近頃は寒くなってか、こなたが時折咳込むようになった。
2~3度鳴らせば収まる程度なので、軽い風邪を拗らせているのだろう。
一応塩梅を尋ねたが、本人もまるで平気との事。
そればかりは流石に止めるのも聞かず、さっさと買い物に出掛けてしまった。
2~3度鳴らせば収まる程度なので、軽い風邪を拗らせているのだろう。
一応塩梅を尋ねたが、本人もまるで平気との事。
そればかりは流石に止めるのも聞かず、さっさと買い物に出掛けてしまった。
こなたが行ってしまったため、私は久しく一人になった。
部屋にはベッドに転がる私と、唸りをあげる石油ストーブが存在を示す。
ポカポカと暖かい室内とは対照に、心持ちは何処か空風が吹いているようであり
出所の分からない虚しさを感じて、息継ぎの如く寝返りをうった。
部屋にはベッドに転がる私と、唸りをあげる石油ストーブが存在を示す。
ポカポカと暖かい室内とは対照に、心持ちは何処か空風が吹いているようであり
出所の分からない虚しさを感じて、息継ぎの如く寝返りをうった。
「………。」
これは所謂、暇という奴だろうか。
何もしないでいる今の時間が、ひどく物足りなく、又 惜しいと感じる。
だが観賞対象のこなたを欠いてしまい、全くの手持ちぶさたになった私には
まるで成す術なく、不服を募らせるだけだった。
何もしないでいる今の時間が、ひどく物足りなく、又 惜しいと感じる。
だが観賞対象のこなたを欠いてしまい、全くの手持ちぶさたになった私には
まるで成す術なく、不服を募らせるだけだった。
「………。」
外は冬の雲一色に覆われていて、それが窓の向こうに伺える。
枯れ木の枝先が揺れたかと思えば、窓は小さく音をたてた。
酷寒であろうあの外の世界に、小さな少女が出掛けたのだと思えば
彼女に大きく被せたコートでさえ、ふと頼りないものに感じていた。
枯れ木の枝先が揺れたかと思えば、窓は小さく音をたてた。
酷寒であろうあの外の世界に、小さな少女が出掛けたのだと思えば
彼女に大きく被せたコートでさえ、ふと頼りないものに感じていた。
「……やっぱり、私もついてけばよかったわね」
所詮同行した所で、冬のこの寒さがどうなる訳ではないが
独りで歩くこなたを想像すると、押してでも側にありたいという衝動が湧く。
無論に暇を潰せる利点でもあるのだが
彼女の事を慈悲する今では、二の次以下に成り下がっていた。
独りで歩くこなたを想像すると、押してでも側にありたいという衝動が湧く。
無論に暇を潰せる利点でもあるのだが
彼女の事を慈悲する今では、二の次以下に成り下がっていた。
これ程に甘くなってしまう理由は、風邪気味の彼女に気を配っているという事にしておきたい。
『──ピンポーン』
若干悶々とする私を余所に、玄関の呼び鈴が空気を割った。
一瞬不覚にも心が跳ねてしまったが、よく考えればこなたではない。
彼女にはスペアキーを与えてあるので、今では確認なしに敷居を跨ぐ。
とすれば来客、悪しくは悪戯となり
やれやれと、さも億劫げにベッドを降りた。
一瞬不覚にも心が跳ねてしまったが、よく考えればこなたではない。
彼女にはスペアキーを与えてあるので、今では確認なしに敷居を跨ぐ。
とすれば来客、悪しくは悪戯となり
やれやれと、さも億劫げにベッドを降りた。
……………
「はいはい、どちらさま?」
ため息を交えてインターホンを前にする
画面は外の色に馴染んで灰っぽくて、横に薄くノイズがかかる。
中心に型どる人影があり、訪問者の存在を示していた。
画面は外の色に馴染んで灰っぽくて、横に薄くノイズがかかる。
中心に型どる人影があり、訪問者の存在を示していた。
確かに見慣れないそれは、何処か優しげな色を持った声を聞かせた。
『泉、そうじろうと申す者ですがー…。』
─────
しんと静かな空気の中では、ストーブの唸りもすっかり霞んだ。
逆に時計の針の音だけが独占して、私ともう一人存在する部屋を満たしている。
小さなテーブルを隔てて向かい合い、黙然と座るだけの両者には
緊迫の空気が張り巡っていると、少なくとも私は感じていた。
逆に時計の針の音だけが独占して、私ともう一人存在する部屋を満たしている。
小さなテーブルを隔てて向かい合い、黙然と座るだけの両者には
緊迫の空気が張り巡っていると、少なくとも私は感じていた。
泉そうじろうと名乗ったこの男
青い髪をして泣きボクロ。
さらにその姓が決定づけて、こなたの親御さんだと了解させた。
青い髪をして泣きボクロ。
さらにその姓が決定づけて、こなたの親御さんだと了解させた。
私はかくして、非常にまずい事態だ。
どう捻ってもそうとしか感じない。
冷や汗でも流れそうな私の心境を、察する事は至極造作もない筈だ。
どう捻ってもそうとしか感じない。
冷や汗でも流れそうな私の心境を、察する事は至極造作もない筈だ。
~~~~~
『君か、うちの娘をたぶらかしてくれたのは!』
『半年間も部屋に連れ込むとはどういう了見だ!』
『あれやこれやと幼い身体をいたぶったに違いない』
『警察だ警察、国家権力様にしょっぴいてもらおう!』
『半年間も部屋に連れ込むとはどういう了見だ!』
『あれやこれやと幼い身体をいたぶったに違いない』
『警察だ警察、国家権力様にしょっぴいてもらおう!』
~~~~~
私の震えは収まる時期を知らない。
