ま……知ってるやつが多かろうと少なかろうとどうでもいいが……。
自己紹介をしよう。僕の名前は岸辺露伴。漫画家だ。週刊少年誌で連載を持っている。
アンケートの調子は良い。この前は2週休み合併号の表紙を任された。

しかしその真の姿は若干20歳のスタンド使いなのさ。

僕は仕事柄、リアリティというものに強く惹かれる。
職業病っていうのかな……作り話をする人間の言葉にしては法度がすぎるかい?
ところがそれは大きな間違いだ。
漫画を描くうえで、作家がもっともないがしろにしてはいけない事は、現実を知ること。
調子にのって就活に失敗するとか、高望みをして受験に落ちるとかじゃないぞ。
『本物を味わえ』という意味さ。全ての創作は現実の体験から始まる。
なぜなら作者も読者も、現実で生きる存在だからさ。
『赤色のアイスクリーム』を見て君たちはどんな味を想像するだろうか。
味はイチゴ? ラズベリー? トマト? それともチリペッパーとか?! ハハハ。

……な? 僕たちが思い浮かべる味は現実に則した発想に縛られている。

そいつの味がなんなのか、それは食べてみなければわかりっこない。
でも僕たちは食べる前に食べた気になってしまっている。

蜘蛛。唐突だけど蜘蛛の味を知ってるかい。僕は知っている。ちょっと甘いんだぜ。
麻縄。ロープをかじったらどうなると思う? 段々舌がピリピリしてくるんだ。
用紙。最近のコピーに使う紙は、噛んでも噛んでも消化されないから、飲み込んだときにちょっと不安になる。

実際にやってみないとわからないものさ。
蜘蛛はおどろおどろしい粘っこさや苦味があると思い込んでいた。
麻縄はもっと鰹節みたいな香ばしさをイメージしてた。
用紙なんて、もう少し割とすんなり食べれると思ってたんだけどな……繊維なんて歯より柔らかいだろ?。

経験したからこそ、僕は先入観に打ち勝った! 実に清清しい気分だね。

人間の持つ最高で最低な能力は『経験』。経験への渇望と、漫画家はいつも格闘している。

人間が想像できる全てを経験しようとすれば、そこに『倫理』と『良心』が立ちはだかる。
殺し。人を殺す悪役の気持ちを描くのならば、殺しを経験せねばならない。
不義。人の心をたぶらかす色情魔を描くのならば、密通を交わさなければいけない。
策謀。人を扇動する革命家を描くのならば、まず己が立ち上がって衆を率いるべきだ。

僕たちは法と道徳によってこれらを抑えている。
経験を体験するに越したことはない。漫画家ならばあらゆる事をすべきなのだ。
いけるならいける所まで歩みたい。ややもすれば一瞬で越えてしまいそうな境界線。

僕のスタンド、ヘブンズ・ドアーはそのラインをより太く硬く安全にさせる手段。

ニヒルな笑顔で夜道を歩く策略家よりも。名指しで相手の不幸を叫ぶ占い師よりも。
優しい言葉で相手の心理を読み取るペテン師よりも。凶悪な殺人鬼よりも。
僕はいとも容易く、彼らのお株を取ることが出来てしまう……その可能性を持っている。
他人がヘブンズ・ドアーを持っていたとしたら、僕はあまり関わりたくないな。
関わっても旨味がないから。ヘブンズ・ドアーを持っているヤツを取材する意味がない。
せいぜい『ヘブンズ・ドアーどうしが遭遇したら、お互いはどう思うのか』という体験ぐらいかな。ちっぽけな利益。

勘違いしてもらっちゃ困るが、僕はヘブンズ・ドアーという能力を忌み嫌ってないぜ。

この能力のおかげで、僕は犯罪者たちの深層心理をよりリアルに知ることができた。
一生縁が無いような職を持つ相手の感情を形にして具体的に知ることもできた。


若干十代にして人間ができる犯罪という犯罪をこなす。
改心してからは波紋の使い手として、一族の誇りのために命すら天秤にかける男。
僕より年下で悪魔と天使を演じた人生は、極めて稀有だ。
若き頃のジョセフ・ジョースターと苦労を共にした数日間の記憶も見逃せない。
彼が僕の生きる時代より過去の人間であることを示している。

