【22:30】
【D-2 サン・ジョルジョ・マジョーレ教会前の橋】
GDS刑務所を出発し、中心地に向かうは、誰かのために戦う者たち。
さりとて、復讐に燃える者たち。
『復讐』とは自分の運命への決着をつけるためにある――と定義した者がいる。
着々と、刻一刻と決着は迫る。人数が減るにつれ、宴はいつか終わりの時を迎える。
より良い決着を求め、復讐者たちは決意新たに急発進――
「やはりダメだな。車で走行するのは難儀するぞ」
――しようとしたところ、早速、出鼻をくじかれた。
『スター・プラチナ』の超視力を以て、付近を視察する承太郎が吐き捨てる。
蠅の一匹を観察するような精緻さがなくとも、承太郎の落胆の理由、同行者は誰もが気付いている。
復讐者たちが立ち尽くすは、サン・ジョルジョ・マジョーレ教会の跡地。
「教会で戦闘があったとは聞きましたけど……ここまで道が塞がれてるなんて」
「パワー型のスタンドで整地する……わけにもいかないか。わざわざ足を止めて土木作業なんて、車を持ってるメリットがなくなるもの」
承太郎に続いて下車した康一とシーラEも、同等の結論に至る。
運転手であるエルメェスと、後部座席にもたれるアナスイは待機。
(やれやれ……ロードローラーはふつー、こういう時に使うものだというのに)
承太郎は、激闘の最中にあった不条理を回顧し、心の奥底に悪態をしまい込んだ。
「回り道するしかないだろう」
助手席のドアを開けながら、承太郎がぼやく。
地図を広げるエルメェスを横目に、後部座席に身を寄せ合って着席した康一とシーラE、そしてアナスイ。
本来4人乗りの車に5人乗れているのは、康一が小柄であるからこそ。
シートベルトを取り締まる厄介者はいないし、何だったら囚人二名にギャングが一名、遵法精神甚だ無し。
着席を見計らったかのようなタイミングで、承太郎が、後ろ手で後方に位置するアナスイにメモ用紙を渡す。
『ついでに、アナスイの首輪について確かめたい』
後部に座する三者が顔を寄せ、記載内容を確認する。
『首輪について』とあいまいな記載だが、アナスイの首輪が明滅を止めている件は、既に共有されている。
首輪機能が停止している可能性――ただし確定ではないので、本件は筆談で扱う、とだけ。
追加のメモ用紙がアナスイに渡る。
『首輪が停止しているか確かめるのに、ごく簡単な方法がある。D-1の禁止エリアだ。
しばらく俺に会話を合わせてくれ』
メモを読み切るには短い間をおいて、承太郎が口を開く。
「回り道ついでに……
カーズの対処が喫緊の課題、ということで、禁止エリアに寄って行こうと思う」
「なんでまた急に?」
合わせて返答したのは、運転席に座すエルメェス。
筆談による沈黙が続くのは不自然、かつ行路の話となれば、ドライバーが真っ先に対応すべきと分かってのこと。
無論、承太郎は後部座席にメモを渡す前にエルメェスにメモを見せていた。
「勝ち筋は多い方がいい。『首輪の爆破で参加者は死ぬ』……ルール説明の時にそういう話があった。
だがスピードワゴン財団の調査では、柱の男は首をはねた程度では死なない」
「致命傷となるのは紫外線か、波紋と呼ばれるパワーか、だったわね」
シーラEが話題に続く。
カーズの脅威性、柱の男と呼称される種族の特性は5人の間で共有されている。
何より問題なのは、生命体を逸脱したタフネス。
シーラEは致命傷と言ったが、紫外線では石化させるのがせいぜいで、強力な波紋でなければ仕留めきれない。
「おれはスティーブン・スティールが嘘をついていたとは思えない。この殺し合いはルールが存在し、絶対公正、中立とまで謳っていたんだ」
「何らかの形で、柱の男は首輪爆破で死ぬ……と?」
アナスイは、振り返らず語る承太郎に懐疑の眼差しを向ける。
承太郎が信頼できないという意味ではなく、二つの疑念が浮かんだから。
絶対公正、中立――アナスイの首輪が停止しているのであれば、公正さは崩れている。
首輪の爆破――敗退を逃れ得る参加者は、複数名候補が浮かぶ。
「なんにせよ、ダメージが入る程度の威力はあるだろう。
禁止エリアに侵入したとき、首輪が即時爆発するか、あるいは警告があるか……それを確かめたい」
「即、爆発しないって保証は?」
「一応言っとくと、アタシたちが刑務所に来るまでの道筋も、わざわざ禁止エリアを避けてきたぜ」
シーラEとエルメェスが、ほとんど同時に懸案事項を口にする。
カーズからの逃走後、刑務所までは最短距離ではなく迂回する形の順路をとった二人。
恐れを抱くのは当然と言える。
「おれの推測では、首輪からの警告があると思う。おそらく禁止エリアは籠城を防ぐための措置だ。
しかし地図上の境界線が分かりにくい以上、即時爆破ではゲームの進行に支障がある。地下ならなおさら、エリアの境目がわからないだろうしな」
「猶予時間次第では、カーズを真正面から倒すより、禁止エリアに誘い込んで足止めする策を練った方がいいかもしれないな。
大統領の気まぐれに期待するみたいになってしまうが」
アナスイが承太郎に――当初の『勝ち筋』の件に同調する。
表向きには、『ダイバー・ダウン』は潜行による罠の設置など、足止めに最適なスタンドであるがゆえに。
裏向きには、首輪が無力化されていれば、禁止エリア侵入はやはりアナスイが最適であるがゆえに。
「ここには波紋使いがいませんしね」
会話についていくのに精いっぱいの康一が締めくくる。
存命の波紋使いは、元の人数に比すれば決して少なくない。
巡り合えるかは、運命のみぞ知る。5人を乗せた車輪は、幸運を運ぶ運命の輪となるだろうか。
★
【22:40】
【D-1とD-2の境目付近】
「禁止エリア侵入は、おれがやる」
「承太郎さん……」
