因幡てゐの人生観は、その永い妖生涯の黎明の頃より『自由に生きる』というものであった。
常に健康に気遣って生きてきた故の冥利か。
ある時、彼女は自分が気付いた時には既に妖怪兎として自覚し始めた。
それからの彼女の人生はというと、しばらくは大きく変わった事もなく、昨日と同じように生を謳歌するだけの毎日を送る。
食べるという行為が好きだった。
好き嫌いは多く我儘の彼女ではあったが、自身を長生きさせてくれる毎日の食事に感謝する礼節は忘れたことがない。
話すという行為が好きだった。
彼女が妖怪に転じて最も有難みを感じた能力は、仲間の兎以外の生き物とも会話を楽しめたことである。
歩くという行為が好きだった。
妖怪と化してグンと伸びた行動範囲は、様々な地方に赴きその土地を物見遊山するのに大きく役立った。
眠るという行為が好きだった。
明日へと憂鬱を残すことなく、流れる雲の様子を見ながら夢の世界へと飛び込むのはとても幸福なことだ。
もはや四季の移り変わりを数えるのも億劫になるほど永く生きた人生。
勿論トラブルや苦労も少なくはなかったけども、持ち前の狡賢さと幸運でその全てを乗り越えてきた。
自分が自分たる由縁とは『何物にも縛られず』、『常に楽しく自由に生きよう』という信念の下に存在する。
時には笑いながら人々へと悪戯を仕掛け、無意義な自己満足心を満腹にしてきた。
偶にやり過ぎて手痛いしっぺ返しを体験することもあるけども、反省の心など一晩経てば綺麗さっぱり霧消した。
『ストレス』は自分の人生には似合わない物だ。
健康の大敵にもなるそれを、てゐはなるべくのこと回避しながら生きる毎日を過ごす。
彼女の喜怒哀楽が激しいのは、そんなストレスを放出するためなのかもしれない。
おかげでこれまでの人生…因幡てゐはとてもハッピーに過ごしてきた。
そんな彼女の生き方は傍から見れば、不誠実、怪しからぬと非難を浴びるものではあったが、そんな声などなんのその。
自由に生きる彼女を止められる者など、この世にもあの世にもありえないしあってはならない。
地獄の最高裁定者である四季映姫ですら、因幡てゐの本質を正すことは出来なかったのだから。
自分がやりたいことは何をやったって気持ちが良い。
自分のやりたくないことからは全力で逃げる。
そんな『自由さ』こそがてゐの心にいつだって平穏をもたらしてきた。
―――『人にはそれぞれ定まった運命がある』と誰かが言った。
自分の自由な人生が誰かに敷かれたものだとはてゐは認めない。
ましてそれが明瞭不明の『運命』などという曖昧な概念によって決められているものだなんて。
自由を愛すてゐが、自由とは対極に位置するようなこの言葉を認めることは主義に反する。
だが、数え切れない齢を重ねたてゐもこの歳になってようやく噛み締めはじめることがある。
人は遅かれ早かれ、誰しもが足踏みをしたり遠回りをするもの。
しかし結局は自分の『向かうべき道を歩んでいくものだ』という事を。
ここに来ててゐは自分の運命についてようやく、嫌々ながらも、全く気は進まないが、正面から向き合うことを考え始めた。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
『因幡てゐ』
【朝】E-4 人間の里
虹村億泰の家前
さて、あの根暗メガネが意気揚々と出て行ってすぐ。
私はというと橙を引き連れて外に出た。
特に目的なんかありゃしないけど、何となくだ。外の空気が吸いたくなった。
「て~ゐ~…。ジョセフお兄さんを置いて何処に行くのさ~」
うっさいな。別に、そこまでだよ、そこまで。
そんな棘のある言葉で返そうとしたけど、振り向くのも面倒なのでイライラオーラを振り撒くことで返答した。
どうもさっきから私らしくない。
ストレスを溜め込むなんて健康にも良くないし、いつもみたいに悪戯で発散することも出来ない。橙に当たり散らすのも惨めだ。
イライラの捌け口として一番適している霖之助というサンドバッグもさっさと死地へ向かった。奴はどうやら自宅を死に場所に選んだらしい。
こうして私は感情の槌を何処に振り下ろすか決めるべく、あてなくフラフラしているという訳だ。
「……橙はさぁ、これからどうするわけ?」
「私は……ジョセフお兄さんに付いて行きたい。藍様を元の優しかった藍様に戻したい…!」
かァ~~! これだよ。
ジョセフに付いて行くってことの意味分かって言ってんの?
