「今日でひとまずこの世界ともお別れねぇ……」
守矢の山の神、八坂神奈子はどこかノスタルジックな表情を交えて夕焼けの空を仰いだ。
昔から愛してやまない地元の酒を大きめの盃でトクトクと注ぎ、ゆっくり味わうように口元へ注いでゆく。
普段ならばウワバミの如くもっと豪快な呑みっぷりを披露する彼女だが、今日ばかりはそんな気分ではない。
外の世界での最後の晩酌になるかもしれないその瞬間のひと口ひと口を、丁寧に味わっていく。
酒など何百何千と飲み干してきた彼女だが、やはり飲み慣れた地元の酒というのは格別に自分の舌に合うものだ。
極上の酔い心地に浸かっていると、横から細くしなやかな腕が猪口を持って伸びてきた。
神奈子はフッと微笑を浮かべ、それにも酒を注いで酌をしてやる。
「ありがと。…………でも、この空は“向こう”に行っても同じ空さ」
守矢の土着神、
洩矢諏訪子も郷愁を交えた表情で猪口に注がれた酒をクイとひと口仰ぐ。
その幼い外見には似合わぬどこか粋な雰囲気を纏う諏訪子とも、交わした杯の数は星の程。
大昔には色々と因縁もぶつけ合ってきたりした神奈子と諏訪子だが、現在はこうして酒を交わす程度には親交も深い。
家族、と言っても良いのだろうか。
神奈子は横の諏訪子に対して、そんな認識を傾ける。
遥か昔には曲がりなりにも本気で命を取り合った相手。
何がどうなって今に至るのか、その過程を思い出すのも今となっては無粋だ。
喧嘩だって日常茶飯事。だが少なくとも諏訪子には好意を抱いている。間違いなく。
(―――家族というよりは、友達なのかもしれないね)
さっぱりした性格の神奈子だったので昔の因縁などを今更持ち出したりはしない。
“友達”などという、自分にしてはやや女々しい単語ではあるが、諏訪子に対して使うのはまあやぶさかではなかった。
現にこうして今でも共に酒を酌み交わしているではないか。
間違いなく洩矢諏訪子は自分にとっての『友』なのだろう。
もうひとつ、空になった杯に酒を注ぐ。
「そうだね……この広大な星にも浮かぶ空はたったひとつ。
“あっち”に行っても同じ空の下で、私たちはこうやって同じ酒を呑むんだろうねぇ」
またひと口。
沈む夕日に照り返る神奈子の佳麗な唇へと酒が吸われてゆく。
二人が並んで座るのは守矢神社の屋根瓦の上。
黄金に輝き沈む太陽を眺めながら、じっくり酒と会話を交わしていく。
眼下には暁に染まりゆく見慣れた町並み。
果てなく昔より慣れ親しんできたこの町も、時代の波に呑まれ段々と都会化してきた。
神として永く見守ってきた土地だったが次第に人口は増え、それに伴って自然の風景も少なくなってきた。
そうして人間の技術革新は目を見張る速度で突き進み、人々は篤い信仰を忘れていった。
神である神奈子や諏訪子にとって、神々が信仰されなくなるというのはひとえに自身達の存在の消失に繋がる。
信仰を忘れ、科学や情報を頼り始めた人間は、彼らの叡智の結晶である『技術』を以ってして栄え始めた。
ほんの昔には、人間たちは不都合なことがあればすぐに神に泣きついてきたというのに。
作物が育たない。
疫病をなんとかしてくれ。
雨を降らして欲しい。
そんな我儘勝手な人間の祈りを神々はその度に成就させ、その報酬として信仰、崇められてきた。
土地によっては何と同属の人間の生命を贄として捧げられてきた習わしすらあった。
神と人。
それは片方が欠如すればもう片方もいずれは滅ぶような、危ういバランスの上に成り立っていた。
しかしそれも今は昔の関係。
ものの数百年で人間はいつしか神の力に頼らずとも、自分たちの力だけで問題ごとを解決してくるほどに進化したのだ。
それは神々には持ち得ない、『個』ではなく『集』の力。
永い歴史と多くの人たちの知や努力によって、人間は技術を物にし、進化させてきた。
気付けば神々の存在は書物やお話の中だけで完結していき、やがて忘れ去られた。
