私、柊つかさは混乱していた。
日ごろから何かとヒィヒィ言うことの多い私だけど、今回のこれはそんなのとはケタが違う。
正真正銘の大ピンチだよぅ。
日ごろから何かとヒィヒィ言うことの多い私だけど、今回のこれはそんなのとはケタが違う。
正真正銘の大ピンチだよぅ。
二年前にも、ちょっとだけ似たようなことがあった。
まだ高校に上がりたてのころ、街を歩いていて外国の人に道を尋ねられた、あのとき。
実際、今私の目の前にいるのも街で買い物をしてたところに声をかけてきた外国人だ。
けど他の部分がかなり違う。
それも、悪い方向に。
まずなんと言っても場所がまずい。
話しかけられたそこじゃなくて、相手が一人暮らしをしているアパートの部屋。
この時点で、二年前のように救いの手が入る可能性はほとんどゼロ。
さらに言うと、相手の部屋の、ベッドの上だったりする。
馴染みのない、やや癖のある体臭がほんのりと染み付いてる。イヤなニオイじゃないけど。
そして相手の顔があるのは、目の前は目の前でも、水平方向ではなく垂直方向。
つまり真上。
要するに、押し倒されてる。
まだ高校に上がりたてのころ、街を歩いていて外国の人に道を尋ねられた、あのとき。
実際、今私の目の前にいるのも街で買い物をしてたところに声をかけてきた外国人だ。
けど他の部分がかなり違う。
それも、悪い方向に。
まずなんと言っても場所がまずい。
話しかけられたそこじゃなくて、相手が一人暮らしをしているアパートの部屋。
この時点で、二年前のように救いの手が入る可能性はほとんどゼロ。
さらに言うと、相手の部屋の、ベッドの上だったりする。
馴染みのない、やや癖のある体臭がほんのりと染み付いてる。イヤなニオイじゃないけど。
そして相手の顔があるのは、目の前は目の前でも、水平方向ではなく垂直方向。
つまり真上。
要するに、押し倒されてる。

「……何ヲそんなニ、脅えテいるのデス? ツカサ」
ただ二年前とは違って、日本語が通じるのが救いといえば救いなのかな。
あと相手が見知らぬ男の人じゃなく、少なくとも顔見知りと言える間柄だってことも。
あと相手が見知らぬ男の人じゃなく、少なくとも顔見知りと言える間柄だってことも。
「あ、あの、なんで――パティちゃん……」
だけどお互いの人となりを理解しあっているとはまだぜんぜん言えなくて。
それどころか――ううん、そのせいでって言うべきかな。
それどころか――ううん、そのせいでって言うべきかな。
「誘ったのハ、貴女デスよ?」
どうしてかそんな誤解を与えちゃってるみたいなので、あまり意味はないのかも。
ああ、なんでこんなことになっちゃったんだっけ……
ああ、なんでこんなことになっちゃったんだっけ……
☆
「誕生日?」
久しぶりにお姉ちゃんと二人きりでお昼と過ごすことになった、その日の放課後。
私たちは、相談したいことがありますと親友のゆきちゃんに声をかけられた。
そして言われたのが、私がオウム返しした上の一言。
「はい。私の幼馴染の岩崎みなみさん……ご存知ですよね? その方の」
「ああ……あの背の高い子ね」
なんとなく気のない調子で、お姉ちゃんがつぶやく。
私も知ってる。
背が高くて、私よりももう少しだけ髪が短くて、すごくキレイなんだけど、あまり喋らない子だ。
けど、それだけ。
夏休みに、みんなと一緒に花火大会に行ったりもしたけど、それ以上のことはよくわからない。
「いつなの?」
お姉ちゃんの質問に、ゆきちゃんは言いにくそうに答えた。
「それが……九月の、十二日なんです……」
「ふぅん……って、ちょっと待ってよ。それ昨日じゃない」
頬杖から身を起こして、訝しげな声を上げるお姉ちゃん。
……やっぱり、ちょっと機嫌が悪いみたい。
こなちゃんがさっさと帰っちゃったからだと思う。
私たちは、相談したいことがありますと親友のゆきちゃんに声をかけられた。
そして言われたのが、私がオウム返しした上の一言。
「はい。私の幼馴染の岩崎みなみさん……ご存知ですよね? その方の」
「ああ……あの背の高い子ね」
なんとなく気のない調子で、お姉ちゃんがつぶやく。
私も知ってる。
背が高くて、私よりももう少しだけ髪が短くて、すごくキレイなんだけど、あまり喋らない子だ。
けど、それだけ。
夏休みに、みんなと一緒に花火大会に行ったりもしたけど、それ以上のことはよくわからない。
「いつなの?」
お姉ちゃんの質問に、ゆきちゃんは言いにくそうに答えた。
「それが……九月の、十二日なんです……」
「ふぅん……って、ちょっと待ってよ。それ昨日じゃない」
頬杖から身を起こして、訝しげな声を上げるお姉ちゃん。
……やっぱり、ちょっと機嫌が悪いみたい。
こなちゃんがさっさと帰っちゃったからだと思う。
六時間目が終わったあと、こなちゃんはお姉ちゃんが来るのも待たずに教室を出ていっちゃた。
呼び止めたんだけど、従妹で一年生の小早川ゆたかちゃんに用があるって、急いでて。
