「……私、初めて見たよ。つかさのあんな顔」
右隣のこなたが、俺を眠そうな目で見上げながらチョココロネをもそもそと食んでいる。
正面の高良さんも、豪勢なお弁当をゆっくり、あまり美味しくなさそうに口に運ぶ。
どこか居心地悪そうなのはクラス中からの視線のおかげだろう。その視線が突き刺さっているのは
俺達、特に俺、な訳で、その俺はこれ以上ないくらいに居心地が悪い。
正面の高良さんも、豪勢なお弁当をゆっくり、あまり美味しくなさそうに口に運ぶ。
どこか居心地悪そうなのはクラス中からの視線のおかげだろう。その視線が突き刺さっているのは
俺達、特に俺、な訳で、その俺はこれ以上ないくらいに居心地が悪い。
「なぁ、俺はどうするべきだ?」
「そりゃ、つかさを追って教室を飛び出すべきだったよねぇ」
なんで普通にお弁当食べてるかなぁ、と続けるこなた。
……ジト目の理由がやっとわかったよ、でもそんなタイミングは遥か昔に置いてきちまったしなぁ。
「そりゃ、つかさを追って教室を飛び出すべきだったよねぇ」
なんで普通にお弁当食べてるかなぁ、と続けるこなた。
……ジト目の理由がやっとわかったよ、でもそんなタイミングは遥か昔に置いてきちまったしなぁ。
つかさが教室を飛び出したその時、俺は。
情けない事に、まさにお手本のように……呆気にとられちまってて。
何故なのか、と考えていると、つかさを追うなんて選択肢は出てこなかった。
情けない事に、まさにお手本のように……呆気にとられちまってて。
何故なのか、と考えていると、つかさを追うなんて選択肢は出てこなかった。
何故なのか。
なんで。
なんでつかさは……
なんで。
なんでつかさは……
久々のマジギレを、よりによって教室なんかでやらかしちまったんだ?
─ おす☆かが かえすよ!べんとーばこ ─
まずその原因を突き止めよう、物事は順序ってもんが重要だからな。うん。
「そんなの簡単じゃん」
こなたはそう言って、指先を俺の座っている机の上に向ける。
「いや……今はあっち、かな」
そして黒板の方を指差す。……そっちはC組、俺のクラスの方向か。
「そんなの簡単じゃん」
こなたはそう言って、指先を俺の座っている机の上に向ける。
「いや……今はあっち、かな」
そして黒板の方を指差す。……そっちはC組、俺のクラスの方向か。
「なんなんだよ?」
「わっかんないかなぁ、お弁当だよ」
「わっかんないかなぁ、お弁当だよ」
……お弁当。
そういやそうだ。今日の弁当箱が違う理由、それを説明した途端、つかさのあの怒号が聞こえたんだったな。
でも……そんなに本気で怒るような事なのか? 弁当の交換が?
そういやそうだ。今日の弁当箱が違う理由、それを説明した途端、つかさのあの怒号が聞こえたんだったな。
でも……そんなに本気で怒るような事なのか? 弁当の交換が?
こなたと高良さんは、揃って大きな溜め息をひとつ。
「今朝、つかさ言ってたじゃん。『お弁当作るのが楽しい』って。
そう思えるのって、かがみの為に作ってるからじゃないのかな」
「今朝、つかさ言ってたじゃん。『お弁当作るのが楽しい』って。
そう思えるのって、かがみの為に作ってるからじゃないのかな」
そんなもんなのか? たかが弁当じゃねぇか。
「たかがお弁当、なんて言わないでください」
と、僅かに語尾を荒げる高良さん。……すみません。
と、僅かに語尾を荒げる高良さん。……すみません。
「私だって、想い人の為に作ったお弁当をそんなふうに扱われたら、少し……いえ、かなり傷付きます」
そういうもんですか。……いやそんなことより、想い人って! 俺らは兄妹ですよ?
そういうもんですか。……いやそんなことより、想い人って! 俺らは兄妹ですよ?
