- 11.恋はバーミリオン -Brown-
「こなた……お姉ちゃん?」
「ゆーちゃんっ、大丈夫っ!?」
みなみちゃんの腕の中のゆたかちゃんに駆け寄るこなたの声が、辺りに響く。
事態は今……確実に悪化しつつある。
耳をすませば聞こえてくるのは、雑色の騒ぎ声。
どうやらここもすぐに安心出来る場所じゃなくなるらしい。
ああもう、タイミングがどうこう言ってる場合じゃない!
「ちょっと、あんた達!」
茂みから立ち上がり、声を張る。
「げっ……」
それぞれの視線が私に集まり、約一名の顔が渋る。
この野郎、人がわざわざ迎えに来たってのに!
「すぐに人が来るわ、急いでこっちに!」
「……」
「きゃっ!」
雑色の騒ぎ声が耳に届いたのか、頷きゆたかちゃんを抱き上げるみなみちゃん。
さながらお姫様抱っこ……いいなぁ、夢よね。女の子の。
「ほらっ、あんたもっ!」
「んぎゃっ!」
こなたの元まで駆け寄り、耳を引っ張る。
同じ叫び声でも、これだけ違うもんかね。
もっとゆたかちゃんみたいに可愛く叫んで欲しいところね。
「この先にね、人が近寄らない邸ってのがあるらしいの」
まぁひよりに聞いたんだけどね。
そこで落ち合おう、というのがひよりの提案。
誰かの邸らしいけど、なんで人が近寄らないんだろ。
ひよりの名前を出せば、厄介事は引き受けてくれるとか……おいおい、危ない邸じゃないだろうな。
でもそこに向かうしか今はないか。
はぁ……とんだ誘拐犯の一味ね。
ええと、確か竹林から邸とは反対方向に……。
「そ、そっちはっ!」
「?」
その時、声が聞こえる。
みなみちゃんの腕の中の、ゆたかちゃんから。
「ゆーちゃん、どうかしたの?」
「ゆ、ゆいお姉ちゃんがねっ、そっちは行っちゃ駄目だって……」
……本当に危ないらしい。
でもそれなら逆に安心なのか?
うーむ。一体何が……。
「そっちはね……で、出るって!」
顔が熱で真っ赤になっているが、必死に声を振り絞っているゆたかちゃん。
出る?
犬か何か?
「青い眼の……栗色のお化けが!」
……。
お化け、という単語も可愛らしいが、今は置いておこう。
ああ、でも了解。
理解した。
そういうわけね。
考えたじゃない、ひより。
「ゆーちゃんっ、大丈夫っ!?」
みなみちゃんの腕の中のゆたかちゃんに駆け寄るこなたの声が、辺りに響く。
事態は今……確実に悪化しつつある。
耳をすませば聞こえてくるのは、雑色の騒ぎ声。
どうやらここもすぐに安心出来る場所じゃなくなるらしい。
ああもう、タイミングがどうこう言ってる場合じゃない!
「ちょっと、あんた達!」
茂みから立ち上がり、声を張る。
「げっ……」
それぞれの視線が私に集まり、約一名の顔が渋る。
この野郎、人がわざわざ迎えに来たってのに!
「すぐに人が来るわ、急いでこっちに!」
「……」
「きゃっ!」
雑色の騒ぎ声が耳に届いたのか、頷きゆたかちゃんを抱き上げるみなみちゃん。
さながらお姫様抱っこ……いいなぁ、夢よね。女の子の。
「ほらっ、あんたもっ!」
「んぎゃっ!」
こなたの元まで駆け寄り、耳を引っ張る。
同じ叫び声でも、これだけ違うもんかね。
もっとゆたかちゃんみたいに可愛く叫んで欲しいところね。
「この先にね、人が近寄らない邸ってのがあるらしいの」
まぁひよりに聞いたんだけどね。
そこで落ち合おう、というのがひよりの提案。
誰かの邸らしいけど、なんで人が近寄らないんだろ。
ひよりの名前を出せば、厄介事は引き受けてくれるとか……おいおい、危ない邸じゃないだろうな。
でもそこに向かうしか今はないか。
はぁ……とんだ誘拐犯の一味ね。
ええと、確か竹林から邸とは反対方向に……。
「そ、そっちはっ!」
「?」
その時、声が聞こえる。
みなみちゃんの腕の中の、ゆたかちゃんから。
「ゆーちゃん、どうかしたの?」
「ゆ、ゆいお姉ちゃんがねっ、そっちは行っちゃ駄目だって……」
……本当に危ないらしい。
でもそれなら逆に安心なのか?
