ななこはみゆきと初めて言葉を交わした所まで語ると、一息ついてカップに指をかけた。
鼻孔に広がる豊かな香りと温もりに、満足げに目を閉じる。
「ほんまめちゃめちゃ可愛くてなぁ、あん時はドキッとしたわあ」
ななこの瞼の裏にあの日と変わらぬ笑顔のみゆきがいた。
その美しい姿を、自分が最近まですっかり忘れていたことが不思議でならない。
「ふーん、黒井先生にもそういう純情な所があったんですねえ」
「……なんや、棘のある言い方やなあ」
ガラス戸の前に立って校庭を眺めていたふゆきが、振り向きもせず言った。
みゆきの名前を聞いてから、なぜかふゆきの態度はつれないものになっていた。
その素っ気ない横顔を見続けるのもためらわれて、仕方なくふゆきの視線を追った。
そこではジャージ姿の三年生がサッカーに興じていたが、時期が時期だけに参加者は少ない。
とっくに冬休みも終わり、二人が最初にお茶の約束をしてから一月近くが経過していた。
ななこは何度か休み時間に保健室を訪れていたのだが、その度にタイミング悪く病人がいたせいで随分先延ばしされてしまった。
澄み渡った空と校庭、書き割りのように天地が明瞭な風景は、そこで戯れる生徒達にまで非現実的な印象を与えていた。
「いーえ、別にそんなつもりはありませんよ。ただ思い入れっていう割には、なんか物足りないかなぁって」
盛り上がりに欠ける試合展開に飽きたのか、ふゆきは隣の私物を入れてある棚に手を伸ばした。
その中にはふゆきの趣味に使うらしい、怪しげな洋書や用途不明の骨董品が並んでいる。
白で統一された保健室の中で、その戸棚だけが異次元への門のようにその存在を主張していた。
ふゆき曰く、こういう知識もカウンセリングの上では役に立つ……らしい。
ふゆきはその棚から艶やかな光を放つ磁器のカップを取り出すと、ななこの向かいに座った。
「まだ始まったばっかりやないか、せっかちやなー。幾らなんでもこれだけやあらへんて」
ななこは自信ありげに笑うと、少し興奮した面持ちで続きを語り出した。
鼻孔に広がる豊かな香りと温もりに、満足げに目を閉じる。
「ほんまめちゃめちゃ可愛くてなぁ、あん時はドキッとしたわあ」
ななこの瞼の裏にあの日と変わらぬ笑顔のみゆきがいた。
その美しい姿を、自分が最近まですっかり忘れていたことが不思議でならない。
「ふーん、黒井先生にもそういう純情な所があったんですねえ」
「……なんや、棘のある言い方やなあ」
ガラス戸の前に立って校庭を眺めていたふゆきが、振り向きもせず言った。
みゆきの名前を聞いてから、なぜかふゆきの態度はつれないものになっていた。
その素っ気ない横顔を見続けるのもためらわれて、仕方なくふゆきの視線を追った。
そこではジャージ姿の三年生がサッカーに興じていたが、時期が時期だけに参加者は少ない。
とっくに冬休みも終わり、二人が最初にお茶の約束をしてから一月近くが経過していた。
ななこは何度か休み時間に保健室を訪れていたのだが、その度にタイミング悪く病人がいたせいで随分先延ばしされてしまった。
澄み渡った空と校庭、書き割りのように天地が明瞭な風景は、そこで戯れる生徒達にまで非現実的な印象を与えていた。
「いーえ、別にそんなつもりはありませんよ。ただ思い入れっていう割には、なんか物足りないかなぁって」
盛り上がりに欠ける試合展開に飽きたのか、ふゆきは隣の私物を入れてある棚に手を伸ばした。
その中にはふゆきの趣味に使うらしい、怪しげな洋書や用途不明の骨董品が並んでいる。
白で統一された保健室の中で、その戸棚だけが異次元への門のようにその存在を主張していた。
ふゆき曰く、こういう知識もカウンセリングの上では役に立つ……らしい。
ふゆきはその棚から艶やかな光を放つ磁器のカップを取り出すと、ななこの向かいに座った。
「まだ始まったばっかりやないか、せっかちやなー。幾らなんでもこれだけやあらへんて」
ななこは自信ありげに笑うと、少し興奮した面持ちで続きを語り出した。
四時を過ぎると授業を終えた教師達が職員室に帰ってくる。
