晴天の起因は頂を登り正午を刻む。降り注がれる放射線の仰角はほぼ真下。
打ち寄せられる飛沫と共に奏でられる屈折のコントラストは、今日も変わらず美しい。
これほどまでに美しい景観が用意されているというのに、誰も興味を示さない。
だらしなく四肢を弛緩させてアクビをする者。冷や汗を流して立ちすくむ者。
魂を奪われて倒れ伏す者たち。そして……目先の欲を満たすため、命をやりとりする愚か者たち。

空条承太郎様。少々お待ちください。この方々の判断を先に仰ぎたいので」

恭しく払われる礼。最初に口火を切ったのはテレンス・T・ダービーだった。
オインゴの正体を暴くことなく、偽りの存在を黙認。なぜ。
彼はオインゴの変身能力『クヌム神』を見破れなかったのか?
否。彼はオインゴの申し出があったからこそ、自分の陣地に招待したのだ。
召還を願い出た者の把握をテレンスが成しえぬはずはない。
何より彼は『ある手段で』参加者の情報を大まかに知っている。すなわち空条承太郎の死すら当の昔の話。

「それでは、決断を」

では、テレンスは、同じDIOの同盟者として親交のあるオインゴを庇ったのだろうか。
それも否。彼はオインゴに仲間意識など持ちあわせていない。
なぜなら彼は主催者側のギャンブラーである前に……勝負を取り仕切る仲介人である。
つまり彼は一介の勝負師でありながら、中立の視点でギャンブル滞りなく進行させねばならない。

――岸辺露伴様、ヴィヴィアーノ・ウェストウッド様、あの人はオインゴさんです――
――空条承太郎さんに変装している赤の他人です――
――スタンド能力『クヌム神』で変身しているのです――

違う。それらは勝負の公平さを損なわせる行為。
テレンスが判断した中立。
それは『オインゴの能力を露伴たちに伏せる』こと、そして『露伴たちの素性をオインゴに伏せる』こと。
露伴たちは承太郎の真相に気づかぬまま。オインゴは露伴たちの名を知らぬまま。
己の横槍によって双方に旨味が生まれないように、行動を選択している。

「……ちょっと待ってくれないかな。 いや、ね……僕は構わないんだけど。
 承太郎さんに相談しておきたいんだ。彼もチケットを持っていたからココに呼ばれた。
 せっかくの偶然を使わない手はない。彼と作戦会議する時間を僕は希望する」
「勝負が始まる前ならば、いかなる進言も受け入れましょう。このまま引き返しても結構」
「露伴君、お、お、俺はどうしたらいいんだぜ」
「OK!じゃあ勝負は後ほど。承太郎さん、ちょっとこっちへ」
「シーザー様の肉体への配慮も出来る限り考慮します。私の身に危害が及ばないのならば……の話ですが」

一方、勝負師としてのダービーはこの状況を楽しんでいた。
それはオインゴの登場で掻き立てられたのではなく、岸辺露伴との出会い。
未だスタンドの片鱗すら見せない彼の底知れなさに、ダービーは純粋な敬意を感じていた。

そう、ダービーは露伴のスタンド能力をまったく知らないのだ。

彼が知っているのは『元にいた世界で得た情報』と『参加者の顔と名前だけ』。
オインゴのスタンドも承太郎のスタンドもDIOとジョースター家の因縁も知っている。
しかしそれだけ。DIOが雇った調査団によるジョースター一行の情報のみ。
荒木飛呂彦から手に入るはずだった圧倒的な有利を、ダービーは自らの手で拒否したのだ。
その理由は己の勝負勘を鈍らせないため。情報は勝敗を決する近道となるが、近道は答えではない。
近道に頼りきって安心する腑抜けになることを彼は恐れていた。敵はいつも情報を落としてはくれない。

