ベッドの上で向かい合いながら座るこなたとゆたか
どこまで言っていいか分からなかったこなた、はこんな風に切り出した。
「異性同士での恋愛感情なしでの友情って…ないのかな?」
つかさとみゆきのことは伏せた。しかし彼らと面識のあるゆたかには大まかな状況が理解できることだろう。
「…えっとね」
少し考えるそぶりを見せてから、ゆたかは言う。
「私は……二つは―――恋と友情って似ているものだと思うんだ」
「似てる?」
Yes、Noを聞くはずのクローズドクエスチョンに対しての第三の答え。
こなたは耳を傾け、一方のゆたかは少し恥ずかしそうに…
「私ね……実は、この間……みなみ君に告白されたんだ」
「っにゃうっ!?」
いきなりの爆弾発言。
まったくそんなそぶりも見せていなかったというのに…!
いや、一週間くらい前に、少しぼうっとしていた日はあったけれども…!
「そ、それで、どう思ったの!?」
「そりゃ、びっくりしたよー」
詰め寄るこなたに、ゆたかは苦笑する。
「私、みなみ君のこと、本当にただの―――ううん、ただのじゃないや。
大切な、一番の親友だと思ってたのに、いきなり女の子として好きだなんて言われちゃったんだもの」
「……裏切られた、って思った?」
ゆたかは首を横に振る。こなたはその表情を注視するが、無理や嘘を付いているようには見えない。
「どちらかというと、ちょっと嬉しかったかな。私みたいな子のことを、女の子に見てくれて。
もちろん、最初からそう言うつもりで私に親切にしてくれてたなら少し傷ついたかもしれないけど、そんなんじゃなくて、
いつも一緒にいたら自然と好きになってたって言ってたし…」
つかさやみゆきも、きっとそうだったのだろうと、こなたはゆたかの話を聞きながら思った。
きっと一緒にいる内にそう言う気持ちが育ってきたのだろう。
「それで、ゆーちゃんはOKしたんだよね」
先を促すために、こなたは確認をする。けれども
「ううん」
「っっんにゃうっ!?!?」
首を横に振るゆたかの姿は、先ほどを上回る衝撃だった。
え、で、でも…!
「あ、ふったんじゃないよ!そうじゃなくて…保留させてもらったんだ」
「そ、そういうこと…」
こなたはいつの間にか乗り出していた体を横に倒す。
感じるのは脱力感と、ちょっとした失望。
今日も学校で、ゆたかとみなみが仲良くしているのを見かけていた。
告白を断っても、友情を保てる一例というわけではなかったようだ。
「けど……やっぱりふっちゃうんだよね?友達としか見てられないんだから……」
「そうでも……ないよ」
「え?」
うつ伏せになっていたこなたは、顔を上げて改めてゆたかを見て…はっとした。
そこにあった、妹同然に思っていた少女の顔が、なぜか自分よりずっと大人びて見えたからだ。
「あのね、お姉ちゃん。みなみ君に告白されたとき……少しだけ、私、ここが変わっちゃったんだ」
ゆたかは胸に手を添える。
「心の中でね、みなみ君に向かってた想いの―――友愛っていうのかな?そんな感情のベクトルが、そのままちょっと方向をかえたの。
―――恋愛の方に」
告白された時の胸の高鳴り。それを思い出すように目を閉じるゆたか。
少しだけ桜色に染まった、僅かな微笑み。
きれいだな、とこなたは思った。
どこまで言っていいか分からなかったこなた、はこんな風に切り出した。
「異性同士での恋愛感情なしでの友情って…ないのかな?」
つかさとみゆきのことは伏せた。しかし彼らと面識のあるゆたかには大まかな状況が理解できることだろう。
「…えっとね」
少し考えるそぶりを見せてから、ゆたかは言う。
「私は……二つは―――恋と友情って似ているものだと思うんだ」
「似てる?」
Yes、Noを聞くはずのクローズドクエスチョンに対しての第三の答え。
こなたは耳を傾け、一方のゆたかは少し恥ずかしそうに…
「私ね……実は、この間……みなみ君に告白されたんだ」
「っにゃうっ!?」
いきなりの爆弾発言。
まったくそんなそぶりも見せていなかったというのに…!
