間.
「……………『星の石』、ねぇ」
カタンカタンという軽やかなジョイント音をBGMに、おれはすでに3本目のビールを飲んでいた。
ここは寝台特急「北陸」号の車内。
明日おれは、能登半島にあるとある業者と打ち合わせをするため、この列車に乗っている。
つまり、会社の出張だ。
打ち合わせは午後3時だから、朝いつも通り家を出ても十分間に合う時間だった。
何故わざわざ寝台列車で向かっているかと言うと、ちょっとした『用事』が出来たからだ。
たまたまこの日を出張にしてくれた会社を、おれは感謝した。
どうせ出張旅費は会社持ちなので、おれは久喜駅で切符を買って「北陸」号で行く事にした。
ここは寝台特急「北陸」号の車内。
明日おれは、能登半島にあるとある業者と打ち合わせをするため、この列車に乗っている。
つまり、会社の出張だ。
打ち合わせは午後3時だから、朝いつも通り家を出ても十分間に合う時間だった。
何故わざわざ寝台列車で向かっているかと言うと、ちょっとした『用事』が出来たからだ。
たまたまこの日を出張にしてくれた会社を、おれは感謝した。
どうせ出張旅費は会社持ちなので、おれは久喜駅で切符を買って「北陸」号で行く事にした。
今回は『オマケ』まで付いている。今、そこで寝ているけれど。
結局おれは町立図書館へ行かず、夕方までずっと、柊さんと話をしていた。
何とも不思議な話だった。
何とも不思議な話だった。
~~~~
柊さんは昨日の高架橋崩壊事故を『事件』として見ていた。そこはおれと同じである。
ただ、やはりおれと同じく、確かな証拠が一つも見付けられずにいた。
おれは事故現場の付近で見た『穴』の事を、現場で撮った写真と、パソコンの画面を見せながら、簡潔に説明した。
というか、得られた情報が少ないため、簡潔にしか説明出来ない。
直径10メートルはある大穴だったこと、中は真っ暗で非常に暗かったこと、
端面がまるで冗談みたいに綺麗に整えられていたこと、
そして、この穴の情報が一切『表』に流れていないこと。
(あの『某掲示板』の連中ですら、口……いや文字にしなかった)
ただ、やはりおれと同じく、確かな証拠が一つも見付けられずにいた。
おれは事故現場の付近で見た『穴』の事を、現場で撮った写真と、パソコンの画面を見せながら、簡潔に説明した。
というか、得られた情報が少ないため、簡潔にしか説明出来ない。
直径10メートルはある大穴だったこと、中は真っ暗で非常に暗かったこと、
端面がまるで冗談みたいに綺麗に整えられていたこと、
そして、この穴の情報が一切『表』に流れていないこと。
(あの『某掲示板』の連中ですら、口……いや文字にしなかった)
10分足らずで終わった説明を一通り聞いた柊さんは、ふむ、と小さく唸ってから出されたお茶をすすり、
ゆっくりと口を開いた。
「その『穴』は、誰かが『人為的』に開けたものではないねぇ」
えっ?!
「高架橋『を』崩す時に、開けられた……いや、『開いた』ものだろう」
「………はぁ」
予想外な発言だった。おれが契約している携帯電話会社のCMに出てくる、黒人の息子を思い出した。
お父さんは確か犬だったな。どうでもいいけど。
「『星のカケラ』の話を知っているかい?」
「いえ……」
聞いた事がない。
柊さんは「そうか」と短く答えると、『星のカケラ』について、話してくれた。
「昔の話だけれども、北陸の能都地方のとある集落に『星の石』という変わった石をお祀(まつ)りしていた神社があったんだ。
その『石』は五芒星に似た形をしていて、色は透き通った黄色でな、夜にぼんやりと光るんだ。
その『石』の光る様子を見て、人々は『神さまが宿った特別な石』として、その『石』を祀ることにしたそうだ」
何とも不思議な話だ。
しかし、世の中には現代の科学でも解明出来ない不思議な事象が幾つも存在する。
おそらく『石』の組織の中に蛍光体が入っているのだろう。
「しばらくの間、集落の人々は平穏な暮らしをしていたのだが、35年ほど前からかな?
