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ちまこんお姉ちゃん 2話

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つかさおはよー。って、あれ?かがみは?」

 駅前でこなちゃんと合流して、こなちゃんがまず訊いてきたのは、予想通り、お姉ちゃんの所在だった。

 私は、せっかくだからこなちゃんやゆきちゃんに相談してみようって言ったんだけど、お姉ちゃんは
 「みゆきには心配掛けたくない。こなたには……こんな姿見られたくない」って。
 お姉ちゃんらしいとは思うんだけど……
 今日は、大変な一日になりそう。 

 ここで正直に、『お姉ちゃんは鞄の中だよー』なんて言ったら、お姉ちゃんに怒られるので……

「お姉ちゃん、風邪引いて熱が出ちゃって……今日は学校お休みするんだ」
「また風邪?かがみってよく風邪引くよね。夏にも引いてたし」
「うん。ほら、最近急に涼しくなってきたでしょ?きっとそのせいだよ」
「ふーん……あ、わかった。かがみはきっと、夏と同じ調子でお腹出して寝てたんだよ」

 鞄の中で何かがバシンと音を立てたように聞こえた。気のせいかな?



 こなちゃんとふたり並んでバスを待つ。
 …困った。
 こなちゃんはどういう訳か、ときどき私の鞄をチラチラ見ている。
 もしかして、もう怪しまれてる?
 もしかして、こなちゃんにはお姉ちゃんがいるのが分かるの?

「つかさ、さっきから気になってたんだけど…」

 こなちゃんが不思議そうな表情で私に話しかけてくる。

「な、なあに?」

 うぅ、心臓がドキドキしてきた。
 まさかこなちゃんと会って早々こんなことになるなんて……
 お姉ちゃん、どうしよう。

「どうして、そんな大事そうに鞄抱えてるの?」
「え…?」

 そうだった。
 よく考えたら私は、お姉ちゃんの入った鞄を両手で抱き寄せるようにして持っていたんだ。
 思い出してみると、家を出たときからずっとこの体勢でここまで来ていた気がする。
 だってね、こなちゃん……
 ここまで来るだけでも、大変な思いだったんだよ。


 つい勢いで『お姉ちゃんは私が守る!』なんて言っちゃったけど、一歩外に出たら急に不安が襲ってきて……
 でも、なんとかしてお姉ちゃんを無事学校まで連れてってあげなくちゃと思って……
 落とさないように、ひったくられないように、大事に鞄を抱えて……
 転ばないように、一段ずつ慎重に駅の階段を下りて……
 人の少ない車両を選んで電車に乗り込んで……
 そして、今に至るわけです……
 つかさです……
 疲れました……



 突然、携帯の着信音が鳴った。
 メールが来たみたい。
 鞄を少しだけ開けて携帯を取り出し、メールを確認する。
 送信者は……私?
 本文にはたったの3文字で

『膝掛け』

 とだけ書いてある。
 お姉ちゃんが頑張って打ったメールなのは分かったんだけど……
 膝掛けなんて、何に使うんだろう。



 なんとか無事に学校に到着し、保健室で膝掛けを借りて、教室に入り、自分の席に座って……
 思わずため息。
 やっと着いたね、お姉ちゃん。
 なんだか、いつもの通学路がものすごく長く感じたよ。

 いつも通りのHRが終わり、授業が始まる。
 で、お姉ちゃんが今どこに居るかというと……
 私の、スカートの中。
 借りてきた膝掛けとスカートのおかげで、お姉ちゃんの身体は完全に隠れてしまっている。
 確かに、これなら誰にも見つからないよね。
 さすがお姉ちゃん、頭いいなあ……

 ……
 ………

 落ち着かない。
 いくら姉妹でも、これはちょっと恥ずかしいよ、お姉ちゃん。

 授業が始まる前に、お姉ちゃんに頼まれて、シャーペンの芯とノートの切れ端をこっそり渡しておいたんだけど……
 お姉ちゃん、こんな状況なのに、授業受ける気満々みたい。
 でも、スカートの中でノートなんて取れるのかな?黒板も見えてない筈なのに……