なんだか様子が変だったよ。考えてみれば、昼休みから。
ずーっと何か考えごとしてるみたいで、
お姉ちゃんのこと訊いて欲しくて、一生懸命「話を聞いて~!」って念を飛ばしてたんだけど、
ぜんぜん気付いてくれなかったし。
一緒に声をかけたゆきちゃんは、「では田村さんに聞いてください」って、行かせちゃった。
昼休みに同じ話を、ゆたかちゃんのクラスメイトである田村ひよりちゃんにもしたんだって。
でも、せめてお姉ちゃんを待って欲しかったなあ……
呼び止めたんだけど、従妹で一年生の小早川ゆたかちゃんに用があるって、急いでて。
なんだか様子が変だったよ。考えてみれば、昼休みから。
ずーっと何か考えごとしてるみたいで、
お姉ちゃんのこと訊いて欲しくて、一生懸命「話を聞いて~!」って念を飛ばしてたんだけど、
ぜんぜん気付いてくれなかったし。
一緒に声をかけたゆきちゃんは、「では田村さんに聞いてください」って、行かせちゃった。
昼休みに同じ話を、ゆたかちゃんのクラスメイトである田村ひよりちゃんにもしたんだって。
でも、せめてお姉ちゃんを待って欲しかったなあ……
「ええ。昨晩、ご両親と三人だけでお祝いをしたそうです」
「三人だけ? え、お友だちは? ゆたかちゃんとか呼んでなかったの?」
驚いて、聞き返した。
ゆきちゃんは悲しそうにうなずく。
「はい。私も訊いたのですが、誕生日のことを教えてすらいないとのことで」
「そんなぁ」
「何それ」
私とお姉ちゃんはほとんど同時に、同じような反応をした。
私はそこで黙ったけど、お姉ちゃんは不機嫌そうに続ける。
「そりゃ高校生にもなってお誕生会もないだろうとは思うけど、ちょっと冷たいんじゃない?」
「いえ……遠慮しているんだと思うんです。自分では『恥ずかしい』とおっしゃってましたが……」
ほっぺに手を添えて、ほぅ、とため息をつくゆきちゃん。
憂いを秘めた、っていうのかな。大人っぽい仕草に、場違いにもドキッとする。
「昔から、人との付き合いが苦手な方で……それでも、田村さんや小早川さんと出会ってからは
随分と明るくなりまして、私も安心していたのですが……やはりまだ、自分から、となると、
どうしていいのか分からないのかも知れません……」
ええと、みなみちゃん、のことなんだよね?
なんだかイメージが違う。
ゆきちゃんが言うんだから本当のことなんだろうけど、でもなんだかそれって、私のことみたいだ。
「……ふぅん」
お姉ちゃんが相槌を打ちながら、ちらりとこちら見てきた。
同じことを思ってるのかな。
「それで、私たちにどうしろって?」
「あ、はい。昼休みに田村さんにも相談しましたら、今度の日曜日にパーティーを開いてはどうかと
いうことになりまして」
「参加しろってことね。……なるほど、確かに週の真ん中よりは都合がつくか。わかったわ」
じれったくなったのか、お姉ちゃんは急に話を進めた。
ちょっと戸惑ったけど、私もなんとかついていく。
「わ、私もっ。今日とか言われたらちょっと困るけど、日曜日なら大丈夫だよ。お料理とか、手伝うね」
「はい、是非それは、お願いしたいと思ってました。ありがとうございます」
ゆきちゃんがにっこりと笑顔を向けてくれる。
それだけで、私も嬉しくなってくる。
「うん、がんばるっ! みなみちゃんって、何が好きなのかな?」
「そうですね。どちらかと言えば和食の方が好きなようですが……特に好き嫌いもなさらない方ですし、
それにつかささんの作るものでしたら、なんだって喜んでくださると思いますよ」
「そ、そうかな……そんなことないと思うけど……」
確かにお料理は好きだけど、私なんかまだまだぜんぜんだ。
それに、本格的なものを家族以外の人に食べてもらうのは、たぶんこれが初めてになる。
そう思ったらちょっと緊張してきちゃった。けど、ゆきちゃんの期待に応えるためにも、がんばらなきゃ。
「三人だけ? え、お友だちは? ゆたかちゃんとか呼んでなかったの?」
驚いて、聞き返した。
ゆきちゃんは悲しそうにうなずく。
「はい。私も訊いたのですが、誕生日のことを教えてすらいないとのことで」
「そんなぁ」
「何それ」
私とお姉ちゃんはほとんど同時に、同じような反応をした。
私はそこで黙ったけど、お姉ちゃんは不機嫌そうに続ける。
「そりゃ高校生にもなってお誕生会もないだろうとは思うけど、ちょっと冷たいんじゃない?」
「いえ……遠慮しているんだと思うんです。自分では『恥ずかしい』とおっしゃってましたが……」
ほっぺに手を添えて、ほぅ、とため息をつくゆきちゃん。
憂いを秘めた、っていうのかな。大人っぽい仕草に、場違いにもドキッとする。
「昔から、人との付き合いが苦手な方で……それでも、田村さんや小早川さんと出会ってからは
随分と明るくなりまして、私も安心していたのですが……やはりまだ、自分から、となると、
どうしていいのか分からないのかも知れません……」
ええと、みなみちゃん、のことなんだよね?
