- 23.現実を知ろう!
私たちは双子だった。
それは、誰かに決められた事じゃない。
もしそんな誰かが居るとしたら、それはきっと神様。
神様が悪戯に分けた、生命の芽。
世界が例え壊れても。
世界がもしも、鈍色でも。
それだけは……決して変わらない。
それは、誰かに決められた事じゃない。
もしそんな誰かが居るとしたら、それはきっと神様。
神様が悪戯に分けた、生命の芽。
世界が例え壊れても。
世界がもしも、鈍色でも。
それだけは……決して変わらない。
『ねぇ、お姉ちゃん』
いつかのつかさの言葉が淡く蘇る。
私は笑って曖昧に返事をしたけど……つかさは本気だった。
私は笑って曖昧に返事をしたけど……つかさは本気だった。
『私ね』
その時のつかさの笑顔が、色褪せる。
ああ、なんだっけ。
その時つかさは、何て言ってたんだっけ。
今はもう……思い出せない。
ああ、なんだっけ。
その時つかさは、何て言ってたんだっけ。
今はもう……思い出せない。
こなたの唾を飲む感触が、私の喉に響く。
耳に反響する病院の静寂さも、鼻をつく薬品の香りも。
全てが邪魔に感じるくらいに今は、神経が高ぶっていた。
「こなた、お願い」
「……うん」
こなたが小声で私に言ってから、扉を数回叩く。
そして、中から声。
聞き覚えのある……懐かしい声。
「どうぞ」
その声に反応してから、病室の引き戸にこなたが手をかける。
心臓の音が五月蝿い。
汗が滴り落ち、妙に肌を刺激する。
「……失礼します」
こなたが開けた扉から、連続した機械の音が漏れる。
ピッピッと定期的に聞こえるそれは、他の誰でもない。
私の、命の音。
それが耳に届いて……もう一度唾を飲む。
そこには居た……『私』が。
無味の色に包まれたベッドの上に居る私を包むのは、包帯。
そして体から伸びる管が機械に繋がり、私が生きている証拠を掻き鳴らす。
まるで眠っているようなその体は、何度見ても気持ちの良いものではない。
「泉さん、来てくださったんですね」
横に視線を滑らせると、みゆきの笑顔が視界に入った。
そして……『もう一人』も。
「こんにちは……泉さん」
「あ、こ、んちは」
対人恐怖症の所為か、視線を逸らすこなた。
それでも、私の目の前には確かに居る。
私の妹……つかさが。
「ゆきちゃんから聞いたよ、ごめんね。わざわざ寄ってもらって」
「う、ううん。いいよ」
そのままつかさが用意してくれた椅子に座る。
そこから寝ている顔を覗き込み、横目で浮いている私を見る。
……私も少し、不思議な気分だ。
目の前に自分が居るんだ。
こなたからすれば私が二人居るようなもの。
「具合のほうは?」
「今日精密検査の結果が出るんだって、お母さんが今聞きに行ってるんだ」
視線を逸らしながら質問するこなたに、つかさが笑顔を見せる。
だけど無理な笑顔が続くはずもなく、少し俯く。
「きっと大丈夫ですよ、つかささん」
それを見かねて、みゆきが励ます。
私も声をかけたかったけど、何も伝えられないのが辛い。
それをこなたが悟ったのか、つかさのほうに座りなおす。
「そだよ、かがみは強い子だもん。すぐに元気になるよっ」
「?」
その言葉に、つかさが眼を丸くする。
みゆきも何処か、意外といったような感じだ。
「泉さん……お姉ちゃんの事、知ってるの?」
……その理由は、つかさのこの一言で分かった。
そっか、そうだったわね。
私とこなたは、学校では知り合わなかったんだっけ。
知り合ったのは、そう……間抜けな天使の、気まぐれかな。
「ん、まぁね……腐れ縁、っていうのかな」
言いえて妙だな、とか勝手に思った。
そう、これは不思議な縁。
本当は、あるはずのない……縁。
運命? あはは、そういう言葉も嫌いじゃないわ。
「かがみはずっと閉じこもってた私を励ましてくれた、叱ってくれた……凄く、感謝してるんだ」
こなたが言葉を絞る。
顔は、こっちを向いていなかったけど……分かる。
これは……私に言ってるって。
「そう、なんだ」
すると、少しつかさが笑う。
さっきの無理をした笑顔じゃない。
暖かい、笑顔。
「やっぱりお姉ちゃんは、凄いな」
その笑顔が私を包む。
ああそうだ……つかさって、こんな顔して笑うんだっけ。
やっぱり、違うよ。
つかさなわけ、ない。
つかさがそんな事するわけ……ないよ。
「あの、さ」
「うん?」
こなたが声を絞り出す。
私の気持ちが、伝わったらしい。
うん、大丈夫。
心は決まった……だからこなた、お願い。
……言って。
「かがみの……事故の日の事、聞いてもいい?」
「い、泉さんっ」
つかさの表情が強張ったのを察し、みゆきが間に入る。
その顔は少し……怒ってる。
クラスで見たあの表情と同じだ。
「貴方も、信じてるんですか? あんな噂……」
「噂なんか知らないよ、学校なんか言ってないもん」
こなたが語尾を強くして、みゆきを睨む。
少し空気が、固まる。
こなたにそんな噂の話はしていない。
全部私から聞いた情報だけだ。
「それでもかがみを突き飛ばした誰かがいるのは確か……それは、知ってるよね?」
その証言を、つかさが知らないはずがない。
表情を強張らせているのが、その証拠だ。
「確かに、それを見たって人が居るってね……でも、嘘だよ。それ」
「……っ」
つかさの言葉に、こなたが少し苛立つ。
大切ないとこの言葉を否定された事への怒りが、伝わってくる。
「その人はかがみとは無縁の人だった……嘘をつく理由はないよ」
「詳しいんだね、泉さん……でも、嘘は嘘だよ」
二人の間の空気が張り詰める。
つかさの言い分も分かる。
ゆたかちゃんの証言を認める事。
それは、自らの破滅に繋がる。
「お姉ちゃんが突き飛ばされたなんて、嘘……『私が振り返った時、誰も傍には居なかった』もん」
誰も居なかった。
でもそれはおかしいんだ。
だって、『私が誰かに突き飛ばされた』のは確か。
それだけが、微かにある……私の記憶。
つかさはやっぱり、嘘をついてる。
何かを……『隠してる』?
