恋とは素晴らしいもの。今朝まで高良三行はそう思っていた。
昨日の学校帰りに、意中の人を同じくした親友の柊司と、こなたが想いを決めたらそれを尊重することと、
たとえ自分たちの恋の結果がどうなろうとも友情は継続することを約束した時にも、恋の素晴らしさを再確認していた。
しかし、その素晴らしさが恋の一面にしかすぎないことを―――恋には、素晴らしさと釣り合うだけの辛さが存在することを知ってしまった。
それを三行に教えたのは、ばっさりと切られたこなたの髪だった。
昨日の学校帰りに、意中の人を同じくした親友の柊司と、こなたが想いを決めたらそれを尊重することと、
たとえ自分たちの恋の結果がどうなろうとも友情は継続することを約束した時にも、恋の素晴らしさを再確認していた。
しかし、その素晴らしさが恋の一面にしかすぎないことを―――恋には、素晴らしさと釣り合うだけの辛さが存在することを知ってしまった。
それを三行に教えたのは、ばっさりと切られたこなたの髪だった。
「ふぅ……」
昼休み。三行は食堂で食事をとった。珍しく一人。
いつものカルテットではない。司とこなたは教室で、鏡は今日は自分の教室で弁当を広げている。
もちろん、鏡と三行が昼食に誘われなかったのではない。二人とも用事があると辞退したのだ。
そして三行の用事は、架空だった。
「おそらく…鏡君もでしょうね」
ホットのペットボトル茶を一口飲んで、三行は呟く。
最後の一口だった。時計を見ると、休み時間はまだだいぶ残っている。
普段ならほぼ休み時間いっぱいかけてゆっくりとるのだが、今日はだいぶ早く平らげてしまった。
会話という労役から、口が解放されていたからだろう。
「労役…」
普段ならば、こなた達との昼食の会話に労など感じない。けれど、今日は違う。
今日のこなたとの会話は辛い。
こなたは、普段通りなのだ。
普段通りの明るい、ゆったりとした、こちらも和んでしまいそうな雰囲気。
けれども―――いや、だからこそ惑うのだ。
襟に届く程度の、真っ直ぐな髪の断面が。
理容師の手ではない。自分で、何か大きな刃物のようなもので切ったのだろう。
髪に対するいたわりの欠片も見られない、自傷の様な切り口。
昼休み。三行は食堂で食事をとった。珍しく一人。
いつものカルテットではない。司とこなたは教室で、鏡は今日は自分の教室で弁当を広げている。
もちろん、鏡と三行が昼食に誘われなかったのではない。二人とも用事があると辞退したのだ。
そして三行の用事は、架空だった。
「おそらく…鏡君もでしょうね」
ホットのペットボトル茶を一口飲んで、三行は呟く。
最後の一口だった。時計を見ると、休み時間はまだだいぶ残っている。
普段ならほぼ休み時間いっぱいかけてゆっくりとるのだが、今日はだいぶ早く平らげてしまった。
会話という労役から、口が解放されていたからだろう。
「労役…」
普段ならば、こなた達との昼食の会話に労など感じない。けれど、今日は違う。
今日のこなたとの会話は辛い。
こなたは、普段通りなのだ。
普段通りの明るい、ゆったりとした、こちらも和んでしまいそうな雰囲気。
けれども―――いや、だからこそ惑うのだ。
襟に届く程度の、真っ直ぐな髪の断面が。
理容師の手ではない。自分で、何か大きな刃物のようなもので切ったのだろう。
髪に対するいたわりの欠片も見られない、自傷の様な切り口。
――どう?髪切ったんだ、似合う?――
こなたはただそれだけ言った。日向でまどろんでいた猫が、少し面白いおもちゃを見つけたような風に。
それ以外に髪に関して触れようとしないし、それとなく触れてみても避けられる。
明らかに何かあったのに、けれどもそれを見せようとしない。
その挙措動作から少しでも理由を透かし見ようとしても、全く分からない。
「いいえ…分からないのではなく、認めたくないだけですね」
認めたくない、おそらく正解である理由。それは自分たち――三行と司のアピールだ。
それこそがこなたが髪を切った要因だろう。だが、そこで一つ新たな疑問が浮上する。
「なぜ、それが髪を切るという行動につながったのでしょうか?」
始点が分かっても、断髪と言う終点に辿り着くまでの経過―――直接的な動機が分からない。
理解不能。
それはおそらく、同じように戸惑った様子だった鏡も、そして一見していつもと変わらない様子でこなたに対応する司もそうだったのだろう。
「司君に…負けてますね」
劣等を感じる対象は、いつも通りの司の態度。
それ以外に髪に関して触れようとしないし、それとなく触れてみても避けられる。
明らかに何かあったのに、けれどもそれを見せようとしない。
その挙措動作から少しでも理由を透かし見ようとしても、全く分からない。
「いいえ…分からないのではなく、認めたくないだけですね」
認めたくない、おそらく正解である理由。それは自分たち――三行と司のアピールだ。
それこそがこなたが髪を切った要因だろう。だが、そこで一つ新たな疑問が浮上する。
「なぜ、それが髪を切るという行動につながったのでしょうか?」
始点が分かっても、断髪と言う終点に辿り着くまでの経過―――直接的な動機が分からない。
理解不能。
それはおそらく、同じように戸惑った様子だった鏡も、そして一見していつもと変わらない様子でこなたに対応する司もそうだったのだろう。
「司君に…負けてますね」
劣等を感じる対象は、いつも通りの司の態度。
おそらく司もまた、こなたの行動の間接的な理由が自分達であることは気付いているはずだ。
けれども司は昨日のまま。
それを傲慢や無神経と評するのは簡単だろう。けれど実行するのはどれだけ大変か?
少なくとも三行にも鏡にもできなかった。
こなたが、おそらくは司の様な対応をしてくれることを、自分たちに求めているにも関わらずに。
「そう言えば、鏡君もどこか様子が変だったような…」
三行は鏡の様子にも奇妙さを感じていた。
単にこなたが髪を切ったことによっての変調かもしれないが、どこか違うようにも思える。
距離間、とでも言えばいいか?どうもこなたのみならず、司や三行と話す時のタイミングや間隔が、
まるで知り合ったばかりのようなぎこちなさを感じる。
「はぁ…」
もう一口とペットボトルに口を付けて、それが空であることを思い出す。
取り留めのない思考の流れが、没入する直前の記憶を押し流してしまっていたらしい。
時計を見る。まだ秒針が一周しただけだ。
どう時間をつぶすか?あるいは教室に戻るか?