「……海沿いを進んでいたんですよね」
「ああ」
「承太郎さん、『それ』、今はどうなってるんです」
「どうだろうな」
「この説明書は『それ』と一緒に紙に入っていた。現物は確認してるんですよね? 」
「ああ」
「薄々感づいているんじゃあないですか?……『それ』がここに来ると」
「どうだろうな」
「ハハッ! まあ期待はしてますよ。少なくとも僕は“空条承太郎と『例の組織』を信頼しています”から」
「ああ」

……現にこうして味方が敵に情報を漏らすケースも有り得るのだ。
オインゴはこの島の位置と自分の情報を早くもバラしている。
オインゴの気持ちを察すれば、さしずめ疑いの目を逸らすための保身。
露伴と承太郎は繋がりがある。正体が割れるのも時間の問題。
億泰から情報をもらったオインゴも、そうでないテレンスも、思いは共通していた。

「なぁ! お前は僕たちを召還した。ということはその逆もできるのか? 」
「先ほども申し上げましたが、勝負以外の要請は私の裁量に左右されますので、答える必要はありません」
「“できない”とは言わないのか。フン! まぁいい。シーザーの肉体はこっちが管理させてもらうよ」
「しかしシーザー様はいずれ衰弱して没するでしょう。魂が抜けるとは、そういうことです」
「そこで寝ている老人は手遅れのようだが……直接の死因は出血死だろう?しかしシーザーは無傷だ」

シーザーの身体をウェストウッドが両手で引きずっている。
全身を鍛えたイタリア人の巨躯はアメリカの男にもすこぶる重い。
身動きのとれない人間を運ぶのは、本来はウェストウッドのような無骨なタイプでも大変。
ところがウェストウッドは文句1つも言わず、大きな図体を揺らして職務をこなしている。
その物を言わぬ姿には、何らかの異常性を匂わせているが……

「僕の全神経をかけて、ヤることヤろうじゃないか」
「グッド。ゲームは何にしましょうか」

それは、このヴィヴィアーノ・ウェストウッドに染み付く。

「……ウェストウッド」

狂気のせいなのかもしれない。

☆ ☆ ☆

「ロハン・キシベはてめーとゲームすることはねぇ」

これまで沈黙を保っていた存在、ヴィヴィアーノ・ウェストウッドの開口。
その言葉の内容を受け止めるのに、この場にいた全員が数秒のスキを取られた。
ヴィヴィアーノの本音。ヴィヴィアーノの真意。ヴィヴィアーノの狙い。
全てがヘブンズ・ドアーの掌で造られた虚像とも知らずに、虚無に陥る。
ヴィヴィアーノが浴びた露伴の洗脳は『岸辺露伴を守ること』と『人殺しの不可』。
だがウェストウッドが理解している洗脳は唯一。
『岸辺露伴を治療ができる安全な場所へ運ぶ。なお、その際岸辺露伴の身を守るためならスタンドを行使する事を許可する』。

「アホのシーザーが敗北した瞬間から、俺は完全に『ロック』されたんだ」

シーザーの敗北は魂を抜き取られることで完結した。
ダービーの死亡遊戯の顛末を学習したウェストウッドは、あらゆる危険性を無意識に考慮する。
①露伴は勿論、自分がゲームに参加することを拒絶する。敗北は露伴を危険に足らしめる。
②掟破りのダービー殺しも拒絶。島の支配者ダービーの死で、島から脱出できなくなってしまう恐れがある。
そしてダービーの死はシーザーの死。最優先事項ではないが、露伴の治療役をおいそれと捨てるのは忍びない。
まさに自縄自縛。完全自作自演包囲網。ウェストウッドは己の立場を本能で理解したのだ。

「空条承太郎だったか? だからお前がやれ」

ウェストウッドの人差し指が、帽子を深く被る男に向けられる。
彼の記憶にあるのは、自分を打ち負かした空条徐倫の名。
岸辺露伴と出会う前に、ウェストウッドは名簿に2つの空条を見つけていた。
――囚人番号FE40536ジョリーン空条の関係者の可能性アリ。
復讐の対象=空条という図式がウェストウッドの脳髄に叩き込まれていた。
“こいつが勝てば旨みは俺たちがもらう。負けても俺がスカっとする”。
己の恨みを晴らすために、ウェストウッドは唇を舌で舐める。

