今夜は満月だった。
月はイイ、太陽と違って月は俺たちを受け入れてくれる。
所詮俺たちは闇に生きる生物、そう言う俺たち一族を慰めてくれているようだ。
そんなあいつは今夜も絶好調……いつも以上に美しく、可憐で、そして儚い。

掌の中の赤石をそっと掲げてみる。
光が何重にも反射し、その美しさは際立つ。思わず溜息が出るほどだ。
一族の悲願がこの手の中に、そういう感動もあるが純粋に美しさだけでもこの赤石は素晴らしい。

赤石と一族の野望。
そう、正確には『俺たち』の目的だったはずだ。

俺はカーズに黄金の意志を見た。
克服できない最大の敵、最大の弱点、太陽を超越する。
俺はそんなやつを尊敬していた。誰もが超えることを諦めていた壁に挑むあいつは、誰よりも眩しかった。
だから一緒に出てきた。やつが一族を皆殺しにしようと何も言わなかった。
やつのどでかい夢は、いつのまにか俺の夢にもなっていた。

俺はワムウのやつを気に入っていた。
やつは俺より遥かに若いがそんなのことはどうでもよかった。
やつの戦士としてのストイックさ、自分の肉体を極限まで痛めつけてまで何かを求めるあいつの姿に敬意を表していた。
俺も闘うことは好きだ。だがアイツはその闘いの中で何かを常に掴み取ろうとしていた。
俺にはそれができなかった。だから俺はそんなワムウが好きだった。

「今更何を思い出している……」

思わず口をついて出た言葉に自分自身驚く。
だがこれはまぎれもなく俺の本音だ。
俺は、迷っている。

人間とは……一体何だ?
そして俺たち一族とは……一体何なのだろうか?

人間、人間、人間……ここ数時間そのことばかり考えている。
人間の強さ、人間の存在、人間の素晴らしさ。
会う人間、会う人間皆そうだ。俺に訳知り顔でそんなことばかり言ってくる。


俺は視線をチラリと下に向ける。
風が心地いいと俺はコロッセオの外壁を登っていた。
俺を楽しませようとしているのか、それともただ単に話を聞いてほしいのか。
オインゴは必死に俺についてこようと脆くなったコロッセオの壁をよじ登っている。
震える体に鞭をうちながら、だ。


俺への恐怖か、はたまたただ単に高所に脅えているだけなのか。
ただ最終的に、こやつが脅えてるもの、それは『死への恐怖』だ。
数時間前にはこの俺を驚かせるほどの啖呵を切った男が、である。

わからない……人間とは、理解できない。
どうしてお前たちはそんなにも脆い? どうしてお前たちはそんなにも弱い?
どうしてお前たちはそんなにも強い? どうしてお前たちは……立ち向かうのだ、抗うのだ?

カーズだったらこんなことで悩まないだろう。
やつは人間は下等生物、と割り切っている。あくまでやつにとって人間は食糧の食料。
それ以下でも以上でもない。
だから闘いにおぼれることはない。どれだけ人間に挑発されようともやつは淡々と、ただ殺すだけだ。

ワムウだったらどうするだろうか。
これも簡単な話だ。やつは嬉々として闘うだろう。柱の男、我々一族の誇りを胸に全力でぶつかっていくだけだ。
強さこそが正義、強さこそが真理。
戦士と勇者は友であり尊敬するもの。ワムウは常々そう言っていた。


だが俺は違う。
俺は……そう簡単に割り切ることはできない。
戦士だとか、闘いだとか、食料だとか、屑だとか。
そんな一方的に決めつけるのは『納得』ができない。

俺は知りたいんだ。
どうして神は俺たちに『スタンド』を授けなかった?
どうして俺たちは太陽の元で暮らせない?
どうして俺たちは闇とともに歩まなければならない?

何故『人間』なのだ? 何故俺達でない? 何故俺たちは……滅ばなければならなかったのか?