いや、一週間くらい前に、少しぼうっとしていた日はあったけれども…!
「そ、それで、どう思ったの!?」
「そりゃ、びっくりしたよー」
詰め寄るこなたに、ゆたかは苦笑する。
「私、みなみ君のこと、本当にただの―――ううん、ただのじゃないや。
大切な、一番の親友だと思ってたのに、いきなり女の子として好きだなんて言われちゃったんだもの」
「……裏切られた、って思った?」
ゆたかは首を横に振る。こなたはその表情を注視するが、無理や嘘を付いているようには見えない。
「どちらかというと、ちょっと嬉しかったかな。私みたいな子のことを、女の子に見てくれて。
もちろん、最初からそう言うつもりで私に親切にしてくれてたなら少し傷ついたかもしれないけど、そんなんじゃなくて、
いつも一緒にいたら自然と好きになってたって言ってたし…」
つかさやみゆきも、きっとそうだったのだろうと、こなたはゆたかの話を聞きながら思った。
きっと一緒にいる内にそう言う気持ちが育ってきたのだろう。
「それで、ゆーちゃんはOKしたんだよね」
先を促すために、こなたは確認をする。けれども
「ううん」
「っっんにゃうっ!?!?」
首を横に振るゆたかの姿は、先ほどを上回る衝撃だった。
え、で、でも…!
「あ、ふったんじゃないよ!そうじゃなくて…保留させてもらったんだ」
「そ、そういうこと…」
こなたはいつの間にか乗り出していた体を横に倒す。
感じるのは脱力感と、ちょっとした失望。
今日も学校で、ゆたかとみなみが仲良くしているのを見かけていた。
告白を断っても、友情を保てる一例というわけではなかったようだ。
「けど……やっぱりふっちゃうんだよね?友達としか見てられないんだから……」
「そうでも……ないよ」
「え?」
うつ伏せになっていたこなたは、顔を上げて改めてゆたかを見て…はっとした。
そこにあった、妹同然に思っていた少女の顔が、なぜか自分よりずっと大人びて見えたからだ。
「あのね、お姉ちゃん。みなみ君に告白されたとき……少しだけ、私、ここが変わっちゃったんだ」
ゆたかは胸に手を添える。
「心の中でね、みなみ君に向かってた想いの―――友愛っていうのかな?そんな感情のベクトルが、そのままちょっと方向をかえたの。
―――恋愛の方に」
告白された時の胸の高鳴り。それを思い出すように目を閉じるゆたか。
少しだけ桜色に染まった、僅かな微笑み。
きれいだな、とこなたは思った。
「この変わったベクトルが、変わった心が、ただの一時的な気の迷いか、本当に変わってしまったのか分からなかったから、
だから、本当に変わってしまったって確信できるまで、待って貰うことにしたの。勇気を出してくれたみなみ君には悪いけどね。
―――それで、さっきの答えなんだけど」
我知らず見とれていたこなたに、眼を開いてゆたかは言う。
「好きって感情は友情とか、家族愛とか、恋愛とかいろいろあるけど…みんな同じなんだと思う。ただその方向が、ちょっとだけ違うだけで。
そして、人の心は変わっていくものだから。いろんな楽しいことや辛いことや、そんな風にゆっくりと変わっていくものだから。
だから…きっとその心のベクトルも、少しずつ変わっていくものなんだよ」
「どうにもならないこと…なのかな?」
「努力することも大事だと思うよ。ゆいお姉ちゃんときぃ兄さんも、そうだったから。
ただ好きってだけじゃなくて、相手をもっと好きになろうと努力してたし、今でもそうしてる。
けれど……努力だけじゃどうしようもないこともあると思う」
「そっか…仕方ないことか…」
移り変わってしまう人の心。それは季節ごとの花の色と同じく、抗いようのないものだろうか?
「あ、だけどね!悪いことじゃないと思うよ。変わっていくのは」
俯きかけるこなたに、ゆたかは言う。
「私、みなみ君に告白されたとき、すごくドキドキした。
今、みなみ君のことを考えても、やっぱりすごくドキドキする。
不安になったり、怖くなったりすることもあるけど……誰かを好きになる、恋をするって、素敵なことだよ。
だから―――お姉ちゃんも、自分の心のベクトルが変わっちゃったことを、クヨクヨする必要はないと思うよ」
「……ふえ?」
不意に、話題の先を見失った。
こころのベクトルが変わった?