高良さんが、ありえなくはないですよ、と呟く。おいおいマジかよ。
「私だって幼い頃、親戚の兄に似たような感情を抱いた事がありますし」
「もしかしたらそれ、かもねぇ。そうだとするとあの反応にも」
合点がいく、か。
「私だって幼い頃、親戚の兄に似たような感情を抱いた事がありますし」
「もしかしたらそれ、かもねぇ。そうだとするとあの反応にも」
合点がいく、か。
とするとなんだ、つまりつかさのバカは、よりにもよって実の兄であるこの俺に……
「恋をしてるね」
……マジかよ。
谷口の弁当箱の中からミニハンバーグを摘まみ出し、口に運ぶ。
……冷凍食品だな、間違いない。これに比べて、つかさの作る弁当の、なんと手の込んだこと。
……冷凍食品だな、間違いない。これに比べて、つかさの作る弁当の、なんと手の込んだこと。
あれは全部……俺の為に?
「………」
俺がした事が、なんだか酷い事のように思えてきた。
いや、実際かなり、めちゃくちゃ、非道い。
俺はつかさの気持ちを……踏みにじったも同然、なのかもしれない。
俺がした事が、なんだか酷い事のように思えてきた。
いや、実際かなり、めちゃくちゃ、非道い。
俺はつかさの気持ちを……踏みにじったも同然、なのかもしれない。
だとしたら。俺が今、やるべき事は……
「つかさ、探してくる」
ほとんど中身が減ってない弁当箱の蓋を閉め、席を立つ。
教室を出るときにふと振り返ると、親指を立てたこなたと、真剣な眼差しの高良さんが無言で見送ってくれた。
教室を出るときにふと振り返ると、親指を立てたこなたと、真剣な眼差しの高良さんが無言で見送ってくれた。
……っと、その前に、この弁当箱を谷口に返してやらねばならない。えーいまどろっこしい。
すぐ隣のC組の扉を開く。谷口は日下部、峰岸と一緒に弁当を囲んでいた。
すぐ隣のC組の扉を開く。谷口は日下部、峰岸と一緒に弁当を囲んでいた。
「柊、早いじゃねーか」
「ちょっとな。これ返すよ」
弁当箱を受け取った谷口は、なにやら訝しむ表情を見せる。
「なんだ柊、食ってねぇのか」
ちょっとヤボ用ができてなぁ。食ってる暇ねぇんだよ。
「ちょっとな。これ返すよ」
弁当箱を受け取った谷口は、なにやら訝しむ表情を見せる。
「なんだ柊、食ってねぇのか」
ちょっとヤボ用ができてなぁ。食ってる暇ねぇんだよ。
「5限、体育だよ。お昼食べなくてだいじょうぶなの?」と峰岸。
う゛、忘れてた……。きっついなぁ畜生。
う゛、忘れてた……。きっついなぁ畜生。
「なあ、日下部」
肩を掴み、早口で喋る。
日下部はなんだかフリーズしちまってるが気にしない。
単刀直入に訊こう、時間の限られた昼休みは有効に使わねば。
肩を掴み、早口で喋る。
日下部はなんだかフリーズしちまってるが気にしない。
単刀直入に訊こう、時間の限られた昼休みは有効に使わねば。
「おまえ、恋してるか?」
我ながら意味不明だ。
目の前の日下部はフリーズ状態から回復、どういう訳かキョドり始め、下を向いて30秒ほど沈黙し……
ええい、その時間がもったいない!
目の前の日下部はフリーズ状態から回復、どういう訳かキョドり始め、下を向いて30秒ほど沈黙し……
ええい、その時間がもったいない!