なんだかイメージが違う。
ゆきちゃんが言うんだから本当のことなんだろうけど、でもなんだかそれって、私のことみたいだ。
「……ふぅん」
お姉ちゃんが相槌を打ちながら、ちらりとこちら見てきた。
同じことを思ってるのかな。
「それで、私たちにどうしろって?」
「あ、はい。昼休みに田村さんにも相談しましたら、今度の日曜日にパーティーを開いてはどうかと
いうことになりまして」
「参加しろってことね。……なるほど、確かに週の真ん中よりは都合がつくか。わかったわ」
じれったくなったのか、お姉ちゃんは急に話を進めた。
ちょっと戸惑ったけど、私もなんとかついていく。
「わ、私もっ。今日とか言われたらちょっと困るけど、日曜日なら大丈夫だよ。お料理とか、手伝うね」
「はい、是非それは、お願いしたいと思ってました。ありがとうございます」
ゆきちゃんがにっこりと笑顔を向けてくれる。
それだけで、私も嬉しくなってくる。
「うん、がんばるっ! みなみちゃんって、何が好きなのかな?」
「そうですね。どちらかと言えば和食の方が好きなようですが……特に好き嫌いもなさらない方ですし、
それにつかささんの作るものでしたら、なんだって喜んでくださると思いますよ」
「そ、そうかな……そんなことないと思うけど……」
確かにお料理は好きだけど、私なんかまだまだぜんぜんだ。
それに、本格的なものを家族以外の人に食べてもらうのは、たぶんこれが初めてになる。
そう思ったらちょっと緊張してきちゃった。けど、ゆきちゃんの期待に応えるためにも、がんばらなきゃ。
そして、その翌日の放課後。つまり今日。
私は家から少し離れたところにある大型のスーパーに買い物に来ていた。
ふだん利用してる安売りメインのお店じゃなくて、業務用商品とか輸入品なんかも扱ってる、
ちょっとした高級店。
昨日、あれから家に帰っていろいろ調べて、作りたい料理の内容はだいたい決まったんだけど、
やっぱりそれなりのものを作るためには、普通のお店で手に入る材料だけじゃ足りなくて。
このお店、値段が少し高めなぶん、商品の幅は本当に広いんだ。
お金のこともお母さんに相談して少し協力してもらうことになったから、なんとかなるし。
私は家から少し離れたところにある大型のスーパーに買い物に来ていた。
ふだん利用してる安売りメインのお店じゃなくて、業務用商品とか輸入品なんかも扱ってる、
ちょっとした高級店。
昨日、あれから家に帰っていろいろ調べて、作りたい料理の内容はだいたい決まったんだけど、
やっぱりそれなりのものを作るためには、普通のお店で手に入る材料だけじゃ足りなくて。
このお店、値段が少し高めなぶん、商品の幅は本当に広いんだ。
お金のこともお母さんに相談して少し協力してもらうことになったから、なんとかなるし。
ちなみに、ここは月に何度かって割合で来くることがある、私のお気に入りの場所でもある。
一応調理師目指してるから、学校の帰りとかにたまに覗きにくるの。
ほとんどは冷やかしなんだけど、食材を見てるだけでも勉強になるし。……なる、気がするし。
ただそのせいで、学校からわりと近いんだよね。それがちょっと心配。
今回の企画、本人には当日まで内緒ってことだから、鉢合わせとかしないように気をつけないと。
一応調理師目指してるから、学校の帰りとかにたまに覗きにくるの。
ほとんどは冷やかしなんだけど、食材を見てるだけでも勉強になるし。……なる、気がするし。
ただそのせいで、学校からわりと近いんだよね。それがちょっと心配。
今回の企画、本人には当日まで内緒ってことだから、鉢合わせとかしないように気をつけないと。
「――ツカサ?」
「うひゃうっ!?」
「うひゃうっ!?」
とかなんとか思った矢先に声をかけられた!
弾かれるように振り返ると、そこにいたのは……よかった。みなみちゃんじゃない。
「Oh、ヤパリツカサデスネ。……ドゥしましタ?」
「な、なんでもないよ。えっと……パティちゃん、だっけ」
パティちゃんこと、パトリシア=マーティンちゃん。
同じ学校の一年の、アメリカからの留学生。
こなちゃんのバイト仲間で、みなみちゃん、ゆたかちゃん、ひよりちゃんのクラスメートでもある。
例の花火大会でも一緒になった。
けど直接のつながりはほとんどなくて、一対一で話をするのも、たぶん初めて。
「ハイ! Patricia Martin デス。憶えテテくれマシタね」
「うん。もちろんだよ」
でも、怖いって気はあんまりしなかった。
どちらかといえば人見知りしがちな私だけど、第一印象がすごく良かったからかな。
こなちゃんと一緒に踊ってた、えっと……はれはれダンス? とっても格好よかった。
花火大会のときも無邪気な感じではしゃいでたし、良い子なんだってわかるよ。
「パティちゃんも、お買いもの?」
言いつつ、その手にぶら下げた買い物かごを覗き見る。
ほとんどが輸入品みたいで、カラフルなパッケージにはたぶん英語っぽいロゴが踊っている。
だからぱっと見ではよく分からないけど、表面に印刷されたイラストからして、どうやら、
「おかしばっかり……?」
「ハイ!」
らしい。
パティちゃんはかごから板チョコらしき商品を一つ取り出すと、誇らしげに掲げて見せた。
「ニホンはマンガ、アニメとトモにオカシもスバラシイのデスが、ヤパリ食べなれたフルサトの味が
一番デス!」
「はぁ……」
確かに。
その、「HERSHEY」と書かれたチョコレートを始め、他のどの商品も一般的なスーパーなどでは
まず見かけないようなものばかりだ。
けど、そんなことより。
パティちゃんのかごに入っているのは半分以上がお菓子、あとはレトルトや冷凍食品ばっかりで、
食材や調味料といったものはほとんどない。
「……パティちゃん、お料理とか、しないの?」
思わず、尋ねていた。
ちょっと失礼かなとも思ったけど、これだけ偏った買い物かごを見せられれば、さすがに気になる。
それに、こなちゃんから聞いたところだと、彼女は一人暮らしをしてるって話だし。
私じゃなくても心配になると思う。
そしてその心配は、的を射ていた。
「お料理デスか……? デキナイこともないデスが、ニホンにはベンリでオイシイ instant 食品が
タクサンありマス」
やっぱり。
一人暮らしの若者にアリガチな、っていうやつになってるんだ。
慣れない外国生活で、学校だけでなくアルバイトもこなしてるんだから、忙しいに違いない。
