霊夢は、廃洋館の玄関近くにうつ伏せになって倒れていた。
意識を取り戻した霊夢が周囲を探ろうと首を動かそうとしたところで、身体の異常に気付いた。
(……刀を落とした上に右肩が外れてる……おまけに酷い筋肉痛だわ。
どうやらあの男に出し抜かれたみたいね。
あの『ワンちゃん』残念ながら、知能まで犬並みだったってことか)
霊夢の支給品である刀には、魂の力・『スタンド』が宿っていた。
スタンドの名は『アヌビス神』。
墓所を守護する狗頭の神の名を冠された、そのスタンドの能力は大まかに3つ。
1.物体を透過する能力。
2.戦った相手のパワー・スピード・技を学習する能力。
3.刀身や柄に触れた者の精神を支配し、操る能力。
このうち、1番と2番の能力については先ほどの戦闘で示された通り。
咲夜のガードをすり抜けて脇腹を貫き、『星の白金』と互角以上の打ち合いを演じた上、
時間停止にも対応して見せたのが、それである。
3番の能力。これは霊夢には通用しなかった。彼女の持つ『空を飛ぶ程度の能力』のお陰だ。
如何なる重圧も、力による脅しも、彼女には全く通用しない。
故に『アヌビス神』の干渉も、彼女の許す時以外は全く受け付けないのだ。
(殴られざまに身体の主導権を奪い返して『封魔陣』を叩き込んでやったはいいけど、
あの『スタンド』とやらにはどこまで通用するのかしらね)
つまり霊夢は……自分の意志で殺し合いに乗っていたのだ。
あの男に、『太田順也』に……霊夢は気付いてしまった……
世界の『創造者』たる存在に『殺し合え』と命じられてしまった。
刷り込まれたように、当たり前の様に、
世界の管理者である彼女は優勝を目指して、自ら殺戮に身を投じたのだった。
最初に遭遇すると予感していた
十六夜咲夜は、
事前に対策を打っていたこともあって難なく戦闘不能に追い込んだ。
狙い通り、完全に制御下に置いた妖刀『アヌビス神』に
『止まった時の中での攻撃』を学習させることにも成功した。
咲夜の救援に現れた新手の『スタンド使い』は、霊夢の予想を遥かに超えた強敵だった。
アヌビス神から話に聞いていた通りの強力なスタンド・『星の白金』に、冷静な判断力と、
強力な支給品『ミニ八卦炉』、……極め付けに、咲夜と同じタイプの能力『時間停止』まで獲得していた。
何とか痛み分けの形に持ち込む事はできたものの、右肩を脱臼する重傷を負った上、
スタンドであるアヌビス神の能力を最大限に発動し、『夢想天生』、『封魔陣』と強力なスペルカードを
立て続けに使用したせいで霊力・体力を大きく消耗してしまった。
ゲーム開始からまだ2時間余り、戦うべき相手はまだ9割以上残っているのに、この消耗はあまりに大きい。
それでも、『創造者』に刷り込まれた意志……異変解決モードの、
幻想郷のシステムの一部と化した霊夢の思考は冷静だった。
(正直、手痛いダメージを負ってしまったけど……
ここで、この状況でこの男と遭遇出来たのは幸運かもしれないわね。
この男は『アヌビス神』のことを知っている……アヌビス神が人を操る妖刀であることを知っている……)
アヌビス神を失ったこのタイミングで、『殺し合いに乗る意志が無く、刀に操られていた』フリをすれば
正義感が強いと聞くこの男に同行できるかもしれない。
そうすれば保護を受けて体力を回復したり、未知の強敵に相対した際に共闘したり捨て駒にすることができる。
面倒なら不意を突いてさっさと殺害してしまっても良い。
(とにかくここは……しばらく大人しく『倒れたフリ』をしていましょ。
……封魔陣がどの程度効いたかにもよるけど……しばらく様子を見た方が良いわね)
霊夢は拾っていたナイフを白いネグリジェの袖に一本忍ばせ、
しばらく動けないフリをして男の復帰を待つことにしたのだった。
男は、廃洋館の角のすぐ近くで大の字に倒れていた。
(今のは……『スタンド攻撃』それとも、ジジイの使う『波紋』か……
……すげえ光の割にケガは無えみてーだが……)
男の忌々しげな視線の先は右手の甲、霊夢の執念の反撃の跡があった。
(身体が、殆ど動かねぇ……。感覚は残っているようだが……。
スタンドも出せねぇ。この『お札』のせいか……。