「じゃあ、どうしてかがみは轢かれたの?」
「そんなの分かんないよ、躓いたんじゃない?」
曖昧に答えるつかさ。
つまりつかさは、私の事故の瞬間を見ていなかった?
「『振り返った』って言ったよね?」
「うん、大きな音がしてね」」
「『一緒に帰ってた』のに?」
つかさの表情が、少し強張ったのが分かる。
こなたが言った『位置』の不自然。
一緒に帰っていたはずの私とつかさ。
だけど事故の瞬間、つかさは私より前方に居た。
「そう、だよ……お姉ちゃんは横断歩道より後ろに居た。私は前に居た……それだけ」
「そこのところ、詳しく聞いていいかな」
「……」
少し黙った後に、つかさがようやく口を開いた。
「信号が変わりそうになったから二人で『走った』んだ、それで私は『先に横断歩道の向こう側についた』」
初めて聞く情報を頭に叩き込む。
つかさは言う。
私と二人で帰っていた。
その途中信号が変わりそうになった横断歩道を駆けて、私より先に向こう側についた。
そして息を整えているうちに、背後で大きな音がした。
だから、私の事故の瞬間は見ていない。
「これで……満足したかな?」
つかさがこなたを見る。
筋は通っている。
それなら、こなたが言う位置がおかしかった説明もつく。
でも……ゆたかちゃんが見たものとは、やっぱり違う光景。
「……」
するとこなたが立ち上がった。
それに驚き、二人が少し身構える。
「ちょっと、ジュース買ってくるね。喉渇いちゃった」
そう言って、踵を返し扉に向かう。
その際に私を見たので、私もそれについて行く。
つかさやみゆきは声をかけようとした様だが、かける言葉も見つからなかったようだ。
いきなり引き篭もりのクラスメイトがやってきてこんな事を言うのだ……そりゃ驚いただろう。
そしてこなたが病室の扉に手をかけようとした時だった。
「あっ……」
「あら」
その扉が自動的に開き、女性が現れる。
見覚えのあるその顔。
視界が……滲んだ気がした。
「あ、お母さん……」
「つかさのお友達? こんにちは」
久しく見た母の顔はやっぱり……いつものように優しかった。
でも、その視線は何処か疲れていて。
何処か……暗かった。
それでも、精一杯にこなたに笑顔を見せる。
「うん。クラスメイトの子」
「そう、お見舞いにきてくれたのね……ありがとう」
「……」
その笑顔に少し動揺したのか、そのまま軽く頭を下げるとその横を抜けていく。
だけど私は、それに遅れる。
お母さんが居る……それだけで私の後ろ髪が引かれ、上手く体が前に動いてくれない。
「もう帰っちゃうって?」
「ううん、ちょっと飲み物買ってくるって」
でも、その視線が私に向けられることはない。
そのまま私をすり抜けて、つかさの傍に。
ねぇ、お母さん。
私、ここに……居るよ?