こんなのに頼っちゃうのも仕方がないと言えるのかも知れない。
でも逆に、だからこそそんなことではいけないと、私は思う。
「だめだよそんなんじゃ。身体こわしちゃうよ?」
「Hum? 大丈夫ダイジョウブ。足りナイ栄養は supplement で補えマス」
「だ、だめだって。ちゃんとお料理しなくちゃ」
「Wmm……デスが、そんな時間がアレバ、溜まってルDVDを消化したいデス」
だけどパティちゃんは取り合ってくれない。
そうだった。彼女は趣味人なんだ。好きなものに情熱を傾ける人間が、それ以外のものには
まるで無頓着になっちゃうってことは、こなちゃんを見ててもわかる。
こなちゃんの場合は、その……家庭環境のせいもあってか、料理を始めとした家事の腕前は
私よりもずっと上だから、心配いらないと思うけど。
だけど……
「?」
明らかに分かっていない笑顔で首を傾げるパティちゃん。
弾かれるように振り返ると、そこにいたのは……よかった。みなみちゃんじゃない。
「Oh、ヤパリツカサデスネ。……ドゥしましタ?」
「な、なんでもないよ。えっと……パティちゃん、だっけ」
パティちゃんこと、パトリシア=マーティンちゃん。
同じ学校の一年の、アメリカからの留学生。
こなちゃんのバイト仲間で、みなみちゃん、ゆたかちゃん、ひよりちゃんのクラスメートでもある。
例の花火大会でも一緒になった。
けど直接のつながりはほとんどなくて、一対一で話をするのも、たぶん初めて。
「ハイ! Patricia Martin デス。憶えテテくれマシタね」
「うん。もちろんだよ」
でも、怖いって気はあんまりしなかった。
どちらかといえば人見知りしがちな私だけど、第一印象がすごく良かったからかな。
こなちゃんと一緒に踊ってた、えっと……はれはれダンス? とっても格好よかった。
花火大会のときも無邪気な感じではしゃいでたし、良い子なんだってわかるよ。
「パティちゃんも、お買いもの?」
言いつつ、その手にぶら下げた買い物かごを覗き見る。
ほとんどが輸入品みたいで、カラフルなパッケージにはたぶん英語っぽいロゴが踊っている。
だからぱっと見ではよく分からないけど、表面に印刷されたイラストからして、どうやら、
「おかしばっかり……?」
「ハイ!」
らしい。
パティちゃんはかごから板チョコらしき商品を一つ取り出すと、誇らしげに掲げて見せた。
「ニホンはマンガ、アニメとトモにオカシもスバラシイのデスが、ヤパリ食べなれたフルサトの味が
一番デス!」
「はぁ……」
確かに。
その、「HERSHEY」と書かれたチョコレートを始め、他のどの商品も一般的なスーパーなどでは
まず見かけないようなものばかりだ。
けど、そんなことより。
パティちゃんのかごに入っているのは半分以上がお菓子、あとはレトルトや冷凍食品ばっかりで、
食材や調味料といったものはほとんどない。
「……パティちゃん、お料理とか、しないの?」
思わず、尋ねていた。
ちょっと失礼かなとも思ったけど、これだけ偏った買い物かごを見せられれば、さすがに気になる。
それに、こなちゃんから聞いたところだと、彼女は一人暮らしをしてるって話だし。
私じゃなくても心配になると思う。
そしてその心配は、的を射ていた。
「お料理デスか……? デキナイこともないデスが、ニホンにはベンリでオイシイ instant 食品が
タクサンありマス」
やっぱり。
一人暮らしの若者にアリガチな、っていうやつになってるんだ。
慣れない外国生活で、学校だけでなくアルバイトもこなしてるんだから、忙しいに違いない。
こんなのに頼っちゃうのも仕方がないと言えるのかも知れない。
でも逆に、だからこそそんなことではいけないと、私は思う。
「だめだよそんなんじゃ。身体こわしちゃうよ?」
「Hum? 大丈夫ダイジョウブ。足りナイ栄養は supplement で補えマス」
「だ、だめだって。ちゃんとお料理しなくちゃ」
「Wmm……デスが、そんな時間がアレバ、溜まってルDVDを消化したいデス」
だけどパティちゃんは取り合ってくれない。
そうだった。彼女は趣味人なんだ。好きなものに情熱を傾ける人間が、それ以外のものには
まるで無頓着になっちゃうってことは、こなちゃんを見ててもわかる。
こなちゃんの場合は、その……家庭環境のせいもあってか、料理を始めとした家事の腕前は
私よりもずっと上だから、心配いらないと思うけど。
だけど……
「?」
明らかに分かっていない笑顔で首を傾げるパティちゃん。
私の中の何かに火が着いた。
たぶん、母性本能と呼ばれるもの。
たぶん、母性本能と呼ばれるもの。
「ううん、だめっ。ちゃんとしたもの食べないと、DVDどころじゃなくなっちゃうよっ?」
「ハイ? イエ、デスが……」
「大丈夫、私が教えてあげるっ。安くて誰でも簡単に作れるの、たくさん知ってるの。
人に教えるのも慣れてるし。分かりやすいって、お姉ちゃんにも褒められたんだよ?
もしどうしても無理って言うんなら、せめて今日だけでもちゃんとしたもの食べてよ。
パティちゃんの好きなもの、作ってあげるからっ。
あ、そうだ。ついでにパーティー用のお料理の試食、してくれると嬉しいな。って、知ってるよね?
あさっての、みなみちゃんのお誕生会」
自分でもちょっと意外なぐらい、スラスラと言葉が飛び出した。
あの快活なパティちゃんが口を挟む間もないぐらい。
ちょっと強引かな、とも思ったけど、間違ったことは言ってないはずだ。いや、言ってない。
だって温かいごはんは正義だから!
「ね?」
とどめの笑顔。
パティちゃんは、操り人形みたいにカックリと頷いた。
そして我に返ったように、苦笑い。
「ツカサは優しいネ。オモチカエリしたくなりマス」
「お持ちかえり……?」
なんだろ?
マクドナルド?
――あ、そっか。
「うん、いいよ~」
「ハイ?」
「お持ちかえり、して?」
すっかり自分の家に招くつもりでいたけど、考えてみればその方がいいよね。
相手の家の台所の様子を知っておいた方が、より詳しく教えてあげられるし。
ついでにお掃除なんかもしてあげようかな。あは、なんか出張家政婦さんだ。
「WHAT!?」
と、パティちゃんが甲高い声を上げた。
ちょっとびっくり。
「ど、どうしたの?」
「……イイのデスか? ワタシはノンケだろうと構わズ食っちマウ女デスよ?」
尋ねると、どこか慎重な感じでそんなことを言ってくる。
のんけ……?