勿論デスクワークは幾らでもあるのだが、生徒達を返した後は気が緩むものだ。
次の仕事に手をつける前に一休みする教師達で、そこは穏やかな空気に包まれていた。
「きゃっ!」
その弛緩した空間に、女の子の悲鳴とそれに一瞬遅れて大量の紙が床にぶちまけれる音がした。
職員室中の人の目が一斉にそちらを向く。
そこには散乱したプリントを前に立ちつくすみゆきがいた。
近くにいた若い男性教師が席を立ったのを見て、他の教師が視線を戻す中、ななこはみゆきに駆け寄っていった。
「おい、大丈夫かいな」
「すいません。なんだかぼおっとしてて……」
「それはええから、邪魔になってるさかい早う拾いや」
「あ…はいっ」
みゆきは寝起きのような返事をすると、慌ててしゃがみ込んでプリントを拾いだした。
手書きの数式が並んでいる所を見ると、数学の宿題だろうか。
みゆきは焦って手を動かしていたが、スカートが気になるのかその姿勢はずいぶんと窮屈そうだった。
そんなみゆきのために、ななこは膝をついて机の下に入り込んだ書類を手早く集めていった。
「ふう、こんなもんかいな。高良、ちゃんと全部集まったか?」
「……30、31。はい、どうもお手数掛けてすいませんでした」
みゆきは萎れたような礼をすると、小走りで数学教師の所にプリントの束を置きに行った。
どことなく散漫で危なっかしいその足取りに、ななこは訝しげに目を細めた。
そのまま職員室を出て行こうとしたみゆきを、手招きして呼び寄せる。
自分の顔を指さして戸惑うみゆきに、ななこは大きく頷いた。
勿論デスクワークは幾らでもあるのだが、生徒達を返した後は気が緩むものだ。
次の仕事に手をつける前に一休みする教師達で、そこは穏やかな空気に包まれていた。
「きゃっ!」
その弛緩した空間に、女の子の悲鳴とそれに一瞬遅れて大量の紙が床にぶちまけれる音がした。
職員室中の人の目が一斉にそちらを向く。
そこには散乱したプリントを前に立ちつくすみゆきがいた。
近くにいた若い男性教師が席を立ったのを見て、他の教師が視線を戻す中、ななこはみゆきに駆け寄っていった。
「おい、大丈夫かいな」
「すいません。なんだかぼおっとしてて……」
「それはええから、邪魔になってるさかい早う拾いや」
「あ…はいっ」
みゆきは寝起きのような返事をすると、慌ててしゃがみ込んでプリントを拾いだした。
手書きの数式が並んでいる所を見ると、数学の宿題だろうか。
みゆきは焦って手を動かしていたが、スカートが気になるのかその姿勢はずいぶんと窮屈そうだった。
そんなみゆきのために、ななこは膝をついて机の下に入り込んだ書類を手早く集めていった。
「ふう、こんなもんかいな。高良、ちゃんと全部集まったか?」
「……30、31。はい、どうもお手数掛けてすいませんでした」
みゆきは萎れたような礼をすると、小走りで数学教師の所にプリントの束を置きに行った。
どことなく散漫で危なっかしいその足取りに、ななこは訝しげに目を細めた。
そのまま職員室を出て行こうとしたみゆきを、手招きして呼び寄せる。
自分の顔を指さして戸惑うみゆきに、ななこは大きく頷いた。
何でしょうか、先生?」
「いや、別に用っちゅうこともないんやけど……その、高良がちょっと疲れてるように見えてな」
ななこはなるべく気軽な調子で聞いた。
「自分ではよくわからないんですけど、やっぱりそう見えますか」
「ああ、見える。やっぱりってことは誰か他の人にも言われたんやな」
「近所に住んでる年下の子に。
普段無口な子なのに、随分心配されてしまってびっくりしました」
みゆきは他人事のように、くすっと笑った。
「そら心配するわ、さっきだってあんな何もない所で躓きよってからに」
「でも私そういうこと良くあるんですよ」
みゆきは自分のドジをななこに話して聞かせた。
考えごとをしていてドアにぶつかったこと、レンジに入れたものを取り忘れて何度も暖め直したこと。
それはななこが抱いていたみゆきのイメージをうち壊すのに充分だった。
「あははは、そんなことあるんかいな!