「ヴィヴィアーノ・ウェストウッドウッド」

平凡にして凡庸な人生とは裏腹に、心の中に渦巻くコンプレックス。
自分より劣る存在をクズ、下等生物と見下す性格に、看守という職はピッタリ。
そして、これは改めて調査したことで明らかになったことだが……彼のプロフィール。
出来たてほやほやのスタンド使い。詳しくはわからないが、プッチ神父と空条徐倫が大きく関わっているらしい。
つまりシーザーの調査とは対照的に、彼は僕が生きる世界より未来に生きる人間だった。
実に興味深い。
漫画家冥利につきる究極の取材とは、こういった物なのかもしれないな。

――それを真っ向から受け止めるかどうかは別だけどな。

「自分の想像を果てしなく凌駕する事実に対しては……僕は動かない」

ヘブンズ・ドアーには『読めないもの』がある。
それは『自分の過去の遠い記憶』と『運命』。
僕は杉本鈴美の全てをヘブンズ・ドアーで読むことは出来なかった。
彼女と僕が幼馴染であることを『彼女に出会ったことで、彼女を思い出すまで』気づけなかった。
昔の古い友人の名前を、会った後に思い出すかのように。

「時の流れに関する事実に対しては、僕は中立を貫く」

彼らがどんな人間かはわかった。
シーザーはドライな関係を望むが、根は熱く、信頼した相手には盲目的につきあう。
ウェストウッドは平々凡々な人間であり、注視すべきは彼の性格よりスタンド能力。
それだけで充分だろう。『過去』だろーが『未来』だろーが、知ったことか。

――僕から彼らに“時の流れを悟らせる”マネはしない――

彼らの人生が嘘だと言ってるわけじゃない。むしろ認めているし、疑うことは僕の能力のコケンに関わる。
荒木が時を越えてヒトを集められるスケールの持ち主なのはわかった。
シーザーたちがうっかり“時の流れ”を知る機会も、いずれ来てしまうだろう。
だからこそ。だからこそ僕はタイムパラドックス的なトラブルを避ける。

せっかく仗助たちに荒木を任せているのに、これ以上ややこしい問題が増えるのは面倒だ。
『経験』というものは本当に嫌だね。漫画家らしいメタシフィック的思想を優先したくなる。
僕がもう少し口の軽いヤツだったら、話は変わっていたんだろうがな。

「おい、起きてくれ」

これから先、時代を無視した存在に何度も会うのだろう。
とはいえ大事なことは、自分という基準をぶれさせることなく、しっかりと持ち続けることだ。

岸辺露伴は“時の考察に対し”動かない。

 ◇ ◇ ◇

「よし……傷は塞がった。何週間か静養してれば完治するだろう」

僕の怪我の治療が終わった。
時計は午前10時すぎを指している。
随分と時間がかかったが、感謝はしておこう。ビバ波紋。フカシじゃあなかったんだな。

「不思議な紙だぜ。何をどうやったらコイツが入るんだ」

今まで興味がなかったので調べていなかったのだが、僕たちにはバッグが与えられている。
バッグの中身は地図、名簿、日用品一式、そして『紙』だった。
ちなみに話しておくと、僕は全てをまだ具体的に調べていない。
さっきも話したが、僕にはヘブンズ・ドアーがあるので名簿があまり意味を成さない。
地図も開けていない。わざわざ確認するのも面倒くさいし、僕は未開の地が好きなクチでね。

「この『紙』はどんな意味があるんだ? 」

『紙』を開いたのもシーザーで、半ば強引に開けられてしまった。
……まぁ、出てきたのは、ポルナレフ?というフランスメーカーの車椅子だから、色々と助かったけどな。

「その説明書どおり、招待してくれるんだろうよ、ダービーって野郎は。
 てめーのHAMONや俺のプラネットウェイブスみてーに……不思議な力を持っているのかもな」

シーザーが僕の怪我を治したせいか、ウェストウッドも幾分か大人しくなった。
先にシーザーを起こしたのは正解だったな。僕の安全が確保されたのだから、余計なマネはしないだろう。

「ロハン、この“チケット”は“臭う”ぜ……!? 」

シーザー、お前の言うことはもっともだよ。
お前はヘブンズ・ドアーで『僕を助ける』ようにされてるんだからな。
だがこの岸辺露伴……このチケットに運命を感じるんだ。
ダービーが荒木の手先ならば、これはヤツからの挑戦状でもある。