ここに……居るからね。
「あのね、つかさ」
母さんの声が聞こえる。
ううん、駄目だ。
今は甘える時じゃない……行こう、こなたの所に。
「大事な話があるの……」
そのお母さんの声を最後まで聞かずに、私は部屋を出た。
こなたの後を追うために、部屋の外へ。
それだけで精一杯だった。
耳に反響する病院の静寂さも、鼻をつく薬品の香りも。
全てが邪魔に感じるくらいに今は、神経が高ぶっていた。
「こなた、お願い」
「……うん」
こなたが小声で私に言ってから、扉を数回叩く。
そして、中から声。
聞き覚えのある……懐かしい声。
「どうぞ」
その声に反応してから、病室の引き戸にこなたが手をかける。
心臓の音が五月蝿い。
汗が滴り落ち、妙に肌を刺激する。
「……失礼します」
こなたが開けた扉から、連続した機械の音が漏れる。
ピッピッと定期的に聞こえるそれは、他の誰でもない。
私の、命の音。
それが耳に届いて……もう一度唾を飲む。
そこには居た……『私』が。
無味の色に包まれたベッドの上に居る私を包むのは、包帯。
そして体から伸びる管が機械に繋がり、私が生きている証拠を掻き鳴らす。
まるで眠っているようなその体は、何度見ても気持ちの良いものではない。
「泉さん、来てくださったんですね」
横に視線を滑らせると、みゆきの笑顔が視界に入った。
そして……『もう一人』も。
「こんにちは……泉さん」
「あ、こ、んちは」
対人恐怖症の所為か、視線を逸らすこなた。
それでも、私の目の前には確かに居る。
私の妹……つかさが。
「ゆきちゃんから聞いたよ、ごめんね。わざわざ寄ってもらって」
「う、ううん。いいよ」
そのままつかさが用意してくれた椅子に座る。
そこから寝ている顔を覗き込み、横目で浮いている私を見る。
……私も少し、不思議な気分だ。
目の前に自分が居るんだ。
こなたからすれば私が二人居るようなもの。
「具合のほうは?」
「今日精密検査の結果が出るんだって、お母さんが今聞きに行ってるんだ」
視線を逸らしながら質問するこなたに、つかさが笑顔を見せる。
だけど無理な笑顔が続くはずもなく、少し俯く。
「きっと大丈夫ですよ、つかささん」
それを見かねて、みゆきが励ます。
私も声をかけたかったけど、何も伝えられないのが辛い。
それをこなたが悟ったのか、つかさのほうに座りなおす。
「そだよ、かがみは強い子だもん。すぐに元気になるよっ」
「?」
その言葉に、つかさが眼を丸くする。
みゆきも何処か、意外といったような感じだ。
「泉さん……お姉ちゃんの事、知ってるの?」
……その理由は、つかさのこの一言で分かった。
そっか、そうだったわね。
私とこなたは、学校では知り合わなかったんだっけ。
知り合ったのは、そう……間抜けな天使の、気まぐれかな。
「ん、まぁね……腐れ縁、っていうのかな」
言いえて妙だな、とか勝手に思った。
そう、これは不思議な縁。
本当は、あるはずのない……縁。
運命? あはは、そういう言葉も嫌いじゃないわ。
「かがみはずっと閉じこもってた私を励ましてくれた、叱ってくれた……凄く、感謝してるんだ」
こなたが言葉を絞る。
顔は、こっちを向いていなかったけど……分かる。
これは……私に言ってるって。
「そう、なんだ」
すると、少しつかさが笑う。
さっきの無理をした笑顔じゃない。
暖かい、笑顔。
「やっぱりお姉ちゃんは、凄いな」
その笑顔が私を包む。
ああそうだ……つかさって、こんな顔して笑うんだっけ。
やっぱり、違うよ。
つかさなわけ、ない。
つかさがそんな事するわけ……ないよ。
「あの、さ」
「うん?」
こなたが声を絞り出す。
私の気持ちが、伝わったらしい。
うん、大丈夫。
心は決まった……だからこなた、お願い。
……言って。
「かがみの……事故の日の事、聞いてもいい?」
「い、泉さんっ」
つかさの表情が強張ったのを察し、みゆきが間に入る。
その顔は少し……怒ってる。
クラスで見たあの表情と同じだ。
「貴方も、信じてるんですか? あんな噂……」
「噂なんか知らないよ、学校なんか言ってないもん」
こなたが語尾を強くして、みゆきを睨む。
少し空気が、固まる。
こなたにそんな噂の話はしていない。
全部私から聞いた情報だけだ。
「それでもかがみを突き飛ばした誰かがいるのは確か……それは、知ってるよね?」
その証言を、つかさが知らないはずがない。
表情を強張らせているのが、その証拠だ。
「確かに、それを見たって人が居るってね……でも、嘘だよ。それ」
「……っ」
つかさの言葉に、こなたが少し苛立つ。
大切ないとこの言葉を否定された事への怒りが、伝わってくる。
「その人はかがみとは無縁の人だった……嘘をつく理由はないよ」
「詳しいんだね、泉さん……でも、嘘は嘘だよ」
二人の間の空気が張り詰める。
つかさの言い分も分かる。
ゆたかちゃんの証言を認める事。
それは、自らの破滅に繋がる。
「お姉ちゃんが突き飛ばされたなんて、嘘……『私が振り返った時、誰も傍には居なかった』もん」
誰も居なかった。
でもそれはおかしいんだ。
だって、『私が誰かに突き飛ばされた』のは確か。
それだけが、微かにある……私の記憶。
つかさはやっぱり、嘘をついてる。
何かを……『隠してる』?
「じゃあ、どうしてかがみは轢かれたの?」
「そんなの分かんないよ、躓いたんじゃない?」
曖昧に答えるつかさ。
つまりつかさは、私の事故の瞬間を見ていなかった?
