アットウィキロゴ
kairakunoza @ ウィキ
掲示板 掲示板 ページ検索 ページ検索 メニュー メニュー

kairakunoza @ ウィキ

みさおとあやのと夏空と

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
「なあ、ちびっ子ー」
「んー?なに?」
 廊下で偶然すれ違った二人は、他になすべき用事もなかったので、壁にもたれ掛かりながら言葉を交わしていた。
「オタクっていうのはさ、普段家で何やってるんだ?やっぱりゲームとかか?」
「うーん、漫画読んだり、アニメ観たり、でもやっぱりゲームやってる時間が長いかも」
「そういうもんかー。でもさ、ずっとゲームばっかりやってて飽きないのか?」
「オタクの世界っていうのは奥深いのだよ、みさきち。キミもどう?オススメのギャルゲーがあるんだけど」
「いや、遠慮しとくよ。っていうか、ギャルゲーって男がやるもんだろ」
「みさきちは男みたいなもんじゃん」
「な、なんだとー!失敬な!」
「フヒヒ。あ、そうそう。最近はネトゲなんかにもハマッてるんだよね。これがハマるとなかなか抜け出せないんだよ」
「ネトゲ?ああ、ネットゲームか。そんなに面白いのか?」
「おもしろいよー。仲間と力を合わせてミッションに挑んだり、レアアイテムを求めて狩りしたりとか。いやー、レバ剣を拾ったときの感動はなかなか言葉では表現できないよ」
「ふーん、レアアイテムかー。なんかよくわかんねーけど」
 そう呟いたみさおだったが、こなたの発した『レア』という言葉が頭に引っかかったのか、腕組みをして何かを考え込むような仕草を見せる。
「あ、待てよ。それすっげー分かるかも」
「ん?何が?」
「レアアイテムだよ。超レアなんだろ?滅多に手に入らないんだろ?」
「そうだよー。だからこそ手に入れたときの感動も大きいんだよ」
「だよなー、そうだよなー。私も経験あるぜー。昔はよくレアもの求めてそこら中駆け回ってたからなー。あいつと一緒にさ」
「駆け回る?カード収集とか?」
「ちげーよ。まあ、ちびっ子って見るからにインドア派って感じだからなー。分からないかもなー」
「むう・・・。話が見えてこないのだが」
「一度チャンスを逃すとさ、もう次は無いっていうくらい。それくらいレアなんだよ」
 みさおの脳裏にある光景が浮かぶ。それは、遠く過ぎ去ったある夏の日の記憶だった。





「あやのー、早くしないとおいてっちゃうぞー」
「待ってよー、みさちゃーん」

 夏の厳しい暑さが残る8月下旬のとある町。
 何かを追いかけるように、人気の少ない開けた小道を駆ける少女みさおと、その後姿を必死で追いかける少女あやのがいた。
 みさおは片手に虫捕り網を持ち、一見すると少年と見間違えられそうなほどラフな衣服を身にまとっていた。
 あやのは虫かごを肩からぶら下げてはいたが、その服装はとうてい昆虫採集には似つかわしくない女の子らしいものであった。