「やけを起こした、と見られるのは心外だな、康一くん」
「そんなことはないですよ。そんなことは……」
目的地に到着してすぐ、承太郎と康一は下車した。
音声による警告であれば『エコーズ』を随伴させるのが良いと考えた康一であったが、侵入役までは考慮していなかった。
承太郎の即断行動は予想外だったために、ロクに引き留めることもできない。
ファーストペンギンはいつの世も、勇者になる前は異端者。
「これは年長者の役目、ってやつだ」
承太郎の目線の先が禁止エリアなのは分かりきっている。
それでも、深く被った帽の中は、窺い知れないものがあった。
康一らに雄大な背を向けるも、その大きさが、並び立つものを寄せ付けない孤高さを際立たせる。
ためらいなく前進する承太郎。
『おめ~ すでにはいってたな……禁止エリア…だ…』
首輪から響く警告音声は、離れた四人にも聞き取れた。
承太郎、たっぷり待ってからすり足で後ずさる。
数秒、数十秒経ち――静寂が場を支配する。
「よ、よかった……! 承太郎さんの予想通りだ! カウントダウンは禁止エリアに入り続けなければ、無効化される!」
康一のガッツポーズとともに溢れた歓喜の声に対し。
「厳しいな」
承太郎が口に手を当て思案する様、昼夜のような寒暖差があった。
「カウントダウンは30から開始していた。事前準備なしに30秒足止めできるとは思えない」
吸血鬼を超える膂力、生物を吸収する体質。
加えて爆破猶予30秒ともなれば、あらゆる要素が禁止エリアを絡めた策を嘲るかのように立ちはだかる。
ジャイアントキリング――大番狂わせは番付が明確であるからこそ、成し難い。
人類の上位種ともなれば、番付は最上段に位置するであろう。
「ハンデくれねえかな~~~怪物だったら10秒とかよお~~~」
承太郎の考察に対し、エルメェスは運転席でふざけ気味に肩をすくめた。
ちらと、横目でアナスイを見るさまを、康一は見逃さなかった。
「あ、確かに個人差があるかは検証しといたほうがいいですね」
康一が同意すると、承太郎も同等の考えに至ったのか、助手席に戻る。
着席前に、D-1エリアとD-2エリアの境目に目安となる木の枝を設置済み。
踏みぬかんばかりにアクセル踏み込むエルメェス。急発進、全速前進。
パキリと枝を踏み抜く音が聞こえるや否や。
『『『『おっと 自分の位置がわからないアホがひとり登場~~ 今いる場所が禁止エリアなの知ってたか?マヌケ』』』』
警告の終わりを待たず素早くギアチェンジ、R(リバース)に切り替えバックオーライ。
難なく危険地帯からの離脱を果たして停車、皆の視線が康一に向く。
「……」
康一がメモ用紙に描くは、大きな〇の文字。
アナスイの首輪だけ『音声が流れなかった』という合図。
『エコーズ』を近づけたところ、立体化した文字は浮かばなかった――微細な音も鳴らなかったという合図。
ややあって、歓声は上がらなかったものの、山を一つ乗り越えたような安穏な時間が笑顔とともに流れた。
(希望が見えてきたな)
承太郎も珍しく、口角が上がった。
禁止エリアの戦術に組み込めるかはともかく、弱点部位が無力化されている、というのが大きい。
皆が首輪の実験の件を主催者に悟られまいと、結局首輪の個人差はなかっただの、さっきの警告の音声は何なんだ、だのと歓談を続けている間。
承太郎はなおも思考を止めない。
(しかし、アナスイの首輪が停止していたとして……疑問は残る。無視できないのは、放送の内容だ)
空条承太郎は、些末なことにさえ気づくほどの観察力を有する。
本人は子供のころ『刑事コロンボ』が好きだったせい、と自己分析しているが、理由はどうあれ観察力があるのだ。
承太郎が気にしたことは、実に些細な点。
(首輪の異変はDIOとの戦いの後。『首輪は一度アナスイの死亡判定を下し、再起動しなかった』と仮定する。
ならばなぜ、アナスイは放送で名前を呼ばれなかった?
①第三回放送以前に首輪が停止した場合。これは単純に『なぜ放送で呼ばれなかったか?』という疑問が生じる。
考えられるのは、首輪に生死判定を委ねていない――例えば会場にて映像による監視が行われている、という可能性。
都合よく、首輪の機能のうち禁止エリアを判定する機能だけ停止した、とは考え難い。
②第三回放送以降に首輪が停止した場合。第三回放送で呼ばれなかったことは説明がつくが、
新たに『第四回放送で名前を呼ばれるか?(=死者として扱われるか?)』という疑問が生じる。
当然、呼ばれるか呼ばれないかの二択だが、どちらにせよ見えてくることがある。
②-1、第四回放送でも名前を呼ばれないなら、映像監視説がほぼ正しいことになる。
むしろ、首輪が停止した参加者を注視しない理由がない。監視が厳しくなったり、刺客の派遣といった直接的な手段に走るかもしれない。
②-2、逆に、アナスイが死亡者として名前を呼ばれた場合は――首輪が停止しているという『予測』が『確信』となる。
これは、『フー・ファイターズが第三回放送直前に死亡扱いとなり、アナスイが第三回放送直後に死亡扱いとなった場合』にだけ成立する。
もうすぐ答え合わせがあるが、②-2はありえない話じゃあない。
おれがアナスイを背負った時、寝ているとしか思えなかったが……DIOに腹をブチ抜かれたのだ、『埋め合わせる』間に一時的な心停止があってもおかしくはない。
通常の移植手術なら、体組織がなじむまで数か月はかかる。吸血鬼であるDIOでさえ、100年の年月をかけてなお、ジョースター家の血液を欲した。
『フー・ファイターズ』はプランクトンの集合体。ヒトデのように体組織1つで自身を丸ごと復元できるとのことだが、人間の体組織を復元するのは全く別の領域だ。
相応の手間がかかったはずなんだ)