チッ、『スタンド使い』が『悪霊憑き』ってのはあながち間違いでもなかったらしいな……)
(あの赤リボンの女も動けねぇか……息はしてるみてーだが……
『アヌビス神』からはどーにか引き離したが……
妖刀の魔力に操られるまでもなく、殺し合いに乗っているということも十分にありうる……
木立の中にすっ飛んで行った『アヌビス神』も早いトコ始末しねぇとマズイ……
刀に刺されてた方の、女中風の女も……早く手当てしてやらねえと……)
男はその強靭な精神力でもって再び身体を動かそうとする。
……努力の甲斐あって、遂に男は左手を右手の甲に持っていくことに成功した。
そのまま左手でお札に触れようとするが、高圧電流のようなスパークと斥力によって阻まれてしまう。
(クソッ……まさに『悪霊封じ』のお札という訳か)
その時、男の右手を柔らかくすべすべしたものが触れる感触があった。
……女の手だ。
男が懸命に首を向けると、『女中風の女』が這うようにして廃洋館の陰から手を伸ばしてくるのが見えた。
「『お札』に、やられたのですね?」
女は小声でそう話しかけてきた。
青いエプロンドレスの背中には、大きな血の跡が滲んでいる。
「少々痛みますが……我慢して下さい」
「何をする気……だ」
男が問いかける間に、すでに『治療』は終了していた。
女の手には、ナイフと血の付いたお札が握られている。
突如男の右手に鋭い痛みが走り……思わず腕がビクリと跳ねる。
男の身体の自由が、戻っていた。
「時を止めて……その間にナイフで皮膚ごとひっぺがしたのか」
「動けるようになったみたいですね。
右手……ごめんなさい。もう少し上手くできれば良かったのですが」
「あんたに比べれば、だいぶマシだ……ケガ人が無茶しやがるぜ」
女の手には熱湯を浴びたように、いくつもの水ぶくれができていた。
止まった時間の中で無理矢理お札を引き剥がそうとしたためだろう。
「ともかく、ありがとうよ……」
(しかし、『時を止める』能力を持った女……か。
スタンド像こそ確認できてねえが、俺の『星の白金』や、
カイロで確かに灰にしたハズのDIOのヤローの『世界』と同じタイプの能力だ……)
(死人といえば、花京院はDIOに殺されたハズだが、なぜここに名前が載っている?
DIOの手下のヴァニラアイスも、ポルナレフたちが確かに仕留めたハズだ……。
俺のひいひいじいちゃんの
ジョナサン・ジョースターも、DIOの首から下になってたんじゃなかったのか?
あの二人がまとめて生き返らせて呼び出したとでもいうのか?
……だが、現に破壊したハズの『アヌビス神』はスタンドごと元通りに復元されてたんだ、
とても信じ難えが、やはり名簿の連中はここにいると考えて間違いなさそーだな……)
(情報をもっと集める必要があるな……。
例えば今俺の傍にいる『時を止める』女……。
顔も見たことがねぇ女だが、もしかしたら……実は俺やDIOと関係があって、
(例えばの話だが、ジジイ辺りがコッソリ仕込んだ隠し子とかな)、それが何らかの手がかりになるかも知れねぇ。
名簿には確か、俺の知らねぇ『ジョースター』姓に、『空条』姓、
それから……『ブランドー』姓の名前があったな。『ジョニィ』に『徐倫』に『ディエゴ』……。
女性名は『徐倫』だけだが……)
(まあ、本人に聞けばすぐわかる話か)
「おい……あんた、名前は」
「自己紹介は……後にしましょう。彼女は……霊夢は、まだ、戦う気です」
「何?」
「そして、ごめんなさい……私、貴方の言う通り……無茶、し過ぎた。
……後、お願いします。……そのあと名前、必ず…………おしえ……」
洋館の外壁に身体をあずけるようにして、女中風の女は再び気を失った。
同時に赤リボンの女が何かを叫びながら、飛び起きるのが見えた。
――――
霊夢の耳には男の声と……建物の陰にいるであろう咲夜の声がかすかに聞こえてきていた。
薄目を開けると、仰向けに倒れながらも、確かに封魔陣を貼り付けたはずの右手を動かしている男の姿が見えた。
お札の効果は、すぐに切れてしまったらしい。あの男と同行するなら、これは好都合だ。
……そこで霊夢は、自らの行為の矛盾に気付いた。
果たしてあの場で封魔陣を繰り出す必要はあったのか?