「ダービー・ザ・プレイヤー! 僕たちは決闘を申し込むぞッ! 」

受けてたとうじゃないか。罠としても。

 ◇ ◇ ◇

ド●ドド●●ドド●ドド●●ドド●ドド●●ドド●ドド●●ドド●ドド●●ドド●ドド●●ドド●ドド●●ドド●ドド●●ド
ド●ドドドドドド●ドドドドドド●ドドドドドド●ドドドドドド●ドドドドドド●ドドドドドド●ドドドドドド●ドドドドド
ド●●●ドドドド●●●ドドドド●●●ドドドド●●●ドドドド●●●ドドドド●●●ドドドド●●●ドドドド●●●ドドド
ド●ドドドドドド●ドドドドドド●ドドドドドド●ドドドドドド●ドドドドドド●ドドドドドド●ドドドドドド●ドドドドド
ド●ドドドドドド●ドドドドドド●ドドドドドド●ドドドドドド●ドドドドドド●ドドドドドド●ドドドドドド●ドドドドド


「なるほど」

狭い住居の中だった風景が、一遍した。
開けた青空に、心地よいさざなみの音が、僕の創作意欲を盛り上げてゆく。
いよいよ僕たちは敵陣に入ったんだな、という緊張感と優越感が血の巡りを早めている。

「まさしく“遊ぶための箱庭”って感じだな。チケットは本物だった」

中指と人差し指に挟んだ紙切れをピラピラと泳がせながら、僕は相手の出方をうかがう。
小さな島にぽつんとある机と椅子に、足を組んで座る男、ダービー(だよな?)は若かった。
もっと老齢で底の知れないギャンブラーが出てくると思っていた。
しかしこの肌のつや、顔の出で立ちは20代……コイツ、僕と年が変わらないのか。

「Exactly(その通りでございます)。そして私はショーの主催者であり対戦者でもあります」

……ここで今すぐヘブンズ・ドアーでダービーの全てを暴くべきか? いや、待て。現時点で控えるべき理由はある。

①僕たちがさっきまでいた住居から島に移動したのは誰のスタンドか?
最初の施設にいた時、康一くんたちの姿を僕は覚えている。僕の時代の人間は(仮定だがな)複数招かれた。
つまり時代を越えて人数をそろえる事が可能だろうが不可能だろうが、特定の土地にヒトを召還できる。
それがダービーの能力ならば、さっさとヘブンズ・ドアーで全てを暴けばいい。
個人的にはダービー以外のスタンド使いの仕業ではない、と断定したい……だってそうだろ?
普通に考えたら、そんな大事な役職である召還士にこんな危険な真似をさせない。アホの極みだ。

②荒木一派は僕の能力を知っているのか。
これも厄介な問題だ。ヘブンズ・ドアーは使い方によればかなり優秀な切り札。
それを敵の拠点でお披露目することが、どれほどリスキーであろう。
僕の能力は先手必勝だからな。事前に警戒されて射程距離外から攻撃されてはひとたまりもない。

つまり
  • 荒木が僕の能力を知っている→部下のダービーも知ってて召還した→僕に勝てる見込みがある→いずれ再起不能
  • 荒木が僕の能力を知らない→知らずに召還した→ダービーに勝てるが、手の内をバラすことに→やっぱり再起不能

いっそ最初の案のほうが、ヤケクソにダービーをイジることが出来るんだがな。
しかしそんな事ができる人間に、こんなチケットを支給しているということは……荒木は間抜けなのか狸なのか。
わからない……僕は承太郎のような無敵のスタンドではないからな。今は静観するしかない。スタンドを使わず!

「――お前が主催者であろうと何であろうとなぁ~~~迷うことはねぇ~~~」

……む!?

