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女子高生四人がメジャーリーグにハマるまで(前)

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 「ゆきちゃん、何読んでるの?」
 ある日の休み時間。みゆきが机に雑誌を広げているのを見つけて、つかさが寄って行く。
 そして、
 「はうぅっ!」
 拒絶反応。つかさの頭が受け付けるものではなかったらしい。
 それを見たこなたが、興味を惹かれて寄って行く。
 「何をしているのかね、私に見せてみなさ~い(デスクトップ時計風)」
 自分と同じく、ディープなオタクの世界に足を踏みれようというのなら、諸手を挙げて大歓迎なのだが……。
 「くぁwせdrftgyふじこlp;@」
 拒絶反応。そういう種類の雑誌ではなかったようだ。
 それを見たかがみが、少し安心して寄って行く。二人が拒絶反応を示した理由はすぐに分かった。英語で書かれていたのだ。
 「MLB?」
 かがみは、目に入った誌面の文字をそのまま読んだ。屈強な男が丸太のような腕でバットを振りボールをインパクトする瞬間や、鬼のような形相で白球を投じる瞬間の写真も見える。
 「野球? あ、メジャー・リーグ・ベースボールの頭文字か」
 「ちょめちょめMLBってわけだね」
 立ち直ったらしいこなたが、訳知り顔で肯く。
 「ドライバーの運転技術を競う公道自動車レースじゃなくて、監督の選手操縦術(せんしゅそーじゅーじゅじゅ)を競うペナントレースってわけだ。うんうん」
 「上手い事言いながら噛んでじゃないわよ……」
 「適切なツッコミ、あじゅじゅじゅじゅした~!」
 二人のやり取りを面白そうに見ながら、みゆきが説明する。
 「実は私の父の会社が、ある球団とスポンサー契約を結び、球場のフェンスに広告を出す事になりまして」
 「ほう、みゆきさんのチチの広告とな!」
 こなたが涎を拭う動作……いや、本当に拭ったのかもしれない。
 「そこのオヤジ、変な読み替えしない!」
 かがみ、目覚ましを止める時のように平手でバシッ。
 「日本じゃなくてアメリカの球場なんだ」
とつかさ。
 「ええ、あちらでプレーする日本人選手が増えたためよく中継されますし、現地法人の宣伝も兼ねてますから」
 「それに、国内の中継の視聴率が低下してるからねえ……」
 野球中継を目の仇しているこなたは、ザマ見ろと言わんばかりににこにこする。
 「それは事実らしいけど、関係者の不幸を笑うのは、人としていかがなものかと思う」
 「ふっふっふ、すぐにアニメが野球中継に取って代わる時代が来るよ。あ、そしたら延長とかもするかな?」
 「はいはい、するといいわね」
 「それで、ゆきちゃんは興味を持ったんだ」
 「ええ、ちょっとなんですが」
 「ちょっと」で英語の専門誌にまで手を出すだろうか? 
 三人は等しくそう思った。
 「好きな球団とかあるの?」
 まるで彼氏の有無を聞くように、つかさが尋ねる。
 「いえ、まだ球団名と本拠地球場名を覚え、球団史を軽くさらった程度で。それが済んだら、各球団の監督と主力選手、その過去五年分くらいの成績にも目を通していこうかと思っているんですが」
 「ちょっと」、ねえ……。
 「最近では日本でも導入しつつありますが、球場名の命名権(ネーミングライツ)を売り出しているところもあって、日本でも馴染みのある企業やブランドの名前がついていたりするんですよ。例えば、タンパベイ・レイズのトロピカーナ・フィールドや、ヒューストン・アストロズのミニッツメイド・パーク」
 「どっかで聞いたことがあるわね、それ……」
 思案顔の柊姉妹の頭上に同時に電球が灯り、
 「「ジュース」」
と声がハモった。
 紙パック入りの果物ジュースとして、どちらもお馴染みだ。値段はやや高いが。
 「メイドさん・パーク? それってどんな公園……」
と目を輝かせているこなたはスルーされた。
 「あるいは、日本で開幕戦を行ったオークランド・アスレチックスのマカフィー・コロシアム」
 みゆきは意味ありげな視線をこなたに送る。こなたの目には、この日初めて理知的な光が宿った。マカフィーといえば……。
 「あ、セキュリティソフトの……私使ってないけど」
 よくできましたといわんばかりに、みゆきは微笑んだ。
 「調べれば調べるほど奥が深くて、新しい発見があって、ついつい熱中してしまうんです。ロベルト・クレメンテの評伝など、読んでいて感動して、思わず泣いてしまいました。お恥ずかしながら」
 「へー」
 つかさは素直に感心する。
 「みゆきさんの好きなタイプはロベルト・クレメンテ←結論、っと……」
 なんて言いながら、古い新聞記者のイメージ(鉛筆の先を舐める)でメモを取る仕種がこなた。
 「みゆきを陥とせる根性のある男、発見」
 なんて呟いたりしたのがかがみである。
 そしてつかさは、改めて雑誌の誌面を覗き込むのだが……、
 「くぁwせdrftgyふじこlp;@」
 拒絶反応。しかもこなたが伝染った。
 みゆきが言うような感動は、どうやら見出せなかったらしい。