誰の?
私の?
ああ、そういうことか。
こなたは理解した。どうやらゆたかは、こなた『が』みゆきやつかさを好きになって悩んでいるのだと勘違いしたらしい。
「あ、あれ?違うの?」
こなたの様子に、自分が何かを間違えたと気づいたらしく、ゆたかはつぶらな瞳をパチクリとさせる。
「ちがうちがう。多分ゆーちゃんが想像してたのと事実は違うと思うよ」
「え、そうなの、私てっきり―――」
てっきり、何だろう?
私がみゆき君を好きになったと思ったのだろうか?
私がつかさを好きになったと思ったのだろうか?
私が―――
だから、本当に変わってしまったって確信できるまで、待って貰うことにしたの。勇気を出してくれたみなみ君には悪いけどね。
―――それで、さっきの答えなんだけど」
我知らず見とれていたこなたに、眼を開いてゆたかは言う。
「好きって感情は友情とか、家族愛とか、恋愛とかいろいろあるけど…みんな同じなんだと思う。ただその方向が、ちょっとだけ違うだけで。
そして、人の心は変わっていくものだから。いろんな楽しいことや辛いことや、そんな風にゆっくりと変わっていくものだから。
だから…きっとその心のベクトルも、少しずつ変わっていくものなんだよ」
「どうにもならないこと…なのかな?」
「努力することも大事だと思うよ。ゆいお姉ちゃんときぃ兄さんも、そうだったから。
ただ好きってだけじゃなくて、相手をもっと好きになろうと努力してたし、今でもそうしてる。
けれど……努力だけじゃどうしようもないこともあると思う」
「そっか…仕方ないことか…」
移り変わってしまう人の心。それは季節ごとの花の色と同じく、抗いようのないものだろうか?
「あ、だけどね!悪いことじゃないと思うよ。変わっていくのは」
俯きかけるこなたに、ゆたかは言う。
「私、みなみ君に告白されたとき、すごくドキドキした。
今、みなみ君のことを考えても、やっぱりすごくドキドキする。
不安になったり、怖くなったりすることもあるけど……誰かを好きになる、恋をするって、素敵なことだよ。
だから―――お姉ちゃんも、自分の心のベクトルが変わっちゃったことを、クヨクヨする必要はないと思うよ」
「……ふえ?」
不意に、話題の先を見失った。
こころのベクトルが変わった?
誰の?
私の?
ああ、そういうことか。
こなたは理解した。どうやらゆたかは、こなた『が』みゆきやつかさを好きになって悩んでいるのだと勘違いしたらしい。
「あ、あれ?違うの?」
こなたの様子に、自分が何かを間違えたと気づいたらしく、ゆたかはつぶらな瞳をパチクリとさせる。
「ちがうちがう。多分ゆーちゃんが想像してたのと事実は違うと思うよ」
「え、そうなの、私てっきり―――」
てっきり、何だろう?
私がみゆき君を好きになったと思ったのだろうか?
私がつかさを好きになったと思ったのだろうか?