「……訳は後で話します。承太郎さん」

岸辺露伴はウェストウッドを右手で制しながら、オインゴに問う。
このとき岸辺露伴が空条承太郎へ割り振る“信と疑”は五分五分であった。
普段の白いロングコートとは打って変わった学ランと、一辺倒な誤魔かしに露伴は“疑”を抱く。
一方で、迷うことなく“露伴”の名を口にした事実は“信”に値する。
当然の如く、これはオインゴが虹村億泰から露伴の人柄の情報を手に入れていたことに起因。
しかし露伴はそんな事を知る由もない。むしろこの事実は、露伴に余計な入れ知恵を与えていた。
島にいた誰もが、オインゴの前で岸辺露伴の名を口にしていない。つまり、この承太郎は本物。おそらく。

「さて空条承太郎様、どうされますか」

ウェストウッドが動かない事情は、ヘブンズ・ドアーの持ち主である露伴にも立派に通じる道理。
主催者たちへの情報漏えいを危惧し、先刻まで貫き続けたヘブンズ・ドアーの自粛。
“時の考察”もこの時ばかりと露伴に牙を向いた。承太郎がいつの時代からやって来たのかがわからない。
それらをこのタイミングで解禁し、場を混乱に陥れるほど彼の心境は乱れてはない。
したがって彼も場を任せるほかなかった。“承太郎”に。

「帰る。てめーらの為に動く義理はねぇ」

とはいえ、ここにいる承太郎は全くの別人。己の保身に走るオインゴなのだ。
彼がいらぬ争いに自ら投じるはずがない。いつも心はYES安全NO危険。
オインゴはダービーと軽~~い談話を楽しみながら休憩する目的でやってきただけ。
命のやり取りといった高尚な目的はゼロ。興味もゼロ。
オインゴは大股に足を開いてポーズをとると、ビッとダービーに指図した。

「ダービー、俺を元の場所へ帰してくれ」

オインゴのジョースター一行共倒れ作戦が、ついに始まった。
大事な局面で空条承太郎が仲間の期待を裏切る。『承ります』ではなく『お断りします』。
取り残された仲間はどうなるだろう。承太郎が偽者と疑うのか?
その前に“どうして……?”と受け入れることを手間取ってしまうだろう。

「それでは空条承太郎様、アディオス――」

些細な行為だが、これが幾千回と続けられたら。
微細なひびが防波堤を崩すように。一級品の芸術の評価をさげるように。
噂が噂を呼び、実となる風評被害。被害被害被害被害。

「イヤッフォォォォォォォィィィ! 」

右腕を高く掲げてオインゴは飛び上がる。オインゴ、新たなる面相を奪取し、再び大地へ。
周囲の風景は打って変わってエリアはI-6。彼は再び川岸の原っぱに帰ってきたのだ。
興奮の余りそのまま地面を転げまわる。
物事が滞りなく進行していることへの、喜びのボディランゲージ。

「信じられねぇ! 俺ってついてるぜ! 」

オインゴは予定外のイベントのために、引き返すことを選んだ。
それは一重に恐怖もあったのだが、彼の狙いはダービーの島に居座ることだった。
海に囲まれたこの島は、敵から命を狙われることのない、最上で最高のオアシス。
支給品のチケットが無ければ、この島の存在など知るチャンスも無い。

「これで俺の“他人に成りきって評判ガタ落ち作戦”はグーンと成功率が上がった。
 ヤバくなったら、このチケットでダービーに匿ってもらえばいいんだからな! 」

オインゴの顔がゴワゴワと変形していく。
新たに手に入れた面相は岸辺露伴とヴィヴィアーノ・ウェストウッドとテレンス・T・ダービー。

「それに、地図に載ってない島が海にある……つまり、『こいつ』も使えるってこった! 」

ごそごそとポケットから小さな装飾品を取り出す。
オインゴがンドゥールから受け継いだ支給品、【承太郎が徐倫に送ったロケット】。
空条承太郎が、スタンド能力を発症させる『矢』の欠片を仕込んで投獄中の娘に渡したものだ。
このロケットはただのアクセサリーではなく、ある装置が取り付けられている。
川岸をずっと移動していたオインゴを何度も驚かせた。その正確さはハイテクノロジーの化身だ。