なんだろ? ノンフライみたいなモノかな。「ケ」っていうのが何のことか分からないけど……
まあいいや。
「いいよ~。がんばるから、たくさん食べて欲しいな?」
「Jesus……!」
すると今度は頭を抱えてのけぞった。
こっちの驚きもちょっとどころじゃない。
「どっ、どうしたのパティちゃん!?」
「ドゥもコゥも…………イエ……イエ。ナンでもアリマセン。スコシ、喜びスギタだけデス」
「そ、そうなの? ……え? 喜び?」
「Yes――スエゼン食わぬハ女のハジ……ゴショウバンに預かラセテ頂きマス」
なんだか、声と目つきがおかしいけど……
「う、うん。まかせてっ」
っていうか、難しい日本語知ってるんだなぁ。ごしょうばん、なんて、私でも漢字で書けないよ。
「ハイ? イエ、デスが……」
「大丈夫、私が教えてあげるっ。安くて誰でも簡単に作れるの、たくさん知ってるの。
人に教えるのも慣れてるし。分かりやすいって、お姉ちゃんにも褒められたんだよ?
もしどうしても無理って言うんなら、せめて今日だけでもちゃんとしたもの食べてよ。
パティちゃんの好きなもの、作ってあげるからっ。
あ、そうだ。ついでにパーティー用のお料理の試食、してくれると嬉しいな。って、知ってるよね?
あさっての、みなみちゃんのお誕生会」
自分でもちょっと意外なぐらい、スラスラと言葉が飛び出した。
あの快活なパティちゃんが口を挟む間もないぐらい。
ちょっと強引かな、とも思ったけど、間違ったことは言ってないはずだ。いや、言ってない。
だって温かいごはんは正義だから!
「ね?」
とどめの笑顔。
パティちゃんは、操り人形みたいにカックリと頷いた。
そして我に返ったように、苦笑い。
「ツカサは優しいネ。オモチカエリしたくなりマス」
「お持ちかえり……?」
なんだろ?
マクドナルド?
――あ、そっか。
「うん、いいよ~」
「ハイ?」
「お持ちかえり、して?」
すっかり自分の家に招くつもりでいたけど、考えてみればその方がいいよね。
相手の家の台所の様子を知っておいた方が、より詳しく教えてあげられるし。
ついでにお掃除なんかもしてあげようかな。あは、なんか出張家政婦さんだ。
「WHAT!?」
と、パティちゃんが甲高い声を上げた。
ちょっとびっくり。
「ど、どうしたの?」
「……イイのデスか? ワタシはノンケだろうと構わズ食っちマウ女デスよ?」
尋ねると、どこか慎重な感じでそんなことを言ってくる。
のんけ……?
なんだろ? ノンフライみたいなモノかな。「ケ」っていうのが何のことか分からないけど……
まあいいや。
「いいよ~。がんばるから、たくさん食べて欲しいな?」
「Jesus……!」
すると今度は頭を抱えてのけぞった。
こっちの驚きもちょっとどころじゃない。
「どっ、どうしたのパティちゃん!?」
「ドゥもコゥも…………イエ……イエ。ナンでもアリマセン。スコシ、喜びスギタだけデス」
「そ、そうなの? ……え? 喜び?」
「Yes――スエゼン食わぬハ女のハジ……ゴショウバンに預かラセテ頂きマス」
なんだか、声と目つきがおかしいけど……
「う、うん。まかせてっ」
っていうか、難しい日本語知ってるんだなぁ。ごしょうばん、なんて、私でも漢字で書けないよ。
☆
――で。
必要な食材を買い込んで、友だちの家に寄るからと少し遅くなることをお父さんメールして、
妙に口数の減ったパティちゃんに案内されて、このアパートの部屋に到着して、
そして現在に至る……で、いいんだよね?
必要な食材を買い込んで、友だちの家に寄るからと少し遅くなることをお父さんメールして、
妙に口数の減ったパティちゃんに案内されて、このアパートの部屋に到着して、
そして現在に至る……で、いいんだよね?
「誘ったのハ、貴女デスよ?」
よくない! ちっともよくないよ! なんでそうなるの!? ぜんぜんわかんないよぉ!!
でもこのままじゃマズイのは確かだ。
なんとか誤解をとかなくちゃ。
「ま、待って。わたし、そんな、つもりじゃ――ってゆーかおかしいよね? おかしいよ!?」
「ウ・フ・フ? 何を今サラ?」
一生懸命にうったえるけど、パティちゃんはまるで動じない。
妖しげで余裕げな笑みを浮かべて、そのくせ私の両手首をがっしり掴んで離さない。
冗談には、見えない。
「だって……だって、こんな、私たち……」
それでもどうにか説得を試みる。
けど気持ちばかりが上滑りして口が回らない。言いたいことははっきりしてるはずなのに、
何かに邪魔されるみたいにその言葉が出てこない。
「なんデス? ……女同士は、嫌デスか?」
「そっ――」
そう。
まさにその通り。それが言いたかった。
でも、
でもこのままじゃマズイのは確かだ。
なんとか誤解をとかなくちゃ。
「ま、待って。わたし、そんな、つもりじゃ――ってゆーかおかしいよね? おかしいよ!?」
「ウ・フ・フ? 何を今サラ?」
一生懸命にうったえるけど、パティちゃんはまるで動じない。
妖しげで余裕げな笑みを浮かべて、そのくせ私の両手首をがっしり掴んで離さない。
冗談には、見えない。
「だって……だって、こんな、私たち……」
それでもどうにか説得を試みる。
けど気持ちばかりが上滑りして口が回らない。言いたいことははっきりしてるはずなのに、
何かに邪魔されるみたいにその言葉が出てこない。
「なんデス? ……女同士は、嫌デスか?」
「そっ――」
そう。
まさにその通り。それが言いたかった。
でも、
「――そんなことないよっ!!」
気がつけば、今まで――生まれてこの方出したことのないほどの大声で、私は叫んでいた。
思っていたのとはまるで正反対のことを。
それなのに、なんでだろう。
そう言ってしまったことに……ううん、言えたことに、達成感みたいなものを憶えてる私がいる。
思っていたのとはまるで正反対のことを。
それなのに、なんでだろう。
そう言ってしまったことに……ううん、言えたことに、達成感みたいなものを憶えてる私がいる。
「フゥン……?」
パティちゃんが薄っすらとつぶやいた。
私の大声に、少しだけ驚いた顔を見せていたけど、今はもう元通りの笑みに戻っている。
いや……でも、どこがどうとは上手く言えないけど、さっきとは微妙に違う感じの笑い方だ。
なんだろ……?
