某月某日・・・清澄高校、麻雀部部室にて。
京太郎「部長~」
竹井「何?」
京太郎「何か、部室の前に変な手紙が置いてあったんですけど」
竹井「手紙?」
竹井久は封筒を受け取り、中に入っていた手紙を読んだ。
竹井「ふーん・・・へー・・・」
京太郎「何が書いてあるんですか?」
竹井「みんなー、ちゅうもーく」
部室中に散らばっていた部員たちが集まってくる。
和「どうしたんですか?」
竹井「みんな、今週の日曜日って暇?」
和「日曜ですか・・・えーと、多分大丈夫だと思います」
咲「私も」
まこ「わしもじゃ」
タコス「私もだじぇ」
京太郎「俺も大丈夫です」
竹井「そう・・・じゃあ、駅前に七時集合ね。麻雀打ちに行くから」
和「?。どういうことですか?」
竹井「それは当日のお楽しみってことで」
同日、桜高軽音部部室
澪「何だ、これ?」
唯「どったの?澪ちゃん」
澪「いや、何か手紙が・・・」
律「おー、どうしたー澪~?まさか、ラブレターか~?」
澪「ち・・・違っ・・・」
律「いいから見せてみろよ」
田井中律が秋山澪の手から封筒をひったくる。
律「どれどれ~?」
中に入っていた便箋を読んでいる間、沈黙が部室内を覆った。
沢庵「何が書いてあるの?」
律「なあ、みんな・・・麻雀打てるか?」
唯「まーじゃん?」
律「ああ」
沢庵「私、打てますよ」
澪「へえ、意外だな」
沢庵「大抵のギャンブルは、父にしこまれてますから」
全員(どんな父親だ!?)
律「えーと・・・唯はどうなんだ?さっきの反応からするとできなそうだけど」
唯「麻雀自体はわかんないけど・・・でも、ドンジャラならやったことあるよ!」
律「なら、まあちょっとルール教えればいけるか。澪は?」
澪「ごめん、全く知らない・・・」
律「うーん、ゼロから教えるとなると今週の日曜までじゃきついな・・・」
沢庵「でも、澪ちゃん、セブンブリッジできたよね?」
澪「トランプの?できるよ。あれ面白いよな」
律「じゃあ大丈夫だ。ルール大体一緒だから。ムギ、澪に麻雀教えてやってくれ。私は唯を担当するから」
ムギ「いいわよ」
律「後は梓だけど・・・今日はまだ来てないのか」
澪「なあ、律。さっきから何の話してるんだよ?いきなり、麻雀打てるか、とか・・・一体、その手紙に何が書いてあったんだ?」
律「いやー、何かさ。他の高校の人たちからの、麻雀打たないか、っていう誘いの手紙だったんだよねー」
澪「何でいきなりそんなものが・・・」
律「さあ?わかんないけど。ただ、向こうが交流したいっつってんだから、断ることもないでしょ。どうせ暇だし」
澪「・・・いつやるんだ、それ?」
律「ん?今週の日曜」
澪「そ・・・そんな急には無理だろ!みんな用事あるだろうし」
唯「私暇だよ」
ムギ「私も暇です」
澪「え?」
律「澪はどうなんだ~?何か用事でもあんのかよ?」
澪「う・・・な、ないけど・・・」
律「なら決まりだな。後は梓・・・」
ガチャ
梓「こんにちはー」
律「来た来た・・・」
梓「?、何かあったんですか?」
律「いやー、ちょっとねー」
梓(何だか嫌な予感がする)
梓「あのー、私何か今日調子悪いんで・・・やっぱり帰ります」
律「逃がすか~!」
首根っこを捕まれ、ヘッドロックを決められた梓に、最早為す術はなかった。
同日、陵桜学園第三学年のとある教室
かがみ「おーす、帰ろー」
つかさ「あ、お姉ちゃん」
かがみ「あれ?こなたとみゆきは?」
つかさ「何か先生に呼ばれたみたいで、二人で職員室行ってる」