うーむ。一体何が……。
「そっちはね……で、出るって!」
顔が熱で真っ赤になっているが、必死に声を振り絞っているゆたかちゃん。
出る?
犬か何か?
「青い眼の……栗色のお化けが!」
……。
お化け、という単語も可愛らしいが、今は置いておこう。
ああ、でも了解。
理解した。
そういうわけね。
考えたじゃない、ひより。
「ゆーちゃん、具合どう?」
「うん……少し、落ち着いた」
小さい邸の狭い一室
そこに寝ているゆたかちゃんの顔を、こなたが覗き込む。
にしても……本当に狭い。
でもここに居るだけで、雑色の追っ手は来ないのだから我慢すべきか。
それでも問題はまぁ、一つも解決してないわけなんだけどね。
「はぁ……どうしよ」
思わずため息が漏れる。
問題は山積みだ。
しかも今夜中にこの問題を解決しないと、明日になれば今度はこなた姫消失事件だ。
ああ、つかさじゃ誤魔化しきれないだろうなぁ。
「ごめんなさい……私の所為で」
ゆたかちゃんが申し訳なさそうに謝る。
しまった、ため息が聞こえたか。
「……」
「あっ……」
するとまた、慰めるようにみなみちゃんがゆたかちゃんの頭を撫でる。
だからそれ逆効果だっつの!
顔赤っ! 熱っー!
「Oh! レッドスネークカモーンネーッ」
そうそう、こう笛を……ってんな事言ってる場合かい!
「お水、持って来ましたヨ」
「ええ、ありがと。悪いわね……こんな夜中に突然」
戸を開けて現れた女性から、水を受け取る。
彼女のおかげで、今この綱渡りが何とかバランスを保っているところ。
それなのに、こなたやゆたかちゃんは怯えてるけど。
まぁそうよね。私もまさか、この人まで居るとは思っても居なかった。
「いいデスヨー、ヒヨリの友人の頼みデスしネ」
パトリシア・マーティン。
ゆたかちゃん曰く、青い眼の栗色お化け。
綺麗な金髪碧眼も、この時代では畏怖の対象でしかないのが少し残念。
彼女が現れてからこなたもゆたかちゃんも、身構えてるし。
みなみちゃんは……よく表情が読めないけど。
ちなみにひよりは道に迷って彼女と出くわして、意気投合したらしい。
……あまり知られていないが、この時代にも異国人の居住がなかったわけではない。
博多などの玄関口付近には、専用の居住地が存在していた。
まぁでも渡来人の活躍となると、鎌倉時代以降になるのかな。
「カガミは怖がらないんデスネー、ヒヨリでも最初は駄目でシタヨ?」
「あー、まぁ。特にそういうのは気にしないから」
そういう事にしておこう。
どうせそれも、月夜の間だけだけなんだけどね。
あぁそうだった、早くこの問題を解決しないといけないんだった。
はぁ……早く来ないかな、ひより。
「マーマー、チャガシでも食べて落ち着きマショー」
と、パトリシアさんが何かを差し出す。
チャガシ……茶菓子ね。
そうね、小腹も空いてた所だし。
「ええ、ありがとう。ほら、こなたも」
「ひぅっ」
と、茶菓子の乗った皿を渡そうとするが、さらに身構えるこなた。
よく見ればゆたかちゃんも。
ああそっか、まだパトリシアさんに慣れてないのね。
でもさっきから、こなたの腹の鳴る音が聞こえてるけど。
それがパトリシアさんの耳にも入ったのか、笑顔で茶菓子をこなたに進める。
「ほーらお団子デスヨー、甘いデスヨー」
「お、お団子……」
その茶菓子に釣られ、フラフラと誘い出されるこなた。
食欲が恐怖心を凌駕したのか……情けない。
「こ、こなたお姉ちゃんっ! 罠だよ! 毒だよきっと!」
「わ、罠っ!?」
ゆたかちゃんの声に我に返るこなた。
「Oh、罠じゃないデスヨー。カモーン、レッドスネークカモーンネー」
もうそれはいいっつの!