「『振り返った』って言ったよね?」
「うん、大きな音がしてね」」
「『一緒に帰ってた』のに?」
つかさの表情が、少し強張ったのが分かる。
こなたが言った『位置』の不自然。
一緒に帰っていたはずの私とつかさ。
だけど事故の瞬間、つかさは私より前方に居た。
「そう、だよ……お姉ちゃんは横断歩道より後ろに居た。私は前に居た……それだけ」
「そこのところ、詳しく聞いていいかな」
「……」
少し黙った後に、つかさがようやく口を開いた。
「信号が変わりそうになったから二人で『走った』んだ、それで私は『先に横断歩道の向こう側についた』」
初めて聞く情報を頭に叩き込む。
つかさは言う。
私と二人で帰っていた。
その途中信号が変わりそうになった横断歩道を駆けて、私より先に向こう側についた。
そして息を整えているうちに、背後で大きな音がした。
だから、私の事故の瞬間は見ていない。
「これで……満足したかな?」
つかさがこなたを見る。
筋は通っている。
それなら、こなたが言う位置がおかしかった説明もつく。
でも……ゆたかちゃんが見たものとは、やっぱり違う光景。
「……」
するとこなたが立ち上がった。
それに驚き、二人が少し身構える。
「ちょっと、ジュース買ってくるね。喉渇いちゃった」
そう言って、踵を返し扉に向かう。
その際に私を見たので、私もそれについて行く。
つかさやみゆきは声をかけようとした様だが、かける言葉も見つからなかったようだ。
いきなり引き篭もりのクラスメイトがやってきてこんな事を言うのだ……そりゃ驚いただろう。
そしてこなたが病室の扉に手をかけようとした時だった。
「あっ……」
「あら」
その扉が自動的に開き、女性が現れる。
見覚えのあるその顔。
視界が……滲んだ気がした。
「あ、お母さん……」
「つかさのお友達? こんにちは」
久しく見た母の顔はやっぱり……いつものように優しかった。
でも、その視線は何処か疲れていて。
何処か……暗かった。
それでも、精一杯にこなたに笑顔を見せる。
「うん。クラスメイトの子」
「そう、お見舞いにきてくれたのね……ありがとう」
「……」
その笑顔に少し動揺したのか、そのまま軽く頭を下げるとその横を抜けていく。
だけど私は、それに遅れる。
お母さんが居る……それだけで私の後ろ髪が引かれ、上手く体が前に動いてくれない。
「もう帰っちゃうって?」
「ううん、ちょっと飲み物買ってくるって」
でも、その視線が私に向けられることはない。
そのまま私をすり抜けて、つかさの傍に。
ねぇ、お母さん。
私、ここに……居るよ?
ここに……居るからね。
「あのね、つかさ」
母さんの声が聞こえる。
ううん、駄目だ。
今は甘える時じゃない……行こう、こなたの所に。
「大事な話があるの……」
そのお母さんの声を最後まで聞かずに、私は部屋を出た。
こなたの後を追うために、部屋の外へ。
それだけで精一杯だった。
だから、聞けなかった。
母さんの言葉を。
だから……忘れてた。
母さんが、何処に行ってたのかを。
母さんの言葉を。
だから……忘れてた。
母さんが、何処に行ってたのかを。
「ごめんね、かがみ」
一階の廊下の自販機で適当な炭酸を買い、ロビーの椅子に腰を下ろす。
冷たく弾ける感触が喉を襲い、少し頭が冷える。
「……何が?」
「お母さんともう少し、居たかったんでしょ?」
答えが分かってる質問を、投げかけてくる。
それに少し甘えそうになった自分を奮い立たせ、無理に笑う。
「大丈夫よ、平気」
「……意地っ張り」
どっちがよ、とは言ってやらなかった。
こなたにもきっと伝わってるんだ。
お母さんへの愛情が……未練が。
それは彼女が一番、分かってるものだから。
「本当に平気よ、そういうのは全部……後で考える事にしたわ」
「後って?」
「生き返ってから、ってこと」
そうだ。
泣くのも、落ち込むのも、全部後回し。
今は目の前の問題だけに集中しなきゃね。
そうだ、生き返ったら最初にお母さんに抱きつこう。
その手で、その体で。
次はお父さん、次はお姉ちゃん、またお姉ちゃん。
そして、つかさ。
あはは駄目よ、一番下は最後って決まってるんだから。
その代り……一番強く抱きしめてあげるから。
皆の体を、その手で感じよう。
それで一杯泣いて、その後に笑おう。
そう思えば大丈夫……今は、我慢出来る。
「どう思った? つかさの言ってる事」
「……」
こなたがまた炭酸を口に運ぶ。
「嘘は言ってないと思う、一緒に帰ってたってのは本当じゃないかな」
つかさは現場に居た。
それは私の記憶からも確か。
「でも、本当の事は言ってない……そんな気がする」
つかさの証言だけだったら、それを信じるだけで簡単な話だ。
でもそこにゆたかちゃんの証言が入るから……訳が分からない。
やっぱり……会いに行かなきゃいけない、ゆたかちゃんにも。
「戻ろっか、お母さんに挨拶して帰ろ」
「……そうね」
空になったペットボトルをごみ箱に捨て、こなたが立ち上がる。
そのまま帰っても支障はないと思いが、多分私に気を遣ったんだろう。
ゆたかちゃんのお見舞いも済んだ、つかさの話も聞けた。
そりゃ、全部が分かった訳じゃない。
それでも欲張りはいけないわね……戦果はあったんだし。
とりあえずゆたかちゃんの事件については、つかさには無理だって成美さんは言ってた。
それだけで今日のところは十分よ。
あとはだから……ゆたかちゃんの見たもの。
それを確かめるために、もう一度あの家に行こう……みなみちゃんの家に。
あとあの間の抜けた天使でも殴ってストレス発散してやろうかな。
「ふぅ……」
