何度も質問するようで申し訳ないんだが……どうしても今の内に聞いておきたい事がある。
『俺の話をつまらないと思う人はいるか?』
――正直に言ってほしい。
ハッキリ言うと、今回の話のテーマは、愛だ。
さっきスピードワゴンの愛の話をしたが、あれとはまた少し違う。少しだけ。
一口に愛と言っても色々ある。夫を、妻を、彼氏彼女、子供、自分自身。
対象は人に留まらない。いわゆる俺の嫁から、物品、過去の思い出、自然、宇宙……
――いや、色々言うのは終わってからにしよう。まずは話そう。愛に生きる男女の話を。
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「……何か?」
ぼんやりと明るくなりだした東の空を窓越しに見つめながら、
山岸由花子は問う。
「東方向、約300メートル……鼠だ」
若干の沈黙の後、最低限の情報だけが相手の男から帰ってくる。
花京院典明の無愛想な返答にも由花子は眉をしかめたりしない。彼女もそういう態度をとっているから。
「――で?」
「いない。どちらも」
一言で済む――というよりは、一言にすら満たない会話。それだけでお互いの言いたい事は分かった。
だが。阿吽の呼吸、歩調の揃った夫婦――そんな甘っちょろいモノではない。
二人はお互いの目的のためだけに共にいるのであって。
お互いの理屈を否定しないために情報を共有しているだけであって。
お互いが目的を達成したらそこで消滅する関係であって。
●●●
――時間を少々、いや、だいぶ前に遡る。
花京院と由花子は早々に広瀬康一の自宅に辿り着いていた。
本来の契約ならば、この場所に康一の姿が確認できなかった時点で契約は解消。別行動、いや……殺し合いになる予定だった。
だが、予定とはその通りにいかないからこそ予定と言うのかもしれない。
由花子の方が『待機』を提案したのだ。
彼女はあくまでも康一を見つける事を行動の第一方針としている。見つけぬことには殺す事も出来ないのだから。
となれば、家を出て探索に出た途端に入れ違いで康一が帰宅、なんてことは避けるべきである。
そう花京院に提案した。もちろん、アンタのスタンドをこき使って探索しまってやるから、と挑発を忘れずに。
一方の花京院もこれを否定しないどころか快諾。
理由は簡単。
『この場所を一目散に目指してきたから』それだけである。
教皇の結界を利用し襲撃に備えてはいたものの、目的以外のことにはもともと興味がないコンビである。
今まで見た人間で自分たちが探している相手以外はすべて避けて――いや、関わる気もなく放っておいたのだ。
空中でロッククライミングに興じる男たちも、女子トイレに潜り込む変態も。
だが広瀬家に到着してみたらどうだ。その途端に大地を揺るがす衝撃を受け、ついたったの今は駅から南下する動物を見つけ。
思った以上に入ってくる情報の多さに、それらを取捨選択し行動できる幅の広さを見出したのだ。
とは言え……彼等も天才ではない。
“わき目もふらずに”、“徒歩で”移動してしまったがゆえに目的から遠ざかっていた。
もう少しのんびりと情報交換していれば当初いた位置からやや西にDIOが通りがかり。
もう少し移動手段を考えていればトラクターで走り去って行った康一を追いかけられた。
もう少し早く広瀬家についていれば落下物を確認している
空条承太郎を見つけられた。
しかし――それでも彼等の運は尽きない。杜王町の周辺では戦いもいざこざも尽きない。それがこのバトル・ロワイヤルである。
●●●
「さて――大事な事を聞いておこう」
「なに?攻撃する気ならやめなさいよ、さっきそう言う契約をしたところでしょう?」
不意に情報提供以外の会話を持ち出され由花子の眉が若干持ち上がる。
「いや、此処にいる制限時間だ。
私としては第一放送終了をめどにここを出るべきだと思っている」
「理由は?」
「そもそもの問題なんだが……このゲームに広瀬康一、およびDIO様が参戦していると言う証拠はどこにある?」
相手のまぶたが痙攣し始めるのを花京院は見逃さなかった。目的を告げながらも。
「つまり――名簿とか言うのを配られて、そこに名前がなければ私たちは目的を失うということね?」
「その通り。私はそれを確信したら即刻、優勝を見据えた行動に映る」
由花子が大きく動揺した様子はなかった。
おそらくはこの数時間で同じような推測と計画を立てていたのだろう。花京院と同様に。
「その時はコンビは解消?殺して回るのも二人の方がいいと思うけど?
