葛藤
さて、君らに質問するのは何度目になるかな――おいおい、聞く前からそういう顔をするなよな。
とにかく聞くぞ?今回の問題は……
『君らは何かに“迷った”ことはあるか?』だ。
――え?「今この答えになんて言うか迷ってる」?
それは違うだろ。俺に言わせるなら、それは“悩んでる”んだ。
答えが全くないところから導き出す『悩む』と、
いくつかの答えがあり、そこから選択する『迷う』じゃあ、結構違うと思うぞ、俺は。
ま、とにかく今回はそういう話だ。迷わずに聞いていってくれると幸いだな。
もう一つ聞いておきたいこともあるが――まあ、それは後にしようか。
●●●
「まったく――いつまでそうしているんだ?」
指をこちらに突きつけたまま動かないジョニィに対しため息混じりにそう呟いた。
「お前を倒すその瞬間まで、だ」
瞳に映る漆黒は『倒す』よりむしろ『殺す』と、そう言っている。しかし――
「だったら早く撃てばいいじゃあないか。
このDioを殺して上の戦いに加勢するんだろう?
ジョナサン・ジョースター。
ジョセフ・ジョースター。
クウジョー・ジョータロー。
トウホウ・ジョージョ――ん?ヒガシカタ・ジョースケだったか?ククク……
ジョルノ・ジョバァーナ。
クウジョー・ジョリーン。
どいつもお前と同じじゃあないか。なあ?『ジョジョ』ォッ?」
「僕のことをその渾名で呼ぶんじゃあない。
大体、お前が黙って撃たれるとも思ってないからな……」
安い挑発には乗らないか。まあ知ったことではない。そして今のやりとりでハッキリと理解したことがある。
『コイツは“今すぐに”撃つ気はないらしい』。
「ほう――それは褒め言葉として受け取っておこうか。だったらオレは、その“信用”を逆手にとって、少しノンビリさせてもらおう。
ここでお前と戦っても負ける気はないが、そのせいで直に始まる放送を聞き逃しちゃあたまらないからな。
上での戦いの決着、オレは放送を介して知るとしよう」
そう言ってワザとらしく伸びをしてみせる。ジョニィの警戒の眼差しは変わらないが、指先が少しだけ下を向いたのを見逃すほどこのDioはマヌケではない。
「……悔しいが、放送を聞き逃したくないのは僕も同じだ。だが、そう言って隙を見せるフリをするのもいいが、狙われてることを忘れるなよ」
「ああ、肝に銘じておくとしよう」
●●●
オイ――
「ホウ、どうやら決着はジョースター一行の勝利だったようだな。おめでとう。なぁジョジョ――っと、この渾名はタブーだったか?フフ」
オイオイ――
「しかし驚いたな。いや、これはマジだ。お前が
ジャイロ・ツェペリの死に全く動揺を表さないとはな」
オイオイオイ――
「もっとも、問題なのは禁止エリアか。こればっかりはこのDioもお手上げだな。さてどうしたものか」
オイオイオイオイ――
「なんとか言ったらどうだ?指先がすっかり見当違いの方を向いているぞ、ジョニィ?」
……――
「フゥー……そこまで動かないつもりならこちらから動くとしようか、どれ」
「――動くんじゃあない。動いた瞬間に撃つ」
やっと絞り出すことができた一言は随分と在り来りなセリフになってしまった。
「おっと、やっと整理がついたかい?それにしちゃあ、随分間抜けな顔をしているぞ、ジョ――」
「ジャイロの死は僕がこの目で確かめた。そしてその『意思』は今僕のこの手の中にある。
そして、お前こそ『ディオ』の死に驚いてないようだ。最初からこうなることがわかってたんじゃあないのか?」
「まさか。そんな訳ないだろう?さっき言ったとおり、オレはお呼びじゃあなかった。だからその先は知ったこっちゃあないのさ」
短い会話の中でもチラチラと視界に入るディエゴの牙がワザとらしい。
だがそれを気にしている場合じゃあない。問いたださなければならないことがある。
「それからもう一つ……お前はさっき『放送を待つ』と言ったな?
それは“こうなること”を知っていたのか?」
……ディエゴはこれまたワザとらしく大きなため息をついた。
「スティール氏が殺されて大統領が表舞台に顔を出したことについて言ってるのか?それこそまさか、だ。
ま、オレに言わせれば遅かれ早かれ“こうなること”は目に見えていたってところだな」
たしかに大統領ならやりかねない。しかしそれを放送の場で、つまり自分自身を危険にさらすような真似をしたことになる。
それが何を意味するのか、Dioを警戒しつつも頭の中で考えがぐるぐるとループする。
「ともあれ、だ。こうなった以上オレにはこの場にいる理由がなくなった。
もしお前がオレを撃つ気がないのなら――いや、いずれにしてもと言うべきか。サッサとしてくれ。
オレには『行って、確かめるべきこと』が出来たもんでな」
思考を遮ったのはそんなディエゴの一言だった。
今コイツは何と言った?確かめる?まるで明確な目的地があるかのような言い方だ。
「どういう――意味だ?」
●●●
たまらずジョニィのやつが質問してきた。そりゃあそうだろう。
オレが自分からその考えを話そうとしていること、その意図が分かりかねると言った感じだ。
もちろん、文字通りにその考えそのものを知りたいということもあるだろうが。
手札を切るべきは今、このタイミングだ。間違ったらこのオレとてただではすまない。無論、負けはしないが。
「『聖人の遺体』」
たった一言、というより単語一つ口にしただけでジョニィが思い切り目を細める。実にわかりやすい。
「おっと――その前にその物騒な爪の回転を止めてくれないか?