「毒なんか入ってるわけないでしょ、馬鹿言ってないでさっさと食べなさい」
「むぅ……」
私に指摘されたのが気に入らないのか、眉間にシワを寄せたまま茶菓子の乗った皿を奪う。
まだ私のことは、許してくれてないらしい。
くぅ、有耶無耶にはならないかさすがに。
ほら、独り占めしないの!
「みな……貴方もどうぞ」
無言の君にも差し出すと、頷き受け取ってくれた。
思わず名前で呼びそうになるも、何とか修正。
危ない危ない、またややこしい事になる所だった。
ってゆーかみなみちゃん、何でまだ居るんだろ。
やっぱゆたかちゃんが心配なのかな? 傍から離れないし。
両想いですか、はぁー痒い痒い。
でもまた違和感……というかなんというか。
それなら何で手紙の返事、書かないんだろ。
そうだ……忘れてた。
それの所為でこなたは抜け出したんだっけ。
この事件の発端は、そう……それだ。
「うん……少し、落ち着いた」
小さい邸の狭い一室
そこに寝ているゆたかちゃんの顔を、こなたが覗き込む。
にしても……本当に狭い。
でもここに居るだけで、雑色の追っ手は来ないのだから我慢すべきか。
それでも問題はまぁ、一つも解決してないわけなんだけどね。
「はぁ……どうしよ」
思わずため息が漏れる。
問題は山積みだ。
しかも今夜中にこの問題を解決しないと、明日になれば今度はこなた姫消失事件だ。
ああ、つかさじゃ誤魔化しきれないだろうなぁ。
「ごめんなさい……私の所為で」
ゆたかちゃんが申し訳なさそうに謝る。
しまった、ため息が聞こえたか。
「……」
「あっ……」
するとまた、慰めるようにみなみちゃんがゆたかちゃんの頭を撫でる。
だからそれ逆効果だっつの!
顔赤っ! 熱っー!
「Oh! レッドスネークカモーンネーッ」
そうそう、こう笛を……ってんな事言ってる場合かい!
「お水、持って来ましたヨ」
「ええ、ありがと。悪いわね……こんな夜中に突然」
戸を開けて現れた女性から、水を受け取る。
彼女のおかげで、今この綱渡りが何とかバランスを保っているところ。
それなのに、こなたやゆたかちゃんは怯えてるけど。
まぁそうよね。私もまさか、この人まで居るとは思っても居なかった。
「いいデスヨー、ヒヨリの友人の頼みデスしネ」
パトリシア・マーティン。
ゆたかちゃん曰く、青い眼の栗色お化け。
綺麗な金髪碧眼も、この時代では畏怖の対象でしかないのが少し残念。
彼女が現れてからこなたもゆたかちゃんも、身構えてるし。
みなみちゃんは……よく表情が読めないけど。
ちなみにひよりは道に迷って彼女と出くわして、意気投合したらしい。
……あまり知られていないが、この時代にも異国人の居住がなかったわけではない。
博多などの玄関口付近には、専用の居住地が存在していた。
まぁでも渡来人の活躍となると、鎌倉時代以降になるのかな。
「カガミは怖がらないんデスネー、ヒヨリでも最初は駄目でシタヨ?」
「あー、まぁ。特にそういうのは気にしないから」
そういう事にしておこう。
どうせそれも、月夜の間だけだけなんだけどね。
あぁそうだった、早くこの問題を解決しないといけないんだった。
はぁ……早く来ないかな、ひより。
「マーマー、チャガシでも食べて落ち着きマショー」
と、パトリシアさんが何かを差し出す。
チャガシ……茶菓子ね。
そうね、小腹も空いてた所だし。
「ええ、ありがとう。ほら、こなたも」
「ひぅっ」
と、茶菓子の乗った皿を渡そうとするが、さらに身構えるこなた。
よく見ればゆたかちゃんも。
ああそっか、まだパトリシアさんに慣れてないのね。
でもさっきから、こなたの腹の鳴る音が聞こえてるけど。
それがパトリシアさんの耳にも入ったのか、笑顔で茶菓子をこなたに進める。
「ほーらお団子デスヨー、甘いデスヨー」
「お、お団子……」
その茶菓子に釣られ、フラフラと誘い出されるこなた。
食欲が恐怖心を凌駕したのか……情けない。
「こ、こなたお姉ちゃんっ! 罠だよ! 毒だよきっと!」
「わ、罠っ!?」
ゆたかちゃんの声に我に返るこなた。
「Oh、罠じゃないデスヨー。カモーン、レッドスネークカモーンネー」
もうそれはいいっつの!