神奈子はしかし、神々が信仰されなくなる原因だとも言える人間の技術革新というものが嫌いにはなれなかった。
永く人々を見守ってきた神奈子だから、人間の『成長』を眺めていくのは楽しかったのだ。
人が自分たちの力だけで困難に立ち向かうようになったのであれば、それもまた善し。
もはや神などは前時代の遺物なのかもしれないとすら思えるようになってきた。
しかしだからといって、このまま自分らの存在が消失していくのを胡坐かいて待つわけにもいかない。
神奈子と諏訪子は、以前より講じていた『策』をとうとう決起することにした。
それは、まだ神々の存在が当たり前のように人々に信じられている幻想の土地へ赴くというものだった。
俄かには信じられないが、この日本にはまだそういった非常識な閉鎖空間があるとのこと。
神奈子と諏訪子の強引な神力によって、その世界へ守矢神社ごと引っ越そうというのだ。
そして赴いた先で、非常に平和的かつ親睦的営業で再び信仰を集めようという一計だった。
その一世一代の大掛かりな引越しを明日に控えた今日。
もはやこちらの世界に未練は残したつもりはない。
憂心があるとするなら―――、
「早苗は向こう行っても寂しがるだろうねー……。あの娘、まだまだ人生これからって年頃なのにさ」
「私たちがやろうとしていることは……あの娘から両親や友達を取り上げようって行為みたいなモンさ」
―――娘のように可愛がってきた早苗までもが、神奈子たちと共について来てくれるということだ。
これには神奈子たちも度肝を抜かれた。
本来ならばこれは神側である神奈子と諏訪子らの問題。
人間の、そのうえまだ少女である早苗までついてくる道理は無い。
向こうの土地に渡れば、もうこちらの世界に戻ってくることはないだろう。
たかが十と少しを生きただけの早苗には、辛い境遇になることは間違いない。
―――「それでも私は、神奈子様と諏訪子様に生涯を捧げたいのです」
困惑する神奈子たちに早苗は迷わずハッキリそう言い放った。
本気の眼だった。
早苗という少女は本気で今までの生活を捨て、神奈子らと共に在ることを決心したのだ。
便利な生活も、学校の友達も、血の繋がった家族とさえも別れ、全く未知の世界へ共に飛び込んでくれると。
早苗の覚悟が本気だと悟った神奈子たちは、精一杯の慈愛で彼女の頭を撫でてやった。
そして一言「ありがとう」とだけ言って感謝した。
「あの娘は表面では強がってはいるけど、本当は何処にでもいるようなありふれた女の子さ。
悲しまないワケがない。平気なワケがない。……私たちもとんだ罪作りな神様だ」
茜色を帯びた遠くの雲を見据え、むなしく零した。
杯の酒に映る自分の顔には、口元に自嘲めいた微笑を携えている。
「それは言わない約束って言われてるでしょ。神奈子らしくないねー。もしかして後悔してる?」
あっけらかんと諏訪子は言う。
後悔しているか、と言われたら……しているのかもしれない。
本来は糸を引かない性格である神奈子も今回ばかりは頭を抱えた。
自分はどうやらこと早苗に関してだけは甘い。諏訪子にもよく言われることだ。
「“こっち”と違って私たちには“向こう”の勝手が分からない。早苗からしたら不安でしかない筈さ。
そんなあの娘が気丈に笑顔で振舞ってるんだ。私たちがその意思を無下にしちゃあいけない」
「ようはちょっぴり後悔してんじゃん。あっははー神奈子お母さんもいい加減子離れしなきゃだねー!」
ケラケラと諏訪子はこちらを指差して笑う。
それに触発して神奈子が顔を紅くしてムキになる。
守矢の家ではありふれた日常。
そんな平和な日常は、新たな土地へと渡っても決して変貌することはないだろう。
早苗と神奈子と諏訪子。
3人の『家族の絆』は何よりも固く、優しい愛で溢れているのだから。
「―――神奈子様ぁーーーー諏訪子様ぁーーーーっ! お夕食の支度が整いましたぁーーーー!