「『潜水艦』が俺をわざわざ探してくれるんだぜ。出来すぎだよなぁ~~~コレはよぉ~~~~? 」


誰とも分からない顔で、オインゴは醜く笑う。


【I-6 川沿い/1日目 昼】
【オインゴ】
[スタンド]:『クヌム神』
[時間軸]:JC21巻 ポルナレフからティッシュを受け取り、走り出した直後
[状態]:胃が痛い(かなり和らいだ)。
[装備]: 首輪探知機(※スタンド能力を発動させる矢に似ていますが別物です) 承太郎が徐倫に送ったロケット
[道具]: 青酸カリ、学ラン、ミキタカの胃腸薬、
    ダービーズ・チケット、支給品一式×2(ペットボトルは1本消費)
[思考・状況]
基本行動方針:積極的に優勝を目指すつもりはないが、変身能力を活かして生き残りたい。
1.ついてるぞ!
2.鏃が差した方向に従い、他の参加者に接触する。
3.ピンチになったら潜水艦やダービーズ・チケットを使って『逃げる』か『海を攻略する』。
4.他人の顔と学ランを使って、奴らの悪評を振り撒こうかなぁ~(バレそうになったらチケット使って逃げる)。
5.億泰のスタンド能力を聞き出したい(とりあえず戦闘型ではないかと推測)

※顔さえ知っていれば誰にでも変身できます。スタンドの制限は特にありません。
※承太郎、億泰、露伴、ウェストウッド、テレンス、シーザー、ジョージの顔は再現できます。
※エルメェス、マライア、ンドゥール、ツェペリ、康一、ワムウ、リサリサの死体を発見しました。
 しかし死体の状態が結構ひどいので顔や姿形をを完全に再現できるかどうかは不明です。
※億泰の味方、敵対人物の名前を知っています。

【承太郎が徐倫に送ったロケット】
ダービーズ・チケットに続くンドゥールの支給品その2。
コミックス64巻~66巻に登場するアクセサリー。面会室で空条徐倫が差し入れとしてもらった。
サイズは小さいが、中に矢の欠片を入れることが可能。実はSPW社の潜水艦の探知機も仕込まれている。
徐倫がその場で捨てたため、エルメェスとグェスがスタンド使いとなり割を食った。
【SPW社の潜水艦】
ンドゥールの支給品その3。DISCを抜き取られた空条承太郎が乗っていたアレ。
第6部の、コミックス66巻で登場したSPW社が誇る海洋移動機。人を乗せて海にもぐることが出来る。
基本として、【承太郎が徐倫に送ったロケット】を持っている人の所に向かうよう設定されている。
【承太郎が徐倫に送ったロケット】を持つ人間が搭乗したら、制御可能になる。
【承太郎が徐倫に送ったロケット】が破壊されたら潜水艦はどうなるのか? それは誰にもわからない。
オインゴが島を行ったり来たりしたから現在位置はG-8。潜水艦なので移動速度は結構速い。

☆ ☆ ☆

最果てに浮かぶ特別賭博施設ダービーズ・アイランド。
支配人テレンス・T・ダービーに挑みし勇者たちは二つの道を選ばされる。
本人にとって有益なもの――それは情報であれ物品であれ――を手に入れる『栄光』の道。
肉体から命だけが飛び出し、小さな人形に閉じ込められて生涯を生きる『敗北』への道。
勝負は世界中の古今東西に散らばる、海千山千のゲーム。カード、ダイス、ボードゲーム、チップ……

「……ようこそ、ダービーズ・アイランドへ」

しかし勝負をする前提として、挑戦者は専用のチケットを発見せねばならない。
挑戦権はチケット所有者だけではない。島にたどり着いたすべての人間が参加者となる。
ただ、ダービーズ・チケットが無ければ、この島の存在を知ることも無いということ。