それを考えようとしていた時だった。
「三行さん…」
囁くような、けれどよく通る声が掛けられた。よく知る声だった。
近所に住む、後輩の少年である岩崎南の声だ。
親愛なる後輩に対して、先輩として悩みに曇った表情を見せまいと、いつもの笑顔を作って対応しようとした三行だったが、
その表情はすぐに曇る。理由は南の長身に、寄り添うように立った小柄な少女の表情だった。
ゆたかだ。俯いた顔になるのは赤く腫らした目。その下には薄く隈が浮いている。
一晩中泣き明かしたような表情だ。あるいは、本当に泣き明かしたのかもしれない。
「小早川さん、どうしたんですか?」
問い詰めるような口調を極力抑え、促すように訊く。
ゆたかは一瞬顔を挙げるが、再び自分のつま先を見つめ、逡巡の様子を見せる。
「ゆたか…」
南の手が、ゆたかの背中を軽く押すようにそっと撫でる。
ゆたかは、再び顔を挙げてもう一度、三行を見る。目は潤んでいた。
「私の……所為かも知れないんです…」
蚊の鳴くような声。何がとは聞かない。急かしたくなかったし、予想がついたから。
そして、続く言葉はそれほど待たなくてもやってきた。
「こなたお姉ちゃんが髪を切ったの……たぶん、私のせいなんです」
けれども司は昨日のまま。
それを傲慢や無神経と評するのは簡単だろう。けれど実行するのはどれだけ大変か?
少なくとも三行にも鏡にもできなかった。
こなたが、おそらくは司の様な対応をしてくれることを、自分たちに求めているにも関わらずに。
「そう言えば、鏡君もどこか様子が変だったような…」
三行は鏡の様子にも奇妙さを感じていた。
単にこなたが髪を切ったことによっての変調かもしれないが、どこか違うようにも思える。
距離間、とでも言えばいいか?どうもこなたのみならず、司や三行と話す時のタイミングや間隔が、
まるで知り合ったばかりのようなぎこちなさを感じる。
「はぁ…」
もう一口とペットボトルに口を付けて、それが空であることを思い出す。
取り留めのない思考の流れが、没入する直前の記憶を押し流してしまっていたらしい。
時計を見る。まだ秒針が一周しただけだ。
どう時間をつぶすか?あるいは教室に戻るか?
それを考えようとしていた時だった。
「三行さん…」
囁くような、けれどよく通る声が掛けられた。よく知る声だった。
近所に住む、後輩の少年である岩崎南の声だ。
親愛なる後輩に対して、先輩として悩みに曇った表情を見せまいと、いつもの笑顔を作って対応しようとした三行だったが、
その表情はすぐに曇る。理由は南の長身に、寄り添うように立った小柄な少女の表情だった。
ゆたかだ。俯いた顔になるのは赤く腫らした目。その下には薄く隈が浮いている。
一晩中泣き明かしたような表情だ。あるいは、本当に泣き明かしたのかもしれない。
「小早川さん、どうしたんですか?」
問い詰めるような口調を極力抑え、促すように訊く。
ゆたかは一瞬顔を挙げるが、再び自分のつま先を見つめ、逡巡の様子を見せる。
「ゆたか…」
南の手が、ゆたかの背中を軽く押すようにそっと撫でる。
ゆたかは、再び顔を挙げてもう一度、三行を見る。目は潤んでいた。
「私の……所為かも知れないんです…」
蚊の鳴くような声。何がとは聞かない。急かしたくなかったし、予想がついたから。
そして、続く言葉はそれほど待たなくてもやってきた。
「こなたお姉ちゃんが髪を切ったの……たぶん、私のせいなんです」
「二人でランチってもの久し振りだね」
「そだねー」
教室で司とこなたは食事を取っていた。
取り留めのない会話の連続。
けれど普段ほどのにぎやかさも華やかさも、半分以下だ。
会話は人と人との間に生まれるものであり、それは図形の点と辺の関係に似ている。
四角形で引ける線は対角線も含めて6本。しかし点が2つでは引けるのは1本だけ。
「鏡と三行君も冷たいなぁ。特に鏡!私とはいえ女の子がいる食卓に来ないとは同じオタクとして許し難い行為!
フラグが折れたらどうする気かねぇ」
「フラグ?ハタハタ?」
「ぬぅ、かがみんの如く突っ込むべきか三行君の如くハタハタの解説に入るべきか…」
普段とは違う、一対一の長時間のキャッチボール。
こなたはそれに寂しさを感じながらも、同時に少しの安堵も感じていた。
司は普段通りだ。
様子が普段と明らかに違う鏡や三行に対してより、遙かに楽に『いつもの自分』を演じることができる。
三行や司に迫られる前の、鏡への気持ちに気づく前の自分を―――。
そんな安心と油断があったからだろう。
会話の切れ目に投げられた不意の変化球に、こなたは対応できなかった。
「こなちゃん?話したいことがあるだけど、ちょっとでない」
会話の延長のように告げられた言葉に、こなたの表情が強張った。
教室で司とこなたは食事を取っていた。
取り留めのない会話の連続。
けれど普段ほどのにぎやかさも華やかさも、半分以下だ。
会話は人と人との間に生まれるものであり、それは図形の点と辺の関係に似ている。
四角形で引ける線は対角線も含めて6本。しかし点が2つでは引けるのは1本だけ。
「鏡と三行君も冷たいなぁ。特に鏡!私とはいえ女の子がいる食卓に来ないとは同じオタクとして許し難い行為!