降りてきてくださーーーーいっ!」
離れの社務所から早苗が元気よく声を張り上げてきて出てきた。
早苗の方は既に両親と夕食は済ませた筈だが、今日だけはもう一度神奈子らの晩酌に付き合ってくれるそうだ。
「最後の夜くらい家族と長く過ごしてあげたらどうだい」と神奈子は提案したが、早苗の方も「晩酌だけは!」と主張を譲らない。
これには神奈子たちも苦い笑みで折れるしかなかった。もっとも酌ならつい今しがた交わしたばかりだけども。
諏訪子が屋根からぴょんと身軽に降りる。
やれやれとばかりに神奈子は空の酒瓶を抱え、それに続いた。
敷石の上を神奈子と諏訪子と早苗は並んで歩く。
「ねえねえ神奈子はさー、向こうにあると思う? 『海』!」
「あー? あるわけないだろう、山奥の辺鄙な土地らしいし。
前から思ってたけどアンタ、カエルのクセに海で泳いで平気なの? ていうか向こうでも泳ぐ気?」
「ちっがーう! いや、違くはないけど!
もしあったら『また』3人で一緒に見に行こうねって話だよ!」
「いいですねー海。いつかの時は諏訪子様、はしゃぎまくって筋肉痛になったりしてましたもんねー」
「全く、神様が筋肉痛だなんて人様が聞いたらなんて思うだろうね」
「い、いいだろー別に! 神奈子こそ結構はしゃいでたクセに!」
「お二人とも喧嘩はやめてくださいよー、出発は明日なんですから。
……そうですねぇ。私はあっちでも少年ジャンプが見れればすごくありがたいんですけどねぇ」
「……早苗、それは流石に無理だよ」
「あはははっ、早苗らしくて良いじゃないか。
―――でも、そうだねえ。どんな場所なんだろうねぇ、“幻想郷”ってところは……」
3人はまだ見ぬ土地に想いを馳せる。
来る者全てを受け入れるという『幻想郷』は、この家族たちも聖母のように優しく受け入れてくれるのだろう。
その土地ならば、3人の『家族の絆』は永劫に守られるのだろう。
守矢が幻想郷へと渡る、つい1日前のありふれた出来事だった。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
『八坂神奈子』
【その日:朝】D-1 守矢神社
(――――――仕損じたッ! 仕損じたッ! 仕損じたッ! 仕損じたッ!! 仕損じたッ!!!)
家族の絆はその日、突然引き千切られた。
(出来なかった……ッ! あの娘を本気で、撃てなかった……ッ!)
純粋なる希望と、ありふれた願いと、ささやかな憧憬を望んで触れた幻想の世界は、
(私が、やらなきゃダメだったというのに……ッ! 私が……私が……私がッ!!)
いとも簡単に、彼女たちの理想を粉々に踏み潰した。
(私が早苗を……殺してあげなきゃダメだったのにッ!!)
幻想郷が彼女たちに与えたものは、信仰や幸福などではなく、
(―――殺せなかった……っ! 喪うことに恐怖して、しまった……っ!)
家族同士で殺し合う『殺戮遊戯』という、残虐で酷悪な悲劇だった。
「―――、ぁ……ここって…………ウチだ……」
考え得る限り、最悪の再会を果たしてしまった早苗との交錯から僅か後。
無秩序が支配するグチャグチャな意識のままに、ここまで歩いてきてしまった。
目の前には―――なんと皮肉なことか。
昔より慣れ親しんできた我が家……守矢神社の鳥居が蒼然とこちらを見下ろしていた。
意識して目指して来たわけではない。
ボロボロの肉体と、磨り減った精神状態のままにフラフラと辿り着いただけだ。
魂が導かれたのだろうか。
神奈子はその事実にさして疑問を抱かず、丁度良いとばかりに本殿へと潜り込んだ。
とにかく今は、消耗した身体を癒さなければ。
混濁した精神状態の中でも、道中で聴こえた放送の内容はしっかりと頭に入れておいた。
木造の床に腰を下ろし、名簿を取り出してぼんやりと印を付けていく。
この6時間で死んだ者は18人。神奈子自ら手を掛けたあの
プロシュートも勿論含まれている。
早苗の名は無く、何処かにいるであろう諏訪子の名も呼ばれなかった。
―――そのことに、心の底から安堵した。
直後に気付いた。
何故、安堵?
