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残し物-6

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匿名ユーザー

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近頃は寒くなってか、こなたが時折咳込むようになった。
2~3度鳴らせば収まる程度なので、軽い風邪を拗らせているのだろう。
一応塩梅を尋ねたが、本人もまるで平気との事。
そればかりは流石に止めるのも聞かず、さっさと買い物に出掛けてしまった。


こなたが行ってしまったため、私は久しく一人になった。
部屋にはベッドに転がる私と、唸りをあげる石油ストーブが存在を示す。
ポカポカと暖かい室内とは対照に、心持ちは何処か空風が吹いているようであり
出所の分からない虚しさを感じて、息継ぎの如く寝返りをうった。

「………。」

これは所謂、暇という奴だろうか。
何もしないでいる今の時間が、ひどく物足りなく、又 惜しいと感じる。
だが観賞対象のこなたを欠いてしまい、全くの手持ちぶさたになった私には
まるで成す術なく、不服を募らせるだけだった。

「………。」

外は冬の雲一色に覆われていて、それが窓の向こうに伺える。
枯れ木の枝先が揺れたかと思えば、窓は小さく音をたてた。
酷寒であろうあの外の世界に、小さな少女が出掛けたのだと思えば
彼女に大きく被せたコートでさえ、ふと頼りないものに感じていた。

「……やっぱり、私もついてけばよかったわね」

所詮同行した所で、冬のこの寒さがどうなる訳ではないが
独りで歩くこなたを想像すると、押してでも側にありたいという衝動が湧く。
無論に暇を潰せる利点でもあるのだが
彼女の事を慈悲する今では、二の次以下に成り下がっていた。

これ程に甘くなってしまう理由は、風邪気味の彼女に気を配っているという事にしておきたい。




『──ピンポーン』

若干悶々とする私を余所に、玄関の呼び鈴が空気を割った。
一瞬不覚にも心が跳ねてしまったが、よく考えればこなたではない。
彼女にはスペアキーを与えてあるので、今では確認なしに敷居を跨ぐ。
とすれば来客、悪しくは悪戯となり
やれやれと、さも億劫げにベッドを降りた。

……………

「はいはい、どちらさま?」

ため息を交えてインターホンを前にする
画面は外の色に馴染んで灰っぽくて、横に薄くノイズがかかる。
中心に型どる人影があり、訪問者の存在を示していた。

確かに見慣れないそれは、何処か優しげな色を持った声を聞かせた。


『泉、そうじろうと申す者ですがー…。』


─────


しんと静かな空気の中では、ストーブの唸りもすっかり霞んだ。
逆に時計の針の音だけが独占して、私ともう一人存在する部屋を満たしている。
小さなテーブルを隔てて向かい合い、黙然と座るだけの両者には
緊迫の空気が張り巡っていると、少なくとも私は感じていた。

泉そうじろうと名乗ったこの男
青い髪をして泣きボクロ。
さらにその姓が決定づけて、こなたの親御さんだと了解させた。

私はかくして、非常にまずい事態だ。
どう捻ってもそうとしか感じない。
冷や汗でも流れそうな私の心境を、察する事は至極造作もない筈だ。




~~~~~

『君か、うちの娘をたぶらかしてくれたのは!』
『半年間も部屋に連れ込むとはどういう了見だ!』
『あれやこれやと幼い身体をいたぶったに違いない』
『警察だ警察、国家権力様にしょっぴいてもらおう!』

~~~~~


私の震えは収まる時期を知らない。
状態は所謂ガクブルだ。

つい先程に思い知った事だが、こなたにも当然家庭があったのだ。
わざわざお父様が心配してお越しくださる辺り、家出といっても彼女の一方的な行動だろう。
親御さんが追い出した訳ではないのだから、必死に行方を探すのは当然で。
その本人の彼からすれば、私は拉致犯罪者に変わりないのだ。

未だ腕を組み、黙り込む父。
目はすっと閉じて、考えに耽っているのだろうか。
動きを見せない現状に堪えかねて、私は恐る恐るに口を開いた。


「あ、あの──

「……こなたは、外に?」

やや後出しで彼が口をきくと、私は飛び退くように切り替えて頷いた。
重い扉はようやく開けて、会話が始まろうとしている。
情けない話だが、ここで私はどうにかお許しを請うしかない。
その最良となるタイミングを逃さまいと、重心を前において座り直した。


「そうか…丁度よかったよ」

「………。」

「アイツに顔を会わせると、多分また逃げられちゃうからなぁ」

控え目に苦笑いをして、指先で頬元を軽く掻く。
その様子や声色からして、私に腹を立ててないと伺えて先ずは安心した。
見た目相応に穏やかな性格なのか、私やこなたすら責めようとする気を感じない。
彼の顎骨に沿った無精髭が、指に擦られて音を鳴らした。

「こなたに…、お会いにならないんですか?」

目前の湯飲みに両手を添えて腕の居場所をつくると、自然とテーブルに体重が乗る。
ぎし……と細かな音を残して、無事に身体を支えきった。

「君の所ではうまくやってるんだろう?
それを俺が荒立てる事もないさ」

加えて、迷惑をかけてすまないとも仰った。
とんでもないと手のひらを振ったが、その隙間に見える彼の表情は些か不思議だった。
相変わらずの苦笑いを作る口元に、幾分儚げに縁取る目元。
こなたに会わないと言うそのワケを語るようで、口から直接には聞けなかった。





一時間近くに及んだだろうか。
私は出来る限り、彼に半年間のこなたの様子を伝えた。
野宿をしていた事、無愛想な事。
枕を投げてくる事、海に連れていった事。

私の利己的とも言える節介の、せめてもの罪滅ぼしと感謝の意を込め。
相づちをうつ彼が時折笑みを見せると、私の心も救われた気がした。


─────


外は夕焼けの変わりに一層煤けて、窓から射す光もとうに無くなった。
代わりに数枚の葉が飛び交って、未だ吹き付ける木枯らしを教えている。

彼女と鉢合わせる前にはと、その腰を上げた泉そうじろうに
私は乗じて、とうとう最後に伺った。

「…こなた、どうして家出しちゃったんですか?」


彼はすっと立ち上がったまま、テーブルに備わる私を見下ろしている。
その姿は歳故の、柔らかな哀愁を帯びていて。
しかし目はやはり愁いに染まっていて、端から見れば涙を流さないのが不思議だった。
ふと窓から薄い光が射し、彼の背後を仄かに照らした。


「…犬や猫は、なついていても
突然主人の前から姿を消してしまう事があるらしいね」

「………」


「そういう事なんじゃないかと、俺は思ってるんだ。」


出来れば娘と、これからも宜しくしてくれると有難い。
それと何度かの礼を残して、彼は玄関の戸を閉めた。













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  • あっ、そういう事か...(/ _ ; ) -- 名無しさん (2023-08-09 10:35:01)

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