kairakunoza @ ウィキ

Elope 第3話

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
Elope 第2話に戻る
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 3. (かがみ視点)


 今日は24日。いわゆるクリスマス・イブだ。

 本来なら楽しい日のはずだったが、一本の電話が全てを変えた。
 こなたとゆたかちゃんが駆け落ちしたと聞いたとき、本当に
目の前が真っ暗になった。
 衝撃を受けたまま半ば叫ぶようになって尋ねる。

「いつからいなくなったの? 」
『岩崎さんの親御さんの話によると、終業式の夜に家をでたそうです』
「岩崎……あ、ゆたかちゃんと仲良くしている背の高い子ね」
『ええ。昨日の朝、小早川さんの親御さんが、ゆたかちゃんが家に
寄っていないか、電話してきたそうです』
 みゆきの話がやけに遠くに聞こえてしまう。

「それでですね。あ、あの…… かがみさん。聞こえてます? 」
「あ、ああ。ゴメン」
 激しく揺れる心を、何とか押さえ込む。

(落ち着け、私。慌てては駄目だ)
 こなたとゆたかちゃんの関係についての噂は、12月も半ばに
差し掛かった頃に、不自然な程に急速に広まった。
 こなたから、普段からは想像できないほどの暗い顔つきで、
ゆたかちゃんが実家に戻されたのを聞いた日が、終業式の前日だ。


 事件が起きる前兆は十分すぎる程あったのに、二人の行動に
気がつけなかった、自分の愚かさ加減に心底腹がたつ。
 激しく乱れる心を必死で抑えながら、私はみゆきに尋ねた。
「みゆきにも、心当たりはないのね」
「ええ…… 残念ですが 」
「でも、皆で考えれば、何かいい知恵が浮かぶかもしれない」
「そうですね。私たちの知らないことを把握している方もいるでしょうし」
 衝撃で固まっていた私の思考が、ようやく動き出す。

「こなたとゆたかちゃんの関係者を呼ぼう」
「関係者…… ですか」
 みゆきが流石に驚いた口調になる。
「もちろん。来ることができない子もいるけど、できる限り集めたいの。
みゆきも手伝って欲しい」
「分かりました」
 みゆきと連絡先を分担した後、私は黒電話の受話器を下ろした。

「こなたの…… 馬鹿」
 なんで、相談してくれないの? 
 喉から出掛かった言葉を押さえ込み、私は携帯のボタンを押し続けた。


 2時間後、電話をしたメンバーは全員集結を終えた。
 私に、妹のつかさ、みゆきの3年生、パティことパトリシアさんと、
岩崎みなみさん、田村ひよりさんの1年生、合計6名が、私の家の
居間に集まる。
 誰の目にも不安と焦燥の色が混じっていた。

 私は一同を見渡してから、おもむろに口を開く。
「もう、みんなも知っていると思うけど、一昨日の夜、こなたと
小早川ゆたかちゃんが失踪したの」

 厳しい視線が私に集中する。
「最初に知った、岩崎さんから教えてくれるかしら」
「はい…… 」
 やや青ざめた顔色で、岩崎さんは口を開く。
「昨日の昼頃、私の家に、ゆたかのお母さんから電話がありました。
今朝、起きたときに机の上に、泉先輩と『駆け落ち』をする旨の書き置きが
あったそうです」
「ゆたかちゃんの、自筆の書き置きですか? 」
 みゆきの質問に、岩崎さんは頷いた。
「はい。詳しい内容は分かりませんが、泉先輩との仲が引き裂かれたので、
駆け落ちをするしかない、と書かれていたそうです」

 みゆきが続けて質問する。
「小早川さんの親御さんは警察には連絡したのでしょうか? 」
 みなみちゃんは首をかしげた。
「実は、私も警察に届けているか伺ったのです。しかし、親御さんは
自分達のせいだと悔やんでいらっしゃって…… その為か、今のところ
警察に届けるつもりはないそうです」
 無口な印象を受ける岩崎さんだったけど、今日はかなり詳細に
話してくれた。
「ありがとう。岩崎さん」
「いえ」


 なかば、刑事課の失踪事件に対する捜索会議という雰囲気で
話が進んでいく。

「田村さんと、パティはいつ知ったのかしら」
 まず、田村さんが口を開いた。
「私が知ったのは、岩崎さんから電話を受けた時からっス。
内容はさっき、岩崎さんと話されたことしか分からないっスよ」

 続いて、パティが流暢な日本語で語る。
「ワタシは、こなたが昨日、バイトのシフトがあったのに
来なかったから、おかしいと思ってケイタイに電話シマシタ。
 でも、全然つながらなくって、こなたの自宅にデンワしたの
ですよ」
 パティは豊かな胸をゆらしながら続ける。
「こなたのファザーが出てきて、こなたとゆたかがElopeした
ことを知りました。」
「えろーぷ? 」
 つかさが首をかしげる。
「はい。Elopeです。日本語で言うと『駆け落ち』ですね。決して家出では
ありません」
「あ、ありがとう。パティちゃん」

 つかさがほんわかした笑顔を浮かべてお礼を言った。受験は大丈夫か? 
「こなたのファザー。泣きそうな感じでした。最愛の娘と、萌え要素の
カタマリのゆたかが同時に姿を消したノデス。殿中、ノー、心中を察するに
余りアリマス」