 …不幸な出来事は続けて起きるって、前にこなちゃんが言っていたのを思い出した。
 どうしてそんな事を思い出したかっていうと……
 先生が突然、『抜き打ちの小テストをやる』なんて言い出したから。
 なんということでしょう。
 問題用紙が配られ、テストが始まる。
 そして私は問題文と睨めっこ。
 …ダメ、集中できない。
 お姉ちゃん、あまり動かないでよ……
 こうなったら、お姉ちゃんに助けてもらうしかない。
 私は問題用紙の隅に小さな字で問題を書き写し、その部分をちぎってそっとスカートの中に入れる。
 大丈夫、誰にも見られてない。
 お姉ちゃんも、ちゃんと紙を受け取ってくれた。

 しばらくして、お姉ちゃんが私の内ももをパンパンと叩いてきた。
 私はそっと、スカートの中に手を伸ばす。
 そして、お姉ちゃんから受け取った紙をじっと眺める。
 すごく小さな字で何か書いてある。
 やった。問題の答えだ。 
 やっぱりお姉ちゃんは、頼りになるなぁ。
 何て、書いてあるのかな…?

『自分でなんとかしなさい』

 ……
 お姉ちゃん、いけない事考えてごめんなさい。
 もう、二度としません。



 結局、お姉ちゃんは午前中の授業をずっと私のスカートの中で過ごした。
 そのせいかな、なんだか頭がホワホワしてきた。

「つかささん、どうかされましたか?顔が赤いですよ?」
「ほんとだ。もしかして、つかさも風邪引いてる?ずっと膝掛け当ててるみたいだし」

 突然こなちゃんとゆきちゃんに話しかけられた。
 びっくりした。

「あ、ううん。何でもないよ。ちょっと寒気がするだけだから、平気だよ」
「そっか。じゃ、昼ご飯食べよっか」

 3人で机を囲んでお弁当を食べる。
 こなちゃんは相変わらずチョココロネだけど。

「なんか、かがみがいないと平和だねー」

 こなちゃんがそんな事を言う。
 私は全然平和じゃないよ。
 スカートの中のお姉ちゃんのことでいっぱいいっぱいなんだよ。


「あ、そうそう、かがみと言えば…」

 こなちゃんが何かを思い出したように口を開いた。

「この前、かがみと一緒に本屋に行ったんだけどさ……モグモグごっくん」

 一瞬、スカートの中のお姉ちゃんがビクッと動いたような気がした。
 どうしたんだろう?

「私はアニメ雑誌を買おうと思ったんだけど、かがみは参考書を探すって言うから、別行動をとることにしたんだよね……モグモグごっくん」

 あれ?お姉ちゃんの様子がおかしい。
 さっきから私の内ももをパンパン叩いてる。
 ダメだよお姉ちゃん、そんなところ叩いたら。

「で、私は欲しい物を一通り買い終えて、かがみを呼びに行ったんだよ。そしたらかがみ、参考書のコーナーとは別の場所に居てさ……モグモグごっくん」

 …どうしよう。
 お姉ちゃんのパンパン攻撃がどんどん激しくなってきてる。
 あ、分かった。
 お姉ちゃん、きっとお腹がすいているのかも。
 そうだよね、朝から何も食べてなかったもんね。
 でも、もう少し我慢してね。

「そこで、一冊の本を手に持って、その表紙を真剣に眺めてたんだ……モグモグぷぃっ」

 …お姉ちゃんのパンチが止まらない。
 もしかしてお姉ちゃん、こなちゃんの話に反応してる?
 こなちゃんの話を止めろってこと?
 なんか、言われたらまずいことなのかな?