かがみ「あの二人がペアで?これまた珍しい」
つかさ「どうせだから、職員室まで迎えにいこっか?」
かがみ「オッケー」
(数分後)
ガラガラガラ
かがみ「おっ。ちょうど出てきたとこか」
みゆき「かがみさんとつかささん」
こなた「ちょうどよかった。ねえ二人ってさー、麻雀打てる?」
かがみ「麻雀?まあ打てるけど。どうして?」
こなた「いやさー、何かよくわかんないんだけど、他の高校の人たちが交流と称して、生徒同士で麻雀打たないかって言ってきたらしいんだよ。んで、その人たちのご指名が私たちだったんだよね」
つかさ「私たちって?」
みゆき「私と泉さん。つかささんとかがみさんです」
こなた「面子は五人必要なんだけどね。後の一人は誰でもいいってさ」
かがみ「怪しいわね。どうして私たちなのかしら」
こなた「さあ?」
みゆき「一応、学校同士の交流ということなので、危険はないと思うのですが・・・」
かがみ「で、それはいつなのよ?」
こなた「今週の日曜だって」
つかさ「うわ・・・それまでに誰かもう一人探さなきゃいけないんだ」
こなた「っていうか、つかさは麻雀打てるの?」
つかさ「う・・・打てるよー」
かがみ「よく家でやるから。うちの家族はみんなできるわよ。お父さんが麻雀狂だから」
こなた「あ・・・あのおじさんが・・・」
みゆき「人はみかけによりませんね」
つかさ「ゆきちゃんはできるの?」
みゆき「はい。麻雀もパソコンで時々打つので」
こなた「みゆきさんは典型的なデジタル打ちっぽいよね」
かがみ「デジタルって何よ?」
こなた「流れとかの存在を否定して、ひたすら合理的な打ち方をする人のこと」
かがみ「へー、詳しいのね」
こなた「そりゃあ、咲見て勉強してるからね」
かがみ「咲?」
こなた「そ。今やってる麻雀のアニメ」
かがみ「またそっち系か」
こなた「そっち系とは何さ。面白いんだよあれ。今まで麻雀漫画とかアニメといえば、大抵はヤクザの代打ちとか高レート麻雀とかの、裏社会的なイメージがまとわりついていたのに対して、咲は学生が競技として麻雀を打つっていう画期的な作品なの。麻雀がギャンブルだっていうことからくるマイナスイメージを払拭しようっていう最近のプロ団体の目的にも合致してるし・・・」
かがみ「あー、はいはい、わかったわよ。それで?あと一人はどうするの?」
こなた「うーん・・・ゆーちゃんは麻雀できないしなあ。みなみちゃんとかどうなの?」
みゆき「どうでしょうか・・・普段あんまりそういう話をしないので」
こなた「だよねー。でも、多分できなそうだな。どうしよ・・・」
みのる「あのー、悪いんだけど」
かがみ「何?」
みのる「いや、ちょっと教員室に用事あるから、そこどいてくんない?」
みゆき「あ、ごめんなさい」
かがみ「ちょっとこなた、何ニヤニヤしてんの?気持ち悪い」
こなた「ふふふ、ちょいとみのるんや」
みのる「・・・みのるんって俺のことっすか?」
こなた「他に誰がいるってんだい。お前さん、麻雀は打てるのかい?」
みのる「麻雀?まあ、一応」
こなた「・・・日曜暇かい?」
みのる「日曜?あー、多分」
こなた「じゃあ、私らと麻雀打たない?」
みのる「え?でも、四人いるんだから面子は揃ってるんじゃ・・・」
こなた「細かいことは気にしないの。いいじゃん、花の女子高生四人と麻雀が打てるんだよ?学生麻雀好きの夢だね」
みのる「いや、そういう問題じゃなくて・・・」
こなた「と・に・か・く・!日曜の午前七時に駅前集合ね」