男は私の事を刀に操られていたと思っている可能性が高い、
ならば刀を落とした時点で反撃を諦めた方が良かったのではないか?
「くっ……くそおおおおおおおお!!」
考えを巡らすと同時に、勝手に身体が動いていた。
全身の痛みを押して、無理矢理身体を起こしていた。
「はあ……、はあ……」
霊夢は、起き上がろうとしている男に向かってファイティングポーズを取っていた。
外れた右腕をぶら下げ、左腕だけで、
『さあ第2ラウンドの開始だ、さっさと立たないとぶん殴るぞ』と言わんばかりの気迫で身構えていた。
(なん、で……?)
自分の行動の意味が、分からない。
これではまるで、『私は刀に操られていようがいまいが、殺し合いに乗っています』と言っているようなもの。
情け容赦ないあの男の事だ、今度こそ殺す気で向かってくるに違いない。
私は、どうしてこんなことをしている?
彼女に浮かんだ疑問は、ムクリと起き上がった目の前の男の言葉によって、霧散した。
「ガキが……そんなに負けるのが『悔しい』か」
「うるさいッッ!!……まだ負けては、いないわ」
それは、人が本来生まれ持っていた感情。
大人になっていく過程で何度も暴発させ、叩きつけられ、次第に慣らされ、退化していく感情。
太田順也に『殺し合え』と命じられた瞬間、蓋をされた霊夢の感情の、ごく一部。
全力の戦いに負けて『悔しい』と思う感情。
その恵まれ過ぎた天性の能力ゆえに、霊夢が数えるほどしか味わったことがなかった感情だった。
だから、耐えられなかった。負けた『悔しさ』をこらえて、『与えられた役割』に徹し、
男の保護下に入りつつ機を見て殺害することは、彼女のプライドが許さなかったのだった。
もう殺し合いなどどうでもいい。ただ目の前の男を殴り倒して、一言『まいった』と言わせたい。
その一心が博麗霊夢を、刷り込まれた役割から逸脱させたのだった。
「さあ、決着をつけるわよ……もうこんなものは、要らない」
霊夢が、ネグリジェの袖に収めていたナイフを足元に投げ捨てた。
地面に突き刺さるナイフを見て、男が問いかける。
「それで……『テメーは俺を殺す気が無い』とアピールしているつもりか?
そんなアピールした所で、『俺がテメーを殺す気にならない』という保証はどこにも生まれないんだぜ……!」
「勘違いしないで。私の戦闘スタイルはナイフを必要としない、というだけよ。
それに、ナイフだと……当たり所が悪いとすぐ死んじゃうじゃない……!
私は、あんたをボコボコに殴り倒して……一言『まいった』と言わせたい。
だからナイフは要らない。それだけよ」
霊夢は、自分が歯を出して笑っているのに気が付いた。
もっとも、眉間にシワを寄せて額に血管を浮かべ、目の前の男を睨みつけているその表情を見て、
『笑っている』と判別する者はいないだろうが。
男は……両手をズボンのポケットに突っ込み、直立不動の体勢で霊夢を見据えていた。
こちらの出方を伺っているようだ。あの『スタープラチナ』は、本体の肩から左腕だけを出現させている。
廃屋の傍らで睨み合う不良が二人。
その間に流れる張り詰めた空気が、今にも断ち切れんとしてビリビリと震えていた。
そして一陣の夜風と共に、緊張の糸は断ち切られた。
霊夢は足元のナイフを機敏な動作で拾い上げ、アンダースローで投げつけた。
男は霊夢の投剣を半身になってかわし、その勢いに任せてスタープラチナの裏拳を打ち込んだ。
……男の背後、『廃洋館の陰で聞こえた物音』に向かって。
「……ウッ!!」
だが物音の正体に気付いた男は、振り下ろそうとした拳をピタリと止めた。
物音の正体は咲夜だった。十六夜咲夜が首を斬り落とされ、転げ落ちる音だったのだ。
「死んでいる!……既に……!」
「咲夜ァ!!」
悲痛な叫びと共に咲夜の元に駆け寄る霊夢。
ついさっき殺そうとした相手を、何故?
