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Elope 第2話

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匿名ユーザー

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 2. (こなた視点)


 瞼をあけると列車は駅に停まっている。
 車内は消灯されているものの、微かなざわめきが耳朶を叩く。
「どこだろう? 」
 時計の針は4時を回っている。窓の外に視線を移すとホームの
看板には「豊橋」と書かれていた。
 隣に座っているゆーちゃんは、眠りについている。
「ん…… 目が覚めちゃったよ」
 私はひとりごちると、席を立ってホームに降り立つ。
「寒っ」
 冷気が四方から襲い掛かり震える。
 私は、ホームの自販機で缶コーヒーを買って車内に戻った。

 温かいコーヒーをすすりながら、トランクの脇から時刻表を
取り出す。
 ぱらぱらと捲って、東海道本線(下り)の欄を開いて、
隅っこの方に、「ムーンライトながら」の記載欄を眺める。
この列車は豊橋駅には4時55分まで停車するようだ。

 時刻表を何気なしに眺めていると、再び急に瞼が重くなる。
「睡眠用にいいかな…… 」
 ぼんやり考えながら、再び眠りの井戸に落ちていった。


 再び起きた時は、既に目的地が迫っていた。
 一年で一番、日差しが短い時期だけど、仄かに東の空が
白みがかっている。
 私は、まだ眠っているゆーちゃんを揺り起こした。
「ゆーちゃん。起きて」
「ん…… うーん」
 暫くの間、ゆーちゃんはしきりに瞼を瞬かせており、
「あ、お姉ちゃん!? 」
 まだ、意識がはっきりしていないようで、しきりにあくびを繰り返す。
「ゆーちゃん。もうすぐ着くから」
「ご、ごめんなさい」
 列車は、各駅に止まりながらも着実に進んでいく。
 住宅街が過半を占めていた視界に、ビルが目立つようになる。
 周囲の乗客も各々の荷物を取り出し始めて、車内は一気に
騒がしくなる。

「次は、名古屋です…… 名古屋では7号車から9号車までの
切り離しをいたします」
 車掌のアナウンスが頭上から聞こえてくる。
 私とゆーちゃんはトランクをかかえて立ち上がった。
 夜行列車は、6時7分、定刻通りに名古屋駅に滑り込んだ。


 ホームに降りると、まだ6時を回ったばかりだというのに、
既に通勤客が忙しなく構内を行き交っている。
「お姉ちゃん。えっと、どうすれば…… 」
 見知らぬ土地に降り立った、ゆーちゃんは戸惑いを隠せず、
不安そうに私を見上げている。
「ゆーちゃん。私とはぐれないでね」
「う、うん」
 ゆーちゃんはこくこくと頷く。
 何気ない仕草の一つ一つが、萌え要素になってしまうところが、
ゆーちゃんの罪づくりなところだ。

 私達は改札口を通り、広いコンコースを歩いていく。
 駅と一体化している高島屋の入り口を眺めながら、『桜通口』
と、いわれる東側の出入り口を出ると、高層ビル群が視界に入った。
 まだ小さい頃、お父さんに連れられて来た時とは街並みが
一変している。

「さてと、時間をつぶさないとね」
 小さな車輪つきのトランクを引きずっている、ゆーちゃんに
声をかけた。
 流石にこの時間から、『知人宅』に押しかけるのには問題がある。

「ゆーちゃん。まずは朝ごはんを食べにいこっか」
「うん」
 私達は、地下街へ降りた。
 名古屋の人は地上を歩かず、地下を歩く、といわれるのは誇張では
あっても虚偽ではない。地下に降りると人の密度が明らかに増える。
 私はガイドブックを眺めながら、迷宮のような地下街を歩き回り、
開店したばかりの飲食店に入る。

 モーニングを頼んでから、ゆーちゃんに声をかけた。
「疲れた? 」
「うん…… 少し」
 いくら質の悪くない座席とはいえ、夜行列車で一気に東京から
名古屋まで移動したのだ。
 体力に自信のない、ゆーちゃんが疲労するのも無理はない。