「ウェストウッド、ロハンを守っててくれ。こいつは……俺が倒す! 」

シィィィィザァァァァァァアァァァ!?
こいつ! 僕の『岸辺露伴を守れ』という唯一の命令を拡大解釈しやがって。攻撃は最大の防御ってか?
彼の人間性を信頼して命令を1つにしておいたんだが……。
ダービーに真っ向から叩いて僕を守るつもりか。
まだ具体的なスタンド能力さえもわかってないのに、非スタンド使いのお前が……

「俺が勝負に勝ったらよぉ、喋ってもらうぜ! 色々となぁ! 」

……いや、これは意外といけるかもしれない。
シーザーは波紋使いではあるがスタンド使いではない。
彼にはスタンドがほぼ未知の物にしか発想がおぼつかないはず。
僕のようにアレコレ難しく考えるより……シンプルに勝負ができる。
ダービーが何かイカサマをすれば、彼は純粋な疑問を浮かべるだろう。

「それではシーザー・アントニオ・ツェペリ様、勝負は何にいたしましょうか」
「ポーカーだ。新品のトランプ……ロハンのディバッグの中に入っていた」
「ご丁寧にセキュリティ(未開封証明)シール付きですか。ならばよろしい、始めましょう」

シーザーが“しかけて”いる最中、僕はダービーの傍らに放置されているものを直視していた。
それは青白くやせ細った初老の外国人紳士だった。あの様子だとかなり危険な状態かもしれないな。
ダービーとの勝負に負けた代償は、かなり高くつくらしい……依然、気が抜けないな。頼むぜシーザー。

ルールの共通化を確認。それではシーザー様、Are You Ready? 」
「GO! ダービー、GO! GO! 」

 ◇ ◇ ◇

ポーカーは、トランプを使って行うゲーム。コントラクトブリッジ、ジン・ラミーと並ぶ三大トランプゲームの一つで、心理戦を特徴とする。主にアメリカでプレイされているゲームで、ギャンブルとして行われる事が多い。プレイヤー達は5枚の札でハンド(役)を作って役の強さを競う。相手をフォルド(ゲームから降りる)させれば、ハンドの強さに関わらず勝つことが出来ることから、ブラフ(ハッタリ。ベットすることによって弱い手を強く見せて相手をフォルドさせようとすること)に代表される心理戦の占める割合の高いゲームであるとされる。勝った負けたの数にはさほど意味が無く、勝ったときの儲けを大きくし、負けたときの被害を最小にするための総合的な戦術がより重要である。また、他のプレイヤー達の仕種、表情、賭けたチップの枚数等から他のプレイヤー達のハンドの強さを予想し、自分の賭けるチップの枚数を決める。このゲームでは相手を惑わす為に、わざと驚いて見せたり、嘘(いわゆる口三味線)をついたりする事が認められているが、実際のゲームにおいては相手の表情などを読んで自分のアクションの判断にする場面も、巷間信じられているほどには多くない…………


どこぞの資料を漁れば、この程度の情報は簡単に手に入る。
それだけポーカーというものはポピュラーなゲームになっているということだ。

「チップは5枚、賭けるぜ」
「それでは私も5枚、賭けましょう」

両者の手によってカードがきめ細かくシャッフルされる。
交わされたルールは、日本人にとって一番馴染みがあるタイプ(クローズド・ポーカーという)だろう。
『クロォォォズドッッ! ポォォォォウカァァァァカァァカァァァァァ……! 』
①プレイヤーが52枚の山札から5枚ずつカードをとる。
②賭け金の可否(ベット)を確認。
③いらない手札を捨てて山札から捨てた枚数だけとる。

「2枚交換だ」
「……ブツブツ……私も、2枚」

④賭け金の可否(ベット)or上乗せ(レイズ)をもう一度確認。

「……このままでいい」
「私はもう一度2枚。ブツブツ……勝負を受けましょう」

⑤手札公開(ダウン)。より高い役を作った勝者は賭け金を全て入手。

「ダイヤのAで-K-Q-J-10のロイヤルストレートフラッシュだ」
「ハートのAで同じくK-Q-J-10のロイヤルストレートフラッシュです」

今回の勝負は手持ち15枚のチップで始まったんだが、いきなりハイレベルな戦いだな。
序盤からこんな形で両者の役が揃ってしまうことが可能なのか!?
……なんて間抜けな叫びをあげる相手がいたら、ぜひ拝見したいものだ。
もはや子供さえ騙せない子供騙し。この勝負はただの運試しから、悪質なイカサマ合戦になっている。

「シーザー様、お気持ちは察しますが賭け金の譲渡を申し上げます」
「わかってるさ。ハートがダイヤより強いのはな……しかし俺の国ではダイヤが一番なんだ。
 俺が敬愛する偉人はダイヤをもっとも注視していたんだぜ? このダイヤのような固い意志が革命を……」