 パティの話に皆の顔つきが引きしまる。
 今、一番つらいのは、私たちじゃなくて、こなたのお父さんと、
ゆたかちゃんのご両親だった。
「そういえば、パティも、コスプレ喫茶で働いていたのね」
「そうデス。降誕祭の前はニホンでもかきいれ時デス」
「もしかしたら…… 」
 私は、脳裏に閃いた。


「こなたも、どこか別の場所で、コスプレ喫茶みたいなところで働くつもり
かもしれない」
 私の言葉に、みゆきも同意する。
「泉さんが、すぐに働く職としたら、うってつけかもしれませんね」
「まさか、アキバの近くにいるんスかねえ? 駆け落ちって、逃避行とも
いえますから、普通、もっと遠いところに行くのではないっスか? 」
 田村さんは、首を捻りながら疑問を呈するが、答えを出したのは
パティだった。

「確かにアキバは萌えの最大の聖地デスガ、ニホンには、他にも萌えを
タンノウできる場所はアリマスよ」
 田村さんの顔を見ながら言葉を続ける。
「大阪のニホンバシ、名古屋のオオスは、東京のアキバと合わせてニホンの
三大聖地と呼ばれている場所デス」
 突っ込みどころ満載の台詞だが、結構いい線をついているかもしれない。

「あのー、お姉ちゃん」
 少しためらいがちな様子で、つかさが話しかける。
「なに? 」
「黒井先生だったら、詳しく知っているんじゃないかな。こなちゃんと
仲が良かったし」

「なんで早く言わなかったの? 」
 私は、焦燥から、つかさを責める口調なってしまった。
「ご、ごめんなさい」
 つかさがおろおろして謝るが、今のは完全に自分が悪い。
「いや、こっちが悪かったわ。ゴメン」
 つかさに謝ってから、ポケットに入れていた携帯を鳴らす。
 5度のコール音がこれほど待ち通しかったことはない。


「もしもし。黒井ですけど」
「こんにちは。柊です。突然電話してしまい、すみません」

「ああ、姉の方か。まあええけど。なんや? 」
 私は、一息入れてから言った。
「こなたと、ゆたかちゃんは何処に失踪していますか? 」

 電話口で息苦しい沈黙がたっぷり十秒は続いて、ようやく言葉が
返ってくる。
「柊。それを聞いてどうするんや」
 黒井先生は、こなたの行方を『知っている』ことをこの瞬間に確信した。
「先生。教えてください。私たち、必死でこなたとゆたかちゃんを
探すつもりです。でも、行方が絞り込めないんです」
「絞り込めないってゆーと、いくらか候補地はあがっとるんやな」
 先生は、試すような口ぶりで言った。

「実は、こなたとゆたかちゃんと親しいメンバーが、私の家に
集まっています。皆で相談したところ、大阪か名古屋というラインが
浮かんでいます。先生はご存知なのでしょう? 教えてくださいっ」

 暫く沈黙が続いた後に、届いたのは先生の怒りの声だった。
「柊。実は自分、この件で猛烈に腹がたっとんのや」
「黒井…… せんせい? 」
「誰が、泉と小早川の仲なんて暴いたんや? そんな奴が学校の生徒に
いるのが分かった時点で、むかついてしゃーないわ」
「あ、あの…… 」
 黒井先生は、私たちのうちの誰かが、こなたとゆたかちゃんの関係
を暴いた可能性がある、と言っていることに気がづいて寒気がする。

 それでも、今はありったけの勇気を振り絞って聞くしかない。
「私は、こなたたちが心配なんです。お願いですから教えてください」
 私は携帯の通話口で必死になって言った。
 なおも暫く、黒井先生は黙っていたが、大きくため息をついた後で
教えてくれた。


「泉と小早川は、名古屋におる…… 泉の知人宅に身を寄せているで」
「その知り合いの家は、何処なんですか? 」

 しかし、黒井先生は冷然とした口調ではねつける。
「それは…… 知らん。分かっていたとしても言えん。善意で部屋を
貸してくれとる人に迷惑はかけられん」
「先生…… 」
 いつも元気で明るい先生がこれほどまで、憤りを示していることに
たじろいて、それ以上は、追求を続けることができなかった。
「センターも近いし、おとなしゅー家で勉強するのも、別の行動を
とるのも自由やで。柊」
 黒井先生は最後に少しだけ声のトーンを落として、携帯を切った。

 私は、すくっと立ち上がり、皆を見渡しながら宣言する。
「こなたと、ゆたかちゃんは、名古屋にいるわ。私は、明日の朝一の
新幹線で二人を連れ戻しに行く。一緒に行きたい人は教えて欲しい。
でも、無理強いはしないわ」
「お姉ちゃん。私もいくよ」
「私も…… 行きます」
「明日と、あさってはバイト、お休みにシマスネ」
「先輩、私も同行するっスよ」
「泉さんと小早川さんを必ず、連れ戻さないといけませんね」

 私の意志に全員が賛成してくれて、胸が熱くなる。
 しかし、同時に二つの不安が胸をよぎった。
 まず一つは、見知らぬ土地で、しかも短期間で二人を見つけることが
できるのか?
 もう一つは誰かが悪意を持って、こなたとゆたかちゃんの仲を
『ばらした』という疑惑を、黒井先生から指摘された点だ。

 皆が準備をする為に家を去ってから、私はソファーに座り込んで
じっと考え込んだ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
Elope 第4話へ続く










コメントフォーム

名前:
コメント:
  • これから何が起こるのか……気になるウウウウ!!!! -- 名無しさん (2008-05-08 21:24:45)

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー