kairakunoza @ ウィキ

女子高生四人がメジャーリーグにハマるまで(中)の(後)

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集

注意


作中の試合内容と試合日程は架空のものです。







 二日後。
 昼休み。
 3年B組にて。


 泉こなたは呆然とする時、目を海苔のようにし、口を三角形開く人間である。
 そして今、泉こなたは目を海苔のようにし、口を三角形に開けて、眼前の光景を呆然と眺めていた。
 「ツインズの課題は、やはり投手ですね」
 みゆきが言う。それは別にいい。メジャーリーグに興味を持ったのだし、右に出る者のいない調べ魔にして歩く萌え要素。―最後の部分は別に関係ないかもしれないが、とにかくこれくらいの発言をしても不思議ではない。むしろ必然なくらいだ。
 それはいい。それはいいんだけど……。
 「ヨハン・サンタナの移籍でしょ、それに故障からの復帰を目指していたフランシスコ・リリアーノが、開幕直前に再発しちゃったんだよね」
 と、何故にかがみが受けるのか??
 いやまあ、たしかにかがみは受け体質だけど、ツインズだ投手だ、サンタだリリーだと攻めるもんじゃあない。
 ああ、かがみん、目がマジだよ……。ツインズ繋がりでおねツイのこと持ち出しても、スルーされるだけだよね……。
 なんて思っていると、つかさまで口を出す。
 「シルバって人も、抜けちゃったんだよねぇ」
 つかさのくせに話に加わるか……。え、シルバ? あの濃ゆい女性歌手……じゃないよねぇ。
 「あれ? カルロス・シルバって、昨日のマリナーズの先発じゃなかった?」
 「FAでマリナーズに移ったんですよ」
 「へえ、裏切り者ってわけね」
 どこのどなたか知りませんがシルバさん、あなたかがみ様を敵に回してしまいましたよ……。 話に加われない自分と同じくらい、気の毒になってくる。
 「いいえ、かがみさん。選手個々にとって野球はビジネスですから、それを責めるべきではありません。財政面で弱者であるツインズが、サンタナにシルバ、それにトリー・ハンターの年俸を払いきれなくなったのは事実のようですが、昨年のFA市場では、広島FAの黒田投手を獲得できなかった際の保険というのがシルバの位置付けでしたから。マリナーズにとっては、あくまで『二番目』だったんです」
 「そうなると、ちょっとかわいそうかもね」
 「だからビジネスなんですよ。もし黒田投手がマリナーズに入っていれば、シルバはドジャースと契約したでしょうから」
 二人のビジネス談義はとどまるところを知らず、サンタナを交換要員としたメッツとのトレードで、ツインズのフロントがやらかした大ポカに話題を移していった。
 「ちょっと、つかさ。投手はあんたの担当でしょ」
 ふと我に帰ったかがみが、つかさに話に加わるよう促す。元々は、つかさとみゆきの間の話題づくりが目的だったのだ。
 「う、うん……。でも、お姉ちゃんには敵いそうにないから……」
 苦笑い。
 「そう?」
 かがみはみゆきとつかさ、最後にちょっとだけこなたを見てから、
 「じゃあ、しばらくみゆきを借りちゃうわよ」
 ビジネス談義再開。つかさは聞いているだけだったが、話の内容はだいたい理解しているようだった。時々肯いたりしている。
 「あの……」
 つかさは空いている様なので、警官に道を尋ねるおのぼりさんよろしく、こうなった顛末を聞いてみる。
 つかさ曰く。
 ゆきちゃんと野球のお話がしたくて、ツインズのファンになってみたの。
 「ナルホドー、タシカニついんずダモンネー」
 こなた、超棒読み。
 「んで?」
 昨日も学校があったので、午前11時からシアトルのセーフコ・フィールドで行われたツインズvsマリナーズ戦は録画し、結果等の情報をシャットアウトした上で観戦したという。
 ゲマズに誘ったのだが、かがみはポイントのつかない普通の本屋に行く事を固持した。そして立ち読み限定を決め込んだこなたを尻目に、なにやらスポーツ関係の書籍や雑誌を物色している様子だった。ダイエットに関係のあるものでも探しているんだろうと気にも留めなかったが、よもやそんなウラがあったとは……。