 体力には自信のあるみさおだったが、さすがに走り疲れたのか、ゼエゼエと息を切らしながら小道の脇に座り込んだ。
 ようやく追いついたあやのも、みさおの隣にしゃがみ込む。
「おっかしいなー。確かにこっちの方に飛んでいったはずなんだけどなー」
「ねぇみさちゃん。そろそろ教えてよ。何を見つけたの?」
「オニヤンマだよ」
「オニヤンマって、あの大きなトンボ?」
「ちがーう。オニヤンマはトンボじゃない。オニヤンマはオニヤンマなのだ!」
「そうなの?」
「そうだよ」
「オニヤンマって、私は図鑑でしか見たことないけど・・・みさちゃん、本当に見たの?」
「見たんだよ。間違いなく。トンボの倍くらい大きくってさ。黒い胴体にこう黄色い模様が入っててさ。んで、エメラルドグリーンの大きな目が付いてたんだよ。あれは間違いなくオニヤンマだよ」
「で、みさちゃんは、そのオニヤンマを捕まえるの?」
「ん、もちろん。だって、なかなかお目にかかれないんだぜ?これを逃したら、もう次はないかも知れないんだぜ?」
 目を輝かせながらそう語るみさおの姿は、やはり少年のようである。
「でも、見つけるだけでも大変なのに、捕まえるなんて本当に出来るの?」
「出来るってばー。前にも一度だけ捕まえたことあるし」
「え?ホント?」
 あやのが驚いた表情を見せる。
「ああ。っていっても、捕まえたのは私じゃないんだけどさ」
 みさおは何かを思い出すように遠くの空を見つめながら口を開いた。
「去年の夏にさ、兄貴と一緒にトンボ採りに出かけたことがあってさ。そのときに、今日みたいに偶然、オニヤンマを見つけたんだよ」
 あやのは興味深そうにみさおの話を聞いている。
「で、あちこち走り回ったあげくに、やっと兄貴がそいつを捕まえたんだ」
「へえ、すごーい」
「最初はちょっと怖かったけどさ。大きくてなかなかカッコよかったんだよ。このくらい?いやこのくらいかな?」
 みさおは両手を使ってオニヤンマの大きさを表現しようとするが、記憶が曖昧なのかなかなか定まらない。
「でさ、ここからがビックリなんだよ」
「え?何?」
「兄貴がさ、そこら辺にいる普通のトンボを捕まえてきて、こうやってオニヤンマと向き合わせたんだ」
 みさおはそう言いながら、両手でグーをつくりそれを胸の前で向き合わせた。
 片手でオニヤンマを、片手でトンボを表現しているつもりのようだ。
「で、2匹の頭をだんだん近づけていくと・・・」
「近づけていくと・・・?」
 あやのが興味深そうにそう訊くと、みさおは片方の手を突然ガッと開いてもう片方の手を包み込んだ。
 あやのはキョトンとした様子でみさおの手を見つめていたが、そのジェスチャーの暗示する内容を悟ったのか、次第に表情を曇らせていく。
 そして、しばらくすると、あやのが声を上げて泣き出した。
「いやあああぁぁ!」
「あ、あやのっ!?」
「みさちゃんのバカッ!」
 あやのが袖で目を覆いながら叫ぶ。
 しまった、と思ったのか、みさおは慌てた様子であやのを見つめる。
「あやのー。な、泣くなってばー。悪かったよ、変な話してゴメンな」
 みさおは泣き続けるあやのをなだめようとするが、ハンカチを持っているわけでもなく、どうして良いか分からずにその場でたじろぐ。

 しばらく時間が経ち、あやのはようやく落ち着いた様子を見せたが、機嫌の方は直っていないらしく、黙ったままみさおと目を合わせようとしない。
「なあ、あやの」
 しばらく何かを考え込んでいたみさおが口を開く。
「イトトンボって知ってるか?」
 あやのは黙って首を横に振る。
「イトトンボのオスとメスがコービをするときにさ」
「・・・交尾?」
「そう、コービ。コービをするときに、こうやってそれぞれの体が丸まってさ、ハートの形をつくるんだよ」
「ハートの形・・・」
「な?なんかいいだろ?ハート型だぜ」
 みさおが同意を求めるようにそう訊くと、それまで無表情だったあやのの顔が急に緩みだす。
「フフフ」
「な、何だよ」
「みさちゃん、おかしい」
 あやのはお腹を押さえながら笑っている。
「何がおかしいんだよ」
「だって、ハート型って・・・フフフ・・・『なんかいいだろ』って・・・変なの・・・みさちゃんらしくない」
「らしくないって何だよー!シッケイな奴だなー。私だって一応女なんだぞー」
「ゴメンゴメン。でもやっぱり、みさちゃんらしくない」
「むう・・・」
「ゴメンね。さっきは泣いちゃったりして。せっかく面白い話をしてくれたのに」
「いや、私の方こそゴメンな。あやのは優しいから、ああいう話で怒っちゃうのも無理ないよ」
 あやのがニコッと微笑む。それに応えるようにみさおは八重歯を見せて笑う。

「そういえば・・・」
「ん?どうしたの?」
「私もさ、兄貴があれをやったときに、泣いて怒ったっけ。『兄貴のバカヤローッ!』っつってさ。で、怒ってそのまま家に帰っちゃったんだ」
「みさちゃん」
「ん?」
「みさちゃんも、優しいね」
「な、なんだよ急にー!」
 みさおは顔を赤く染めながら、あやのから目をそらす。
 すると、視線をそらしたみさおの目に、黒く大きな物体が映った。
 その物体を目で追うみさおに、再び輝きの表情が戻る。
 あやのの目にも、みさおが見たものと同じシルエットが映っていた。
「あああああああああ!」
「みさちゃん!」
「みいいいいいいいいいつけたあああああああああ!」
 みさおが慌てて立ち上がり、飛び去っていくその物体を追いかける。
「あ、みさちゃん待ってよー」
 あやのも急いで立ち上がり、みさおの後姿を追う。
 ふたつの長い影が、古びたアスファルトにのびる。

 夏の空が、夕日に赤く染まり始めていた。



















コメントフォーム

名前:
コメント:
  • 幼少のみさおカワユス -- 名無しさん (2007-10-23 02:34:15)
  • そういえば。このSSの挿絵もうpされていましたね。貼ってくれる人いないかな。 -- 名無しさん (2007-10-02 02:59:16)

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
記事メニュー
最近更新されたスレッド
ウィキ募集バナー