こっちがびっくりするほど真っ赤な顔で、そっぽを向いたまま
「し、……してる、けど」
と答えた。
それを答えるだけなのに忙しい奴だな、と思うが気にしちゃいられない。本題に入ろう。
「し、……してる、けど」
と答えた。
それを答えるだけなのに忙しい奴だな、と思うが気にしちゃいられない。本題に入ろう。
「それ、相手、兄貴か?」
それを聞いて、峰岸が表情を変えた。真っ青だ。血の気が失せちまっている。
真っ赤な日下部と真っ青な峰岸。信号みたいだなぁおまえら。
真っ赤な日下部と真っ青な峰岸。信号みたいだなぁおまえら。
日下部は今度は素早く反応した。何故だか峰岸に目線を送りながら、
「ちがう、全っ然違うかんな!」
と全力で首を左右に振る。
「ちがう、全っ然違うかんな!」
と全力で首を左右に振る。
そうか、もしかしたらいい相談相手になるかと思ったんだが。
そりゃなかなかいないよな、兄に恋する妹なんて。
そりゃなかなかいないよな、兄に恋する妹なんて。
「悪い、変なこと訊いたな。すまん」
そう言い残して、扉に向かう。暗い表情のままの峰岸が気になったがスルーだ。
日下部は峰岸に、あーだこーだと弁解めいた事を早口で喋っていた。訳のわからん奴らだ。
そう言い残して、扉に向かう。暗い表情のままの峰岸が気になったがスルーだ。
日下部は峰岸に、あーだこーだと弁解めいた事を早口で喋っていた。訳のわからん奴らだ。
教室を出る時、「エノラゲイかよお前! 超弩級の爆弾投下していきやがって!」
という日下部の非難と共に、谷口の声が聞こえた。
という日下部の非難と共に、谷口の声が聞こえた。
「柊つかさの弁当、うまいぞー」と。
……知ってるよ、馬鹿野郎。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
……いない。どこにも。
俺は図書室前の廊下にへたりこみ、壁に背中を預けた。
「はあ、はあ……」
自分の呼吸の音が煩い。心臓が全力でレッドアラートを打ち鳴らしている。
……運動不足だ。畜生、次は体育だってのに。
「はあ、はあ……」
自分の呼吸の音が煩い。心臓が全力でレッドアラートを打ち鳴らしている。
……運動不足だ。畜生、次は体育だってのに。
「……つかさ、どこ行っちまったんだ」
保健室、中庭、屋上、その他いろんな特別教室。
校舎内を走り回って捜したそれらのどこにも、つかさはいなかった。
校舎内を走り回って捜したそれらのどこにも、つかさはいなかった。
「捜してないのは、あと……」
山ほど。
山ほど。
げんなりする。15分ほどかけて走り回った校舎も東側、全体の三分の一ほどだ。
……でかすぎんだよこの学校!
なんで体育館が2つもあんの? 必要なの?
……でかすぎんだよこの学校!
なんで体育館が2つもあんの? 必要なの?
ポケットから携帯を取り出す。発信履歴の「つかさ」の文字が痛々しく連なっている。
あいつはそのことごとくを無視しやがった。……まあ、俺が悪いんだけどな。
あいつはそのことごとくを無視しやがった。……まあ、俺が悪いんだけどな。
液晶画面の右上に目をやる。思わず溜め息が漏れた。
その理由? んなもんすぐにわかるさ。
その理由? んなもんすぐにわかるさ。
キーン、コーン……
間抜けな音が廊下の隅のスピーカーから聞こえてくる。
予鈴。……タイム・リミット。
予鈴。……タイム・リミット。
昼メシも食ってない、全力疾走した後という最悪のコンディションの中、体育に赴かなければならない。
それもつかさの行方を気にかけながら。
それもつかさの行方を気にかけながら。
授業なんか無視してつかさ捜しを続けてもいいのだが……それは多分、きっと、体育よりも、きつい。
「やれやれ……」
5限は体育と捜索、どちらにしようかと考えながら腰を上げると、目の前の図書室の扉が開いて、
……なんてこった。
左手に文庫本を持ったつかさが、図書室から出てきた。
……なんてこった。
左手に文庫本を持ったつかさが、図書室から出てきた。
思わず、唇を噛む。活字は睡眠導入剤だと認識しているつかさが、まさか図書室なんかにいるわけない
と思っていた事を恨む。くそ、裏をかかれた。
と思っていた事を恨む。くそ、裏をかかれた。
「つかさ……」
つかさは暗い顔を上げた。目の前にいた俺と視線がぶつかり、一瞬、驚いたような顔を見せたが、
つかさは暗い顔を上げた。目の前にいた俺と視線がぶつかり、一瞬、驚いたような顔を見せたが、
「おい、つかさ!」
俺の呼びかけに応える事はなく、すぐさま走り去ってしまって。
俺の呼びかけに応える事はなく、すぐさま走り去ってしまって。
それを追うだけの体力や気力は、今の俺には微塵も残ってはいなかった。
(つづく)
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- つかさ、今日の弁当にハートマークでも描いてたな!? -- 名無しさん (2008-07-01 18:13:34)
- 見た目が女の子っぽいけど、(本当の)女の子の気持ちには鈍感なかがみん…
なかなかいいですね~。俺男なのに、なんなんだこの気持ちはw
4-243氏のイラストも非常にGJです。
そちらの都合や意思がよろしければぜひ続きを -- 名無しさん (2008-05-07 20:12:24)