脳裏をよぎる疑問の答えを探す余裕は、男にも、また霊夢にも存在しなかった。
【十六夜咲夜@東方紅魔郷】 死亡
【残り 86/90】
――――
既に『犯人』は廃洋館を離れつつあった。
『クク、クククッ』
咲夜を殺害したのは、年の頃15に届くかどうかという見た目の小柄な少女。
緑を基調としたベストとスカートに身を包み、セミロングの銀髪に黒いリボン付けたその姿は
『外界』の女子高校生に見えなくもない。
彼女の名は
魂魄妖夢。その手には清水の様に冷たい輝きを放つ刀を携えていた。
『フフフフフフッ……!』
彼女が廃洋館の付近を通り掛かり、そこで戦闘が行われている事を察したのが数分前。
極力気配を殺しつつ慎重に近づくと、博麗霊夢と見知らぬ長身の男が激戦を繰り広げていた。
本来なら知り合いの方に付くべきなのだろうが、男の傍の物陰には咲夜がいた。
状況が判らない。
しばし戦闘の行方を見守っていると、霊夢の振るっていた刀が
男の操る『半霊』らしき何かの攻撃を受けてすっぽ抜け、妖夢の目の前に飛んできたのだった。
刀剣の扱いを得意とする妖夢にとってそれは、願ってもない幸運だった。
『ワーーッハッハッハッハッハッハ!!』
願ってもない幸運だった。笑いを堪え切れないほどに。
霊夢の嬢ちゃんから話は聞いていたがこのメスガキ、仲間内じゃあ一・二を争う剣の使い手と聞いている。
アイツと違って、コイツの精神は簡単に乗っ取ることができた。
おまけにコイツも『スタンド』らしきものを使えるじゃねえか!
お陰で、睨み合う奴らに気付かれずに『時間を操る程度の能力』を持つ女を
まんまと仕留めることができたゼェーッ!
『ギャハハハハッハハ、ぐふフフフははは、ゲッヒヒヒーーーッ』
あーもうマジ笑い止まんねーー!くるしーっ。
『星の白金』のパワー!
『止まった時』の中で動く程のスピード!
そして『魂魄妖夢』のワザとスタンド!
『アヌビス神』はこれら全てを手に入れたッ!!
これもう『一対一』なら無敵なんじゃねーの!?
一度は敵わないと悟ったDIO様にも勝てんじゃねーの!?
一人一人、『一人でいる所を慎重に』仕留めて行けば、優勝も遠くない気がするゼェーッ!
……ん?『優勝』?よく考えたら、『支給品』のオレに優勝特典は与えられるのか?
まあいいや、オレの願いは『人でも何でも、とにかく斬って斬って斬りまくる』事だからな!
願いは自分の力で叶えるもの!運命は自分で『斬り』開くもの!
な?アンタもそう思うだろ?妖夢の嬢ちゃん!