階段を上がり、もう一度私の病室まで戻ってくる。
そして一度深呼吸してから、こなたが再び扉に手をかける。
一階の廊下の自販機で適当な炭酸を買い、ロビーの椅子に腰を下ろす。
冷たく弾ける感触が喉を襲い、少し頭が冷える。
「……何が?」
「お母さんともう少し、居たかったんでしょ?」
答えが分かってる質問を、投げかけてくる。
それに少し甘えそうになった自分を奮い立たせ、無理に笑う。
「大丈夫よ、平気」
「……意地っ張り」
どっちがよ、とは言ってやらなかった。
こなたにもきっと伝わってるんだ。
お母さんへの愛情が……未練が。
それは彼女が一番、分かってるものだから。
「本当に平気よ、そういうのは全部……後で考える事にしたわ」
「後って?」
「生き返ってから、ってこと」
そうだ。
泣くのも、落ち込むのも、全部後回し。
今は目の前の問題だけに集中しなきゃね。
そうだ、生き返ったら最初にお母さんに抱きつこう。
その手で、その体で。
次はお父さん、次はお姉ちゃん、またお姉ちゃん。
そして、つかさ。
あはは駄目よ、一番下は最後って決まってるんだから。
その代り……一番強く抱きしめてあげるから。
皆の体を、その手で感じよう。
それで一杯泣いて、その後に笑おう。
そう思えば大丈夫……今は、我慢出来る。
「どう思った? つかさの言ってる事」
「……」
こなたがまた炭酸を口に運ぶ。
「嘘は言ってないと思う、一緒に帰ってたってのは本当じゃないかな」
つかさは現場に居た。
それは私の記憶からも確か。
「でも、本当の事は言ってない……そんな気がする」
つかさの証言だけだったら、それを信じるだけで簡単な話だ。
でもそこにゆたかちゃんの証言が入るから……訳が分からない。
やっぱり……会いに行かなきゃいけない、ゆたかちゃんにも。
「戻ろっか、お母さんに挨拶して帰ろ」
「……そうね」
空になったペットボトルをごみ箱に捨て、こなたが立ち上がる。
そのまま帰っても支障はないと思いが、多分私に気を遣ったんだろう。
ゆたかちゃんのお見舞いも済んだ、つかさの話も聞けた。
そりゃ、全部が分かった訳じゃない。
それでも欲張りはいけないわね……戦果はあったんだし。
とりあえずゆたかちゃんの事件については、つかさには無理だって成美さんは言ってた。
それだけで今日のところは十分よ。
あとはだから……ゆたかちゃんの見たもの。
それを確かめるために、もう一度あの家に行こう……みなみちゃんの家に。
あとあの間の抜けた天使でも殴ってストレス発散してやろうかな。
「ふぅ……」
階段を上がり、もう一度私の病室まで戻ってくる。
そして一度深呼吸してから、こなたが再び扉に手をかける。
私は正直なところ、浮かれていた。
お母さんに会えた喜びで、安心していたのかもしれない。
ゆたかちゃんの事件は、つかさには無理だった。
それだけでも分かったのが、嬉しかった。
大丈夫だ、と自分に言い聞かせる。
つかさを信じようと、心を奮い立たせる。
それに呼応するように、こなたがゆっくりと開いた。
お母さんに会えた喜びで、安心していたのかもしれない。
ゆたかちゃんの事件は、つかさには無理だった。
それだけでも分かったのが、嬉しかった。
大丈夫だ、と自分に言い聞かせる。
つかさを信じようと、心を奮い立たせる。
それに呼応するように、こなたがゆっくりと開いた。
……絶望の、扉を。
「嘘ッッッ!!!!」
「!」
開きかけた扉から、声が漏れる。
聞き覚えのある声は、私が長年傍で聞き続けてきたもの。
つかさの……声。
そして何かがこなたを突き飛ばし、部屋から出て行った。
何か? ……つかさだ。
「つかささんっ!」
次に響いたのは、みゆきの声。
まだ私はその突然の状況に対応できず、狼狽する。
今の一瞬の状況が、頭の中でリピートされる。
つかさがこなたを押しのけて、部屋を出て行った。
その眼には……涙。
一瞬だけど、それだけは見逃さなかった。
そのまま、つかさは駆けて行った。
それを追うように、みゆきも慌てて部屋を出て行く。
状況がまるで掴めない。
それでも、つかさが泣いてるのだけは……分かった。
「こ、こなたっ。私たちもっ!」
「えっ、う……うん」
突き飛ばされ尻もちをついていたこなたも、慌てて立ち上がる。
すぐに曲り角で姿を見失ったが、その先の階段を上っていく音だけは聞こえていた。
この階はもう、最上階。
二人を追いかけ、その更に上にある扉を開くと……空が広がっていた。
雲を纏った灰色の空。
そこに並べられた白いシーツが、空を黒く印象付ける。
その奥に、つかさが居た。
誰も居ない屋上に……一人。
「つかささん……」
みゆきにようやく追いついたこなたも、急いで上がった階段に息を切らしている。
そしてみゆきが、つかさにゆっくりと近づいていく。
「来な……いで」
「……っ」
だけど、足を止める。
つかさがそれを、制止したからだ。
「ゆきちゃんも聞いたでしょ? お姉ちゃんの事」
背を向けたまま、つかさが空を見ている。
屋上の低いフェンスに手をかけ、ただ空を。
その表情は、泣いてるのかも分からない。
「ど、どういう事? かがみの事って……」
「……」
こなたの不安そうな声が、辺りに響く。
みゆきは返事をしない。
だけどその表情は、いつもの優しい笑顔ではなかった。
「お姉ちゃんね」
代わりに聞こえたのは、つかさの声。
そして、振り返った。
その眼には涙。
……だけど。
だけど……笑っていた。
「もう、死んでるんだって」
「……つかささんっ!」
みゆきの声が響く。
言葉を上手く、租借出来ない。
喉を通る唾がいやにひっかかる。
今……何て?