「まさか仲間を置き去りにして、再度この島にやってくるとは」

そして、ダービーの前に現れた挑戦者は己の嗅覚に引っかかった最上の餌のために……。
駒を捨て、主催者の喉笛へ噛み付く近道を選んだ。

「御託はいい。僕が希望するゲームはトランプの“スピード”だ」

その男の名は岸辺露伴。
車椅子からぎこちなく木製の椅子に移動すると、ダービーに向かい合うような形でテーブルについた。
配下のウェストウッドをまるで場代(チップ)のように切り捨てて、壇上に立つ。

「手持ちのカードはジョーカーを抜いた52枚でやる。持っているんだろう? 同じメーカーのトランプを」

オインゴが去った後、残された露伴たちは予想外の事態に深くため息をついた。
全く真意がわからない承太郎の行動。ただでさえ無口な男は勘違いされやすいというのに。
岸辺露伴は空条承太郎の反旗で、己を責めた。それは承太郎関係の失態による感情ではない。

「ジョーカーのないトランプ……ええ、シーザー様がお持ちになっていた札種はここに」

奴が偽者だった?時の考察に関係あり?そんなことはもうわからない。当の承太郎がいないのだから。
尋問は今度出会った時にすればいい。当初の通り、島から出てヘブンズ・ドアーで徹底的に調べればいいのだから。
露伴の問題はそこではなかった。彼はウェストウッドの処遇を思いつかなかったことを恥じたのだ。
元の土地に戻り、ヘブンズ・ドアーの洗脳を改ざんして、もう一度島に戻ればよかったのだから。
露伴にとってウェストウッドに対する固執は、あくまで緊急避難用のはしごに過ぎない。
救急車のシーザーを手に入れた今、もはや火事の野次馬に等しい人材だった。

「それでは、よろしいですね? 」
「来るがいいさ……準備が出来ているのならな」

そして岸辺露伴は……この世界において己が成すべき役割を受け入れつつあった。
ヘブンズ・ドアーは相手の意識を書き換える。ゆえに向かう所敵無し。
しかしこの能力が戦闘系スタンドかと聞かれれば、彼は首を振るだろう。
ヘブンズ・ドアーの発動よりも相手が先手を取ってしまった場合、限りなく窮地に陥る。
鍛えあげられた肉体もなく、拳法の心得もない本体はスタンドには格好の的。

「「勝負ッ! 」」

何より彼は自分本位だ。ビジネスライクの付き合いを除けば、彼は本能に忠実。
『読者のために漫画を描く』という欲望のままに動き、世界中で取材の旅をする。
取材のためだったら全財産も叩き、資料のためなら他人の尊厳さえも容易く踏みにじる。

“悪の怪人よりは正義の味方のほうがマシさ。だけど正義に全てを注ぐほど僕はお人好しじゃあない。”

滑らかに札を散らしながら岸辺露伴は考える。
殺し合いという品位の欠片もない戦闘には、東方仗助や虹村億泰が迎え撃つ。
仲間を集い抵抗組織を作り上げる工作には、空条承太郎や広瀬康一が適任だ。
では親友にさえ灰色の男と評される自分の役割は何か。
答えは決まっている。

“『取材』だ。これは『取材』なんだ”

生まれてこの方欠かさず続けてきた行為。いともたやすく行われる好奇な冒険。
テレンス・T・ダービーに勝利し、荒木飛呂彦の情報を洗いざらい喋らせる。
ダービーズ・チケットを贈られた運命を、素直に受け入れることでフルに活かす。
ただし相手は百戦錬磨のギャンブラー。まさしくプロ中のプロ。
シーザーのイカサマをモノともしなかった技量は、ただの漫画家には到底かなわない。