『岡山』の新聞記事に採り上げられた事から、その石を一目見ようと多くの観光客が集落を訪れる様になったそうだ。
勿論、その石を悪用して、不当に金儲けをする人も居て、『石』が何度も狙われたそうだ」
何せ光る石だ。砕いて加工して『お金持ちになれる石です』と宣伝して数万で売れば、それなりに稼げるだろう。
その後の未来は相当暗いものだが。
「だが、その石を狙ったり、見たりした者は必ず怪我や病気に襲われ、死者も出た。
人々はその石を忌み嫌う様になり、ある日、ある男が石を破壊してしまった。すると──────」
ごくり、と生唾を飲み込む。
「その石は神社と集まっていた人を吹き飛ばして、その『カケラ』は至る所へ飛び散ってしまった。
その石には不思議な力が込められていた。
それが──────」
そう言いかけた所で、柊さんは傍らに置いていた桧の箱を取り出し、幾重にも貼られた御札を丁寧に剥がして蓋を開けた。
ていうか、神道にも御札があったのか。
「────この『石』だよ」
柊さんが話した通りだ。
「安心しなさい、封印を施してあるから何が起きるという訳ではない」
その石の『カケラ』は確かに透き通った黄色で、まるでレモネード味の飴玉の様に綺麗だった。
『カケラ』なだけあって、形はかなり歪(いびつ)な直方体で、その断面はとても荒々しい。
しかし、上面(と呼ぶべきか?)は本来のものと思われる滑らかな地肌で、墓石の様に美しく磨かれている。
ゆっくりと口を開いた。
「その『穴』は、誰かが『人為的』に開けたものではないねぇ」
えっ?!
「高架橋『を』崩す時に、開けられた……いや、『開いた』ものだろう」
「………はぁ」
予想外な発言だった。おれが契約している携帯電話会社のCMに出てくる、黒人の息子を思い出した。
お父さんは確か犬だったな。どうでもいいけど。
「『星のカケラ』の話を知っているかい?」
「いえ……」
聞いた事がない。
柊さんは「そうか」と短く答えると、『星のカケラ』について、話してくれた。
「昔の話だけれども、北陸の能都地方のとある集落に『星の石』という変わった石をお祀(まつ)りしていた神社があったんだ。
その『石』は五芒星に似た形をしていて、色は透き通った黄色でな、夜にぼんやりと光るんだ。
その『石』の光る様子を見て、人々は『神さまが宿った特別な石』として、その『石』を祀ることにしたそうだ」
何とも不思議な話だ。
しかし、世の中には現代の科学でも解明出来ない不思議な事象が幾つも存在する。
おそらく『石』の組織の中に蛍光体が入っているのだろう。
「しばらくの間、集落の人々は平穏な暮らしをしていたのだが、35年ほど前からかな?