いや高良ってなんとなくツッコミかと思ってたんやけど、ボケやったんやなぁ」
「お恥ずかしながらそうなんです。私も直したいと思ってるんですがなかなか……」
「いやー、もうそれは直さんでええよ。美人でボケってのはかなりおいしいで」
「そ、そんな風に褒められても困ります。
私すごくうっかりしてるから、学校ではそうならないように気を張ってるだけなんです」
さっきは放課後になったから、ついぼおっとしてしまっていて」
お腹を抱えて笑っていたななこは、実際のみゆきの立場を思い出して押し黙った。
「……学校では気を抜けないんか?」
「あ……その、みなさんが私のことをしっかりした人だと言いますから……」
「なあ高良、ちょっと答えづらいかもしれへんけど正直に言いや。
誰か仲の良うなった奴はおらへんのか?」
プライドを傷つけかねない質問であることは承知の上。
みゆきなら冷静に受け止めてくれると信じて、ななこは率直に聞いた。
「……ちょっとした話をすることはあっても、いつも一緒にいるような友達はいません。
違うクラスでしたら一人、委員会で結構話すようになった人がいるんですけど」
一瞬悔しそうな表情をしたが、それでもみゆきは現実を取り繕うことなく語った。
同級生達とは授業や行事のことで話すばかりで、他愛のないおしゃべりをすることはない。
そしてみゆきが同級生相手にも敬語を使っているということに、ななこは驚かされた。
「なんでや、同い年なんやしそんな堅いしゃべり方してたらあかんやろ」
「もう、癖になってしまっていて。本ばかり読んでいたのがいけないのかもしれません。
それに私、普通の高校生が好きそうなことって良くわからないんです」
申し訳程度に上がった唇は笑顔のつもりなのだろうか。
寂しげなその表情がななこの胸を締め付ける。
「いや、別に用っちゅうこともないんやけど……その、高良がちょっと疲れてるように見えてな」
ななこはなるべく気軽な調子で聞いた。
「自分ではよくわからないんですけど、やっぱりそう見えますか」
「ああ、見える。やっぱりってことは誰か他の人にも言われたんやな」
「近所に住んでる年下の子に。
普段無口な子なのに、随分心配されてしまってびっくりしました」
みゆきは他人事のように、くすっと笑った。
「そら心配するわ、さっきだってあんな何もない所で躓きよってからに」
「でも私そういうこと良くあるんですよ」
みゆきは自分のドジをななこに話して聞かせた。
考えごとをしていてドアにぶつかったこと、レンジに入れたものを取り忘れて何度も暖め直したこと。
それはななこが抱いていたみゆきのイメージをうち壊すのに充分だった。
「あははは、そんなことあるんかいな!
いや高良ってなんとなくツッコミかと思ってたんやけど、ボケやったんやなぁ」
「お恥ずかしながらそうなんです。私も直したいと思ってるんですがなかなか……」
「いやー、もうそれは直さんでええよ。美人でボケってのはかなりおいしいで」
「そ、そんな風に褒められても困ります。
私すごくうっかりしてるから、学校ではそうならないように気を張ってるだけなんです」
さっきは放課後になったから、ついぼおっとしてしまっていて」
お腹を抱えて笑っていたななこは、実際のみゆきの立場を思い出して押し黙った。
「……学校では気を抜けないんか?」
「あ……その、みなさんが私のことをしっかりした人だと言いますから……」
「なあ高良、ちょっと答えづらいかもしれへんけど正直に言いや。
誰か仲の良うなった奴はおらへんのか?」
プライドを傷つけかねない質問であることは承知の上。
みゆきなら冷静に受け止めてくれると信じて、ななこは率直に聞いた。
「……ちょっとした話をすることはあっても、いつも一緒にいるような友達はいません。
違うクラスでしたら一人、委員会で結構話すようになった人がいるんですけど」
一瞬悔しそうな表情をしたが、それでもみゆきは現実を取り繕うことなく語った。
同級生達とは授業や行事のことで話すばかりで、他愛のないおしゃべりをすることはない。
そしてみゆきが同級生相手にも敬語を使っているということに、ななこは驚かされた。
「なんでや、同い年なんやしそんな堅いしゃべり方してたらあかんやろ」
「もう、癖になってしまっていて。本ばかり読んでいたのがいけないのかもしれません。
それに私、普通の高校生が好きそうなことって良くわからないんです」
申し訳程度に上がった唇は笑顔のつもりなのだろうか。
寂しげなその表情がななこの胸を締め付ける。
「……でも、委員会でやっけ?仲良うなった奴もいるんやろ。そいつはどんなこと話してるん?」
「なにか特別話題があったわけではないんですよ、気が合ったと言うんでしょうか?
そうそう、その人かがみさんって言うんですけど、柊つかささんの双子の姉なんです」
受け持ちの生徒の双子の姉ということで、ななこは資料を見せてもらったことがある。
添付されていた写真に、挑み掛かるような目つきで写っていた子だ。
不器用そうな二人の組み合わせは、なんとなくななこを納得させた。
「つかさとはどうなん?」
「つかささんの方は私のことを近づきづらく思ってるみたいです。
かがみさんから話は聞いてるみたいなんですけど……」
予想通りの答えだった。控えめな印象を受けるつかさには確かに荷が重いかもしれない。
「でも高良ももっと肩の力を抜いたほうがいいで。美人やし、頭も良いし、運動もかなりイケるんやろ。
少しボケてるくらいのほうが親しみがあってええよ」
「気楽にしようって意識してるんですけど、かえって普段みたいなドジも引っ込んでしまいまして……」
ななこは背もたれに大きく寄りかかると天井を仰いだ。
「でもすぐに変えられなくてもしょうがあらへん。こつこつ努力するしかないわな」
いじめでもない以上、本来教師が出る幕ではない。出来るのはせいぜい舞台裏で励ましてやることぐらいだ。
「できるだけ頑張ってみます。折角同じクラスになって皆さんと仲良くなれないのは寂しいですから……。
あの、今日は色々話を聞いてくれてありがとうございます。」
そういってお辞儀した頭越しに見える窓の外には、初夏の白く散漫な夕暮れが広がっていた。
手元の時計を確認して、みゆきを1時間以上も立たせていたことに気付いてななこは慌てた。
「いや、ウチこそ引き留めてしもうて悪かったな。
……人と話さないと表情が貧しくなるさかい、何か話したいことがあったらいつでもくるんやで」
その言葉に幾ばくかの期待が込もっていることを、ななこは否定できなかった。
まだこんなに日は高いのに、学生だったら別れがたい気持ちに流されることもできるのに。
ななこはみゆきの背中が廊下に消えるのを見届けると、はじめて自分のスラックスが埃まみれなことに気が付いた。
「なにか特別話題があったわけではないんですよ、気が合ったと言うんでしょうか?