助手席に座る承太郎、メモ用紙を後部座席に回す。
自身の推論を基に、最低限の指示を下すため。
『映像で監視されている可能性あり。以降は筆談も控える』
★
【23:00】
【C-2 カイロ市街地 北西】
禁止エリア侵入実験は、アナスイだけでなく、移動の点でも利があった。
警告から爆破までのインターバルに猶予があることから、D-1北東を急加速で通過する形でC-1へ移動可能。
南下して中央地へ行くよりも時間短縮になることから、C-1を北上してC-2へ、その後東方に進む進路を採ることに。
生まれた時間的・精神的余裕から、周辺の探索を行うことにした一行。
支給品の回収、参加者の保護ができれば万々歳。危険人物との遭遇も、5人であればやり過ごせるし、逃走も容易。
「こりゃひでえな」
戦場跡が目につく十字路で停車し、エルメェスが零した感想は、簡素かつ的確だった。
いたるところに銃撃痕、さらには折り重なるように3つの死体。
三者それぞれの血潮がおびただしく流れ、混ざり合い、赤黒い池ができるほど。
続々と下車する乗員。集団から康一が抜きん出て、死体のうち一つに駆け寄り、はたと、止まる。
「虹村……形兆」
「知り合い?」
康一の反応、死体への生理的嫌悪はないと、シーラEは推察した。
見抜けたのはそれだけで、スタンスの見えない、あいまいな面持ちで死体を見つめる康一。
「
虹村形兆、過去にスピードワゴン財団の報告書で聞いている……端的に言えば、敵だ」
承太郎が簡単に切って捨てた。
虹村形兆――矢を悪用し、己が目的のためにスタンド使いを増やそうとした男。
被害人数は見えないが、矢の特性上、素質のない一般人をも殺害したと容易に推測できる。
伏兵を警戒してか、周囲を見渡す承太郎。死体を見つめるままの康一と、目線は交わらない。
「敵、だったのは間違いないんですけど……この人も、DIOの被害者です」
康一の見解も『敵』で相違ない。
東方仗助によって治療されなければ、矢に刺されるがまま死んでいた立場なのだから。
虹村億泰も形兆の死に際、『ああなって当然の男だった。まっとうに生きれるはずがない宿命だった』と語るほどだ。
同情の余地はない。ないはずなのに――仗助と億泰の説得に逡巡した様子が、心残りとしてあった。
父親への向き合い方ひとつで、違う未来もあったのではないか、と。
「他に知り合いがいないってのは、喜ぶべきことなんだろう」
「そうね。同郷の人らしき死体もあったけど、そんなことでいちいち心を痛めていられない」
アナスイの話題転換に沿うように、シーラEが康一へのフォローを見せる。
『死』が日常の選択肢に入り込む二人の倫理観、康一のそれとは乖離している。
乖離しているからこそ、深入りしすぎてはならない。慣れない愁いを引きずっても、得るものはないのだから。
そもそも彼らは、精神的に摩耗するために死体漁りをしているわけではない。物質的な恩恵にあずかることを期待してのものだ。
まもなく承太郎が、手にデイパックをぶら下げて姿を現す。
デイパックが手放され、重力に従うがまま、音を立てて着地する。
その音につられ、皆の視線が一点に集まった。
「少し離れた位置にデイパックが放置されていた。デイパックに染みた血が足跡を作っていたんで気付いたんだがな。
変わった支給品が一つ、ご丁寧に説明書付きだ」
そう言って承太郎は一枚の紙をぶら下げるように、康一でも見やすいような、腰ほどの位置に掲げる。
説明書を覗き込んだ一行は――期待外れとばかりに、肩を落とした。
「……役に立つのかこれ?」
「一応持っていきましょうよ、開けなければ荷物にならないし」
あきれ顔のエルメェスの横をすり抜け、シーラEがデイパックを漁り、小さく折りたたまれた紙を手にする。
戦闘の役には立たず、支給品の所持割合を勘案する必要がない程度の品、さらに説明書きからしてシーラEが相応しそうという理由で誰も不満を上げなかった。
承太郎は開いたデイパックを見下ろし、顎に手を当て思案する。
「どうしたんです、承太郎さん」
「……デイパックが回収されてなかったのが気になってな。デイパックの口は開いていたが、中のモノは水やら食糧やらも、手つかずだった」
「誰かがデイパックを確認して、やっぱり要らないと思って放っておいたんじゃないですか?」
「デイパックは死体のあった場所から移動していた。わざわざそんなことをしなくても、この場で確認すればいい」
「周囲を警戒した……とかじゃないですか?」
考察を重ねる承太郎とは裏腹に、頓着のない返事を交わす康一。
康一の意見にも一理ある。切り返せるだけの反証、承太郎には見当たらない。
「……考えすぎかもしれない。時間を食ってしまって悪いな」
聡明たる空条承太郎にも、納得できる解は導き出せず仕舞いだった。
★
【23:10】
【C-3とD-3の境界線 橋】
『ジョジョ……空条邸は違う方向ではなかったか? 川を渡る必要はなかったはずだ。もしや禁止エリアを気にしているのか?』
「それもあるが、先にはっきりさせておきたいことがあるんだ。ディオ……僕の命令ならばどんなことでも聞くと、そう言ったな?」
『……ほほぉー。意外と早かったな。もう少し葛藤やプライドといったものがあると思っていたが』
ジョナサンとDIOの暗夜行路。
ジョニィとルーシーの同行拒否を受け、距離をとるように北上、間反対の進路をとっていた。
当然、東に位置する空条邸に到着することなく、血縁による探知もおぼつかないまま、誰とも合流することもなく。
『いやいや、構わんさ。
始末するには決断が遅いし、特攻兵器とするには躊躇いがありすぎる。
そうやって無駄に時間をかけるから、エリナの『初めて』も奪われることになったんじゃあないか?