状態は所謂ガクブルだ。
状態は所謂ガクブルだ。
つい先程に思い知った事だが、こなたにも当然家庭があったのだ。
わざわざお父様が心配してお越しくださる辺り、家出といっても彼女の一方的な行動だろう。
親御さんが追い出した訳ではないのだから、必死に行方を探すのは当然で。
その本人の彼からすれば、私は拉致犯罪者に変わりないのだ。
わざわざお父様が心配してお越しくださる辺り、家出といっても彼女の一方的な行動だろう。
親御さんが追い出した訳ではないのだから、必死に行方を探すのは当然で。
その本人の彼からすれば、私は拉致犯罪者に変わりないのだ。
未だ腕を組み、黙り込む父。
目はすっと閉じて、考えに耽っているのだろうか。
動きを見せない現状に堪えかねて、私は恐る恐るに口を開いた。
目はすっと閉じて、考えに耽っているのだろうか。
動きを見せない現状に堪えかねて、私は恐る恐るに口を開いた。
「あ、あの──
「……こなたは、外に?」
やや後出しで彼が口をきくと、私は飛び退くように切り替えて頷いた。
重い扉はようやく開けて、会話が始まろうとしている。
情けない話だが、ここで私はどうにかお許しを請うしかない。
その最良となるタイミングを逃さまいと、重心を前において座り直した。
重い扉はようやく開けて、会話が始まろうとしている。
情けない話だが、ここで私はどうにかお許しを請うしかない。
その最良となるタイミングを逃さまいと、重心を前において座り直した。
「そうか…丁度よかったよ」
「………。」
「アイツに顔を会わせると、多分また逃げられちゃうからなぁ」
控え目に苦笑いをして、指先で頬元を軽く掻く。
その様子や声色からして、私に腹を立ててないと伺えて先ずは安心した。
見た目相応に穏やかな性格なのか、私やこなたすら責めようとする気を感じない。
彼の顎骨に沿った無精髭が、指に擦られて音を鳴らした。
その様子や声色からして、私に腹を立ててないと伺えて先ずは安心した。
見た目相応に穏やかな性格なのか、私やこなたすら責めようとする気を感じない。
彼の顎骨に沿った無精髭が、指に擦られて音を鳴らした。
「こなたに…、お会いにならないんですか?」
目前の湯飲みに両手を添えて腕の居場所をつくると、自然とテーブルに体重が乗る。
ぎし……と細かな音を残して、無事に身体を支えきった。
ぎし……と細かな音を残して、無事に身体を支えきった。
「君の所ではうまくやってるんだろう?
それを俺が荒立てる事もないさ」
それを俺が荒立てる事もないさ」
加えて、迷惑をかけてすまないとも仰った。
とんでもないと手のひらを振ったが、その隙間に見える彼の表情は些か不思議だった。
相変わらずの苦笑いを作る口元に、幾分儚げに縁取る目元。
こなたに会わないと言うそのワケを語るようで、口から直接には聞けなかった。
とんでもないと手のひらを振ったが、その隙間に見える彼の表情は些か不思議だった。
相変わらずの苦笑いを作る口元に、幾分儚げに縁取る目元。
こなたに会わないと言うそのワケを語るようで、口から直接には聞けなかった。
一時間近くに及んだだろうか。
私は出来る限り、彼に半年間のこなたの様子を伝えた。
野宿をしていた事、無愛想な事。
枕を投げてくる事、海に連れていった事。
私は出来る限り、彼に半年間のこなたの様子を伝えた。
野宿をしていた事、無愛想な事。
枕を投げてくる事、海に連れていった事。
私の利己的とも言える節介の、せめてもの罪滅ぼしと感謝の意を込め。
相づちをうつ彼が時折笑みを見せると、私の心も救われた気がした。
相づちをうつ彼が時折笑みを見せると、私の心も救われた気がした。
─────
外は夕焼けの変わりに一層煤けて、窓から射す光もとうに無くなった。
代わりに数枚の葉が飛び交って、未だ吹き付ける木枯らしを教えている。
代わりに数枚の葉が飛び交って、未だ吹き付ける木枯らしを教えている。
彼女と鉢合わせる前にはと、その腰を上げた泉そうじろうに
私は乗じて、とうとう最後に伺った。
私は乗じて、とうとう最後に伺った。
「…こなた、どうして家出しちゃったんですか?」
彼はすっと立ち上がったまま、テーブルに備わる私を見下ろしている。
その姿は歳故の、柔らかな哀愁を帯びていて。
しかし目はやはり愁いに染まっていて、端から見れば涙を流さないのが不思議だった。
ふと窓から薄い光が射し、彼の背後を仄かに照らした。
その姿は歳故の、柔らかな哀愁を帯びていて。
しかし目はやはり愁いに染まっていて、端から見れば涙を流さないのが不思議だった。
ふと窓から薄い光が射し、彼の背後を仄かに照らした。
「…犬や猫は、なついていても
突然主人の前から姿を消してしまう事があるらしいね」
突然主人の前から姿を消してしまう事があるらしいね」
「………」
「そういう事なんじゃないかと、俺は思ってるんだ。」
出来れば娘と、これからも宜しくしてくれると有難い。
それと何度かの礼を残して、彼は玄関の戸を閉めた。
それと何度かの礼を残して、彼は玄関の戸を閉めた。
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- あっ、そういう事か...(/ _ ; ) -- 名無しさん (2023-08-09 10:35:01)