「ヌウゥッ! 岸辺露伴……この手の動きッ! 貴様やり込んでいるなッ!? 」

しかし漫画家には、そうッ! 漫画家は日夜走らせ続けた技術がある。
通常約3日。カラーが加われば約4日。原稿を仕上げる両手の巧みさは、一日の長がある。
ダービーの発言は大いなる間違いである。
露伴はカジノに入り浸るほど金にも執着はない。露伴には極道を震え上がらせる博打の才覚もない。
彼は己が培ってきた経験を披露しているだけに過ぎない。
ゆえに露伴は、イカサマが入りにいくい純粋な『スピード勝負』に持ち込んだのである。

「終わりだッ!」
「コンプリーッ!」

テーブルに叩きつけられたトランプたちが、勢い余って跳ね上がる。
黒と赤と白の三色が織り成す紙々のダンス。観客はたった2人。
勝敗はつかず。どちらも終了を宣言したが、勝ちを名乗りあげなかった。お互いが納得していないのである。
テレンスはテーブルから立ち上がり、爪を噛みながら無念さを喘いだ。

「“ほぼ同時”……! 信じられない、この俺がカード勝負で『引き分け』ッ!」

余談だが『スピード』とはトランプにおける2人用短気決戦ゲームのことである。
まずトランプをハート&ダイヤとスペード&クラブの2組に分けてシャッフル。
次にお互いが4枚のカード(場札)を引いて、テーブルに表向きで並べて置けば準備完了。
①掛け声と共に、手札の手札の一番上のカードを場札と場札の間に同時に置く(台札)。
②4枚の場札の中に、台札と一つ違いがあれば、その場札を台札に重ねて新しい台札にできる。
③プレイヤーは不足した場札を手札から補充する。
④両者とも②~③の動作が不可能となった場合、①に戻る。
⑤以上の繰り返しで先に手札を切らせた側が勝利。
ただし今回は例外として、プレイヤーの手持ちのカードの枚数は従来の倍の52枚(26種×2)

「――さあ、第2ラウンドだ、早くやろうぜダービー・ザ・プレイヤー。引き分けじゃあしょうがない」
「……? な、な…………何……だと…!? 」
「当然じゃないか。僕は君と勝負するためにここに来たんだからな」

まさにスピードの名に相応しい“息もつかせぬ”行動が望ましい。
運の要素も大事ではあるが、それ以上に瞬発力と判断力の正確さが問われるのだ。
勝負のかかる時間は5分とかからないだろう。
集中力を大量に消費するゲームではあるが、それに見合った試合時間である。

「ついでに……変な期待をされても困るんで言っておくが――」

では、仮にこのスピード勝負の決着が終わらなかったとしたら?
手先の運動に限れば、岸辺露伴のスタミナは漫画家家業で鍛錬されている。
ダービーもゲームの達人であり、指先の感覚は誰よりも研ぎ澄まされているだろう。
超人的な技術を持つプレイヤー2人が、ずっと同時に手札を切らせたとしたら?
この勝負は終わらない。終わるはずがない。勝敗がつくまで続けるしかない。
何十、何百、何千、何万、何億回と――永遠に。


「この岸辺露伴に精神的動揺による判断ミスは、絶対に無いと思っていただこう」





【G-10 北西部 小島(ダービーズアイランド)/1日目 昼(放送直前)】


【終わりが無いのが終わり! トランプ・地獄の無限『スピード』対決】
【岸辺露伴】
[スタンド]:ヘブンズ・ドアー
[時間軸]:四部終了後
[状態]:右肩と左腿に重症(治療済みだが車椅子必須)、貧血気味、精神集中、
[装備]:ダービーの椅子に座っている
[道具]:基本支給品、ダービーズチケット ジョジョロワトランプ2ndシーズン
[思考・状況]
基本行動方針:色々な人に『取材』しつつ、打倒荒木を目指す。
0.取材取材ィ! ダービー君、君から色々聞きたいからヨロシクッ!
1.“時の流れ”や“荒木が時代を超えてヒトを集めた”ことには一切関与しない。
2.あとで隕石を回収しに来よう。
[備考]
※参加者に過去や未来の極端な情報を話さないと固い決意をしました。時の情報に従って接するつもりもないです。
 ヘブンズ・ドアーによる参加者の情報を否定しているわけではありません。 具体例は「知りすぎていた男」参照。
※名簿と地図は、ほとんど確認していません(面倒なのでこれからも見る気なし)。
※傷はシーザーのおかげでかなり回復しました。現在は安静のため車椅子生活を余儀なくされています。
※ポルナレフの車椅子とシーザーの肉体が露伴のそばにいます。
※第一放送を聞き逃しました。