シーザーのイカサマは僕も知っている。
彼は手札を交換してダイヤのロイヤルストレートフラッシュを作ったのではない。
“最初”からカードを5枚抜き取っていた。
ゲームが始まるずっと前。
この島に呼ばれる前に、彼はトランプの箱についていたセキュリティシールを剥がし、開封していたのだ。
磁性を持った“くっつく波紋”と呼ばれる技術を使って、シールは元に戻したらしい。

「わかりました……マークの優劣を事前にハッキリと決めなかったのは、こちらに非があります。
 スペード至上主義は世界共通ではありませんし、今のはノーカウントとしましょう」

プレイがいざ始まった後は、適当に札を引いて、その中にこっそりロイヤルストレートフラッシュを作る札を仕込む。
シーザーは最初のターンで山札から4枚しか引いていない。
1回目の『2枚交換』も真っ赤な嘘。本当は『2枚を重ねて1枚に錯覚させた4枚』を場に出している。
2回目の『2枚交換』も交換するフリをしていただけなのだ。波紋とやらは相当高度な技術らしい。
あるいは、彼が幼少の頃から築いてきたスキルの1つかもしれない。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

『シーザーのイカサマ』

a b c d 10←この10は事前に抜いておいた5枚の内の1枚(abcdは山札から引いたカード)。
   ↓
   ↓←←隠し持っていたロイヤルストレートフラッシュの5枚の内、2枚(JとQ)を手札に仕込む。    
   ↓
a(b)とc(d)を捨てる。※くっつく波紋で重なった2枚のカードを、1枚に見せる。
   ↓
 10 J Q ※本当は4枚捨てたが、2枚捨てたように見える。
   ↓
   ↓←←カードを2枚引くフリをする。隠し持っていた残りの2枚(KとA)を山札から引くようなフリをする。    
   ↓
10 J Q K A 完成

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

……え? 『最初に5枚も抜いてたら、山札をシャッフルしたときに気づく』だって?
僕もそう思う。普通バレる。ちゃんとシーザーにも確認をとったさ。

――ロハン、こいつはいわば挨拶代わりさ。
  チケットによれば、ダービーはゲームマスターなんだろ? 試してやろうじゃないか。
  この男が“俺のイカサマに気づくのか気づかないのか。気づいたとしたら、どう対応するのか”をさ。

ダービーは、セキュリティシールが破れていないだけで、イカサマは無いと思い込む未熟者なのか。
ダービーは、セキュリティシールのトリックに気づいたら、それを執拗に追求する臆病者なのか。
ダービーは、セキュリティシールのイカサマにあえて目をつぶる、生粋のペテン師なのか。

「次回から、マークの強さはスペードを筆頭にハート、ダイヤ、クラブの順とさせていただきます。
 それでは改めてカードはシャッフルさせていただきます。シーザー様も後でご確認ください」

ダービーはそのどれでもなかった。
決して口には出さないがイカサマにイカサマで返す。ヤツは“やられたら受けて立つタイプ”だった。
どうやってハートのロイヤルストレートフラッシュを揃えたのかはわからない。
ダービーは最初の時点でシーザーがイカサマをしているのに、気づいていた。

「このカードは……イカサマはない。正真正銘、“今度こそ”潔白な52枚のトランプだ」

その謎が解けない限り……負けるぜ? シーザー。

 ◇ ◇ ◇

「うざってぇ」

ウェストウッドの苛立ちを横へ受け流しながら、場は静かに続く。
初戦以来、2人の手札は水を打ったように慎ましいものになった。
チマチマとチップを賭けて、やっている事はカードとチップの交換ばかり。
シーザーもダービーもお互いのギャンブル癖を感じ取ったのか、じっと時を待っているようだ。

「シーザー様、我々はお遊びをしているのではありませんよ。ネガティブ・プレイヤーとなんら変わらない」
「その言葉、そっくりそのまま返すぜ」

嵐の前のなんとやらだ。事実、シーザーはもう少しで爆弾を爆破させようとしていた。
全チップを使っての、特大級役ロイヤルストレートフラッシュ。

「ならばこうしましょう。山札も、もうすぐ無くなります。このターンの時点で、お互いの手札を比較するというのは? 」
「一発勝負か。聞いてないな、そんな横暴は」

彼は手札を捨てる時に、こっそりとカードをくすねている。
長きに渡る勝負の合間にスペードの10、J、Q、Kを懐に忍ばせていたのだ。
残りはスペードのAのみ。それさえ引けば賭ける準備が整う。