「私はかがみに気づかれないように、そっとかがみの背後に立って、かがみが見ている本の表紙を覗き見……」
「こなちゃん!」
「は、はひ?」 
「…お鼻にチョコが付いてるよ」

 こなちゃんのお鼻には本当にチョコが付いていた。
 ラッキー。チョココロネが幸運を運んでくれたよ。
 私はこなちゃんのお鼻についたチョコを指で拭い取ってペロッとなめた。
 お姉ちゃんの真似。
 すると、こなちゃんがびっくりしたような表情でこっちを見る。


「つかさ?」
「な、何?」
「もっかいやって」

 こなちゃんがわざとお鼻にチョコを付けておねだりしてきた。
 変なのー。

「泉さん、私でよろしければして差し上げましょうか?」
「おー。じゃあ、今度はみゆきさんにお願いしよっかな」

 ゆきちゃん、ナイス。
 お姉ちゃんの攻撃が止まったよ。
 良かったー。
 …なんて安心していたら、今度はお姉ちゃんが私のももをなでなでしてきた。
 もう、お姉ちゃんってば……

「つかささん、また顔が赤くなっていますよ?大丈夫ですか?」

 き、気のせいだよゆきちゃん……



 お弁当を食べ終えてから、私はお姉ちゃんを連れてある場所にやって来た。

「お姉ちゃん、出てきても大丈夫だよ」

 周りに人がいないことを確かめてから、お姉ちゃんに呼びかける。
 すると、スカートのポケットからお姉ちゃんがヒョコッと顔を出して、周囲をキョロキョロと見回した。

「ここ、屋上じゃない。どうしたのよ?こんな所に連れてきて」
「うん、あのね、お姉ちゃん、お腹すいたでしょ?」
「え…?あ、そう言えば…」

 お姉ちゃんはお腹に手を当てて空腹具合を確かめる。
 なんだか可愛い。

「朝から何も食べてなかったし……ていうか、小さくなってもお腹は減るのね」
「でしょ?だから、お姉ちゃんのお弁当、持ってきたんだよ」

 私は持ってきたお弁当をお姉ちゃんの前に置いて広げた。
 するとお姉ちゃんは、お弁当を包んでいたハンカチの上にちょこんと乗る。


「お姉ちゃん、どれから食べる?」
「うーん……オムレツがいいかな……でも、どうやって食べたらいいか…」
「私にまかせてっ」

 私はお箸でオムレツを小さく切り分ける。

「はい、あーん」
「ちょ、ちょっと……いいわよ、自分で食べるわよ」
「どうやって食べるの?」
「うっ…」

 お箸の先がお姉ちゃんの口にピタッと触れた。

「お姉ちゃん、おいしい?」

 私がそう訊くと、お姉ちゃんは口の中がいっぱいで喋れないのか、黙ったままコクンとうなずいた。

 その後、私はお姉ちゃんが食べられそうな物を一通り食べさせてあげた。
 お姉ちゃんは、始めのうちは周りを警戒していたのか、少し表情が硬かったみたいだけど、
 お腹がいっぱいになる頃にはすっかりリラックスしたのか、いつものお姉ちゃんの笑顔が戻っていた。

「ごちそうさま、つかさ」
「エヘヘ、こちらこそ」
「こちらこそって……何がよ?」
「え?……ううん、何でもない」
「さすがに全部は食べ切れなかったけど、とてもおいしかったわよ、オムレツ」
「うん、ありがと」

 そして、お姉ちゃんのランチタイムは終わった。
 良かった、お姉ちゃんに喜んでもらえて。



 ふと、お姉ちゃんに訊きたいことがあったのを思い出した。
 訊くなら、今しかない。

「ねえお姉ちゃん。お姉ちゃんが本屋さんで見ていた本って…」
「…参考書よ」
「そっか」

 しばらくの間、沈黙が流れる。
 お姉ちゃんは、私の隣で小さく三角座りをしているけど、なんだか表情が冴えない。
 やっぱり、知られたら嫌なことだったんだ。

「お姉ちゃんもしかして、こなちゃんのこと怒ってる?」
「別に。こなたがああいう奴だっていうことくらい、分かってたし」

 『別に』なんて言っているけど、口調が怒っているようにしか聞こえないよ……



 空を見上げると、小さなうろこ雲がプツプツと浮かんでいた。
 空がいつもより高く感じるのは、きっと秋だから。
 お姉ちゃんの目には、この空はどんな風に映っているんだろう。
 もしかしたら、私よりもっと、この空が高いと感じているのかな…?