私が―――
「てっきり、鏡センパイのことを、好きになっちゃったのかと思った」
―――何かが、変わった。
「―――そんなわけ、ないじゃん」
「…お姉ちゃん?」
違和感を、ゆたかは感じた。
「ありがとね、ゆーちゃん。相談に乗ってくれて!」
こなたはベッドから降りて立ち上がる。
表情はいつもの垂れ目と猫のような口元。
「しっかし、いつの間にそんなイベントをクリアしてたのかなぁ。しかも私たちに黙って
後で告白の様子とか、しっかり聞かせてもらうよ?」
いつもと同じ表情と、いつもと同じ声音に、いつもと同じ言葉。けれど…
「え、や、やめてよぉ!恥ずかしいよぉ~」
けれど、何かが違う。
答えながらも、うす布をはさんだような違和感を、ゆたかは感じた。
「まあ、その辺りはゆい姉さんが来た時にでもじっくりと。お風呂入ってくるねぇ」
適当に着替えを掴むと、こなたは部屋を出て言った。
違いはない。
「…お姉ちゃん?」
違和感を、ゆたかは感じた。
「ありがとね、ゆーちゃん。相談に乗ってくれて!」
こなたはベッドから降りて立ち上がる。
表情はいつもの垂れ目と猫のような口元。
「しっかし、いつの間にそんなイベントをクリアしてたのかなぁ。しかも私たちに黙って
後で告白の様子とか、しっかり聞かせてもらうよ?」
いつもと同じ表情と、いつもと同じ声音に、いつもと同じ言葉。けれど…
「え、や、やめてよぉ!恥ずかしいよぉ~」
けれど、何かが違う。
答えながらも、うす布をはさんだような違和感を、ゆたかは感じた。
「まあ、その辺りはゆい姉さんが来た時にでもじっくりと。お風呂入ってくるねぇ」
適当に着替えを掴むと、こなたは部屋を出て言った。
違いはない。
普段のこなたと、何ら違いはないはずだ。
「気のせい、だよね」
自分に言い聞かせるように呟くゆたか。
「気のせい、だよね」
自分に言い聞かせるように呟くゆたか。
その過ちを、彼女は後で後悔することになる。
まずは上着を脱ぐ。
「――なわけ、ないじゃん」
ズボンを脱ぐ。
「かがみを好きだなんて―――」
シャツを脱ぎ、
「―――そんなこと―――」
ブラを脱ぎ、
「―――あるわけないじゃん」
パンツを乱暴に脱ぎ捨てた。
脱衣所の床に散乱する服。
一糸まとわぬ姿になったこなたは洗面台の鏡を見る。
「こんなに、ぺったんこで、お肉とかも付いてないのに…」
言いながら、けれど事実は違った。
かがみの向こうに居たのは、確かに……
「私……女なんだ」
胸には確かに、僅かながらも脂肪が集まり、慎ましやかな丘陵を作っている。
同年代の少女と比べては劣るものの、広い骨盤の周りには肉が集まり、細いウェストとの外周差によってくびれを作っている。
思春期の、少女の体。そして心も。
『おっす、こなた』
かがみの声が聞こえた気がした。
『なんじゃそりゃ!』
からかうと直ぐに真っ赤になって怒るかがみ。
『しょうがないなぁ』
あきれながらも宿題を見せてくれるかがみ。
『確かに臭いよな』
とりとめない世間話で笑顔を見せるかがみ。
いろんなかがみの姿が脳裏を横切る。
いろんなかがみの声が耳朶を震わせる。
笑うかがみ。怒るかがみ。呆れるかがみ。そして――
「――なわけ、ないじゃん」
ズボンを脱ぐ。
「かがみを好きだなんて―――」
シャツを脱ぎ、
「―――そんなこと―――」
ブラを脱ぎ、
「―――あるわけないじゃん」
パンツを乱暴に脱ぎ捨てた。
脱衣所の床に散乱する服。
一糸まとわぬ姿になったこなたは洗面台の鏡を見る。
「こんなに、ぺったんこで、お肉とかも付いてないのに…」
言いながら、けれど事実は違った。
かがみの向こうに居たのは、確かに……
「私……女なんだ」
胸には確かに、僅かながらも脂肪が集まり、慎ましやかな丘陵を作っている。
同年代の少女と比べては劣るものの、広い骨盤の周りには肉が集まり、細いウェストとの外周差によってくびれを作っている。
思春期の、少女の体。そして心も。
『おっす、こなた』
かがみの声が聞こえた気がした。
『なんじゃそりゃ!』
からかうと直ぐに真っ赤になって怒るかがみ。
『しょうがないなぁ』
あきれながらも宿題を見せてくれるかがみ。
『確かに臭いよな』
とりとめない世間話で笑顔を見せるかがみ。
いろんなかがみの姿が脳裏を横切る。
いろんなかがみの声が耳朶を震わせる。