 「みゆきって、やっぱり牛かもしれない」
 かがみがいきなりこんなことを言い出したのは、その日の夕刻。寄り道もせずこなたと別れ、鷹宮駅で降りて自宅へ向かう途中のことである。みゆき=牛という図式は、こなたが提唱したもので、つかさ説だとみゆき=羊となる。
 「お姉ちゃん……」
 思いつめたような顔で俯いていたつかさが、びっくりして顔を上げる。
 「やっぱりお姉ちゃんも、ゆきちゃんが羨ましいんだ? ゆきちゃんのおっpp―」
 「ちょ、そうじゃないわよ。そうじゃなくて……」
 かがみに言わせると、知識を得ることに邁進する姿が牛を思わせるというのだ。
 「知識の荒野を、鋤を引いて突進してる感じ、かな」
 耕した部分が自分のものになるというレトリックのつもりだったのだが……。
 「誰のため?」
とつかさが聞く。
 確かに、牛だけでは耕した土地をどうこうすることは出来ない。ならば……。
 「種を蒔きたいと望んでいる誰か、かな。誰のためになるか分からないし、その誰かがそこから芽吹いて実った果実を、耕した牛に与えるとは限らないけど、ともあれ牛の本能は満たされるわ」
 知識を得ることによって、みゆきの心と胸が豊かになればこそ、報われるかどうか、誰の為になるかなんてどうでもよくなっているのではないか。ああ、どっち道胸は関係ないな……。
 ていうか、みゆき=牛という図式で会話が成り立ちつつある。いや、言い出したの私だけど。
 「寂しくないかな、牛さん?」
 つかさがそれに乗ってきてしまった。
 かがみは眼鏡をかけた牛さんがただ一頭、ぽつんと荒野に佇んでいる様子を想像してみる。バックが夕日なのはデフォである。
 「寂しいでしょ、イメージ的には」
 「そうだよね……」
 再び俯くつかさの顔が、西日の残照に翳る。
 「そう思うならつかさ、あんたが話し相手になってやればいいじゃない」
 「うん……なれればいいけど」
 苦笑する顔は、みゆきには太刀打ちできないと言いたげだ。
 おそらく学校中探しても太刀打ちできる人間はいないだろうが、でもそもそも、太刀打ちする必要自体あるのだろうか?
 こなた・かがみ・つかさ・みゆきのシュヴァルム(四機編隊)を、さらにロッテ(二機編隊)に分けるとすれば、こなた・かがみ/つかさ・みゆきという組み合わせにどうしてもなるだろう。こなたが5000点を賭けてしまうほど、つかさが一方的に話してみゆきが聞き役だが、その逆もまたよきかな。牛飼いではなく、牛に飼われてみるのはいかが?
 ……って、やっぱ牛だし。
 「一方的に教えを請うだけでも、牛さんの本能は満たされるわよ」
 あ、いかん。「牛さん」じゃなくて「みゆき」と言っとくべきだった。……この思考自体が、だいぶ失礼だが。
 「たまに一般文芸の話をして盛り上がった時とかさ、みゆきとラノベの事の話の種にとことん語れたらどんなにいいかって思うもの。こなたもあんたも、その辺は一方的な聞き役としてすら期待は出来ないから」
 よし、「みゆき」に戻った! GJ、私。
 「お姉ちゃんは遠慮してるんだ、ゆきちゃんには」
 「まあね、慎み深いんで」
 食欲以外は……。
 「私やみゆきは大人だから、一人になること、一人でやることの大切さを知ってるの。宿題に関しては特に、ね」
 「はうぅ!」
 つかさ撃沈。
 感情にシンクロすると目されている黄色いリボンが、怯える子犬のようにしなだれる。
 「聞き役になってやんなよ。みゆき、きっと喜ぶよ」
 提案してみた。
 応答なし。
 間が、空く…………。
 こなた色に染まった雑念が、♪ 聞き役になってやんよ と歌うつかさを想像する。
 なんだそりゃ!? 100%ナイナイナイ。
 間が持たん。つかさ、早く何か言いなさいよ。
 「それじゃあ、がんばってみようかな」
 「うん、がんばりなさい」
 「だからお姉ちゃんも……ね?」
 やはりそうきましたか。はいはい、分かってましたとも。
 「ダメ?」
 つかさ、ますますお犬様モード。単に哀願するだけで自覚はないのだろうが、実これ相当可愛い。男だったらやばかった。いや、今でも相当やばい。
 「しょうがないなあ。ああもう、付き合ってあげるから、そんな顔しなさんな」
 「本当!? やったあ」
 物理的にありえないのだが、何故かリボンがピンと立ち、嬉しそうに振り回す尻尾を幻視できそうで、思わずその頭を撫でてしまった。
 「でも、あんまり期待するじゃないわよ。私にも、自分自身にも。二人がかりだって、あの碩学に太刀打ちできるとは限らないんだから」
 「『せきがく』ってなあに?」
 「……『望み薄だという事を証明する』って意味よ。今はね」
 「??」
 そんな事を言いながら、かがみの頭には別の計算もあった。
 夏の100冊フェアの時も似たようなものだったが、シュヴァルムの他三人が野球の話を講じていたら、こなたはどう思うか。だいたいにおいて、他の追随を許さない(他人がついていけない)話の震源地はこなただ。こなたをやり込め、懲らしめてやるいい機会である。
 どんな顔するかしらね……。
 しょうがないなと言った姉が、全然しょうがなさそうじゃなく、むしろやけに楽しそうなのがつかさには少し不思議だった。






















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  • 牛に引かれて善光寺ならぬ、みゆきにつられてMLBとな -- 名無しさん (2008-04-08 08:10:11)

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