フラグが折れたらどうする気かねぇ」
「フラグ?ハタハタ?」
「ぬぅ、かがみんの如く突っ込むべきか三行君の如くハタハタの解説に入るべきか…」
普段とは違う、一対一の長時間のキャッチボール。
こなたはそれに寂しさを感じながらも、同時に少しの安堵も感じていた。
司は普段通りだ。
様子が普段と明らかに違う鏡や三行に対してより、遙かに楽に『いつもの自分』を演じることができる。
三行や司に迫られる前の、鏡への気持ちに気づく前の自分を―――。
そんな安心と油断があったからだろう。
会話の切れ目に投げられた不意の変化球に、こなたは対応できなかった。
「こなちゃん?話したいことがあるだけど、ちょっとでない」
会話の延長のように告げられた言葉に、こなたの表情が強張った。
「はぁ…」
ため気は幸運を逃がすという言い伝えがあるが、鏡はため息を止めるつもりはなかった。
逃がすほどの幸運を、今の自分が持ち合わせているとは到底思えなかったからだ。
「なんなんだよ、あいつ…」
廊下を放浪しながら、鏡はこなたのことを想う。
いきなり髪を切ったこなた。
けれどもその癖、それを大したことでもないように振舞い、以前―――つまり一昨日以前と同じように振舞おうとするこなた。
「司も三行も…どういうつもりなんだよ」
こなたに合わせていつも通りを続ける司と、何があったのかを知ろうとそれとなく探りを入れる三行。
この二人の昨日の行動こそが、こなたに髪を切らせた原因だろう。
髪は女の命――とまでは鏡も思ってはいない。
けれども少なくとも、あの長い髪には、こなたにだってそれなりの思い入れがあったのではないかと思っている。
それを切った理由を作った2人に怒りを覚える反面…
「俺よりましか…」
ため気は幸運を逃がすという言い伝えがあるが、鏡はため息を止めるつもりはなかった。
逃がすほどの幸運を、今の自分が持ち合わせているとは到底思えなかったからだ。
「なんなんだよ、あいつ…」
廊下を放浪しながら、鏡はこなたのことを想う。
いきなり髪を切ったこなた。
けれどもその癖、それを大したことでもないように振舞い、以前―――つまり一昨日以前と同じように振舞おうとするこなた。
「司も三行も…どういうつもりなんだよ」
こなたに合わせていつも通りを続ける司と、何があったのかを知ろうとそれとなく探りを入れる三行。
この二人の昨日の行動こそが、こなたに髪を切らせた原因だろう。
髪は女の命――とまでは鏡も思ってはいない。
けれども少なくとも、あの長い髪には、こなたにだってそれなりの思い入れがあったのではないかと思っている。
それを切った理由を作った2人に怒りを覚える反面…
「俺よりましか…」
少し冷静になってみれば、自分の怒りが、真っすぐこなたに想いをぶつけることができる位置に立つ二人への妬みで濁っているのが分かる。
まして、二人とも方法は違えどこなたに向き合おうとしてる。
それに対して自分はどうだ?
「かっこ悪いな…」
昨日の夜に司に見透かされ、指摘されたことを気にして、こなたと目を合わせることもできない。
それどころか三行や司に気後れを感じて上手く話せない始末だ。
「かっこ悪い…」
溜息をもう一つ吐いて、そして、自分がいつの間にか自分の学年の教室がある廊下に来ていることに気付いた。
結局のところ、いくら学校が広いとはいっても、最後に行き着くのはここしかないのだ。
自嘲して―――その笑みが凍る。
廊下の端。階段の方に見慣れた姿が消えていったのを見たから。
司とこなた。2人きり。
気がついたら、鏡は二人が消えた方に足を向けていた。
まして、二人とも方法は違えどこなたに向き合おうとしてる。
それに対して自分はどうだ?
「かっこ悪いな…」
昨日の夜に司に見透かされ、指摘されたことを気にして、こなたと目を合わせることもできない。
それどころか三行や司に気後れを感じて上手く話せない始末だ。
「かっこ悪い…」
溜息をもう一つ吐いて、そして、自分がいつの間にか自分の学年の教室がある廊下に来ていることに気付いた。
結局のところ、いくら学校が広いとはいっても、最後に行き着くのはここしかないのだ。
自嘲して―――その笑みが凍る。
廊下の端。階段の方に見慣れた姿が消えていったのを見たから。
司とこなた。2人きり。
気がついたら、鏡は二人が消えた方に足を向けていた。
屋上には出られない。扉はあるが鍵がかかっている。
だから二人はその扉の前、埃っぽい踊り場で足を止めた。
互いの距離は2歩と少し。歩み寄るか、両方から手を差し伸べないとふれあえない程度の距離。
それが、今の二人の心理的な関係のように、こなたには思えた。
階段の下からは昼休みの喧騒が聞こえる。
直ぐ近くにいるはずの生徒達の足音や話し声は、けれどコンクリート製の階段で反響し、まるでずっと遠くから聞こえてくるように感じられる。
日常の中にあって、日常から隔絶された空間。
そこでこなたは司にこう問いかけられた。
「何で切ったの、その髪」
直球だった。曲解もはぐらかしも効かない、真っすぐな言葉。
なんとなく、などと言った適当な理由でごまかそうにも、視線が釘を刺す。
「……ごめんね」
降りた沈黙に終止符を打ったのは、司だった。
目に込められた力がゆるみ、言葉通り申し訳なさそうに眦を下げる。
「本当はユキ君みたいにそれとなく聞いたり、考えて分かってあげれればいいんだけど…僕、あまり頭良くないから…」
「謝る必要ないよ」
慰めではなく、こなたは心から思って口にする。
何も言わずに、今朝から今まで黙って待っていてくれたことにもそうだが、それ以上に……
「これ以上、ずるずる引きずるわけにもいかないもんね」
覚悟を決める。司の表情を見てから、髪を切って軽くなった頭を、下げる。
「ごめん、やっぱ私、付き合えないよ」
だから二人はその扉の前、埃っぽい踊り場で足を止めた。
互いの距離は2歩と少し。歩み寄るか、両方から手を差し伸べないとふれあえない程度の距離。
それが、今の二人の心理的な関係のように、こなたには思えた。
階段の下からは昼休みの喧騒が聞こえる。
直ぐ近くにいるはずの生徒達の足音や話し声は、けれどコンクリート製の階段で反響し、まるでずっと遠くから聞こえてくるように感じられる。
日常の中にあって、日常から隔絶された空間。
そこでこなたは司にこう問いかけられた。
「何で切ったの、その髪」
直球だった。曲解もはぐらかしも効かない、真っすぐな言葉。
なんとなく、などと言った適当な理由でごまかそうにも、視線が釘を刺す。
「……ごめんね」
降りた沈黙に終止符を打ったのは、司だった。
目に込められた力がゆるみ、言葉通り申し訳なさそうに眦を下げる。
「本当はユキ君みたいにそれとなく聞いたり、考えて分かってあげれればいいんだけど…僕、あまり頭良くないから…」
「謝る必要ないよ」
慰めではなく、こなたは心から思って口にする。
何も言わずに、今朝から今まで黙って待っていてくれたことにもそうだが、それ以上に……
「これ以上、ずるずる引きずるわけにもいかないもんね」
覚悟を決める。司の表情を見てから、髪を切って軽くなった頭を、下げる。
「ごめん、やっぱ私、付き合えないよ」
「……そっか」
声は、こなたが想像していたものとは違い、随分と穏やかだった。
けれども、こなたの心がそれによって軽くなるというものではない。
司の想いを拒絶した。それは覆しようのない事実なのだから。
顔を上げるこなた。それを待っていた司の表情は、少し困った時の照れ笑いに似ていた。。
教科書を忘れて鏡に仮にいった時にこれと類似した表情を作る。あくまで、類似した。その細部は微妙に異なっていた。
その表情の下では、どんな感情が隠れているのか?