アイツは起きたらすぐにでもアンタの大好きな藍しゃまの所に殴り込むつもりだよ?
霖之助の九尾説得大作戦とやらが大失敗に終わる結果なんて目に見えてる。
まず! 確実に! 九割九分九厘! 戦いになる!
ジョセフならともかく、おチビちゃんの橙が付いて行って何の助けになるって言うのさ。
猫の手にもならないでしょ。猫のクセして。
そして私がそれに付いて行ったところで、兎の手にもならない。猫と同等だ。
ジョセフがあの凶悪九尾と戦う? それはそれは結構なことだ。
なんたって怖い危険人物を減らしてくれようってんだ。大賛成だよ。
私に出来る限りの事もやってやるさ。持てる幸運の全てをジョセフにくれてやっても良い。
どーせ幸運なんて物はその辺に転がってる小石みたいなもんだ。私には別段貴重なモンでもない。
「………おっ。『三つ葉のクローバー』じゃん。私にしては珍しい」
歩いていると道端に三つ葉のクローバーを発見した。
私からすりゃ四葉なんかよりも全然珍しいな、もはや。
「てゐ? どうするのそれ?」
「んー? 何知らないの? 三つ葉のクローバーだって『幸運』を象徴するんだよ。他にも『希望』とかね」
全く最近の若い奴らは幸運のアイテムといえばやれ四葉四葉だとかすぐはしゃぎだす。
ちょっと目を凝らしてみれば三つ葉も四葉も大して変わんない『吉』を秘めてるって分かんないかなあ。
ま。丁度いいな。
あのジョセフの今日のラッキーアイテムは『三つ葉のクローバー』。
私がそう決めたからそうなんだ。後でアイツのポケットにでも突っ込んどくか。
因みにラッキーカラーは『ホワイト』で、アンラッキーカラーは『レッド』。兎印のお墨付き鑑定だ。
必勝祈願に大根でも差し入れしてやるか。台所にあったらだけど。
……そんなわけで、私はこうして柵の外からアイツを応援するくらいしか出来ない。
っていうか当たり前だろ。私は戦いは基本専門外。幸運分けてあげるだけ頑張ってる方だ。
それでジョセフが負けたり死んだのならもう知らない。
私がそれ以上この因縁に介入する余地なんかありゃしないんだから。
「てゐー。そろそろ帰らないとジョセフお兄さんが……」
「あーーハイハイ分かってますよっと。モドレバイーンデショー モドレバー」
橙が不満げに催促してくるのでクローバー片手にUターン。
こうして私の意味も無い現実逃避タイムは終了。
もう後は野となれ山となれだ。出来るだけはやりました。
私はせめて、勝利の報告ぐらいなら待っててやってもいい。
……いやいや、私は行かないからな?
確かに霖之助の馬鹿たれやジョセフの戦いっぷりを見てちょっとは、ちょーーっとは刺激されたよ?
うん、白状するよしてやるよ。私は刺激されたんでしょーよアイツらに。
何を刺激されたって? 知るか。
兎に角、私の心の奥の、今はもう忘れてしまった『何か』がちょっとだけ蘇った気がするんだ。
もしかしたらアイツらなら(いや霖之助は無いな)このサイテーな異変をどうにかこうにか解決できるかもって思ってしまったんだ。
しまいには橙ですら一緒になってやる気が出てるときてる。
で? 私はといえばどうなのさ。
おうちでご飯作って勇者を待つお母さんの係だ。自分でもちょっぴり情けない。
精々の痩せた粋がりとして自分の能力をジョセフに使ってやってるけど、それだけだ。
ハッキリ言って怖い! 行きたくないんです! 悪い!?
多少は、ほんの少しだけはこの自分も頑張ってみようかな?とは思ったりもしてるよ。
でもわざわざ戦場の渦中に身を投げ打つなんて余程の強者かトチ狂った馬鹿野郎のする行いだ。
私はあくまで蚊帳の外から支援するくらいだ。このラインは絶対超えない。
ジョセフとか霖之助とかには感化されたりはしないからな。私は私の道を往かせてもらう。
誰にも自分のレールは変えさせない。私は『自由の兎』なんだ。
昔からそうしてきた。自分の生き様くらい自分で決めさせて欲しいね。
臆病兎と呼んでくれて結構。
兎に角! よーするに私は絶対!!
―――絶っ~~~~~~~~~~~~~~~対に戦わないッ!!!
