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交差する霙

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空が綺麗だと、思った。
特に哀愁があったわけでも、感慨を感じたわけでもなく。
ただこのどこまで広くて、深く澄んだ青い空を、綺麗だと思った。


『ツンデレのいいとこはツンとデレの比率だと思うんだよね』

いつだったかこなたが言っていた言葉が頭の中に反芻する。

「なによ、ソレ」
「ツンデレの黄金比だよ」

ふふん、とステータスだとかいう胸を張って自慢気に言うこなた。

「黄金比ねぇ」
「一般的にはツンが8でデレが2っていうけどねー」
「良くわからん」

呆れたように言ってやると、こなたはいつも閉じているのか開いているのか分からない瞳を開けて私を見据えた。
その瞳はどこまでも深くて、思わず見とれてしまうほど綺麗で。

「でも、私は…


ビュウと春一番らしい風が吹いた。
思わず瞑ってしまった瞳を開けると、そこには楽しそうに笑うこなたがいた。
私をからかう時とは少し違う、はにかんだような笑顔で。
あの時。
確かに私はこなたに恋をした。

こなたがあの時なんて言ったのか、今でも分からないけど。
空みたいに自由に笑うこなたのそばにいたい。守ってあげたい。そう思った。


『こなちゃんはゆたかちゃんが好きなんだよ』



あぁ、だめだ。
こんな青い空を見てると嫌でもアイツのことを考えてしまう。
裏も表もないような、空みたいに澄んだ笑顔を向ける親友であり、私の片思いの相手である泉こなたのことを。
妹のつかさからこなたはゆたかちゃんを好きと聞かされたのは一昨日。
そのつかさに好きだと告白されたのも一昨日の話だ。
結論は出していない。
あの時の私は、双子の妹からの告白よりもこなたへの失恋の方が衝撃的だった。


こなたも私の事が好きだと、決して自惚れていたわけじゃないけど…
恋愛感情とまではいかないけど、友達以上の感情を持って私に接してくれているんだと思っていた。

『泉こなた』

先生が書いている数字羅列を一瞥して、ノートの上に親友の名前を書く。
こんなことしたって、なんにもならないって分かっているのに。
こなたは私ではなくゆたかちゃんが好きなのに。
馬鹿だな、私は。
もうダメ元で告白でもしてしまおうか。
半ばやけくそな思考に苦笑しつつ、私が告白したらこなたは何て言うのだろうなんて考えてみる。
夢の中で何度も見た告白シーン。
その中では優しく微笑んで頷いてくれるこなた。
その小さな体を抱きしめる私。

でも結局私は告白なんて出来ない臆病者だ。


『世界で一番、お姉ちゃんが好き』


一昨日言われたつかさからの告白が頭の中で鮮明に再生された。
私もこんな風に告白できたら…
つかさみたく、強くなれたら…
勉強面でも社交性でも私の方が遙かに上なのに、精神的ではつかさの方が圧倒的に強い。
そんなことは子供の時から分かっていた。
つかさは分かっていても絶対それを誇ったり、自慢したりしない子だから…
だから私は弱い自分を出さないように虚勢という壁で自分自身を覆っていた。
つかさが羨ましいな、と純粋に思う。
素直で優しくて、他人のことを自分のことのように考えて。
そんなつかさが私を好きだと言ってくれた。
それはきっと姉に対する、家族に対する感情ではなくて。
私がこなたを思うものと同じものなのだろう。

『柊つかさ』

こなたの名前の横に妹の名前を書くと、なんだかモヤモヤとした感情が胸の奥で沸々とわき上がってきた。
保護欲にも似た、恋愛感情にも似た不思議な感覚。
手に届かないものを追うのに、抑えの効かない自分自身に疲れていたのかもしれない。
だからと言って、差し伸ばされた手に逃げるようなことをしていいんだろうか。
私のこなたに対する気持ちはそんなもんじゃない。
………ホントにそうだろうか?
どうして、こなたじゃなきゃダメなんだろう。
あの長い青色の髪も、私より一回り小さい身長も、猫みたいに笑う顔も。
全て愛しい。
どうして、つかさじゃダメなんだろう。
私がつかさを好きだったら、こんなに辛い思いをしなかったんじゃないか。
つかさに告白されて、素直に頷けたはずだ。


「こなた…」

小さく、誰にも聞こえないように呟いた言葉は、ツーンとしたものを残して空気に消えていく。

「つかさ」

呼び慣れてるはずの双子の名前は何故か初めて呼ぶ名前のようで。
私は一体どうすればいいのだろう。

『こなちゃんはゆたかちゃんが好きなんだよ』

何度も何度も思い出すつかさの言葉が私の胸を締め付ける。
大好きだった。
私の名前を呼ぶ声も、フラフラと危なっかしく歩く体も、柔らかそうな頬も。
でも、こなたに思われるのは私じゃない。
こなたが好きなのは、私じゃない。

だから―――

いつの間にかあんなに晴れていた空には灰色な雲が覆っていて。
諦めろ、と言われている気がして。
まるで私の心情を写しているようだなと苦笑する。

鞄に入っていた携帯を手探りで取り出して、送信履歴の2番目にいた『柊つかさ』を選ぶ。

『今、大丈夫?』

授業中に大丈夫もなにもないだろうって思ったけど、思ったより早く返信のバイブが鳴る。

『お姉ちゃんが授業中になんて、めずらしいね』

最初は絵文字だらけで分からなかった文章も今では極力最小限に押さえているらしく、文末に一個ついているだけだ。

『つかさは、私が―』

なんて言えばいいんだろう。
私がこなたを好きでも私を好きって言ってくれる?

そんな都合のいいことがあるもんか。
いや、あっていいはずがない。

『つかさは、私が必要なの?』

聞きたいのはこれだけ。
これだけで十分だ。
つかさは私が必要で、こなたにはゆたかちゃんが必要で。
つかさに逃げるわけじゃない。
こなたから逃げるわけじゃない。
誰に言い訳するわけでもないのに、ギュウとスカートの裾を握る。

私はこなたが大好きだった。
その思いさえあれば、例え届かない思いだったとしても―
『私にはお姉ちゃんが必要なんだよ』

返信しようとした指を止めて、ノートの上に書いた二人の名前をもう一度見た。
これはケジメだ。
こなたを忘れるわけじゃない。
好きという感情のベクトルを変えるだけ。

深呼吸したのに震えてしまう左手で、ノートの上に書かれた『泉こなた』の名前に消しゴムを近付けた。




















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  • 続きマダー? -- 名無しさん (2008-07-26 23:26:47)

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