「そんな事ありません……かがみさんはまだ、生きています」
「一緒だよ、あはははっ」
つかさが笑う。
嘲笑う。
声をあげて、空を仰いで。
それは何を笑っているんだろう。
「あんなのもう、肉の塊と一緒」
「……そんな言い方、やめてください」
つかさの言葉に、みゆきの語彙が強くなる。
だけどつかさの笑い声は止まらない。
「……ど、どういう……事?」
取り残されたこなたが、質問を繰り返す。
それにゆっくりと、みゆきが答えた。
「……かがみさん、は」
震えるようなか細い声を、みゆきが振り絞る。
その頬から……涙が零れた。
その言葉がゆっくりと、私の耳に入って溶けていく。
静かに、ただ……ゆっくりと。
「目が覚めてももう……喋る事も、動く事も出来ないそうです」
汗が流れる部分が、敏感に反応する。
震える体が、その言葉を必死に否定していく。
「全身不随……恐らくは一生を、ベッドの上で過ごすでしょう」
「ほら、私の言った意味……分かるでしょ? そんなの肉の塊だよ? 死んでるのと一緒だよ? あはっ、あはははははっ!」
狂ったような笑い声が、耳に届く。
涙を流しながら、つかさが笑う。
その笑い声が。
その言葉が。
私にゆっくりと、突き刺さっていく。
死んでる?
私が?
もう、動けない?
なにそれ。
何、ソレ……。
「やめてよっ、そんな言い方」
こなたが、つかさの笑いを制する。
零れかけた涙が、その言葉で止まった気がした。
「なんで? だって可笑しいよ、泉さんもそう思わない? 生きてるのに死んでるんだよ? アハハハハハハッ」
「思わない」
強い口調で、言葉を投げかける。
「かがみだって、そんな事思ってない」
「……何、それ」
笑い声が収まり、つかさがこなたを睨む。
私の名前を出したのが、不愉快だったらしい。
「お姉ちゃんが思ってない? あはは、何それナニソレ。引き篭もってて頭おかしくなった?」
笑いながら、それでも言葉は尖っていた。
「どうせ、思ってるんでしょ? 泉さんだって」
「……何が?」
そして、ずっと貯め続けていた言葉を……吐き出した。
「どうせ……私が殺したんだって」
お前が殺したんだと、周りの誰もが言う。
指を刺し蔑む。罵倒する。
それの繰り返しは、いつか終わるはずだった。
私が眼を覚ましてそれを言えばいい。
でも……それももう、叶わない。
だから彼女は笑う。
彼女を覆う絶望を、嘲笑う。
どうしようも出来ない残酷な現実に押しつぶされて、つかさの心は……壊れてしまった。
「思ってない、かがみが……」
「お姉ちゃんが、そう思ってるから?」
今度はつかさが声でこなたを制す。
そして、睨んだ。
「どうせ……どうせ信じない。いくら奇麗事を並べても、『あんな事』信じるわけない!!」
「つ、つかささんっ! それはっ!」
その時、みゆきが初めて二人の間に割って入った。
まるでつかさの言葉に、反応したかのように。
「どういう……事?」
こなたがみゆきを見る。
その表情は、どこか曇っていた。
まるで今の空に広がる景色を、そこに張り付けたような……そんな表情。
「じゃあ嘘なの? ……事故の話」
「ううん、本当だよ。でもね、ゆきちゃんが全部は言うなって言うの」
「!」
こなたが驚き、眼を見開く。
みゆき……が?
「……」
こなたに視線を向けられても、みゆきは何も言わなかった。
それを代弁するように、つかさが言葉を綴る。
「あの日ね、私たち……一緒に帰ってたんだ。『三人』で」
三人。
その単語は、何処か不思議だ。
つかさの証言にも、ゆたかちゃんの証言にも該当しない。
私と、つかさ。そして……『もう一人』。
「信号が変わろうとして急いだのも本当……私は一番に横断歩道を渡った」
鼓動が速くなっていく。
彼女に今、嘘を取り繕う余裕なんてあるはずがない。
今喋っている事は全て……あったことなんだ。
「そして振り返ったらね」
つかさの顔がまた、歪む。
不気味に笑いだして、屋上のフェンスに身を任せる。
そのまま空を仰ぎながら、奇妙に笑い続ける。
「アハハハハハッ、『ありえない』よ。あんな事……絶対、ありえない」
つかさが、顔を上げることはない。
フェンスを背に、ただ高々と笑うだけ。
「お願い、教えてよ! ……何を、見たの?」
こなたが勇気を出して、核心を聞く。
それがつかさが、隠していた事?
ゆたかちゃんが見た、何か?
私が求める……答えなの?
「……」
その言葉に、笑い声が止まる。
それに該当する返事は、ない。
仰け反ったまま空を仰ぎ、何かを見つめる。
そこにあるのは、曇った空?
ううん、つかさは見たかったんだ。
空に広がってるはずの、青空を。
「……私と、お姉ちゃんってね」
つかさが語る。
その姉という単語に、私の心臓が反応する。
「あんまり似てないんだ。双子なのにね」
つかさの言葉が、辺りに染み込んでいく。
こなたに、みゆきに。
……私に。
「お姉ちゃんは私と違ってしっかり者で、いつも私の事助けてくれて……大好きだった」
過去形になった単語が、私の心を締め付けていく。
「だけど、もう……会えない」
つかさが空を仰ぐ。
灰色の、鈍い暗雲の渦巻く空を。
「会えたってそれはもう、お姉ちゃんじゃない……もう、お姉ちゃんの声も聞けない。だからもう、いいんだ」
ドクン、と心臓が跳ねた。
ねぇ、つかさ。
どうして空を見てるの?