だが、まあいいだろう、ジョジョ……他ならぬお前の言葉だ。従ってやるとも』
行先といい、DIOに対する態度といい、何かしらの心変わりがあったのだろうとDIOは勘案する。
ハッキリとは見えないが、腕を組んでにやつく様は、ジョナサンにもありありと想像できた。
どだい『従う』などと口にする者の態度ではなかった。
ジョナサンは緩慢な歩調に切り替え、並び立ったDIOに顔を向ける。
「答えてくれ。君は、生まれてから今も、ずっとそうなのか?」
ジョナサンが告げる。
しばしの沈黙の後、DIOが首を傾げた。
『……『そう』、とは? 質問に答えるには、いささか具体性に欠ける問いかけだな』
「君は、今でも何かを奪わずにはいられないのか?」
使役、隷属――想定していた命令でなかったためか、DIOの歩みが止まる。
ジョナサンもそれに遅れて静止し、振り返る。
真正面、向き合う形。
「君は最初に、ジョースター家の遺産を奪おうとした。でも、君ほどの才覚があれば、同等の財は成せたはずだ。
次に、吸血鬼となって命を奪い続けた。だが今は衝動を抑制できているし、なにより僕がそうさせない」
百余年にもわたる因縁。
奇しくも、因縁はその発端が決着をつけた。
そう、ジョナサンは決着をつけたのだ。
「人は成長できる。成長は身分とか血統とか、そういうもので決まるんじゃあなく、未来を良くしようとした信念の結果だよ」
全ては終わった話なのだ。成長の結果をジョナサンは示したのだ。
DIOがリビングデッドとして復活しようが、この先バトル・ロワイアルがどうなろうが、二人の関係は過去。
もう『終わった話』。
「ジョースター家の養子になってから7年の間、僕は君と友達になろうと、君を理解しようとした。
本性を隠していたから、その願いは叶わなかったけど。
吸血鬼になってからは言うまでもなく、対面もロクにしないまま、そっちは100年経ったっていうじゃあないか。
でもスタンド能力で復活した今なら、本音で話すことだってできるはずだ。
今からでも歩み寄れないのか? 個人的に尊敬しているっていうのなら……ここからでも、やり直そうとは思わないのか?」
ジョナサンの目はまっすぐDIOに向いている。
考えるべきは未来。これから先のこと。目つきがそう物語る。
ジョナサンがかつて求めたもの。理想。
DIOの目線は、果たしてジョナサンと同じベクトルを向くか。
『……今の俺は、お前のスタンド『リンプ・ピズキッド』によって生成された透明ゾンビ。実際のディオではない』
「ごまかすな」
ジョナサンが即断。
DIOがいかに透明であろうと、存在そのものを消し去ったわけではない。
ジョナサンの質問を聞かなかったことにはできないのだ。
――スピードワゴンの糞野郎はオレのことを『生まれながらの悪』と表現したが、
――オレは幼少期の辛い体験こそが今の自分を形成したと自己分析している! いまさらだがなッ!!
かつての激昂を、DIOは思い出す。
この分析に沿えば、『生まれながら』の性格とは言えないだろう。
舌打ちを前置きに、DIOが述懐する。
『猫被った耳障りの良い回答をしようと思ったのだがな……能力の支配下においては、それもできないか。
今更な分析だが……人間には限界があるからこそ、おれは人間をやめた。
少年時代にジョジョ、お前を踏み台にしてわずかばかりの名声を得たが、それもジョースター家の養子という立場あってこそ。
そこに限界を感じ、おれは人間には解決できない困難に立ち向かった――とも言えば、少しは聞こえもよくなるか』
成功、栄誉。
それらは他人がいて初めて得られるもの。
かつてのディオには得られなかったもの。
『昔も今も、『高み』を目指すのに手段は選んでいられない。それがこのディオの、生まれながらの本質だ。
俺とお前とでは、用いる手段が違っただけのこと』
「そうか……」
ディオには『他者』の概念が欠けていた。
だからこそ栄誉は仮初でしかなく、支配することでしか充足しなかった。
――本当に生まれながらだろうか?
――環境がそうさせたのだろうか?
――互いの環境が、立場が逆であれば、同じことが言えただろうか?
口にはしなかったが、ジョナサンもDIOも、同等の結論に至る。
『分かり合えないと分かったか?』
「逆に考えるよ。『別の手段がいいと思えるなら、君はそちらに手を伸ばす』と考えることにする。
手段を選ばないって、そういうことだろう?」
――ああ、そうだ。その不屈の精神こそがお前の強さ。それを尊敬している。
DIOは口にこそしないが、ジョナサンの視線に、視線で答える。
細めた目で睨みつけ、眼光は鋭さを増す。尊敬と片付けた感情は、羨望でも、嫉妬でもあった。
「そして僕も手段を選ばず、君を活用させてもらう。命令じゃあなく、願いとしてだ」
ジョナサンも、未来に向けて変わる決心をした。
DIOが鼻で笑う。静かな、安堵の息遣いだった。
当初想定していた話と方向性が異なっていたが、決断が遅いという点ではそう変わりなかったかもしれない、と。
ジョナサンを分析した結果に――ジョナサンらしさに間違いはなかった、と。
自他ともに向けた安堵。
『それでいい。少しは冴えた顔つきになったじゃあないか』
「協力してくれるのか?」
『勘違いするな。優先事項が変わっただけのこと。俺の関心ごとは別にある』
この殺し合いが始まる以前からずっとな、という呟きは、地を踏みしめる音に混じって消えた。
「そうだな。僕も君も、もう子供じゃあない。ずっと昔の話ばかりしていられないんだ」
寄り道すれど目標は依然、変わりなく。
だが、ジョナサンとDIO、二人の関係性は――過去のままとはいかず、未来に向けて変わりつつある。
『しかし昔の話ばかり……とは、俺への当てつけか?』
「そうだよ」
『なッ……』
「だいたい、『昔からそう』とか『初めてを奪った』とか、君からしたら100年も前の話を持ち出して、恥ずかしいとは思わないのかい?」
『……』
「あの時僕は頭に血が上ってたけど、もしかしてディオはエリナに無理やり迫ってフラれたんじゃあないか?」
『何を馬鹿なことを』
「あたりまえだけど、僕もエリナからは聞いてないんだ。当時何があったか、『正・直・に』、答えてくれ」
『…………エリナに無理矢理口付けして……そのあと、川が近くにあるのに……わざわざ泥水で、口を濯がれた……』
「えぇ……?」
★
【23:15】
【C-3 DIOの館前】
「肉体的な波長……あてになるんですか?」
「『近く』か『遠く』か、で言えば……『かなり近い』。『近づいている』って方が正しいか。
進路はこのままでいい、スピードを落としてくれ」
戦場跡の探索に一区切りつけ、他参加者との合流を目指す一行。
中心地を目指していたのだが、承太郎曰くジョースター家の波長を感じ取ったので、エルメェスは車速を鈍行に切り替えた。
マシンスペックが発揮されないストレスも相まってか、皆、誰とも知れぬジョースター家とのエンカウントには懐疑的だった。
「距離もあいまいで、区別もつかないんでしょう? 近づいてるのがジョルノ様かどうか、とか」
組織の首魁との遭遇を熱望する、シーラEでさえも。
放送を頼りにすれば、確率は4分の1――だが、承太郎にとっては5分の1、無視できない憂い事があった。
「そうだな。だから万が一、DIOが復活していたら……と思うとな」
「考えすぎですよ。というか、肉の芽が肉塊になっちゃったんですよ?