「ええ……全ては斬れば分かります……そうでしょう?『アヌビス神』」
【D-3エリア/黎明】
【魂魄妖夢@東方妖々夢】
[状態]:健康、アヌビス神に精神を乗っ取られている
[装備]:衣装・髪型は神霊廟ver、アヌビス神
[道具]:基本支給品、不明支給品1~2(刀剣類が無いことを確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:全員斬り殺す。
1:一旦廃洋館の傍を離れる。
2:一対一の状況を作り、一人ひとり斬り殺す。
3:『アヌビス神』のスタンドについて知っている者を、優先的に仕留める。DIOも例外ではない。
※魂魄妖夢の参戦時期は東方神霊廟以降です。
※能力制限の程度については、後の書き手さんにお任せします。
※アヌビス神の参戦時期は、承太郎に敗北し刀身をナイル川に沈められた直後ですが、完全に修復されています。
※アヌビス神は霊夢から、幻想郷の住民についての情報を得ています。
※アヌビス神は、現在『咲夜のナイフ格闘』『止まった時の中で動く』
『星の白金のパワーとスピード』を『憶えて』います。
――――
咲夜の首は非常に鋭い刃物で切断されていた。
間違いなく『アヌビス神』によって斬り落とされたものだろう。
付近を捜しても、落ちているはずのそれを見つける事はできなかった。
『新たな持ち主』がすぐにここを立ち去ってくれたのは、傷だらけの二人にとっては幸運と言うべきか。
「……咲夜、ちょっとの間だけど、ここで待っててね。
全部終わったら、必ず紅魔館に送り届けてあげるから」
「吸血鬼の主人に仕える、時を止めるメイド……か」
廃洋館の角には、人間一人がちょうど横になれる程の穴が掘られていた。
部屋から失敬したベッドシーツに咲夜の遺体を包み、静かに土を被せる。
そうしてできた小さな盛り上がりに、咲夜が男から剥がしたお札の刺さったナイフを立て、
後で掘り返すための『目印』とした。ついでに缶ビールも供えておいた。
「おい、テメー。……なぜ殺し合いに乗っていた?」
男は壁にもたれて座り、底に穴の開いた空き缶を投げ捨てると霊夢に尋ねた。
「んぐっ、んぐっ……、ぷはーっ。霊夢、よ。博麗霊夢。
『太田順也』に命令されたからよ。……初めて会った男だけど、あの男には逆らえる気がしなかった。
……それだけよ」
あぐら座りで豪快に3本目のビールを空けた霊夢は、短くそれだけを答えた。
自分がこの世界・幻想郷の『管理者』であること、
そして最初に呼び出された所で『太田順也』が幻想郷の『創造者』であることに気付いてしまった……
とは、流石に言えなかった。
「『カリスマ』という奴か……」
「そういうもの……なのかしらね」
4本目を開封した霊夢に、男は更に質問を投げ掛けた。
「じゃあ、テメーはなぜ正気に戻った?」
「…………」
霊夢のビール缶が口元で固まった。別に男は時間を止めてはいない。
「答えられねーのか?それとも自分でもわからねーってだけなのか?
……テメーのダチが、テメーと同じようにあの野郎の『カリスマ』にあてられて、
殺し合いに乗らねーとも限らねーんだぜ?正気に戻す方法がねーなら、殺すしかねえ」
霊夢は半ば観念したという面持ちで、小声で話しだした。
「わかった、話すわ。……『悔しかった』からよ。あんたに負けそうになったのがね。
そうね……あの相討ちの後、私は『刀に洗脳されていたフリ』をしてアンタに近づこうと思ってたのよ」
「それで隙を見てグサリ……の予定だったのか」
「でも、アンタをそうやって倒すのは、何だかとても『悔しかった』。
よくわからないけど、負けた気がして」
「……で、『プッツン』したのが、正気に戻るきっかけだったという訳か?」
「そう、それが第一のきっかけ。
プッツンした私が我を忘れてアンタに再戦を申し込んだ時に、咲夜が襲われたのが……
第二のきっかけね……こんなこと言って、信じてもらえるかわからないけど」
「……いや、信じるぜ……とりあえずの所はな」
「ありがとう。……でも安心して。あの男の『カリスマ』にあてられたのは、私だけだと思うわ」