 頼んだわけではないが、つかさがその試合について語りだした。試合はマリナーズが序盤にリードしたが、ツインズが徐々に追い上げていったという。
 一気に追いつけないもどかしさ、迫る終盤、捨てられない希望、切ない祈り……。
 つかさの素朴な語り口は、いつしかビジネス談義に夢中だった二人をも引き込み、3年B組の教室を前日のセーフコ・フィールドに変えてしまった。つかさがマリナーズにあまり詳しくないため、「イチロー」と「イチローじゃない選手」、それに「ジョージ・マッケンジー」という謎の選手しか出てこないのが玉に瑕だったが。
 ああ、これぞ東洋の神秘か。二人の巫女の祈りが通じ、ツインズはついに9回の表に勝ち越しに成功した。そして9回裏、マウンドにはツインズの守護神ジョー・ネイサンが上がる。
 「ネイサンていっても、男の人だよ」
 「それ、お約束すぎるから」
 「今期のツインズは再建期と目されてますが、それでも600万ドルで確保したクローザーですね」
 マリナーズの攻撃は5番からだったが、ネイサンは簡単にツーアウトを取った。しかし7番の「ジョージ・マッケンジー」は、最後の打者となることを拒否しヒットで出塁した。
 「ちょっと、つかさ。その人、日本人」
 「えーっ、そうなの? 顔も名前も外人さんだと思ってた」
 「福岡時代も間違えられたそうですよ」
 「ホークスがやわらか銀行になった時は、ショックだったネ……」(2巻005頁)
 どうにか食いついたこなただが、すぐに引き離されてしまう。
 マリナーズの8番・9番打者、「イチローじゃない選手」の二人も続きツーアウト満塁になった。みゆきによる、「ネイサンは下位打線に弱く、特に9番打者には三割打たれているというデータもあります」という解説を経て、打席には1番に帰ってイチロー。
 速度・コース・そして多分球種も異なる変化球でファールを二つ取り、カウント0-2(メジャーではボールが先)。追い込んだ形になったのだが、かがみによると、「タイミングが合ってるような、なんか嫌な感じだった」そうだ。
 バッテリーは定石どおり外角に見せ球を放り、四球目、内角低めへの96マイル(155キロ)の直球で勝負に出た。イチローのバットが止まる。判定はボール。
 「ストライクかと思って、思わず手を挙げちゃったね」
 「ね~」
 不利なカウントではないが、追い込まれる格好になったバッテリーが次に選んだのは、縦の変化の高速スライダーだった。だが制球の難しいこの球は、打席前でワンバウンドした。捕手のジョー・マウアーはどうにかこれを止めた。
 フルカウントとなり、セーフコ・フィールドと柊家の居間が異様な空気に包まれる。
 運命の六球目。バッテリーはこの危険極まる相手に対し、常軌を逸した攻め方を選択した。敢えて五球目と同じ高速スライダーを放ったのだ。そしてボールは同じコースを辿る。
 押し出しで同点……とはならなかった。打者までもが常識外れの反応を示した。
 同じコースの同じ球に、イチローのバットが反応した。日本でも、黒井先生のご贔屓との試合で見せたワンバン打ち。すくい上げられた打球は一塁後方へ。
 柊家の父と母と長女と次女は、悲鳴を聞き居間に急行したという。
 追いすがる一塁手。落ちれば同点……いや、フルカウントの為スタートを切っていた二塁ランナーが還って逆転サヨナラ……。
 背面からの打球に一塁手がダイブ。だが無情にも、ボールは空中でファーストミットに弾かれる。
 万事休す。
 そう思った瞬間、まるで急場にギリギリで駆け付けるヒーローのように、画面上側から右翼手が現れダイブ。一塁手との激突こそ免れたが、そのグラブは一塁手の陰に隠れて見えなくなった。
 一塁塁審が駆け寄る何秒かが、永遠のように感じられる。やがてその右手が上がった。
 3アウト。
 Game is over.
 勝利を喜ぶツインズナインを映し出すテレビの前で、柊ツインズが腰を抜かしていた。
 「ど、どんだけ~」
 それは試合に対してであり、自分たち二人についた「観客」の多さに対してである。両親に加え、二階から二人の姉までやってきて、動物園の来園者よろしく遠巻きに二人を見ていた。でもそんなの関係ねえ。
 「なんて幕切れよ……」
 毎回こんな試合展開なら、簡単に痩せられそうだなんて思ってしまう。
 「でも勝ったよ……」
 「勝ったね……」


