答を返すブチャラティをほとんど……いや、全くと言っていいほど見たことのないミスタとしてはこの反応は当然と言えば当然である。
一方のブチャラティはそんなミスタを見かねてか、補足するように説明を始めた。

「分からないか、ミスタ。じゃあ言い方を変えよう。俺たちは少し“寄り道”をしていく。
 名簿を見て気付かなかったか?妙に“ジョースター”の姓が多いことに」
「あぁ、確かにそうだな。他にもツェペリとかも、だな」
「そうだが今は置いておけ。今向かうべきはここから近く、多くの“ジョースター”が集まるであろう“ジョースター邸”だ」
「なるほど。確かに自分の家に帰りてぇってのは誰しもが望むことだろうしな」
「そうだ。あのゲス野郎の死体の傍を通るのは癪だが……支給品と、首輪が落ちていたら拾っておいて損はあるまい。無ければ無いで構わないが。あくまでこちらは事のついでだ。
 その後ジョースター邸にて情報収集。それ以降はあの恐竜使いに“宣言した”通りだ」
「オーケー、把握したよ。確かに“両方”だ。んで……もしその恐竜使いが俺らを尾行するような事があったら?」
ミスタ自身、答えは分かり切っていた。だが確認の意を込めて敢えて質問する。
「向こうがこちらを警戒して逃げるようならそれで良し。
 向かってくるなら“強力なスタンドなのに本体が愚者”だろう。勝機はいくらでもある。
 現にそいつは“俺たちが一直線にC-1に向かっている”と思っているんだ。逆にこちらが背後を取れるさ」
「だな」
「まぁ何にしてもこちらが恐竜に気付いてる事を向こうは把握していないのだ。今はそれだけで十分だろう」

ブチャラティが会話をしめる。


が……数秒後にミスタが話題を掘り返した。


「……しっかし。そういう時ってハンドシグナルはホント便利だよな。
 俺なんか昔はこれしか知らなかったってのによ」


「…………パンツーまる見え」
「YEAAAH!」


【B-2/1日目 早朝】
【チーム・ブチャラティ】

【ブローノ・ブチャラティ】
[時間軸]:護衛指令と共にトリッシュを受け取った直後
[状態]:肩に切傷(血は止まっている)、左頬の腫れは引いたがアザあり、トリッシュの死に後悔と自責
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、荒縄、シャーロットちゃん、スージーの指輪、スージーの首輪
[思考・状況]
基本行動方針:打倒主催、ゲーム脱出
1.ジョースター邸に向かい情報収集を行う。その道中にミスタに後述の仮説を聞いてもらおうと思っている。また、可能ならワンチェンの支給品および首輪の回収を行いたい。
2.1ののち禁止エリアC-1に向かう。
3.C-1確認後北・西の地図の端を見に行く。その後は北端に沿って東を見に行く。
4.絶対にジョセフと会い、指輪を渡す。彼にはどう詫びればいいのか…
5.チームの仲間に合流する。極力多くの人物と接触して、情報を集めたい。
6.“ジョースター”“ツェペリ”“空条”の一族に出会ったら荒木について聞く。特にジョセフ・ジョースター、シーザー・アントニオ・ツェペリ(死亡したがエリザベス・ジョースター)には信頼を置いている。
[備考]
※パッショーネのボスに対して、複雑な心境を抱いています。
※ブチャラティの投げた手榴弾の音は、B-2の周囲一マスに響きわたりました。
※ブチャラティが持っている紙には以下のことが書いてあります。

①荒木飛呂彦について
ナランチャのエアロスミスの射程距離内いる可能性あり

②首輪について
繋ぎ目がない→分解を恐れている?=分解できる技術をもった人物がこの参加者の中にいる?
首輪に生死を区別するなんらかのものがある→荒木のスタンド能力?
スティッキィ・フィンガーズの発動は保留 だか時期を見計らって必ず行う。

③参加者について
知り合いが固められている→ある程度関係のある人間を集めている。なぜなら敵対・裏切りなどが発生しやすいから
荒木は“ジョースター”“空条”“ツェペリ”家に恨みを持った人物?→要確認
なんらかの法則で並べられた名前→国別?“なんらか”の法則があるのは間違いない
未知の能力がある→スタンド能力を過信してはならない
参加者はスタンド使いまたは、未知の能力者たち?
空間自体にスタンド能力?→一般人もスタンドが見えることから


【グイード・ミスタ】
[時間軸]:54巻、トラックの運転手を殴った直後(ベイビィフェイス戦直前)
[状態]:健康、左頬が腫れている、トリッシュの死に深い動揺とゲームに対する怒り
[装備]:ナランチャのナイフ、手榴弾4個
[道具]:不明支給品残り0~1(あるとしたら武器ではないようです)
[思考・状況]
基本行動方針:ブチャラティと共に行動する。ブチャラティの命令なら何だってきく。
1.YEAAAH!
2.エリナの誤解を解きたい
3.アレッシーうざい
4.あれこれ考えずシンプルに行動するつもり。ゲームには乗らない
[備考]
二人がした情報交換について
※ブチャラティのこれまでの経緯(スージーとの出会い~ワンチェン撃破まで)
※ミスタのこれまでの経緯(アレッシー、エリナとの出会い~ブチャラティと合流まで)


【翼竜について】
フェルディナンド博士の生み出した恐竜のうち一匹が
「ブチャラティとミスタと言う男がC-1に向かい、その後北西の端、北端沿いに東へ向かう」と言う事を覚えました。
ですが「二人が自分(恐竜)の存在に気付いている」と言う事は知りません。
これから博士のもとに帰還します。その際他の参加者の情報を得てくるかはわかりません。


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57:Shining Star ブローノ・ブチャラティ 110:四個の手榴弾/残り四秒
57:Shining Star グイード・ミスタ 110:四個の手榴弾/残り四秒

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最終更新:2010年10月12日 12:06