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IFから始まるStory 序章

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 私が覚えていたのは、今にも雪に変わるのではないかと思う程の冷たい雨が降りしきる中、
 隣で嗚咽を漏らすつかさに掛ける言葉が何も思いつかず、
 唖然と立ち尽くしていた事だけだった。

 2月の中旬。私とつかさは稜桜学園から届いた2通の封筒を受け取った。

 片方は分厚くて重くタブロイド紙でも入っているのではないかと思ってしまう程だが、
 片方は薄くて軽く風が吹けば儚くも消えてしまいそう。

 私は『柊かがみ様』と書かれた封筒を両手で持ち、
 つかさは封筒を利き手だけで握りしめながら、
 冷たい雨に入り混じる様な嗚咽を漏らしていた。


2005年3月のとある平日

「つかさー、用意できた?」
「もう少し待って、お姉ちゃん」
今日は良く晴れた冬晴れで、縁側で日向ぼっこでもしたら気持ち良さそうね。
私はそんな事を思いながら、今日という日が来なければ良いのにと何十回
ううん、何百回も思ったことか。
「おまたせ、お姉ちゃん」
そんな叶わない思いを浮かべていたら今日も笑顔がチャームポイントのつかさが、
にこやかに話しかけてくる。
「ほら、早く行くわよ」
「そ、そんなに慌てなくても」
「何言ってるのよ。中学校に行くのは今日で最後なのよ。最後くらいは早く行きたいじゃない」


今日で町内の中学校に通う私達のライフスタイルにピリオドが打たれ、
桜が満開を迎える頃には新たな生活がスタートする。
それは雪が解ければ水になる位に自然な事だけど、
私はその『自然な事』を受け入れられる自信が無い。

永遠に続けば良いのにと思う通学路を歩いていると、
どこか遠くを見ていたつかさが私を見ないで呟いてくる。
「ねえ、お姉ちゃん」
「なに?」
「今日で最後なんだね。一緒に学校へ行けるのが」
「そうよ」
だから10分でも1分でも1秒でも、つかさと一緒に居る時間が欲しかった。

視線を真正面から45度くらい上に向けると、視界一面にディープブルーが広がる。
飲み込まれそうな青空を見つめていると、また思い出してしまう。
私とつかさのターニングポイントとなった、あの日の事を。


  『つかさ・・・風邪ひくから家に入ろ』
  『ぐす・・・ぐす・・・』
  『ねえ、つかさ・・・』
  『・・・ごめんね、お姉ちゃん』
  『え?』
  『わたし・・・稜桜学園、落ちちゃった』
  『な、なんでつかさが謝るのよ!』
  『だって・・・だって約束したから。お姉ちゃんと一緒の高校に行こうって』
  『その事なら大丈夫よ』
  『ふえ?』
  『私と一緒に他の高校も受けてるでしょ。私はつかさが合格した高校に行けば良いのよ』
  『ダ、ダメー!絶対ダメ!! お姉ちゃんは将来の夢を叶える為に稜桜学園を本命にしたんでしょ。
   もし稜桜学園を断ったら、私は本気で怒るよ』


つかさと一緒に居て15年が過ぎたけど、あんなに声を荒げたのは初めてだったわね。


「あ、お姉ちゃん。見て見て」
さっきまでの憂いを帯びた雰囲気は消え去り、
普段通りの無邪気なつかさが真っ青な空に一点だけ現れた雲を指さす。
私も憂鬱な気分を引きずっていられないわ。
「なに?」
「あの雲、チョココロネみたいだね」
「本当ね。でも、なんでチョココロネ?」
「う~ん、なんとなく」

9年間続いた登校途中の他愛もない会話も今日で最後と思うと、目頭が熱くなってくる。
でも私は泣かない。つかさの前では泣いちゃ駄目。
それは、つかさに余計な心配を掛けたくないという姉心と
つかさの前でみっともない姿を晒せたくないという姉の威厳からくる虚勢だった。



卒業式も恙無く終り、お気に入りの先輩が卒業した事で涙を見せる在校生や
新たな生活への期待と不安で一杯になっている卒業生を尻目に、
私は日の当らない校舎裏へ足を進めていた。

「まだ来てないか・・・」
返事をしてくれる相手が居るわけでも無いのに、私は反射的に呟いていた。
呟いていないと一人だけ取り残された気持ちにさせられる不思議な力が
此処には有るのかもしれないが、所詮は強がりなだけ。

「あ、早かったね。お姉ちゃん」
私に遅れること数分。眼尻が赤くなっているつかさが現れたのを見て、
気温よりも寒く感じていた私の心が一気に温もりを取り戻してくる。

つかさが居ればいつだって感じられる温もりも今日で終わり。
だから私は、つかさに伝えたい事がある。

15年間つかさと一緒に過ごしてきた日常が過去の出来事になってしまう前に

ただ一言だけ「ありがとう」と



「ねえ、お姉ちゃん・・・今までありがとう」
気持の整理が出来る前につかさは飛びっきりの笑顔で私を見ながら、
一言一言を選んで話を続けてくる。
まるで日本語を覚えたての外国人みたいで滑稽だけど、
私の鼓膜を震えさせるには十分すぎる言葉。

「今日でお姉ちゃんと一緒に過ごす日々が終わるけど・・・
 一生離れ離れになる訳じゃないから
 違う学校に行っても私はお姉ちゃんの妹で
 お姉ちゃんは私のお姉ちゃんだから

 だから・・・

 だから、お姉ちゃんは自分の道を進んでね」

垂れ目な瞳から零れ落ちる雫の存在に、
本人は気付いていないような笑顔で私を見つめるつかさの顔が、
徐々にぼやけてくる。

「あはは・・・お姉ちゃんでも泣くんだ」
「つかさだって」

姉の威厳や妹を思う姉の心なんか、今は関係ない。

私達は双子なのよ
生まれた時からずっと一緒に過ごしてきた
幼稚園も小学校も中学校も

どんな時も一緒で
私の心を温かくしてくれた


「今まで私を支えてくれてありがとう・・・つかさ」


これからは自分の道を進んで行くわ













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  • なんだか切ないッスね!
    -- チャムチロ (2012-09-27 20:54:46)

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