笑うかがみ。怒るかがみ。呆れるかがみ。そして――
『俺、親友、だろ?』
「止まってよぉ…」
胸を押さえながら、こなたは苦しげに言う。
胸を押さえながら、こなたは苦しげに言う。
けれども動悸は止まらない。
みゆきに抱きしめられた時よりも早い鼓動。
つかさに押し倒された時より深い鼓動。
今までの人生で感じたことのないほどに強い鼓動を、ただ彼のことを想うだけで感じる。
もしもあの時―――今日の教室で肩に手をやられただけでなく、そのまま抱きしめられたらと想像すると、その鼓動はさらに激しくなる。
彼のことを…かがみのことを…
「なんで……私……!」
言葉にしたくなくて、言葉にしてしまえば戻れなくなりそうで、けれども言葉は止まらなくて――
「好…きぃ……」
Clrt+Alt+Deleteは、ない。
気づいてしまった。
ゆたかの言葉を借りるのならば、心のベクトルが動いてしまった。
ゆたかとの会話で元から恋心の方に向かっていたことを気付かされたのか、それともゆたかの会話がベクトルを変えたのか。
それは分からない。ただ厳然とした事実が一つ。
自分は―――泉こなたは柊鏡を、好きになってしまったのだと。
「なんで…みゆき君やつかさじゃないのかな…?」
せめて彼らのうちのどちらかを好きになったのだとしたら、少なくとも一人を傷つけるだけで済んだのに。
「なんで…今さらなのかな…?」
親友でいて欲しいと頼ってその舌の根も乾かないうちに…。
親友であると、親友でいてくれると言ってくれた日のうちに…。
「なんなんだろうね…」
可笑しくなる、自分の心が。
「どうして…女なんだろ、私」
少女としての心と体。
こんな体だから、みゆき君とつかさの心のベクトルを変えてしまった。
こんな心だから、かがみの厚意を裏切るような想いを抱いてしまう。
性別。いかんともしがたい、壁。この問題の根本。
「どうして…」
鏡を見る。
膨らまないことが不服だった胸が、みっともなく腫れあがった煩わしいものに思えてきた。
ひそかに自信があったウェストのくびれが、貧弱に痩せ衰えた醜いものに見えてきた。
そうじろうが愛用する剃刀。安全剃刀ではない、刃物といて十分な機能を持った、剃刀。
洗面台に置かれたそれが、こなたの目に入った。
彼女は、それを手に取った。
みゆきに抱きしめられた時よりも早い鼓動。
つかさに押し倒された時より深い鼓動。
今までの人生で感じたことのないほどに強い鼓動を、ただ彼のことを想うだけで感じる。
もしもあの時―――今日の教室で肩に手をやられただけでなく、そのまま抱きしめられたらと想像すると、その鼓動はさらに激しくなる。
彼のことを…かがみのことを…
「なんで……私……!」
言葉にしたくなくて、言葉にしてしまえば戻れなくなりそうで、けれども言葉は止まらなくて――
「好…きぃ……」
Clrt+Alt+Deleteは、ない。
気づいてしまった。
ゆたかの言葉を借りるのならば、心のベクトルが動いてしまった。
ゆたかとの会話で元から恋心の方に向かっていたことを気付かされたのか、それともゆたかの会話がベクトルを変えたのか。
それは分からない。ただ厳然とした事実が一つ。
自分は―――泉こなたは柊鏡を、好きになってしまったのだと。
「なんで…みゆき君やつかさじゃないのかな…?」
せめて彼らのうちのどちらかを好きになったのだとしたら、少なくとも一人を傷つけるだけで済んだのに。
「なんで…今さらなのかな…?」
親友でいて欲しいと頼ってその舌の根も乾かないうちに…。
親友であると、親友でいてくれると言ってくれた日のうちに…。
「なんなんだろうね…」
可笑しくなる、自分の心が。
「どうして…女なんだろ、私」
少女としての心と体。
こんな体だから、みゆき君とつかさの心のベクトルを変えてしまった。
こんな心だから、かがみの厚意を裏切るような想いを抱いてしまう。
性別。いかんともしがたい、壁。この問題の根本。
「どうして…」
鏡を見る。
膨らまないことが不服だった胸が、みっともなく腫れあがった煩わしいものに思えてきた。
ひそかに自信があったウェストのくびれが、貧弱に痩せ衰えた醜いものに見えてきた。
そうじろうが愛用する剃刀。安全剃刀ではない、刃物といて十分な機能を持った、剃刀。
洗面台に置かれたそれが、こなたの目に入った。
彼女は、それを手に取った。
【泉こなた閑話・了】