そうそう、その人かがみさんって言うんですけど、柊つかささんの双子の姉なんです」
受け持ちの生徒の双子の姉ということで、ななこは資料を見せてもらったことがある。
添付されていた写真に、挑み掛かるような目つきで写っていた子だ。
不器用そうな二人の組み合わせは、なんとなくななこを納得させた。
「つかさとはどうなん?」
「つかささんの方は私のことを近づきづらく思ってるみたいです。
かがみさんから話は聞いてるみたいなんですけど……」
予想通りの答えだった。控えめな印象を受けるつかさには確かに荷が重いかもしれない。
「でも高良ももっと肩の力を抜いたほうがいいで。美人やし、頭も良いし、運動もかなりイケるんやろ。
少しボケてるくらいのほうが親しみがあってええよ」
「気楽にしようって意識してるんですけど、かえって普段みたいなドジも引っ込んでしまいまして……」
ななこは背もたれに大きく寄りかかると天井を仰いだ。
「でもすぐに変えられなくてもしょうがあらへん。こつこつ努力するしかないわな」
いじめでもない以上、本来教師が出る幕ではない。出来るのはせいぜい舞台裏で励ましてやることぐらいだ。
「できるだけ頑張ってみます。折角同じクラスになって皆さんと仲良くなれないのは寂しいですから……。
あの、今日は色々話を聞いてくれてありがとうございます。」
そういってお辞儀した頭越しに見える窓の外には、初夏の白く散漫な夕暮れが広がっていた。
手元の時計を確認して、みゆきを1時間以上も立たせていたことに気付いてななこは慌てた。
「いや、ウチこそ引き留めてしもうて悪かったな。
……人と話さないと表情が貧しくなるさかい、何か話したいことがあったらいつでもくるんやで」
その言葉に幾ばくかの期待が込もっていることを、ななこは否定できなかった。
まだこんなに日は高いのに、学生だったら別れがたい気持ちに流されることもできるのに。
ななこはみゆきの背中が廊下に消えるのを見届けると、はじめて自分のスラックスが埃まみれなことに気が付いた。
「それが切っ掛けになって、結構しゃべるようになったんや。
一週間に一回くらいは、職員室やら教室やらで会ってた気がするなぁ」
不思議と今日のカフェインはななこによく効いた。
まるでヤケ酒のように、次の一杯を一口で飲み干す。
その行儀の悪い態度に呆れて、ふゆきがポッドを自分の方に引き寄せた。
「夜眠れなくなっちゃいますから、もうやめといた方がいいですよ。
……それで、その後はどうなったんですか?なんか話がちょっと危ない方に進んでる気がするんですけど」
ふゆきの口調はどこか問いつめるようだった。
「そんな変な関係にはなっとらんて。会うのも学校の中だけやったし。
やっとることも、みゆきが喋ってるのを聞いてるばっかりやったし」
話相手のいない寂しさがそうさせたのだろうか。
思い返してみれば、あの頃のみゆきは不思議と饒舌だった。
それもありきたりな日常のことばかり、まるで遊びから帰った幼子のように話すのだ。
「そうですか……あの、高良さんはどんなことを話してたんですか?」
二人の間に何もなかったと聞いて、ふゆきは安堵のため息をついた。
さっきより少しリラックスした調子でななこに先を促す。
「どんなっちゅうてもなぁ……えーと、ああジューンブライドの話とかしたな」
一週間に一回くらいは、職員室やら教室やらで会ってた気がするなぁ」
不思議と今日のカフェインはななこによく効いた。
まるでヤケ酒のように、次の一杯を一口で飲み干す。
その行儀の悪い態度に呆れて、ふゆきがポッドを自分の方に引き寄せた。
「夜眠れなくなっちゃいますから、もうやめといた方がいいですよ。
……それで、その後はどうなったんですか?なんか話がちょっと危ない方に進んでる気がするんですけど」
ふゆきの口調はどこか問いつめるようだった。
「そんな変な関係にはなっとらんて。会うのも学校の中だけやったし。
やっとることも、みゆきが喋ってるのを聞いてるばっかりやったし」
話相手のいない寂しさがそうさせたのだろうか。
思い返してみれば、あの頃のみゆきは不思議と饒舌だった。
それもありきたりな日常のことばかり、まるで遊びから帰った幼子のように話すのだ。
「そうですか……あの、高良さんはどんなことを話してたんですか?」
二人の間に何もなかったと聞いて、ふゆきは安堵のため息をついた。
さっきより少しリラックスした調子でななこに先を促す。
「どんなっちゅうてもなぁ……えーと、ああジューンブライドの話とかしたな」
しとしとと雨の降り続く梅雨のある日のことだった。
こんな日は道行く人々の顔がみな暗く見えるものだが、その中でもななこの陰鬱さは際立っていた。
朝の通勤途中、ななこは転んでクリーニングに出したばかりのスーツを汚してしまったのだ。