さっきの虹村形兆さん……父親が肉の芽を埋め込まれていたんです。その父親はDIOの死とともに肉の芽が暴走して、怪物になったみたいで。
だから、DIOが五体満足でいるってことはありえないですよ」
肉塊が詰まったペットボトルを弄びながら、康一が物申す。
肉の芽の異変こそ、サン・ジョルジョ・マジョーレ教会周辺にてDIOの死体を捜索しなかった理由だった。
さらに、遺体の完全消滅には太陽光や波紋を用いなければならない、という事情が付随する。
1989年にDIOと決着をつけた際、朝日による完全な消滅を以て、長き旅路を終えた承太郎。
当時の再現を以て終止符を打ちたい、というのが人情というもの。
承太郎は、バックミラー越しに肉塊の詰まったペットボトルを見やる。夜明けを待ち望みながら。
しばらくして、橋を渡るかどうかといったところで。
「うおおっ!」
緩やかにブレーキを踏むエルメェス。
進行方向、ヘッドライトの鮮烈な光にさらされた大男は。
承太郎がそう呟くと、ゆったりと下車して、ジョナサンと顔を見交わす位置に立つ。
「承太郎……無事だったか」
他の乗員も続々と承太郎に並んだが、以降、出方を伺うかのような沈黙が続く。
ジョナサンと承太郎――確かに両者は仇敵を前に手を組んだ戦友と言える。
だが、感動の再会と称するには、感慨深さを得るだけの時間が不足していた。
沈黙に耐えきれない康一が、それっぽい話題を振ってみようとばかりに、口をはさむ。
「あなたが、承太郎さんの……ええと」
「ひいひいおじいちゃん、らしい」
「らしい、って、自分で言うんですね」
外見上、承太郎の方が年上なのもあり、高祖父という表現がまるで似つかわしくなかった。
ジョナサンも違和感があったのか、可笑しくなり、照れるような笑みを浮かべる。
2メートル近い体躯とは裏腹に、愛嬌を備えた余裕。
春の太陽のような、力強さを宿した朗らかさ――そんな印象を、康一は感じ取った。
初対面である他三名も、信頼に足る人物と判断したのか、暖かな笑みをジョナサンに返す。
「……ジョナサン、さっきからやたら隣を気にしているようだが」
二度目の邂逅を果たした承太郎は、二度目だからか、異なる見解だった。
隣と言えど、ジョナサンに並び立つものは影もない。
が、影がなければ形がないという道理はない――『並び立つもの(スタンド)』は常に不条理。
「ああ、やっぱりみんなには見えないんだな。さっきの二人は例外ってことか……。
説明が難しいんだが、どうか冷静に聞いてほしい。特に承太郎、君には」
軽く咳払いをしたジョナサン、姿勢を改めて語り始める。
「DIOとの決着をつけた後、僕はスタンド能力を得た。スタンドの名は『リンプ・ビズキット』」
「『リンプ・ビズキット』だって!?」
エルメェスが、声量一段強く声を上げる。
「知っているのか、エルメェス?」
「
スポーツ・マックス……あたしの姉の仇が、その名前を口にしていた。スタンド攻撃らしいことはあったが、詳細なところは私にもわからない」
承太郎の問いに、エルメェスは十分な回答ができなかった。
エルメェスは殺し合い以前にスポーツ・マックスに復讐を果たそうとし、厳密には決着をつけられていなかったために。
「……続けるよ。能力は『死体を視認できないリビングデッドとしてよみがえらせ、使役すること』」
「見えない攻撃、って点ではつじつまが見事にあってるよ……しかし、なんつう因果だ、クソッ」
限られた経験でも、異能の特徴が符合する。
唾棄すべき過去を回顧する羽目となったエルメェスは、苦虫を嚙み潰したように顔をしかめる。
「スタンド能力って、血縁のない誰かと全く同じ能力になることってあるんですか?」
スタンド使いになって日の浅い康一が、横道にそれた疑問を口にする。
今度は、明確な解を知る者がいた。
「神父……
エンリコ・プッチというやつの能力だ。スタンド能力をDISC化して、他人に与えることができる。
支給品なのか、参加者のDISCが偶然挿さったのかまではわからないが、ありえない話じゃあない」
アナスイの淀みない即応に、腑に落ちないといった感じでエルメェスが首をかしげる。
「エンリコ・プッチ? 神父? 初耳なんだが。『ホワイトスネイク』の本体か?」
「ああ……お前は知らなかったのかエルメェス。徐倫は知っていたから、お前も知っているもんだと」
アナスイの語り口が気に障ったのか、エルメェスは眉をひそめ、そうかい、とつんけんした語調で返した。
また話がそれてきたとばかりに、承太郎が核心に迫る。
「で、ジョナサン……お前は誰をよみがえらせた?」
「本題はそこなんだ。能力発動は無意識下の事で、今はおとなしくさせているんだが……僕の隣に透明化したディオがいる」
歴史にとどろく悪鬼の名――耳にした途端に、瞬時に身構える一行。
緊張なのか、恐怖なのか……沈黙が続き。
「見えないから、リアクション取りづらくて……」
堪えきれなくなった康一が、素朴な感想を漏らす。
それもそうだね、とジョナサンは申し訳なさげに返答するが、透明ゾンビの証明ができなければ話が進まない。
視認できないとあっては『スター・プラチナ』の超視力も役に立たない。
「実体はあるんでしょう? 懐中電灯で照らしたら、影が映りそうなものだけど」
「思い出せよシーラE。さっきのヘッドライト、影はジョナサンだけだった。透明だから、光を通しちまってるんだろうな」
運転席でライトを灯したエルメェスだからこその指摘。
『透明ゾンビ』はガラス細工やスケルトン加工ではなく、完全なる透明。
あまりの透明感に光が反射する余地がなかった。
「もしかしたら、さっき見つけたアレが使えるんじゃあない?」
シーラEが、小さく包まれた紙とともに、説明書きをはためかせた。
ジョナサンが説明書きの先頭を読み上げる。
「『ベビー用品セット』……? 何に使うんだ?」
「なるほどな……ベビー用品って部分はどうでもいいが、説明書きの部分を見てくれ」
承太郎に促されるまま、ジョナサンは怪訝な顔つきで説明書の続きを音読する。
「乳母車、おむつ、おしゃぶり、哺乳瓶……化粧品。何で化粧品がベビー用品セットなんだ? いや、そこじゃあないか」
「いや、重要なのはそこだ。化粧品……実体があるなら、ファンデーションを塗りたくれば確認できるはずだ」
