一寸(約3㎝)にカットされた桃色の大理石と墨色の大理石が、32組ずつ隙間無く敷き詰められている。
それらの石片を動かないように固定している枠は
目が痛くなるほどに、精巧な唐草模様が彫られた白檀の樹で作られており
この状態でも十分鑑賞用に耐えうる資格を持っているのに、さらにその上に宝玉で作られた駒が乗っていれば
チェスセットとしては、十分に過ぎたる物であると言えよう。
普通なら博物館の宝物庫に仕舞い込まれるべき一品を、おしげもなくテーブルの上に広げて二人の人影が向かい合う
人影の一つが、石英で作られた歩兵の駒を手に取ると相手に向かって2マス進めた。
対する人影も、黒水晶の歩兵を相手が置いた駒の向いへと1マス進める。
e6とe4。
フランス防御と呼ばれる、定石中の定石である。
初手としてはありふれていると言えよう。
先手を打った人影―――荒木飛呂彦は、本に書かれたような定石に顔をしかめた
彼としては、もう少し破天荒な初手を期待していたのだ、キングフィアンケットの防御とか。
荒木飛呂彦は軽く嘆息すると、大量の薄荷と角砂糖の入った自分のグラスに熱い茶を注いだ
一息ついてこのガッカリ感を吹き飛ばそう、という根胆らしい。
荒木の落胆を感じ取ったのか、向いに座る人影は指先でチェスの縁をコツンと叩いた。
意味を訳せば、(古典的な定石でも別にかまわないだろう?ゲームはこれからなんだから)といった所か。
その様子を横目で眺めながら、荒木飛呂彦はグラスに注いだ液体を嚥下する。
薄荷の清涼感と、無駄に加工されていない砂糖の優しい甘みが、荒木の落胆を少しだけ慰める
舌の上にわずかに残る苦味を楽しみながら、荒木は瑪瑙で作られた僧侶の駒をc4に進めた
相手も翡翠で作られた僧侶をc5に置く、二つのビショップは向かい合う形になった。
この状態だと、どちらの僧侶も動けない。
この展開に少し満足すると、荒木飛呂彦はテーブルの向こう側に座る相手に親しげに話しかける。
「人数が人数だから、3日ぐらいはかかるかなと思ったけど、このペースだと一日以内で終わりそうな勢いだね」
そう言うと、手に持った金剛石の王をe2に置いた
荒木飛呂彦が主催するこの「バトル・ロワイヤル」、始まってまだ9時間しかたっていない。
それだというのに、参加者の約半数近くが死亡しようかという勢いである。
この原因は主に参加者達にあるのだろう、元々殺しを生業としている者や、殺しそのものを趣味にしている者
そして、それらを撃退しようという意思を持つ者達、つまり彼等は殺し、殺されるということに慣れている
それに加えて「スタンド」「波紋」「吸血鬼」といったような異能の力
それらを一か所に集めれば激突し、潰し合うのは自明の理であると言えた。
荒木は更に続ける。
「だけど
空条承太郎まで死んじゃうとはね、僕も彼の奥さん殺したりして揺さぶってみたりしたけどさ
あそこまで綺麗に繋がるとは思わなかったよ」
笑っちゃうよね、と言いながらも荒木の顔は笑みを浮かべない
面白くない、というよりは誰が死のうが生きようが関係無いといった体だ。
生前、敬意をはらった人物でも、死んでしまえばもう興味は無い。
その様子は子供がおもちゃに遊び飽きて放り投げる様によく似ていた。
もっとも、このような思考回路の人間だからこそ、殺人ゲームを主催しようという気になったのだろうが。
黙したまま返さない相手をいいことに、荒木はさらに話続ける。
「こうやって、チェスに興じれる時間が持てるのは良い事だけどさ
早く誰か殺し合ってくれないかな、面白い死合いがあったみだけど見逃したみたいだし、退屈でしょうがないよ」
少し前に起きたアクシデント―――
支給品の一つである、カメオのランプで呼び寄せた二人の参加者。
その中の一人が、荒木の保持する「日記」を盗んだのである。
いくら彼女のスタンドが、かなりの小型かつ「小さくする」能力という気づかれにくいタイプのものであったとしても
盗まれた事自体に気がつけなかったというのは、かなりの痛手であった
チェスの相手をしてくれているこの人物から、そのことを指摘されなければ、今頃どうなっていたか……
最悪、日記の秘密を解き明かされ、このゲームを根底からひっくり返されていたかもしれない
それを防ぐためにも、荒木は日記を取り返すために自らゲーム盤に降り立ち、参加者の一人に接触したのだった
荒木の不満は、その時見逃してしまったゲーム内容にあるようだ。
それにくらべて、ここを出る前に見たあの殺し合いは最高だった。
何の能力も持たない上に、足を封じられた少年がほぼ無敵に近いスタンド使いを下したのだ
またあんな殺し合いを見てみたい、拮抗した力を持つ者同士の死力を尽くしたバトルも良いが
圧倒的な戦力差を知力のみで覆すバトルも、また良いものがある。
ん?と荒木は次の手を指さない相手の様子で現実に引き戻された
顔色を伺うと、わずかに苛立ったような気配が伝わってくる、荒木はその苛立ちの原因を探るべく声をかける
「ひょっとして君、勝手に参加者に接触した事を怒ってるのかい?
しょうがないだろ「日記」盗られちゃったんだから、イレギュラーだったと思って見逃してくれよ」
荒木と彼が「日記」が奪われたと知った時、相手が主張したのは
グェスと花京院両名の処刑だった
自分達の正体を少しでも知られるような不安材料が相手の手に渡ったのだ、用心するに越したことはない。
その言葉に荒木は反対したのだ、「それでは面白くない、駒はゲームの中でこそ死ぬべきだ」と
結局、荒木の主張が勝ち「日記」は戻ってきた、結果論としてはこれで良かったのかもしれない。
(まぁ、僕に甘いってことなんだよね)
そう考えるとなんだか微笑ましい、思わずにやにや笑いを浮かべる荒木に
相手は嘆息すると猫目石の騎士をf6へ置く、つまり一気にこちらの陣地に切り込んで来る形になる
その一手にむっと眉根を寄せると荒木は手に持った歩兵を何処へ置いたものかと思案する。
c3に置くべきか、c4に置くべきか
「歩兵はチェスの魂である」と先人の言葉にもあるように
序盤で歩兵を何処に置いたかによって、終盤の難易度はガラッと変わるのだ
参加者達の殺し合いは佳境に入ったようだが、自分達の勝負はこれからだ。
出入り口一つ無い、真っ白な室内の中に駒を置く音だけが響く―――
【when where who which ?】
第二回放送までにこの対局が終わるのかは、未だに謎である。
【???/10時】
【荒木飛呂彦】
[時間軸]:不明
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:不明
[思考・状況]
基本行動方針:不明
【備考】
※日記は取り戻しました。
※日記は何らかの条件下で『開く』ようです。
※荒木は8~10時の殺し合いを、一部見ていない可能性があります。
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最終更新:2009年09月22日 23:09