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いつも何度でも

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その日、柊かがみは一人涙にくれていた。悲しみでも苦しみでもない、ある不吉な感情がかがみを支配して、涙が止まらなくなったのであった。
事の発端は、ある一本の電話からだった。それは、かがみが最も大切で最も好きな泉こなたからのものだった。携帯電話の受信表示画面を見て、心が躍る。泉こなたというその4文字の言葉。かがみを最も元気にしてくれる魔法の言葉である。

「もしもしー、こなたー?」
「やぁやぁかがみん、元気にしてるかね?」
「昨日会ったばかりだろ。」

いつものように、鋭い突っ込みを入れる。最近はつっこむことが快感となるくらい。受話器の向こうで、こなたが続ける。

「今日はかがみんに言いたいことがあってね・・・。」
「なぁに?」
「かがみん・・・大っ嫌い。」

思いも寄らなかった言葉に、思わず「はぁ!?」と声が出る。無理もない。自分が一番大好きな人にいきなり大っ嫌いと言われたら、誰だって信じたくないだろう。でももしかしたら聞き間違えかもしれないから、もう一回聞き直す。

「あ、あんた、今なんていったの!?」
「大っ嫌いって言ったんだよ。」

ピッ。

かがみはすぐに電話を切る。もう何がなんだかわからなくなって、携帯電話を放り投げる。床に落ちた携帯電話は、こなたからの着信を表すバイブレータで何回もふるえていた。
かがみはベッドにうつぶせになる。顔を枕で覆って、それっきり。目頭の熱を感じる。床に落ちた携帯電話は未だ鳴り続けている。うそだ。これはきっと悪い夢だ。
時計を見ると、まだ朝の10時。目覚めてそんなに時が経っていないのに、もう一度悪い夢を見るなんて。
昨日まですぐそばにあったぬくもり。そのぬくもりが自分の手からスルリと逃げていったような気がして、ますますこなたへの思いが膨らんでゆく。

「うっ・・・うっ・・・こなたぁ・・・。」

かがみの涙で枕が水分を吸って重くなる。泣けば泣くほど心が重くなっていくのは私と同じだわね、と思いながらもとまらない涙を枕に移してゆく。
たった少しでも、永遠のように感じる時間。出来ることなら、このままこの街を離れてどこかに行ってしまいたい。こなたに嫌われたら、もうこの街にいる意味などないのだから。
ようやく、床で鳴っていた携帯電話が止まった。かがみはそっとそれを手に取り、携帯電話の電源を切る。これで私たちはもうおしまいね。あきらめと、喪失感。それだけの思いで、電源ボタンを長押しした。
その数分後、かがみの部屋をノックする音が聞こえてきた。叩いた主は、つかさ。一番良い相談相手で、今までつかさに助けられた点も多い。

「お姉ちゃん、こなちゃんから電話・・・」
「今ちょっと出られないって言って!」

かがみは、つっけんどんに答えてつかさを返す。今は部屋の中にも、心の中にも誰にも足を踏み入れて欲しくない。じぶんだけの世界。ほんの数分前まではかがみとこなた、2人だった世界には今はかがみしかいない。
目に入ってくるのは、枕と、壁。壁をキャンパスにして、とろけそうな心の筆でこなたを描き出す。かがみの描いたこなたは、駅で会うときのように、笑顔で手を振りながら自分の方に走ってくる姿だった。
一通り描き終わると、すっとそれが消えてゆく。消えながら、こなたの言った最後の言葉が頭の中で響く。

「かがみん・・・大っ嫌い。」

何度脳内再生をしても、大っ嫌いが大好きに変わることはない。たった一言が、これだけ人を落ち込ませて悩ませるものだろうか。
ある作家は小説の中で「言葉は最大の武器だ」と人物に言わせていたが、まさに今のかがみは、その武器で打ちのめされたような状態。動きもなく、かがみの部屋の中だけ時間が止まったようだった。

「お姉ちゃん、こなちゃんからなんだけど・・・。」

つかさがノックもせずに部屋に入ってきた。悲しそうにリボンがくたっと垂れているところを見ると、相当かがみを心配しているらしい。
かがみは最初、さっきと同じように出てってと声を荒らげるが、つかさの悲しそうな表情を見て、すこし張りつめていた心の糸がほぐれていくような感じになった。

「こなた、何かいってたの?」
「それがね、お姉ちゃんが急に電話に出なくなるからって、心配してた。お姉ちゃん、こなちゃんと何かあったの?」
「な、何もないわよ。」
「お姉ちゃん、顔に全部出てるよ。」

鋭い。さすが小さい頃から一緒にいた姉妹だと思った。つかさには何も隠せないかもしれない。隠そうとしてもすぐにばれてしまいそうな気がして、自然と視線が下がる。

「こなちゃん、私が電話を切るときに、何か言いかけてたんだけど、なんていうか、のどに何かがつまっていて出ないと言うか・・・。」
「結局言わずにさよならしたんでしょ。」
「そうなんだけど、きっとこなちゃんもお姉ちゃんに伝えたいことがあるんじゃないかと思って・・・。」
「それならさっき聞いたわ。」
「えっ?そ、そうなんだ。」

同じ事を今更二度聞くこともない。こなたが私を嫌っていること。それをつかさに見抜かれないために、かがみがとった苦肉の策であった。
きまりわるそうに部屋を出ていくつかさ。また、部屋の中にはかがみ一人。小さいからだでも、大きすぎる存在。いかにもそれはこなただった。大きすぎて、私の中におさまらない存在。
一方のつかさは、明らかにかがみの様子がおかしいことに気づいていた。絶対うそをついている・・・予想は確信のものへと変換される。つかさは、もう少し姉の様子を見守っていようと決意したのだった。