 私は思わずため息をつく。
 それと同時に、お姉ちゃんも小さなため息をつく。

「夢じゃ……ないのかなぁ…」
「夢じゃ……ないみたいね…」

 やっぱり、これは夢じゃないみたい。
 お姉ちゃんが、夢じゃないって言うから、きっとこれは夢じゃないんだ。
 夢じゃないとしたら、私は本気でお姉ちゃんの身を守らなくちゃいけない。
 やっぱり今のお姉ちゃんにとって、外は危険だらけだ。
 私が少しでも気を緩めたら、お姉ちゃんの身に何が起きるか分からない。

 やっぱり、今日はもう家に帰ろう。
 少しでも早く安全な家に帰って、家でゆっくりしながら、これからのことを考えよう。

「お姉ちゃん」「つかさ」

 言い出そうとして、お姉ちゃんと声が重なった。

「お姉ちゃん、何?」
「あのね、今日はもう帰りましょ」
「えっ?」

 言おうとしていたことを先に言われて、思わずびっくり。

「つかさ、今日はいろいろ大変だったでしょ?通学中も落ち着きなかったみたいだし」
「うん…」
「私の身体のこと、心配してくれてたのよね?ありがとね、つかさ」
「お姉ちゃん…」
「つかさには苦労かけちゃったから、今日は早く帰って、家でゆっくりしましょ。つかさもそうしたいでしょ?」
「うん…」
「ゴメンね。自分で学校に行くって言っておきながら……なんか、つかさを振り回しちゃったわね」
「ううん。そんなこと…」

 そんなことないよ、って言おうとしたけど、言葉が詰まっちゃった。

「お姉ちゃんもしかして、私の考えてる事分かっちゃった?」
「うーん……つかさの顔見てたら、なんとなく、ね」
「そっか。……やっぱり……」
「やっぱり……何?」
「やっぱり、私はお姉ちゃんの妹なんだなって思って」
「どうしたのよ?急に」
「お姉ちゃん、いつもこんな風に、私のこと気遣ってくれて、優しくしてくれて、私はそんなお姉ちゃんに甘えて、助けてもらって……」
「つかさ……」
「でもね、今日は……」

 今日は駄目。甘えちゃ駄目なんだ。

 お姉ちゃんがいつも私を守ってくれたみたいに、今日は私がお姉ちゃんを……



「おーい、つっかさー!」
「あ、泉さん!待ってください!」

 …ま…も……

 ……って、ええぇぇええっ!

「こ、こここ、こなゆきちゃんっ!?」
「げっ!?」

 こなちゃんが凄い勢いでこっちに近づいてくる。
 ゆきちゃんも慌てた様子でこなちゃんの後を追いながらこっちにやってくる。
 お姉ちゃんは完全に隠れるタイミングを失って、その場でガチンと固まってしまった。
 ハイ、それまでヨ……


「じ~~~~~~~~~」

 こなちゃんは両膝に手を当てながら顔をお姉ちゃんに近づけていくと、大きな目をパチパチさせながら
 小さなお姉ちゃんの姿をまじまじと眺める。
 その顔は驚いているような、いないような……
 お姉ちゃんの方は、睨みつけるような目でこなちゃんの顔を見ている。

「……顔近い」
「おー。やっぱりかがみだ」
「……なんで、あんたがここに居るのよ」
「いやー、みゆきさんが、つかさがお弁当を持ってどこかに行くのを見たって言うから、つかさもついにっ!?と思ってさ」
「つかさもついにって……あんたまさか、そういうシチュエーションを期待して……」
「その通り。リアルでギャルゲみたいなシチュを拝めると思って、ワクテカしながらつかさのこと探してたんだよ」

 ギャルゲー?シチュー?何のことだろう?

「はぁ……で、ここに辿り着いたと」
「そ。お弁当イベントの定番と言えばやっぱり屋上だからね。で、実際に来てみたら、ギャルゲを遥かに超える光景が!…いやー、まさかかがみがこんなに…ちっちゃく…ねぇ」
「こなちゃん……さっきからあまり驚いてないみたいだけど……もしかしてずっと見てたの?」
「ん。そだよー。草葉の陰からじっくり拝見させていただきました」
「待て。言葉の使い方を間違えてるわよ。っていうかいつから居たのよ」
「うーん……つかさが『あーん』てする辺りからかな」
「……ッッ!」
「本当に仲のよろしいことで」
「あ、あんたねぇ……もう少し驚くとか、心配するとか、そういう反応はないわけ?人の身体が突然小さくなったのよ?
 朝から私とつかさがどれだけ大変だったか……」
「びっくりした!かがみ、大丈夫?」
「わざとらし過ぎるだろ、あんたは!」
「あのー……かがみさん」