『今分かった……貴様は赤ん坊のようなものなのだと。人間を理解できずに苦悶する、哀れな子供なのだと』

リンゴォ、お前はそう言ってたな。
ああ、そうだ。俺は人間が理解できない。
理解できなくて苦しんでいるだろうな。まったくもってお前の言うとおりだ。
俺はお前たちとは違う生物だ。お前たちとは到底分かり合えないのだ。

だってそうだろう?
豚や牛、鶏が口をきき、人間に反乱をおこしたらお前たちはどう思う?
魚がお前たちに反旗を翻したらどうする?
どうだ……? 理解できるわけがないだろう。
お前たちはそれでも変わらず肉を食らい、植物を食べ、そうやって生きていくだろう。

お前たちが人間であることを誇りに思ってるように、俺も自分自身の存在を誇りに思っている。
カーズ、ワムウ、そして死んでしまった一族全員。
俺は自分が人間ではない生物であることを誇りに思っている。

俺は……見せつけてやることしかできない。
いや、『見せつける』ことが今の俺の義務なのかもしれない。
伝えさせる、受け継がせる相手はもう存在しない。
その相手が人間しかいないというならば……人間『しか』いないとしても……俺が取るべき道はもう一つしかない。


「俺は……」


俺は一族全員のために戦いたい。
一族全員がこの地球上に存在していた、そのことを証明したい……残したい!

誰にも知られず、何も残せず消えていく。
それはあまりに寂しすぎるではないだろうか。
永久にも思える間、俺たちは生きてきた。
そこに意味を見いだせないのは、あまりにむなしすぎないだろうか。

『あらゆる闘志に敬意を示せ』

リンゴォ、お前には感謝しよう。
わかりあうことはできないかもしれない。
だが理解した。『魂』で、俺は人間を『理解』することができたのかもしれない。
『男の世界』が柱の”男”と人間との架け橋になった……そういったらお前は笑うだろうがな。

「オインゴ」
「はひぃ!?」

一族のため、俺の納得のため。
俺は生きる。




『柱の一族、そう言われた存在が生きている』ということを示すために!




「死ぬ前に何か言い残したことはないか?」
「…………それって……」


俺は腰掛けていた壁から飛び降りると、後ろに座る人間に話しかける。
振り向くこともなく俺は無造作に言い放った。

やつの顔から血の気が引き、動悸が早くなったのが見なくてもわかった。
僅かな温度の違いから、やつの心が移り変わっていくのが手に取るようにわかった。
沈黙、唇を震わせ、再びかみしめる。
そのわずかな間にいくつもの感情がやつの心を、魂を駆け巡ったのだろう。

諦め、諦めきれない。
達観、呆然、覚悟、犠牲、怒り、悲しみ。
不安、焦り、安心、恐怖。

しばらく経った後、オインゴはゆっくりと口を開いた。

「弟に……」
「…………」
「いや、あんたに言っても意味はないかかもしれねェけどよォ……。
 そもそも俺としては……いや、やっぱりいい。
 ……一思いに、殺してくれ」

前まではなにも感じなかった。
心変わりは臆病風に吹かれたからだろうな、と鼻で笑って一蹴していただろう。
それが今はわかるのだ。この男が覚悟を決めた上で決断したのだと。

弟、という存在は俺の一族にかける思いと同じぐらいに大切なものなのだろう。
弟に言葉を残す、それは即ち俺が弟に会うことを意味してる。
俺が約束を守るにしても、言葉を伝えた後に弟の命を保証する約束はしていない。
兄として言葉を残すべきなのか。それを諦めてまで俺と弟を接触させないほうが賢明なのか。

やつは弟の安全を選んだ。
それはなんと苦しいことなのだろうか。
自分を『殺して』でも守りたかった存在なのだろうか。

「……約束しよう」
「あぁ?」
「貴様の弟は殺しはしない、と」

俺はそんな『勇気』に敬意を表そう。
ちっぽけなプライドかもしれない、羽虫の足掻きかもしれない。
それでもそこに敬意を表することに意味はあるのだろう。






またしても沈黙。
そして男は顔をあげると俺に向かって言った。
体はガタガタと気の毒になるほど震えていた。
顔は今にも倒れるんじゃないかと思えるほど真っ青だった。

「お前はやればできる子なんだ。
 最後に決めるのは俺じゃねェ、お前なんだ。
 勇気を持て、一人で歩く勇気を持て。
 お前はもう一人で生きていけ。
 それから……兄ちゃんみたいには絶対なるな、そう伝えてくれ」
「わかった」

