午前8時を過ぎたころ、オインゴはエリアG-7に到達。
探知機が示すとおりに従い、ネアポリス駅から南南西に歩き続けていた。

「マジで? 」

2時間近くを消費して彼が最初に出会った相手は死体だった。
すり潰された内臓とだらしなく散らされた糞尿が、人間の尊厳を著しく損なわせている。
それはオインゴの同僚――共にDIOに忠誠を誓っていたマライア。
醜く歪んだ顔とグンバツの太ももは、彼女の印として充分見分けがついた。
骨肉をむき出した肉体から死斑を調べて、オインゴは彼女の大まかな死亡時刻を割り出す。

「ちぇ! 死体も探知するのか。いらねーよ、そんな親切設計。生きてるヤツに会わなきゃ意味がないぜ」

右手の探知機に文句を言いながら、オインゴはポリポリと頭をかく。
動揺は無い。彼は人を殺すことに躊躇しない男だからだ。仕事仲間の死さえも日常なのだ。
自分や弟に降りかかる恐怖はともかく、生き死にに脅えるほど彼は腰抜けではない。

「……で、どっちに行けばいいんだ? 」

西と南を交互に指す探知機に、オインゴは再び悪態をついた。
西はプロシュートとシュトロハイム。南はツェペリ一行の亡骸。
オインゴにはそんなことを知る由もない。

「当たって砕けろだ」

選んだ道はさらに南。川にかかる橋を目指しオインゴは歩く。
なるべく多くの生存者と遭遇するのを望む彼には、どちらも正解であり不正解だった。
敵に狙われれば一溜りもないのは、中央も端も同じ。
『人に会う』メリットがそのまま『命を奪われる』リスクとなるのだから。

☆ ☆ ☆

午前9時を過ぎたころ、オインゴはエリアI-7に到達。
探知機が示すとおりに従い、G-7から南南西に歩き続けていた。

「マジで? 」

更に2時間近くを消費して彼が最初に出会った相手はやっぱり死体だった。
木陰に身体を預けて座る様子が、森林浴の傍らで居眠りをしてしまった老人を思わせる。
それは、またもやオインゴの同僚――共にDIOに忠誠を誓っていたンドゥール。
へし折られた杖とズタズタになった血まみれのマントは、彼の印として充分見分けがついた。
ンドゥールの両足の下敷きになっていたディバッグを回収して、オインゴは中身を調べる。

「どいつもこいつも縁起でもねー。 俺はお前らみたいにヘマはしないぞ! 」

空っぽになったディバッグをンドゥールに投げつけて、オインゴは唾を吐く。
そして戦利品である支給品をマジマジと眺めて物色した。
悪態はつけど、オインゴの興味は目の前の武器に向けられていた。

「……本当にこんな物が入ってんのか? 入ってるとしても本当に“使える”のかよ?」

彼が新たに手に入れた支給品は複数。どれも俄かにはとても信じられない物。
ンドゥールやサンドマンが対応しても、同じ反応をしていただろう。

「疲れたら使おう。それがいい」

自分の最後の支給品であった『ミキタカの胃腸薬』を水と一緒に呑み込み、深呼吸。

「行くか」

南西と南東を指していた探知機をに注意を払いながら、オインゴは進む。
南東に行けばエリアI-7のワムウVSツェペリ夢の跡。
南西に向えばエリアI-6のリサリサの残骸。
彼の徒労は終わらない。朝から始まった死体参りはまだまだ続く。

☆ ☆ ☆

午前10時を過ぎたころ、オインゴは川原の土手で寝転がっていた。
ぜいぜいと息を切らしながら、顔にペットボトルの水をかける。

「もう限界だ……」

エリアはI-6。探知機に振り回された結果がこれだ。
出会った死体のほとんどが顔も身の丈もわからぬ損壊状態。
人のひの字も見つからないという連敗状態。それは自分の安全が約束されている事実でもあるのだが。