「毒なんか入ってるわけないでしょ、馬鹿言ってないでさっさと食べなさい」
「むぅ……」
私に指摘されたのが気に入らないのか、眉間にシワを寄せたまま茶菓子の乗った皿を奪う。
まだ私のことは、許してくれてないらしい。
くぅ、有耶無耶にはならないかさすがに。
ほら、独り占めしないの!
「みな……貴方もどうぞ」
無言の君にも差し出すと、頷き受け取ってくれた。
思わず名前で呼びそうになるも、何とか修正。
危ない危ない、またややこしい事になる所だった。
ってゆーかみなみちゃん、何でまだ居るんだろ。
やっぱゆたかちゃんが心配なのかな? 傍から離れないし。
両想いですか、はぁー痒い痒い。
でもまた違和感……というかなんというか。
それなら何で手紙の返事、書かないんだろ。
そうだ……忘れてた。
それの所為でこなたは抜け出したんだっけ。
この事件の発端は、そう……それだ。
茶菓子でお腹も一杯になったのか、こなたとゆたかちゃんの寝息が聞こえてくる。
さすがに子供には深夜は辛かったか……って確か同い年なはずなんだけど。
「Hum、ちっちゃい子供の寝顔はガンプクデス」
と寝ているこなたの頭を撫でるパトリシアさん。
先程からそれを狙ってたらしいが、近づくだけで威嚇されていたので無理だったらしい。
そしてこなたで満足し足りないのか、ゆたかちゃんにも手を伸ばそうとする。
「……」
が、間にみなみちゃん。
「こ、怖いデス! 狩人の目デス! トゥーンデース、カガミボーイ!」
誰がボーイだ! 勢いで喋んな!
「Shit、いいデスっ。カッガーミ↑を撫でますカラ」
私を撫でてどーすんだよ!
「はぁ……ちょっとぐらい撫でさせてやってよ。いいでしょ、部屋まで借してくれてるんだから」
「そーデス! ウヤマイタテマツルべきデスヨ! 常考ッ!」
私の後ろに隠れながら叫んでる。
あぁ……疲れてきた。
「……」
みなみちゃんも散々渋い顔をするが、なんとか道を開けてくれる。
まぁ撫でるくらいいいでしょ。
「Oh、キュート……キューティ……キューティクル」
……と思ったけどさすがに手の動きが怪しいな。
何処のラ・マン・ドゥ・デエスだよ。
鼻血と涎で顔がすごい事になってるし。
……まぁ、いっか。
「良くないッスよ!」
と、そこで耳を声が劈き、戸が開く。
ようやく、要の重要人物がご到着らしい。
「チッ……Oh、ヒヨーリ。待ってましたヨー」
「……危なかったッス。もう少しでゆたかがパティの毒牙にかかるとこっした」
「酷いデスヒヨリ! スクデイの最終回より酷いデース!」
見たんか! お前見たんか!
「Mum、こんなジュンシンムクなヲナゴを捕まえて何てことヲ言うんデスかヒヨリは」
純真無垢な女子は舌打ちなんかしないんですけど。
「先輩にも迷惑かけました。感謝してますっ」
そんなパトリシアさんを無視して、私に頭を下げるひより。
「いいわよ、こなたも見つかったしね……それより、どうするの? これから」
「いやぁ、自分も今何とか抜け出せた状態でして」
ゆたかちゃんの隣りに座り、そっと頭を撫でてやるひより。
ようやく安心したのか、笑顔がこぼれる。
「うーん。ゆい様には悪いけど、こりゃもう少し寝かせたほうがいいッスね……熱があるのに無理はさせられないッス」
そうね、でもそれで何とか事態は収拾かな。
あとはこなたを起こして引っ張って帰るけどね、熱なんかないし。
「っつーわけでパティ、朝まで部屋借りてもいいッスか?」
「もちろんデスヨー、今ならソイネもしてあげますヨー、ハァハァ」
悶えんな!