(あの男が『創造者』ということに気付いているのは、恐らく私だけだと思うから)
「根拠は」「勘よ」「やれやれ……」
「あ、でも紫あたりは怪しいかも。
まー、もともと殺し合いに乗りそうなヤツらも結構いるからね……」
「そうだったな……この名簿には、DIOのヤローもいる……」
それから廃洋館の一室に場所を移した霊夢は、男と参加者についてお互いに知っている限りの事を話しあった。
外界の住人である男が幽霊や妖怪の存在を疑わしく思っていたのは予想の範囲内だったが……
その他にも疑問に浮かんだ点はいくつもあった……霊夢が半数以上の参加者と顔見知りなのに対し、
男との直接の顔見知りは10人にも満たず、霊夢が『アヌビス神』から伝え聞いた人物と一致していたこと。
霊夢と男の知り合いの、男女比が両極端に分かれていたこと。
そして、男の祖父である『ジョセフ』なる人物から伝え聞いただけの、
50年、100年の昔に故人となったはずの人物が何人も居たこと。
いくつもの疑問が浮かんだ……だが、霊夢が抱いた最大の疑問点……より正確には、不安は……。
……その不安は、まだハッキリと言葉にはできなかった。
それでも、何となく……これから、霊夢の世界が、世界の住民達が、
咲夜の様に、あるいはもっと酷く蹂躙されるのではないか。そんな予感がした。
霊夢は10本目のビールを飲み干していた。
形にできず、だが確かにそこに存在する不安を飲み込む様にして。
男はそろそろ行くぞとばかりに立ち上がり、布の巻かれた右手でビールの缶を勢い良く握り潰した。
……右手に走る痛みと共に、男は咲夜の事を思い出した。
「……やれやれだぜ」
そして自分の名前を告げることができなかった事を、『
空条承太郎』は少しだけ悔やんだのだった。
夜空は、うっすらと白み始めていた。
――――
【D-3エリア・廃洋館内/黎明】
【博麗霊夢@東方 その他】
[状態]:右肩脱臼(処置済み。右腕は動かせますが、痛みは残っています)
左手首に小さな切り傷(処置済み)、全身筋肉痛、あちこちに小さな切り傷(処置済み)
肉体疲労(中)、霊力消費(大)
[装備]:いつもの巫女装束、アヌビス神の鞘、
[道具]:基本支給品、自作のお札(現地調達)×たくさん
DIOのナイフ×5、缶ビール×9、不明支給品0~1(現実に存在する物品)
その他、廃洋館で役立ちそうなものを回収している可能性があります。
[思考・状況]
基本行動方針:この異変を、殺し合いゲームの破壊によって解決する。
1:戦力を集めて『アヌビス神』を破壊する。殺し合いに乗った者も容赦しない。
2:承太郎と同行したい。が……今までの経緯もあるので、無理強いはしない。
3:いずれ承太郎と、正々堂々戦って決着をつける。
※参戦時期は東方神霊廟以降です。
※太田順也が幻想郷の創造者であることに気付いています。
※空条承太郎@ジョジョ第3部の仲間についての情報を得ました。
また、第2部以前の人物の情報も得ましたが、どの程度の情報を得たかは不明です。
※白いネグリジェとまな板は、廃洋館の一室に放置しました。
【空条承太郎@東方ジョジョの奇妙な冒険 第3部 スターダストクルセイダース】
[状態]:右手軽い負傷(処置済み)、全身何箇所かに切り傷(処置済み)、肉体疲労(中)
左腕以外のスタンド封印(時間とともに回復しますが、その速度は不明です)
[装備]:長ラン(所々斬れています)、学帽、ミニ八卦炉
[道具]:基本支給品、DIOのナイフ×5、缶ビール×2、不明支給品0~1(現実に存在する物品)
その他、廃洋館で役立ちそうなものを回収している可能性があります。
[思考・状況]
基本行動方針:主催者の二人をブチのめす。
1:花京院・ポルナレフ・ジョセフ他、仲間を集めて『アヌビス神』を破壊する。DIOをもう一度殺す。
その他、殺し合いに乗った者も容赦しない。
2:霊夢他、うっとおしい女と同行はしたくないが……この際仕方ない。
3:あのジジイとは、今後絶対、金輪際、一緒に飛行機には乗らねー。