先ほどと比べると、かがみの心理状態は徐々に安定に向かってきた。涙でぼやけていた視界も回復し、巣くっていた腫瘍も小さくなっているように思える。
気分転換に、とでも本棚からラノベを取り出して読み出す。1ページ、2ページ・・・。ページをおうごとに、抑まっていた感情が徐々にまた近づいてくる。遠くに行きかけたものがまた戻って来るというのは不気味なもので、一種のメランコリーとさえ感じる。
かがみは、本を閉じた。これ以上自分が何かに支配されるのが怖い。そして、堕ちてゆく自分が怖いから。
外は雨が降っていた。心の雨・・・そんなものかしら、今の私の心は。電話がかかってきたときには晴れ渡っていた空も、一瞬にして荒れた天気に早変わり。

知らない間に、かがみは睡眠に入っていた。泣き疲れとでも言うのだろうか。湿って冷たくなった枕によりかかって、スースーと寝息を立てる。
かがみが見ていた夢・・・それは、こなたと出会ってからの高校での思い出が一本にまとめられたVTRのようなものだった。一緒に夏祭りに行ったこと。黒井先生やみゆきさん達と車で海に海水浴をしに行ったこと。花火大会。
いつも私の隣にはあいつがいた。あいつがいなかったら、こんなに楽しい学校生活は送れなかったかもしれない。私とあいつは、クラスが違えど二人三脚。いや、それ以上の関係だったかもしれない。


「こなた・・・。絶対に離れないから・・・むにゃむにゃ」

かがみから知らない間に寝言が発せられる。できることなら、その寝言をこなたのもとまで届けたいくらい、切なくて甘い寝言。
しかし、その寝言を密かに聞いていた人がいた。そう、つかさである。かがみの様子が気になってずっと小さく開けたドアの隙間からかがみのことを見ていたつかさは、自分の携帯を使ってこなたにメールを打つ。

「お姉ちゃんは、こなちゃんと離れたくないそうです、と。」

メールを打つときはいつも敬語になってしまう、と前々から言っていたつかさが、敬語でこなたにかがみの素直な気持ちを伝える。悩んでいるのはかがみだけではない。
つかさだって、かがみのこういう面は今まで見たこともなかったし、見ていて気持ちのいいものではない。一刻も早くいつものかがみが戻ってきてほしいと願いながら、送信ボタンを力一杯押した。
心臓の鼓動が早くなる。お姉ちゃんはきっと、心のどこかでまだこなたを愛しているはずだ、というつかさの心理が、自然と行動に表れる。

「(今のお姉ちゃんを救えるのは私しかいない。)」

自然と、携帯電話を持つ手に力が入る。その瞬間、バイブレータが細かく振動する。メールが来た合図だ。画面を開いて、内容を見る。そこには、たった一行の言葉。

「すぐ行くから待ってて。」

それを確認したつかさは、黙って携帯電話を閉じる。つかさはもう黙っていることに決めた。後は時間の成り行きに任せるだけだな、と。

一方のかがみは、まだ夢の中にいた。教室でいっしょにお弁当を食べながら楽しく雑談をしたこと。黒井先生の前で「だらしなさは担任に似た」といい気まずい空気をつくってしまったこと。印象に残っているものはよりはっきりと、頭の中を流れていく。
大嫌いといわれても、やっぱり私はあいつが好きだ。嫌われたって、辛抱強く付き合っていけば必ず実を結ぶ。さっきは、ショックが大きすぎて自分からあいつをシャットアウトしてしまったけど、私の正直な気持ちを伝えられれば、向こうも気が変わるかもしれない。

かがみは目を覚ました。体を起こして、一回伸びをする。大分寝たような気がするなぁと思いながら、床に起きっぱなしの携帯電話を手に取る。電源を入れると、そこには不在着信4件の表示。ため息を一回つき、携帯電話を閉じる。

「こなた・・・私のところに戻ってきてくれればいいのにな。」
「戻ってきたよ、かがみん。」

小さく開いたドアの向こうで声がする。とっさに振り返ると、視線の先には小さいからだのこなたがいた。その奧には恥ずかしそうにするつかさ。

「こ、こなた、どうしてここに・・・。」
「私がかがみんのピンチに駆けつけないわけないじゃん。」
「だ、誰がピンチなのよ・・・。」
「かがみん。」
「何?」
「・・・私が本当にかがみを嫌いになったと思う?」
「そう、言ってたじゃない。さっき、電話の向こうで。」
「今日は、何月何日?」
「何よ突然。4月1日じゃ・・・え?ちょっとあんた、もしかして・・・。」
「かがみん、見事に引っかかったねぇ。」
「だ、だましたのね!」
「かがみん、エイプリルフールの日に、私が大っ嫌いっていった意味、わかった?」
「こなた・・・。」

かがみの目には涙が湛えていた。うれしさとよくわからない感情が入り交じって、それが涙となって出てきたような感じだ。
かがみは、目の前のこなたを力一杯抱きしめる。子供のように、堰を切ったように泣きじゃくりながらこなたを抱きしめる。

「き、きついよ、潰されそうだよ、かがみん。」
「こなたなんか、大っ嫌いなんだからああ!!!うっ・・・うっ・・・うわあああああ・・・・。」
「か、が、み・・・。」

再開を喜ぶ二人から少し距離を置いたところで、つかさは今の二人にもっとも似合うであろう歌を口ずさんでいた。

「呼んでいる 胸のどこか奧で
  いつも心躍る 夢を見たい
   かなしみは 数え切れないけれど
    その向こうできっと あなたに会える・・・」(いつも何度でも/木村弓)

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