それを想像するのが辛く、そして怖くてこなたは目を逸らす。
「それで…ユキ君にはどう答えるの?」
「三行君にも、お断りする」
「……僕とユキ君の間に、差ができないように?」
核心を突かれる。
つかさは今度は心配と気遣いの表情でこなたの顔を覗き込んでくる。
「…昨日、お兄ちゃんから聞いたんだ。こなちゃんの…悩んでることとか」
抽象的にぼやかした言葉だったが、その言葉端からこなたは、鏡が割と具体的なところまで話していることを察した。
「人の割とトラウマな所まであっさりしゃべっちゃうかね、かがみんは…」
「わ、悪気があったわけじゃないと思うよ!」
「…分かってるよ。けど、それなら話は早いよね」
こなたの口調は努めて軽い。
そうでもしなければ、心理的な重圧で押しつぶされ、言葉をつづけられなさそうだから。
「確かに、それもあるよ。私さ…司も三行君も、大切な友達だと思ってるんだ。
どっちが大事とかじゃなくて、どっちも掛け替えのないって言うか…ほら!角と赤いカラーリングみたいなもんだよ。
どっちかが掛けても専用機じゃない、みたいな。
だから、どっちかと付き合って、どっちかを振るとかは、出来ないよ」
「……別に、どちらかを選んでもいいんだよ?
僕もユキ君も約束したから。どっちをこなちゃんが選んでも、選ばれなかった方はそれを祝福して、友達を続けるって」
「……私が気にするんだよ。選ばなかった方を、傷つけちゃったって。
自分で傷つけといて、身勝手な話だけどね」
「そんなことないよ。きっとそれ、こなちゃんが優しいからだよ」
「ありがとう…」
振られて、傷ついているはずなのに、それでも自分を慰めてくれる司。
その優しさを嬉しく、そしてほんの少し辛く思いながら、こなたは最初の問いに戻る。
なぜ髪を切ったか?
こなたはそれに対して、用意しておいた答えを言う。
「髪を切ったのはね、そのケジメなんだ」
「けじめ?」
「そ。やっぱさ、長い髪って女の子の象徴じゃん?
だからズバッと切って、これからは女子を廃業して一オタクとして司や三行君と友達で居ようと思って
ま、大げさに言えばあれだよ、女を捨てるってやつ?」
答えながら、けれど心が重くなる。
「不本意ながら女の子な体型とは言えない私を女の子たらしめる記号が一つ消えるじゃん。
そうすれば2人も…」
心が重くなる理由。それは―――
声は、こなたが想像していたものとは違い、随分と穏やかだった。
けれども、こなたの心がそれによって軽くなるというものではない。
司の想いを拒絶した。それは覆しようのない事実なのだから。
顔を上げるこなた。それを待っていた司の表情は、少し困った時の照れ笑いに似ていた。。
教科書を忘れて鏡に仮にいった時にこれと類似した表情を作る。あくまで、類似した。その細部は微妙に異なっていた。
その表情の下では、どんな感情が隠れているのか?
それを想像するのが辛く、そして怖くてこなたは目を逸らす。
「それで…ユキ君にはどう答えるの?」
「三行君にも、お断りする」
「……僕とユキ君の間に、差ができないように?」
核心を突かれる。
つかさは今度は心配と気遣いの表情でこなたの顔を覗き込んでくる。
「…昨日、お兄ちゃんから聞いたんだ。こなちゃんの…悩んでることとか」
抽象的にぼやかした言葉だったが、その言葉端からこなたは、鏡が割と具体的なところまで話していることを察した。
「人の割とトラウマな所まであっさりしゃべっちゃうかね、かがみんは…」
「わ、悪気があったわけじゃないと思うよ!」
「…分かってるよ。けど、それなら話は早いよね」
こなたの口調は努めて軽い。
そうでもしなければ、心理的な重圧で押しつぶされ、言葉をつづけられなさそうだから。
「確かに、それもあるよ。私さ…司も三行君も、大切な友達だと思ってるんだ。
どっちが大事とかじゃなくて、どっちも掛け替えのないって言うか…ほら!角と赤いカラーリングみたいなもんだよ。
どっちかが掛けても専用機じゃない、みたいな。
だから、どっちかと付き合って、どっちかを振るとかは、出来ないよ」
「……別に、どちらかを選んでもいいんだよ?
僕もユキ君も約束したから。どっちをこなちゃんが選んでも、選ばれなかった方はそれを祝福して、友達を続けるって」
「……私が気にするんだよ。選ばなかった方を、傷つけちゃったって。
自分で傷つけといて、身勝手な話だけどね」
「そんなことないよ。きっとそれ、こなちゃんが優しいからだよ」
「ありがとう…」
振られて、傷ついているはずなのに、それでも自分を慰めてくれる司。
その優しさを嬉しく、そしてほんの少し辛く思いながら、こなたは最初の問いに戻る。
なぜ髪を切ったか?
こなたはそれに対して、用意しておいた答えを言う。
「髪を切ったのはね、そのケジメなんだ」
「けじめ?」
「そ。やっぱさ、長い髪って女の子の象徴じゃん?