『岡山』の新聞記事に採り上げられた事から、その石を一目見ようと多くの観光客が集落を訪れる様になったそうだ。
勿論、その石を悪用して、不当に金儲けをする人も居て、『石』が何度も狙われたそうだ」
何せ光る石だ。砕いて加工して『お金持ちになれる石です』と宣伝して数万で売れば、それなりに稼げるだろう。
その後の未来は相当暗いものだが。
「だが、その石を狙ったり、見たりした者は必ず怪我や病気に襲われ、死者も出た。
人々はその石を忌み嫌う様になり、ある日、ある男が石を破壊してしまった。すると──────」
ごくり、と生唾を飲み込む。
「その石は神社と集まっていた人を吹き飛ばして、その『カケラ』は至る所へ飛び散ってしまった。
その石には不思議な力が込められていた。
それが──────」
そう言いかけた所で、柊さんは傍らに置いていた桧の箱を取り出し、幾重にも貼られた御札を丁寧に剥がして蓋を開けた。
ていうか、神道にも御札があったのか。
「────この『石』だよ」
柊さんが話した通りだ。
「安心しなさい、封印を施してあるから何が起きるという訳ではない」
その石の『カケラ』は確かに透き通った黄色で、まるでレモネード味の飴玉の様に綺麗だった。
『カケラ』なだけあって、形はかなり歪(いびつ)な直方体で、その断面はとても荒々しい。
しかし、上面(と呼ぶべきか?)は本来のものと思われる滑らかな地肌で、墓石の様に美しく磨かれている。
気になる事が1つだけある。
「その石はずっと、この神社にあった物なんでしょうか?」
おれの素朴な問いに、柊さんは答えた。
「この石は、崩壊『事件』現場で見付かった物だよ」
詳しく話を聞かせて貰ったが、この石を鷲宮神社まで持って行ったのは、この町に住む事故に巻き込まれた人とのこと。
名前や住んでる町域は流石に伏せられたが、自力でこの町まで持ち帰ったものらしい。
その人の証言によると、事故が起きる直前に、この『石のカケラ』が強く光り、その瞬間に橋が崩れたとのこと。
本人はそれ以上の事は一切口にせず、やがて家に帰ったという。
まさか……、
「貴方はその『石のカケラ』とやらが原因で橋が崩れてたとでも言うのですか?!
貴方の娘さんも、その友達も、事故に巻き込まれたのかも知れないんですよ?!!」
仮に石が本当に光ったとして、何故橋が崩れるんだ?
その『カケラ』が爆弾でも無い限り、その『カケラ』が原因で橋が崩れる筈がない。
それがもし爆弾だったとしたら、とっくに粉々になって、今頃綾瀬川の底に沈んでいるに違いない。
「落ち着きなさい。私はその『カケラ』が事件の引き金になっているとは言っていない。
それに、私も『彼女』の話を信じている訳ではない」
だったら何が言いたいんだ!?
「ともかく、この『石』が現場にあった事は確かだ。
モノがモノだけに、この『石』が何らかの形で事件に関わっている可能性が無いとも限らない。
幸いこの神社には多くの書物が残されている」
……だから?
「だから、この『石』は私が調べよう。そして、君に折り入って頼みがある」
ここでようやっと本題に入る。今までのは長い長い『前置き』だ。
「この『星の石』が祀られていた集落まで行って、そこで『石』について調べて頂きたい」
そう言うと、柊さんはおれに1枚のメモを渡した。
「その町の集落に行って、まずは『泉』さんという方に会って下さい。
多分、君も知っているとは思うが、」
「もしかして『いずみ宗次郎』の………」
「そう、彼の生家だ」
『いずみ宗次郎』と言えば、あの作品で有名な能都地方出身の小説家で、おれのお気に入りの小説家のひとりである。
今は埼玉県に住んでいるそうで、そのうち一度で良いから彼にお会いしたい。
この時はまさか、泉こなたちゃんの父親だとは知らなかった。
しかし、今は状況が違う。
「分かりました。行って調べましょう。実は明日、七尾の方に出張なんです」
本当に凄いタイミングである。
おれは有名な小説家の事は頭の隅に追いやり、「矢波(やなみ)」と言う集落に行く事にした。
「ただし────」
柊さんの目を見て、おれは自分の意志を伝える。
「おれは『個人的には』、その石の『チカラ』は信じていませんし、『事故』に直接関わるとは思っていません。
ただ、おれは崩壊事故のそばにあった穴、ひいては事件そのものの真相を知りたいだけなんです」
これだけは本当の事なので、伝える。
柊さんは、
「そうか」
と短く答えただけで、急須からおれと自分の分のお茶を淹れて、最後にこう質問した。
おれの素朴な問いに、柊さんは答えた。
「この石は、崩壊『事件』現場で見付かった物だよ」
詳しく話を聞かせて貰ったが、この石を鷲宮神社まで持って行ったのは、この町に住む事故に巻き込まれた人とのこと。
名前や住んでる町域は流石に伏せられたが、自力でこの町まで持ち帰ったものらしい。
その人の証言によると、事故が起きる直前に、この『石のカケラ』が強く光り、その瞬間に橋が崩れたとのこと。
本人はそれ以上の事は一切口にせず、やがて家に帰ったという。
まさか……、
「貴方はその『石のカケラ』とやらが原因で橋が崩れてたとでも言うのですか?!