怪我こそなかったが、スーツは泥水に濡れて真っ黒く変色してしまった。
そのおかげでななこはジャージで一日を過ごすハメになった。
着心地は楽だったが、授業で違うクラスに行くたび生徒達に笑われるのは癪だった。
そんなこともあって放課後に訪れたみゆきが、ななこには重い雲の合間から差し込む一筋の光のように感じられた。
「先生、今日は大変でしたね」
みゆきは隣の教師の椅子を拝借して、ちょこんと座っていた。
その席の教師は部活の指導に熱心らしく放課後はいつも空席だった。
最初は遠慮していたみゆきも、今ではすっかりそこが定位置になっていた。
「クリーニング代を不意にしてしもうた。先生達にも生徒共にも笑われるし最悪や」
「先生は背も高いですし、ジャージ姿もスポーティで似合ってますよ。
……ふふ、でもその格好だと学生みたいに見えますね」
「そんなすべすべした肌で言わんといてな。ウチかて若くないの解ってるさかい」
こんな風に、みゆきは恥ずかしげもなく褒め言葉を口にすることがよくあった。
直球すぎる物言いが効いているのか、自嘲しつつもななこの声には照れ隠しの色が見えた。
「そんなことありませんよ。先生を初めて見た時、クラスの人達みんなびっくりしてましたよ。
そうそう、男子も喜んでましたけど、むしろ女子の方がすごかったですね。」
「うあ、またいつもと同じパターンや……」
ななこは鼻で笑うと、がっくりと肩を落とした。
さばさばした性格と高い身長のおかげか、ななこは昔から女によくもてた。
バレンタインデーには、こっそり小さなビニール袋を一枚用意していたものだ。
突然告白されたこともあったし、ラブレターを貰ったことも一度や二度ではない。
みゆきはその話を聞ききながら、何度も頷いた。
「私、先生は女性にもてそうだなって思ってたんですよ。
あの……ところで、先生は女性の方と付き合ったことはあるんでしょうか?」
「いや、あらへんよ。まだあの頃はなんだかんだ言って男に期待してたし」
「今は違うんですか?」
「そうやなぁ……でも女同士じゃ結婚できへんしなぁ。
そうそう……最近昔の友達から幾つか結婚報告が送られてきてなぁ。
それがどいつもこいつも、私幸せ一杯ですぅ、みたいなのばっかで見てられへんのや。
何がじゅーんぶらいどや、そういう恥ずかしいこと自分で言うなって思わへん?」
別に彼女たちが羨ましいわけでも、ねたましいわけでもない。
ただ同じ時間を共有していた友人達と疎遠になっていくのが寂しい。
けれど時の流れに文句を言うことはできないから、その矛先はどうしても人に向かってしまうのだ。
「一番幸せな時期ですからつい浮かれてしまうんでしょうね。
それにしてもジューンブライドとは、今日の先生にはまた不愉快な言葉ですね」
みゆきはななこに向けた視線を上から下まで動かして微笑んだ。
「ったくこんなじめじめした季節に結婚して何が嬉しいんだかわからへんわ」
「それは……」
こんな日は道行く人々の顔がみな暗く見えるものだが、その中でもななこの陰鬱さは際立っていた。
朝の通勤途中、ななこは転んでクリーニングに出したばかりのスーツを汚してしまったのだ。
怪我こそなかったが、スーツは泥水に濡れて真っ黒く変色してしまった。
そのおかげでななこはジャージで一日を過ごすハメになった。
着心地は楽だったが、授業で違うクラスに行くたび生徒達に笑われるのは癪だった。
そんなこともあって放課後に訪れたみゆきが、ななこには重い雲の合間から差し込む一筋の光のように感じられた。
「先生、今日は大変でしたね」
みゆきは隣の教師の椅子を拝借して、ちょこんと座っていた。
その席の教師は部活の指導に熱心らしく放課後はいつも空席だった。
最初は遠慮していたみゆきも、今ではすっかりそこが定位置になっていた。
「クリーニング代を不意にしてしもうた。先生達にも生徒共にも笑われるし最悪や」
「先生は背も高いですし、ジャージ姿もスポーティで似合ってますよ。
……ふふ、でもその格好だと学生みたいに見えますね」
「そんなすべすべした肌で言わんといてな。ウチかて若くないの解ってるさかい」
こんな風に、みゆきは恥ずかしげもなく褒め言葉を口にすることがよくあった。
直球すぎる物言いが効いているのか、自嘲しつつもななこの声には照れ隠しの色が見えた。
「そんなことありませんよ。先生を初めて見た時、クラスの人達みんなびっくりしてましたよ。
そうそう、男子も喜んでましたけど、むしろ女子の方がすごかったですね。」
「うあ、またいつもと同じパターンや……」
ななこは鼻で笑うと、がっくりと肩を落とした。
さばさばした性格と高い身長のおかげか、ななこは昔から女によくもてた。
バレンタインデーには、こっそり小さなビニール袋を一枚用意していたものだ。
突然告白されたこともあったし、ラブレターを貰ったことも一度や二度ではない。