「―――そこのお前たち。随分と隙だらけだがそんな調子じゃあ戦場ではあっという間にやられるぞ?」
――――――ッ!?
「な……ッ!? え、あっ……ど、『ドラゴンズ・ドリーム』!!」
本気でビビッた。
思わず反射的に、ついさっき手に入れた能力『ドラゴンズ・ドリーム』を出してしまった。
振り返ると同時、傍らに龍の守護霊を出し、似合わない攻撃の構えを作りながら謎の敵を迎え撃つ。
私たちに背後から近づいてきたのは図体のデカイ軍事服を着たオッサン。
なんだか只者ではない雰囲気を纏うソイツは、腕を組みながら余裕の表情でこっちを見下ろしている。
「……ムッ? 成るほど。そいつがあのウサギ女の言っていたスタンドとかいう人形か……。思ったより丸っこいようだが」
コイツ、スタンドを知ってる……!
どうする!? 私だってさっき手に入れた能力でまだろくすっぽ使いこなせない能力だぞ!
橙は……ダメだ! 毛を目いっぱい逆立てて威嚇してるつもりだろうが、足震えてるよ。
逃げ……ダメダメ! ジョセフの奴がこの家で寝てるんだ!
ここで私たちがコイツを食い止めないとアイツ殺されちまうじゃん!
「フム……。この古臭い家に誰か仲間がいるのか? お前ら、無意識に玄関を守ろうとしてるようだが」
ゲェーッ! ば、バレた!
く、クソォ……! もう、破れかぶれだ! やるしかないじゃんか!
わ、わわ私が何とか撃退して、アイツ守ってやらないと……ッ!
『希望』を、失ってしまう!
「か、か……………かかって来なさいこの、デカブツスカタン野郎ッ!!!!」
「ジョ……ジョセフお兄さんには、ゆ……指一本触れさせないもんッ!!」
言った……言ってしまった……。
喧嘩口上、フッかけちゃった……やるしかなくなっちゃった……。
の、能力……! ドラゴンズ・ドリームの能力……!
あーもうすっごいややこしかったんだコレ! 確か、『風水』……!
こ、『殺しの方角』から入って……いや、まずは安全な方角を見極めて……ッ!
「おい」
やる……! やってやる、コイツを倒してやる!
せめて動けないアイツを私が守らなきゃ……!
「おい…聞いているのか」
私だってそれぐらいやらないと、霖之助に笑われるし……!
追い詰められた兎の……牙ってやつを、見せつけてやるよ!
妖怪兎、なめんじゃ――――――
「―――聞かんかァァァアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッ!!!!!!」
「!!?!?!??!?」
――――――――――――――――――え な、なに……?
思わず自分の長い耳を塞いだ。
隣の橙も涙目で猫耳に手を押し当てている。
「………フゥーーー。ようやく聞く気になったか、この小娘共が」
……なにィ? よりによってたかだか人間如きに(だよね?)小娘扱いされるとは屈辱だ。
何を聞いて欲しいのか知らないけど、随分上からの物言いじゃないの。この若造めが。
「そんなに構えんでも俺に戦う気なんかありゃあせんわッ!
やれやれ探したぞ、ウサギ耳の女……『因幡てゐ』だったか?」
「……………………えゐ?」
マヌケな声を出したと思う。
兎の牙とやらもどこへやら。私の緊張の糸は一瞬にして途切れた。
「全く鈴仙といい、ウサギってのはどいつもこいつも人の話を聞かん連中なのか? なんのための長い耳だ?
お前、てゐとやら。……『
八意永琳』からお前の事は聞いている。ひとまずそのスタンドとかいうのを引っ込めろ」
「……あ、え……? お、お師匠様が……?」
糸が切れたようにぺたりと座り込む、というよりかは腰が抜けた。
八意永琳。その名前を聞いただけで私の心にはこれ以上ない安堵が五臓六腑に染み渡る。
それに『戦わなくていい』という、その事実が何より安心した。
そして直後に、自分の行動が信じられなかった。
私は今、何をしようとしていたんだ?
コイツと『戦おうと』して。
ジョセフを『守ろうと』していたのか?