【テレンス・T・ダービー】
[時間軸]:承太郎に敗北した後
[状態]:健康 精神疲労(小)
[装備]:人形のコレクション
[道具]: 世界中のゲーム
[思考・状況]
1.参加者ではなく、基本はG-10にある島でしか行動できない。
2.荒木に逆らえば殺される。
3.参加者たちとゲームをし、勝敗によっては何らかの報酬を与える(ように荒木に命令されている)。
※ダービーは全参加者の情報について、名前しか知りません(原作3部キャラの情報は大まかに知ってます)。
※ダービーズ・アイランドに放送が流れるのかは、不明です。

ジョージ・ジョースター1世
[時間軸]:ジョナサン少年編終了後
[状態]:【肉体】右わき腹に剣による大怪我(貫通しています)、大量失血で血はほとんど抜けました
    【魂】テレンスの作った人形の中。禁止エリアに反応して爆破する首輪つき。
[装備][道具]: なし
[思考・状況]
基本行動方針:ジョナサンとディオの保護
1.むう、なんということだ……!
※テレンスに一回勝利しないとジョージの魂は開放されない。 ただしテレンスの死はジョージの死。
※ジョージの人形がどこまでちゃんと喋れるのか不明(話相手ぐらいにはなる?)。


シーザー・アントニオ・ツェペリ
[時間軸]:ワムウから解毒剤入りピアスを奪った直後。
[状態]:【肉体】疲労(大)、ダメージ(大)、ヘブンズ・ドアーの洗脳
    【魂】テレンスの作った人形の中。禁止エリアに反応して爆破する首輪つき。
[装備]:スピードワゴンの帽子。
[道具]:支給品一式、エリナの人形、中性洗剤。
[思考・状況] 基本行動方針:ゲームには乗らない。リサリサ先生やJOJOと合流し、 エシディシ、ワムウ、カーズを殺害する。
0.…………………精神的敗北。
1.荒木やホル・ホースの能力について知っている人物を探す。
2.スピードワゴン、スージーQ、ストレイツォ、女の子はできれば助けたい。
[備考]
※テレンスに一回勝利しないとジョージの魂は開放されない。 ただしテレンスの死はシーザーの死。
※シーザーの人形がどこまでちゃんと喋れるのか不明(話相手ぐらいにはなる?)。
※第一放送を聞き逃しました。
※ヘブンズ・ドアーの命令は以下の1つだけです。
 1.『岸辺露伴の身を守る』

☆ ☆ ☆

半永久的に多大な精神的疲労を与え続ける露伴の作戦。
それはダービーの余裕と沈着を揺さぶり、恐怖と渇望への開放を望ませる。
最終的に露伴が敗北したとしても、ダービーの精神力と勝負勘はかなり精度を落ち込ませるだろう。

「……どこだぁ」

しかしそれは同時に岸辺露伴の精神力も少なからず疲弊させる。
万が一露伴の精神が折れてしまった場合

――いや、この場合は“ヘブンズ・ドアーが解除されてしまった場合”と言うべきか。

残された犬はどうなってしまうのか。

「ロハン・キシベはどこだぁ……」

少なくとも、今は大丈夫のようだ。飼い主を見失った犬はまだ命令を守っている。
『岸辺露伴を治療ができる安全な場所へ運ぶ。なお、その際岸辺露伴の身を守るためならスタンドを行使する事を許可する』
覚醒したウェストウッドは、露伴が再びダービーズ・アイランドに戻ったことに気がついていない。
ならば彼の行動基準はどうなるのか。

岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。
岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。
岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。
岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。
岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。