貴方の娘さんも、その友達も、事故に巻き込まれたのかも知れないんですよ?!!」
仮に石が本当に光ったとして、何故橋が崩れるんだ?
その『カケラ』が爆弾でも無い限り、その『カケラ』が原因で橋が崩れる筈がない。
それがもし爆弾だったとしたら、とっくに粉々になって、今頃綾瀬川の底に沈んでいるに違いない。
「落ち着きなさい。私はその『カケラ』が事件の引き金になっているとは言っていない。
それに、私も『彼女』の話を信じている訳ではない」
だったら何が言いたいんだ!?
「ともかく、この『石』が現場にあった事は確かだ。
モノがモノだけに、この『石』が何らかの形で事件に関わっている可能性が無いとも限らない。
幸いこの神社には多くの書物が残されている」
……だから?
「だから、この『石』は私が調べよう。そして、君に折り入って頼みがある」
ここでようやっと本題に入る。今までのは長い長い『前置き』だ。
「この『星の石』が祀られていた集落まで行って、そこで『石』について調べて頂きたい」
そう言うと、柊さんはおれに1枚のメモを渡した。
「その町の集落に行って、まずは『泉』さんという方に会って下さい。
多分、君も知っているとは思うが、」
「もしかして『いずみ宗次郎』の………」
「そう、彼の生家だ」
『いずみ宗次郎』と言えば、あの作品で有名な能都地方出身の小説家で、おれのお気に入りの小説家のひとりである。
今は埼玉県に住んでいるそうで、そのうち一度で良いから彼にお会いしたい。
この時はまさか、泉こなたちゃんの父親だとは知らなかった。
しかし、今は状況が違う。
「分かりました。行って調べましょう。実は明日、七尾の方に出張なんです」
本当に凄いタイミングである。
おれは有名な小説家の事は頭の隅に追いやり、「矢波(やなみ)」と言う集落に行く事にした。
「ただし────」
柊さんの目を見て、おれは自分の意志を伝える。
「おれは『個人的には』、その石の『チカラ』は信じていませんし、『事故』に直接関わるとは思っていません。
ただ、おれは崩壊事故のそばにあった穴、ひいては事件そのものの真相を知りたいだけなんです」
これだけは本当の事なので、伝える。
柊さんは、
「そうか」
と短く答えただけで、急須からおれと自分の分のお茶を淹れて、最後にこう質問した。
「君はウチのかがみやつかさ、泉こなたさんは、必ず帰ってくると信じるかい?」
~~~~
……………結果として、行方不明となっていたかがみちゃん達は見付かった。
それが分かったのは、おれが家を出る1時間前のこと。
実は昨日の夜に3人共見付かって病院に運ばれており、やっと身元が判明したとのこと。
ただ、無事ではなかった。
辛うじて生きてはいたが、『息をしている』だけであり、意識は失ったままだった。
外傷が至る所にあるが、幸い命に別状はないとのこと。
おれ達は彼女らが無事に目が覚める事を祈りつつ、
今与えられた課題──『石』と『事件』と『穴』の関連性──について調べる事にした。
それが分かったのは、おれが家を出る1時間前のこと。
実は昨日の夜に3人共見付かって病院に運ばれており、やっと身元が判明したとのこと。
ただ、無事ではなかった。
辛うじて生きてはいたが、『息をしている』だけであり、意識は失ったままだった。
外傷が至る所にあるが、幸い命に別状はないとのこと。
おれ達は彼女らが無事に目が覚める事を祈りつつ、
今与えられた課題──『石』と『事件』と『穴』の関連性──について調べる事にした。
ビールの4缶目を開けようと思ったが、大宮駅で買ったおつまみは既に底をついている。