「――ナラバ、問題はないデスね?」
ってそれどころじゃなかった!
「ま、待って! そうかも知れないけど、こういうのは、好きな――恋人とか、そういうのじゃ、ないと……」
回らない頭を必死で回して、どうにか言葉を吐き出す。
だけど、
「古風デスね。サスガは巫女さんデス」
ちろり、赤い舌先でピンクの唇を舐めながら、パティちゃんはさらに頬を緩めた。
なんか喜んでるうう!
「か、かっ、関係ないよ! そうじゃなく、そうじゃなくて――ひっ!?」
言い淀んでるうちに、手首を押さえていた指が、上腕、二の腕と、滑るように撫で下ろされた。
突然の刺激に頭が一瞬、白くなる。
そしてその空白のど真ん中に、とんでもないモノが降ってきた。
パティちゃんが薄っすらとつぶやいた。
私の大声に、少しだけ驚いた顔を見せていたけど、今はもう元通りの笑みに戻っている。
いや……でも、どこがどうとは上手く言えないけど、さっきとは微妙に違う感じの笑い方だ。
なんだろ……?
「――ナラバ、問題はないデスね?」
ってそれどころじゃなかった!
「ま、待って! そうかも知れないけど、こういうのは、好きな――恋人とか、そういうのじゃ、ないと……」
回らない頭を必死で回して、どうにか言葉を吐き出す。
だけど、
「古風デスね。サスガは巫女さんデス」
ちろり、赤い舌先でピンクの唇を舐めながら、パティちゃんはさらに頬を緩めた。
なんか喜んでるうう!
「か、かっ、関係ないよ! そうじゃなく、そうじゃなくて――ひっ!?」
言い淀んでるうちに、手首を押さえていた指が、上腕、二の腕と、滑るように撫で下ろされた。
突然の刺激に頭が一瞬、白くなる。
そしてその空白のど真ん中に、とんでもないモノが降ってきた。
「ワタシは、ツカサのコト、好きデスよ?」
「へ……え、ええっ!?」
「初めて見たトキから、ズットかわいいっテ思ってマシタ」
「え、あ、そ――え?」
待って。
待って、待って。
今、何が、どうなって、どうなったの? え? す――え? え? え?
「ツカサは――」
目の前に、パティちゃんの顔がある。
綺麗な、上気した、潤んだマリンブルーの瞳が、睫毛が長くて。
「――ワタシのコト、嫌いデスか?」
「そそそっ、そんなこと、ない……けど……」
待って。
落ち着こう、落ち着こう。
落ち着いて、一つずつ。
まず――私はパティちゃんのことが…………嫌いじゃ、ない。
自分よりも二つも年下なのに、異国の地にたった一人で立ち向かっていることとか、憧れるし、
あと、その……見事に整ったプロポーションも、羨ましいと思う。
それらは、ぜんぜんまったく、嫌いという感情には結びつかない。
うん、OK。
「ナラ問題なしデス」
パティちゃんがにっこり笑う。
……あれ?
「え……っと……そう、なの、かな……?」
「ソゥなのデス」
そう?
本当に、そう?
わからない。
わからない、けど――違う気がする。何かがすごく間違ってる気がする。
「サァ、ツカサ?」
「ぁ……」
パティちゃんの、顔が、
「目を閉じテ……」
ゆっくりと迫ってきて、私は、
「――は、」
言われるがままに、
「はい……」
目を、閉じて――
「初めて見たトキから、ズットかわいいっテ思ってマシタ」
「え、あ、そ――え?」
待って。
待って、待って。
今、何が、どうなって、どうなったの? え? す――え? え? え?
「ツカサは――」
目の前に、パティちゃんの顔がある。
綺麗な、上気した、潤んだマリンブルーの瞳が、睫毛が長くて。
「――ワタシのコト、嫌いデスか?」
「そそそっ、そんなこと、ない……けど……」
待って。
落ち着こう、落ち着こう。
落ち着いて、一つずつ。
まず――私はパティちゃんのことが…………嫌いじゃ、ない。
自分よりも二つも年下なのに、異国の地にたった一人で立ち向かっていることとか、憧れるし、
あと、その……見事に整ったプロポーションも、羨ましいと思う。
それらは、ぜんぜんまったく、嫌いという感情には結びつかない。
うん、OK。
「ナラ問題なしデス」
パティちゃんがにっこり笑う。
……あれ?
「え……っと……そう、なの、かな……?」
「ソゥなのデス」
そう?
本当に、そう?