4:霊夢との決着は、別にどーでもいい。
※参戦時期はジョジョ第3部終了後、日本への帰路について飛行機に乗った直後です。
※霊夢から、幻想郷の住人についての情報を得ました。女性が殆どなことにうんざりしています。
※十六夜咲夜は、東方輝針城直前からの参戦でした。
※十六夜咲夜の遺体は、廃洋館の角の付近に埋められています。
お札の刺さったナイフが目印に立てられています。缶ビール1本が供えられています。
※DIOのナイフが5本、廃洋館の周辺に転がっています。
※白いネグリジェと・まな板・ビールの空き缶が、廃洋館の一室に放置されています。
○アヌビス神
【出典:ジョジョの奇妙な冒険 第3部 スターダストクルセイダース】
「絶ッ~~~~~~~~~~~対に、負けなぁーーーいッ!」
博麗霊夢に支給。
日本刀に近い形状の、エジプトの古刀。
同名のスタンド『アヌビス神』が宿っている。
そのスタンド能力は3つ。
1.物体を透過する能力。
2.戦った相手のパワー・スピード・技を学習する能力。
3.刀身や柄に触れた者の精神を支配し、操る能力。
現在は、刀身を魂魄妖夢が装備中。鞘を霊夢が装備中。
鞘自身にに特殊な能力はない……が、鞘に収まったアヌビス神は
スタンド自身の意志で抜かれる事を拒むことができる。
『咲夜のナイフ格闘』『止まった時の中で動く』『星の白金のパワーとスピード』を『憶えて』いる。
○DIOのナイフ
【出典:ジョジョの奇妙な冒険 第3部 スターダストクルセイダース】
「そこで承太郎!貴様が何秒動けようと関係のない処刑を思いついた」
十六夜咲夜に支給。
DIOがカイロ市内のレストランで大量に拾ってきた普通の洋包丁。
今回咲夜に支給されたのは16本だが、作中ではもっと大量に登場していた。
現在は霊夢・承太郎が5本づつ所持。
咲夜の埋められた場所(D-3地区・廃洋館)に1本刺さっている。
残りの5本は霊夢・承太郎が見失ったため、廃洋館の周辺に放置されている。
○ミニ八卦炉
【出典:東方project】
空条承太郎に支給。
「弾幕はパワーだぜ!」
本来は
霧雨魔理沙の所有物であるマジックアイテム。
外観は脚の付いた手のひらサイズの八角形の金属塊である。
本来は魔力を燃料として火やレーザーを放つ火炉だが、このバトルロワイアルで支給された本品は
スタンドエネルギーや霊力・妖力を魔力の代わりとすることができる。
他にも製作者の趣味で空気清浄機能などを有しているが、今回それが発揮されるかどうかは不明。
○缶ビール
【出典:現実】
十六夜咲夜に支給。
発泡酒や、第3のビールでない、正真正銘のビールである。
350g缶・1カートン(24本)、エニグマの神の能力のお陰でキンキンに冷えた状態で支給された。
第24話『宇宙1巡後の博麗霊夢――忘我のエモーション――』で、
霊夢が10本、承太郎が2本消費した。1本は咲夜の遺体を埋めた地点に供えられている。
現在残っている11本のうち、霊夢が9本、承太郎が2本を所持している。
○自作のお札
【現地調達】
博麗霊夢が第24話『宇宙1巡後の博麗霊夢――忘我のエモーション――』開始前(深夜)に自作したお札。
廃洋館で調達した紙に、自分の血で呪文を書いて制作した。
『博麗アミュレット』『封魔陣』など、霊夢のお札を使った術の媒介とすることができる。
霊夢以外が使っても、ただの紙でしか無い。
余程の無駄遣いをしない限りは、十分な数が用意されている。
○白いネグリジェ
【現地調達】
霊夢が廃洋館で調達した。ゆったりしたデザインの白い寝間着。
咲夜との戦闘時に、胸に仕込んだまな板を隠すためにいつもの服から着替えた。
現在はD-3地区・廃洋館内の一室に放置されている。
○まな板
【現地調達】
霊夢が廃洋館で調達した。
何の変哲もない木製のまな板だが、さらしの中に仕込めば包丁を防ぐくらいはできる。
現在はD-3地区・廃洋館内の一室に放置されている。
胸にまな板を仕込んだのは咲夜に対する当てつけではない……はず、
きっと。
最終更新:2014年06月03日 03:32