みゆきはその話を聞ききながら、何度も頷いた。
「私、先生は女性にもてそうだなって思ってたんですよ。
あの……ところで、先生は女性の方と付き合ったことはあるんでしょうか?」
「いや、あらへんよ。まだあの頃はなんだかんだ言って男に期待してたし」
「今は違うんですか?」
「そうやなぁ……でも女同士じゃ結婚できへんしなぁ。
そうそう……最近昔の友達から幾つか結婚報告が送られてきてなぁ。
それがどいつもこいつも、私幸せ一杯ですぅ、みたいなのばっかで見てられへんのや。
何がじゅーんぶらいどや、そういう恥ずかしいこと自分で言うなって思わへん?」
別に彼女たちが羨ましいわけでも、ねたましいわけでもない。
ただ同じ時間を共有していた友人達と疎遠になっていくのが寂しい。
けれど時の流れに文句を言うことはできないから、その矛先はどうしても人に向かってしまうのだ。
「一番幸せな時期ですからつい浮かれてしまうんでしょうね。
それにしてもジューンブライドとは、今日の先生にはまた不愉快な言葉ですね」
みゆきはななこに向けた視線を上から下まで動かして微笑んだ。
「ったくこんなじめじめした季節に結婚して何が嬉しいんだかわからへんわ」
「それは……」
「それはですね、ローマ神話の女神ユノに由来しているんですよ」
「なんや知ってるんか、ってかふゆき先生はそういうの詳しいな」
ふゆきの口から台本を読むかのようにスラっと先が続けられた。
「まあ神話は基礎知識ですし、それに高良さんにその話教えたの私なんですよ」
「はあっ!?え、ふゆき先生、そんな前から高良のこと知ってたんか?」
ななこが驚いて身を乗り出した拍子に、カップの紅茶に波紋が広がった。
露骨な動揺に、ふゆきは眉をひそめた。
「高良さん、その頃何度か私の所にも来てたんですよ。何を話したかは生徒のプライバシーに関わりますから秘密です。
でも、別に黒井先生程仲良くおしゃべりしてたわけじゃないですよ」
「なんや知ってるんか、ってかふゆき先生はそういうの詳しいな」
ふゆきの口から台本を読むかのようにスラっと先が続けられた。
「まあ神話は基礎知識ですし、それに高良さんにその話教えたの私なんですよ」
「はあっ!?え、ふゆき先生、そんな前から高良のこと知ってたんか?」
ななこが驚いて身を乗り出した拍子に、カップの紅茶に波紋が広がった。
露骨な動揺に、ふゆきは眉をひそめた。
「高良さん、その頃何度か私の所にも来てたんですよ。何を話したかは生徒のプライバシーに関わりますから秘密です。
でも、別に黒井先生程仲良くおしゃべりしてたわけじゃないですよ」
「それはですね、ローマ神話の女神ユノに由来しているんですよ」
「なんや知ってるんか、ってかふゆき先生はそういうの詳しいな」
ふゆきの口から台本を読むかのようにスラっと先が続けられた。
「まあ神話は基礎知識ですし、それに高良さんにその話教えたの私なんですよ」
「はあっ!?え、ふゆき先生、そんな前から高良のこと知ってたんか?」
ななこが驚いて身を乗り出した拍子に、カップの紅茶に波紋が広がった。
露骨な動揺に、ふゆきは眉をひそめた。
「高良さん、その頃何度か私の所にも来てたんですよ。何を話したかは生徒のプライバシーに関わりますから秘密です。
でも、別に黒井先生程仲良くおしゃべりしてたわけじゃないですよ」
「あ……いやちょっとびっくりしてしもうて。あはは、まあウチみたいなガサツな女には言えない悩みもあるわな。
ふゆき先生から見て高良ははどんな感じやった?」
ななこは何でもないように振る舞ったが、その指が神経質に机を叩いているのをふゆきは目の端に捉えていた。
「ふぅん……まあ、なんていうか生真面目な子でしたね」
「そう、そうなんよ。そもそも委員長になったのもその性格のせいでな。
本当はやりたくなかったらしいんやけど、知らんぷりできなかったんやな」
「やりたくなかったのってやっぱり、キャラ的な問題?っていうやつなんでしょうか?」
「中学の時から委員長って呼ばれてたらしんやけど、高良自身はその呼び方されるの嫌やったんやろうな。
本当は名前で呼んで欲しいんですけどね、ってこぼしとった」
「それは確かに嫌かもしれませんね。それにしても。ななこ先生は随分と信頼されてたんですね」
「まああの高良が一番親しくしてたんはウチやったからなぁ」
ふゆきがちょっと水を向けてやると、再びななこの声は色めきたった。
「日が沈むまでずうっと世界史の個人授業したりな、中間テストの前だったかみゆきが質問に来たんや。
まあ実際は出題範囲外のとこのほうが多かったんやけど」
「高良さん知識欲強いですもんね」
「お弁当のおかずを交換したこともあったな。でもそれがウチの好物ばっかやったんよ。なかなか奥ゆかしくて可愛いやろ?