わからない。
わからない、けど――違う気がする。何かがすごく間違ってる気がする。
「サァ、ツカサ?」
「ぁ……」
パティちゃんの、顔が、
「目を閉じテ……」
ゆっくりと迫ってきて、私は、
「――は、」
言われるがままに、
「はい……」
目を、閉じて――
「――やっぱりダメぇーーーーーーーーーーーーっっっ!!!」
全力で思いっきり身をよじった。
「ニャワッふ!?」
驚いた猫みたいな声。
続いて、どすん、と何かの重い音。
「Ouch ……」
「あ」
見ると、パティちゃんがベッドの脇で痛そうに腰をさすっていた。
「Wmm……酷いデスよツカサ……」
「ご、ごめん……でもやっぱり、私……」
「?」
床に座りなおして、不満げな顔を向けてくるパティちゃん。
私も上体を起こして、特に乱れてもいない服の胸元をなんとなく押さえながら後ずさる。
心臓がすごくドキドキ言ってる。今気付いた。
「……なんデス? 今サラ、イヤだとデモ?」
「う、うん。……ごめんなさい」
今さらというか、最初からそんな気はぜんぜんなかったんだけど。
でも、どういうわけだか私が誤解させちゃったのは確かみたいだし。
「……」
パティちゃんは、引き続き不満そうな、そして探るような目でジッと私を見つめてくる。
その視線が痛くって、怖くって、うつむいて逃げた。
沈黙が重くのしかかる。
心臓の音だけがうるさく響いて、まったく収まる気配がない。
そしてどれほどの時間が経ったのか。
やがて視線の方向から、「ハァッ」と大きなため息が聞こえてきた。
「興ガ削がレタ」
「え?」
顔を上げると、パティちゃんは……なんだろ?
お姉ちゃんに話が通じなかったときのこなちゃんみたいな、微妙な顔。
そしてアメリカ人らしい仕草で肩をすくめる。
「……マァ、イイでショウ。分かりマシタ。ソコまで嫌がるのヲ無理ヤリというのハ、サスガに
趣味じゃアリマセン」
その口調や表情からは、先ほどまでの妖しげな雰囲気は消えていた。
私のよく知っているパティちゃんの笑顔で、だけど眉だけが残念そうに下がっていて。
「ご、ごめんなさい……」
「謝らナイでクダサイ。余計ミジメになりマス」
そんなこと言われても。
「……マァ、ワタシもウワキしないデすみマシタし、ネ……」
「え?」
私から目を逸らしておもむろに立ち上がりながら、パティちゃんがぽそりとつぶやいた。
だけど私は突然の動きに反射的に身をすくませてしまい、
「サテト――それジャ、ツカサ。何ヲ作っテくれマスデスカ?」
「へ? ……あ、うん。えっと……」
その上ぜんぜん別の、ってゆーか本題を振られてしまって、聞きなおすことはできなかった。
驚いた猫みたいな声。
続いて、どすん、と何かの重い音。
「Ouch ……」
「あ」
見ると、パティちゃんがベッドの脇で痛そうに腰をさすっていた。
「Wmm……酷いデスよツカサ……」
「ご、ごめん……でもやっぱり、私……」
「?」
床に座りなおして、不満げな顔を向けてくるパティちゃん。
私も上体を起こして、特に乱れてもいない服の胸元をなんとなく押さえながら後ずさる。
心臓がすごくドキドキ言ってる。今気付いた。
「……なんデス? 今サラ、イヤだとデモ?」
「う、うん。……ごめんなさい」
今さらというか、最初からそんな気はぜんぜんなかったんだけど。
でも、どういうわけだか私が誤解させちゃったのは確かみたいだし。
「……」
パティちゃんは、引き続き不満そうな、そして探るような目でジッと私を見つめてくる。
その視線が痛くって、怖くって、うつむいて逃げた。
沈黙が重くのしかかる。
心臓の音だけがうるさく響いて、まったく収まる気配がない。
そしてどれほどの時間が経ったのか。
やがて視線の方向から、「ハァッ」と大きなため息が聞こえてきた。
「興ガ削がレタ」
「え?」
顔を上げると、パティちゃんは……なんだろ?
お姉ちゃんに話が通じなかったときのこなちゃんみたいな、微妙な顔。
そしてアメリカ人らしい仕草で肩をすくめる。
「……マァ、イイでショウ。分かりマシタ。ソコまで嫌がるのヲ無理ヤリというのハ、サスガに
趣味じゃアリマセン」
その口調や表情からは、先ほどまでの妖しげな雰囲気は消えていた。
私のよく知っているパティちゃんの笑顔で、だけど眉だけが残念そうに下がっていて。
「ご、ごめんなさい……」
「謝らナイでクダサイ。余計ミジメになりマス」
そんなこと言われても。
「……マァ、ワタシもウワキしないデすみマシタし、ネ……」
「え?」
私から目を逸らしておもむろに立ち上がりながら、パティちゃんがぽそりとつぶやいた。
だけど私は突然の動きに反射的に身をすくませてしまい、
「サテト――それジャ、ツカサ。何ヲ作っテくれマスデスカ?」
「へ? ……あ、うん。えっと……」
その上ぜんぜん別の、ってゆーか本題を振られてしまって、聞きなおすことはできなかった。
☆
――その後。
パティちゃんは、普通だった。
さっきのことが夢か幻かと思えるぐらいに、本当にいつもどおりのパティちゃんだった。
逆に私の方が挙動不審になっちゃって、いくつか失敗しちゃったりしたけど、
やがて無事、お料理は完成した。
パーティー用に考えていたメニューの中から、鶏肉を甘辛く煮込んだものと、エビの入ったサラダ。
あと、ごはんの代わりにフランスパン。……まさか炊飯器がないとは思わなかったよ。
でもこれ、ガーリックトーストにして本番にも出してみようかな。
ともあれ、どれもパティちゃんには好評だったし、当初の目的はどうにか達成できた。
他にもいくつか簡単なメニューのレシピを書いたり、電子レンジの便利な使い方を教えたり、
そうやってアレコレしていると思ったより時間が経っちゃって、気がつけば外は真っ暗。
家に電話して謝ったら、お父さんが車で迎えに来てくれることになって。
その到着を待つ間、ようやく落ち着けた私は、思い切って気になっていたことを訊いてみた。
パティちゃんは、普通だった。
さっきのことが夢か幻かと思えるぐらいに、本当にいつもどおりのパティちゃんだった。
逆に私の方が挙動不審になっちゃって、いくつか失敗しちゃったりしたけど、
やがて無事、お料理は完成した。
パーティー用に考えていたメニューの中から、鶏肉を甘辛く煮込んだものと、エビの入ったサラダ。
あと、ごはんの代わりにフランスパン。……まさか炊飯器がないとは思わなかったよ。
でもこれ、ガーリックトーストにして本番にも出してみようかな。
ともあれ、どれもパティちゃんには好評だったし、当初の目的はどうにか達成できた。
他にもいくつか簡単なメニューのレシピを書いたり、電子レンジの便利な使い方を教えたり、
そうやってアレコレしていると思ったより時間が経っちゃって、気がつけば外は真っ暗。
家に電話して謝ったら、お父さんが車で迎えに来てくれることになって。
その到着を待つ間、ようやく落ち着けた私は、思い切って気になっていたことを訊いてみた。
「……ねえ、パティちゃん」
「ハイ。なんデショウ?」
「パティちゃんって、その……恋人、いるの?」
「ハイ? いまセンヨ? ドゥしてデスカ?」
「だってさっき……浮気しないですんだ、とか……」
パティちゃんの表情が一瞬、固まった。
そして「聞こえテまシタカ」と苦笑い。
「Wmm……ヤパリ日本語はムツカシイですネ。一方的なココロを自分で裏切っテしまうコトは、
ナンと言うのでショウ?」
「え? えと、うぅんと……わかんないけど、浮気でいいんじゃないかな……?」
てゆーか、聞かせる気がなかったのなら英語で言えばよかったのに。
てゆーか、ってゆーか、それよりも今のってつまり、パティちゃんには別に好きな人がいるってこと、
だよね?