かといってそこらに放置する訳にもいかないので、結局プルタブを引いて飲んでしまった。
かといってそこらに放置する訳にもいかないので、結局プルタブを引いて飲んでしまった。
おれがそろそろ別のB寝台の個室に向かおうとした所で、
ベッドで寝ていた『オマケ』がもそもそと起きあがった。
「ごめん、起こしちゃったかな?」
「うん、ちょっとだけ。まだ起きてたのか?」
「まぁな」
ちょうど午前零時を回り、日付が変わる。
そう、『オマケ』とは、おれの身近な血縁者、みさおである。
我が妹は玄関で散々小さな子どもの様に駄々をこね、どうしても一緒に行くと聞かなかった。
妹を甘やかすつもりは無いし、母親もみさおを説得したが、結局おれが責任を持って連れて行く事にした。
学校へは風邪で寝込んだことにする。まぁ、あながち嘘ではない。
みさおは午後から咳が止まらず、少しだけ熱もあった。
ベッドで寝ていた『オマケ』がもそもそと起きあがった。
「ごめん、起こしちゃったかな?」
「うん、ちょっとだけ。まだ起きてたのか?」
「まぁな」
ちょうど午前零時を回り、日付が変わる。
そう、『オマケ』とは、おれの身近な血縁者、みさおである。
我が妹は玄関で散々小さな子どもの様に駄々をこね、どうしても一緒に行くと聞かなかった。
妹を甘やかすつもりは無いし、母親もみさおを説得したが、結局おれが責任を持って連れて行く事にした。
学校へは風邪で寝込んだことにする。まぁ、あながち嘘ではない。
みさおは午後から咳が止まらず、少しだけ熱もあった。
寝台券は自分の分しか用意していないのが、「北陸」号は予め寝台券を買わないと乗る事が出来ない。
そこで、おれ達はJRと接続する久喜駅の窓口でもう一式切符を買った。
幸い直前のキャンセルで余ったB寝台の個室があったので、そこの寝台券を買った。
いくら生意気でおれよりも体力があるとは言え、可愛い妹をノン・セキュリティな普通寝台に寝かせる訳にもいかない。
自分の分の寝台券を払い戻して、2人用個室を改めて買う事も考えたが、
いくら普段同じ部屋で寝起きしているとは言え、年頃の男女が二人用個室で寝るのは憚れた。
そもそも「北陸」号には2人用個室は連結されていない。
結局、B寝台の個室をおれが、A寝台の個室をみさおが使う事にした。
ところが、みさおは「寝るまで一緒にいて欲しい」とおれに頼んだので、しばらくの間、おれはみさおの部屋に留まった。
車掌が検札に来たが、「寝る時は必ずご自分の個室へお戻り下さい」と言うだけで、特にお咎めは無かった。
そこで、おれ達はJRと接続する久喜駅の窓口でもう一式切符を買った。
幸い直前のキャンセルで余ったB寝台の個室があったので、そこの寝台券を買った。
いくら生意気でおれよりも体力があるとは言え、可愛い妹をノン・セキュリティな普通寝台に寝かせる訳にもいかない。
自分の分の寝台券を払い戻して、2人用個室を改めて買う事も考えたが、
いくら普段同じ部屋で寝起きしているとは言え、年頃の男女が二人用個室で寝るのは憚れた。
そもそも「北陸」号には2人用個室は連結されていない。
結局、B寝台の個室をおれが、A寝台の個室をみさおが使う事にした。
ところが、みさおは「寝るまで一緒にいて欲しい」とおれに頼んだので、しばらくの間、おれはみさおの部屋に留まった。
車掌が検札に来たが、「寝る時は必ずご自分の個室へお戻り下さい」と言うだけで、特にお咎めは無かった。
みさおが受けたショックは相当なモノだった。
陸上部の友達を失い、5年間一緒だった友達も危険な状態に置かれていて平気な筈がない。
