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降りやまない雨

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『コンプレックス』
という言葉を私が知るもっと前から、私はこれを感じていたんだと思う。
生まれてからずっと一緒にいたお姉ちゃんは小さい時からしっかりしてて、周りの人達にいっつも褒められているような存在だった。
それに引き返え引っ込み思案でドジな私はそんな姉が自慢だったし、そんな姉にほんの少し嫉妬もしていた。
勉強もできて社交的な性格と料理は得意でも人見知りな性格とじゃ、やっぱり人から受ける評価は愕然とした差があったし。
『なんでお姉ちゃんばっかり』とか『私だって』という気持ちが無かったわけじゃない。
だけど、そんなコンプレックスを押し退けてしまうくらい私はお姉ちゃんが大好きだった。
これからもずっと私の傍にいてくれる。
私の事を一番分かってくれて、私もお姉ちゃんの事を一番に分かっている。
そう、思っていた。


『今日こなたと寄り道していくから、つかさは先帰ってて』
『って感じでさー、全くこなたときたら』
『あ、ごめん。つかさ。今こなたと電話中で』

だから、お姉ちゃんがこなちゃんの事を好きだってことに私が気付くのはとっても簡単だった。
お姉ちゃん自身、自分の気持ちに気付いてないくらいの小さな思い。
中学校の時にもお姉ちゃんと仲いい子はいっぱいいたけど、高校生になってこなちゃんと仲良くなってお姉ちゃんは少し変わった気がした。
妹の私がそう思うのもおかしいけど、今までのお姉ちゃんは友達関係に執着心というか依存心というものがないように見えた。
いつもどこかで緊迫した線を張っていて。
絶対自分の弱みを見せない、そんな信念を持ってたんだと思う。

「お姉ちゃんは友達といて楽しくないの?」

前に一度、どうしても気になってお姉ちゃんに聞いたことがあった。
てっきり『なに言ってんのよ』といつもの様に言われると思っていたのに。

「ん」

肯定でも否定でもない少し困ったような笑顔でお姉ちゃんは答えた。
その表情はいつも一緒にいた私でさえ初めてみる笑顔で。
あぁ、お姉ちゃんはきっと寂しいんだ。
自分の弱点を見せたくないのに、自分の全てをさらしだすことのできる存在を求めているんだ、と。
私がその存在になりたかった。お姉ちゃんの全てを受け止めてあげる。
弱いとこも強いとこも全部お姉ちゃんごと抱き締めてあげる。そう思った。



「つかさ、ちょっといい?」
最初からやる気のない宿題を机に広げてボーとしていた私の意識を戻したのは、2回叩かれたノックの音と扉越しのお姉ちゃんの声。
断る理由なんてなくて、いいよと声を出すとゆっくりと扉が開いていく。

―嫌な予感がした。

それはきっと入ってきたお姉ちゃんの少し揺いでいる瞳と、お姉ちゃんを纏う雰囲気みたいなもので直感的に感じたものだと思う。
悪い予感が当たりませんように、なんて届くはずもないお願いを向けて私はただそんなお姉ちゃんを見つめ返す。

「私…」

いつも学校で見せる凛とした表情じゃなくて、迷っているような、泣きそうな表情をしたお姉ちゃん。
学力でも社交面でもお姉ちゃんの方が数倍優れているのに。
お姉ちゃんは精神面では私より弱い。
そんな弱い自分を自分で認めたくなくて、いつも強気でいる。
だけどこうやって何かをキッカケでその理性が切れてしまう時があるんだろう。
お姉ちゃんの瞳には今にも溢れそうな涙が溜まっていて、グッとそれに堪えるように唇を結んでいた。

「こなたのこと…」

それ以上聞きたくなくて、でも動けなくて。
そんな私とチラッと一瞥してお姉ちゃんが恥ずかしそうに俯いた。

「好き、になった………かも」

それが限界だったのかお姉ちゃんの瞳に溜まっていた涙が溢れ出して、両手でそれを拭いていた。
悪い予感ってあたっちゃうんだね。
いつかお姉ちゃんがこなちゃんを好きだと気付く日がくると確信していたのに。
いざ目の前に突き付けられた現実を受け止められる程、私は出来た人間じゃない。
ずっと傍にいて、お姉ちゃんの事を一番に分かってあげられるのはこなちゃんでもゆきちゃんでもない…………私だ。
お姉ちゃんはなんで私にこんな事を言ったんだろう。
親友に、同性に恋愛感情を抱いてしまうことへの先行きのない恐怖心のせいなのか。
一人じゃ抑えられない程気持ちが大きくなってしまったのか。
どっちにしろ、私は双子の妹としか見られてない。その事実が悲しくて。
私の中で何かがガラガラと崩れ落ちる。
これはきっと私の理性だ。
双子だから、姉妹だからって押し込めてきた現実。


「世界で一番、お姉ちゃんが好き」


ずっとずっと言いたくて、言えなかった私の気持ちをかみ締めるように呟く。
世界の国名なんて十数個しか言えない私がこんなこといったら笑われるかもしれないね。
でもそれくらい好きなんだよ。

「えっ?」

少し間を置いてから聞こえたお姉ちゃんの声に答えるように一歩づつお姉ちゃんへと近付く。
やっぱり気付いてなかったんだ。結構態度に出してたつもりだったんだけどね。

「お姉ちゃんが好き」

何回も何回も夢の中でしか言えなかった言葉を繰り返す。
お姉ちゃんがこなちゃん好きでも、それがお姉ちゃんなら私はそれを受け止めるよ。
だけどね…
こなちゃんがお姉ちゃんを好きなのは、ダメ。
お姉ちゃんを受け止められる人は私しかいないから。
まだ唖然としたように立ちすくむお姉ちゃんの首筋に額をつける。
この体温もこの肌も私が守ってあげる。
だから…
そっと壊れ物のように優しくお姉ちゃんを抱き締めると、お姉ちゃんがビクッと肩を震わせた。
好きだよ、お姉ちゃん。

「こなちゃんはね」

首筋から顔を耳元に近付けて、ゆっくりとお姉ちゃんに呟く。







「ゆたかちゃんが好きなんだよ」











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