自分はついさっきまでその早苗を殺そうとした張本人ではなかったのか。
友である諏訪子の息の根を止めようと歩き回っていた筈ではないのか。
何で、安心したんだ。
私は、皆殺すつもりなんだぞ。
早苗も諏訪子も、遅かれ早かれ死ぬ。
それは既に決定された事実。
あの幻想郷最高神が下した『生贄選び』という儀式を根底から覆すことが不可能なら、
私はそれに倣って、従わなくちゃあならない。
何故ならそれが幻想郷の『しきたり』であり、
そこに住む者の『法』なのだから、だろう。
それを心で理解してしまった神奈子は、当然のように法に沿う。
実際のところ納得など出来ないし、愛する存在を手にかけることほど辛い出来事も無い。
しかし、神奈子は意識の奥にすり込まれてしまった。
儀式に“興じろ”と。
幻想に“同調しろ”と。
これが幻想郷でのルールだというのなら。
この世界の頂点がそう決めたのなら。
一柱である神奈子は溶け込むしかない。
だというのに、神奈子はあろうことか『安心』してしまった。
放送で早苗や諏訪子の名が呼ばれなかったことに「ああ良かった」と思ってしまった。
腹を括った筈なのに、どうして今更情などが湧き上がってくるのか。
だが神奈子は自分の内奥に潜む感情の正体をとうに見破っていた。
人であろうと神であろうと、どんな存在にだって『それ』はある筈だ。
―――人と人との『家族愛』。それだけは、どんな者にだって冒していい領域ではない。
誇りのため。家族のため。
それを守るために命を懸けるということは、美しき『気高さ』となる。
人も神も関係なく、家族を愛すという心だけはこの世でもっとも美しい『徳』なのだ。
その『徳』という気高さが、あの時神奈子の手を止めてしまった。
心にタガを掛けてしまった。
早苗たちと元の平和な家族に納まるということは―――もう決して来ないだろう。
それが分かってしまったからこそ、自分はこの儀式に溶け込んだというのに。
自分の中に迷いが生じているせいで、早苗は殺される。
自分があの時に殺せなかったせいで、早苗は殺される。
何処かの誰かの、吐き気を催すような『暴力』にあの娘は殺される。
そんなことが許されるわけがない。
そんなことを許して良いわけがない。
―――私たちの『家族愛』を引き裂くことが許されるのは、それはきっと私たち『家族』だけ。
故に私は早苗を殺す。諏訪子を殺す。
他の誰でもなく、この八坂神奈子だけがあの娘たちを殺す……!
誰にも邪魔はさせやしない。
例えあの最高神であろうと邪魔はさせるものか。
これは究極的には、私たち家族の問題となる!
ふと、殿内の仄暗い天井を見上げた。
シンと静寂な神社の敷地にいると、色々なことを思い出す。
「さな、え……………………」
愛する娘の名をそっと、小さく零す。
その名前は頭の中で何度も何度も反響し、神奈子の脳を痛烈に揺さぶり抉っていった。
愛する娘の名前。
愛する娘の表情。
愛する娘の仕草。
愛する娘の声。
瞳を閉じれば色褪せない思い出と共に、その全てが鮮明に蘇る。
あの幸せだった日々は、もう此処には無い。
家族が残した温もりも、香りも無い。
愛 夢 希望
しかし彼女たちと過ごした日々を、神奈子は決して忘れはしない。
既に心は決めた。
次だ。
次に逢った時こそ、本気で早苗を『救おう』。
この醜悪な儀式から、早苗を救ってやらなければ。
「―――救う。『殺す』、か…………………」
早苗は、今の自分の姿を見てどう思っただろうか。
あの時の早苗は泣いていた。
もしかしたら、私も泣いていたのかもしれない。
早苗の方も、次こそは私を本気で殺しにかかってくるのだろうか。
……無理だろう。あの娘は本当は強くなんかない。
家族である私を殺そうとするなんて、出来っこない。
―――『あの娘は表面では強がってはいるけど、本当は何処にでもいるようなありふれた女の子さ。
悲しまないワケがない。平気なワケがない。……私たちもとんだ罪作りな神様だ』
ついぞ昨日、諏訪子と交わした会話を思い出す。
その会話の意味も昨日と今日とでは、まるで違う意味のように感じる。
もはや手の届かないほど昔のことのように懐かしむが、たったの昨日話したばかりの内容なのだ。
それが今では信じられない。まさかこんな事になるなんて。
早苗を巻き込んでしまったことに、心底後悔してしまう。
果たして早苗は家族である私を殺すことができるのか。
子供は、死を理解していない。
人間が死ぬということは知っていてもそれがどういうことかわかっていない。