「ちゃんと食べてもらえるように考えたんでしょうね。交換ってことならお腹の負担にならないから」
こなたのテスト用紙を解読するのを手伝ってもらったこと。
委員会の後、かがみと一緒に帰るようになったこと。
ソリティアで最高得点を更新したこと。
延々と続く惚けにふゆきは目眩を覚えた。
春風に踊るみゆきの髪、新緑の匂いに小さくひくつく鼻、初夏の日差しに輝く肌。
みゆきを取り巻く世界はあくまで麗しく、ふゆきの慣れ親しんだ職場とは似て非なるものだった。
「あの……黒井先生が昔高良さんと仲が良かったのは充分解りました。
でも高良さんって、ずうっとお友達がいなかったわけじゃないですよね?」
「なんや知ってるんか、ってかふゆき先生はそういうの詳しいな」
ふゆきの口から台本を読むかのようにスラっと先が続けられた。
「まあ神話は基礎知識ですし、それに高良さんにその話教えたの私なんですよ」
「はあっ!?え、ふゆき先生、そんな前から高良のこと知ってたんか?」
ななこが驚いて身を乗り出した拍子に、カップの紅茶に波紋が広がった。
露骨な動揺に、ふゆきは眉をひそめた。
「高良さん、その頃何度か私の所にも来てたんですよ。何を話したかは生徒のプライバシーに関わりますから秘密です。
でも、別に黒井先生程仲良くおしゃべりしてたわけじゃないですよ」
「あ……いやちょっとびっくりしてしもうて。あはは、まあウチみたいなガサツな女には言えない悩みもあるわな。
ふゆき先生から見て高良ははどんな感じやった?」
ななこは何でもないように振る舞ったが、その指が神経質に机を叩いているのをふゆきは目の端に捉えていた。
「ふぅん……まあ、なんていうか生真面目な子でしたね」
「そう、そうなんよ。そもそも委員長になったのもその性格のせいでな。
本当はやりたくなかったらしいんやけど、知らんぷりできなかったんやな」
「やりたくなかったのってやっぱり、キャラ的な問題?っていうやつなんでしょうか?」
「中学の時から委員長って呼ばれてたらしんやけど、高良自身はその呼び方されるの嫌やったんやろうな。
本当は名前で呼んで欲しいんですけどね、ってこぼしとった」
「それは確かに嫌かもしれませんね。それにしても。ななこ先生は随分と信頼されてたんですね」
「まああの高良が一番親しくしてたんはウチやったからなぁ」
ふゆきがちょっと水を向けてやると、再びななこの声は色めきたった。
「日が沈むまでずうっと世界史の個人授業したりな、中間テストの前だったかみゆきが質問に来たんや。
まあ実際は出題範囲外のとこのほうが多かったんやけど」
「高良さん知識欲強いですもんね」
「お弁当のおかずを交換したこともあったな。でもそれがウチの好物ばっかやったんよ。なかなか奥ゆかしくて可愛いやろ?