「なるほど……! ぼくは波紋で攻撃してしまいかねないから、承太郎、頼めるかい? あとディオはじっとしていてくれ」
★
【23:20】
【C-3とD-3の境界線 橋】
『そろそろいいんじゃあないか?』
「……マジか」
アナスイが、感嘆の息を漏らす。
「どうやらマジのようだ。相変わらず声は聞こえないが、塗りたくった甲斐があったぜ」
「やっぱり声はぼくにしか聞こえないのか……その方がいいのかもしれないが」
厚化粧が映し出した、DIOの輪郭。
口元が発話を思わせる動きをしたのも相まって、透明なDIOの存在が立証された。
ファンデーションの量から、顔の前面と前髪、指先を白く染めた程度で、全容は明かされていないが。
それでも、対面したアナスイが、承太郎が見紛うことはない。
「相談したいのは、ディオの処遇だ。この戦いが終わるまでは、僕に使役させたままにしてもらえないか?」
「……理由を聞こうか」
「ディオが何かを企んでいようと阻止する、というのは前提として。
このディオはただの死体……もう決着はついたんだ。消したところで、何か変わるってわけでもない。
それに、理解できないから消して終わりにする、というやり方は、ディオと同じに思えてならない」
ジョナサンの堂々たる所信表明とは裏腹に、ため息たっぷり吐き出した承太郎、語気を強めて不服申し立てる。
「考えるべきは未来のことだ。今はこうして見えているが、誰かに会うたび透明のDIOの存在を明かしていく、ということだろう?
それで他の奴らが、納得するとでも?」
――他のやつらに今の『俺たち』はどう映るのか、一度その無い脳みそでよく考えてみることだな
ディオの忠告どおり、ここに至るまでジョナサンはよく考えた。
考えた結論を、清廉な態度で示す。
「どう見られようと――いや、見えていないのかもしれないが。何と言われようと、ぼくはぼくだ。ディオに惑わされたりなんかしない。
信じてほしいのはディオじゃなく、ぼく自身だ」
ジョナサンは、顔色を窺って振る舞うことはしなかった。
ジョナサンの父、ジョージ・ジョースターもディオを引き取った果て、死に際でも悔恨を口にしなかった。
父より受け継がれた紳士の精神は、強い意志となり誇りとなり未来となる。子孫と巡り合えたことで、受け継がれる未来を証明したのだ。
『善』は『悪』に屈することはない、という未来を。
ジョナサンと承太郎の見据える未来は交わるか。
再度ため息をついた承太郎は、帽子のつばを押さえ、深く被りなおす。
「ヤツには貸していたものが多すぎる。過去も、今も。未来がどうなるかまでは知らないがな。
つまりジョナサン、あんたの個人的感傷に付き合ってる暇はねえぜ」
承太郎、『スター・プラチナ』を具現。
右こぶしを思い切り、前に突き出す。
時を止めていなくても、時が止まったかの如く、情け容赦のない初速。
康一をはじめ、ギャラリーは皆、凄惨たる光景を予測して目を細め。
しかしジョナサンは承太郎の結論を受け入れようと、目を逸らすまいと息を呑む。
拳が迫るDIOもまた、微動だにせず――
「今は、おしゃぶりつけるだけで手打ちにしといてやる」
――小さな口枷を、添えるようにはめられた。
「ジョナサン、あんたの言うとおりだ。『ディオと同じに思えてならない』……。
他人を弱いとか役に立たないとか断じて、賢しい口をきいて……理解をやめて何かした気になるのは、DIOと同じかもしれないな。
何より、あんた抜きではDIOには勝てなかった。勝者に対してエラそーに口をはさむ権利を、おれは持ち合わせていない」
「承太郎……いいのか?」
意外、結論は許諾。
相談を持ち掛けたジョナサンでさえ困惑するほど、あっさりと。
「従えてはいるんだろう?」
「ああ。僕の命令なら聞く、とまで言っていた」
「だろうな。DIOが何かするつもりなら……今この時も、何もしないはずはないからな。
近距離パワー型のスタンドに匹敵する力がありつつ、本体にはダメージのフィードバックがない……と考えれば、戦力として十分だ。
個人的感傷は持つな。『使い捨てる』くらい、思い切りよく働かせてやれ」
しゃくるように、DIOを顎で指す承太郎。
まさしく言葉通り――『顎で使え』という指令。
『ふざけているのか、承太郎……!』
「ディオ、そのおしゃぶりは外すなよ」
『ジョジョ、貴様まで……!』
DIOとしては、承太郎が感情のままに激昂すると踏んでいたのだろう。
逆にDIOの激昂を表すかのように、宙に浮いたおしゃぶりは咥えられるまま、小刻みに震えるのみだった。
『リンプ・ピズキット』の使役能力あっては、枷を外すこともままならない。
「承太郎さん……まさかこれで終わりにするわけじゃあないですよね?」
アナスイが承太郎に楯突いた。
承太郎が納得しても、アナスイの過去の清算は済んでいない。
エルメェスやシーラEも、康一でさえも、DIOの所業は詳しく無かれど想像に難くなかった。
「もちろん……手打ちにしたのは『俺の分』だ。あとは好きにしろ」
承太郎は路地に散りばめられたベビー用品セットを一瞥し、身を引くように後ろ足でDIOから距離をとる。
一同は顔を見合わせ、しばらくすると、承太郎の意を汲んだのか、エルメェスが小さく頷いた。
「いよっしゃァ~~~~ッ! どうせだったら、口紅で落書きしてやろうぜ!」
「アイシャドウや、アイブロウペンシルもあるわよ」
「なんだったら『ダイバー・ダウン』でぐちゃぐちゃに整形してやるぞ。リクエストはあるか?」
エルメェスとシーラEは、いつの間にか化粧品を複数手に取り。
アナスイは指をポキポキと鳴らしていた。
一様に笑顔となった三者に、康一は苦笑い。
「ほらよ、康一。おまえも」
エルメェスが、康一に口紅を渡す。
やるって言ってないのに、とは言えない雰囲気だ。
「落書きと言えばコーイチ。ニホンだと、こういうときは額に肉って書くのが一般的なのよね?」
「DIO相手だとシャレになってないですよ、それ」
「……やれやれだぜ」
斯くして、Avengers(復讐者)は一致団結した。
★
【23:50】
【C-3とD-3の境界線 橋】
「ギャーハハハハハハッ!」
「イーヒヒヒヒッ!」
『グッ……! 今の自分の顔を見れないが、愚弄されている気分だ!』
以降の透明なDIOの扱い――それはもう、ひどいものだった。