せっかくこのDioが今回の放送を踏まえての考察を話してやろうと言うんだ。対等な状態での会話をしたいもんだな。
もちろん恐竜たちに襲わせるような真似はしない。もっとも、この場にはさっきお前が撃ち殺した以外の恐竜はいないが」
ジョニィは顔を動かさず視線だけで左右を確認し、ゆっくりと手を下ろす。
「話を聞く間だけだ。聞き終わったらその瞬間襲ってくるような真似はお前ならやりかねないからな」
「フン――どう思おうと勝手だが、そのピリピリの警戒心でマトモな思考ができるものか疑いたくなるな。
まあいい。話してやろう。
聖人の遺体。さっきオレはそう言ったな?
どうも『上で戦ってた方のDIO』はそれを“この会場内で見つけた”らしいぞ?
そしてこう言ったのさ。
『あえて助言を与えるとしたならば……カバンをチェックしたまえ。名簿を見よ、地図を見よ!
さすれば与えられんだろう……おおいなる、勝利の約束がね!』
……とな。そこでピンときた。
主催者は――いや、大統領はと言うべきか。奴は聖人の遺体を支給品に紛れ込ませている、と」
反論やら何やらを挟ませず一息に言い切り、ジョニィを見下ろす。
立ったままのジョニィを座っているオレが見下ろすというのも妙な表現ではあるが、この場ではオレが『上』だ。
無論、自分が今『左目』を持っていることなど言うわけがない。言う必要がない。
「つまり、大統領はこの殺し合いを介して聖人の遺体を参加者に集めさせている」
ジョニィの顔にじわりと汗が浮き出すのがよくわかる。しかし――
「ハズレだマヌケ……いや、半分は正解という方が正しいかなァ?
お前ほどの男ならすぐに気付くと思ったぞ。もっと根本的なことに。
もう一度言うぞ。大統領は聖人の遺体を支給品に紛れ込ませている。
つまり――
奴は『一度全ての部位を集めきり』、そして『もう一度それをバラバラにして』支給品にした。
――そういうことだろう?まさか、このゲームを始めたら勝手に混じってました、なんて事はあるまい?
スティーブンのやつにできる芸当だとも思えない。話が逸れるが、スティーブンが消されたのも、そういった部分を知りすぎたということも要因じゃあないかと思う」
細められたジョニィの目が今度は大きく見開かれる。オイオイ、マジで気付かなかったのか。
まあ、オレ自身もこの推測に至ったときは自分で自分の考えに冷や汗をかいたものだが……
「か、可能性の一つでしかないッ!なにより大統領の意図が読めないッ!
そして……それがお前の『行って確かめる』に繋がるとは思えない!
僕相手に交渉したかったらもっとハッキリ言ったらどうだ!?」
「フン、ハッキリ言ったら言ったで何かと疑うだろう、お前やジャイロのようなお人好し共は。
そして大統領の意図なんかオレにだってわかるものか。そんなものは本人に聞け。しかしせっかくだから言ってやろう。
安全は保証してある、何しろ恐竜というボディーガードがついているんだからな」
ジョニィがハッとしたように腕を持ち上げ、再びオレに指先を向ける。
爪は……まだ回転していない、か。
「ルーシーだと……?