 しゃがみ込んだまま固まっていたゆきちゃんがやっと口を開いた。
 良かった、気絶はしていなかったみたい。



「あの、本当にかがみさんなんですか?未だに信じられないのですが……お身体、大丈夫ですか?」
「うーん……小さくなった以外は特に何とも……ちゃんとご飯も食べられるし……みゆき、心配してくれてありがとね」
「あ、いえ……」

 ゆきちゃんがなぜか照れ笑い。

「ほら、みゆきを御覧なさいよ。みゆきみたいな反応が普通でしょ。あんたももう少し……」
「かーがみっ!」
「うわっ!?」

 こなちゃんが突然、指でお姉ちゃんの足をちょんと払うと、お姉ちゃんはそのままこなちゃんの手のひらの上に倒れた。

「かがみ、軽っ!」
「ちょっ、乱暴すな!」

 こなちゃんはお姉ちゃんを手のひらに乗せたまま立ち上がると、お姉ちゃんのワンピースをパッとめくって……

「なんだ、下着も着けてるのか」
「期待に添えなくて悪かったわね。いいから早く降ろしなさいよ」
「つれないなー。せっかく元に戻してあげようと思ったのに」
「えっ……?」

 こなちゃん、今なんて言ったの?
 元に戻す?こなちゃん、お姉ちゃんを元に戻す方法を知ってるの?

 こなちゃんは、ポケットに手を入れて何かを探し当てたかと思うと、その手を頭上に突き上げて……

「テッテケテッテテー、ビッグライトー!」
「似てねぇ!」

 こなちゃんの手には……何も握られていなかった。
 がっくし。

「期待して損したわ、まったく。期待してなかったけど」
「かがみ、言ってることおかしいよ?」
「…うるさい」

 こなちゃんは、可愛い小動物を見るような視線でお姉ちゃんを見つめながら、指先でお姉ちゃんの頭をなでなでする。
 お姉ちゃんは、相変わらずムスッとした表情のまま。
 すると、こなちゃんの表情がニマッとなって……

「つかさ……今日、かがみお持ち帰りしてもいい?」
「だ、ダメ!お姉ちゃんは私と一緒に家に帰るの!だから邪魔しないで!」
「うおっ!?つかさ、なんか怖いよ。どうしたの?」

 ああ、私、何言ってるんだろう。
 もう少し落ち着かなきゃ。



「お持ち帰りはダメかー。じゃあ、ここで思う存分……」
「うわっ!なんで頭に乗せるのよ!危ないっての!」

 こなちゃんは手のひらに乗ったお姉ちゃんをさらに持ち上げると、お姉ちゃんを頭の上にちょこんと置いた。
 どうしよう、すごく嫌な予感がする。 

「見て見てー。アホ毛とかがみの背比べ。どっちが大きいかなー」
「どっちでもいいわよそんなの!いいから早くおろし……てあっ!」
「あっ!」
「あっ!」

 …嫌な予感が的中した。
 お姉ちゃんがズルッと足をすべらせてバランスを崩してこなちゃんのアホ毛をギュッと掴んだけど
 掴んでいた手からアホ毛がスルッと抜けてそのままお姉ちゃんが……!!

 落ちた。

 そして次の瞬間ゆきちゃんが勢いよく両手を前に伸ばしたかと思うと空中でお姉ちゃんをキャッチして
 そのまま勢いよく地面に倒れこんだ……!!

 …一瞬の出来事だった。

「お姉ちゃん!ゆきちゃん!だだだだ大丈夫!?」
「はぁはぁ……心臓が止まるかと思ったわ……ってみゆき!大丈夫!?」

 ……
 しばらくしてから、うつ伏せの状態で倒れていたゆきちゃんがむくっと起き上がってその場に正座した。
 手のひらにお姉ちゃんを乗せたまま。

 ゆきちゃんは無事だったみたいだけど、何か様子がおかしい。
 何かパーツが足りないような…?