だからズバッと切って、これからは女子を廃業して一オタクとして司や三行君と友達で居ようと思って
ま、大げさに言えばあれだよ、女を捨てるってやつ?」
答えながら、けれど心が重くなる。
「不本意ながら女の子な体型とは言えない私を女の子たらしめる記号が一つ消えるじゃん。
そうすれば2人も…」
心が重くなる理由。それは―――
「―――嘘はやめてよね?」
―――それが、嘘だから。
「どうして、そう思うのさ?」
動揺はほとんど出さなかった、とこなたは思いながら司の真剣な表情を見る。
けれど見返す司の瞳には、自身の言葉に対する不安や疑いは無かった。
「だってさ、僕もユキ君も、こなちゃんが髪が長いから好きになったわけじゃないもん。
こなちゃんの全部が好きだから、好きになったんだよ?」
「だから、あくまで象徴っていうか気持ちの問題って言うか…」
「それにね」
こなたの反論を遮るように言って、司は一歩前に出た。
距離が半分になる。一メートル未満。一方の意思だけで触れあうことも、抱きしめることもできる距離。
至近で見上げる司の顔に、こなたの脳裏に一昨日の記憶がよみがえる。
雨の音と、床の感触と、間近に感じる司の吐息の記憶。
半ば無意識に一歩下がって距離を戻そうとするが、しかし肝心の体は竦んで動かない。
伸ばされた司の手は、こなたに触れた。
こなたの―――肩にかかった髪に。
いたわるように指先で髪を撫でながら、司は反論を続ける。
「それにね、まだこの髪でも、十分女の子っぽいよ?
本当に女の子として見られなくなかったら、もっと短く切ると思うけど?」
「―――っ」
今度は、隠せなかった。
こなたは叱られたように下唇を噛んで俯いた。
切った髪は襟に届く程度。
それは確かに今までのこなたの髪に比べれば格段に短い。
しかし女性の平均として見れば、それは十分に長い。
女を捨てる――そう言うにはあまりにも中途半端な長さ。
もちろん、単に切りにくかったから、これ以上切ると見栄えが悪くなるからと言い逃れることはできるかもしれない。
けれどこなたにとってこの中途半端な髪の長さは、本当の理由と、自分の迷いの象徴だった。
髪を切った理由―――司に言ったのは、完全に嘘と言うわけではない。
女を捨てる。そう言う意図が確かにあった。
しかし、その意図の向ける理由は外ではなく、内側。
司や三行の想いに対するけじめではなく、自分の鏡に対する想いへのけじめだったのだ。
けれど見返す司の瞳には、自身の言葉に対する不安や疑いは無かった。
「だってさ、僕もユキ君も、こなちゃんが髪が長いから好きになったわけじゃないもん。
こなちゃんの全部が好きだから、好きになったんだよ?」
「だから、あくまで象徴っていうか気持ちの問題って言うか…」
「それにね」
こなたの反論を遮るように言って、司は一歩前に出た。
距離が半分になる。一メートル未満。一方の意思だけで触れあうことも、抱きしめることもできる距離。
至近で見上げる司の顔に、こなたの脳裏に一昨日の記憶がよみがえる。
雨の音と、床の感触と、間近に感じる司の吐息の記憶。
半ば無意識に一歩下がって距離を戻そうとするが、しかし肝心の体は竦んで動かない。
伸ばされた司の手は、こなたに触れた。
こなたの―――肩にかかった髪に。
いたわるように指先で髪を撫でながら、司は反論を続ける。
「それにね、まだこの髪でも、十分女の子っぽいよ?
本当に女の子として見られなくなかったら、もっと短く切ると思うけど?」
「―――っ」
今度は、隠せなかった。
こなたは叱られたように下唇を噛んで俯いた。
切った髪は襟に届く程度。
それは確かに今までのこなたの髪に比べれば格段に短い。
しかし女性の平均として見れば、それは十分に長い。
女を捨てる――そう言うにはあまりにも中途半端な長さ。
もちろん、単に切りにくかったから、これ以上切ると見栄えが悪くなるからと言い逃れることはできるかもしれない。
けれどこなたにとってこの中途半端な髪の長さは、本当の理由と、自分の迷いの象徴だった。
髪を切った理由―――司に言ったのは、完全に嘘と言うわけではない。
女を捨てる。そう言う意図が確かにあった。
しかし、その意図の向ける理由は外ではなく、内側。
司や三行の想いに対するけじめではなく、自分の鏡に対する想いへのけじめだったのだ。
昨日の夜、剃刀を手に取った時。こなたはもっと短くしてしまおうと考えていた。
うなじの半ば辺りからばっさりといく予定だった。
しかし―――できなかった。
もう少し、もう少し長くと考えてしまい、気づけば予定より3センチも長く残してしまっていた。
曖昧な3センチ。それがこなたが持つ、自分の中の女の子の部分―――鏡にひかれる自分。
切り捨てるべきと思いながらも、切り捨てられない物の象徴だった。
うなじの半ば辺りからばっさりといく予定だった。
しかし―――できなかった。
もう少し、もう少し長くと考えてしまい、気づけば予定より3センチも長く残してしまっていた。
曖昧な3センチ。それがこなたが持つ、自分の中の女の子の部分―――鏡にひかれる自分。
切り捨てるべきと思いながらも、切り捨てられない物の象徴だった。
「言いたくないの?」
司の問いに、こなたは頷いて答えた。
声は出さない。出したら、きっとそれは嗚咽交じりのものになってしまう。
もし自分が泣いたとしたら、優しい司のことだ。追及を引っ込め、疑問の形のままそっとしておくことだろう。
たとえそれで司自身がが納得できないとしても。
こなたはそれだけは嫌だった。
さんざん傷つけ、そして優しくしてもらい、挙句嘘まで付いてしまった相手に、これ以上の重さを背負わせたくなかったからだ。
けれども、司はやはり優しかった。
「そっか。ならいいよ、答えなくても」
司の問いに、こなたは頷いて答えた。
声は出さない。出したら、きっとそれは嗚咽交じりのものになってしまう。
もし自分が泣いたとしたら、優しい司のことだ。追及を引っ込め、疑問の形のままそっとしておくことだろう。
たとえそれで司自身がが納得できないとしても。
こなたはそれだけは嫌だった。
さんざん傷つけ、そして優しくしてもらい、挙句嘘まで付いてしまった相手に、これ以上の重さを背負わせたくなかったからだ。
けれども、司はやはり優しかった。
「そっか。ならいいよ、答えなくても」
「納得できないんじゃないの?」
「理解はできないよ、こなちゃんが何を思ってるか、何を感じてるかは。
けどね……」
司は小さく息を吸う。そして、言葉を噛みしめるようにしながら
「けどね、今、すごく幸せな気分だから」
「しあ…わせ?」
こなたには理解できなかった。司は、その反応を予想していたかのように、照れたような笑顔を浮かべて注釈を付ける。
「えへへ…変だよね?自分でもそう思うよ。
こなちゃんに振られて悔しいのに、大好きなこなちゃんが泣くのを見るのが辛いのに…けれど、その辛さがとてもうれしいんだ。
だって、それはこなちゃんが、僕と向かい合ってくれてるってことだから」
「私、だけど…嘘ついて……」
「その嘘は、僕やユキ君をふった理由とは関係ないでしょ?」
司の確認に、こなたは少し考えてから頷く。
仮に自分が鏡のことを好きでなかったとしても、たぶん自分は、二人の気持ちには応えなかったろうから。
「だったら、いいよ。言い訳のダシにされたのは、ちょっと悔しいけど」
「ごめん…」
最後の、冗談めかしたところに本音が見えたような気がして、こなたは謝罪を口にした。
司は沈黙でその謝罪の言葉を受け入れてから、
「もう一度だけ、聞くよ?」
と断りを入れてから、尋ねる。目を、こなたの瞳に合わせながら
「こなちゃんのことが好きだよ。
そして僕もユキ君も、たとえどちらが選ばれても、ずっとこなちゃんの友達でいるよ?