……おいおい。馬鹿か私は。
つい今の今まで「戦いたくない!」つって逃げ腰マンマンだったのは誰よ。
何やる気出しちゃってるの。逃げなよ、脱兎の如く。
大事なのは自分の命でしょ。ジョセフなんかどうだっていいじゃん。
どうしちゃったってのよ、私は。
額にはいつの間にか、びっしょりと汗をかいている。
私は鬱陶しげに、ただただ気だるい気持ちでそれを拭った。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
「おうジョジョ。相変わらず無駄に元気そうだな。このシュトロハイム、死ぬほどお前に会いたかったぜ」
「ブァ~カ! 元気なわけあるか、コッチは撃たれてんだぜ。サイボーグ野郎のお前とは身体の作りが違うの! わかるゥ?」
「あ………そう、だよね。痛かったよね……本当にゴメンなさい、ジョセフお兄さん……」
「あ、あーー……いやいや、それは違うぜ橙。お前はワルくねー。ワリーのはお前に命令した藍様だぜ」
「クッ……ブァッハッハッハッハーーーーーッ! 何だジョジョおい! 少し見ない間に子供まで誑かすようになったか!」
「ンなわけあるかァーーーッ!! てめーシュトロハイム! 俺を馬鹿にしに来たってんなら今すぐ帰りやがれッ!」
なんだ元気じゃん、と私は度々呆れの溜息を吐いた。
霖之助との愛ある看護が効果を成したのか、私たち3人が家の寝室に戻るとジョセフは既に起き上がっていた。
この喧しいデカブツのシュトロハイム曰く、ジョセフとはどうやら並々ならぬ因縁があるらしい。
そんな因縁なんか知ったこっちゃないが成る程、確かに仲は良さそうに見える。
正直な所、コイツの傲慢そうな性格からいって話す内容は半信半疑ではあった。
しかしまぁ、これで頼りになる仲間が一人増えたってところじゃないの。
私はコイツ、苦手なタイプだけど。
「……それで、だ。ジョジョよ。シーザーのことだが……」
「………あぁ。放送なら、何となく聴こえてた。夢の中でな……」
ストレッチなんかしながら、ジョセフは言う。
その瞳は……強く見せてはいるけど、哀しげで泣いているように見えた。
シーザーってのは確か、放送で呼ばれた名前。
このフザけたひょうきん者が、強く情を寄せるような相手だったのかね。
「アイツは……シーザーは、またしても俺の居ない所で戦って、勝手に死んじまった。……それが俺には何となく分かる」
「……それでどうする。奴を殺した相手を捜して仇討でもするか?」
「……なんせ『2回目』だ。もう涙すら枯れちまったよ。
今すぐアイツを殺ったクソ野郎を捜してブチのめしてーが、今の俺は気丈に振るわなきゃならねー。
俺には俺のやるべきことがある。……シーザーの奴ならそれを分かってくれるだろうさ。
それが俺の貫き通す『仁』てやつなんだろーよ」
どうしてコイツはそんなに色々背負ってられるんだ、と思う。
話を聞いてりゃ、シーザーとかいう奴とジョセフは親友かなんかだったらしい。
その大好きな親友の仇を置いてでも、橙を救うつもりなのか?
橙に泣いてお願いされたから、
八雲藍をこれからブッ飛ばすなり説得なりをしようというのか。
自分が死ぬかもしれないのに? 馬鹿か。
思えば
古明地こいしに対してもコイツはそうだった。
単に『優しい』って言葉だけで片付けるには、何かが違う。根本的に。
何故他人に対してそこまで真剣になってくれる? 怒ってくれる?
少しくらい弱音吐いたって誰も責めやしないだろうに。
そんなんだから橙にも、霖之助にも、……私からも期待されるんだよ。
わからないよ。全然理解できない。
コイツは一体、なんなんだ。
「フンッ! 貴様のしけたツラなど見たくないわッ!
だがお前の『やるべきこと』とやら、この俺も見届けようッ!
大体の話はこの娘っこ共から聞いた。標的は『八雲藍』とかいう妖の女だな」
「ほ、ほんとっ!? おじさんも藍様を元に戻してくれるのっ!?」
「あーん? お前も来るのかよシュトロハイム? そりゃお前は結構頼りになる奴だけどよォー」
「あったり前だろォォがァーーバカモンッ!!
いいかッ! 万が一お前に何かあってみろッ! 一体だァーーれがあの凶悪柱の男四人衆を倒すのだッ!?
俺に全部相手にしろっていうのかッ!!」
「ボクちゃんは全部ひとりでブッ飛ばしたんだがなァーーーシュトちゃんよーーー。
それに
リサリサだっているでしょーがよォ~~あの鬼教師のオバハンがさぁ~~」
さっきこのシュトロハイムからチラリと聞いた話だ。
柱の男とかいう化け物集団“
サンタナ”“
エシディシ”“
ワムウ”そして“
カーズ”。
聞いてるだけで冷や汗が出るような不気味超人変態一族らしい。絶対関わりたくない。
しかしそいつらを一人でやっつけただって? このジョセフが? マジ?