「カッガーミー、皆が苛めマス。タコ殴りデスヨー、慰めてくだサーイ体で」
ひよりとみなみちゃんに撃退されて私に泣きつくパトリシアさん。
はぁ……疲れる。
「あぁそうそう、そっちもどうもッス。ゆたかを運んでくれたそうで」
「……」
と、みなみちゃんにも話を向けるひより。
ひよりの心情的にはどうなんだろ、一応恋敵よね……っとと、無粋か。
「格好良かったデスヨー、あれがヨニ聞くオイシャサンゴッコというモノなんデスネ」
お姫様だっことでも言いたいのか……そっちは男の人の夢な。
「……」
みなみちゃんの話題に花が咲く。
でもやっぱり、みなみちゃんは無言のまま。
この世界で彼女は、いや彼は無口だってこと?
性格の『違い』。
それは確か一度議論した覚えがある。
こなたが甘えん坊なように、おじさんがこなたに厳しいように。
でもそれは、環境で違いが出ただけのこと……というのが私の考え。
こなたはしこたま甘やかされて、おじさんはストレスで……という所かな。
つまり、彼女にも……みなみちゃんにも、そうなった原因がある?
「ね、ねぇ」
「?」
勇気を出して声をかけると、視線がこちらに。
日下部の二の舞は嫌だけど……やってみなけりゃ、進めない。
「いい加減名前ぐらい教えてくれてもいいんじゃない? ゆたかちゃんも知りたがってたわよ」
「……」
せめて一言でも喋ってくれれば活路がありそうなものなんだけど、やっぱり無言。
そのまま視線を外される。
うーん、手ごわい。
「ユタカも知りたがってたんデスか? Why?」
「まぁそりゃ、恋人同士ッスからね」
「ソーなんデスか!?」
急に眼が光るパトリシアさん。
おいおい、何かスイッチが入ったみたい。
恋人……まぁそうなるか。
文も送って、毎夜毎夜逢瀬を交わしてるのだから。
文……ああ、そうだ。その件もあったっけ。
「あと文の返事も、書いてあげたら? 寂しがってたわよ」
「……っ」
その時だ。
少しみなみちゃんが、反応した。
文に……しかないわよね。
何かあるわけ? そこに。
「そうッスよ。強制するわけじゃないッスけど……ゆたかが頑張って書いたんスから」
「いけませんネー、WhiteRhythm。そんなんじゃ嫌われますヨー」
と、二人も非難。
……ん?
今場にそぐわぬ流暢な英語が聞こえてこなかったか?
「何だって? ホワイト?」
「Yes、呼び名がないから考えました! 即興デス、オヒネリをっ!」
と、親指を立てるパトリシアさん。たかんな!
まぁ確かに……白い束帯着てるわね。
この二人には英語なんか通じてないけど。
いや待て、ホワイトは分かる。白よね、服が白いから。
じゃあ……何でRhythm?
Rhythmはえっと、日本語だと……。
「……」
すると立ち上がるみなみちゃん。
そのまま軽く頭を下げると、部屋を出て行こうとする。
ああ、もう帰るのか。
夜中だしひよりも来たし、安心したのかな?
じゃあさすがにこれ以上引き出すのは無理、か。
暖簾に腕押し、返事がなきゃ交流なんて難しいわよね。
「いやー、デモ強敵デスネ」
「何がッスか?」
みなみちゃんも居なくなった所で、パトリシアさんがポンっとひよりの肩を叩く。
「ウカウカしてると、ユタカ捕られちゃいますヨ」
「んなぁっはぁっ!」
そしてボンッ、と火山が爆発。
なんだ、気がついてたのか。
まぁ分かりやすいといえば分かりやすいけど。
「なっ、何を言ってるんスかパティ。言ったじゃないッスか、あの無言の君と恋仲だって!」
「それはヒヨリが想いを伝えてないからデス、伝えたらきっとユタカはヒヨリを選んでくれますヨー。思わず」
思わずかよ!
「つ、伝えたって……一緒ッスよ」
私の時の様に必死に否定するかと思ったが、パトリシアさんに絡まれ観念したらしい。
ゆたかちゃんに視線を落としたあとに、声が沈む。
「自分はただの女房……ゆたかには無言の君が、お似合いッス」
「Hum、よく分らないデスネー」
と、頭を抱えるパトリシアさん。
そう? 単純明快じゃない。
ゆたかちゃんの為に身を引く、それだけよ。
ひよりが想いを伝えたって……困らせるだけだしね。
「だって、ヒヨリとWhiteRhythm。どっちもユタカが好きなのは同じじゃないデスか? どうして勝手に決めちゃうんデス?」
そりゃまぁ……そうだけど。
だって、ねぇ?