おれも、みさおとあやのが事故に巻き込まれて重体になったら、多分冷静でいられなくなると思う。
おれはつくづく妹に甘いと思う。
いくら授業が全て終わっているとは言え、おれは学校を休ませてまで妹を連れ出してしまったのだから。
けれどもおれは、これ以上みさおが悲しむ姿を見たくはない。
いつも脳天気にはしゃいでいるみさおであって欲しい。
いつも楽しく笑っているみさおであって欲しい。
今だけは、目一杯甘えさせてあげたい。
だから、おれは妹を連れ出した。
陸上部の友達を失い、5年間一緒だった友達も危険な状態に置かれていて平気な筈がない。
おれも、みさおとあやのが事故に巻き込まれて重体になったら、多分冷静でいられなくなると思う。
おれはつくづく妹に甘いと思う。
いくら授業が全て終わっているとは言え、おれは学校を休ませてまで妹を連れ出してしまったのだから。
けれどもおれは、これ以上みさおが悲しむ姿を見たくはない。
いつも脳天気にはしゃいでいるみさおであって欲しい。
いつも楽しく笑っているみさおであって欲しい。
今だけは、目一杯甘えさせてあげたい。
だから、おれは妹を連れ出した。
「それじゃぁ、おれは部屋に戻るから」
そう言っておれがベッドから立ち上がり、出口の扉へ向かおうとすると、我が妹は服の裾を引いて、言った。
「朝まで…………、一緒にいて……………」
「でも……、」
「こういう時に言うのもナンだけどさ………………好きだよ、兄貴のこと」
その『好き』とは、もしかして…………。いや、まさか、な。
「おれもだ。お前はおれの自慢の『妹』だからな」
「違ぇよ、馬鹿……………」
敢えてツッコまず、妹の方に向き直る。
「だから…………一緒にいて……………」
「……………分かったよ」
そう言っておれがベッドから立ち上がり、出口の扉へ向かおうとすると、我が妹は服の裾を引いて、言った。
「朝まで…………、一緒にいて……………」
「でも……、」
「こういう時に言うのもナンだけどさ………………好きだよ、兄貴のこと」
その『好き』とは、もしかして…………。いや、まさか、な。
「おれもだ。お前はおれの自慢の『妹』だからな」
「違ぇよ、馬鹿……………」
敢えてツッコまず、妹の方に向き直る。
「だから…………一緒にいて……………」
「……………分かったよ」
おれとみさおは、一人用の狭いベッドで身を重ね、朝まで共に過ごした。
これだとあやのに半殺しにされるかも知れんな。おれは、最低な男だ。
これだとあやのに半殺しにされるかも知れんな。おれは、最低な男だ。
午前6時22分、夜汽車は定刻通りに北陸・七尾線津幡駅に到着した。
一面は白銀の世界だった。
一面は白銀の世界だった。
おれはこの時、30年前の『異』世界で何が起きているのか、知る由も無かった。
まさか、自分が事件の引き金になっていようとは…………。
まさか、自分が事件の引き金になっていようとは…………。
*
埼玉県桜園市。あの平成の大合併で誕生した、面積だけはやたらと大きな街の一角に、
小規模な市営住宅が建っていた。その中の一室にて─────。
小規模な市営住宅が建っていた。その中の一室にて─────。
「ふふふ。何としてでもこの計画は最後までやり遂げるわよ」
人殺しと呼ばれようがなにしようが構いやしない。
そうと言わんばかりに不気味な笑みを浮かべる小さな影が、そこにはあった。
人殺しと呼ばれようがなにしようが構いやしない。
そうと言わんばかりに不気味な笑みを浮かべる小さな影が、そこにはあった。