「待てぇぇいッ! おいジョジョ! 柱の男4人を全部ひとりでやっつけたァ~~~?
俺はお前が以前、サンタナとエシディシを倒したというのは報告で聞いたが他の2人まで倒したとは聞いとらんぞッ!」
「ハァ? おいおい機械化の弊害で脳みそまでポンコツになっちまったのかァ~?
お前たちナチ公は俺がワムウを倒した現場に直接やって来たんだろォーが!
っていうか、俺とお前が協力してカーズをマグマに叩き落して倒したんじゃねーかッ! この会場に連れられる前に!」
「待て待て待てぇぇぇええええいッ!!! さっきからお前、何を言っておるのだッ!?
俺たちが会場に連れられる前はスイス国境の山小屋に居たろォーが!」
「いやいやいやいつの話をしてんのよシュトロハイムくゥ~~~んッ!?
その調子じゃあ脳みその修理は終わってねえみたいだな! オイルは足りてるか? 植物油でいいならあるけどよォ!」
「俺を機械と一緒にするなァァァーーーーッ!!! 大体何だ貴様のその顔はッ!!
それはアメリカで流行のメイクかなんかか、ンンーーーーッ?」
「機械じゃねーかッ!!! ………って、あン?
ゲッ! なんじゃこりゃアーーーーーッ!?!?」
しまった落書きがバレた! …そりゃそうか。
しかも話が変な方向に曲がり始めたぞ。
どうも二人とも会話が噛み合ってないみたいだけど。
見ろ。橙もどうしていいかわからずオドオドしてるじゃん。
仕方ないから私が舵取り役になってあげるか。気は進まないけど。
「はいはいストップストーーーーップ!!
ちょっと落ち着きなよ2人とも。私たちまだ状況整理も出来てないだろ。
少し座って、順番に話そうよ」
ぱんぱんと手を叩いて2匹の暴れ馬を落ち着かせる。
私だって分かんないことだらけなんだから、あんま手を煩わせんなよ。
「あーー……そうだったな、すまねえ。
えーと……ところでアンタ、どちらさん? それにもうひとりメガネの兄ちゃんがいなかったっけ?」
……てめえ、あたしゃアンタの命の恩人だぞ。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
ジョセフが顔の落書きを洗い流したあと、私たち4人は円卓を囲み互いに持てる情報を出しあった。
シュトロハイムの語った鈴仙復讐ひとり旅にも仰天したけど、それ以上におったまげたのは参加者間の『時間のズレ』だ。
ジョセフが空の星となった神父から聞いた話によると、アイツはジョセフの『未来』を知っていたらしい。
それは未来予知だとか頭のイカレた戯言だとかではなく、どうやら真に迫った迫力を備えていたとか。
そもそも名簿に死んでいるはずの参加者が羅列している時点でおかしい。
シーザーや柱の男は生き返ったのではなく、死ぬ前の『過去』から主催者に連れて来られたのでは。
それが私たち4人が出した、漫画みたいな話の最終見解だった。
んなアホな。
そう言いたかったし、実際言ってやった。
でもそのアホみたいな話を否定できるほどの材料だって持ち合わせてない。
私は渋々、お師匠様に悪戯を咎められたような不満げな表情を作って口を閉じた。
幻想郷でも過去類を見ない、解決難易度SSS+級のミッション・インポッシブルだ。助けてくれ霊夢。
「―――さってと。んじゃあ行くとすっか」
程なくジョセフが立ち上がった。
何処へ行くって? そんなこと分かりきってる。
霖之助のアホがここを出てから20分経つ。
あの貧弱メガネがそろそろ九尾の朝メシになってるかな?って時間だ。
多分、説得は無理だろう。逆に九尾に説得されてたりしてね。
「……アンタ達も八雲藍の説得に向かうつもり?」
一応は聞いてみたが、この破天荒男にそんな消極的な行動は期待できない。
「説得出来るようなら最初からゲームなんか乗らねーだろ。
まず、橙を泣かせた『仕置き』をしてやる! 話はそっからだぜ」
概ねその通りだ。いやいや全く正論。
んなこたァ私にもわかる。どう考えても説得なんて選択肢は地雷だ。