スティール氏が殺された現状、彼女に向けられる視線と攻撃はどうなるんだ?まさかお前の恐竜が守るとは僕には思えない」
「話は最後まで聞くんだな。
たしかにオレの可愛いペットたちを危機に晒してまで敵の攻撃からルーシー・スティールを守る気はないさ。
だが――みすみす死なすのも勿体無い。お前がどこまで知ってるかは疑問だが、彼女は一度は遺体に見初められた存在だからな」
話をやや深いところまでシフトさせる。言いすぎたなどとは思っていない。
ここまでくればジョニィのヤツは勝手に俺の言い分を推測し、それを口にしてくる。
「遺体が彼女のもとに集まると言いたいのか」
まったく――まったくもって予想通りの回答だ。
「好きに解釈してくれて結構だが、ここから先はお前の決断だ。
このまま放っておけばルーシーは死ぬだろう。敵の攻撃はともかく、少なくとも禁止エリアの危険が(ま、これは参加者全員だが)ある。つまり何が言いたいかというと……
お前が合流すべきは、
『上でDIOとの戦いを終え、満身創痍にしてるジョースターの連中』なのか。
それとも、
『このDioの下にいて、危険にその身を晒すルーシー・スティール』なのか。
●●●
さて。ここで君らにもう一つ質問しよう――まあ、この話を聞いてる以上はわかると思うけど。
『迷ったとき、君達なら一体どうするか?』
結論から言うと――ジョニィ・ジョースターは
ディエゴ・ブランドーを撃たなかった。撃てなかった訳ではないのに。
つまりはそういうことさ。ジョニィの精神の――心の中には一つのルールがある。
『迷ったら、撃つな』
それこそ遺体である“お方”から直々に言われたんだ。守らなきゃあバチが当たるってもんだ。
あの瞬間、間違いなくジョニィの心は迷った。ゆえに撃たなかった。
そして現在――ジョニィはディエゴの後を付いて地下のある場所を歩いている。
余裕綽々で無防備な背中を晒すディエゴも流石だが、これはやはり彼なりの確信があるんだろう。
だが戦況とは刻一刻、というより一瞬先には状況が180度ひっくり返ってることだってある。
つまり――この先、ルーシーと合流したら、あるいはそれ以前だろうと。どこでジョニィの迷いがなくなるかは誰にもわからないってことさ。
ちなみに――俺は迷ったら、迷いながらも前に進もうとするだろう。結果として失敗することや後悔することばかりだけどな。
迷った時に『進む』でも『来た道を戻る』でもなく『立ち止まる』選択ができる人たちが羨ましいよ、本当。
――え?聞いてない?あ、そう……
【D-3 南西部(地下) → ??? / 1日目 夜(放送数十分後)】
【ジョニィ・ジョースター】
[スタンド]:『牙-タスク-』Act1 → Act2 → ???
[時間軸]:SBR24巻 ネアポリス行きの船に乗船後
[状態]:疲労(ほぼ回復)、困惑&驚愕、ディエゴに対する疑念
[装備]:ジャイロのベルトのバックル
[道具]:
基本支給品×2、リボルバー拳銃(6/6:予備弾薬残り18発)
[思考・状況]
基本行動方針:ジャイロの無念を――
0.ディエゴに同行、ルーシー・スティールと合流する
1.しかしディエゴは信用できない。同行は監視を兼ねたもの、迷いが晴れたら撃つ――?
2.ジャイロ……すまない。 バックル、貸してくれ
そして放送、一体今どうなってるんだ!?
3.第三回放送を目安にマンハッタン・トリニティ教会に出向く
4.ジョナサン!?僕の本名と同じだ。僕と彼との関係は?
[備考]
1.Act3が使用可能かどうかは次の書き手さんにお任せします。
2.また、ジョルノの蛍から目を離したのでAct2の使用がやや困難かもしれません
(抜け目なく蛍を確保しているのか、ディエゴの恐竜を見るのか、または……?以降の書き手さんにお任せします)
3.空条邸にてジャイロの死体を確認。そこからベルトのバックルを入手しました。
【ディエゴ・ブランドー】
[スタンド]:『スケアリー・モンスターズ』+?
[時間軸]:大統領を追って線路に落ち真っ二つになった後
[状態]:健康、自論(仮説)に自分で驚愕
[装備]:遺体の左目、地下地図
[道具]:基本支給品×4(一食消費)鉈、ディオのマント、ジャイロの鉄球
ベアリングの弾、アメリカン・クラッカー×2
カイロ警察の拳銃(6/6) 、シュトロハイムの足を断ち切った斧
ランダム支給品11~27、全て確認済み
(ディエゴ、ンドゥ―ル、
ウェカピポ、ジョナサン、アダムス、ジョセフ、エリナ、承太郎、花京院、
犬好きの子供、仗助、徐倫、F・F、アナスイ、
ブラックモア、
織笠花恵)
[思考・状況]
基本的思考:『基本世界』に帰り、得られるものは病気以外ならなんでも得る
0.ジョニィを言葉でねじ伏せたぞ、ククク……
1.ルーシー・スティールのところに行き、遺体の情報、その真相を確認
放送の件も含めてルーシーから情報を聞き出す。たとえ拷問してでも
2.なぜかわからんがDIOには心底嫌悪を感じた、特に遺体なんて絶対渡したくなかった。死んでくれてなによりだ
[備考]
1.ルーシーには監視役の恐竜を付けて別行動中です。居場所は(何事もなければ)常に把握しています。
(※ジョニィをまっすぐルーシーのもとに連れて行くとは言っていない)
2.DIOから部下についての情報を聞きました。
ブラフォード、大統領の事は話していません。
3.教会地下に散乱していた支給品は全てディエゴが『奪い』ジョニィは自分の持っていた道具以外何も手にしていません。
[二人の備考]
- 現在、ディエゴが場所を知っているというルーシー・スティールのもとにたどり着くため地下通路を移動中です。
移動経路、合流場所等はのちの書き手さんにお任せします。
- とは言っても、お互いがお互いを信用している訳ではないので、いつ崩れるかわからない同盟関係です。
- 二人が立ち去ったことは教会で戦っていたジョースター一行には気づかれていないようです。少なくとも二人は伝言や書置きなどを残してはいません。
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最終更新:2016年03月03日 21:56