どうしてそんなに……フェンスに寄りかかるの?
危ないよ?
だって。
だって……だって!
「だからもう……全部、いい」
「……つかさっ!」
私の声が響いた。
私の口から飛び出た声。
誰にも聞こえない……声。
私の手が伸びた。
つかさの元に……彼女の手に。
それが、触れることもなく……つかさの体が反転した。
ゆっくりと流れるその世界の中で……つかさの視線が私と、交わった。
ううん、見えるはずがない。
だからそれはきっと、私じゃない私。
でも……私を見てたんだと、思う。
『ねぇ、お姉ちゃん』
つかさの口がゆっくりと言葉を紡ぐ。
スローモーションの世界の中で、その言葉が私に届いた。
「!」
開きかけた扉から、声が漏れる。
聞き覚えのある声は、私が長年傍で聞き続けてきたもの。
つかさの……声。
そして何かがこなたを突き飛ばし、部屋から出て行った。
何か? ……つかさだ。
「つかささんっ!」
次に響いたのは、みゆきの声。
まだ私はその突然の状況に対応できず、狼狽する。
今の一瞬の状況が、頭の中でリピートされる。
つかさがこなたを押しのけて、部屋を出て行った。
その眼には……涙。
一瞬だけど、それだけは見逃さなかった。
そのまま、つかさは駆けて行った。
それを追うように、みゆきも慌てて部屋を出て行く。
状況がまるで掴めない。
それでも、つかさが泣いてるのだけは……分かった。
「こ、こなたっ。私たちもっ!」
「えっ、う……うん」
突き飛ばされ尻もちをついていたこなたも、慌てて立ち上がる。
すぐに曲り角で姿を見失ったが、その先の階段を上っていく音だけは聞こえていた。
この階はもう、最上階。
二人を追いかけ、その更に上にある扉を開くと……空が広がっていた。
雲を纏った灰色の空。
そこに並べられた白いシーツが、空を黒く印象付ける。
その奥に、つかさが居た。
誰も居ない屋上に……一人。
「つかささん……」
みゆきにようやく追いついたこなたも、急いで上がった階段に息を切らしている。
そしてみゆきが、つかさにゆっくりと近づいていく。
「来な……いで」
「……っ」
だけど、足を止める。
つかさがそれを、制止したからだ。
「ゆきちゃんも聞いたでしょ? お姉ちゃんの事」
背を向けたまま、つかさが空を見ている。
屋上の低いフェンスに手をかけ、ただ空を。
その表情は、泣いてるのかも分からない。
「ど、どういう事? かがみの事って……」
「……」
こなたの不安そうな声が、辺りに響く。
みゆきは返事をしない。
だけどその表情は、いつもの優しい笑顔ではなかった。
「お姉ちゃんね」
代わりに聞こえたのは、つかさの声。
そして、振り返った。
その眼には涙。
……だけど。
だけど……笑っていた。
「もう、死んでるんだって」
「……つかささんっ!」
みゆきの声が響く。
言葉を上手く、租借出来ない。
喉を通る唾がいやにひっかかる。
今……何て?
「そんな事ありません……かがみさんはまだ、生きています」
「一緒だよ、あはははっ」
つかさが笑う。
嘲笑う。
声をあげて、空を仰いで。
それは何を笑っているんだろう。
「あんなのもう、肉の塊と一緒」
「……そんな言い方、やめてください」
つかさの言葉に、みゆきの語彙が強くなる。
だけどつかさの笑い声は止まらない。
「……ど、どういう……事?」
取り残されたこなたが、質問を繰り返す。
それにゆっくりと、みゆきが答えた。
「……かがみさん、は」
震えるようなか細い声を、みゆきが振り絞る。
その頬から……涙が零れた。
その言葉がゆっくりと、私の耳に入って溶けていく。
静かに、ただ……ゆっくりと。
「目が覚めてももう……喋る事も、動く事も出来ないそうです」
汗が流れる部分が、敏感に反応する。
震える体が、その言葉を必死に否定していく。
「全身不随……恐らくは一生を、ベッドの上で過ごすでしょう」
「ほら、私の言った意味……分かるでしょ? そんなの肉の塊だよ? 死んでるのと一緒だよ? あはっ、あはははははっ!」
狂ったような笑い声が、耳に届く。
涙を流しながら、つかさが笑う。
その笑い声が。
その言葉が。
私にゆっくりと、突き刺さっていく。
死んでる?
私が?
もう、動けない?