それを何故だかあのメガネは自信満々だったけど。
「橙は良いの? コイツ、アンタのご主人様をブッ飛ばそうとしてるよ」
「……本当は嫌、だけど……それでも私は行くよ。ジョセフお兄さんについて行く」
……なんなのさ。
どうして霖之助も、橙も、皆そんなに前見て歩けるのよ。
どうして私だけが、こんなにも惨めな気持ちになるのよ……。
「……橙。アンタ、霖之助についてくるなって言われてなかったっけ?」
霖之助の弁では、対等なリソースとなる情報を渡し得る人物を増やしたくないらしい。
橙まで来れば霖之助の存在はあの狐にとって不要。豊かな情報源も二人と要らないとのこと。
「でも、私だって藍様ともう一度お話したいから……。いつもの優しい藍様が見たいから……」
「橙もついでに霖之助とかいうメガネ君も、殺させはしねーよ。
それに万が一つに説得の可能性があるってんなら、それはやっぱり橙ぐれーしか見込みねーからな」
それか
八雲紫だろうね。
ったく、あの胡散臭いスキマ妖怪も、自分の式が2人とも大変なことになってんだからさっさと助けに来れば話は早いのに。
まさかあの大妖怪に限って既に誰かにやっつけられちゃったなんてことはあるまい。
「ジョジョよ。もし戦闘になれば俺もお前に協力してやらんこともないが、策はあるんだろうな?」
「誰に向かって言ってんの? 愚問だぜシュトロハイム。
俺はいつだって兵法書の『孫子』に従う。勝利の確信があるから戦いに出向くってわけよ」
本当かなぁ。
ジョセフが凄い奴だってのはもう分かってるけど、今度の敵はあの策士の九尾だぞ?
付け焼刃で脳みそ膨らませたさっきの馬鹿妖精とは根本的に格が違う。
正真正銘の『大妖』だ。人間が普通に戦っても勝てやしないんだから。
「……それで、てゐはどうする? 俺達と来るか?」
ジョセフが荷物の確認をしながら、そんなわかりきったことを聞いてきた。
―――わかり、きったこと。
そのはずなのに。
自分から戦いの渦中に突っ込むのは馬鹿のすること。
そう、思ってたじゃない。
何を、言葉に詰まってるんだ私は。
もう充分頑張ったろ。能力だって惜しみなくジョセフに使ってやった。
後は臆病兎に出来ることなんて無いだろ。
―――『僕に何が出来るか…それはまだ見当も付かない。分からないから…抗う価値もあるというものさ』
唐突に、かつての霖之助の言葉が脳裏に浮かんだ。
達観したような、悲劇のヒーローにでもなったつもりの台詞。
思い出したらまたムカついてきたので、私はそのあやふやな気持ちを振り払うようにジョセフの誘いを拒絶した。
つまりは『ここに残る』、と。
「……そーかい。じゃ、また『後で』な。それと、治療してくれてありがとうよ」
そう言ったきり、ジョセフは背を向けて行ってしまった。結構あっさりと。
橙も一度だけこっちを振り返ったけど、すぐにパタパタとジョセフの後ろについていく。
「……八意永琳の連絡先は確かに伝えたぞ。奴もお前を心配しているようだった。……達者でな」
最後にシュトロハイムもそう言い残して出て行き、とうとう私は独りきりになった。
一気に、この家が広く感じた。
自然と浮かび出た笑みは、誰への皮肉なのか。
兎は寂しいと死ぬ、だなんて迷信は一体誰が広めたんだろう。
兎側からすれば全く迷惑なデマだ。兎はむしろ本来は孤独な生物だというのに。
どうして独りが、こんなにも寂しいと感じるのか。
私は。
私にだって。
「あ…………電話……」
そうだ。お師匠様が、私を待ってくれている。
そうだよ。どうして今まで考えつかなかったのさ。
あの無敵の賢人なら。
頭の良いお師匠様なら。
事情を話せばきっとすぐに良い解決策を導き出してくれる。
私の助けになってくれる。
私はすぐに電話を探して、受話器をとった。
そして番号を押そうと指を掛けて――――――そこで止まった。
お師匠様に電話して、どうするんだ?
知り合いがみんな殺されるかもしれません。どうか知恵を貸してください。
そう、頼み込むつもりか?