「ならば私はこの勝負を放棄しても構わないのですよ。お仲間のための時間稼ぎに付き合う義理はない」

ダービーはシーザーの足元を見ているようだが、それは大きな勘違いだ。
シーザーはダービーのイカサマの謎を解くために時間を稼いでいるわけじゃないからな。
現にシーザーは、勝負を挑もうと思えばいつでも挑める圧倒的有利な状況にあった。

「意外とせっかちだぜダービー……まぁいい。こっちもここまで出来るとは、思ってなかったさ」

なぜなら彼は、ダービーの背後に『シャボン玉で作ったレンズ』を飛ばしていたのだから。
レンズに移りこむ映像は、ダービーの手札。彼の役は全てシーザーに筒抜けているのだ。
つまり、シーザーはダービーが“チップ全賭けの勝負に持ち込む”のをずっと待っていたんだな。

「俺は三枚交換するぜ」
「では最後の2枚を私が」

白々しい宣言と共に、シーザーはカードを引き当てる。
そこで引き当てたカードはスペードの9とハートのA、ダイヤのA。上手い……!
『スペード』のAが出なくとも『スペード』の『ストレートフラッシュ』は可能。
『ハート』のAと『ダイヤ』のAが出た以上、ダービーはAの『フォーカード』を出せない。

「この2枚はいりません」

……そして『スペード』の『ストレートフラッシュ』より高い、ダイヤ(ハート)の『ロイヤルストレートフラッシュ』も不可能。
これでダービーが勝つには『クラブ』の『ロイヤルストレートフラッシュ』を出さなければならない。
スペードのAが向こうに渡った可能性はあるが、今のヤツにとっては大した役には立たない。
しかしヤツはスペードのAを捨てていない。この場に出ていたのを、僕はまだ目撃していない。

「「ダウン」」

つまり、この勝負は事実上、シーザーの勝利。

「スペードの9-10-J-Q-Kのストレートフラッシュ」
「スペードの10-J-Q-K-Aのロイヤルストレートフラッシュです」

よしっ! やはりダービーはスペードのロイヤルストレートフラッシュッ!
この勝負はシーザーの勝………………

「……俺の、負けだな」

………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………
…………………………………………………………………なんだって?

 ◇ ◇ ◇

「おっと……私への手出しは、すなわちシーザー様の死を意味します」

ああ、また1つ魂が肉体から吸いとられてゆく。
シーザー・アントニオ・ツェペリ氏の魂が、ダービー君の手によって人形にされてしまった。
互いが出した手札。それは存在しないはずのカードを使った役だった。
スペードの10-J-Q-Kが2枚。どこから沸いて出たのだろうか。
私は知っている。それはダービー君が仕込んだカードなのだ。

彼はシーザー氏が取り出したトランプとまったく同じ商品を持っていたのだ。

考えてみれば、おかしい話ではない。
シーザー氏が用意したトランプはディバッグに入っていたもの。
つまりアラキヒロヒコから支給されたものであるからして、ダービー君が同じ物を手に入れることは可能。
あの悪趣味な珍しいデザインが……この世に2つあるとは、中々考えにくいのは同情できる。

「彼の魂を返して欲しければ、あなたがは私に勝たなければなりません」

身体に隠していた52枚を手足のように操り、巧みに枚数を調整して手札に加えていたダービー。
このイカサマは、彼自身が元々用意していたものであり、シーザー氏への対策ではない。
イカサマを使おうと決心させたのは、シーザー氏自身。あんな事をしたから、ダービー君はイカサマを疑ったのだろう。
それは最初に出したダイヤのAで-K-Q-J-10のロイヤルストレートフラッシュではなく。

――ブツブツ……小ざかしい……ブツブツ……セキュリティシールなんて……見せ掛け……
  この私に……触り、なれている……シールの、貼り具合……ブツブツ……異変、気づかないとでも……