ひよりは女の子。
WhiteRhythm、もといみなみちゃんはこの世界では……。
「つーか結局何なのよ、その命名の仕方は」
「? そのままデスよ? 洒落てるデショ?」
「そのままって言ったって、意味が分から……」
……。
あ。
ああああっ!
そう、だ。そのまま……そのままじゃないか!
今私の頭の中で、バラバラだった線が繋がる。
喋らない? 文の返事がない? みなみちゃんがそんな事するはずないっ!
服が白い事に気を取られて、気がつかなかった。
Whiteは束帯の色のことじゃない、ああそうだ何で気がつかなかったんだろうこんな簡単なことに!
WhiteRhythm……並べて見れば簡単、明白じゃないか!
外国人の小粋な言い回しなんかじゃない、直訳だ!
つまりは、そういう事……それなら全部、説明がつく。
もしかしてパトリシアさん、最初から気がついてた?
そしてひよりはまだ、気がついてない?
そりゃそうよね、英語なんか分かるはずがないし。
ああでも、どうしよう。
もうみなみちゃんは、行っちゃったわけで……でも、走れば追いつけるかも。
だからって追いついてどうするの?
そうよ、何も出来ないじゃない。
私はこなたを叩き起こして、耳でも引っ張って自分の屋敷に帰ればいいだけ。
ああでも、『あの時』と同じだ。
日下部が帰ってこなかったあの時と。
私はまた、余計なことをしようとしてる。
今度は日下部のためじゃなく、ひよりのために。
……私が今からすることは、余計なことだ。
確実に。
絶対。
それはきっと、ひよりを苦しめることになるだろう。
私の勝手……私の我侭の所為で。
なんでそんな事をしようとしてるのかは、分からない。
多分私も、感化されたのかな。
彼女の……ひよりの一途な想いに。
「ひより、ちょっと!」
「な、何スか? 先輩……」
急いで立ち上がり、ひよりの手を掴む。
「パトリシアさんっ、チビ二人を任せたからっ!」
「I copy! 傷物にしてミセマスッ!」
「ゆ、ゆたかぁっ!?」
ああもう突っ込んでる暇もないっ!
「いいから急ぐわよっ、ひよりっ!」
「えっ? へぇっ!?」
そのまま訳も分からないひよりを連れ、部屋を抜け出した。
もう一度、言っておこう。
これから私がすることは、余計な事だ。
それでも……ひよりに伝えたかったのかもしれない。
想いは、伝わることを。
世界は悲しみの青色だけじゃない――燃える赤よりも暖かい、朱色にだって染まる事を。
さすがに子供には深夜は辛かったか……って確か同い年なはずなんだけど。
「Hum、ちっちゃい子供の寝顔はガンプクデス」
と寝ているこなたの頭を撫でるパトリシアさん。
先程からそれを狙ってたらしいが、近づくだけで威嚇されていたので無理だったらしい。
そしてこなたで満足し足りないのか、ゆたかちゃんにも手を伸ばそうとする。
「……」
が、間にみなみちゃん。
「こ、怖いデス! 狩人の目デス! トゥーンデース、カガミボーイ!」
誰がボーイだ! 勢いで喋んな!
「Shit、いいデスっ。カッガーミ↑を撫でますカラ」
私を撫でてどーすんだよ!
「はぁ……ちょっとぐらい撫でさせてやってよ。いいでしょ、部屋まで借してくれてるんだから」
「そーデス! ウヤマイタテマツルべきデスヨ! 常考ッ!」
私の後ろに隠れながら叫んでる。
あぁ……疲れてきた。
「……」
みなみちゃんも散々渋い顔をするが、なんとか道を開けてくれる。
まぁ撫でるくらいいいでしょ。
「Oh、キュート……キューティ……キューティクル」
……と思ったけどさすがに手の動きが怪しいな。
何処のラ・マン・ドゥ・デエスだよ。
鼻血と涎で顔がすごい事になってるし。
……まぁ、いっか。
「良くないッスよ!」
と、そこで耳を声が劈き、戸が開く。
ようやく、要の重要人物がご到着らしい。
「チッ……Oh、ヒヨーリ。待ってましたヨー」
「……危なかったッス。もう少しでゆたかがパティの毒牙にかかるとこっした」
「酷いデスヒヨリ! スクデイの最終回より酷いデース!」
見たんか! お前見たんか!