私は師匠の性格くらい、少なからず理解してる。
お師匠様は優しい。意外と献身的なところがある人だ。
そして、それと同じくらいには冷たい部分がある。
私が危ないことに足を突っ込もうとしていると分かれば、迷わず身を引けと忠言してくれるだろう。
そんなつまらないことで命を落としてどうする。
悪いことは言わないからやめておきなさい、と。
淡々と、冷徹にそう言ってくれる。
そこがお師匠様の冷たいところであり、優しいところでもあるんだ。
感情よりも理性で判断できるっていうか。
粛々と私の身だけを案じてくれるだろう。
とにかく断言できる。
今ここでお師匠様に電話しても、八雲藍討伐及び説得に関しては無益な結果にしかならないということが。
それどころか、今すぐ合流の命が飛ぶことだろう。
そうなれば今後ジョセフたちと再会することすら叶わないかもしれない。
「―――いや、何言ってんだ私は……っ」
またもや自分の考えが信じられなかった。
お師匠様や姫様との合流は本来、一番に成すべき優先事項の筈だろう。
それを差し置いて、何を私はジョセフたちのことを気にしてなきゃならないってのさ?
くどいけども、私は出来る限りのことはやったじゃん。
後は向こうが勝手に異変の解決に向けてどうにかやってくれるでしょう。
お師匠様たちと合流できれば、身の安全は更に確実なものとなる。万々歳だ。
だから私のここからの行動として正しいのは、やっぱりお師匠様たちとの合流でありジョセフ達は二の次三の次の筈だろう。
―――『ジャアヨー、ドウシテお前さんはオレのDISCを差シタンダイ?』
……いつの間にか私の『中立』のスタンドが話し掛けてきた。
『アノ軍人のオッサント出会ッタ時ダッテソーサ。
アノ時のお前さんはジョセフを守ロウトしてたんじゃネーノ?』
ペラペラとうるさい奴だ。
そうよ。悔しいけど、アンタの言ってる通りよ。
私はあの時、無意識にもジョセフを守ろうと動いた。
動いてしまった。
今でもその感情の正体が分から―――
『―――ワカンネー、トデモ言うツモリカ?
言い訳ニモナッテナイネェー。ホントは分カッテルクセにヨー』
うるさい。
『DISCで生ミ出シタトハイエ、オレダッテお前さんの心の具現ナノヨー?
お前さんが何を考えているカ、手ニ取ルヨウに分カッチマウゼー』
うるさい……っ
『……オレの前のご主人サマはヨォー、死ヌ前に願ッタンダ。
正シイ心ヲ持つ者の元に、コノDISCが届クヨウにッテヨー。
主催者をブッ飛バスためへの、イチカバチカの大博打ッテ言ッテヨォー』
「うるさいってのよッ!!!! 分かってるわよ、私にだってッ!!!!」
叫ばずにはいられなかった。
本当は最初から全部、理解していた。
私が霖之助に嫉妬しているってことが。
私が橙を羨ましく思ってることが。
私がジョセフのようになりたいってことが。
そんな馬鹿馬鹿しくて、浅はかな思いが心のどこかで燻ってるってことが。
でも、素直になれなくて。
勇気が出せなくて。
だって私は臆病だから。
自分が第一だって、ズルく考えてるから。
そんな自分が誰かのために戦おうだなんて。
全く、滑稽で馬鹿げた話。
でも、『フクロウ』が私の元に飛んできて。
それに触れた途端、何となく感じてしまったから。
何処かの誰かの、儚くも強い『決意』みたいなものが。
だから、このDISCを使った。
こんな自分でも、誰かの役に立てるのなら。
少しぐらい、頑張ってみようかな……って。
『オレは中立ダカラヨォ~~、オマエに頑張レとか言ワネェーケドヨォ~~……
モー少しぐらい、自分に素直にナッテモイインジャネーノカナー』
マ、言イテェーコトはソレダケだよ。
ドラゴンはそれだけ言って、さっさと消えてしまった。
本当に、何て勝手な、奴。
「……あ~~~~、もう……ッ!
それもこれも全部霖之助が妙にはりきるから、私までおかしくなっちゃったんじゃない……ッ」
半ば八つ当たり。
憤慨のような気持ちで、もはやヤケクソといっても良かった。
でも。
「~~~~~~ッ! た、戦わないからね……ッ! 私は絶対……ッ!」
少しだけ勇気を出してみた私の顔は。
どこか、スッキリしていたのかもしれない。
私はそんな表情を浮かべながら受話器を置き、外へと踏み出した。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
【E-4 人間の里 虹村億泰の家/朝】
【因幡てゐ@東方永夜抄】
[状態]:健康
[装備]:閃光手榴弾×1@現実、スタンドDISC「ドラゴンズ・ドリーム」@ジョジョ第6部
[道具]:ジャンクスタンドDISCセット1、基本支給品、他(コンビニで手に入る物品少量)
[思考・状況]
基本行動方針:死にたくないので、異変を解決しよう。
1:……皆のとこまで行ってみるかぁ。た、戦わないけど!