なんとなく自分も周りの人たちもいつまでも生きていると思っている。
そんな子供たちも、親しい人を失っていくうちに、理解していくことになる。
永遠などなかったのだ、ということを。
早苗は弱い。
強い表面を出そうとしているだけに、ひとたび殻が割れればその心は脆い。
そんな弱さを乗り越え、立ち上がることが出来るほどにこの儀式は温くない。
愛する家族を殺すために、己の精神を支配出来るほど強くない。
愛する家族を殺すために、自らの精神を知って理解出来るほど強くない。
愛する家族を殺すために、私の立場に身を置いて思考出来るほど強くない。
あの優しい娘には、強靭な意志と冷徹な思考を私に向けることなんて出来やしない。
もしあの娘が弱さを乗り越えて、私を冷静に、全力で殺しにかかることができた時……。
早苗は果たして早苗であり続けることができるのか。
早苗の姿をとっていながら、早苗でない、おぞましい何者かになってしまっているのではないか。
『弱さを乗り越える』ということは、
『愛する者を全力を以って殺しに掛かる』ことへの恐れさえ捨て去ることなのか。
それは今の私にも言えることだ。
もう己の弱さは捨てた。
あとは『その時』が来るのを待つだけだ。
いや、待ってばかりではいけない。
自分から立ち向かっていかねば、きっと早苗は他の誰かに殺されてしまうだろう。
それだけは、本当に嫌だ。
故に私は、家族を殺すのだ。
家族が家族を傷付けて幸せになれるのか。
いまあの娘は何を見ているのか。
何を感じているのか。
きっと同じ空の下で私を想っているのだろう。
人は人を愛さなければならない。
もしも私があの娘に殺されるのであれば、それは本望だ。
あの娘は親の愛に気が付かなくてはならない。
私を殺すことが出来た時、それがあの娘の人生の始まりとなる。
あの娘がこれからどのような大人になるのか。
それを眺めていくことが出来なくなってしまったのは、本当に残念だ。
諏訪子は、私と同じ考えをするだろうか。
……難しいかもしれない。アイツと早苗は正真正銘、血の通った同じ血族だ。
諏訪子もなんだかんだ言って、早苗には大層甘いのだから。
「やはり……早苗を手に掛けるなら、私が……ッ」
しかしそれよりも前に、諏訪子とも対峙するかもしれない。
その時が来れば……大昔の因縁に決着をつけるだけだ。
先に諏訪子を振り落としてしまえば、心に残った最後のわだかまりも霧消するかもしれない。
完全に吹っ切れる為の『儀式』だと思って、先に諏訪子を探すか。
なんにせよ、今は……疲れてしまった。
少しだけ、横になろう……。
ほんの少し、ほんの少しだけ、今は眠りたい。
人間の叡智であり、同時に殺戮の道具でもある技術革新の象徴。
その禍々しげなガトリング銃を肩から下ろし、倒れるように横になる。
人間の道具が好きな神奈子も、『コレ』だけは好きになれなかった。
やがて、静まった殿内に微かな寝息が聴こえ始めた。
彼女が見る夢は、幸せであった過去の日常か。
それとも、これから始まる地獄への前奏曲――プレリュード、か。
眠る彼女の頬には、一粒の雫が哀しげに伝っていた。
彼女の名を、八坂神奈子という。
一柱の神でありながら、
東風谷早苗の愛する家族であった。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
【D-1 守矢神社/朝】
【八坂神奈子@東方風神録】
[状態]:体力消費(大)、霊力消費(大)、右腕損傷、身体の各部損傷、早苗に対する深い愛情
[装備]:ガトリング銃@現実(残弾80%)、スタンドDISC「ビーチ・ボーイ」@ジョジョ第5部
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:主催者への捧げ物として恥じない戦いをする。
1:『愛する家族』として、早苗はいずれ殺す。…私がやらなければ。
2:洩矢諏訪子を探し、『あの時』の決着をつける。
3:力を使い過ぎた…今は休息が必要だ。
[備考]
※参戦時期は東方風神録、オープニング後です。
※参戦時期の関係で、幻想郷の面々の殆どと面識がありません。
東風谷早苗、洩矢諏訪子の他、彼女が知っている可能性があるのは、妖怪の山の住人、結界の管理者です。
(該当者は、
秋静葉、秋穣子、
河城にとり、射命丸文、
姫海棠はたて、
博麗霊夢、八雲紫、
八雲藍、橙)
最終更新:2015年08月30日 22:50