みのる「え、ちょっと、待って。困るって本当」
彼の懇願も空しく、四人は非常な背中だけを向けて去っていった。
同日、北高文芸部室にて
室内にはハルヒを除いた四人が集まっていた。
朝比奈みくるはいつも通りお茶汲みに精を出し、長門有希は部屋の隅で読書、キョンと古泉一樹は対面打ちで麻雀をやっていた。
キョン「なあ、もうやめないか?何が楽しくて男二人で麻雀やんなきゃいけないんだ」
古泉「そうですか?僕は結構楽しんでたんですが」
みくる「どうぞ、お茶です」
キョン「ああ、ありがとうございます・・・やっぱ、麻雀は四人でやるもんだよ。今度、谷口と国木田辺りを誘ってやらないか?」
古泉「いいですね。時間があれば」
みくる「麻雀ですか?」
キョン「ええ。朝比奈さん、できるんですか?」
みくる「一応ルールは知ってます」
キョン「へえ・・・意外だな」
その時、唐突に大きな音を立てて、部室のドアが開いた。
ハルヒ「みんなー、今度の日曜、麻雀打ちにいくわよ!」
沈黙が場を支配した。
キョン「えーと・・・一応訊くが、何でそんなことになったんだ?」
ハルヒ「あの子憎たらしい会長が「他校から、生徒同志の交流のために麻雀大会をしないかという誘いがあった。五人面子を揃えろといわれたから、君のところのあの何とか団とかいうのを思い出してね。どうだ、参加してくれないか?たまには学校の役にも立ったらどうだね」って言ってたのよ。あいつの言葉に従うのは癪だけど、悪くない提案だわ。やっぱり時代は麻雀よね。というわけで、日曜は駅前に集合!」
キョン「あのなあ・・・全員の予定も聞かないままにそんな・・・」
古泉「僕は暇ですよ」
みくる「あ、私も大丈夫です」
キョン「な・・・それなら長門は?」
長門「暇」
ハルヒ「らしいわよ?キョン、あんたはどうなの?」
キョン「・・・暇だよ」
キョン(まあ、いいか。麻雀が打てるなら)
ハルヒ「そう、ならいいわ。集合時間は朝の八時。遅れたら死刑だから」
キョン(おい、古泉?)
古泉(何ですか?)
キョン(今回のもお前の差し金か?)
古泉(いえ、全く)
キョン(じゃ、誰が?)
古泉(僕が知ってるわけないじゃないですか)
キョン(ふーん、まあいい)
こうして、四つの高校にそれぞれ招待状が届いたのだった。
当日―――
和「ここが会場ですか」
咲「おっきいホールだねー」
染谷「よく麻雀の大会で使われてる場所じゃ」
竹井「じゃ、行くわよ。各高校のために待合室が用意してあるはずだから」
京太郎「それにしても、他校と交流戦とは」
タコス「相手も麻雀部なのか?」
竹井「いや、違うみたいよ」
タコス「素人相手なら楽勝だじぇ」
京太郎「おいおい、交流試合なんだろ。そんな馬鹿勝ちしたら、向こうに嫌な思いさせるんじゃないか?」
竹井「その心配はしなくていいわ。みんな全力で打ちなさい」
京太郎「大丈夫なんですか?本当に」
竹井「っていうか勝ってくれないと困るわ。そろそろ部室の雀卓、古くなってきてるから」
タコス「どういうことだじぇ?」
染谷「大方、賞金でも出るんじゃろ?」
竹井「ええ、あっと三十万円ほどね」
京太郎「さ・・・三十万!うわ、何か緊張してきた・・・」
竹井「ああ、言い忘れてたけど、須賀君は今日打たなくて良いから」
京太郎「え?」
竹井「県大会と殆ど同じルールでやるらしいのよ。一校十万点持ちで、一人半荘二回。ウマ、オカはなし。唯一違うのは赤ドラがないことね。だから打つのは五人でいいの。須賀君は見学」