「Mum、こんなジュンシンムクなヲナゴを捕まえて何てことヲ言うんデスかヒヨリは」
純真無垢な女子は舌打ちなんかしないんですけど。
「先輩にも迷惑かけました。感謝してますっ」
そんなパトリシアさんを無視して、私に頭を下げるひより。
「いいわよ、こなたも見つかったしね……それより、どうするの? これから」
「いやぁ、自分も今何とか抜け出せた状態でして」
ゆたかちゃんの隣りに座り、そっと頭を撫でてやるひより。
ようやく安心したのか、笑顔がこぼれる。
「うーん。ゆい様には悪いけど、こりゃもう少し寝かせたほうがいいッスね……熱があるのに無理はさせられないッス」
そうね、でもそれで何とか事態は収拾かな。
あとはこなたを起こして引っ張って帰るけどね、熱なんかないし。
「っつーわけでパティ、朝まで部屋借りてもいいッスか?」
「もちろんデスヨー、今ならソイネもしてあげますヨー、ハァハァ」
悶えんな!
「カッガーミー、皆が苛めマス。タコ殴りデスヨー、慰めてくだサーイ体で」
ひよりとみなみちゃんに撃退されて私に泣きつくパトリシアさん。
はぁ……疲れる。
「あぁそうそう、そっちもどうもッス。ゆたかを運んでくれたそうで」
「……」
と、みなみちゃんにも話を向けるひより。
ひよりの心情的にはどうなんだろ、一応恋敵よね……っとと、無粋か。
「格好良かったデスヨー、あれがヨニ聞くオイシャサンゴッコというモノなんデスネ」
お姫様だっことでも言いたいのか……そっちは男の人の夢な。
「……」
みなみちゃんの話題に花が咲く。
でもやっぱり、みなみちゃんは無言のまま。
この世界で彼女は、いや彼は無口だってこと?
性格の『違い』。
それは確か一度議論した覚えがある。
こなたが甘えん坊なように、おじさんがこなたに厳しいように。
でもそれは、環境で違いが出ただけのこと……というのが私の考え。
こなたはしこたま甘やかされて、おじさんはストレスで……という所かな。
つまり、彼女にも……みなみちゃんにも、そうなった原因がある?
「ね、ねぇ」
「?」
勇気を出して声をかけると、視線がこちらに。
日下部の二の舞は嫌だけど……やってみなけりゃ、進めない。
「いい加減名前ぐらい教えてくれてもいいんじゃない? ゆたかちゃんも知りたがってたわよ」
「……」
せめて一言でも喋ってくれれば活路がありそうなものなんだけど、やっぱり無言。
そのまま視線を外される。
うーん、手ごわい。
「ユタカも知りたがってたんデスか? Why?」
「まぁそりゃ、恋人同士ッスからね」
「ソーなんデスか!?」
急に眼が光るパトリシアさん。
おいおい、何かスイッチが入ったみたい。
恋人……まぁそうなるか。
文も送って、毎夜毎夜逢瀬を交わしてるのだから。
文……ああ、そうだ。その件もあったっけ。
「あと文の返事も、書いてあげたら? 寂しがってたわよ」
「……っ」
その時だ。
少しみなみちゃんが、反応した。
文に……しかないわよね。
何かあるわけ? そこに。
「そうッスよ。強制するわけじゃないッスけど……ゆたかが頑張って書いたんスから」
「いけませんネー、WhiteRhythm。そんなんじゃ嫌われますヨー」
と、二人も非難。
……ん?
今場にそぐわぬ流暢な英語が聞こえてこなかったか?
「何だって? ホワイト?」
「Yes、呼び名がないから考えました! 即興デス、オヒネリをっ!」
と、親指を立てるパトリシアさん。たかんな!
まぁ確かに……白い束帯着てるわね。
この二人には英語なんか通じてないけど。
いや待て、ホワイトは分かる。白よね、服が白いから。
じゃあ……何でRhythm?