なにそれ。
何、ソレ……。
「やめてよっ、そんな言い方」
こなたが、つかさの笑いを制する。
零れかけた涙が、その言葉で止まった気がした。
「なんで? だって可笑しいよ、泉さんもそう思わない? 生きてるのに死んでるんだよ? アハハハハハハッ」
「思わない」
強い口調で、言葉を投げかける。
「かがみだって、そんな事思ってない」
「……何、それ」
笑い声が収まり、つかさがこなたを睨む。
私の名前を出したのが、不愉快だったらしい。
「お姉ちゃんが思ってない? あはは、何それナニソレ。引き篭もってて頭おかしくなった?」
笑いながら、それでも言葉は尖っていた。
「どうせ、思ってるんでしょ? 泉さんだって」
「……何が?」
そして、ずっと貯め続けていた言葉を……吐き出した。
「どうせ……私が殺したんだって」
お前が殺したんだと、周りの誰もが言う。
指を刺し蔑む。罵倒する。
それの繰り返しは、いつか終わるはずだった。
私が眼を覚ましてそれを言えばいい。
でも……それももう、叶わない。
だから彼女は笑う。
彼女を覆う絶望を、嘲笑う。
どうしようも出来ない残酷な現実に押しつぶされて、つかさの心は……壊れてしまった。
「思ってない、かがみが……」
「お姉ちゃんが、そう思ってるから?」
今度はつかさが声でこなたを制す。
そして、睨んだ。
「どうせ……どうせ信じない。いくら奇麗事を並べても、『あんな事』信じるわけない!!」
「つ、つかささんっ! それはっ!」
その時、みゆきが初めて二人の間に割って入った。
まるでつかさの言葉に、反応したかのように。
「どういう……事?」
こなたがみゆきを見る。
その表情は、どこか曇っていた。
まるで今の空に広がる景色を、そこに張り付けたような……そんな表情。
「じゃあ嘘なの? ……事故の話」
「ううん、本当だよ。でもね、ゆきちゃんが全部は言うなって言うの」
「!」
こなたが驚き、眼を見開く。
みゆき……が?
「……」
こなたに視線を向けられても、みゆきは何も言わなかった。
それを代弁するように、つかさが言葉を綴る。
「あの日ね、私たち……一緒に帰ってたんだ。『三人』で」
三人。
その単語は、何処か不思議だ。
つかさの証言にも、ゆたかちゃんの証言にも該当しない。
私と、つかさ。そして……『もう一人』。
「信号が変わろうとして急いだのも本当……私は一番に横断歩道を渡った」
鼓動が速くなっていく。
彼女に今、嘘を取り繕う余裕なんてあるはずがない。
今喋っている事は全て……あったことなんだ。
「そして振り返ったらね」
つかさの顔がまた、歪む。
不気味に笑いだして、屋上のフェンスに身を任せる。
そのまま空を仰ぎながら、奇妙に笑い続ける。
「アハハハハハッ、『ありえない』よ。あんな事……絶対、ありえない」
つかさが、顔を上げることはない。
フェンスを背に、ただ高々と笑うだけ。
「お願い、教えてよ! ……何を、見たの?」
こなたが勇気を出して、核心を聞く。
それがつかさが、隠していた事?
ゆたかちゃんが見た、何か?
私が求める……答えなの?
「……」
その言葉に、笑い声が止まる。
それに該当する返事は、ない。
仰け反ったまま空を仰ぎ、何かを見つめる。
そこにあるのは、曇った空?
ううん、つかさは見たかったんだ。
空に広がってるはずの、青空を。
「……私と、お姉ちゃんってね」
つかさが語る。
その姉という単語に、私の心臓が反応する。
「あんまり似てないんだ。双子なのにね」
つかさの言葉が、辺りに染み込んでいく。
こなたに、みゆきに。
……私に。
「お姉ちゃんは私と違ってしっかり者で、いつも私の事助けてくれて……大好きだった」
過去形になった単語が、私の心を締め付けていく。
「だけど、もう……会えない」
つかさが空を仰ぐ。
灰色の、鈍い暗雲の渦巻く空を。
「会えたってそれはもう、お姉ちゃんじゃない……もう、お姉ちゃんの声も聞けない。だからもう、いいんだ」
ドクン、と心臓が跳ねた。
ねぇ、つかさ。
どうして空を見てるの?
どうしてそんなに……フェンスに寄りかかるの?
危ないよ?
だって。
だって……だって!
「だからもう……全部、いい」
「……つかさっ!」
私の声が響いた。
私の口から飛び出た声。
誰にも聞こえない……声。
私の手が伸びた。
つかさの元に……彼女の手に。
それが、触れることもなく……つかさの体が反転した。
ゆっくりと流れるその世界の中で……つかさの視線が私と、交わった。
ううん、見えるはずがない。
だからそれはきっと、私じゃない私。
でも……私を見てたんだと、思う。
『ねぇ、お姉ちゃん』
つかさの口がゆっくりと言葉を紡ぐ。
スローモーションの世界の中で、その言葉が私に届いた。
私たちは双子だった。
それは、誰かに決められた事じゃない。
もしそんな誰かが居るとしたら、それはきっと神様。
神様が悪戯に分けた、生命の芽。
世界が例え壊れても。
世界がもしも、鈍色でも。
それだけは変わらない。
それは、誰かに決められた事じゃない。
もしそんな誰かが居るとしたら、それはきっと神様。
神様が悪戯に分けた、生命の芽。
世界が例え壊れても。
世界がもしも、鈍色でも。
それだけは変わらない。
『私ね』
みゆきの叫び声が聞こえた気がした。
こなたの悲鳴が聞こえた気がした。
暗雲の渦巻く音が聞こえた気がした。
こなたの悲鳴が聞こえた気がした。
暗雲の渦巻く音が聞こえた気がした。
『生まれ変わっても、お姉ちゃんの妹がいいな』
グシャリ、と。
音が聞こえた気がした。
私の淡い希望を全て打ち砕く……鈍い音だった。
音が聞こえた気がした。
私の淡い希望を全て打ち砕く……鈍い音だった。
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- 予想道理の結末にはならないでくれ…。
-- 名無しさん (2008-03-26 00:21:30) - GJ
続きまってます
-- 名無しさん (2008-01-29 11:55:20) - つかさあああああああああああああああああ
ここでまさか天使の出番ですか? ですよね?
続きに激しく期待してます -- 名無しさん (2008-01-25 10:51:21)