京太郎「じゃあ、俺なんで連れてこられたんですか?」
竹井「買出し要員に決まってるじゃない」
染谷「お・・・鬼じゃ・・・」
咲「三十万か・・・私もちょっと緊張してきた」
和「別に、どんな条件だろうと、いつも通り打つだけです」
唯「ここ?会場って」
梓「うわー、大きいとこですね」
律「おい、早く入ろうぜ。待合室が用意されてるらしいから」
澪「そんな急がなくたっていいだろ」
ムギ「・・・・・・」
唯「どうしたの?ムギちゃん。さっきから黙ってるけど」
ムギ「いえ、ちょっと。気配がしたから」
唯「気配?何の?」
ムギ「うーんと。ごめん、やっぱりなんでもないわ」
唯「変なムギちゃん」
ムギ(この先・・・何かここでとんでもないことが起きる気がする・・・でも一体・・・)
こなた「ふー、やっと着いたー」
つかさ「大きい建物だねー」
みゆき「市の経営してるホールみたいですね。結構いろんなイベントに使われていますよ」
こなた「へえ」
かがみ「ほら、ちゃっちゃと中に入るわよ」
こなた「みのるん、おいで」
みのる(うう・・・なんでこんなことに)
かがみ「こなたー、その待合室ってどこなの?」
こなた「私たちの部屋は・・・そこの階段上がってすぐんとこ」
(数十秒後)
かがみ「へえ、いい部屋じゃない」
つかさ「お茶とポットも用意されてるよ」
こなた「うわ、何このソファ。うちにあるのよりも数段柔らかい」
みのる「このモニターは・・・?」
みゆきがみのるの指差した機械をいじくる。
みゆき「ここで選手登録とかができるみたいです」
かがみ「そういえば、順番って決まってるの?」
こなた「はーい、私が決めてきました」
こなたはモニターの前まで行き、選手構成を打ち込んだ。
こなた「先鋒は私。次鋒はかがみ。中堅がみのるんで、副将はみゆきさん。そして大将がつかさ」
つかさ「え?私が大将?」
かがみ「この子、点数計算できないわよ?大丈夫なの?」
つかさ「ゆきちゃんと交代した方がよくない?」
こなた「大丈夫だって。これでも考え抜いた結果なんだから」
こなた(それに・・・送られてきた手紙に書かれていた学校名からして、恐らく出てくるのはあの人たち。清澄がいつも通りの順番で来て、涼宮ハルヒと田井中律の考えることが私の予想通りだったら・・・みゆきさんには副将になってもらわないと困るんだよ)
律「副将は絶対に澪。これだけはゆずらねー」
澪「何でだよ。経験豊富な律とかムギのほうがいいだろ?」
律「ムギには大将やってもらうから無理だし、私も先鋒行くから無理~」
澪「で・・・でも、私が副将なんて・・・」
律「大丈夫だって。適当に打ってりゃ何とかなるよ」
唯「私は~?」
律「唯は次鋒で、梓は中堅な」
梓「わ・・・わかりました」
唯「あいあいさ~」
律(よしよし、これでオーケー・・・あとは北高と陵桜が空気読んでくれるかだけね)
ハルヒ「んじゃ、順番を発表しまーす。先鋒、古泉君。次鋒、有希。中堅、キョン。副将、みくるちゃん。で、大将が私」
キョン「どういう作戦で決まったんだ?その順番は」
ハルヒ「ん?適当よ、適当。どの道全員が打つんだから、どこに入ったって変わらないわよ」
キョン「あのなあ・・・」
古泉「おや、モニターに今回の大会のルールが表示されてますよ。
・三連刻、四連刻、紅孔雀、大車輪、オープンリーチはなし。一発、裏ドラ、槓ドラ、人和はあり。
・喰いタンあり、先付け(後付け)あり。
・割れ目ルールなし。
・赤ドラなし。
・