だから―――僕と付き合ってくれませんか?」
告白。
司の心の底から告げられた、精一杯で、真剣で―――きっと、とても神聖な言葉。
こなたはそれを暖かく思い、それを受け止めることに惹かれる。
けれどもその言葉の真剣さ故に、真剣に受け答えなくてはならないことも、こなたは理解していた。
だから――
「…ごめんなさい」
だから鏡が、別の人がいる以上、受け取ることはできなかった。
「理解はできないよ、こなちゃんが何を思ってるか、何を感じてるかは。
けどね……」
司は小さく息を吸う。そして、言葉を噛みしめるようにしながら
「けどね、今、すごく幸せな気分だから」
「しあ…わせ?」
こなたには理解できなかった。司は、その反応を予想していたかのように、照れたような笑顔を浮かべて注釈を付ける。
「えへへ…変だよね?自分でもそう思うよ。
こなちゃんに振られて悔しいのに、大好きなこなちゃんが泣くのを見るのが辛いのに…けれど、その辛さがとてもうれしいんだ。
だって、それはこなちゃんが、僕と向かい合ってくれてるってことだから」
「私、だけど…嘘ついて……」
「その嘘は、僕やユキ君をふった理由とは関係ないでしょ?」
司の確認に、こなたは少し考えてから頷く。
仮に自分が鏡のことを好きでなかったとしても、たぶん自分は、二人の気持ちには応えなかったろうから。
「だったら、いいよ。言い訳のダシにされたのは、ちょっと悔しいけど」
「ごめん…」
最後の、冗談めかしたところに本音が見えたような気がして、こなたは謝罪を口にした。
司は沈黙でその謝罪の言葉を受け入れてから、
「もう一度だけ、聞くよ?」
と断りを入れてから、尋ねる。目を、こなたの瞳に合わせながら
「こなちゃんのことが好きだよ。
そして僕もユキ君も、たとえどちらが選ばれても、ずっとこなちゃんの友達でいるよ?
だから―――僕と付き合ってくれませんか?」
告白。
司の心の底から告げられた、精一杯で、真剣で―――きっと、とても神聖な言葉。
こなたはそれを暖かく思い、それを受け止めることに惹かれる。
けれどもその言葉の真剣さ故に、真剣に受け答えなくてはならないことも、こなたは理解していた。
だから――
「…ごめんなさい」
だから鏡が、別の人がいる以上、受け取ることはできなかった。
「―――そっか」
永い、本当に永い無言の後、司は零した。
言葉と、そして涙を。
司は笑顔を作ろうとして失敗する。
「くやしいなぁ……。覚悟は、してたつもりだったんだけど…なぁ…」
くしゃくしゃに歪んだ顔。一般的に言えばみっともない顔なのかもしれないけれど、こなたにはとても奇麗に見えた。
本気で誰かを想って、そのために流す涙。
こなたの視線に気づき、司は慌てて袖で顔を隠す。
「ご、ごめん!すぐ、泣きやむから、あ、あまり気にしないで…」
こんな時までこちらに気を使うのかと、司の優しさとそんな優しい人の気持ちに応えられなかったことの悲しさを、こなたは感じる。
そして感情は、行動に結びついて。
司の細い胴周りに腕をまわして、抱きしめた。
「こ、こなちゃん?」
「ハグだよハグ。友達同士のね」
司の胸辺りに顔をうずめながら、こなたは考える。自分が傷つけてしまった親友に対し、どんな言葉を贈るべきか。
考えて、考えて、考えて…気づいたら、自然とこんな言葉が出ていた。
「ありがとう」
謝罪ではなく、感謝。
永い、本当に永い無言の後、司は零した。
言葉と、そして涙を。
司は笑顔を作ろうとして失敗する。
「くやしいなぁ……。覚悟は、してたつもりだったんだけど…なぁ…」
くしゃくしゃに歪んだ顔。一般的に言えばみっともない顔なのかもしれないけれど、こなたにはとても奇麗に見えた。
本気で誰かを想って、そのために流す涙。
こなたの視線に気づき、司は慌てて袖で顔を隠す。
「ご、ごめん!すぐ、泣きやむから、あ、あまり気にしないで…」
こんな時までこちらに気を使うのかと、司の優しさとそんな優しい人の気持ちに応えられなかったことの悲しさを、こなたは感じる。
そして感情は、行動に結びついて。
司の細い胴周りに腕をまわして、抱きしめた。
「こ、こなちゃん?」
「ハグだよハグ。友達同士のね」
司の胸辺りに顔をうずめながら、こなたは考える。自分が傷つけてしまった親友に対し、どんな言葉を贈るべきか。
考えて、考えて、考えて…気づいたら、自然とこんな言葉が出ていた。
「ありがとう」
謝罪ではなく、感謝。
「こんな私を、好きになってくれてありがとう、司」
捉えようによっては、とても残酷な言葉だ。
想いに応えなかったくせに、その想いに対して感謝するなんて。
だがそれはこなたの偽らざる気持ちであり、そして偽らざる気持ちこそが司の心に一番届くものだった。
司は、こなたの肩に手を置く。
「僕もこなちゃんを好きになって、本当に良かったよ」
声音に、しゃくりあげはない。
捉えようによっては、とても残酷な言葉だ。
想いに応えなかったくせに、その想いに対して感謝するなんて。
だがそれはこなたの偽らざる気持ちであり、そして偽らざる気持ちこそが司の心に一番届くものだった。
司は、こなたの肩に手を置く。
「僕もこなちゃんを好きになって、本当に良かったよ」
声音に、しゃくりあげはない。
互いに大切に想いあい、それ故に互いに傷つけあって、だけどもその痛みを幸せに思いながら、二人は身を寄せ合っていた。
だがそこに、誤解を誘うタイミングで、彼が現れた。
「こなた…?」
呼ばれ、弾かれたように顔を上げるこなた。
聞こえてきたのは階段の下の方。
声からの予想と、見つけた姿は一致していた。
「鏡…」
呼ばれ、弾かれたように顔を上げるこなた。