それでもやつは言い切った。
俺は静かに、だがはっきりと返事をした。
そしてやつの首に手をかける。

「死にたくねェ……死にたくねェんだよォオ。
 まだ生きてェ……したいこともたくさんある。
 やり残したことだってたくさんある、やりたいことだってたくさん、たくさん……」

情けないと言えるだろうか。
カッコ悪いと馬鹿に出来るだろうか。
必死に生きようとする、無駄だとわかっていても抗う。
その姿は人間そのものだ。
愛おしく思えるほどに、狂わしいと思えるほどに。

俺は最後まで聞かずに、男の首元から俺の血液を流し込んだ。
沸騰した液体が頭部に流れ込み、まるでつぶれたトマトのように頭部がはじけ飛ぶ。
鈍い爆発音とともに、空気中に真っ赤な花が咲いた。

「―――綺麗な花火だ」

人が死ぬ、今までは当たり前だったが今の俺には不思議と違うモノが見えた。
オインゴが死んだ瞬間、なにか目には見えないエネルギーがそこから溢れ出ている様だった。
それは美しく、可憐で……儚かった。

残りカスのような肉体を地面に横たえると、俺はオインゴだったものの右肘辺りを優しく撫でる。
さっきから文字通り『手ぶら』な右腕を元に戻すためだ。
太さはだいぶ違うが……まぁそのうち慣れるだろう。もっといい腕があれば付け替えればいい。






……風が吹き始めた。
そろそろコロッセオを後にしようか。
向かう先はDIOの館か、はたまたナチス研究所か。
人の強さはひとまず後に置いておいても構わない。
ディオ・ブランドーが本物の強者ならば必ずや死合うことになるのだから。
ナチス研究所に向かのも悪くない。
そこにいけば何人もの人間に会えるだろう。この俺の、一族の強さを示すには絶好の場だ。

「……よし」

一瞬の考えの後、俺はゆっくりと歩き始めた。
向かう先はどちらだろうと一緒だ。
目的はあくまで変わらない。それの途中に俺の納得がついてこれば。

「全生物の頂点に……!」

カーズの夢をかなえ、ワムウに敬意を表し、俺の納得のために戦う。
悪名だろうが構わない。
俺の、俺たちの存在を伝えよう。


人間たちよ、覚悟はいいか?
―――俺はできてるぞ


その時きっとおれは笑っていただろう。
皮肉でもなく、嘲笑でもなく、俺は心の底から笑っていただろう。










【オインゴ 死亡】
【残り28人】


【E-3 コロッセオ/1日目 夜中】


エシディシ
[時間軸]:JC9巻、ジョセフの“糸の結界”を切断した瞬間
[状態]:健康
[装備]:『イエローテンパランス』のスタンドDISC
[道具]:支給品一式×4(食糧をいくらか消費)
    不明支給品0~2(確認済み)、岸辺露伴のサイン、少年ジャンプ
    『ジョースター家とそのルーツ』リスト、ブラックモアの傘、スーパーエイジャ
    首輪探知機、承太郎が徐倫に送ったロケット、青酸カリ、学ラン、ミキタカの胃腸薬、潜水艦
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに優勝し、全生物の頂点にッ!
0.DIOの館 or ナチス研究所へ向かう。
1.全てのものに敬意を表する。だが最後に生き残るのはこの俺だ……!
2.参加者をすべて殺す
[備考]
※時代を越えて参加者が集められていると考えています。
※スタンドが誰にでも見えると言う制限に気付きました 。彼らはその制限の秘密が首輪か会場そのものにあると推測しています
※『ジョースター家とそのルーツ』リストには顔写真は載ってません。
※『イエローテンパランス』の変装能力で他者の顔を模することができます
※頭部を強打されればDISCが外れるかもしれません。
※イエローテンパランスはまだ完全にコントロールできてません。また具体的な疲労度などは後続の書き手さまにお任せします。


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キャラを追って読む

195:生きることって、闘うことでしょう?(後編) エシディシ 202:さようなら、ギャングたちⅠ
195:生きることって、闘うことでしょう?(後編) オインゴ GAMEOVER

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最終更新:2011年02月05日 00:26