Rhythmはえっと、日本語だと……。
「……」
すると立ち上がるみなみちゃん。
そのまま軽く頭を下げると、部屋を出て行こうとする。
ああ、もう帰るのか。
夜中だしひよりも来たし、安心したのかな?
じゃあさすがにこれ以上引き出すのは無理、か。
暖簾に腕押し、返事がなきゃ交流なんて難しいわよね。
「いやー、デモ強敵デスネ」
「何がッスか?」
みなみちゃんも居なくなった所で、パトリシアさんがポンっとひよりの肩を叩く。
「ウカウカしてると、ユタカ捕られちゃいますヨ」
「んなぁっはぁっ!」
そしてボンッ、と火山が爆発。
なんだ、気がついてたのか。
まぁ分かりやすいといえば分かりやすいけど。
「なっ、何を言ってるんスかパティ。言ったじゃないッスか、あの無言の君と恋仲だって!」
「それはヒヨリが想いを伝えてないからデス、伝えたらきっとユタカはヒヨリを選んでくれますヨー。思わず」
思わずかよ!
「つ、伝えたって……一緒ッスよ」
私の時の様に必死に否定するかと思ったが、パトリシアさんに絡まれ観念したらしい。
ゆたかちゃんに視線を落としたあとに、声が沈む。
「自分はただの女房……ゆたかには無言の君が、お似合いッス」
「Hum、よく分らないデスネー」
と、頭を抱えるパトリシアさん。
そう? 単純明快じゃない。
ゆたかちゃんの為に身を引く、それだけよ。
ひよりが想いを伝えたって……困らせるだけだしね。
「だって、ヒヨリとWhiteRhythm。どっちもユタカが好きなのは同じじゃないデスか? どうして勝手に決めちゃうんデス?」
そりゃまぁ……そうだけど。
だって、ねぇ?
ひよりは女の子。
WhiteRhythm、もといみなみちゃんはこの世界では……。
「つーか結局何なのよ、その命名の仕方は」
「? そのままデスよ? 洒落てるデショ?」
「そのままって言ったって、意味が分から……」
……。
あ。
ああああっ!
そう、だ。そのまま……そのままじゃないか!
今私の頭の中で、バラバラだった線が繋がる。
喋らない? 文の返事がない? みなみちゃんがそんな事するはずないっ!
服が白い事に気を取られて、気がつかなかった。
Whiteは束帯の色のことじゃない、ああそうだ何で気がつかなかったんだろうこんな簡単なことに!
WhiteRhythm……並べて見れば簡単、明白じゃないか!
外国人の小粋な言い回しなんかじゃない、直訳だ!
つまりは、そういう事……それなら全部、説明がつく。
もしかしてパトリシアさん、最初から気がついてた?
そしてひよりはまだ、気がついてない?
そりゃそうよね、英語なんか分かるはずがないし。
ああでも、どうしよう。
もうみなみちゃんは、行っちゃったわけで……でも、走れば追いつけるかも。
だからって追いついてどうするの?
そうよ、何も出来ないじゃない。
私はこなたを叩き起こして、耳でも引っ張って自分の屋敷に帰ればいいだけ。
ああでも、『あの時』と同じだ。
日下部が帰ってこなかったあの時と。
私はまた、余計なことをしようとしてる。
今度は日下部のためじゃなく、ひよりのために。
……私が今からすることは、余計なことだ。
確実に。
絶対。
それはきっと、ひよりを苦しめることになるだろう。
私の勝手……私の我侭の所為で。
なんでそんな事をしようとしてるのかは、分からない。
多分私も、感化されたのかな。
彼女の……ひよりの一途な想いに。
「ひより、ちょっと!」
「な、何スか? 先輩……」
急いで立ち上がり、ひよりの手を掴む。
「パトリシアさんっ、チビ二人を任せたからっ!」
「I copy! 傷物にしてミセマスッ!」
「ゆ、ゆたかぁっ!?」
ああもう突っ込んでる暇もないっ!
「いいから急ぐわよっ、ひよりっ!」
「えっ? へぇっ!?」
そのまま訳も分からないひよりを連れ、部屋を抜け出した。
もう一度、言っておこう。
これから私がすることは、余計な事だ。
それでも……ひよりに伝えたかったのかもしれない。
想いは、伝わることを。
世界は悲しみの青色だけじゃない――燃える赤よりも暖かい、朱色にだって染まる事を。