しかし岸辺露伴はいない。
見捨てられた? 島へ戻った? 隠れている?  自分は命の恩人なのに? 車椅子がないと動けないのに?
そんなはずがない。

岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。
岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。
岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。
岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。
岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。

守らねばならない。探さねばならない。
ひょっとしたら、何者かに襲われたのかもしれない。さらわれてしまったのかもしれない。
助けなければならない。岸辺露伴を取り戻さねばならない。

「ぐびっぐびっぐびっぐびっ……」

自分の支給品であるペットボトルをガブ飲みして、ウェストウッドは奮起した。
彼は知らない。そのジュースが恐ろしい飲み物であることを。
自分の戦闘本能を呼び覚まさせて好戦的にするスタンド『サバイバー』が入っていることを。

「手当たり次第に拷問して尋問してやる。ロハン・キシベを助けるためだ」

ウェストウッドの胃や腹にたまった『サバイバー』は、ウェストウッドを興奮させる。
主人不在という緊急状態(危険度レベル6)において、命令実行のためならば手段は問われない。

「ここにいる全員だ……吐かせてやる。知らないフリしようが構わねぇ。
 スカっと殴っちまえば、ゲロる決まってんだ。カスな人間ほどな」

岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。
岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。
岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。岸辺露伴を守る。
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【D-3 民家/1日目 昼(放送直前)】
ヴィヴィアーノ・ウエストウッド
[スタンド]:プラネット・ウェイブス
[時間軸]:徐倫戦直後
[状態]:左肩骨折、ヘブンズ・ドアーの洗脳
[装備]:『サバイバー』入りペットボトルジュース(残り1リットル)
[道具]:基本支給品(飲料水全て消費)、不明支給品0~2
[思考・状況]
0.ロハンを探す。
1.出会った人間は迷わず尋問、拷問。ロハンの居場所を吐かせる。
2.本当に知らなかった場合? 知るか。
3.出会った人間は迷わず殺す。
[備考]
※怪我の応急措置は済ませました。戦闘などに影響が出るかどうかは次の書き手さんにお任せします。
※支給品を確認したかもしれません。
※自分の能力については理解しています。
※ヘブンズ・ドアーの命令は以下の二点です。
 1.『人を殺せない』
 2.『岸辺露伴を治療ができる安全な場所へ運ぶ。なお、その際岸辺露伴の身を守るためならスタンドを行使する事を許可する』
※ヘブンズ・ドアーの制限により人殺しができないことに気づいていません。
※鉄塔の戦いを目撃しました。プッチとサーレーの戦いは空のヘリで戦闘があった、地上では乱戦があった程度しかわかっていません。
 また姿も暗闇のため顔やスタンドは把握していません。
※館から出てきたジョナサン、ブラフォードを見ました。顔まで確認できたかどうかは次の書き手さんにお任せします。

【『サバイバー』入りペットボトルジュース2リットル】
ウェストウッドがロワ冒頭から何気なく飲んでいたジュース。
共通支給品であるペットボトル(水)の他に、これも飲んでいたからキャラが変わっていた。
本当のウェストウッドはもう少し大人しい性格の持ち主。
『サバイバー』はスタンドで、原作6部コミックス71~74巻あたりを参照。
電流と水を介して人間の闘争本能を増やすスタンド。
ちょっとの水があれば人間の体内にもともと流れている電流を使って、相手を怒らせやすくする。
本体のグッチョ(射程距離とスタンド効果の関係上の問題)はどこにいるのか?という疑問が……。

露骨に常時闘争心が掻き立てられてない、ということでそこは一つ。


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133Nothing to Fear! オインゴ 158:赤ずきん
134:知りすぎていた男 岸部露伴 152:浦島太郎
134:知りすぎていた男 ヴィヴィアーノ・ウエストウッド 152:浦島太郎
134:知りすぎていた男 シーザー・アントニオ・ツェペリ 152:浦島太郎
134:知りすぎていた男 ジョージ・ジョースター1世 152:浦島太郎
134:知りすぎていた男 テレンス・T・ダービー 152:浦島太郎

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最終更新:2010年01月19日 13:28