聞こえてきたのは階段の下の方。
声からの予想と、見つけた姿は一致していた。
「鏡…」
鏡が二人の姿を見つけたのは、そろそろ諦めて教室に帰ろうかとしている時だった。
階段に行くのを見かけた後、鏡はこなた達を見失っていた。そもそも、登ったのか降りたのかも分からなかったからだ。
本当は、そこで2人を探すのをやめても良かった。
どうせこなたと会っても、何を話すべきか分からないだろうから。
けれどどうせ他にやることもなかったし、それに……2人きりでどこかに行こうとしているというのが、気になった。
一度一階に下りてから見回っていく。
マンモス校というわけでもないので、教室だけに限定するならそれ程の手間でもなかった。
けれども教室の全てを除いても二人の姿はなかった。
結局、階段つながりということで、最後の心当たりとなった最上階―――屋上入口の前の踊り場に来て……
抱き合うこなたとつかさを、鏡は見付けた。
階段に行くのを見かけた後、鏡はこなた達を見失っていた。そもそも、登ったのか降りたのかも分からなかったからだ。
本当は、そこで2人を探すのをやめても良かった。
どうせこなたと会っても、何を話すべきか分からないだろうから。
けれどどうせ他にやることもなかったし、それに……2人きりでどこかに行こうとしているというのが、気になった。
一度一階に下りてから見回っていく。
マンモス校というわけでもないので、教室だけに限定するならそれ程の手間でもなかった。
けれども教室の全てを除いても二人の姿はなかった。
結局、階段つながりということで、最後の心当たりとなった最上階―――屋上入口の前の踊り場に来て……
抱き合うこなたとつかさを、鏡は見付けた。
どういうことだと、鏡は戸惑う。
こなたは、二人と付き合うつもりはなかったんじゃないか?
なのに、どうして抱き合ってるんだ?
事前情報と現状の乖離。
二つのどちらを信じるべきかに迷った果てに、鏡は―――
「……へぇ、司の方を選んだのか」
鏡は、眼の前の現実を真実と認識した。
人気のないところで抱き合う二人。
そうか、こなたは司のことを受け入れたのか。
自分には、司も三行も恋愛対象ではないみたいなことを言っていたくせに。
「ち、違うよ、鏡!これは…!」
「はいはい、恥ずかしがらなくて結構ですよ」
空かい半分で言うつもりだったセリフは、鏡自身が想像していたのより遙かに刺々しい調子を伴って口を出た。
こなたは、二人と付き合うつもりはなかったんじゃないか?
なのに、どうして抱き合ってるんだ?
事前情報と現状の乖離。
二つのどちらを信じるべきかに迷った果てに、鏡は―――
「……へぇ、司の方を選んだのか」
鏡は、眼の前の現実を真実と認識した。
人気のないところで抱き合う二人。
そうか、こなたは司のことを受け入れたのか。
自分には、司も三行も恋愛対象ではないみたいなことを言っていたくせに。
「ち、違うよ、鏡!これは…!」
「はいはい、恥ずかしがらなくて結構ですよ」
空かい半分で言うつもりだったセリフは、鏡自身が想像していたのより遙かに刺々しい調子を伴って口を出た。
だがそれでも良い。
こなたは…こいつは、裏切ったんだ。
「あ~あ!相談乗ったり悩んだりしたのが馬鹿みたいだ」
そう、馬鹿みたいだ。涙にほだされ、自分の気持ちを押し込めてまで力になってやろうと思った次の日に、
助けてやろうとした相手はあっさりと前言を翻して告白された相手と抱き合っている。
こなたへの不信と、裏切られたことへの怒りと、つかさへの嫉妬心と…様々な澱の様な感情が鏡の心に溜まり、責めるような言葉になって溢れ出る。
「ま、こっちにしてみれば厄介な問題が解決して清々したけどな」
「だ、だから違うって!聞いてよ、鏡!私…」
「うるさいな嘘つきが。昨日のだってどうせゲームか何かで見たネタを使ってからかっただけだろ。いい迷惑だ」
聞く耳ももたず感情を吐き捨てる。こなたが傷ついたような表情で何かを言おうとするのを見るたびに良心が疼くが、感情の本流を止めるにはあまりにも些細だった。
「とにかく三行にはちゃんと謝っておけよ。お前じゃないけど、ぎすぎすするのは勘弁だからな。あ、それとも二股でも掛ける気か?」
「――お兄ちゃん!」
こなたが何かを言う前に、司が叫んだ。
コンクリートに反響する声で、鏡は一瞬我に帰る。
少し冷めた頭で自分の放った言葉の酷さを再確認し、けれどだからと言ってどす黒い想いが消え去るものではない。
「……ハイハイ、邪魔したな」
罪悪感と感情せめぎ合いは、逃げるという行為に落ち着いた。
もうここにはいたくない。
もう一緒にいる二人を―――いや、こなたが誰かと一緒にいるのを見たくない。
背を向けて、階段を降りようとする鏡に、こなたが叫ぶ。
「待っ―――ぁっ!」
不自然な声が気になって、つい振り向いてしまう鏡。
鏡が見たのは、階段を踏み外し、バランスを崩してこちらに倒れて来ようとするこなたの体だった。
「―――とっ!?」
とっさに、鏡は腰を落とす。
ぶつかる直前に、軽く手を開くことにも成功した。
受け止めた。
こなたの小柄な体は見た目どおりに軽く、不安定な足場でも踏みとどまることが可能だった。
抱き合うような位置同士で、自然と目が合う。
こなたは…こいつは、裏切ったんだ。
「あ~あ!相談乗ったり悩んだりしたのが馬鹿みたいだ」
そう、馬鹿みたいだ。涙にほだされ、自分の気持ちを押し込めてまで力になってやろうと思った次の日に、
助けてやろうとした相手はあっさりと前言を翻して告白された相手と抱き合っている。