 私たちのツインズ


 球場とチームとの一体感から出た、ごく自然な感情。
 ツインズの本拠地、ミネアポリスからアメリカ本土の半分と太平洋を隔てた極東の島国に、若く愛らしい双子のツインズファンが生まれた瞬間だった。




 「いつの間にかツインズ・フラグが立っていたとは……」
 相変わらずの海苔目・三角口でこなたが呻く。
 「ほんとすごかったわ! 赤い洗面器を頭に被った男が―なんてレベルじゃなかったんだから!」
 「いや、それ見てないから分からないんだけど、私……」
 かがみがネタ話をして、私が答えに窮するとは……恐るべし、ツインズ。
 「ヘルメットや帽子が、赤い洗面器に見えちゃったよね~」
 「?? 両球団とも、チームカラーは赤じゃないはずですが……」
 実質こなた抜きで盛り上がる三人の会話は、サンフランシスコ・ジャイアンツの本拠地球場名に移っていった。07年のオールスターで、イチローがランニングホームランを放った場所であるが、2000年開場の新しい球場であるにも拘らず、すでに名前が二度変わっているという。
 「現在はAT&Tパークというんですが、これは携帯電話の基礎技術を開発した会社なんですね」
 へ~、と柊姉妹は感心する。
 球場名がパークじゃなくてフィールド、AT&Tフィールドだったら、色んな解釈を加えらるのに……なんて、こなたは思った。
 「ジャイアンツって、日本にもあるよね」
 つかさが聞く。
 「ええ、韓国にもありますよ」
 みゆき牛は合衆国に飽き足らず、韓国まで耕し始めたか……。
 「その名もロッテ・ジャイアンツというんですが……」
 四人は教室内を見回し、廊下の方も見たが、3年B組の担任で、ロッテという言葉に反応するはずの女世界史教師の姿はなかった。声の届く範囲にはいないらしい。
 「そのジャイアンツと命名された経緯なのですが……」
 みゆきの話は1934年の日米野球へ、そこで沢村栄治がベーブ・ルースから三振を奪った事へ、そのルースが714本のホームランを打つ傍ら、投手として94勝もしていることへと、千変万化の様相を呈してきた。
 一方、こなたの思考は全然別の場所へと沈んでいった。


 ―ちっ、ジャイアンツか。深夜アニメの天敵め……。一番アニメの題材にされた球団がジャイアンツというのも、なんか腹立たしいなあ。
 それにしても、「かり●げクン」の初期の方にあったジャイアンツ混同ネタの意味がやっと分かったよ。植田ま●し、時代を先取りしすぎたねえ。
 「か●あげクン」て言えば、私らが生まれた頃アニメ化されてるけど、第二期は……ないよなぁ。引退しちゃった中の人もいるし、四コマ原作のアニメ化って、色々難しいモノがあるんだよねえ。うんうん。
 でもあのOPテーマは、アニソン史上に残る快挙だよ。デュエットってだけで十分アレなのに、銀座で男女が「イク」だの「イカない」だの……。だからあの部分は二番なのか。そりゃそーだ。
 わりと最近もア●キとし●こたんが歌ったっていうけど、しょ●たんはリアルタイム派なのかな? いやー、さすがに再放送かな……。
 四コマ原作の第二期といえば「らk―
 あれ? 私最初何について考えてたんだっけ??
 まあいいや。コロネ食べよっと。


 ふと我に帰ると、みゆきの話は、現役選手を対象とした「ルール5ドラフト」の複雑怪奇なシステムへと移っていた。
 かがみは聞き入っていた。
 つかさは目を回していた。
 こなたはといえば、少し寂しかった。




 放課後。
 柊姉妹は糟日部駅でこなたと別れた。会話もあったが、いつもより口数の少なかったこなたは、一旦上り民となり、東京方面に向かうという。バイトかあるいは買い物か。みゆきは委員会があるので、一人で行く事になる。特に理由は問わなかった。
 「いいの、お姉ちゃん?」
 動き出した下り列車の中で、少し不安げにつかさが尋ねる。
 「フォローは明日ね」
 寄り道ならどこでも付き合い、何かおごってあげよう。宿題があれば気前良く見せてあげよう(気味悪がられるかもしれないが)。
 だから今日は、今日くらいは溜飲を下げよう。
 フォローは明日、そう、明日……。




 かがみの目論見は成功したかに見えた。こなたを懲らしめ、やり込めることが出来たのだから。
 そこには誤算もあった。
 一つは、寂しそうにしているこなたを見て、不覚にも胸が痛んだこと。
 一つは、彼女が妹ともどもツインズにハマってしまったこと。
 もう一つは、こなたがこれくらいでめげる人間ではないということを、見誤った点である。

























コメントフォーム

名前:
コメント:

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
記事メニュー
ウィキ募集バナー