「使わしてもらうぜ、ちょっと休憩させろ」

ペットボトルの残りの水を盛大に飲み干し、オインゴは懐から一枚の紙切れを出す。
施されたラメが太陽に照らされてチカチカと輝くそれは、『ダービーズ・チケット』と書かれていた。
夢の島へと誘う魔法の切符は、ハイリスク・ハイリターンの入り口。

「おーいダービー! 俺を島に呼んでくれ~! 」

度重なる無駄骨に苛立ちを隠しきれないオインゴ。
誰にも会えないことで憔悴していた彼の心に、知人の再会はオアシスだった。
つまり、彼はそのチケットの本当の意味を読み取っていなかった。
説明書に書かれた言葉をいい加減に読んで、理解したつもりになっていた。
“とにかくダービーのいる場所へ行くことができるかも”……という気休めの冗談程度にしか。

――それでは、どうぞ――

ふと我に返ったとき、オインゴは目を疑った。
広大な海に囲まれた緑地。潮風に靡く住人たちの髪。
高価なテーブルとイス。鋼鉄で作られた謎のケース。
そして彼を射抜く視線。一筋縄ではいかぬ殺気を放つ男が4人。

「ようこそ、私の島へ」

オインゴの肌はピリピリと痺れ、汗腺はぶわっと脂汗を噴出した。
散々歩き続けて上がっていた体温が、急激に冷え切っていくのをオインゴは実感した。
張ち切れんばかりの威圧に身体がいち早くギブアップを宣言したのだ。

「や、やれやれだぜ」

最初の一言めに空条承太郎の口癖が出た自分に、オインゴは手放しで褒めてやりたかった。
相手に成りすましている間は、相手に成り切る。
これぞまさに職業病。


『殺伐とした島に、オインゴが!』……この参入は誰かの救世主となるのだろうか。



【G-10 北西部 小島(ダービーズアイランド)/1日目 昼(午前11時ごろ)】
【オインゴ】
[スタンド]:『クヌム神』
[時間軸]:JC21巻 ポルナレフからティッシュを受け取り、走り出した直後
[状態]:胃が痛い(かなり和らいだ)。
[装備]: 首輪探知機(※スタンド能力を発動させる矢に似ていますが別物です)
[道具]: 青酸カリ、学ラン、ミキタカの胃腸薬、
    ダービーズ・チケット、不明支給品残り1~2、支給品一式×2(ペットボトルは1本消費)
[思考・状況]
基本行動方針:積極的に優勝を目指すつもりはないが、変身能力を活かして生き残りたい。
1.……完全に場違いだコレ。
2.鏃が差した方向に従い、他の参加者に接触する
3.承太郎か億泰の顔と学ランを使って、奴らの悪評を振り撒こうかなぁ~
4.億泰のスタンド能力を聞き出したい(とりあえず戦闘型ではないかと推測)

※現在は承太郎の顔になってました。
 顔さえ知っていれば誰にでも変身できます(現在承太郎、億泰の顔を知っています)。
 スタンドの制限は特にありません。
※エルメェス、マライア、ンドゥール、ツェペリ、康一、ワムウ、リサリサの死体を発見しました。
 しかし死体の状態が結構ひどいので顔や姿形をを完全に再現できるかどうかは不明です。
※億泰の味方、敵対人物の名前を知っています。
※状況をまるで理解してません。承太郎のフリをしたほうが正解である、というのは理解してます。

【ミキタカの胃腸薬】
億泰の最後の支給品。
ミキタカがコミックス40巻あたりで自分のカバンから出した医薬品。
本物でございます。
億泰たちにはただのギャグにしか見えなかったようだ。
普通に飲めるし効果も普通にあるらしい。
使用上の容量、用法をよく守ってお使いください。

ありがとう、ミキタカ胃酸。良ィィィィィィィィィィ薬です!

【ダービーズ・チケット】
ンドゥールの支給品。詳しくは109話「リグビーズ・タイム」参照。



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108:兄と弟は誓いを立てる オインゴ 139:NEVER SAY GOODBYE
109:リグビーズ・タイム テレンス・T・ダービー 134:知りすぎていた男

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最終更新:2009年11月16日 09:46