シーラEが、『あ~ん手元が狂っちゃったァァァ~~~んッ』と眉毛を極端に太く描いたあたりから、タガが外れ始め。
エルメェスがアイシャドウで涙を模したメイクをしたところ、雄々しい眉とのギャップが大いに笑いを誘い。
康一でさえも、口紅で鼻下から顎までぐるりと囲って、コソ泥じみた髭を模した落書きを描く始末。
「この程度で済んでいることに感謝しろよ、ディオ。……ふ、ふふ」
『ジョジョ……貴様、まだ笑うか……!』
『ダイバー・ダウン』の整形に至っては、おでこを膨れさせ顎をしゃくらせて三日月型を模したのが非常に出来が良く。
ジョナサンさえもツボに入ってしまって、うずくまって笑いをこらえていたし、今でも思い出し笑いを漏らしていた。
面白すぎてまともに操れないかもしれない、という理由で骨格を元に戻したが、落書きとおしゃぶりは相変わらずだった。
雑巾を虐待するのに最も効果的な方法は飾ること――と言った者がいるとか、いないとか。
吐き気を催す邪悪・DIOが辱められるさま、まさしく飾られた雑巾。
(やれやれだ……だが、ジョセフや仗助だったら、こんなもんじゃあ済まさなかっただろうな)
若かりし頃のジョセフなら、ありとあらゆる屈辱的ポーズをとらせただろうし。
仗助なら、『直す』スタンドを駆使して半永久的に殴っていたことだろう。
しかし承太郎は、お行儀の良い振る舞いを求めてそう考えたのではない。なんだったら『もっとやれ』と考えている。
復讐は、何も命の奪い合いだけではない。尊厳の破壊の方がDIOには効果的と、承太郎は考えたまでのこと。
(若い奴に譲る……これも年長者の役目、ってやつだ)
DIOとの協力ともいえる事態、因縁深い面々が割り切って行動できるか、という懸念は払拭された。
これが本物のDIOであれば、皆も簡単には割り切れなかっただろう。
だが、ジョナサンの言う通り、もう決着はついた事象。
だからこそ、他の面々もジョナサンの意を汲んで、因縁の決着はつけたものとして透明なDIOを扱っている。
透明なDIOに対して禊を済ませ、けじめをつけることで新たなスタートを切る。過去の因縁を振り切って、未来に向けて行動するために。
「ジョナサン、あんたのおかげでまとまれたよ」
「そうかな……? 君の判断のおかげだと思うけど」
弄ばれるDIOを尻目に、承太郎がジョナサンに一礼する。
ジョナサンは頭を上げるよう促し、やや間をおいて承太郎が頭を起こす。
「『フー・ファイターズ』で肉を埋めることはできても、血液を補うことはできないみたいだ。波紋の力がいつも通り練れるとは、考えない方がいい」
アナスイは、飲み干したペットボトルを放り捨ててつつ言う。
女性陣と康一がDIOのメイクアップに勤しんでいる間、アナスイはジョナサンの治療を行っていた。
肉詰めは応急処置より体裁は整うものの、万能とは言えない。『フー・ファイターズ』が増殖するための水分を必要とするのもネックだ。
「カーズとの戦い、総力を尽くしたい。これはDIOにとっても理のある話だ。
半日ほど前にDIOとカーズとが居合わせたとき、決着がつかなかったのは不服だったろうしな」
「そうなのか、ディオ?」
『カーズ……柱の男、だったか。あの吸血鬼を見下した態度、まるで気に入らなかった。
以前は承太郎、貴様の横やりで決着がつけられなかったが、こんな形でカタをつける好機が巡ってくるとはな』
カーズ討伐に乗り気なDIOを協力者として取り付けるのは、まさしくWin-Winの関係性だった。
過去の因縁というには若干不純な動機だが、ジョナサンがいちいち事細かに命令しなくて済むのも好都合。
DIOもまた、復讐者としてこの場に集う。
『しかし承太郎……あの時お前が爆弾で邪魔建てしなければよかったのではないか? お前の個人的感情が、今の窮地をもたらしたんじゃあないか?』
「何か言ってるのはおしゃぶりの動きで分かるが、聞こえないぜ、DIO」
「うっとうしかったら、やめさせようか?」
承太郎に顔を近づけるDIO。
悪趣味なメイクに表情一つ変えず冷たくあしらう承太郎に、いたたまれなくなったジョナサンがフォローを入れる。
「そうしてくれると助かる。あと……せっかく化粧しておいてなんだが。ファンデーションを落とした方が、透明っていう特性を生かせるな」
ニヤリと笑みをはみ出させる承太郎、再度『スター・プラチナ』を具現。
右こぶしを思い切り、前に突き出す。
時を止めていなくても、時が止まったかの如く、並み居る者はないであろう初速。
「オラァッ!」
『ぶげっ!』
DIOの頬と思しき位置に、『スター・プラチナ』の痛烈な一撃。
バシャン、と、付近の川にしぶきが上がる。
月明かりに照らされたおしゃぶりと、大の字の透明な人型が水中に露わになって、「ああ、この透明のがDIOか」と皆が理解した。
「テメーにはまだまだ働いてもらわなくっちゃあならないからな……全力で手加減してやったぜ」
『クソッ……覚えていろよ、承太郎!』
「だから聞こえないんだってば……。もう、ぼくが許可するまで余計なことはしゃべらないでくれ」
【C-3とD-3の境界線 橋 /1日目 真夜中】
【AVENGERS】
【広瀬康一】
[スタンド]:『エコーズ act1』 → 『エコーズ act2』 → 『エコーズ Act3』
[時間軸]:コミックス31巻終了時
[状態]:右二の腕から先切断(止血完了)
[装備]:エルメェスの舌
[道具]:
基本支給品×2(食料1、パン1、水1消費)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
0.みんな好き勝手するなぁ……ぼくも悪ノリに乗っかったけど
1.ずいぶん解消はしたけど、やっぱり後悔や怒りは消えなさそう
【
エルメェス・コステロ】
[スタンド]:『キッス』
[時間軸]:スポーツ・マックス戦直前
[状態]:健康
[装備]:ジョルノがカエルに変えた盗難車
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
0.運命への決着は誰も邪魔することはできない……ジョナサンさんや承太郎さんがそれでいいなら、従うまで。
1.ジョジョ一族とDIOの因縁に水を差すトランプ使いはアタシたちが倒す?
