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彼女は遷移状態で恋をする-こなたside-(7)

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  • 彼女は遷移状態で恋をする かがみSide(7)


「来いっ!」
 手がまるで、火傷するくらいに熱かった。
 強く握られたその手が痺れて、脳まで麻痺していく感覚。
 私の手は今……かがみに握られていた。
 突然だった。
 かがみの声に振り向いて、眼を合わせた。
 だけど溢れた涙を見られたくなくて……顔を背けた。
 そしたらあとはもう、この状態。
 ただ彼に引っ張られてそのまま、人ごみを掻き分けていく。
 それが突然すぎて。
 その理由が分からなくて。
 繋いだ手が恥ずかしすぎて……。
 私はそのまま何も言えずに、彼にされるがままについて行く。
 顔が燃えそうな位に熱い。
 心臓の鼓動がピッツィカートみたいに暴れる。
 ……ああ、私はまたみっともなく何かを期待してる。
 期待なんて、したら駄目だって分かってるのに。
 ほら、心を落ち着けよう。
 こんな繋いだ手なんて、意味ない。
 振り払えばいい。
 振り払って言えばいい、どうしたの? って。
 そうするだけで……いいのに。
「かがみ、どうかしたの?」
 震えて上擦った声が出た。
 ……手を、繋いだままで。
 そんな自分の女々しさが、嫌だった。
 私の声に反応して、かがみが足を止める。
 誰もが空の花火を見に河川敷に集まって、こんな小さな公園には誰も居ない。
 私と……かがみ以外。
 繋いだ手が痺れて、それが脳に伝わっていく。
 どうして手、繋いでるんだろう。
 他人から、どう見えてるんだろう。
 そんな事ばかり考える自分が、惨めだった。
 だって、無駄なんだ。
 その全部を考えること自体……。
「ごめん」
「……っ」
 かがみの声が、届く。
 声で、耳に。
 振動で、手に。
 それが私の動悸と混じって、不協和音。
 そこからかがみの言葉だけを必死に探す。
 ……謝られた。
 それだけを理解した後に、一瞬呆気に取られた。
 でもすぐに分かった、その謝罪の理由が。
「まだちゃんと、謝ってなかっただろ? 酷い事言って悪かった……本当にごめん」
 そのまま私の前で頭を下げる。
 それは少し不思議な光景。
 いや、私が見慣れないだけなのかもしれない。
 でもその姿が何処か、滑稽で……可笑しかった。
 もしかして、皆の前で謝るのが恥ずかしかったのかなって。
 それでも……私のために、謝ってくれたんだなって。
 ……かがみらしいな、って。
「いいよ」
 だから、笑ってしまった。
 私の声に反応して、かがみが顔を上げる。
 声に出なくて良かった。
 顔だけだったら暗くて……見えないもんね。
「かがみが本気であんな事言うわけないって知ってるもん。だから気にしてないよ」
「……そっか」
 安心したのか、かがみの手が離れる。
 ……。
 そ、そうだよね。
 私を連れ出すだけだったんだから、もう繋いでる必要なんてないよね。
 うう、だからそういう所が女々しいんだって。
 か、考えちゃ駄目だって。
 考えたらまた顔真っ赤になっちゃうもん。
 うああ、意識しちゃったらもう!
 わ、話題を逸らさなきゃ。
 話題話題……ああそうだ、何しにここに来たのか忘れてたっ。
「あ……こ、ここからもっ花火見える、ねっ」
 わざと話題を花火にふり、注意を空に向ける。
 空と言っても、木々の間から微かに見えるくらい。
 上手く笑えて言えたと思うけど、今はそれより顔の熱を何とか……。
「なぁ、こなた」
 って向いてないし!
 こ、こっち見てる。
 返事……えと、返事。
「う、うん?」
 上擦って変な声が出た。
 ど、どうしたんだろかがみ。
 じっと、私を見てる。
 その視線に貫かれて……鼓動が暴れる。
 かがみが……見てる。
 私だけを。
 ……私だけ、を?
 それに気がつき、不意に情景が頭に叩きつけられる。
 それはほんの数分前の、惨めな情景。
 そうだ、ついさっき。
 皆が空に目を奪われる中で、見ていた。
 かがみが……『私だけ』を。
「なんでさっき、泣いてたんだ?」
「えっ……」
 心臓が、跳ねた。
 まるで私の心の中まで、彼の目で貫かれている気分だった。
「あ、あははっ。何言ってんの? かがみ」
 視線を逸らし、頭に浮かんだ言葉を適当に並べる。
 ううん、そんなはずない。
 だってすぐに拭いた。
 顔だって、すぐ背けた。
 あんなに暗かった。
 だからこっちを向いてただけじゃ、見えるわけない。
 見えてたはず……。
「っ!」
 ……その時、だ。
 私の頬に、何かが触れた。
 その何かが私の顔を、かがみに向けさせる。
 視線が交わった。
 鼓動が、速くなった。
「……こっち、見ろよ」
 それは、かがみの手。
 それが私の顔を固定する。
 『あの時』と……まったく同じ状態。
 その光景が、また私の頭の中に無理矢理叩きつけられる。
「なんで、泣いてたんだ?」
 声が耳から入って脳を、劈く。
 それに、答えられるはずもない。
 だって何て言えばいいの?
 悔しかった?
 嫉妬した?
 惨めだった?
 苦しかった?
「泣いてなんか、ないよ」
 そうだ、そんなはずない。
 だって分かってるから。
 意味なんか、ないって。
 そんな感情……持つだけ無駄なんだって。
「泣くはず、ないよ」
 自分で復唱する。
 そうやって、自分に言い聞かせる。
 その言葉を体に染み込ませて、紛らわせる。
「泣くわけ……ない」
 そうだよ、泣くわけない。
 分かってるんだもん。
 ねぇ、そうだよね?
 それでいい。
 それで、いい。
 それで……いい!
 そうなのに……それでいいはず、なのに。
 ねぇ、なんで?
 なんで、私は……泣いてるんだろ。
 泣くわけないのに、ね。
「こ、こなたっ?」
 かがみが慌ててその手を外す。
 駄目だ。
 泣くな。
 泣いたら絶対、困らせる。
 だってかがみは何もしてないよ?
 そう、何も……。
 私には何もして……くれない。
「違う……から」
 涙は、止まらない。止まってくれない。
 早く、止めなきゃ……ほら、かがみが困ってるよ?
 ねぇ止まってよ、お願いだから。
 止まれ、止まれっ、止まれぇっ!
「違う、違うから」
 そうだ、違う。
 かがみの所為なんかじゃない。
 私が勝手に泣いてるだけだから。
 違うからっ。私の所為だから。
 だから……。
「見ないで……お願いっ」
 見られたくなかった。
 だってこの涙はきっと、嫉妬の涙。
 そんな女々しくて醜くて……みっともない涙。
 そんなもの、かがみに見られたくない。
 じゃあ、前みたいに逃げればいい。
 そうすればきっと、かがみには見られない。
 ……でも、それが出来ない。
 かがみの傍に……居たい。
 でも……でもっ!
 そんな、矛盾した感情が私の中で暴れる。
 それが惨めで、嫌で……涙になってまた溢れる。
 その時だった。
 涙を必死で拭う私の手が、止まった。
 私が止めたんじゃない……誰かが、止めた。
 誰かの手、が。
 誰の手だろう――二人しかいないのに
 どうして、止めるんだろう――かがみしかいないのに
 どうして、かがみなんだろう――かがみしかいないから?
 どうして……好き、なんだろう――ううん、かがみ……だから
「これなら、見えないだろ」
 声が、私を弛緩させていく。
 暖かい何かが私を包む。
 何時の間にか私は、包まれていた。
 かがみの、全てに……彼の暖かさに。
 それが嬉しかったのかすら、分からない。
 溜まっていた何かを吐き出す様に。
 私はただ、泣いた。
 かがみの腕の中で……ずっと。