私には何も違和感はなかった。しかしシーザー氏はセキュリティシールにトリックを使ったようだ。
私にしか聞こえないくらい小さな声で、ダービー君は怒りを訴えていたのだ。
自分に真っ向からイカサマを仕掛けようとしたシーザー氏へ、ダービー君はイカサマ勝負を引き受けたのだ。

「おっと……その前に、もう1人お客様を呼ばなければ」

シーザー氏の真意はわからないが、よりイカサマを駆使して札を揃えたのは相手だったと、負けを認めた。
彼は“相手が同じ種類のトランプを持っているはずがない”と油断した事実を受け入れたのかもしれない。

「それでは……どうぞ」

純粋にカードを引き当てていた、という観点からみればシーザー氏は充分よくやった。
心理的な視野狭窄に陥るのは極端であると思うのだが……それが彼の性分なのだろう。
自分が引き込んだはずの土俵で、相手に負かされる……そんな自分を許すことができなかったのだ。

おそらくシーザー氏はイカサマの種をもう理解しただろう。
ポーカー勝負に隠された“邪悪さと狡猾さの勝負”に、彼は決定的な優劣を付けることを望んでいる。
彼の仲間が抗議したところで、勝敗は覆らない。彼自身が敗北を認めたのだから。
この私、ジョージ・ジョースターのように。
物もろくに言えない貧弱な人形として、この人形箱へと永遠に幽閉されてしまうのだ。

「ようこそ、私の島へ」

そしてまた1人。
私はこれからも、悲劇を見届けねばならない。

「や、やれやれだぜ」


【G-10 北西部 小島(ダービーズアイランド)/1日目 昼(午前11時)】
ジョージ・ジョースター1世
[時間軸]:ジョナサン少年編終了後
[状態]:【肉体】右わき腹に剣による大怪我(貫通しています)、大量失血で血はほとんど抜けました
    【魂】テレンスの作った人形の中。禁止エリアに反応して爆破する首輪つき。
[装備][道具]: なし
[思考・状況]
基本行動方針:ジョナサンとディオの保護
1.おお、なんということだ。
※テレンスに一回勝利しないとジョージの魂は開放されない。 ただしテレンスの死はジョージの死。
※ジョージの人形がどこまでちゃんと喋れるのか不明(話相手ぐらいにはなる?)。

【シーザー・アントニオ・ツェペリ】
[時間軸]:ワムウから解毒剤入りピアスを奪った直後。
[状態]:【肉体】疲労(大)、ダメージ(大)、ヘブンズ・ドアーの洗脳
    【魂】テレンスの作った人形の中。禁止エリアに反応して爆破する首輪つき。
[装備]:スピードワゴンの帽子。
[道具]:支給品一式、エリナの人形、中性洗剤。
[思考・状況] 基本行動方針:ゲームには乗らない。リサリサ先生やJOJOと合流し、 エシディシ、ワムウ、カーズを殺害する。
0.…………………精神的敗北。
1.荒木やホル・ホースの能力について知っている人物を探す。
2.スピードワゴン、スージーQ、ストレイツォ、女の子はできれば助けたい。
[備考]
※テレンスに一回勝利しないとジョージの魂は開放されない。 ただしテレンスの死はシーザーの死。
※シーザーの人形がどこまでちゃんと喋れるのか不明(話相手ぐらいにはなる?)。
※第一放送を聞き逃しました。
※ヘブンズ・ドアーの命令は以下の1つだけです。
 1.『岸辺露伴の身を守る』

【テレンス・T・ダービー】
[時間軸]:承太郎に敗北した後
[状態]:健康 スタンド『アトゥム神』
[装備]:人形のコレクション(ジョージ、シーザー)
[道具]: 世界中のゲーム
[思考・状況]
1.参加者ではなく、基本はG-10にある島でしか行動できない。
2.荒木に逆らえば殺される。
3.参加者たちとゲームをし、勝敗によっては何らかの報酬を与える(ように荒木に命令されている)。