「お姉ちゃん。あの…… 知り合いの方の家ってどこなの? 」
 少し緊張気味に、ゆーちゃんは話した。
「地下鉄でひと駅だから、すぐ近くのはずだけど…… 」
 私は、昨日プリントアウトした地図を取り出す。

「えっと、地下鉄『東山線』ひがしやませんって読むのかな?
の隣の駅だね」
 私は『伏見』と書かれた駅を指差した。
 伏見駅から更に5分ほど歩いた場所に、私達の目的地がある。
 私は電話を取り出して、お世話になるひとに電話をかけた。

 コール音を2度聞いただけで、すぐに相手がでる。
「もしもし、いず…… 」言いかけて私は、慌ててハンドルネームを
名乗る。
『あっ、貴方でしたか。おはようございます。今どこに? 」
「名古屋駅の地下街です」
『もう準備はできていますから、来ていただけますか? 』
「すいません」
『では、よろしく』
 短い会話が終わる。

「待たなくても良くなったよ」
 私は、ゆーちゃんに笑顔を浮かべて言った。


 ぎゅうぎゅうに混んでいる地下鉄で揉まれた後、7時30分を
過ぎる頃には、マンションについていた。
 玄関の前に備え付けてあるインターホンを鳴らす。

「今、あけるから」
 扉が開かれると、20代後半の男性が招きいれてくれた。
「急で申し訳ないんだけど…… ちょっと集合時間が
早まっちゃたのでね」
 荷造りを既に終えていた男性は、申し訳なさそうにいう。
「それは、かまいませんけど…… 」
「僕が、家に戻るのは1月12日だから、それまで自分の家だと思って、
自由に使ってくれていいよ。集金とかそういう理由で押しかけてくる
連中は無視してもらっても構わない。全て口座振替にしているから」

 それでも、私達にコーヒーを振舞ってくれながら、男性は笑顔を
崩さずに言った。
「あと、途中で家に戻りたかったら、鍵は、管理人に預けてくれるかな。」
「…… 分かりました」
 既にこのひとには事情を伝えていたが、ここまで至れり尽くせりだと
流石に恐縮してしまう。
「本当に、ありがとうございます」
「せっかくのリアルな邂逅を、堪能したいのは山々なんだけど…… 」
 苦笑しながら彼は、私の耳元で囁いた。
「自分の『旦那』がこんなに可愛い子だなんて、いろんな意味で
衝撃的だよ」


 結局、ネトゲ上では『嫁』となっている男性は、9時前には海外旅行に
出かけていってしまった。
 独身男性の一人住まいの部屋としては十分すぎるほど部屋は広いし、
掃除も行き届いている。
 つまり…… 当面やることがほとんどない。
「ゆーちゃん。もう少し寝ようか」
「うん。実は昨日よく眠れなかったの」
「あれぇ? ゆーちゃんも」

 私の記憶では、ゆーちゃんはすやすやと眠っていたと思っていたけど。
「ううん。電車が止まったとき。えっと、静岡と浜松だったかな。
目が覚めちゃって」
「その時は、私は寝ていたよ」
「あはっ、入れ違っちゃったんだね」

 ゆーちゃんは透き通るような笑顔は、私を心底嬉しくしてくれる。
 それだけに、ゆーちゃんの笑顔を奪っていた人達を、決して許す
つもりはなかった。

「ゆーちゃん。いっしょに寝よう」
「うん」
 きちんと整えられていたベッドに一緒にもぐりこむ。
「こなたお姉ちゃん」
「なにかな? 」
「お休みのキス…… して」
 小さな唇を心持ちあげて瞼をつぶる。
 私は、ゆーちゃんの背中に手を回すと、ゆっくりと唇をふさいだ。

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Elope 第3話へ続く













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  • GJ!俺はこのカップリングが一番隙だ
    -- 名無しさん (2008-05-06 14:58:34)

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