「じゃあ私が、その…………す、好きだっていう、のは……」
「ウソじゃアリマセンヨ。マァ、love ジャなくテ like デスガ……コナタや、ユタカやミナミに対するのと
同じデス。……今日で love にシテしまうのモまた一興、と思ったんデスけど、ネ」
そんないいかげんな……ん?
今、名前が上がらなかった人がいたような?
「ツカサはイルのデスか? 好きナ人」
「ふえっ!? いっ、いないっ! いないよっ!?」
慌てて思いっきり首を振る。もちろん横に。
そんな私を、パティちゃんがニヤニヤと眺めてくる。そんな顔されたって、本当にいないもん。
だって、その、男の人のことはよくわからないし……
あ、もうっ。だから笑わないでよっ。
「そういうパティちゃんには、いる――いるんだよね? 好きな人。 ど、どんな人?」
私の質問に、パティちゃんは少し迷うそぶりを見せたあと。
右手の人差し指を唇に当てながら、ぱちりとウインクをして。
同時に私の携帯が着信を告げた。
「ハイ。なんデショウ?」
「パティちゃんって、その……恋人、いるの?」
「ハイ? いまセンヨ? ドゥしてデスカ?」
「だってさっき……浮気しないですんだ、とか……」
パティちゃんの表情が一瞬、固まった。
そして「聞こえテまシタカ」と苦笑い。
「Wmm……ヤパリ日本語はムツカシイですネ。一方的なココロを自分で裏切っテしまうコトは、
ナンと言うのでショウ?」
「え? えと、うぅんと……わかんないけど、浮気でいいんじゃないかな……?」
てゆーか、聞かせる気がなかったのなら英語で言えばよかったのに。
てゆーか、ってゆーか、それよりも今のってつまり、パティちゃんには別に好きな人がいるってこと、
だよね?
「じゃあ私が、その…………す、好きだっていう、のは……」
「ウソじゃアリマセンヨ。マァ、love ジャなくテ like デスガ……コナタや、ユタカやミナミに対するのと
同じデス。……今日で love にシテしまうのモまた一興、と思ったんデスけど、ネ」
そんないいかげんな……ん?
今、名前が上がらなかった人がいたような?
「ツカサはイルのデスか? 好きナ人」
「ふえっ!? いっ、いないっ! いないよっ!?」
慌てて思いっきり首を振る。もちろん横に。
そんな私を、パティちゃんがニヤニヤと眺めてくる。そんな顔されたって、本当にいないもん。
だって、その、男の人のことはよくわからないし……
あ、もうっ。だから笑わないでよっ。
「そういうパティちゃんには、いる――いるんだよね? 好きな人。 ど、どんな人?」
私の質問に、パティちゃんは少し迷うそぶりを見せたあと。
右手の人差し指を唇に当てながら、ぱちりとウインクをして。
同時に私の携帯が着信を告げた。
「禁則じ 「わっ。――あ、お父さんだ。ついたみたい」
「……」
「あ……ごめんパティちゃん。なんて?」
「ナンでもアリマセンっ」
ぷぅ、とほっぺを膨らませてそっぽを向くその姿は、なんだか無性に、可愛らしかった。
あんなことがあったけど。
やっぱりこの子のことは、嫌いじゃない。
「あ……ごめんパティちゃん。なんて?」
「ナンでもアリマセンっ」
ぷぅ、とほっぺを膨らませてそっぽを向くその姿は、なんだか無性に、可愛らしかった。
あんなことがあったけど。
やっぱりこの子のことは、嫌いじゃない。
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- どう考えてもひよりんです。本当に、あじゅじゅした~ -- 名無しさん (2008-03-30 18:01:52)
- これはいい新カプ。作者の想像力に乾杯したい -- 名無しさん (2008-02-11 03:05:08)
- やらないか -- 名無しさん (2008-01-08 03:27:27)
- ノンケでも……、吹いたwwwパティの好きな人は誰なんだぁ!? -- らはある (2008-01-05 23:40:10)
- ユリユリっスか -- 名無しさん (2008-01-05 20:49:42)
- ひよりんか、ひよりんなのかっwww -- 名無しさん (2008-01-05 16:25:34)
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