こなたへの不信と、裏切られたことへの怒りと、つかさへの嫉妬心と…様々な澱の様な感情が鏡の心に溜まり、責めるような言葉になって溢れ出る。
「ま、こっちにしてみれば厄介な問題が解決して清々したけどな」
「だ、だから違うって!聞いてよ、鏡!私…」
「うるさいな嘘つきが。昨日のだってどうせゲームか何かで見たネタを使ってからかっただけだろ。いい迷惑だ」
聞く耳ももたず感情を吐き捨てる。こなたが傷ついたような表情で何かを言おうとするのを見るたびに良心が疼くが、感情の本流を止めるにはあまりにも些細だった。
「とにかく三行にはちゃんと謝っておけよ。お前じゃないけど、ぎすぎすするのは勘弁だからな。あ、それとも二股でも掛ける気か?」
「――お兄ちゃん!」
こなたが何かを言う前に、司が叫んだ。
コンクリートに反響する声で、鏡は一瞬我に帰る。
少し冷めた頭で自分の放った言葉の酷さを再確認し、けれどだからと言ってどす黒い想いが消え去るものではない。
「……ハイハイ、邪魔したな」
罪悪感と感情せめぎ合いは、逃げるという行為に落ち着いた。
もうここにはいたくない。
もう一緒にいる二人を―――いや、こなたが誰かと一緒にいるのを見たくない。
背を向けて、階段を降りようとする鏡に、こなたが叫ぶ。
「待っ―――ぁっ!」
不自然な声が気になって、つい振り向いてしまう鏡。
鏡が見たのは、階段を踏み外し、バランスを崩してこちらに倒れて来ようとするこなたの体だった。
「―――とっ!?」
とっさに、鏡は腰を落とす。
ぶつかる直前に、軽く手を開くことにも成功した。
受け止めた。
こなたの小柄な体は見た目どおりに軽く、不安定な足場でも踏みとどまることが可能だった。
抱き合うような位置同士で、自然と目が合う。
こなたの足が置かれている段は当然上であり、顔がいつもより近かった。
昨日までなら、ただ嬉しかったことだろう。ただときめいていただけだろう。そんな状況。
昨日までなら、ただ嬉しかったことだろう。ただときめいていただけだろう。そんな状況。
「…離れろよ」
けれど、今は辛さしか感じない。
「っ」
目を逸らして言ったので、鏡はこなたの表情を見ることはできなかった。
だが、息を呑む雰囲気は伝わった。
次の瞬間、鏡は突き飛ばされた。
「あ、あぶな…っ!」
階段を二歩、後ろ向きに下がる。急な危機に、冷汗は遅れてやってきた。
何をするのかと怒鳴ろうとするが、こなたは鏡の横をすり抜けて階段を駆け下りていってしまった。
「…なんだっつんだよ」
「解らないだろうね」
一人ごとに、司が言う。
司が、鏡を見ていた。その視線にいつもの優しさも柔らかさも見当たらない。
責めるような冷たい目だ。
それに鏡は苛立ちを覚える。
睨みつける鏡。
司は目を逸らす。
逃げた、のではない。相手にしていない、相手にする価値がないという意思表示。軽蔑という名の拒絶だ。
いよいよ、キレた。
「――」
隣を通り抜けようとする司の襟首を捕まえて、無理にでもこちらに向き合わせようして―――失敗した。
「放してよ」
突飛ばされた。
反撃されるという想像を、無意識のうちに除外していた鏡は手を離してしまう。
一瞥だけ司は鏡に向けて
「今のお兄ちゃんは、最低だよ」
そう残して、司は階段を下りて行った。
その背中を鏡は見えなくなるまで睨みつけていたが、その姿が見えなくなると力なく階段に座り込んだ。
「何してんだろ?」
今まで恨み事に満ちていた胸の内は、今はすっかり空虚になっていた。
残っているのは口走ってしまったことや、してしまった行為に対する罪悪感だけ。
「かっこ悪い…」
顔を上げる力もなく鏡は呟く。
その日、鏡は初めて授業をサボった。
「っ」
目を逸らして言ったので、鏡はこなたの表情を見ることはできなかった。
だが、息を呑む雰囲気は伝わった。
次の瞬間、鏡は突き飛ばされた。
「あ、あぶな…っ!」
階段を二歩、後ろ向きに下がる。急な危機に、冷汗は遅れてやってきた。
何をするのかと怒鳴ろうとするが、こなたは鏡の横をすり抜けて階段を駆け下りていってしまった。
「…なんだっつんだよ」
「解らないだろうね」
一人ごとに、司が言う。
司が、鏡を見ていた。その視線にいつもの優しさも柔らかさも見当たらない。
責めるような冷たい目だ。
それに鏡は苛立ちを覚える。
睨みつける鏡。
司は目を逸らす。
逃げた、のではない。相手にしていない、相手にする価値がないという意思表示。軽蔑という名の拒絶だ。
いよいよ、キレた。
「――」
隣を通り抜けようとする司の襟首を捕まえて、無理にでもこちらに向き合わせようして―――失敗した。
「放してよ」
突飛ばされた。
反撃されるという想像を、無意識のうちに除外していた鏡は手を離してしまう。
一瞥だけ司は鏡に向けて
「今のお兄ちゃんは、最低だよ」
そう残して、司は階段を下りて行った。
その背中を鏡は見えなくなるまで睨みつけていたが、その姿が見えなくなると力なく階段に座り込んだ。
「何してんだろ?」
今まで恨み事に満ちていた胸の内は、今はすっかり空虚になっていた。
残っているのは口走ってしまったことや、してしまった行為に対する罪悪感だけ。
「かっこ悪い…」
顔を上げる力もなく鏡は呟く。
その日、鏡は初めて授業をサボった。
つづく
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- こなた以外の3人の性別が反転するだけでこうも業が深くなるものか…
4人の結末に期待してます -- 名無しさん (2008-05-23 23:58:44) - あれ?これ続き書かれなかったっけ?
-- 名無しさん (2008-05-23 14:15:47)