ヴィヴィアーノ・ウエストウッド
[スタンド]:プラネット・ウェイブス
[時間軸]:徐倫戦直後
[状態]:左肩骨折、ヘブンズ・ドアーの洗脳 、
[装備]:なし
[道具]:基本支給品(飲料水全て消費)、不明支給品0~3
[思考・状況]
0.あー……? 誰かきたな。
1.シーザー負けてんじゃねー。
2.露伴の介護をするため、露伴の命令に従う。
3.出会った人間は迷わず殺す。
[備考]
※怪我の応急措置は済ませました。戦闘などに影響が出るかどうかは次の書き手さんにお任せします。
※支給品を確認したかもしれません。
※自分の能力については理解しています。
※ヘブンズ・ドアーの命令は以下の二点です。
 1.『人を殺せない』
 2.『岸辺露伴を治療ができる安全な場所へ運ぶ。なお、その際岸辺露伴の身を守るためならスタンドを行使する事を許可する』
※ヘブンズ・ドアーの制限により人殺しができないことに気づいていません。
※鉄塔の戦いを目撃しました。プッチとサーレーの戦いは空のヘリで戦闘があった、地上では乱戦があった程度しかわかっていません。
 また姿も暗闇のため顔やスタンドは把握していません。
※館から出てきたジョナサン、ブラフォードを見ました。顔まで確認できたかどうかは次の書き手さんにお任せします。

【岸辺露伴】
[スタンド]:ヘブンズ・ドアー
[時間軸]:四部終了後
[状態]:右肩と左腿に重症(治療済み)、貧血気味
[装備]:ポルナレフの車椅子(安静のために乗ってます)
[道具]:基本支給品、ダービーズチケット ジョジョロワトランプ2ndシーズン
[思考・状況]
基本行動方針:色々な人に『取材』しつつ、打倒荒木を目指す。
0.取材取材ィ! ダービー君、君から色々聞きたいからヨロシクッ! シーザーのカリは……って、あんたは!?
1.“時の流れ”や“荒木が時代を超えてヒトを集めた”ことには一切関与しない。
2.あとで隕石を回収しに来よう。
[備考]
※参加者に過去や未来の極端な情報を話さないと固い決意をしました。時の情報に従って接するつもりもないです。
 ヘブンズ・ドアーによる参加者の情報を否定しているわけではありません。

例 プッチ神父と徐倫の情報も大まかに理解しましたが、他人にこの情報を話すつもりは一切ないです。
  プッチ神父には“DIOと親密な仲間ァッー”ではなく“徐倫たちを敵視する、いかれた天国マニア”。
  空条徐倫には“空条承太郎の実の娘”ではなく“プッチたちを嫌う、仲間想いのプッツン女囚”。
  シーザーには“ジョセフの戦友”ではなく、“信頼を得れば実に頼もしい元チンピラ”。
  ウェストウッドには“徐倫と戦ったプッチの部下”ではなく“隕石を落とすうざいヤツ”として接します。

※名簿と地図は、ほとんど確認していません(面倒なのでこれからも見る気なし)。
※傷はシーザーのおかげでかなり回復しました。現在は安静のため車椅子生活を余儀なくされています。
※第一放送を聞き逃しました。
※空条承太郎(オインゴ)に気がつきました。
※露伴の支給品はポルナレフの車椅子、ダービーズチケット!!、ジョジョロワトランプ2ndシーズンの3つでした。


【ジョジョロワトランプ2ndシーズン】
シーザーがポーカー勝負に使ったトランプは、な、な、なんとこれ!
あのジョジョロワトランプが装いも新たにして帰ってきたッ!
ジョジョロワ2ndの参加者88人から厳選された51人+アラキヒロヒコを加えた52枚!!
何?枚数が足りない?……じゃあお前をカードにしてしまえばいいんじゃあないか……。
岸辺露伴の支給品でもあるが、ホビーショップ『ディオザラス』によれば、かなり大量入荷されたらしいぞ。
あの名プレイヤー、テレンス・T・ダービー氏も一押しの一品ッ! 拡張パック、新シリーズも随時発売予定だァァ!


【ポルナレフの車椅子】
5部でポルナレフが乗っていたもの。わりと身軽に動ける造り。


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キャラを追って読む

118:性/さが 岸部露伴 139:NEVER SAY GOODBYE
118:性/さが ヴィヴィアーノ・ウエストウッド 139:NEVER SAY GOODBYE
118:性/さが シーザー・アントニオ・ツェペリ 139:NEVER SAY GOODBYE
109:リグビーズ・タイム ジョージ・ジョースター1世 139:NEVER SAY GOODBYE
133:Nothing to Fear! テレンス・T・ダービー 139:NEVER SAY GOODBYE

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最終更新:2009年11月16日 09:48