私は別に一人でも構わないけどアンタが土下座して懇願すれば考えてやらなくもないわ」
「それはこちらのセリフだ。私の幽波絞が万一にも負けることなどない。
ゆえにDIO様から空条承太郎抹殺の命令を与えられたのだ」
挑発と自負が混じった自己主張がその場の空気を重くする。
しかしそんな状況すらこの二人は気にしなかった。早々に沈黙を解消したのは由花子である。
「――はいはい、まあ後何時間か知らないけど、それまでは協力してやるわよ」
「ああ……おっと、早速情報を提供することになりそうだ」
花京院が窓の外を見やる。
由花子は、どうせまたハズレなんでしょう、と小さくもらして伸びをした。
が、花京院の一言でリラックスタイムを中断する。
「いや――今回はどうやらアタリのようだ。広瀬康一とは身長が低く、短めの髪を軽く立てているんだったな」
その名を聞いた途端に由花子は花京院を睨みつける。ばん、と彼女の手を叩きつけられた机は心なしか反ってしまったように見える。
「どこよ!?どこにいるのッッッ」
掴み唾を飛ばす勢いでどなり散らす彼女に対しても花京院はやはり冷静だった。罵声の入り混じる欲求を制止する事すらせず淡々と告げる。
「タンクローリーに乗っている。どうも敵から逃げ……いや、逃げながら戦っているんだろう。その姿はのスタンド視野からは把握できない。
――今コロッセオから離れるように西に進路を取った」
言い終わるや否や、由花子が玄関先に向かい、振り返る。
「さっさと行くわよ!アンタがいなきゃ追っつけないって事は認めてやるからさっさと用意しなさいよ!」
「やれやれ――その道中にDIO様がいたらその場で契約は解消するからな。それまでは――ああ、放送までだが組んでいてやろう」
花京院を待つ、その数秒すらも惜しむ勢いで山岸由花子は駈け出した。
「見つけたわよ……康一くん」
鬼気迫るという表現がぴったりのその表情からは似ても似つかない甘い声が、住宅街に飲み込まれていった。
●●●
――これで家を出てからの目的が出来た訳だな。
もう少し留まっていればさっき話したジョニィや
ラバーソールの銃撃戦も目撃したんだろうが。それはまた別の話だ。
とにかくまずは康一を追うこと、その最中にDIOを探すこと。彼等にとってはそれが全てなんだ。
とは言え今は徒歩だから時間はかかるだろうけど。
さて……愛について語り合おうか。
異性でも同姓でも、あるいは家族でも友人でも好き嫌いはあるし、好きならばそれは愛だ。
何もガチホモが……おっと失礼、とにかくそういうのを推奨してる訳ではない。否定もしないけど。
要するに、母親が子供を愛するのは同じ人間が妻として夫を愛するのとはまた別の愛だろう?そういう話だ。
今回の話で言えば、山岸由花子は広瀬康一を。花京院典明はDIOを愛している。
そしてその愛の大きさが一線を画しているから殺しとか死とか、そう言う発想になっているだけだ。
そこに何の問題があるんだろう?好きなものには何も惜しまない。グッズをかき集めるオタクとかもそうだろう?それも愛だろ?
それでやっと、最初の質問に戻る。
勿論俺も皆のことを愛していて、その表現方法が、皆が知りたがっているバトル・ロワイヤルという世界を、彼等の冒険を、一人の語り部として語ること。今のように。
それで、もしも、もしも『俺の話がつまらない』という人がいたら……それはその人に俺の愛が届いてない、あるいはズレているってことだ。
となれば俺も多少なり考えなければならない。今後の立ち振る舞いについて。如何にして愛を伝えるかについて。
だから、もしいたら正直に言ってほしい。『お前の話はつまらん』と。
大丈夫だよ――殺したりはしないから。さあ、手を上げてみな?
【コンビ・花*花】
【E-8 広瀬康一の家→??? / 1日目 黎明~早朝】
【花京院典明】
[時間軸]:JC13巻 学校で承太郎を襲撃する前
[スタンド]:『ハイエロファント・グリーン』
[状態]:健康、肉の芽状態
[装備]:なし
[道具]:
基本支給品×2、ランダム支給品1~2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:DIO様の敵を殺す
0.DIO様の敵を殺し、彼の利となる行動をとる。
1.広瀬康一の乗ったタンクローリーを追う。
2.山岸由花子を警戒・利用しつつ、情報収集する。
※利用するのは第一回放送後・名簿を確認次第、延長するか否か決定
3.ジョースター一行、
ンドゥール、他人に化ける能力のスタンド使いを警戒。
4.空条承太郎を殺した男は敵か味方か……敵かもしれない。
5.山岸由花子の話の内容で、
アレッシーの話を信じつつある。(考えるのは保留している)
【備考】スタンドの視覚を使って
サーレー、
チョコラータ、玉美の姿を確認しています。もっと多くの参加者を見ているかもしれません。
【アレッシーが語った話まとめ】
花京院の経歴。承太郎襲撃後、ジョースター一行に同行し、ンドゥールの『ゲブ神』に入院させられた。
ジョースター一行の情報。ジョセフ、アヴドゥル、承太郎、ポルナレフの名前とスタンド。
アレッシーもジョースター一行の仲間。
アレッシーが仲間になったのは1月。
花京院に化けてジョースター一行を襲ったスタンド使いの存在。
【山岸由花子が語った話まとめ】
数か月前に『弓と矢』で射られて超能力が目覚めた。(能力、射程等も大まかに説明させられた)
広瀬康一は自分とは違う超能力を持っている。(詳細は不明だが、音を使うとは認識・説明済み)
東方仗助、
虹村億泰の外見、素行など(康一の悪い友人程度、スタンド能力は知らないしあるとも思っていない)
【山岸由花子】
[スタンド]:『ラブ・デラックス』
[時間軸]:JC32巻 康一を殺そうとしてドッグオンの音に吹き飛ばされる直前
[状態]:健康・虚無の感情(小)・興奮(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品合計2~4(自分、
アクセル・ROのもの。全て確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:広瀬康一を殺す。
0.康一くんの乗ったタンクローリーを追う。花京院さっさとついてきなさいよ。
1.康一くんをブッ殺す。他の奴がどうなろうと知ったことじゃあない。
2.花京院を利用しつつ、用が済んだら処分する。乙女を汚した罪は軽くない。
※利用するのは第一回放送後・名簿を確認次第、延長するか否か決定
【備考】アクセル・ROを殺したことについては話していません。話すほど彼女の心に残っていませんでした。
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最終更新:2012年08月24日 03:15