「ちゃんと食べてもらえるように考えたんでしょうね。交換ってことならお腹の負担にならないから」
こなたのテスト用紙を解読するのを手伝ってもらったこと。
委員会の後、かがみと一緒に帰るようになったこと。
ソリティアで最高得点を更新したこと。
延々と続く惚けにふゆきは目眩を覚えた。
春風に踊るみゆきの髪、新緑の匂いに小さくひくつく鼻、初夏の日差しに輝く肌。
みゆきを取り巻く世界はあくまで麗しく、ふゆきの慣れ親しんだ職場とは似て非なるものだった。
「あの……黒井先生が昔高良さんと仲が良かったのは充分解りました。
でも高良さんって、ずうっとお友達がいなかったわけじゃないですよね?」
「文化祭で随分変わったんよ。確か泉やつかさと仲良くなったのもその頃やったな。
「高良さんはそれからも黒井先生の所によく来たんですか?」
「いや、その辺りで来なくなったな。元々能力は人並み以上にあるわけやから、一回軌道に乗ってからは早かったわ」
「それで寂しくはならなかったんですか?」
「なんでウチが寂しがらなきゃ……え?あ?」
記憶の中では友達ができて自分から離れていったみゆきに安心していたはずなのに。
なぜか今のななこにはそれが不思議と寂しく感じられた。
記憶と感情の齟齬は途端にノイズとなってななこの頭を軋ませる。
「二年生の時は他の生徒も一緒に三浦海岸まで行ったんですよね、その時はどうだったんですか?」
「別にふつーっていうか、何もあらへんかったけど……っていうか何が言いたいんや、先生は」
「ちょっと黒井先生がお疲れなんじゃないかと思いまして」
「んなことっ……」
反射的に否定したが言葉は続かず、ななこの口は閉じるタイミングを失ってしまった。
無機質な保健室に沈黙が淀んで溜まっていく。
ななこは何かのまじないのように、殆ど空になったカップに唇をつけた。
「ウチは…」
「すんませーん!ちょっと足くじいちゃたんすけど、ってあれ……なんかお取り込み中でした?」
友人に肩を支えられた男子生徒が校庭側のガラス戸を開けた。開いたドアから砂混じりの風が二人の間に吹き込んでくる。
その冷気に打たれたななこは、はっとして席を立った。
「これ以上ここにいてもお邪魔やな、ウチはそろそろ帰るわ」
怪我人や病人が来たらすぐにお開き、それがこの臨時のお茶室のルールだった。
非常なタイミングの悪さに歯噛みしつつも、ふゆきは保健室のルールを遵守してななこを止めるようなことはしなかった。
ふゆきはななこの背中がドアの向こうに消えるまで見送ると、笑顔で生徒に向き直った。
「えっと、付き添いの人はもう戻っていいわよ。あなたはこっちに座ってくれる?」
不穏な空気の残り香を感じ取っているのだろうか、生徒は満員電車の椅子に座っているように肩を縮こまらせていた。
「なんか黒井先生怖かったけど、何かあったんすか?」
「まあ、大人にも色々あるんですよ」
生徒の少し赤くなった足首を観察しながら、ふゆきは独り言のようにそう呟いた。
「高良さんはそれからも黒井先生の所によく来たんですか?」
「いや、その辺りで来なくなったな。元々能力は人並み以上にあるわけやから、一回軌道に乗ってからは早かったわ」
「それで寂しくはならなかったんですか?」
「なんでウチが寂しがらなきゃ……え?あ?」
記憶の中では友達ができて自分から離れていったみゆきに安心していたはずなのに。
なぜか今のななこにはそれが不思議と寂しく感じられた。
記憶と感情の齟齬は途端にノイズとなってななこの頭を軋ませる。
「二年生の時は他の生徒も一緒に三浦海岸まで行ったんですよね、その時はどうだったんですか?」
「別にふつーっていうか、何もあらへんかったけど……っていうか何が言いたいんや、先生は」
「ちょっと黒井先生がお疲れなんじゃないかと思いまして」
「んなことっ……」
反射的に否定したが言葉は続かず、ななこの口は閉じるタイミングを失ってしまった。
無機質な保健室に沈黙が淀んで溜まっていく。
ななこは何かのまじないのように、殆ど空になったカップに唇をつけた。
「ウチは…」
「すんませーん!ちょっと足くじいちゃたんすけど、ってあれ……なんかお取り込み中でした?」
友人に肩を支えられた男子生徒が校庭側のガラス戸を開けた。開いたドアから砂混じりの風が二人の間に吹き込んでくる。
その冷気に打たれたななこは、はっとして席を立った。
「これ以上ここにいてもお邪魔やな、ウチはそろそろ帰るわ」
怪我人や病人が来たらすぐにお開き、それがこの臨時のお茶室のルールだった。
非常なタイミングの悪さに歯噛みしつつも、ふゆきは保健室のルールを遵守してななこを止めるようなことはしなかった。
ふゆきはななこの背中がドアの向こうに消えるまで見送ると、笑顔で生徒に向き直った。
「えっと、付き添いの人はもう戻っていいわよ。あなたはこっちに座ってくれる?」
不穏な空気の残り香を感じ取っているのだろうか、生徒は満員電車の椅子に座っているように肩を縮こまらせていた。
「なんか黒井先生怖かったけど、何かあったんすか?」
「まあ、大人にも色々あるんですよ」
生徒の少し赤くなった足首を観察しながら、ふゆきは独り言のようにそう呟いた。
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- 人の人との繋がりはこんなにも多岐にわたっている -- 名無しさん (2009-05-15 01:07:34)
- わくてか -- 名無しさん (2008-03-06 06:34:00)