「ハッ!眼鏡!?眼鏡はどこですかーっ!?」
「みゆき……非常に残念なことに眼鏡は……」

 …ゆきちゃんの眼鏡は、見るも無残な姿で地面に横たわっていた。
 でも、お姉ちゃんとゆきちゃんは無事だった。良かった。本当に良かった。

「かがみさん、お怪我はありませんか?」
「平気よ。おかげで助かったわ。本当にありがとう、みゆき。…眼鏡は残念だったけど」
「いえ。かがみさんの為なら、こんな……万円程度の眼鏡、いくら犠牲になろうとも構いません」
「みゆき……」

 見つめ合うお姉ちゃんとゆきちゃん。
 これから、何が起きるんだろう……

「かがみさん……あの……」
「……何?」
「すごく……小さいです……わたし……近眼で良かったです」
「は?……あ、うん。そうね。良かったわね、みゆき」

 近眼で良かったね、ゆきちゃん。…?

「かがみゴメンッ。さすがに今のは危なかったね。それにしても、みゆきさんグッジョブ!」

 お姉ちゃんは、こなちゃんの言葉には何も応えずに、こなちゃんから逃げるように走り出した。
 お姉ちゃん、とうとう怒っちゃったのかな…?
 するとお姉ちゃんは、私の背後に回りこんで私の制服をギュッと掴んだ。
 …キタ。

「お姉ちゃん?」

 お姉ちゃんは黙ったまま、こなちゃんの姿をじっと……怒ったような表情で……
 …あれ、なんか違う。
 いつも強気なはずのお姉ちゃんが、怯えてる…?
 こなちゃんの方は、少し静かになったみたいだけど、相変わらずお姉ちゃんの姿をジーッと、物欲しそうな顔で……
 …ってこなちゃん、その顔はまずいよ……お姉ちゃん、余計に怖がっちゃうよ……


「お姉ちゃん、大丈夫だよ」

 私はそう言ってお姉ちゃんの背中にそっと手を添える。
 すると今度は、何かを訴えかけるような目で私の顔を見上げてくる。
 うぅ、どうしよう……
 私には、お姉ちゃんみたいにこなちゃんを……なんて……



 …決めた。

 ここから逃げよう。
 で、家に帰ろう。

「お姉ちゃんっ!ポケット!」
「え?…あ、うん」

 慌ててお姉ちゃんをポケットの中に導き入れる。
 そして私は立ち上がり、フェンスの前に立って、スーッと深く息を吸い……

「こなちゃん!校門に小神あきらちゃんがいるよ!」
「な、なんですとぉぉっ!?」

 ビュンッ!とこなちゃんが飛んできてフェンスをガシッと掴んだ。
 えっ?うそ?計画通り?
 …よ、よし、こなちゃんには悪いけど、気を取られている隙に…そーっと…一歩後ろに下がって……

「お姉ちゃん、ちょっと揺れるけど我慢してね」

 小声でお姉ちゃんにそう呼びかけて、ゆきちゃんには両手で『ゴメンね』の合図を送ってから……


 私は走った。できるだけ小走りで。


「ねぇ、あきらどこにもいないよ?」
「泉さん、ほら、あそこです」

 遠くでこなちゃんとゆきちゃんのそんなやりとりが聞こえた。
 ゆきちゃん、ありがとう。
 私、今日のゆきちゃんの活躍、一生忘れないよ。



 戸惑いの気持ちもまだあるけど……
 こんな私じゃ頼りないかもしれないけど……
 今は、自分にできることを精一杯やらなくちゃ。

 お姉ちゃんを安心させるために。
 お姉ちゃんを守るために。













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  • うぁあぁあぁ!GJ!みゆきも、かがみが好きなのかな?かな? -- 名無しさん (2010-10-24 12:34:12)
  • みゆきの眼鏡はいくらだったんだろう? -- 名無しさん (2010-10-09 12:01:51)
  • つ、続き見てーッ!!!!! -- フウリ (2008-03-29 17:01:43)
  • 素晴らしき姉妹愛!GJ!
    感動しました! -- 名無しさん (2007-10-23 01:08:54)

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