2:こーりんがムカつくから、ギャフンと言わせる。
3:お師匠様には後で電話しよう。
4:暇が出来たら、コロッセオの真実の口の仕掛けを調べに行く。
[備考]
※参戦時期は少なくとも永夜抄終了後、制限の度合いは後の書き手さんにお任せします。
【
ジョセフ・ジョースター@第2部 戦闘潮流】
[状態]:体力消費(小)、胸部と背中の銃創箇所に火傷(完全止血&手当済み)、DIOとプッチと八雲藍に激しい怒り、てゐの幸運
[装備]:アリスの魔法人形@東方妖々夢、金属バット@現実
[道具]:基本支給品、毛糸玉@現地調達、綿@現地調達、植物油@現地調達果物ナイフ@現地調達(人形に装備)、小麦粉@現地調達
三つ葉のクローバー@現地調達
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
1:待ち合わせ場所『香霖堂』に乗り込んで八雲藍をブッ飛ばすッ!
2:こいし、
チルノの心を救い出したい。そのためにDIOとプッチもブッ飛ばすッ!
3:シーザーの仇も取りたい。そいつもブッ飛ばすッ!
[備考]
※東方家から毛糸玉、綿、植物油、果物ナイフなど、様々な日用品を調達しました。
この他にもまだ色々くすねているかもしれません。
※因幡てゐから最大限の祝福を受けました。
※ポケットに入っている三つ葉のクローバーには気付いていません。
【橙@東方妖々夢】
[状態]:精神疲労(小)、藍への恐怖と少しの反抗心、ジョセフへの依存心と罪悪感、指先にあかぎれ
[装備]:焼夷手榴弾×3@現実、マジックペン@現地調達
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:ジョセフを信頼してついていく
1:藍様を元の優しい主に戻したい。
[備考]
※参戦時期は後続の書き手の方に任せます。
※八雲藍に絶対的な恐怖を覚えていますが、何とかして優しかった頃の八雲藍に戻したいとも考えています。
※ジョセフの波紋を魔法か妖術か何かと思っています。
※ジョセフに対して信頼の心が芽生え始めています。
※マジックペンを怪我を治す為の道具だと思っています。
【
ルドル・フォン・シュトロハイム@第2部 戦闘潮流】
[状態]:永琳への畏怖(小)
[装備]:ゲルマン民族の最高知能の結晶であり誇りである肉体
[道具]:蓬莱の薬、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:ドイツ軍人の誇りにかけて主催者を打倒する。
1:ジョセフと共に行動し、ひとまず八雲藍の沈静化を図る。
2:リサリサの捜索と合流。次に
蓬莱山輝夜、
藤原妹紅の捜索。その他主催に立ち向かう意思を持つ勇敢な参加者を集める。
3:殺し合いに乗っている者に一切の容赦はしない。特に柱の男及び吸血鬼は最優先で始末する。
4:蓬莱の薬は祖国へ持って帰る。出来ればサンプルだけでも。
5:
ディアボロ及びスタンド使いは警戒する。
6:ガンマン風の男(
ホル・ホース)、
姫海棠はたてという女を捜す。とはいえ優先順位は低い。
[備考]
※参戦時期はスイスでの赤石奪取後、山小屋でカーズに襲撃される直前です。
※ジョースターやツェペリの名を持つ者が複数名いることに気付いていますが、あまり気にしていないようです。
※輝夜、鈴仙、てゐ、妹紅、ディアボロについての情報と、弾幕についての知識をある程度得ました。
※蓬莱の薬の器には永琳が引いた目盛りあり。
※また4人全員が参加者間の『時間のズレ』の可能性に気付きました。
○支給品説明
<三つ葉のクローバー@現地調達>
幸運の素兎、因幡てゐが人間の里で見つけた何の変哲も無い三つ葉のクローバー。
四葉のクローバーは幸運の象徴として有名だが、実は三つ葉も幸運や希望の象徴である。
てゐにとっては四葉よりも三つ葉の方が珍しいらしい。
持っていると良いことがあるかも?
最終更新:2016年01月14日 20:10