「もう、平気か?」
「……うん」
 どれくらいだったんだろう。
 空の花火はもう、咲き乱れることもなかった。
 祭りの喧騒も次第に小さくなり、私はかがみの腕から離れる。
 ここだって、誰かが通らないわけじゃない。
 それにいつまでもかがみに抱かれてるのは……ちょっと、我慢が出来なかった。
 今だって心臓が右に左に反復横とびしてる気分。
 顔なんか、今なら卵も焼けそうなくらい。
 でも……涙は落ち着いた。
 心も、その中の……馬鹿げた感情も。
「ごめんね」
「……あ、謝るようなことじゃないだろ」
 かがみが、言葉を濁らせる。
 もしかして……かがみも照れてるのかな。
 そうだといいな、って思うのは……悪いことじゃないよね。
 ……。
 顔がまた、熱を持った。
 体を包んでくれた彼の手の暖かさが、まだ残ってる気がする。
 あ、あははっ。
 馬鹿だな、私。
 きっと、ご褒美なんだ。
 諦めようって決めた事への、神様からのご褒美。
 そうだったら……辛い、ご褒美だよね。
 だって……ああ駄目だな、考えるからいけない。
 そうだよ、そうやって考えることすら……無駄なんだから。
「……行こっか、皆待たせちゃってるね」
 かがみに背を向ける。
 ありがとうは、心の中で言うね。
 声に出したらきっとまた、考えちゃうから。
 それで、全部にしよう。
 これで全部。
 私の、馬鹿げた感情の……私とかがみの、全部。
「こなた」
「?」
 かがみの声に、振り向く。
「どうかした? かがみ」
 その時の私の顔は、どんなだったんだろう。
 笑ってた? 泣いてた?
 ……そんなの、後になっても思い出せない。
 でもかがみのその声だけは。
 その言葉だけは……一言一句、忘れられない。


「浴衣、似合ってるな」




















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  • 続き期待していますww -- 名無しさん (2008-01-31 10:50:06)
  • ほああああああああ!!!
    かがみいいいいいぃ!

    やっべ、続きに激しく期待してます -- 名無しさん (2008-01-31 06:12:50)

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