【
シーラE】
[スタンド]:『ヴードゥー・チャイルド』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』開始前、ボスとしてのジョルノと対面後
[状態]:健康
[装備]:トンプソン機関銃(残弾数70%)、
[道具]:基本支給品一式×6(食料1、水ボトル少し消費)、化粧品、破れたハートの4
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
0.せっかくメイクしたのに……。
1.ジョースター家とDIOの因縁に水を差すムーロロ、アタシが落とし前をつける?
2.ジョルノ様の仇を討つ、と思ってたら聞いた話じゃあ生きてるっての!?キャージョルノ様アァァ
【空条承太郎】
[時間軸]:六部。面会室にて徐倫と対面する直前
[スタンド]:『星の白金(スタープラチナ)』(現在時止め使用不可能)
[状態]:右腕骨折(DDによる治療済)、肉体はほぼ健康状態まで回復、DIOを殴れてちょっぴりスッキリ
[装備]:ライター、カイロ警察の拳銃の予備弾薬6発、 ミスタの拳銃(6/6:予備弾薬12発)
[道具]:基本支給品、
スティーリー・ダンの首輪、肉の芽入りペットボトル、ナイフ三本
[思考・状況]
基本行動方針:バトルロワイアルの破壊。危険人物の一掃排除。
0.DIO(の透明ゾンビ)にはしこたま働いてもらうぜ。
1.殺し合い打破に向けて行動する。
2.一歩身を引くのも年長者の役目ってやつだ。それはそれとしてDIOは一発殴るがな。
3.自分自身も成長する必要があるってところか
【
ナルシソ・アナスイ plus
F・F】
[スタンド]:『ダイバー・ダウン・フー・ファイターズ』
[時間軸]:SO17巻 空条承太郎に徐倫との結婚の許しを乞う直前
[状態]:健康、首輪の機能が『どうやら』停止しているらしいという『予測』
[装備]:なし
[道具]:基本支給品(水ボトル消費)
[思考・状況]
基本行動方針:徐倫、フー・ファイターズ、F・Fの意志を受け継ぎ、殺し合いを止める。
0.DIOは気に食わないが、好き勝手整形したので憂さ晴らしできた。
1.エルメェスたちと共に行動する。
【備考】
上記5名で情報を共有しました。共有した内容は198話「英雄」参照。
【ジョナサン・ジョースター】
[能力]:波紋法
[時間軸]:怪人
ドゥービー撃破後、
ダイアーVSディオの直前
[状態]:左手と左肩貫通(DDFFによる埋め合わせ済)、疲労(中程度に回復)
[装備]:リンプ・ビズキットのスタンドDISC、透明なDIOの死体(おしゃぶり装備)
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)
[思考・状況]
基本行動方針:力を持たない人々を守りつつ、主催者を打倒
1.ディオには少し黙ってもらおう。同情の余地ないし
2.第四放送までに空条邸に向かい、そこで仲間と合流したい
3.蘇った(?)ディオと共に行く。命令ではなく願いとして、ディオを活用するつもり。ただし何かあれば即座に対処
4.ジョニィたちと再会したらディオのことを説明したい
※ジョニィから第三放送の内容を聞きました。
※DIOとどの程度情報交換したかは次の書き手さんにお任せします。
【透明になったDIOについて】
0.能力は原作に準拠。スタンドビジョンはなく、死体を透明ゾンビとして復活させ使役する。
1.あくまでもリンプ・ビズキットによって生み出されたものなので『世界』は使用できない。
2.同様の理由で吸血もできないと予想されるが、ゾンビの本能での『食らいたい衝動』はある。ただしDIO自身の精神力で抑制中。
3.原作の描写から、遺体が動いているわけではないが、透明DIOにダメージがあれば遺体にフィードバックする模様。つまり大統領が回収したDIOの遺体に変化がある。
4.リンプ・ビズキットに課せられた制限は『使役できる人数』のみ。ただし詳細は不明。
5.DIO自身はなかなかハイな状態。しかし尊敬するジョナサンの命令には(能力を抜きにしても)従うつもりなので、彼が死ねといえば喜んで自殺するだろう……
※C-2 カイロ市街地 北西にあった不明支給品(
シュガー・マウンテンの未開封の支給品)は、ベビー用品セットでした。
化粧品を除いたほとんどの品はC-3とD-3の境界線に放置されています。
※C-2 カイロ市街地 北西にあったデイパックを、承太郎たちが見つける以前に開いた何者かがいるようです。
【ベビー用品セット】
4部からの出展。
ジョセフ・ジョースターが透明の赤ちゃんを保護する一環で(仗助の私財で)購入したもの。総額136,870円(1999年当時)
乳母車、おむつ、おしゃぶり、哺乳瓶のほか、化粧品やサングラスもセットとなっている。
赤ちゃん用の化粧品というものは存在せず、肌への影響からも推奨されないが、『透明の赤ちゃんに買い与えたもの』として1つの支給品として扱う。
そもそもベビー用品と化粧品とでは扱ってる店が違うし、そうすると13万円以上使ってるんじゃあないか? とかも考えないものとする。
「まっいいかッ! 無駄づかいはしとらんしたかがベビー用品……たいした金額にはなっとらんじゃろ……」
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最終更新:2026年06月30日 23:51